第21話「アンラッキー・ヴィニー@」
ガラーン……ガラーン……
物寂しさをも感じさせる鐘の音が、スラム街に住む人々に、昼時が訪れたことを伝えていく。
鐘の音の出所でもある、スラム街唯一の主神教団の教会。そこの中庭に向かって、ぼろを身に纏った人々が蟻の様にぞろぞろと集まっていく。
彼らはこの正午の鐘の音を合図として、教団関係者の手による炊き出しを受けるのである。
「そこ! 割り込むな! 規律を守れないなら、昼飯は抜きになるぞ!」
オートミールの鍋の前にわらわらと群がる貧民の群れに向かって、禿げ上がった頭が特徴的な、責任者らしき小男が怒鳴り散らしている。
その男の下品な口ぶりからは、「この惨めな負け犬共を食わせるも飢えさせるも自分の采配次第だ」という傲慢な思考回路が見え隠れしていた。
だが、当のファティ=バトリークは、中庭を囲う塀の隙間から、自分を監視する目が覗いていることには気付いていなかった。
「なぁ、ジパングじゃチビとハゲが同じ字で表せるってこと知ってたか?」
コレールの呟きに答える代わりに、クリスは彼女に対して「口をつぐめ」という意味のジェスチャーを送る。こちらからは死角になっているが、塀の向こう側の割りと近い場所から、誰かの話し声が聞こえてきたのだ。
「どうした婆さん? 炊き出しの方には行かないのか?」
「へぇ。食欲がないもので……実は魔物に関して心配事があるのです……」
「何だ? 話くらいは聞いてやるよ」
「へぇ、ありがとうごぜぇます。実は、最近息子が新しい職場を見つけたのですが、そこを管理してるのが、『刑部狸』とかいう魔物らしくて……話によると、ジパングでは、狸が人を化かすのでしょう? そう考えると、息子の身が心配で心配で……」
「そいつはあまり良くないな。今度うちの方から息子を『説得』しにいくとしよう」
「へぇ、へぇ。ありがたや……」
「ふざけてるわね……」
「さっき言った通りだろう? この国の格差問題が解決しない原因は、あの連中の存在なんだよ」
渋い顔でお互いに顔を見合わせるクリスとコレールの横で、カナリが小声で毒づいた。
ーーーーーーーー
場所はヴィニー探偵事務所。時間は1時間ほど前に遡るーー。
「おかしいと思わない? 魔物娘が治めるようになったこの国に、どうしてここまで大規模なスラム街が存在するのかって」
「領主が無能なんだろ」
ドミノの歯に衣着せぬ物言いに、カナリは黙って首を振る。
「この国にはそう考える人もいるけど、僕はそう思わない。実際はこの国のスラム街に、ファティ=バトリークとその配下の連中が巣喰っているのが原因なんだ」
「っていうのは?」
コレールの口から疑問が飛び出る。
「一言で言うと、ブルーエッジ派のアウトサイダーさ。連中は最初、巡礼者を装ってこの国にやって来た。その数は日に日に増え続けて、気づけばスラム街の放棄された教会を根城にして、そこに住む人々の生活に干渉するようになった」
「魔物娘との共存を望まず、国を去った連中の中から、更に排斥されることになった人間の集まりか。あまり寛容的じゃなさそうだ」
「不寛容なんてものじゃない。連中は最悪だよ」
アラークの呟きにカナリは苛立ちを隠せない様子で答える。
「奴らはスラム街で慈善事業の真似事をする傍ら、魔物娘に関する悪評を広めて、そこに住む人たちからみかじめ料を集めてる。魔物や、その他の脅威から守ってやるっていう名目でね。そして裏ではスラム街のギャングを囲い込んで、自分たちに逆らおうとする人たちを黙らせているんだ。連中は仕事の斡旋もしてるけど、大体が法律違反スレスレの操業をしてるか、ギャングと繋がりがあるかのどちらか……あるいはその両方だ。そういう企業は昔のように大っぴらに労働者を集められなくなったから、バトリークのルートを頼って、搾取する為の人材を集めてるのさ」
「そんな……領主様は何も手を打とうとしてないの?」
クリスがそう言うと、カナリは静かにため息をついた。
「そんなことはないよ。ただ、奴らのバックにはゼロ=ブルーエッジと、彼に忠誠を誓う側近の影が見え隠れしている。1日かそこらで叩き潰すようなことは出来ないというのが現状さ」
ゼロ=ブルーエッジの名にアラークが反応を示した。
「ゼロ=ブルーエッジ……噂は聞いたことがある……素手でドラゴンを屠るとかな。その男の引き連れる部隊が通った後には、雑草一つ生えないそうだ」
「流石にそういう噂は眉唾ものだろうけど、強大な力を持っていることに違いはないと思うよ」
「彼らを恐れない人は、ハースハートには居ないのですか?」
エミリアの言葉を聞いたカナリは、押し黙って背中を向ける。握った拳が、微かに震えていた。
「居るよ……ただ一人ね。ヴィンセント=“ヴィニー“=マーロウ。この探偵事務所の主だ」
喋り続けるカナリの黒い体毛は少しずつ逆立っていき、言葉にも熱がこもっていく。
「ヴィニーは最近の連中の動きが大胆になっているのに気付いて、探りをいれ始めていた。私も助手として一緒に行動しようとしたんだけど、彼はいつものように私の頭を撫でて、『何も心配することはない』と言って、独りで出掛けていった。それから3日間、彼は事務所に戻ってきていない」
此方を振り返ったヴィニーの眼には、零れ落ちそうな涙と共に、激しい意志の炎が宿っていた。
「お願いだ。私は彼のためならどんなことだってする。だから、貴女たちに力を貸して欲しいんだ」
小さな胸に、大事な人を助けたいという決意を抱いたアヌビスの気迫を感じ、コレールは静かに頷いた。
ーーーーーーーーー
「それで、作戦は?」
教会の中庭で、不味そうなオートミールをもそもそと食べ続ける人々の姿を見つめながら、コレールはカナリに問いかける。
「今の時間、連中の殆どは教会の中の食堂で昼食をとっている。僕が囮になって中庭の奴らの注意を引くから、その間に中に侵入して、ヴィニーの居場所を探って欲しいんだ」
「それは危険よ、カナリ。私たちがヴィンセントを探している間、貴女はずっとあいつらの相手をしなければならないわ」
クリスの指摘に、カナリはフッと笑みを浮かべた。
「分かってる。でも、これが一番確実なやり方なんだ。僕のことは気にしないで……ヴィニーのことを頼んだよ」
そう言うと、カナリは塀の陰から飛び出して、真正面から堂々と教会の中庭へと足を踏み入れた。
「新聞屋の小娘! お前は出入り禁止だと言ったはずだぞ! 今すぐここから出ていくんだ!」
「やぁ、バトリーク! 相変わらずおかしな臭いのする食べ物をみんなに振る舞っているみたいだね! その小さなハエの死骸が詰まった頭で、いったい何を企んでるんだい!?」
バトリークとカナリの言い争いを聞き付けた兵士たちが、ぞろぞろと二人の元へと集まっていく。
「これしかないみたいだな……行こう、クリス」
コレールはそう言うと、素早い身のこなしで塀を乗り越え、兵士たちに気配を感づかれないように中庭を回り込む。
クリスもその後に続き、二人は誰に気づかれずに窓から教会の中へと忍び込むことに成功した。
ーーーーーーー
「……昔を思い出さない、コレール?」
「私たちがまだ駆け出しの、魔王軍のエージェントだった頃か?」
蝋燭の光に照らされた石造りの廊下を、足音を立てないよう壁沿いに進みながら、二人は小声で言葉を交わす。
「反魔物派の大臣の汚職の証拠を探すために、大臣の屋敷に侵入したのよね」
「あぁ、覚えてる。確か屋敷から脱出する時、お前が積まれた木箱を崩しちまって、相当やばかったんだよな」
「それは、貴方が背後でくしゃみして驚かしたからでしょ!」
「そうだったけ? よく覚えてないな」
「もう、調子いいんだから……」
クリスは長い尻尾をゆらゆらと揺らしてから、再び口を開いた。
「……今の貴方はどうなの、コレール? 大切な部分は、昔と変わってない?」
「……さぁな。私も時々、自分がどういう女なのか、分からなくなってしまうんだ」
そう呟くコレールの顔には、悲しそうな笑みが浮かんでいた。
「……角の向こうに誰かいる」
クリスの言葉を聞いたコレールは、彼女の動きに従って背中を壁に張り付け、角の向こうから聞こえてくる話し声に耳をそばだてる。
「……それで? お前はまだ食堂には行かないのか?」
「あぁ。念のため、マーロウの様子をもう一度見てくる」
「全く。何故バトリークはとっとと、あいつを始末しないんだ? スラム街で人が一人死んだところで、埋めちまえば分かりゃしないのに」
「なんでもなにも、バトリークはマーロウを恐れているのさ。結局、あいつを本気で怒らせるのが恐ろしくて、閉じ込めておくのが精一杯なんだ」
「成る程な。でも、その考えは本人の前では言うべきじゃないと思うぞ」
「へっ! 俺だってそこまで馬鹿じゃないさ。じゃあ、また後でな」
「ああ。先に食堂にいってるぞ」
会話が終わると同時に、兵士の一人がこちらに向かって歩いてくる音が聞こえてくる。
コレールは兵士が角を曲がる瞬間に腕を伸ばして彼の首を捉え、そのまま一気に締め上げる。兵士は悲鳴をあげることすら出来ず、顔色を真っ白にして、一瞬で気を失った。
「こいつと話してた兵士はマーロウの所に行くみたいね。後をつけましょう」
クリスは気絶した兵士の体を壁にもたれさせるコレールの姿を見ながら、小さな声で呟いた。
ーーーーーー
「やぁ、マーロウ。調子はどうだ? 何か欲しいものはあるか?」
薄暗く、錆びた鉄の臭いがたちこめる地下牢。その中にある牢屋の一つに閉じ込められている男に向かって、兵士はニヤニヤと笑いながら語りかける。
「うんにゃ、何も要らないよ。必要な物は、手元にあるからな」
兵士は男がそう言って、口元から煙を立ち上らせているのを見てギョッとした。
「おい、ちょっと待て! そんなもの渡した覚えはーー」
男の手からパイプを取り上げようと、慌てて牢屋を開ける鍵を探そうとする。しかし、寸での所で兵士は男の思惑に気がついた。
「……危ない危ない。そうやって俺に牢屋を開けさせて、脱出しようという魂胆だったんだな? でもそうはいかねえぞ? 煙草くらい好きなだけ吸えば良い」
「あぁ、本当はそうするつもりだったんだが、どうやらその必要はなくなったみたいだな」
男の言葉に含まれていた意味に気づくのに一瞬の間を置いたのが、その兵士にとっての命取りだった。
次の瞬間、兵士は後頭部への打撃をもらに喰らってしまい、目の前の鉄格子に顔面を強かに打ち付けてしまう。いつのまにか彼の背後に立っていた二人の魔物娘の姿を、牢屋の中の男は何も言わずに見つめていた。
「おいおいおい。ちょっと待ってくれお姉さんたち」
体格の良いリザードマンが、気を失った兵士の持っていた鍵を牢屋の錠に差し込もうとするのを、男は牢屋の中から制止する。
「どうした、何か問題でも? 助けに来たんだ」
「その助けに来たっていうのが問題なんだよ。魔王軍の魔物娘が、地下牢に囚われたしがないスラム街の探偵の情報を掴み、危険を承知でそいつを解放するために乗り込んできた。一体どういう経緯を経ているのか教えてくれるまで、俺はここを出るつもりはないよ」
クリスは驚いた様子で尻尾の毛を軽く逆立てた。
「どうして私たちが魔王軍だって、分かったの? ……あっ」
コレールのジロッとした視線を感じて、思わず手のひらで口を覆う。その発言自体が、男の予想が的中しているということを証明しているに他ならない。
「一目瞭然さ。昼時とはいえ、あんたたちは騒ぎを起こさずにここまで忍び込んだ。それに、今の阿呆を眠らせる時の動き……人間を傷つけることを好まない魔物娘にしては、『力み』が感じられなかった。訓練された、軍人の動きだ」
男はスゥーッと音を立てて口から煙を吐くと、再び口を開いた。
「さて、次はあんたたちが俺の質問に答える番だ。どうやって俺の存在を知ったんだ?」
「カナリに頼まれたんだ。とても心配してたよ」
コレールがカナリの名前を出すと、男のパイプを吸う動きがピタリと止まった。
「ほう! またしてもあの娘に助けられたって訳か。後でご褒美をあげないとな……うんにゃ、こっちの話だ」
男は慌てて取り繕うと、もう一度煙を吐いてからパイプをしまい、喫煙を中断した。
「カナリから既に聞いてるだろうが、俺の名前はヴィンセント=マーロウだ。この最低な場所から連れ出してくれたら、相応の礼はするぜ」
「コレール=イーラだ」
「クリス=シェフィールドよ」
二人が自分の名前をマーロウに教えると同時に、牢の錠に鍵が差し込まれ、探偵は3日ぶりに鉄格子の向こう側へと足を踏み出した。
牢屋の薄暗闇から解放されたヴィンセントは、ヨレヨレのトレンチコートに、くたびれた中折れ帽を被った、背の高い男だった。帽子を目深に被っているため、顔つきを確かめることは難しい。しかし、コレールはこれまでの会話の中で聞いた掠れた声色から、恐らく初老には差し掛かっているぐらいの年齢だろうと目星を付けていた。
牢屋から脱出したヴィンセントは階段の方に目を向けると、そのままコレールたちを置いて歩き始める。
「ちょっとどこ行くつもりなの! 単独行動は危険よ!」
「あぁ……実は、もう少しこの建物に用があるんだ。悪いけど、先に外に出ていってくれ」
クリスの忠告に対してヴィンセントは振り向きもせずに、手に持った帽子をヒラヒラと動かすことで応対する。
二人が後を追って階段を上りきった先の角を覗いても、そこには探偵の影も形も存在しなかった。
ーーーーーーー
「おい、何してるんだ! その子を離せ!」
教会の正面玄関から中庭に出たコレールが、血相を変えてカナリの元へと走り寄る。
彼女の周りには何人もの屈強な兵士が取り囲むように立っており、彼女自身はその内の一人によって、後ろ手を縛られていた。
「コレールさん! ヴィニーは!? 中に居なかったの!? 何で貴女と一緒じゃないの!?」
カナリは拘束されている自分の状況はそっちのけで、コレールからヴィンセントの安否を聞き出そうと捲し立て始める。
「落ち着け。ヴィンセントは牢屋から出した。やることがあるから遅れて合流するって言ってたよ」
「マーロウを牢屋から……? さては図ったな、小娘!」
ここに来てようやくカナリの挑発が囮だったことを察したバトリークは、唾が飛ぶ勢いで彼女に向かって怒鳴り付ける。
「ふざけおってからに……! おい、ちゃんと押さえてろ!」
憤怒の頂点に達したバトリークは、カナリの手を押さえつけている兵士にそう言うと、右腕を勢いよく振り上げた。それを見たコレールとクリスは、カナリを守るためにすかさず攻撃態勢に入る。
「その手をどこに降り下ろすつもりだ、ファティ」
教会のある方角から、男のしわがれた、しかしはっきりと響く声が届く。その声を聞いたバトリークは、まるで時が止まったかのようにピタリと動きを止めてしまった。
「その手をどこに降り下ろすつもりだ、と聞いているんだ」
コレールとクリスの背後から、トレンチコートの探偵が姿を現した。
「これで最後だ。その手を、どこに、降り下ろすつもりだ?」
ヴィンセント=マーロウの声に激情は含まれていない。しかしクリスは彼の話し方に、氷の刃の様な冷たく、鋭い怒りの感覚を覚えずにはいられなかった。
「う……ぐ、ぐ……」
言葉を詰まらせたバトリークの顔色が、不健康そうな青紫色に変わっていく。
そして何を思ったか、バトリークは握り締めた自分の拳を自身の顔面に向かって降り下ろした。
「そうだ。それでいい」
「マーロウ、貴様……この恥知らずの裏切り者め! どの面を下げて勝手に牢屋から出てきたというのだ!」
「ふん、ほざけこのペンギン野郎。俺が何の考えもなしに、わざわざお前の目と鼻の先でお前の部下を3人殴り倒して、そのまま無抵抗で捕まったといまだに思い込んでいるのか?」
涙目でがなりたてるバトリークを鼻で笑うと、コートの内ポケットから便箋の束と、何かの液体が入ったシロップを取り出した。
「なっ、それはーー!」
「ここにいるお二方のお蔭で、計画よりずっと早く手に入ったよ。さぁ、こいつを持って領主の所に駆け込まれたくなきゃ、その子を離すんだ」
バトリークは怒りと屈辱で茹で蛸の様になりながらも、兵士に向かってカナリを解放するように指示を出した。
「ヴィニー!」
拘束を解かれたカナリは一目散にヴィンセントの元へ駆け寄ると、彼の両手をふわふわの黒毛で覆われた手で優しく包み込んだ。
「ヴィニー、心配してたんだよ? 僕に黙ってそんな計画を考えてたなんて……!」
「悪いな、カナリ。お前を巻き込みたくなかったんだ」
「もう、ヴィニーはいつもそうやって……うっ? うわっ、何そのシロップ! まさか、そんな臭いのするものを炊き出しの料理の中に……?」
ウルフ種の魔物であるアヌビスなだけあって、臭いには敏感なのだろう。カナリは顔をしかめて、奇妙な色の液体が入った液体をしまうように、ヴィンセントに促した。
「さてと……もうここには用は無いな。お二人さん、俺の事務所に来てくれ。手助けのお礼をさせて貰うことにしよう」
「おい、待てマーロウ! 帰るのはそいつを私に返してからだ!」
踵を返して門のほうへと向かおうとするヴィンセントに対して、バトリークは慌てて要求する。
「何のことだ? 俺は『カナリを離せばこの手紙とシロップを返してやる』なんて、一言も言ってないぞ?」
「なっ……!?」
「やりぃ! ヴィニー!」
カナリは跳ねるようにして歩いていくヴィンセントの隣に並ぶと、彼の脇腹をツンツンと肘で突っつく。
コレールとクリスの二人もしてやったりの笑みを浮かべながら、二人の後に続いていった。
「くそ、くそ、くそ……!」
「どうします、バトリーク隊長。あの手紙にはーー」
「分かってる! 計画を早めるぞ。あの忌々しいマーロウや領主に先手を打たれるわけにはいかん!」
「承知しました。ではいつ頃にーー」
「今からだ! 全員に準備を始めるよう伝えろ!」
バトリークは兵士に向かってヒステリックに言いつけると、中庭で炊き出しに並ぶ人々の方へと、腕を振り回しながら向かっていった。
「炊き出しは終わりだ! お前たち、さっさと帰れ! か・え・る・ん・だ!」
威厳の欠片も感じさせない隊長の振る舞いを前にした兵士は、肩を落として首を左右に振った。
ーー第22話に続く。
物寂しさをも感じさせる鐘の音が、スラム街に住む人々に、昼時が訪れたことを伝えていく。
鐘の音の出所でもある、スラム街唯一の主神教団の教会。そこの中庭に向かって、ぼろを身に纏った人々が蟻の様にぞろぞろと集まっていく。
彼らはこの正午の鐘の音を合図として、教団関係者の手による炊き出しを受けるのである。
「そこ! 割り込むな! 規律を守れないなら、昼飯は抜きになるぞ!」
オートミールの鍋の前にわらわらと群がる貧民の群れに向かって、禿げ上がった頭が特徴的な、責任者らしき小男が怒鳴り散らしている。
その男の下品な口ぶりからは、「この惨めな負け犬共を食わせるも飢えさせるも自分の采配次第だ」という傲慢な思考回路が見え隠れしていた。
だが、当のファティ=バトリークは、中庭を囲う塀の隙間から、自分を監視する目が覗いていることには気付いていなかった。
「なぁ、ジパングじゃチビとハゲが同じ字で表せるってこと知ってたか?」
コレールの呟きに答える代わりに、クリスは彼女に対して「口をつぐめ」という意味のジェスチャーを送る。こちらからは死角になっているが、塀の向こう側の割りと近い場所から、誰かの話し声が聞こえてきたのだ。
「どうした婆さん? 炊き出しの方には行かないのか?」
「へぇ。食欲がないもので……実は魔物に関して心配事があるのです……」
「何だ? 話くらいは聞いてやるよ」
「へぇ、ありがとうごぜぇます。実は、最近息子が新しい職場を見つけたのですが、そこを管理してるのが、『刑部狸』とかいう魔物らしくて……話によると、ジパングでは、狸が人を化かすのでしょう? そう考えると、息子の身が心配で心配で……」
「そいつはあまり良くないな。今度うちの方から息子を『説得』しにいくとしよう」
「へぇ、へぇ。ありがたや……」
「ふざけてるわね……」
「さっき言った通りだろう? この国の格差問題が解決しない原因は、あの連中の存在なんだよ」
渋い顔でお互いに顔を見合わせるクリスとコレールの横で、カナリが小声で毒づいた。
ーーーーーーーー
場所はヴィニー探偵事務所。時間は1時間ほど前に遡るーー。
「おかしいと思わない? 魔物娘が治めるようになったこの国に、どうしてここまで大規模なスラム街が存在するのかって」
「領主が無能なんだろ」
ドミノの歯に衣着せぬ物言いに、カナリは黙って首を振る。
「この国にはそう考える人もいるけど、僕はそう思わない。実際はこの国のスラム街に、ファティ=バトリークとその配下の連中が巣喰っているのが原因なんだ」
「っていうのは?」
コレールの口から疑問が飛び出る。
「一言で言うと、ブルーエッジ派のアウトサイダーさ。連中は最初、巡礼者を装ってこの国にやって来た。その数は日に日に増え続けて、気づけばスラム街の放棄された教会を根城にして、そこに住む人々の生活に干渉するようになった」
「魔物娘との共存を望まず、国を去った連中の中から、更に排斥されることになった人間の集まりか。あまり寛容的じゃなさそうだ」
「不寛容なんてものじゃない。連中は最悪だよ」
アラークの呟きにカナリは苛立ちを隠せない様子で答える。
「奴らはスラム街で慈善事業の真似事をする傍ら、魔物娘に関する悪評を広めて、そこに住む人たちからみかじめ料を集めてる。魔物や、その他の脅威から守ってやるっていう名目でね。そして裏ではスラム街のギャングを囲い込んで、自分たちに逆らおうとする人たちを黙らせているんだ。連中は仕事の斡旋もしてるけど、大体が法律違反スレスレの操業をしてるか、ギャングと繋がりがあるかのどちらか……あるいはその両方だ。そういう企業は昔のように大っぴらに労働者を集められなくなったから、バトリークのルートを頼って、搾取する為の人材を集めてるのさ」
「そんな……領主様は何も手を打とうとしてないの?」
クリスがそう言うと、カナリは静かにため息をついた。
「そんなことはないよ。ただ、奴らのバックにはゼロ=ブルーエッジと、彼に忠誠を誓う側近の影が見え隠れしている。1日かそこらで叩き潰すようなことは出来ないというのが現状さ」
ゼロ=ブルーエッジの名にアラークが反応を示した。
「ゼロ=ブルーエッジ……噂は聞いたことがある……素手でドラゴンを屠るとかな。その男の引き連れる部隊が通った後には、雑草一つ生えないそうだ」
「流石にそういう噂は眉唾ものだろうけど、強大な力を持っていることに違いはないと思うよ」
「彼らを恐れない人は、ハースハートには居ないのですか?」
エミリアの言葉を聞いたカナリは、押し黙って背中を向ける。握った拳が、微かに震えていた。
「居るよ……ただ一人ね。ヴィンセント=“ヴィニー“=マーロウ。この探偵事務所の主だ」
喋り続けるカナリの黒い体毛は少しずつ逆立っていき、言葉にも熱がこもっていく。
「ヴィニーは最近の連中の動きが大胆になっているのに気付いて、探りをいれ始めていた。私も助手として一緒に行動しようとしたんだけど、彼はいつものように私の頭を撫でて、『何も心配することはない』と言って、独りで出掛けていった。それから3日間、彼は事務所に戻ってきていない」
此方を振り返ったヴィニーの眼には、零れ落ちそうな涙と共に、激しい意志の炎が宿っていた。
「お願いだ。私は彼のためならどんなことだってする。だから、貴女たちに力を貸して欲しいんだ」
小さな胸に、大事な人を助けたいという決意を抱いたアヌビスの気迫を感じ、コレールは静かに頷いた。
ーーーーーーーーー
「それで、作戦は?」
教会の中庭で、不味そうなオートミールをもそもそと食べ続ける人々の姿を見つめながら、コレールはカナリに問いかける。
「今の時間、連中の殆どは教会の中の食堂で昼食をとっている。僕が囮になって中庭の奴らの注意を引くから、その間に中に侵入して、ヴィニーの居場所を探って欲しいんだ」
「それは危険よ、カナリ。私たちがヴィンセントを探している間、貴女はずっとあいつらの相手をしなければならないわ」
クリスの指摘に、カナリはフッと笑みを浮かべた。
「分かってる。でも、これが一番確実なやり方なんだ。僕のことは気にしないで……ヴィニーのことを頼んだよ」
そう言うと、カナリは塀の陰から飛び出して、真正面から堂々と教会の中庭へと足を踏み入れた。
「新聞屋の小娘! お前は出入り禁止だと言ったはずだぞ! 今すぐここから出ていくんだ!」
「やぁ、バトリーク! 相変わらずおかしな臭いのする食べ物をみんなに振る舞っているみたいだね! その小さなハエの死骸が詰まった頭で、いったい何を企んでるんだい!?」
バトリークとカナリの言い争いを聞き付けた兵士たちが、ぞろぞろと二人の元へと集まっていく。
「これしかないみたいだな……行こう、クリス」
コレールはそう言うと、素早い身のこなしで塀を乗り越え、兵士たちに気配を感づかれないように中庭を回り込む。
クリスもその後に続き、二人は誰に気づかれずに窓から教会の中へと忍び込むことに成功した。
ーーーーーーー
「……昔を思い出さない、コレール?」
「私たちがまだ駆け出しの、魔王軍のエージェントだった頃か?」
蝋燭の光に照らされた石造りの廊下を、足音を立てないよう壁沿いに進みながら、二人は小声で言葉を交わす。
「反魔物派の大臣の汚職の証拠を探すために、大臣の屋敷に侵入したのよね」
「あぁ、覚えてる。確か屋敷から脱出する時、お前が積まれた木箱を崩しちまって、相当やばかったんだよな」
「それは、貴方が背後でくしゃみして驚かしたからでしょ!」
「そうだったけ? よく覚えてないな」
「もう、調子いいんだから……」
クリスは長い尻尾をゆらゆらと揺らしてから、再び口を開いた。
「……今の貴方はどうなの、コレール? 大切な部分は、昔と変わってない?」
「……さぁな。私も時々、自分がどういう女なのか、分からなくなってしまうんだ」
そう呟くコレールの顔には、悲しそうな笑みが浮かんでいた。
「……角の向こうに誰かいる」
クリスの言葉を聞いたコレールは、彼女の動きに従って背中を壁に張り付け、角の向こうから聞こえてくる話し声に耳をそばだてる。
「……それで? お前はまだ食堂には行かないのか?」
「あぁ。念のため、マーロウの様子をもう一度見てくる」
「全く。何故バトリークはとっとと、あいつを始末しないんだ? スラム街で人が一人死んだところで、埋めちまえば分かりゃしないのに」
「なんでもなにも、バトリークはマーロウを恐れているのさ。結局、あいつを本気で怒らせるのが恐ろしくて、閉じ込めておくのが精一杯なんだ」
「成る程な。でも、その考えは本人の前では言うべきじゃないと思うぞ」
「へっ! 俺だってそこまで馬鹿じゃないさ。じゃあ、また後でな」
「ああ。先に食堂にいってるぞ」
会話が終わると同時に、兵士の一人がこちらに向かって歩いてくる音が聞こえてくる。
コレールは兵士が角を曲がる瞬間に腕を伸ばして彼の首を捉え、そのまま一気に締め上げる。兵士は悲鳴をあげることすら出来ず、顔色を真っ白にして、一瞬で気を失った。
「こいつと話してた兵士はマーロウの所に行くみたいね。後をつけましょう」
クリスは気絶した兵士の体を壁にもたれさせるコレールの姿を見ながら、小さな声で呟いた。
ーーーーーー
「やぁ、マーロウ。調子はどうだ? 何か欲しいものはあるか?」
薄暗く、錆びた鉄の臭いがたちこめる地下牢。その中にある牢屋の一つに閉じ込められている男に向かって、兵士はニヤニヤと笑いながら語りかける。
「うんにゃ、何も要らないよ。必要な物は、手元にあるからな」
兵士は男がそう言って、口元から煙を立ち上らせているのを見てギョッとした。
「おい、ちょっと待て! そんなもの渡した覚えはーー」
男の手からパイプを取り上げようと、慌てて牢屋を開ける鍵を探そうとする。しかし、寸での所で兵士は男の思惑に気がついた。
「……危ない危ない。そうやって俺に牢屋を開けさせて、脱出しようという魂胆だったんだな? でもそうはいかねえぞ? 煙草くらい好きなだけ吸えば良い」
「あぁ、本当はそうするつもりだったんだが、どうやらその必要はなくなったみたいだな」
男の言葉に含まれていた意味に気づくのに一瞬の間を置いたのが、その兵士にとっての命取りだった。
次の瞬間、兵士は後頭部への打撃をもらに喰らってしまい、目の前の鉄格子に顔面を強かに打ち付けてしまう。いつのまにか彼の背後に立っていた二人の魔物娘の姿を、牢屋の中の男は何も言わずに見つめていた。
「おいおいおい。ちょっと待ってくれお姉さんたち」
体格の良いリザードマンが、気を失った兵士の持っていた鍵を牢屋の錠に差し込もうとするのを、男は牢屋の中から制止する。
「どうした、何か問題でも? 助けに来たんだ」
「その助けに来たっていうのが問題なんだよ。魔王軍の魔物娘が、地下牢に囚われたしがないスラム街の探偵の情報を掴み、危険を承知でそいつを解放するために乗り込んできた。一体どういう経緯を経ているのか教えてくれるまで、俺はここを出るつもりはないよ」
クリスは驚いた様子で尻尾の毛を軽く逆立てた。
「どうして私たちが魔王軍だって、分かったの? ……あっ」
コレールのジロッとした視線を感じて、思わず手のひらで口を覆う。その発言自体が、男の予想が的中しているということを証明しているに他ならない。
「一目瞭然さ。昼時とはいえ、あんたたちは騒ぎを起こさずにここまで忍び込んだ。それに、今の阿呆を眠らせる時の動き……人間を傷つけることを好まない魔物娘にしては、『力み』が感じられなかった。訓練された、軍人の動きだ」
男はスゥーッと音を立てて口から煙を吐くと、再び口を開いた。
「さて、次はあんたたちが俺の質問に答える番だ。どうやって俺の存在を知ったんだ?」
「カナリに頼まれたんだ。とても心配してたよ」
コレールがカナリの名前を出すと、男のパイプを吸う動きがピタリと止まった。
「ほう! またしてもあの娘に助けられたって訳か。後でご褒美をあげないとな……うんにゃ、こっちの話だ」
男は慌てて取り繕うと、もう一度煙を吐いてからパイプをしまい、喫煙を中断した。
「カナリから既に聞いてるだろうが、俺の名前はヴィンセント=マーロウだ。この最低な場所から連れ出してくれたら、相応の礼はするぜ」
「コレール=イーラだ」
「クリス=シェフィールドよ」
二人が自分の名前をマーロウに教えると同時に、牢の錠に鍵が差し込まれ、探偵は3日ぶりに鉄格子の向こう側へと足を踏み出した。
牢屋の薄暗闇から解放されたヴィンセントは、ヨレヨレのトレンチコートに、くたびれた中折れ帽を被った、背の高い男だった。帽子を目深に被っているため、顔つきを確かめることは難しい。しかし、コレールはこれまでの会話の中で聞いた掠れた声色から、恐らく初老には差し掛かっているぐらいの年齢だろうと目星を付けていた。
牢屋から脱出したヴィンセントは階段の方に目を向けると、そのままコレールたちを置いて歩き始める。
「ちょっとどこ行くつもりなの! 単独行動は危険よ!」
「あぁ……実は、もう少しこの建物に用があるんだ。悪いけど、先に外に出ていってくれ」
クリスの忠告に対してヴィンセントは振り向きもせずに、手に持った帽子をヒラヒラと動かすことで応対する。
二人が後を追って階段を上りきった先の角を覗いても、そこには探偵の影も形も存在しなかった。
ーーーーーーー
「おい、何してるんだ! その子を離せ!」
教会の正面玄関から中庭に出たコレールが、血相を変えてカナリの元へと走り寄る。
彼女の周りには何人もの屈強な兵士が取り囲むように立っており、彼女自身はその内の一人によって、後ろ手を縛られていた。
「コレールさん! ヴィニーは!? 中に居なかったの!? 何で貴女と一緒じゃないの!?」
カナリは拘束されている自分の状況はそっちのけで、コレールからヴィンセントの安否を聞き出そうと捲し立て始める。
「落ち着け。ヴィンセントは牢屋から出した。やることがあるから遅れて合流するって言ってたよ」
「マーロウを牢屋から……? さては図ったな、小娘!」
ここに来てようやくカナリの挑発が囮だったことを察したバトリークは、唾が飛ぶ勢いで彼女に向かって怒鳴り付ける。
「ふざけおってからに……! おい、ちゃんと押さえてろ!」
憤怒の頂点に達したバトリークは、カナリの手を押さえつけている兵士にそう言うと、右腕を勢いよく振り上げた。それを見たコレールとクリスは、カナリを守るためにすかさず攻撃態勢に入る。
「その手をどこに降り下ろすつもりだ、ファティ」
教会のある方角から、男のしわがれた、しかしはっきりと響く声が届く。その声を聞いたバトリークは、まるで時が止まったかのようにピタリと動きを止めてしまった。
「その手をどこに降り下ろすつもりだ、と聞いているんだ」
コレールとクリスの背後から、トレンチコートの探偵が姿を現した。
「これで最後だ。その手を、どこに、降り下ろすつもりだ?」
ヴィンセント=マーロウの声に激情は含まれていない。しかしクリスは彼の話し方に、氷の刃の様な冷たく、鋭い怒りの感覚を覚えずにはいられなかった。
「う……ぐ、ぐ……」
言葉を詰まらせたバトリークの顔色が、不健康そうな青紫色に変わっていく。
そして何を思ったか、バトリークは握り締めた自分の拳を自身の顔面に向かって降り下ろした。
「そうだ。それでいい」
「マーロウ、貴様……この恥知らずの裏切り者め! どの面を下げて勝手に牢屋から出てきたというのだ!」
「ふん、ほざけこのペンギン野郎。俺が何の考えもなしに、わざわざお前の目と鼻の先でお前の部下を3人殴り倒して、そのまま無抵抗で捕まったといまだに思い込んでいるのか?」
涙目でがなりたてるバトリークを鼻で笑うと、コートの内ポケットから便箋の束と、何かの液体が入ったシロップを取り出した。
「なっ、それはーー!」
「ここにいるお二方のお蔭で、計画よりずっと早く手に入ったよ。さぁ、こいつを持って領主の所に駆け込まれたくなきゃ、その子を離すんだ」
バトリークは怒りと屈辱で茹で蛸の様になりながらも、兵士に向かってカナリを解放するように指示を出した。
「ヴィニー!」
拘束を解かれたカナリは一目散にヴィンセントの元へ駆け寄ると、彼の両手をふわふわの黒毛で覆われた手で優しく包み込んだ。
「ヴィニー、心配してたんだよ? 僕に黙ってそんな計画を考えてたなんて……!」
「悪いな、カナリ。お前を巻き込みたくなかったんだ」
「もう、ヴィニーはいつもそうやって……うっ? うわっ、何そのシロップ! まさか、そんな臭いのするものを炊き出しの料理の中に……?」
ウルフ種の魔物であるアヌビスなだけあって、臭いには敏感なのだろう。カナリは顔をしかめて、奇妙な色の液体が入った液体をしまうように、ヴィンセントに促した。
「さてと……もうここには用は無いな。お二人さん、俺の事務所に来てくれ。手助けのお礼をさせて貰うことにしよう」
「おい、待てマーロウ! 帰るのはそいつを私に返してからだ!」
踵を返して門のほうへと向かおうとするヴィンセントに対して、バトリークは慌てて要求する。
「何のことだ? 俺は『カナリを離せばこの手紙とシロップを返してやる』なんて、一言も言ってないぞ?」
「なっ……!?」
「やりぃ! ヴィニー!」
カナリは跳ねるようにして歩いていくヴィンセントの隣に並ぶと、彼の脇腹をツンツンと肘で突っつく。
コレールとクリスの二人もしてやったりの笑みを浮かべながら、二人の後に続いていった。
「くそ、くそ、くそ……!」
「どうします、バトリーク隊長。あの手紙にはーー」
「分かってる! 計画を早めるぞ。あの忌々しいマーロウや領主に先手を打たれるわけにはいかん!」
「承知しました。ではいつ頃にーー」
「今からだ! 全員に準備を始めるよう伝えろ!」
バトリークは兵士に向かってヒステリックに言いつけると、中庭で炊き出しに並ぶ人々の方へと、腕を振り回しながら向かっていった。
「炊き出しは終わりだ! お前たち、さっさと帰れ! か・え・る・ん・だ!」
威厳の欠片も感じさせない隊長の振る舞いを前にした兵士は、肩を落として首を左右に振った。
ーー第22話に続く。
16/12/25 23:06更新 / SHAR!P
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