第4話 遠出 後編
「はぁ・・はぁ・・や・・宿主さんっ!い・・医者を・・・」
「ちょっ!どうしたんだ嬢ちゃんっ!タオル一枚で・・・タオル一枚っ?!」
「えっ?・・・・きゃぁぁぁぁぁっ!」
急いで風呂を上がり、シュルトに医者を呼ぶように伝えようとしたハクだったが、シュルトはハクの姿を見て顔を真っ赤にして驚いていた。
ハクの格好は、タオルを体に巻いただけの非常に破廉恥な格好だった。しかし、ハクも友人の体が心配だからこそ急いできたのだろう。その注意が自分に逸れた事によって、一気に恥ずかしくなったハクは、改めて自分の破廉恥さに目を疑った。
「と・・・とりあえず医者だったな・・・お〜いっ!誰かぁ!」
「はぁいぃ〜っ。呼びましたかぁ〜?」
「チッ・・・兄貴の呼び出しか・・・」
「お呼びでしょうか、兄上殿」
「お兄ちゃん?どぉしたの?」
シュルトがハクの要件を思い出して顔の紅潮を退かせると、宿の奥の方に居る誰かに声を掛けた。すると、まるで次元の扉でも繋がっているかのように数人の少女が入り口から姿を現した。
どの子も種族が違うのだが、共通点があった。それは、4人ほど出て来た少女が皆揃って、年端もいかない女の子だったのだ。
「紹介しよう。我らが妻たちだ。」
「まぁ、一夫多妻を認めた訳じゃないんでな。っと、私はヴリトラ。見ての通りリザードマンさ。」
「私は〜・・・ワ〜シ〜プの、リリ〜でぇす♪」
「某はシルフのルーフ。彼、シュルトの妻をしております。」
「私は、ゴブリンのリンだよぉ。宜しくね、お姉ちゃん♪」
シュルトが紹介するとは言った物の、皆が自分の事を紹介していたので、シュルトは紹介する必要が無くなっていた。
紹介された順番に、ハクと握手した皆はそれぞれに嬉しそうな顔をしていた。まるで新しく出来た妹を迎え入れるような嬉しさが、表情から滲みだしていた。
「・・・って!それどころじゃないんです!早く医者・・お医者さんを・・・」
「それなら私がやろうか?一応、医者なんだし。」
「はいはぁい♪助手はぁ〜、私がやりまぁす♪」
ハクが、皆との会話に花を咲かせ始めて居た頃、ハクがクロウを治そうと医者を呼んでもらいに来た事を、すっかり忘れていた事を思い出した。
すると、医者と言うキーワードを聞いたヴリトラとリリーが医者を買って出た。
二人はシュルトの説明曰く、「癖は悪いが腕は良い」らしい。
「さぁ、早く病人の所へ連れて行ってよ?」
「そうですよぉ〜♪」
「は・・・はいっ!」
ハクが慌ただしくしていた所を、ヴリトラが肩を掴んで睨んだ。するとハクは身体から慌てぶりが消え去って、代わりにクロウの心配ばかり考えるようになった。そして、ヴリトラ達に道案内を頼まれたハクは、クロウがまだ浸かっているであろう温泉へと向かった。
「うぅ・・・逆上せて来たかも・・・」
一方その頃、クロウは湯船にずっと浸かりっぱなしだった為に体中から力が抜けて、顔は逆上せたように真っ赤になっていた。気が付けば自分の呼吸すらも荒くなっているようだ。
それほどまで温泉に浸かっていたと知ったクロウは、適当な所で上がって身体を冷やそうと考えた。
元々彼女たちブラックハーピーは、「Bハーピーの行水」と言われるほどお風呂に入っている時間が少ないのだ。原因として、身体の血液が頭に上り易いと言う事と、身体がすぐにフヤフヤになって筋力が低下して飛べなくなってしまうというのがあった。
「クロウちゃんクロウちゃん!お医者さん連れて来・・・クロウちゃん!」
「なっ!?」
クロウが温泉から上がろうとした時、入り口の扉の向こうから聞き慣れた声が自分を呼ぶのが聞こえた。
しかし、それに反応して立ち上がろうとしたクロウを瞬間的な立ちくらみが襲った。
入って来たハクは慌ててクロウを支えようと飛び出したが、それよりも早くヴリトラがクロウを受け止めて地面への転倒を防いだ。
「患者ってのは・・・コイツ?」
「そうみたいよぉ?ハクちゃん、首ってばブンブン振ってるんだもの〜・・」
クロウを受け止めたヴリトラは、ハクにクロウが患者であるか否か聞こうとした。しかし、その時にはすでにハクが無言で首を縦に振って肯定の意を示していた。
その様子を見ていたリリーは、少し柔らかくなった表情でヴリトラにその旨を伝えた。
「それじゃ、コイツを医務室に運ぶよ?リン〜ッ?担架〜!・・・」
「・・・・はいよぉっ!お待たせぇ!さぁさぁ乗せて?・・・いざ、医務室へGO!」
ヴリトラがクロウの様子を伺って、此処で治療させるべきではないと判断して、リンを部屋の向こうに居ると見越して呼ぶ。すると、あっという間にリンが待ち受けていたかのように担架を担いで飛び出して、笑顔を此方に向けている。
「大丈夫?クロウちゃん?クロウちゃん?」
「大丈夫だって。心配しないでよ。」
担架に乗せられたクロウは、何度も何度もハクに声を掛けられている。しかし、彼女は意識を失っている訳でも無い。何故ハクがそこまでして声を掛けるのか、クロウには分かっていた。
心配性なのだ。ハクは。昔からハクは何かとクロウを心配する節がある。事ある毎にクロウに声を掛け、無事で有れば大げさな程にため息をついて安心する。たまに指を串でチクリと刺した程度で大げさになるが、それでも彼女なりに心配しているのだろう。
「良かったぁ・・・早く元気になってね?」
「分かってるって。」
「二人とも?仲睦まじい所悪いけど、先に行くよ?」
二人で話し合っていたハクとクロウだったが、移動中だと言う事が頭に入って居なかったようだ。
リンが少し遅めに調節している担架を引きながら羨ましそうに二人を見つめる。
しかし、そんなことも一瞬。リンは急いで治療室へと運んで行った。ヴリトラもそれに着いて行く。
「さぁて!到着したよ?」
「座れるか?少し質問に答えて欲しい。」
「はぁ・・・良いですけど・・・」
治療室に到着した三人は、それぞれのするべき行動を取っている。リンは担架を降ろすとその場でジッとしている。ヴリトラは医者らしくクロウに質問を投げかける。クロウはそれに答える為に指示された場所に座った。
「まず、その体中の痣なんだが・・・何処で受けた物だ?」
「こ・・・・これは・・・」
いきなり核心を突く質問をしたヴリトラだが、クロウは答えを答えるか否か迷っているように思える。それを、自発的に説明するようヴリトラは誘導尋問を開始した。
「その傷・・・人間からの物なのか?」
「・・・・・・」
「黙っていてもためにはならないぞ?」
「・・・・・・・はい。」
誘導尋問を暫く続けていたヴリトラは、傷の事に付いて詳しく聞いている。その問いにクロウは答えなかったのだが、ヴリトラが脅しを掛けると簡単に折れた。
そこから先はクロウがずっと語って教えてくれた。
この深い傷の事。
以前にクロウを奴隷の様に扱っていた男の事。
彼女の生い立ち。
ハクとクロウの出会い。
彼女たちの過酷な過去。
件の男の消息。
その他諸々の事に付いてクロウは包み隠さず話した。もう怖がることも無い。彼女はヴリトラに説明し終わると、ヴリトラに抱き付いた。
親友に自分の過去を隠していた事。
親友が自分を想っていた以上に心配していてくれた事。
親友と自分が過ごして来た時間がどれほど助けになっていたかと言う事。
親友は自分よりも自分を愛していると言う事。
その他の事に関する罪悪感から、彼女は涙を流していた。
「ほらほら、泣かないで。」
ヴリトラは、抱き付いて泣いているクロウの頭を撫でる事くらいしか、彼女の心を保たせる方法が見つかりそうに無かった。
そして、ヴリトラが紙に色々と書いているとクロウは部屋の入り口側からハクのすすり泣く声を聞いた。
「・・ひぐっ・・・えぐっ・・・クロウ・・ちゃん・・・」
「どうしたの?」
「・・うっ・・ふぇ?」
部屋を出たクロウは、予想となんら変わらない位置にハクを見つけたが、彼女が泣いているのも分かっていたクロウには、どのようにすればハクが泣きやんでくれるかも熟知している。
驚かせばいいのである。
それに従ってクロウはハクの目の前に足を立てないようにして立つ。そして、ハクが自分を呼んだタイミングで声を掛けるのだ。
案の定、ハクは心配していた対象が目の前に居ることで混乱。その反動で泣きやんでいる。
「大丈夫だよ?先生に直してもらったから。」
「・・ホント・・?」
「ホントだって!」
「・・・・友人の為に嘘を吐く・・か・・」
泣きやんでいるハクに、クロウは安心させるためにハクに無事を告げた。
以前に何度も嘘を見破っているハクは、今回も嘘なのだと思って真偽の程を確かめる。
クロウはいつものように、しかしいつもより優しく彼女に嘘を吐く。
その様子を、ヴリトラは病室の中で見ていた。リンも一緒になって見詰めている。
「先生!ありがとうございました!!」
「あぁ。身体は大事にしろよ?」
「はい!」
元気よく返事をしたハクは、クロウを背負って廊下を嬉しそうに歩いて行った。相当安心したのだろう。奥の方から鼻歌がいつまでも聞こえ続けている。
「・・・・・リン、我々は件の男を探すぞ・・」
「えぇっ?!今からですかぁ?」
ハクが声の聞こえない所まで去っていった後に、ヴリトラは背後のリンを呼びながら一枚の紙をリンに手渡した。内容は話の中に出て来た男の特徴だ。
リンは驚いて身を少し引っ込めたが、ヴリトラが彼女を掴んでその逃げ道を塞いでしまった。
リンは紙の内容を見て、その絶望的な特徴の量に唖然としている。
「それでは、頼んだぞ?」
「ちょっ!私だけじゃ・・・そっかぁ!皆も誘えばいいんだ!行こ行こ!」
リンに全てを任せたヴリトラは、そのまま手ぶらで何処かへ去ってしまう。が、リンは良いアイデアを思い付いたので手を叩くと部屋を飛び出して、他の皆を集めて探そうと飛び出して行った。
次回に続く
「ちょっ!どうしたんだ嬢ちゃんっ!タオル一枚で・・・タオル一枚っ?!」
「えっ?・・・・きゃぁぁぁぁぁっ!」
急いで風呂を上がり、シュルトに医者を呼ぶように伝えようとしたハクだったが、シュルトはハクの姿を見て顔を真っ赤にして驚いていた。
ハクの格好は、タオルを体に巻いただけの非常に破廉恥な格好だった。しかし、ハクも友人の体が心配だからこそ急いできたのだろう。その注意が自分に逸れた事によって、一気に恥ずかしくなったハクは、改めて自分の破廉恥さに目を疑った。
「と・・・とりあえず医者だったな・・・お〜いっ!誰かぁ!」
「はぁいぃ〜っ。呼びましたかぁ〜?」
「チッ・・・兄貴の呼び出しか・・・」
「お呼びでしょうか、兄上殿」
「お兄ちゃん?どぉしたの?」
シュルトがハクの要件を思い出して顔の紅潮を退かせると、宿の奥の方に居る誰かに声を掛けた。すると、まるで次元の扉でも繋がっているかのように数人の少女が入り口から姿を現した。
どの子も種族が違うのだが、共通点があった。それは、4人ほど出て来た少女が皆揃って、年端もいかない女の子だったのだ。
「紹介しよう。我らが妻たちだ。」
「まぁ、一夫多妻を認めた訳じゃないんでな。っと、私はヴリトラ。見ての通りリザードマンさ。」
「私は〜・・・ワ〜シ〜プの、リリ〜でぇす♪」
「某はシルフのルーフ。彼、シュルトの妻をしております。」
「私は、ゴブリンのリンだよぉ。宜しくね、お姉ちゃん♪」
シュルトが紹介するとは言った物の、皆が自分の事を紹介していたので、シュルトは紹介する必要が無くなっていた。
紹介された順番に、ハクと握手した皆はそれぞれに嬉しそうな顔をしていた。まるで新しく出来た妹を迎え入れるような嬉しさが、表情から滲みだしていた。
「・・・って!それどころじゃないんです!早く医者・・お医者さんを・・・」
「それなら私がやろうか?一応、医者なんだし。」
「はいはぁい♪助手はぁ〜、私がやりまぁす♪」
ハクが、皆との会話に花を咲かせ始めて居た頃、ハクがクロウを治そうと医者を呼んでもらいに来た事を、すっかり忘れていた事を思い出した。
すると、医者と言うキーワードを聞いたヴリトラとリリーが医者を買って出た。
二人はシュルトの説明曰く、「癖は悪いが腕は良い」らしい。
「さぁ、早く病人の所へ連れて行ってよ?」
「そうですよぉ〜♪」
「は・・・はいっ!」
ハクが慌ただしくしていた所を、ヴリトラが肩を掴んで睨んだ。するとハクは身体から慌てぶりが消え去って、代わりにクロウの心配ばかり考えるようになった。そして、ヴリトラ達に道案内を頼まれたハクは、クロウがまだ浸かっているであろう温泉へと向かった。
「うぅ・・・逆上せて来たかも・・・」
一方その頃、クロウは湯船にずっと浸かりっぱなしだった為に体中から力が抜けて、顔は逆上せたように真っ赤になっていた。気が付けば自分の呼吸すらも荒くなっているようだ。
それほどまで温泉に浸かっていたと知ったクロウは、適当な所で上がって身体を冷やそうと考えた。
元々彼女たちブラックハーピーは、「Bハーピーの行水」と言われるほどお風呂に入っている時間が少ないのだ。原因として、身体の血液が頭に上り易いと言う事と、身体がすぐにフヤフヤになって筋力が低下して飛べなくなってしまうというのがあった。
「クロウちゃんクロウちゃん!お医者さん連れて来・・・クロウちゃん!」
「なっ!?」
クロウが温泉から上がろうとした時、入り口の扉の向こうから聞き慣れた声が自分を呼ぶのが聞こえた。
しかし、それに反応して立ち上がろうとしたクロウを瞬間的な立ちくらみが襲った。
入って来たハクは慌ててクロウを支えようと飛び出したが、それよりも早くヴリトラがクロウを受け止めて地面への転倒を防いだ。
「患者ってのは・・・コイツ?」
「そうみたいよぉ?ハクちゃん、首ってばブンブン振ってるんだもの〜・・」
クロウを受け止めたヴリトラは、ハクにクロウが患者であるか否か聞こうとした。しかし、その時にはすでにハクが無言で首を縦に振って肯定の意を示していた。
その様子を見ていたリリーは、少し柔らかくなった表情でヴリトラにその旨を伝えた。
「それじゃ、コイツを医務室に運ぶよ?リン〜ッ?担架〜!・・・」
「・・・・はいよぉっ!お待たせぇ!さぁさぁ乗せて?・・・いざ、医務室へGO!」
ヴリトラがクロウの様子を伺って、此処で治療させるべきではないと判断して、リンを部屋の向こうに居ると見越して呼ぶ。すると、あっという間にリンが待ち受けていたかのように担架を担いで飛び出して、笑顔を此方に向けている。
「大丈夫?クロウちゃん?クロウちゃん?」
「大丈夫だって。心配しないでよ。」
担架に乗せられたクロウは、何度も何度もハクに声を掛けられている。しかし、彼女は意識を失っている訳でも無い。何故ハクがそこまでして声を掛けるのか、クロウには分かっていた。
心配性なのだ。ハクは。昔からハクは何かとクロウを心配する節がある。事ある毎にクロウに声を掛け、無事で有れば大げさな程にため息をついて安心する。たまに指を串でチクリと刺した程度で大げさになるが、それでも彼女なりに心配しているのだろう。
「良かったぁ・・・早く元気になってね?」
「分かってるって。」
「二人とも?仲睦まじい所悪いけど、先に行くよ?」
二人で話し合っていたハクとクロウだったが、移動中だと言う事が頭に入って居なかったようだ。
リンが少し遅めに調節している担架を引きながら羨ましそうに二人を見つめる。
しかし、そんなことも一瞬。リンは急いで治療室へと運んで行った。ヴリトラもそれに着いて行く。
「さぁて!到着したよ?」
「座れるか?少し質問に答えて欲しい。」
「はぁ・・・良いですけど・・・」
治療室に到着した三人は、それぞれのするべき行動を取っている。リンは担架を降ろすとその場でジッとしている。ヴリトラは医者らしくクロウに質問を投げかける。クロウはそれに答える為に指示された場所に座った。
「まず、その体中の痣なんだが・・・何処で受けた物だ?」
「こ・・・・これは・・・」
いきなり核心を突く質問をしたヴリトラだが、クロウは答えを答えるか否か迷っているように思える。それを、自発的に説明するようヴリトラは誘導尋問を開始した。
「その傷・・・人間からの物なのか?」
「・・・・・・」
「黙っていてもためにはならないぞ?」
「・・・・・・・はい。」
誘導尋問を暫く続けていたヴリトラは、傷の事に付いて詳しく聞いている。その問いにクロウは答えなかったのだが、ヴリトラが脅しを掛けると簡単に折れた。
そこから先はクロウがずっと語って教えてくれた。
この深い傷の事。
以前にクロウを奴隷の様に扱っていた男の事。
彼女の生い立ち。
ハクとクロウの出会い。
彼女たちの過酷な過去。
件の男の消息。
その他諸々の事に付いてクロウは包み隠さず話した。もう怖がることも無い。彼女はヴリトラに説明し終わると、ヴリトラに抱き付いた。
親友に自分の過去を隠していた事。
親友が自分を想っていた以上に心配していてくれた事。
親友と自分が過ごして来た時間がどれほど助けになっていたかと言う事。
親友は自分よりも自分を愛していると言う事。
その他の事に関する罪悪感から、彼女は涙を流していた。
「ほらほら、泣かないで。」
ヴリトラは、抱き付いて泣いているクロウの頭を撫でる事くらいしか、彼女の心を保たせる方法が見つかりそうに無かった。
そして、ヴリトラが紙に色々と書いているとクロウは部屋の入り口側からハクのすすり泣く声を聞いた。
「・・ひぐっ・・・えぐっ・・・クロウ・・ちゃん・・・」
「どうしたの?」
「・・うっ・・ふぇ?」
部屋を出たクロウは、予想となんら変わらない位置にハクを見つけたが、彼女が泣いているのも分かっていたクロウには、どのようにすればハクが泣きやんでくれるかも熟知している。
驚かせばいいのである。
それに従ってクロウはハクの目の前に足を立てないようにして立つ。そして、ハクが自分を呼んだタイミングで声を掛けるのだ。
案の定、ハクは心配していた対象が目の前に居ることで混乱。その反動で泣きやんでいる。
「大丈夫だよ?先生に直してもらったから。」
「・・ホント・・?」
「ホントだって!」
「・・・・友人の為に嘘を吐く・・か・・」
泣きやんでいるハクに、クロウは安心させるためにハクに無事を告げた。
以前に何度も嘘を見破っているハクは、今回も嘘なのだと思って真偽の程を確かめる。
クロウはいつものように、しかしいつもより優しく彼女に嘘を吐く。
その様子を、ヴリトラは病室の中で見ていた。リンも一緒になって見詰めている。
「先生!ありがとうございました!!」
「あぁ。身体は大事にしろよ?」
「はい!」
元気よく返事をしたハクは、クロウを背負って廊下を嬉しそうに歩いて行った。相当安心したのだろう。奥の方から鼻歌がいつまでも聞こえ続けている。
「・・・・・リン、我々は件の男を探すぞ・・」
「えぇっ?!今からですかぁ?」
ハクが声の聞こえない所まで去っていった後に、ヴリトラは背後のリンを呼びながら一枚の紙をリンに手渡した。内容は話の中に出て来た男の特徴だ。
リンは驚いて身を少し引っ込めたが、ヴリトラが彼女を掴んでその逃げ道を塞いでしまった。
リンは紙の内容を見て、その絶望的な特徴の量に唖然としている。
「それでは、頼んだぞ?」
「ちょっ!私だけじゃ・・・そっかぁ!皆も誘えばいいんだ!行こ行こ!」
リンに全てを任せたヴリトラは、そのまま手ぶらで何処かへ去ってしまう。が、リンは良いアイデアを思い付いたので手を叩くと部屋を飛び出して、他の皆を集めて探そうと飛び出して行った。
次回に続く
11/02/12 22:12更新 / 兎と兎
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