第38話「国を統べる器@」
大聖堂の大広間における、高位聖職者との謁見。それは時に絵画に描かれ、後世に伝わることも少なくない、荘厳であるべき出来事。
だがホワイトパレスで現在行われている謁見を後世に残したところで、そこに宗教的意義を見いだすことは難しいに違いない。なにせ跪く者たちの半分は魔物であり、大司教の方もお世辞には威厳があると言い難い風貌だったからだ。
「よくぞ参られた! 余が大司教、聖ホリオ三世である!」
そのように名乗る大司教は服装こそ伝統ある厳かな物であったが、それを持ってしても顎から二の腕、お腹に至るまででっぷりとした脂肪に覆われた肉体を誤魔化すには不十分であった。
「して、そなたたちの成し遂げてくれたことはブルーエッジから聞いて――」
「大司教様。そのことはご内密にと申しました」
大司教の座の横に立っていたヴァルキリーが唇を動かさないように耳打ちする。
「……ああ! ううむ……そういえばそなたたちは『魂の宝玉』なるものについて話すためにこの国を訪れたと聞いておる! だが正直に言うと余は『魂の宝玉』について詳しいことは何も知っておらぬ! それに関しては魔物担当大臣のリネス=アイルレットについて聞くとよかろう!」
「ぶふっ」
「(おいよせ馬鹿! 聞こえるだろ!)」
コレールが小声で諫めるが、ドミノが吹き出してしまうのも無理もなかった。一つだけでも一国を丸ごと吹き飛ばしかねない古代の魔法石について、国の指導者が何も知らされていないという事実をここまで堂々と宣言されては、笑いたくもなるというものである。
幸い、大司教はドミノの不敬には気づいておらず、隣のヴァルキリーも聞こえなかったことにしてくれているようだった。
「とはいえ、この国にたどり着くまでの旅路は決して容易なものではなかったであろう。まずはここホワイトパレスでゆっくりと旅の疲れを癒してから、彼に面会することを勧めよう!」
―−−−−−−−−−−−−−
「なぁ親父。あの大司教様が裏で汚いことをやっている方に俺は50ゴールド賭けるぜ」
「ずるいぞドミノ。私もそっちに賭けるつもりだったんだ。100ゴールドでも良い」
「二人ともそんなこと言っちゃ駄目です!」
聖堂の廊下で声もひそめず、そのような会話をする二人に対してぷりぷりと怒るエミリア。
大司教に休養を勧められたとはいえ、コレールたちは神聖ステンド国に長居をするつもりは更々無かった。特例で手続き無しの入国を認められたとはいえ、自分たちはあくまで余所から来た魔物娘であり、何よりドミノの正体がばれたら五体満足で国を出れるかどうかも怪しいと考えていたからだ。
そういうわけで彼らが次に訪れたのは、魔物担当大臣リネス=アイルレットの執務室の扉の前であった。
「……中が騒がしいな。誰もいないわけじゃなさそうだ」
「それなら入っちゃおうよ」
ノックをしても返事ないことを訝しみつつも、コレールはパルムの提案に応じてドアノブを捻った。
部屋に入った彼らが目にしたのは報告書らしきものの束を持って机の前に並ぶ衛兵の列と、その机の奥で座っているリネス=アイルレットらしき男の姿だった。
アイルレット氏はカラスの濡れ羽色の髪の毛に、エメラルドのような緑色の瞳、そして優美と称しても過言ではない端正な容姿の持ち主であった。
しかし彼の眼の下には睡眠不足から来ているらしい隈が出来ており、その顔つきも疲れ切っていると言わんばかりにやつれているという有様である。
「大臣。息子がデビルに攫われたという女性からの報告が届いております。悪魔祓い(エクソシスト)の出動を要求してきました」
「そいつに悪魔祓いはとうの昔に解散したと伝えておけ。それと、あんたが息子の意に背いた無理な教育を反省して、悔い改めれば息子はそのうち帰ってくるともな」
「承知しました。大臣」
アイルレットの机の前から衛兵が一人離れ、順番を待っていた次の衛兵が口を開く。
「大臣。ヘルハウンドが少年に襲い掛かって手に負えないという報告が――」
「その件はとっくに解決済みだ! 情報の共有くらい自分たちでしておけ!」
「承知しました。大臣」
「大臣。複数人のラミア属の魔物に追いかけ回されているという男性の目撃情報がありました」
「大方ラミア族の嫉妬深さも知らずに、二股だか三股だかをかけていたんだろう。その件は後回しだ。他にもっと優先すべき案件がある」
「承知しました、大臣」
「さぁ、もう昼休みの時間だ。残りの報告は午後からにしろ。全員出ていくんだ」
衛兵たちが全員執務室を後にすると、リネスは大きくため息をついてからコレールたちにちらりと目をやった。
「それで。私の貴重な昼休みの時間を消費するだけの価値のある話は持ってきてくれたのだろうな」
「誰に対してもそんな態度なのか?」
リネスの物言いに眉間をひくひくさせるドミノ。
「3日もまともに睡眠が取れなければ、私のような品性のある人間でも、多少は態度が悪くなるさ」
「何か足りないものでも?」
コレールが二人の会話に割って入る。
「足りないのは魔物娘に対する理解と信頼だよ、コレール=イーラ。国民たちの魔物娘に対する考え方は一つじゃない。魔物娘が人間を愛し、傷つけることを嫌うと理解しているのは、私を含めても少数派だ。ある者は魔物娘が未だに人を殺して食うと考えている。またある者は魔物娘が我々を騙して、この国を支配するつもりだと考えている。そして魔物娘は殺生を嫌うが、目的のために手段は選ばないという者もいる。それもこれも、あの『ホワイトパレスの悲劇』でお前たちが大勢の国民をMr.スマイリーに殺させたせいだ。例え故意ではなくともな」
「ちょっと! あれはあの怪物が魔物娘たちの意向を無視して勝手に――」
牙をむいて反論しようとするクリスをコレールが手を挙げて遮った。
「その件についての話は別の機会にさせてくれ、アイルレット。本題に入ろう。お前が見つけた『魂の宝玉』を私たちに譲ってほしい」
「駄目だ」
即答だった。
「……もうちょっと考えてくれてもいいのに」
パルムがぽつりと不安を漏らす。
「アイルレット。私たちは『魂の宝玉』を全て手に入れて、ウィルザードを掌握しようとか、そういうことを企んでいるんじゃない。私たちはそいつを壊して、ウィルザードを守りたいだけなんだ」
「壊すだと? それなら猶更お断りだ。『魂の宝玉』の持つ力はこの国の安定のために必要なものだ」
「宝玉を兵器に転用するつもりなの!? サンリスタルの女王みたいに!?」
クリスは尻尾の毛を逆立たせてリネスに食って掛かる。
「人の生死すら曖昧になっているこの世界で兵器開発とは、大した時間の使い道だな、大臣?」
「死が終わりとは言い切れなくなったこの世界でも、勝敗は存在する。現にお前たち魔物娘は、Mr.スマイリーに敗北を喫したとも言えるんじゃないか?」
再び食って掛かろうとするクリスを制止してから、コレールはリネスの机の正面まで歩み寄り、彼の翠玉のような瞳を覗き込みながら口を開いた。
「信頼してくれ、アイルレット。悪いようにはしない」
「断る。口先だけの『信頼』など、何の役にも立たない」
「でも……ゼロさんは私たちを信じて、この国まで一緒に来てくれました!」
リネスはエミリアの方に向き直ると、急に目を掌で瞼を押さえてクックックと小さく笑い始めた。
「彼が? 魔物娘を信じただと? 全く、あのお人好しめ……」
「何か可笑しいことでも?」
リネスは椅子から立ち上がると、背後の窓の外を眺めながらコレールの問いに対して口を開いた。
「彼には妻がいた」
「……嘘だろ?」
ドミノが目を見開いて呟く。
「結婚していたってことか? あの顔で結婚とかはっきり言って非常識――ああっ!!」
ドミノはクリスとアラークの二人に、同時に足の爪先を思いっきり踏んづけられたせいで、間抜けな悲鳴を上げることとなった。
「彼がウィルザードに遠征に来る前に娶った女性だ。名前は、いろは。本人は名家の出だが、ジパングから人買いに連れられて中央大陸に来たところを主神教団に保護されて、そのつてでゼロと会ったと言っていた」
「名家の娘がなぜ人身売買なんかに?」
「彼女は……石女(うまずめ)だったんだ」
コレールだけではなくクリスとエミリアも、リネスの返答を聞いて悲痛な面持ちを浮かべた。魔物娘にとって、愛する者と子を為せない苦しみを想像することは、とても辛いことなのだろう。
「彼女は体こそ弱かったが、侍の血を引くだけあって、意志の強い女性だった。だからこそゼロのウィルザードへの遠征にも絶対に同行すると言って、譲らなかったそうだ。そして『ホワイトパレスの悲劇』では出来る限り他人の命を助けるために時間を稼ぎ、自分は誇りを守るために小刀で腹を裂いたんだ。そのような話を聞けばゼロのような強い男でも、破門されてでも同じ境遇の者たちを連れて、国を出たくもなるさ。解放奴隷たちが堂々と国中を歩き回るような国からはな」
今までとは明らかに異なるリネスの感情の籠った瞳を、コレールは正面から受け取れることはできなかった。
「その時……私がホワイトパレスいれば……力になれたかもしれない」
「手遅れなんだよコレール=イーラ。起こったことが全てなんだ。例え奴隷の反乱の中で死んでいった者たちが蘇ってきたとして、この国で再び暮らしたいとは思ってはくれまい」
しばらくの間、誰もが自分たちのいる場所で起こった悲劇について、無言で考える時間が続いた。
「アイルレット大臣! 緊急の案件です!」
沈黙は、執務室の中に飛び込んできた一人の衛兵によって破られた。
「霊園で騒ぎが起こっています! 墓守がいうには、『怨念を抱えた女たちが、死の世界から這い出してきた』とのことです!」
「……やはり起こったか。さて、私の仕事を間近で見たいものはいるか?」
アイルレットは素早く身支度を整えると、コレールたちにそう訊ねる。
「いや、私はここで待つよ。仕事の邪魔になるかもしれないしな」
他の者たちもコレールの意見にうんうんと同意した。
「そうか……分かった」
そう言うとアイルレットは衛兵の後に続いて執務室を後にした。
「……本当に来ないのか?」
開けたままの扉の枠から、端正な顔をひょっこりと覗かせる。
「……せっかくだし、私だけでも同行させてもらっても良いかな」
コレールは小さく溜め息をついた。
―――――――――――
「『ホワイトパレスの悲劇』の後、犠牲者を埋葬するために、大規模な霊園が急造された。後から分かったことだが、その時使われた土地は魔力を吸収しやすい性質を持っていたんだ」
自分の後に馬車から降りてきたコレールに、これから向かう場所の説明をするリネス。
「つまり、『アンデッド』が産まれても何も不思議ではないということだ。だから、霊園の周囲には予め魔物娘が通れない結界を張り巡らしておいた」
霊園の出入り口付近から、リネスの姿を確認した途端に全力で走りよってくる人間がいた。
「だだだだ大臣!! たっ、たすけ、助けてください!! しゃしが、死者が、すごい数が!! 数が!! すごい数うぶっ!?」
霊園を管理する墓守は完全に平静を失っており、まともな状況説明すら出来ない有り様だった。リネスは哀れな男の下腹部に抜手を入れることで宥め、もとい気絶させる。
「すごいな……あいつがあそこまで怯えるわけだ」
霊園内部の状況を目の当たりにしたコレールは、墓守がパニックを起こした理由に納得せざるを得なかった。
おびただしい数のゾンビやスケルトン、グールが呻き声をあげながら、精を求めてうろうろと動き回っているのだ。人肉を喰らったり、噛まれた生者がアンデッドとなることなど有り得ないとは分かっているコレールですら、圧倒される迫力である。
「これだけの数のアンデッドが街に流れ込んだら、大パニックになる」
そう言うとリネスは黒い円盤型の装置を3つほど取り出して、結界に囲まれた霊園の上空に向かって放り投げた。
装置は回転しながら、霊園の真上でカチンと音を立てて変形し、辺りに薄桃色の霧のようなものを振り撒いていく。
「鎮静剤に、魔物娘が求める精と同質の魔力成分を混合した薬品だ。これで大人しくなるはず」
リネスの言った通り、霧を浴びたアンデッドたちはみな穏やかな表情に変わっていく。中にはその場でうたた寝する者まで現れた。
「それで……大人しくさせた後はどうするんだ?」
「ひとまず霊園からホワイトパレスに彼女たちを運び込ませる。いずれは遺族の元へ帰す必要があるが……その前にアンデッドとどう向き合うべきかという説明会を開く必要がある。それに、いずれこのことは解放奴隷たちの耳にも入るだろうから、その対策も講じなければ。……十分な睡眠を取れるのは当分先の話だな」
コレールの質問に答えたリネスはそう言って深い溜め息をついた。
―――――――――
――その夜。
コレールたちにあてがわれた部屋に運ばれてきた夕食は、七面鳥の丸焼きにローストビーフ、鮭のムニエルにホルスタウロスのクリームシチュー、そして高級赤ワインといった、実に豪勢なものだった。確かに客人をもてなすにはふさわしいご馳走ではあるが、清貧を尊ぶ主神教団のお膝元で出される料理としては、いささか不適切ともいえる。
「あの大司教はこんなものを毎日召し上がってるということか。主神教団もまぁ落ちぶれたものだ」
「でもこれすごくおいしいでふ〜♥」
呟くアラークの隣では、エミリアが口いっぱいに七面鳥の肉を頬張っていた。
「ねぇみんな、料理を楽しむのもいいけど、この国に来た目的を忘れてないよね? どうにかして『魂の宝玉』をアイルレットから手に入れる方法を考えないと! コレール、あなたに言ってるのよ!」
クリスにそう言われたコレールはバツが悪そうな表情で、二本目の赤ワインのボトルを開けようとしていた手の動きを止めた。
「確かにその通りなんだけどな……誰か、良いアイデアがある奴はいるか?」
コレールの問いかけに一番最初に手を挙げたのはパルムだった。
「こっそり忍び込んで盗み出しちゃえば……」
「それは駄目よ。犯罪じゃない!」
「そうだ。それに、アイルレットはあの宝玉の重要性をきちんと理解してる。簡単に出し抜けるとは思わない方が良い」
クリスとコレールに真っ向から反対されて、しゅんとするパルム。
「じゃあ……魔物娘らしく色仕掛けはどうでしょうか? こっ、こうやって……むぎゅ〜って……」
そう言って赤面しつつも、豊満な胸を寄せて魅力的な谷間を作るエミリア。
その光景に男性陣はおろかコレールとクリスまで目を奪われてしまう。
「いやいや……あいつには色仕掛けなんて通用しない。それこそこの国で、一番魔物娘と関わってる人間だからな……お前は見すぎだバカ!」
目を皿のようにしてエミリアの谷間を凝視するパルムの頭を、コレールはコツンと叩く。
「コレール……私がハースハートのマーロウの家でやったことを憶えているか?」
今度はアラークが口を開く。
「憶えてるよ。人形使ってドミノと交尾ごっこしてたよな」
「いや、そこじゃなくて……あいつがエロ本を隠し持っていたことを見抜いただろ。交渉の基本は、相手の弱味を握ることだ」
「アイルレットに握ることのできる弱味があるとは考えにくいな」
「いいや、誰にだって知られたくない秘密の2、3くらいあるさ。端から見て立派に見える人間ほど、危険なものを抱えてるものだ」
「……気分が乗らないな」
「それなら君たちはアイルレットの周囲への根回しに回ると良いだろう。彼の身辺を探るのはドミノにでも任せよう。大丈夫だろ、ドミノ?」
そう言われたドミノはと言うと、コレールたちの話し合いに加わっていないどころか、ベッドの上に寝転んで天井を眺めているだけという有り様だった。
「ドミノ……大丈夫か? さっきから一言も喋らずに、その体勢のままじゃないか」
アラークが心配そうに話しかけると、ドミノは心底疲れはてた様子で溜め息をついた。
「考えてたんだよ……『ホワイトパレスの悲劇』で、ゼロの奥さんが死んだことをな」
「今さら罪悪感を覚え始めたってわけ?」
強めの口調で詰め寄ろうとするクリス。
「いいや、逆だよ。あれだけ残酷なことをしておいて、一ミリも罪悪感が沸いてこない。そんな自分が何だか怖くなってきたんだ。……潜入の際に、自分が奴隷として扱われなかったら、もう少し違う部分もあったのかもしれないな」
そう言うとドミノはエミリアの方に向かって、虚ろな眼差しを向けた。
「なぁエミィ。この旅が終わって落ち着いたら、まともな神経の持ち主と結ばれるように心がけて生活するんだぞ。結婚なんて恋愛感情が無くても出来るんだし、少なくとも虐殺に罪悪感を感じないような人間とは関わりを持つべきじゃないからな」
エミリアの返事を待たずにベッドから起き上がると、そのまま振り返りもせずに部屋のドアから出ていこうとするドミノ。
「おい、ドミノ……」
見かねて引き留めようとしたコレールを、クリスが無言で制止する。
「エミィに対して酷い言い様だっていうのは分かるけど……あいつにしては大分まともな言い分よ」
その横で黙り混んだままのエミリアの顔には、やり場のない悲しみと怒りが入り交じった表情が浮かんでいた。
―――――――――――
翌朝、コレールたちは三手に別れて行動する計画を始動した。
コレール、クリス、アラークの三人は、この国の三人の大臣の内の一人である財務大臣、ザック=ロウへの根回しに。ドミノとパルムはアイルレットの身辺を探りに。エミリアは何かと出自に疑問が残るカエデから情報を引き出せないかということで、彼女の私室へと向かっていった。
「ザック=ロウ大臣に挨拶をしたいとうだけなら特に問題はない」
財務大臣の部屋へと向かう途中で、昨日大司教の横で鎮座していたヴァルキリー――軍務大臣、フレイア――がコレールたちに話しかける。
「だが、彼と何かしらの交渉でもするつもりだというなら、言葉には気を付けた方が良い」
「どういう意味だ?」
コレールの返答に、フレイアは周囲を見回してから応える。
「ロウはかつて『ホワイトパレスの悲劇』で、反乱を起こした奴隷のリーダーだった男……つまり、魔物娘を出し抜いてMr.スマイリーと共に大虐殺を引き起こした人間だ」
その話を聞いたコレールは改めて、ドミノをこちらではなく、アイルレットの身辺調査の方に回した判断は正解だったと内心胸を撫で下ろした。
フレイアの案内でロウの仕事部屋へとたどり着いたコレールたちは、ノックで彼の在室を確認してから、あくまでも行儀よく入室する。
ジャック=ロウは浅黒い肌に黒の祭服が似合う精悍な顔立ちの壮年男性だった。
しかし、部屋に入ったコレールたちの視線を最初に奪ったのは彼ではなく、その傍らに立っている小柄な男の方だった。
「よっ、お前さんたち。ハースハート以来だな」
「「フォークス!?」」
――第39話に続く。
だがホワイトパレスで現在行われている謁見を後世に残したところで、そこに宗教的意義を見いだすことは難しいに違いない。なにせ跪く者たちの半分は魔物であり、大司教の方もお世辞には威厳があると言い難い風貌だったからだ。
「よくぞ参られた! 余が大司教、聖ホリオ三世である!」
そのように名乗る大司教は服装こそ伝統ある厳かな物であったが、それを持ってしても顎から二の腕、お腹に至るまででっぷりとした脂肪に覆われた肉体を誤魔化すには不十分であった。
「して、そなたたちの成し遂げてくれたことはブルーエッジから聞いて――」
「大司教様。そのことはご内密にと申しました」
大司教の座の横に立っていたヴァルキリーが唇を動かさないように耳打ちする。
「……ああ! ううむ……そういえばそなたたちは『魂の宝玉』なるものについて話すためにこの国を訪れたと聞いておる! だが正直に言うと余は『魂の宝玉』について詳しいことは何も知っておらぬ! それに関しては魔物担当大臣のリネス=アイルレットについて聞くとよかろう!」
「ぶふっ」
「(おいよせ馬鹿! 聞こえるだろ!)」
コレールが小声で諫めるが、ドミノが吹き出してしまうのも無理もなかった。一つだけでも一国を丸ごと吹き飛ばしかねない古代の魔法石について、国の指導者が何も知らされていないという事実をここまで堂々と宣言されては、笑いたくもなるというものである。
幸い、大司教はドミノの不敬には気づいておらず、隣のヴァルキリーも聞こえなかったことにしてくれているようだった。
「とはいえ、この国にたどり着くまでの旅路は決して容易なものではなかったであろう。まずはここホワイトパレスでゆっくりと旅の疲れを癒してから、彼に面会することを勧めよう!」
―−−−−−−−−−−−−−
「なぁ親父。あの大司教様が裏で汚いことをやっている方に俺は50ゴールド賭けるぜ」
「ずるいぞドミノ。私もそっちに賭けるつもりだったんだ。100ゴールドでも良い」
「二人ともそんなこと言っちゃ駄目です!」
聖堂の廊下で声もひそめず、そのような会話をする二人に対してぷりぷりと怒るエミリア。
大司教に休養を勧められたとはいえ、コレールたちは神聖ステンド国に長居をするつもりは更々無かった。特例で手続き無しの入国を認められたとはいえ、自分たちはあくまで余所から来た魔物娘であり、何よりドミノの正体がばれたら五体満足で国を出れるかどうかも怪しいと考えていたからだ。
そういうわけで彼らが次に訪れたのは、魔物担当大臣リネス=アイルレットの執務室の扉の前であった。
「……中が騒がしいな。誰もいないわけじゃなさそうだ」
「それなら入っちゃおうよ」
ノックをしても返事ないことを訝しみつつも、コレールはパルムの提案に応じてドアノブを捻った。
部屋に入った彼らが目にしたのは報告書らしきものの束を持って机の前に並ぶ衛兵の列と、その机の奥で座っているリネス=アイルレットらしき男の姿だった。
アイルレット氏はカラスの濡れ羽色の髪の毛に、エメラルドのような緑色の瞳、そして優美と称しても過言ではない端正な容姿の持ち主であった。
しかし彼の眼の下には睡眠不足から来ているらしい隈が出来ており、その顔つきも疲れ切っていると言わんばかりにやつれているという有様である。
「大臣。息子がデビルに攫われたという女性からの報告が届いております。悪魔祓い(エクソシスト)の出動を要求してきました」
「そいつに悪魔祓いはとうの昔に解散したと伝えておけ。それと、あんたが息子の意に背いた無理な教育を反省して、悔い改めれば息子はそのうち帰ってくるともな」
「承知しました。大臣」
アイルレットの机の前から衛兵が一人離れ、順番を待っていた次の衛兵が口を開く。
「大臣。ヘルハウンドが少年に襲い掛かって手に負えないという報告が――」
「その件はとっくに解決済みだ! 情報の共有くらい自分たちでしておけ!」
「承知しました。大臣」
「大臣。複数人のラミア属の魔物に追いかけ回されているという男性の目撃情報がありました」
「大方ラミア族の嫉妬深さも知らずに、二股だか三股だかをかけていたんだろう。その件は後回しだ。他にもっと優先すべき案件がある」
「承知しました、大臣」
「さぁ、もう昼休みの時間だ。残りの報告は午後からにしろ。全員出ていくんだ」
衛兵たちが全員執務室を後にすると、リネスは大きくため息をついてからコレールたちにちらりと目をやった。
「それで。私の貴重な昼休みの時間を消費するだけの価値のある話は持ってきてくれたのだろうな」
「誰に対してもそんな態度なのか?」
リネスの物言いに眉間をひくひくさせるドミノ。
「3日もまともに睡眠が取れなければ、私のような品性のある人間でも、多少は態度が悪くなるさ」
「何か足りないものでも?」
コレールが二人の会話に割って入る。
「足りないのは魔物娘に対する理解と信頼だよ、コレール=イーラ。国民たちの魔物娘に対する考え方は一つじゃない。魔物娘が人間を愛し、傷つけることを嫌うと理解しているのは、私を含めても少数派だ。ある者は魔物娘が未だに人を殺して食うと考えている。またある者は魔物娘が我々を騙して、この国を支配するつもりだと考えている。そして魔物娘は殺生を嫌うが、目的のために手段は選ばないという者もいる。それもこれも、あの『ホワイトパレスの悲劇』でお前たちが大勢の国民をMr.スマイリーに殺させたせいだ。例え故意ではなくともな」
「ちょっと! あれはあの怪物が魔物娘たちの意向を無視して勝手に――」
牙をむいて反論しようとするクリスをコレールが手を挙げて遮った。
「その件についての話は別の機会にさせてくれ、アイルレット。本題に入ろう。お前が見つけた『魂の宝玉』を私たちに譲ってほしい」
「駄目だ」
即答だった。
「……もうちょっと考えてくれてもいいのに」
パルムがぽつりと不安を漏らす。
「アイルレット。私たちは『魂の宝玉』を全て手に入れて、ウィルザードを掌握しようとか、そういうことを企んでいるんじゃない。私たちはそいつを壊して、ウィルザードを守りたいだけなんだ」
「壊すだと? それなら猶更お断りだ。『魂の宝玉』の持つ力はこの国の安定のために必要なものだ」
「宝玉を兵器に転用するつもりなの!? サンリスタルの女王みたいに!?」
クリスは尻尾の毛を逆立たせてリネスに食って掛かる。
「人の生死すら曖昧になっているこの世界で兵器開発とは、大した時間の使い道だな、大臣?」
「死が終わりとは言い切れなくなったこの世界でも、勝敗は存在する。現にお前たち魔物娘は、Mr.スマイリーに敗北を喫したとも言えるんじゃないか?」
再び食って掛かろうとするクリスを制止してから、コレールはリネスの机の正面まで歩み寄り、彼の翠玉のような瞳を覗き込みながら口を開いた。
「信頼してくれ、アイルレット。悪いようにはしない」
「断る。口先だけの『信頼』など、何の役にも立たない」
「でも……ゼロさんは私たちを信じて、この国まで一緒に来てくれました!」
リネスはエミリアの方に向き直ると、急に目を掌で瞼を押さえてクックックと小さく笑い始めた。
「彼が? 魔物娘を信じただと? 全く、あのお人好しめ……」
「何か可笑しいことでも?」
リネスは椅子から立ち上がると、背後の窓の外を眺めながらコレールの問いに対して口を開いた。
「彼には妻がいた」
「……嘘だろ?」
ドミノが目を見開いて呟く。
「結婚していたってことか? あの顔で結婚とかはっきり言って非常識――ああっ!!」
ドミノはクリスとアラークの二人に、同時に足の爪先を思いっきり踏んづけられたせいで、間抜けな悲鳴を上げることとなった。
「彼がウィルザードに遠征に来る前に娶った女性だ。名前は、いろは。本人は名家の出だが、ジパングから人買いに連れられて中央大陸に来たところを主神教団に保護されて、そのつてでゼロと会ったと言っていた」
「名家の娘がなぜ人身売買なんかに?」
「彼女は……石女(うまずめ)だったんだ」
コレールだけではなくクリスとエミリアも、リネスの返答を聞いて悲痛な面持ちを浮かべた。魔物娘にとって、愛する者と子を為せない苦しみを想像することは、とても辛いことなのだろう。
「彼女は体こそ弱かったが、侍の血を引くだけあって、意志の強い女性だった。だからこそゼロのウィルザードへの遠征にも絶対に同行すると言って、譲らなかったそうだ。そして『ホワイトパレスの悲劇』では出来る限り他人の命を助けるために時間を稼ぎ、自分は誇りを守るために小刀で腹を裂いたんだ。そのような話を聞けばゼロのような強い男でも、破門されてでも同じ境遇の者たちを連れて、国を出たくもなるさ。解放奴隷たちが堂々と国中を歩き回るような国からはな」
今までとは明らかに異なるリネスの感情の籠った瞳を、コレールは正面から受け取れることはできなかった。
「その時……私がホワイトパレスいれば……力になれたかもしれない」
「手遅れなんだよコレール=イーラ。起こったことが全てなんだ。例え奴隷の反乱の中で死んでいった者たちが蘇ってきたとして、この国で再び暮らしたいとは思ってはくれまい」
しばらくの間、誰もが自分たちのいる場所で起こった悲劇について、無言で考える時間が続いた。
「アイルレット大臣! 緊急の案件です!」
沈黙は、執務室の中に飛び込んできた一人の衛兵によって破られた。
「霊園で騒ぎが起こっています! 墓守がいうには、『怨念を抱えた女たちが、死の世界から這い出してきた』とのことです!」
「……やはり起こったか。さて、私の仕事を間近で見たいものはいるか?」
アイルレットは素早く身支度を整えると、コレールたちにそう訊ねる。
「いや、私はここで待つよ。仕事の邪魔になるかもしれないしな」
他の者たちもコレールの意見にうんうんと同意した。
「そうか……分かった」
そう言うとアイルレットは衛兵の後に続いて執務室を後にした。
「……本当に来ないのか?」
開けたままの扉の枠から、端正な顔をひょっこりと覗かせる。
「……せっかくだし、私だけでも同行させてもらっても良いかな」
コレールは小さく溜め息をついた。
―――――――――――
「『ホワイトパレスの悲劇』の後、犠牲者を埋葬するために、大規模な霊園が急造された。後から分かったことだが、その時使われた土地は魔力を吸収しやすい性質を持っていたんだ」
自分の後に馬車から降りてきたコレールに、これから向かう場所の説明をするリネス。
「つまり、『アンデッド』が産まれても何も不思議ではないということだ。だから、霊園の周囲には予め魔物娘が通れない結界を張り巡らしておいた」
霊園の出入り口付近から、リネスの姿を確認した途端に全力で走りよってくる人間がいた。
「だだだだ大臣!! たっ、たすけ、助けてください!! しゃしが、死者が、すごい数が!! 数が!! すごい数うぶっ!?」
霊園を管理する墓守は完全に平静を失っており、まともな状況説明すら出来ない有り様だった。リネスは哀れな男の下腹部に抜手を入れることで宥め、もとい気絶させる。
「すごいな……あいつがあそこまで怯えるわけだ」
霊園内部の状況を目の当たりにしたコレールは、墓守がパニックを起こした理由に納得せざるを得なかった。
おびただしい数のゾンビやスケルトン、グールが呻き声をあげながら、精を求めてうろうろと動き回っているのだ。人肉を喰らったり、噛まれた生者がアンデッドとなることなど有り得ないとは分かっているコレールですら、圧倒される迫力である。
「これだけの数のアンデッドが街に流れ込んだら、大パニックになる」
そう言うとリネスは黒い円盤型の装置を3つほど取り出して、結界に囲まれた霊園の上空に向かって放り投げた。
装置は回転しながら、霊園の真上でカチンと音を立てて変形し、辺りに薄桃色の霧のようなものを振り撒いていく。
「鎮静剤に、魔物娘が求める精と同質の魔力成分を混合した薬品だ。これで大人しくなるはず」
リネスの言った通り、霧を浴びたアンデッドたちはみな穏やかな表情に変わっていく。中にはその場でうたた寝する者まで現れた。
「それで……大人しくさせた後はどうするんだ?」
「ひとまず霊園からホワイトパレスに彼女たちを運び込ませる。いずれは遺族の元へ帰す必要があるが……その前にアンデッドとどう向き合うべきかという説明会を開く必要がある。それに、いずれこのことは解放奴隷たちの耳にも入るだろうから、その対策も講じなければ。……十分な睡眠を取れるのは当分先の話だな」
コレールの質問に答えたリネスはそう言って深い溜め息をついた。
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――その夜。
コレールたちにあてがわれた部屋に運ばれてきた夕食は、七面鳥の丸焼きにローストビーフ、鮭のムニエルにホルスタウロスのクリームシチュー、そして高級赤ワインといった、実に豪勢なものだった。確かに客人をもてなすにはふさわしいご馳走ではあるが、清貧を尊ぶ主神教団のお膝元で出される料理としては、いささか不適切ともいえる。
「あの大司教はこんなものを毎日召し上がってるということか。主神教団もまぁ落ちぶれたものだ」
「でもこれすごくおいしいでふ〜♥」
呟くアラークの隣では、エミリアが口いっぱいに七面鳥の肉を頬張っていた。
「ねぇみんな、料理を楽しむのもいいけど、この国に来た目的を忘れてないよね? どうにかして『魂の宝玉』をアイルレットから手に入れる方法を考えないと! コレール、あなたに言ってるのよ!」
クリスにそう言われたコレールはバツが悪そうな表情で、二本目の赤ワインのボトルを開けようとしていた手の動きを止めた。
「確かにその通りなんだけどな……誰か、良いアイデアがある奴はいるか?」
コレールの問いかけに一番最初に手を挙げたのはパルムだった。
「こっそり忍び込んで盗み出しちゃえば……」
「それは駄目よ。犯罪じゃない!」
「そうだ。それに、アイルレットはあの宝玉の重要性をきちんと理解してる。簡単に出し抜けるとは思わない方が良い」
クリスとコレールに真っ向から反対されて、しゅんとするパルム。
「じゃあ……魔物娘らしく色仕掛けはどうでしょうか? こっ、こうやって……むぎゅ〜って……」
そう言って赤面しつつも、豊満な胸を寄せて魅力的な谷間を作るエミリア。
その光景に男性陣はおろかコレールとクリスまで目を奪われてしまう。
「いやいや……あいつには色仕掛けなんて通用しない。それこそこの国で、一番魔物娘と関わってる人間だからな……お前は見すぎだバカ!」
目を皿のようにしてエミリアの谷間を凝視するパルムの頭を、コレールはコツンと叩く。
「コレール……私がハースハートのマーロウの家でやったことを憶えているか?」
今度はアラークが口を開く。
「憶えてるよ。人形使ってドミノと交尾ごっこしてたよな」
「いや、そこじゃなくて……あいつがエロ本を隠し持っていたことを見抜いただろ。交渉の基本は、相手の弱味を握ることだ」
「アイルレットに握ることのできる弱味があるとは考えにくいな」
「いいや、誰にだって知られたくない秘密の2、3くらいあるさ。端から見て立派に見える人間ほど、危険なものを抱えてるものだ」
「……気分が乗らないな」
「それなら君たちはアイルレットの周囲への根回しに回ると良いだろう。彼の身辺を探るのはドミノにでも任せよう。大丈夫だろ、ドミノ?」
そう言われたドミノはと言うと、コレールたちの話し合いに加わっていないどころか、ベッドの上に寝転んで天井を眺めているだけという有り様だった。
「ドミノ……大丈夫か? さっきから一言も喋らずに、その体勢のままじゃないか」
アラークが心配そうに話しかけると、ドミノは心底疲れはてた様子で溜め息をついた。
「考えてたんだよ……『ホワイトパレスの悲劇』で、ゼロの奥さんが死んだことをな」
「今さら罪悪感を覚え始めたってわけ?」
強めの口調で詰め寄ろうとするクリス。
「いいや、逆だよ。あれだけ残酷なことをしておいて、一ミリも罪悪感が沸いてこない。そんな自分が何だか怖くなってきたんだ。……潜入の際に、自分が奴隷として扱われなかったら、もう少し違う部分もあったのかもしれないな」
そう言うとドミノはエミリアの方に向かって、虚ろな眼差しを向けた。
「なぁエミィ。この旅が終わって落ち着いたら、まともな神経の持ち主と結ばれるように心がけて生活するんだぞ。結婚なんて恋愛感情が無くても出来るんだし、少なくとも虐殺に罪悪感を感じないような人間とは関わりを持つべきじゃないからな」
エミリアの返事を待たずにベッドから起き上がると、そのまま振り返りもせずに部屋のドアから出ていこうとするドミノ。
「おい、ドミノ……」
見かねて引き留めようとしたコレールを、クリスが無言で制止する。
「エミィに対して酷い言い様だっていうのは分かるけど……あいつにしては大分まともな言い分よ」
その横で黙り混んだままのエミリアの顔には、やり場のない悲しみと怒りが入り交じった表情が浮かんでいた。
―――――――――――
翌朝、コレールたちは三手に別れて行動する計画を始動した。
コレール、クリス、アラークの三人は、この国の三人の大臣の内の一人である財務大臣、ザック=ロウへの根回しに。ドミノとパルムはアイルレットの身辺を探りに。エミリアは何かと出自に疑問が残るカエデから情報を引き出せないかということで、彼女の私室へと向かっていった。
「ザック=ロウ大臣に挨拶をしたいとうだけなら特に問題はない」
財務大臣の部屋へと向かう途中で、昨日大司教の横で鎮座していたヴァルキリー――軍務大臣、フレイア――がコレールたちに話しかける。
「だが、彼と何かしらの交渉でもするつもりだというなら、言葉には気を付けた方が良い」
「どういう意味だ?」
コレールの返答に、フレイアは周囲を見回してから応える。
「ロウはかつて『ホワイトパレスの悲劇』で、反乱を起こした奴隷のリーダーだった男……つまり、魔物娘を出し抜いてMr.スマイリーと共に大虐殺を引き起こした人間だ」
その話を聞いたコレールは改めて、ドミノをこちらではなく、アイルレットの身辺調査の方に回した判断は正解だったと内心胸を撫で下ろした。
フレイアの案内でロウの仕事部屋へとたどり着いたコレールたちは、ノックで彼の在室を確認してから、あくまでも行儀よく入室する。
ジャック=ロウは浅黒い肌に黒の祭服が似合う精悍な顔立ちの壮年男性だった。
しかし、部屋に入ったコレールたちの視線を最初に奪ったのは彼ではなく、その傍らに立っている小柄な男の方だった。
「よっ、お前さんたち。ハースハート以来だな」
「「フォークス!?」」
――第39話に続く。
19/10/05 22:16更新 / SHAR!P
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