連載小説
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舞踏曲第5節 全ての蟻たちの讃歌
今日は外でまとまった大雨が降っていた。そんな中、いつものようにラトは削岩作業をしていた。

「(ガリガリガリガリ)・・・・・(ボコンッ!)!!繋がった?!でもどこに!?」
ラトが穴を掘り進んでいると、暫くして何処かの穴と繋がってしまった。そこがもう使われていないコロニーの可能性も捨てきれなかったラトは、削岩用のドリルだけを武器に内部へと潜入していった。そこはアストレアと違って殆んどの地盤がむき出しになっている。これでは地面が崩れやすいだろうと思ったラトだがそれは違った。壁を叩くと、アストレアとはまた違った硬質さを腕に感じた。アストレアの地盤なんかよりもずっとずっと硬い岩で出来ているらしい。

「・・フッフフ♪フフフフゥン♪」
暫く何も無い道を進んでいたラトだが、唐突に向こうの方から誰かの声が聞こえてきて慌てて岩の間に身を隠した。暫くすると、直ぐ近くまで歌が近付いてきていた。どうやら歌っているのはアントの少女らしい。声が女性の、それもまだ幼い女の子の声だった。

「フゥフフゥ♪・・・・誰!?」
軽快に歌を歌っていた少女だが、異様な気配を感じ取ったのだろう。いきなり歌を止めると背中に用意してあった護身用程度の大きさの木刀を抜き放って辺りを見回し始めた。終わりかと思ったラトは、ユウキに思いを馳せながら目をギュッと食いしばって死を覚悟した。しかし、ラトを見つけた少女は案外な程に優しくしてくれた。

「あら?アナタ、何処のアント?私はナズナ。ちょっと付いて来てくれるかしら?これから貴方の事を聞きたいのだけれど・・」
ナズナは、ラトに手を差し伸べて来た。どうやら疑惑などは無いらしい。見た目的にはラトよりも一つくらい下に見えるが、その事を言うのは失礼だろうと思ったラトはその考えを押し殺してナズナの跡を付いて行った。しばらくすると女王蟻と呼ばれる者の所へと連れて行かれた。どうやらラトを同胞に迎えようとしているらしい。しかし、これだけ友好的ならばアストレアとも友好関係を築けるかもしれない。そう思ったラトは、その事を洗い浚い話すのだった。どうやらその要望は叶えてもらえそうだ。此処の女王蟻はアストレアのヴィレッタと違って温和な人物の様で、あっさりと了解してくれた。そして暫くすると、穴を見つけた他の仲間たちもやってきて口をぽかんと開けていた。

「ふむ、我々と此処のコロニーが協同を・・・よくやったぞ、ラト!」
レイドが先発隊メンバーの指揮を取ってやってくると、女王蟻の所に居たラトの頭を撫でていた。それを嬉しそうに受け入れていたラトは、少々表情が綻んでいるのが見えた。

「大変よ!みんな!外の大雨が流れ込んできた!」
「ちょっ!それ本当なの?ミトリ!」
突然やって来たミトリは、外を指差して体を震わせていた。どうやらこの雨の影響で水が流れ込んできているらしい。そこでレイドは、通信を使ってヴィーナス達に応援要請を送るとラトと一緒に入り口の方向へと向かった。

「ふぬぅっ!あっ!先輩!助けて下さいよぉ!」
「もぅ・・・ダメ・・」
「ううぅぅぅぅぅ・・・・」
「我慢・・・出来そうにないよぉぉ!」
入り口の場所では、数人のアント達が魔法を使って水をせき止めていた。しかし、もう長くは持たない様子。皆が泣きごとを言って体の体制が崩れ始めていた。しかし、そこでただ見ているだけのアストレア勢では無い。

「挫けるなッ!立って見せろ!それでもこのコロニーの兵士たちか?!」
「はぁぁぁぁっ!」
「蒸発しちゃえ!」
「私も守る!守って見せる!」
まずはレイドが挫けているアント達に一喝を与えた。どうやら調錬は受けているらしく、喝を受けると自然にアント達の背筋がピンと張って立ちなおした。それを合図にしてアストレア勢のみんなも壁に従事した。そのお陰で暫く経った頃には水も引いて何も無くなっていた。喜びに浸ってクタクタになっていたラト達の前に、一人の少年がラトに手を差し伸べた。

「ラト。お疲れ様。」
「ゆう・・き・・・」
魔力を使い果たす寸前まで追い込まれたラトの前に現れたのは、ラトの夫であるユウキだった。そのユウキがラトの手を掴むと、そのまま引っ張って背中におぶった。その様子を見ていたヴィーナスを始めとしたアストレア勢+ナズナ達は、改めてお互いの自己紹介をして友好を深めた。



これでこの演奏を今此処で終わらせていただきます。ご静聴頂いた皆様方に、再度お礼の言葉を述べさせてもらいましょうか。

『ありがとうございました!』
10/11/02 08:07更新 / 兎と兎
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■作者メッセージ
今回でこの話も終わりです。それではみなさん!他の作品も呼んで楽しい気持ちをそのままに、今日も良い一日をお過ごしくださいね?

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