連載小説
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そして私は動き出す
「で、具体的にはどうするのさ?」


私とユング君は森を歩きながらこの後何をすべきか思案し合っていた。

私が調べたところ、ユング君にかかってるのは『呪い』の類じゃなくて、
身体の構造そのものを変える……つまり、人魚の血肉を摂取したのと同じようなものなの。
これがもし術の類だったら、私にできなくてもフェルリならなんとかできるはずだったわ。

厄介なことにこのままだと呪術解除も成長促進魔法もまるで効果なし。
ユング君はもうすでに半分ほど人間をやめさせられてるに等しいの。



でも……私には一つの秘策があった。




「ふっふっふ、心配しないで。私も何の案もなしに出来るとは言わないわ!」
「…なんかヴィオラが言うと大丈夫に思えないんだけど。」
「あら、心外ね。少しは恋人のことを信用してほしいわ。」
「恋人、ねぇ……」
「まだ実感がわかないの?だったらいくらでも証明してあげてもいいのよ♪んっ、ちゅっ♪」
「わぁ!?」


あーもー、生意気なところも可愛いわ!
いわば男の子版ツンデレ!
可愛すぎる!おもわず食べちゃいたいくらい!




「で、具体的にはどうするのさ。」
「ふっふっふ、心配しないで。私も何の案もなしに出来るとは言わないわ!」
「っていうかこのやりとり、さっきもやったよね。」
「奇遇ね、私もそう思ってたところよ。」
「あのねぇ…こっちも自分の人生かかってるんだから真面目にやっておくれよ。」
「ごめんごめん。」


…なんだろう。
私、すごく幸せだ。
こんな風に何気なく喋っただけでもこんな気分になれるなんて知らなかった。

リリムなのに…






私とユング君が道に戻ると、すでにフェルリがエナーシアを倒していたようだ。
ぼろきれのようにぼろぼろになったエナーシアの上に、
ちっちゃなフェルリが仁王立ちしてる姿は、
まるでジパングの古いお寺にある四天王像みたいね。


「おかえりなさいなのですヴィオラ様。首尾はどうなのですか?」
「やったわフェルリ。ユング君と仲直りしたの。ね。」
「う、うん。まあね。」
「それは良かったのです♪」

私がフェルリにそう話すと、フェルリはまるで自分のことのように
可愛らしい笑顔でほほ笑んでくれた。

…ああ、本当に可愛い笑顔するわねこいつは。


「でね、フェルリ。さっきユング君から話を聞いたんだけど、
ユング君はどうやら教団の連中から成長を止める術を掛けられてるらしいの。」
「術…なのですか?」
「うーん、術って言うより構造変化っていったほうが正しいかな?
何しろ今のところ魔法や施術じゃどうにもならないわ。」
「僕自身もそんなに厄介なものだったとは思わなかったけどね…」


どのくらい難しいかって?
魔物化したりインキュバス化した人を元の人間に戻すくらい困難なことなの。


「厄介どころの話じゃないのです!相当外道なのですよこれは!」
「まったくよね……。まさか人の恋路を教団に邪魔されるなんてね。」
「仕方ありません。その子…ユング君といったですか?
一回私の友人が経営してる研究サバトに預けて構造変化の研究を…」
「その必要はないわ!」
「なんですと!?」


さっきも言ったように私には秘策があるの。

「そんな何十年…下手したら何百年もかかるような方法は却下よ。
大体フェルリはユング君を生体実験に使う気?」
「いえ…そうではないのです。
ですがどのような要因かが分からなければ手の施しようがないのです。」


「だったらやった本人たちに直接聞けばいいのよ!!」
『は!?』

フェルリとユング君はキョトンとしちゃったわね。
でも、これこそが私なりの逆転の発想よ!


「つまりユング君の身体をいじくった当人たちに直接聞けばいいのよ!
そうすれば大幅に手間が省けるでしょ?私って頭いい!」
「なるほど!その手があったのです!」
「ちょっとちょっと、いくらなんでも短絡過ぎじゃない!?」
「さあユング君!どこの教会にヤられたか教えなさい!」
「しかももう行く気なの!?」
「善は急げなのです。思い立ったら行動開始なのです。」
「…魔物って本当に短絡的なんだなぁ。」
「むしろ人間は余計なことを考えすぎるのです。」



結局、その場でユング君にもう一回話を聞いたところによれば、
ユング君の身体をいじくった犯人は、ここカルヘーツからかなり遠くにある
サンダリヨン中央教会のようだった。


ユング君は身体の構造上脳も成長しないから、徐々に自分の故郷を忘れてるみたいだったけど
フェルリと協力して何とか記憶を繋ぎ合わせた結果、彼は
サンダリヨン教会直轄領地の一地方の街で生まれ育ったみたい。

サンダリヨン中央教会は世界にある五大教会の一つで、
自称『世界で最も天界に近い聖地』らしい。
ま、外面だけはゴージャスみたいだけど中身はやっぱり産業廃棄物並みの腐り具合なんですって。
そんなのを立派だという人間もアレだけど、それをみて満足してるハゲ神(シュシンのことね)も
相当とち狂ってるとしか思えないわ。


まあそれはともかく、サンダリヨン中央教会クラスなら人体実験や生体変化研究みたいなのを
やっててもおかしくはないわ。だったら直接乗り込んで方法を聞きだして、
ついでに戻す方法を教えてもらおうじゃない。


「でも…僕は行きたくないな。またあの嫌な日々を思い出しそうだから……」
「そうね。その気持ちはよーくわかるわ。でも、これはユング君の過去との決別なの。
その嫌な思いを乗り越えるためにも、私に力を貸して、ね。」
「いざとなったら私もいるのです。安心するといいのです。」
「う、うーん……仕方ないか。」


まあね…
私ならともかくフェルリは見た目そこらの女学生に角が生えた程度だし。
あんまり頼りなさそうにも見えるけど、少なくとも私より強いのよこの子。


「じゃあ、ヴィオラを信じるよ。」
「うん、任せておきなさい!」
「早速決まればれっつゴーなのです。」






「と、その前にやることがあるのです。」
「がくっ」

いざ行かん的な雰囲気満々のところで、突然フェルリが何かを思い出したように空気を壊す。

「な、なによフェルリ……」
「コレの後始末をうっかり忘れてたのです。」
「…げっ、エナーシア!?」

それの正体がエナーシアだと分かるとユング君は思わず身を引いた。


「あら、ずいぶんとボロボロにされたわね。様ないわ。」
「でもまだ生きてるのです。」
『!?』

まだ生きてると聞いて、私とユング君はさらに身を固めた。
それはまるで退治したはずの害虫が死んだふりをしてると聞いたくらいの衝撃だったわ。


「大丈夫なのです。少なくとも二・三日は起きないのです。」
「ならとっとと止めを刺しなさいよ!起きたら厄介じゃない!」
「…まだこいつには利用価値があるのです。
せっかくヴィオラ様が魔物にした凄腕の戦士なのですから、
ヴィオラ様に一生忠誠を誓うように調教してやるのです。」
「調教って……」

ユング君はさっきからドン引きしっぱなしだ。
無理もないわよね。ピュア人間が魔族の会話についてくのはなかなか難しいのよね。


「私はこいつを魔界に連れて帰るのです。なので申し訳ありませんが
ヴィオラ様にはお一人でサンダリヨンまで行ってもらうのです。」
「…まあ、そんなことになるだろうとは予想してたわよ。」
「僕もまた一段と不安になってきたんだけど。」
「むぅ、私って信用ないわね。」
「そりゃまだ会って三日もたってないんだし。」


でも今は一刻も早くユング君を元に戻したい。
そのためには今できることを全力でやらないと!
例え私一人でも何とかしたいの。


「そうですね。いざという時にヴィオラ様一人では危ないのです。
なので私から後でサンダリヨンに応援を派遣するのです。」
「応援を?」
「こう言っては何ですが、ヴィオラ様は騒動を起こしやすい性格なので
すくなくともお目付け役が一人は欲しいのです。」
「…言ってくれるわねまったく。」
「では、私はこれにて失礼するのです。」


結局フェルリは言いたい放題言って帰ってしまった。
あの巻き巻きロールバフォ……いつか見返してやるわ。


「でもさ、ヴィオラ。よく考えたらここからサンダリヨンまで結構距離があるよね。
今から行っても到着に数年はかかると思うんだ。」
「まあ普通に行けばね。でも心配ご無用!私は転移魔法が使えるから
どんなに遠くても一瞬で行けちゃうわよ!」
「そうなんだ…。凄い便利だね!」
「まあね♪じゃ、改めてレッツゴー!!」


私はその場でユング君の手を繋いで、大規模な転移魔法を発動させる。

「いざ行かん!全ての元凶へ!」

そしてそのまま…教皇領サンダリヨンへ転移していった。



人に頼られるのがこんなに嬉しかったのは何十年振りだろう。
リリムなのに、私は恋をしたことがなかったから……
これが私の恋!心躍らせて勢いよく駆けだしていく。








…そのせいで、私の残有魔力がギリギリだったことに気がつかなかったわ♪
11/10/04 17:41更新 / バーソロミュ
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■作者メッセージ
さて、ちょっとここからはギャグ少なめで、シリアスが多めになります。

ユング君にかかった体の変化はとても面倒なものです。
ヴィオラもとんだ貧乏くじを引いたものですが、
彼女がユング君に興味を持たなかったらユング君は……

物語はいよいよ佳境にせまります。

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