第八話 私が許せない物は
前の話からどれほど経っただろうか。
もうそろそろ一年と少し経ったかもしれない。
確か季節が一巡りしていたし間違いないだろう。
セシアもすっかり大きくなって、もうそろそろ歩き始めるようになる。
なのにギルとくれば…
「んぅ……っく……はぁぁっ!」
秘裂に指を這わせて恥骨を刺激して絶頂に達するのはいつもの事だ。
ただ、最近はずっと私の右手が相手をしている。
帰ってこないのだ、ギルが。
「はぁ…はぁ……もう少し…もう少しの辛抱だ…」
ギルは、仕事の関係で遠方での短期間勤務が決まった。
視察を兼ねた物なんだそうだが、その勤務地がどうにも遠く、魔界があって、私の領土があって、クライザットという国があって、その隣のレスカティエと呼ばれる国にまで出向いているんだそうだ。
魔物娘もそうだが、あちらはドでかい宗教国家だと聞く。
変な宗教に掴まったりしていないと良いのだが。
あぁ、そんな事を言ってギルの事ばかり考えているとまた膣の奥が疼く。
「あと少しすればギルが…はぁ…っはぁ…」
そう、ギルからの便りによれば、あと2.3日でこちらへ帰って来られるらしいのだ。
遠方勤務を終えて帰ってきたギルは疲れているだろうから、優しくもてなしてやろう。
ピュア達とも既に5人だけでのひっそりとしたおかえりなさいパーティーの準備を進めている。
疲れた体には甘い物が良いと聞くし、森の方で美味い果実でも採って来てやらねば。
「あぁ…ギル……」
帰ってくるのが待ち遠しくて仕方ない。
だからと言ってセシアの世話を怠る訳にはいかないが。
あぁ、はやく明後日になってギルをこの手で抱きしめたい。
そんな事を考えながら、夢路に就くとしよう。
きっといい夢が見られますように…
======
===
======
「………す……ありすっ…」
あぁ、やはり夢に出て来てくれたか。
聞き覚えのある声で、聞き覚えのある愛称を呼んでくれる彼が、私の目の前にいるのが分かる。
嗅ぎ慣れた匂いは隠し切れない汗の匂いが彼の疲労度合を教えてくれる。
妙に息が荒いようだがどうしたのだろうか?
「きもち…いいよっ…ありすぅ!」
いや、これはちょっとおかしい。
確かに私はギルとの逢瀬を望みながら眠りに付いた。
だが、これは逢瀬と言うよりは一方的な淫行。
強姦となんら変わりないではないか。
「ぐちゅぐちゅって…ほら、聞こえるかい、アリス?」
夢の中では痛みや快感は鈍化すると言うが、それにしたっておかしい。
まるで、現実の出来事のようなリアルさがある。
眠っている場所も同じ私の部屋なら、ベッドに備えられた小さなテーブルの上に置かれた食べかけのリンゴにしたって同じ。
普通の夢でここまで再現度の高い夢が果たしてあるだろうか?
「ほら…いつものお返し…してあげるよっ!」
ぐっ!
首筋に噛み付いただと?!
首の肉を噛みちぎるつもりなんじゃないかと思う程強く、噛みついてくる。
幸い、私の身体はその程度では血は出ないが、それにしても痛い。
ギルよ、どうしたと言うのだ。
「うぅん、流石に食い千切れはしないか…でも、これはどうかな?」
さっきから何を言っている?
それに、私はどうして身体を動かせないだけでなく声も出せない?
意識は確かに覚醒しているはずなのに、瞼をわずかに開くのが精一杯ではないか。
「おっ! キュンキュン締まってきた…こっちももっと締めてあげるよ…」
やめろ!
腰を突き入れながら首を締めたりしたら息が出来ずに死んでしまう!
苦しさにもがこうとしての反射的な行動からか、私の眼だけは自由になったようだ。
ギルの瞳に生気が宿っていない?!
「あぁ、起きちゃった? でも、もう少し我慢してね。ゆっくり死ねるようにギューってしてあげてる所だからさ」
頭にだんだんと血が通わなくなっていくのと反比例するように、意識はどんどん覚醒していく。
それではっきりとわかった。
これは夢や幻なんかではなく、現実に起こっている事だ。
「指から伝わってくる脈がどんどん弱くなってる…そろそろ逝くんだね? とびっきりの絶頂を味わってよ!」
「かはっ!」
やっと喉も自由になったが、こんな状態では言葉の一つも発せやしない。
おおよそ人間かと疑いたくなるような握力が私の首を殺してやると言わんばかりの勢いで締め付けられる。
それと同時に、本当にギルの逸物なのか疑いたくなるほど大きなモノが私の膣奥まで捻じ込まれているのも分かった。
「やっ……ギッ…」
「やめてくれって…? ダメだよやめたりなんかしちゃ。面白くないでしょ? ホラホラ、逝く所見せてよ!」
ダメだ、だんだん目の前が霞んできた。
ギルの顔もぼやけていく。
何も考えられない。
「うっひゃぁ…どんどん締まってく……出る…出る、出すよぉ…うぅ!」
「あっ……が…」
子宮へ直接精液を流し込まれ、頭が真っ白になっていく。
いや、これは快感でと言うよりは窒息によるものかもしれない。
最後に見るギルの顔が、とんでもなく歪んだ顔だなんて、私は嫌だ。
そう、イヤだ。
「ふぅ……もう死んだかな……よっし、死亡確に」
「ふざけるなよ、童が…」
誰がこの程度で死ぬものか。
普通なら死んでもおかしくないかもしれないがな、普通なら。
おっと、逃がすと思ったか。
ギルには少し悪いが、同じように首を掴んでその場に留めてやろうではないか。
「ぐ…がっ……なんで…死んで…」
「貴様のような小童が、私をやれると思ったか、馬鹿者め…」
どうやら、変身魔法の類では無いようだ。
身体自体はギルそのもので、これは人格を乗っ取ったりする類の魔法だろうか。
何にしても、本人を差し向けて自分はそれをどこかから覗き込んで高笑いしている時点で性質が悪い。
「まず、どうして本物か分かったか、だが…これは簡単だ。 小童の方から教えてくれたではないか、ほぉれ…」
もうすっかり動くようになった身体で、すっかり萎んだ逸物を腰から抜いて答えを見せてやる。
そう、精液だ。
ギル以外の男が吐き出す精液など汚物以外の何物でも無い。
そんなものをもし流されて居たら、私はそうだと分かった瞬間にその首を刎ねてやる。
穏健派の吸血鬼?人と接したがる変質者?そんなものは関係ない。
私とギルの仲を引き裂こうとする者が居るならば、その魂ごと滅してくれるまでの事。
何より、精液の味どうこうよりも私がギルを見間違える筈がない。
「それにしても、男の射精の感覚はどうだった?」
「っ?!」
「小僧かと思えば、貴様小娘か…」
射精された時の腰遣いの覚束なさから、女性経験が無いか浅い者だとは思った。
後はこうやって問答してやれば、性別の差異くらいは見破れる。
「「小娘」「魔術、それも人格の上書きが出来る魔術師」「嗜虐性癖の強い者」「ギルの帰り道にある街にいる」ここまで絞れば、ほとんど候補は絞られよう?」
「ぐっ……こ、こうなればこの男を…」
「やはり浅はかな娘だな……あぁ、ここか」
このギルに憑りついた小娘、相当の馬鹿だったようだ。
ギルを人質に自爆でもしようとしたのだろうが、実に愚か。
首筋の、ギルにいつも噛み付いている場所が仄かに光っているのを見つけた。
これが、ギルの人格を封じ込めて身体を操っている魔法陣だろう。
「もし見ていたなら、覚悟しておくのだな、小娘…」
「や、やめ」
いつものように舌で軽く舐めてからでなくいきなり噛み付いてしまうが、ギルなら許してくれるだろう。
噛み付き、牙で以て魔法陣を破壊する。
噛み付くのを阻止しようとしていたギルの腕も、魔法陣を破壊してしまえばすっかり力なくダランと垂れてしまった。
せっかくだ、噛みつきついでにギルの血をいくらか飲んで置くとしよう。
「んっ……ちゅるっ……はむはむっ……っ! ぷはっ…いけないいけない、美味しくてつい飲み過ぎてしまう所だった…」
涎のように垂れる血を指で掬って舐め取る。
それだけでも、舌に触れるギルの血がまるで麻薬のように心地良い舌触りを齎してくれる。
思わず蕩けてしまいそうになるが、今はそれどころではない。
「やれやれ…」
「……うぅ…」
おお、どうやら起きたようだ。
思い切って血を少し吸い過ぎてしまったような気がするが、死ぬような事はないだろう。
……うん?
ギルめ、まさか吸血された刺激だけで射精してしまったと言うのか?
私の腹に精液が掛かってしまっているではないか。
というか、私も気付かなかったのか。
「あ、あれ…アリス…?」
「ギルめ、やっと起きたか…」
この時の私は、一体どんな顔をしていたのだろうか。
久しぶりに啜ったギルの血の味に酔って蕩けた顔をしていたか。
彼を心配するあまり、ただでさえ血の気が引いたように白い肌を更に青白くさせていたか。
それとも、安心するあまりに表情が綻んでいたかもしれない。
まぁ、どれにしたって次の瞬間には怒りの表情に変わっていたが。
「ギル、貴様に聞きたい事がある…」
「ふぇ?! あ、アリス?」
私は、いつ頃からだったかは忘れてしまったが、ギルに対しての呼び分けをするようになっているらしい。
普通に接している時は「お前」だったり「ギル」だったりするのだが、怒っている時は「貴様」と呼んでいるらしい。
らしい、というのもギルが長期勤務に向かう直前にしてくれた夜伽の際に教えてくれたことなのだ。
「魔術式の張られていた場所が気になってな…まぁ座ってくれ」
座ってくれ、と言いはしたが促すような優しい物じゃない。
元から互いに支え合うような形で膝立ちになっていたのを突き飛ばして座らせた、と言う方がいくらか正しい。
「ま、魔術式…?」
眼が…逸れた。
右上へ視線が逸れる。
「あぁ、丁度この首筋の所に…」
「っ!? な、何もないよ?」
その通り、何も無い。
あるのは私が噛んで吸血した跡だけだ。
それなのに、ギルはまるでどこの事を言っているか知っているかのように手で隠して焦る。
ついでに言うと、瞬きが非常に多くなっている。
「? 何もない訳がないだろう? 私の噛み跡がある」
「えっ? あ、あぁ、そうだね。アリスが噛んだ跡がある」
呼吸が乱れる。
早口になる。
相手の言葉を反復する。
どれも、人間が嘘を吐く際、無意識に取ってしまいがちな行動の典型例だ。
まさか、ギルがそれらの全ての行動をとってくれるとは思わなかったが。
「それを塞ぐように術式が張られていたのだが……貴様、何をした?」
「あうっ…」
ギルが倒れたままの恰好であるうちに、私も姿勢を変えてギルの股間へ足を伸ばす。
本当に嫌がっているのなら手で払われていただろうが、ギルは私の足を受け入れてくれたようだ。
そのまま両足で挟み込むようにしてギルのモノを挟み込んでやる。
大きさこそ萎んでしまったが、まさかあれしきの事で精液を出し切ってしまっている訳ではあるまい。
「貴様の身体を乗っ取った小娘が、私を殺しに来たぞ? 追い払う事しか出来なかったのが残念ではあるが、貴様の救出はしてやったと言う訳だ」
「あぅ……はぅぁ! ぼ、僕がそんな事を…?」
自覚はないらしい。
人格を乗っ取られていたのだから致し方あるまい。
だが、私が気になっているのはそんな事ではない。
「あの手の魔術の行使に必要な行為がある…貴様、それが何か知っているか?」
「し……しらな…あうっ! 知らないよぉ…」
ならば教えてやろう。
人格を他者へ植え込む類の魔術に絶対不可欠な物があるのだ。
それは、術者本人の体液を塗り込む事だ。
ほとんどの場合は血を媒介にして行われるが、唾液や涙でも問題は無い。
ただまぁ唾液や涙の場合、成功率は低くなってしまうのであまりやりたがる物は居ないのだが、あの小娘は成功率よりも楽な方を優先したのだろう。
「へ、へぇ…そんなのがあった…はぅあ!!」
「っ! ……」
そっとギルのパンパンに膨れ上がったモノに絡めていた足の指を離す。
ねっとりとした液体が糸を引いて、もっとしてくれと懇願しているかのようだ。
まだギルを射精させる訳にはいかない。
「……や、やめちゃうの…?」
「真実を言えば…」
「分かった、言うよ!」
折れるのがあまりにもあっさりしていた。
いや、ここは欲望に忠実になっていたと言うべきか?
「帰り道の途中、貧困で苦しんでる少女と出会ったんだ」
「ほう…」
それが、ギルに私を襲わせた小娘という事だろう。
「途中、街と街の丁度真ん中くらいで野宿する事になって…」
「ふむふむ…ん?」
野宿…?
「身体が冷えて寒いから同じ寝袋に入れてくれって言われて…」
「……入れたのか?」
呆れてロクに言葉も出てこない。
「うん…それで、布団に入れた途端、あの子が積極的になってきて…」
「手口がまるっきり未婚の魔物娘のそれではないか…」
私が居たら、近づいてきた時点で追い返している所だ。
それなのにギルと来たら。
あまり人が良すぎると私の方が心配になってくる。
「それで……どこまで覚えているのだ?」
「や、やましい事は何もしてないよ!………多分」
今「多分」と言ったか!?
信じられん。
妻と娘が居ながら小娘に手を出してしまうなどと。
しかも貴様は貴族の人間だろう!
これが周りに知られてみろ、信用はガタガタになる事くらい誰にだって分かる。
「と、途中で気を失っちゃったんだ。首筋にキスをされてからの事は何も覚えてないんだ」
「なるほど、人格の移植はその時点で終了していたという事か…」
と、いう事はその時点でギルの意識は封印されたという事になる訳か。
「となると、どうやってここまで…」
「ふぐっ?!」
考え事をしながらであってもできるお仕置きを見つけたぞ。
思考回路をフル回転させながら、ギルを押し倒してそのまま顔に座り込む。
ギルの精子がまだ残っているかも知れないが、この際だ、綺麗にして貰うとしよう。
何、それは男がして貰うものだと?
そうか…だが止めん。
「んっ……はぁぁ…んっ…」
「っっっ……! ちゅるるるっ!」
ひゃうんっ?!
止めろっ?!?
恥骨を麺でも啜るかのように吸い取るなんて卑怯だぞ!
「いっく…だめぇぇぇぇぇ!!」
見ろ、すぐイッてしまったではないか。
少々汚いだろうが、イッたはずみで噴いてしまった潮を顔中に浴びてしまえ。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「……」
やれやれ、まさかギルの顔に座り込んで果てる日が来ようとは。
しかもそれが自分の寝室のベッドの上でだなどと…とんだ笑い話ではないか。
下着の一枚でも履いていれば良かったのだろうが、少し前まで操られていたとは言えギルに寝込みを文字通り襲われていたのだ。
薄手のパジャマを上だけ着て、後は裸同然。
着替えには丁度いいかもしれないな。
「んひっ…っ?! お、おいっ?! 離してくれっ?!」
まずいまずい、非常にまずい!
太腿を撫でられた時のゾクッとした感覚が、敏感だった身体を震わせてしまいある衝動に襲われる。
「尿意がっ! 来てるっ! そこまでっ!」
言葉が支離滅裂になってしまうあたり、私が焦っている事は分かって貰えるだろう。
そして問題はギルだ。
私が尿意を催していると分かるや否や、両腕で私の腰を顔面にしっかりと固定したまま離す気配が全くない。
舌で弄ってくるような事がないのが救いかとも思っていたが、息が内腿にあたるだけでゾクゾクとしたものが背筋を駆けて行く。
それは、私の尿意を促進させるには十分すぎると言う物だ。
「離しっ…はっ、はっ…離してっ……ギルぅ…お願いだからぁ…ふっ…ふっ、ふー…」
「ぷふっ!」
一体、この時の私はどんな顔をしていたのだろう。
尿意を必死に我慢する事だけで頭がいっぱいになっていた私の顔を見て、ギルは笑った。
とんでもない事をしてくれたものだ。
「っっっっ〜〜!!」
薄い泡の幕でなんとか決壊せずに済んでいたような物だったダムが、ギルの噴き出した事による振動の所為で全てが文字通り水泡に帰した。
ギルの拘束から抜けだそうともがいていた手も、途中からはギルの腕ではなくベッドのシーツを掴む。
じわじわと尿道から尿が出て行こうとするのがスローモーションのように感じられ、その時になって全てが後悔と共に流れ出てくる。
「あはぁぁぁ………」
厠でいつも感じているのとは何倍も異なる、尿意からの解放感と充足感。
気付かない内に流していた涙は、嬉しいとか悔しいとか、そんな短絡的な物ではない。
ただただ「恥ずかしい」
「おっと!」
背中があまりの気持ち良さにビクビクと揺れる。
それと連動するようにして動いていた腰が浮き、慌ててギルが顔を引っ込めたのが分かる。
どうせなら、いきなり引っ込めるなんて真似、止めて欲しかったものだ。
「はぁぁぁぁぁん!!」
放尿中という無防備も無防備な状態の中で、ギルの前髪が私の秘部を擽って来たのだ。
ほんの少し触れるかどうかと言う程の微妙な距離感。
だが、それ故に最大限の効果を発揮するとも言える。
私はまるで犬や猫が用を足すかのように屈んだ体勢のまま、嬌声と共に尿を垂れ流していた。
ブシャァと勢いよく噴き出した尿がシーツに次から次へと大きなシミを作ってしまう。
「あ…あぁぁ…ぁぁ…」
絶頂感と解放感の混ざり合った気持ち良さは、私の意識をグチャグチャにしてしまうには十分過ぎた。
全てを流し切った私は、そのまま力尽きるようにしてベッドへ倒れ込む。
気が付けば、ギルは腕の拘束を解いて私から離れていたようだ。
こんな恥ずかしい体勢になるのは、一体いつぶりだっただろうか。
セシアを産む時だってこんな体勢にはならなかったぞ。
「ふぅ…アリス、大丈夫?」
全く、これではどちらがお仕置きをしていたのか分からないではないか。
きっとどんな方法でお仕置きしようとしたとしても、ギルが優勢になってしまうのだろう。
ヴァンパイアとしては恥ずかしい限りだ。
「はぁ、はぁ…っ、お前と言う奴はぁぁ…」
今、ギルの事を「お前」と言ったのか、私は。
いつの間にか怒りは甘えに変わってしまっていたようだ。
私の心も、ギルを責める事よりもギルと共に居られる喜びを優先していた。
当たり前だ、愛する者がやっと帰って来たのだから。
「あっははは…ごめんよ」
「ひぎっ!」
謝りながら、流れるように胸を揉むなど何を考えているのだ。
あまりにいきなりすぎた所為で母乳が噴き出してしまっているではないか。
いや、待ってほしい。
何か物音が聞こえた気がしたのだが?
「あー…」
「っ?! ギル、見ているか?」
「あぁ……飛んでるね…」
目の前の光景に、私は自分の目を疑った。
両手をばたばたと動かし、どこから生えてきたのか小さな翼と魔力での浮力を使って、私の娘が浮いていた。
時折、この子は天才なんじゃないかと思う事もあったが、もしかすると本当にそうなのかも知れない。
「あーう!」
「おお! ここまで来れたのか!」
「凄い!」
ゆっくりとではあったが、見守る私の胸へ一直線に飛び込んできてくれた。
ふわふわと浮かぶように飛んでいたからか、体重はほとんど感じない。
まぁ、飛ぶ事を止めたらちゃんと体重を感じるようにはなったが。
「これは…このまま本当に天才になってしまうのではないか?」
「良かったねセシア…あっ」
「ひぎぃ!」
すっかり忘れていた。
胸をさらけ出していては、飲んでくれと言っているようなものではないか。
しかも丁寧に甘噛みするようにして母乳をねだってくる。
「おっ、それじゃパパも…」
「なっ?! お前、何を考え…んひぃぃ!!」
それから、二人がかりで責められ続けた私は朝になってピュアが起こしに来てくれるまでイキっぱなしだったらしい。
正直な所言うと、セシアに「これが夫婦のセックスだ!」とギルが私を突き始めた頃から記憶が殆どない。
ピュアに起こしてもらうと私は、ベタベタしたものに身体中を濡らして床に倒れ込んでいたんだそうな。
因みにギルはと言えば、飲酒時のテンションのようなものだったのを放置したまま一緒に寝たのが祟ったか、丸一日は二日酔いのような症状に襲われていたんだそうな。
セシアは私の腕の中ですやすやと寝ていたが、どうして全裸の上に精液をかけられていたのか…
単にセシアを抱えていた私にギルがぶっかけただけだと思いたい物だ。
それから、時は過ぎて行く…
思えば、あれ以来私への攻撃的なアプローチが無い。
何かの前触れでなければいいのだが…
つづく
もうそろそろ一年と少し経ったかもしれない。
確か季節が一巡りしていたし間違いないだろう。
セシアもすっかり大きくなって、もうそろそろ歩き始めるようになる。
なのにギルとくれば…
「んぅ……っく……はぁぁっ!」
秘裂に指を這わせて恥骨を刺激して絶頂に達するのはいつもの事だ。
ただ、最近はずっと私の右手が相手をしている。
帰ってこないのだ、ギルが。
「はぁ…はぁ……もう少し…もう少しの辛抱だ…」
ギルは、仕事の関係で遠方での短期間勤務が決まった。
視察を兼ねた物なんだそうだが、その勤務地がどうにも遠く、魔界があって、私の領土があって、クライザットという国があって、その隣のレスカティエと呼ばれる国にまで出向いているんだそうだ。
魔物娘もそうだが、あちらはドでかい宗教国家だと聞く。
変な宗教に掴まったりしていないと良いのだが。
あぁ、そんな事を言ってギルの事ばかり考えているとまた膣の奥が疼く。
「あと少しすればギルが…はぁ…っはぁ…」
そう、ギルからの便りによれば、あと2.3日でこちらへ帰って来られるらしいのだ。
遠方勤務を終えて帰ってきたギルは疲れているだろうから、優しくもてなしてやろう。
ピュア達とも既に5人だけでのひっそりとしたおかえりなさいパーティーの準備を進めている。
疲れた体には甘い物が良いと聞くし、森の方で美味い果実でも採って来てやらねば。
「あぁ…ギル……」
帰ってくるのが待ち遠しくて仕方ない。
だからと言ってセシアの世話を怠る訳にはいかないが。
あぁ、はやく明後日になってギルをこの手で抱きしめたい。
そんな事を考えながら、夢路に就くとしよう。
きっといい夢が見られますように…
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「………す……ありすっ…」
あぁ、やはり夢に出て来てくれたか。
聞き覚えのある声で、聞き覚えのある愛称を呼んでくれる彼が、私の目の前にいるのが分かる。
嗅ぎ慣れた匂いは隠し切れない汗の匂いが彼の疲労度合を教えてくれる。
妙に息が荒いようだがどうしたのだろうか?
「きもち…いいよっ…ありすぅ!」
いや、これはちょっとおかしい。
確かに私はギルとの逢瀬を望みながら眠りに付いた。
だが、これは逢瀬と言うよりは一方的な淫行。
強姦となんら変わりないではないか。
「ぐちゅぐちゅって…ほら、聞こえるかい、アリス?」
夢の中では痛みや快感は鈍化すると言うが、それにしたっておかしい。
まるで、現実の出来事のようなリアルさがある。
眠っている場所も同じ私の部屋なら、ベッドに備えられた小さなテーブルの上に置かれた食べかけのリンゴにしたって同じ。
普通の夢でここまで再現度の高い夢が果たしてあるだろうか?
「ほら…いつものお返し…してあげるよっ!」
ぐっ!
首筋に噛み付いただと?!
首の肉を噛みちぎるつもりなんじゃないかと思う程強く、噛みついてくる。
幸い、私の身体はその程度では血は出ないが、それにしても痛い。
ギルよ、どうしたと言うのだ。
「うぅん、流石に食い千切れはしないか…でも、これはどうかな?」
さっきから何を言っている?
それに、私はどうして身体を動かせないだけでなく声も出せない?
意識は確かに覚醒しているはずなのに、瞼をわずかに開くのが精一杯ではないか。
「おっ! キュンキュン締まってきた…こっちももっと締めてあげるよ…」
やめろ!
腰を突き入れながら首を締めたりしたら息が出来ずに死んでしまう!
苦しさにもがこうとしての反射的な行動からか、私の眼だけは自由になったようだ。
ギルの瞳に生気が宿っていない?!
「あぁ、起きちゃった? でも、もう少し我慢してね。ゆっくり死ねるようにギューってしてあげてる所だからさ」
頭にだんだんと血が通わなくなっていくのと反比例するように、意識はどんどん覚醒していく。
それではっきりとわかった。
これは夢や幻なんかではなく、現実に起こっている事だ。
「指から伝わってくる脈がどんどん弱くなってる…そろそろ逝くんだね? とびっきりの絶頂を味わってよ!」
「かはっ!」
やっと喉も自由になったが、こんな状態では言葉の一つも発せやしない。
おおよそ人間かと疑いたくなるような握力が私の首を殺してやると言わんばかりの勢いで締め付けられる。
それと同時に、本当にギルの逸物なのか疑いたくなるほど大きなモノが私の膣奥まで捻じ込まれているのも分かった。
「やっ……ギッ…」
「やめてくれって…? ダメだよやめたりなんかしちゃ。面白くないでしょ? ホラホラ、逝く所見せてよ!」
ダメだ、だんだん目の前が霞んできた。
ギルの顔もぼやけていく。
何も考えられない。
「うっひゃぁ…どんどん締まってく……出る…出る、出すよぉ…うぅ!」
「あっ……が…」
子宮へ直接精液を流し込まれ、頭が真っ白になっていく。
いや、これは快感でと言うよりは窒息によるものかもしれない。
最後に見るギルの顔が、とんでもなく歪んだ顔だなんて、私は嫌だ。
そう、イヤだ。
「ふぅ……もう死んだかな……よっし、死亡確に」
「ふざけるなよ、童が…」
誰がこの程度で死ぬものか。
普通なら死んでもおかしくないかもしれないがな、普通なら。
おっと、逃がすと思ったか。
ギルには少し悪いが、同じように首を掴んでその場に留めてやろうではないか。
「ぐ…がっ……なんで…死んで…」
「貴様のような小童が、私をやれると思ったか、馬鹿者め…」
どうやら、変身魔法の類では無いようだ。
身体自体はギルそのもので、これは人格を乗っ取ったりする類の魔法だろうか。
何にしても、本人を差し向けて自分はそれをどこかから覗き込んで高笑いしている時点で性質が悪い。
「まず、どうして本物か分かったか、だが…これは簡単だ。 小童の方から教えてくれたではないか、ほぉれ…」
もうすっかり動くようになった身体で、すっかり萎んだ逸物を腰から抜いて答えを見せてやる。
そう、精液だ。
ギル以外の男が吐き出す精液など汚物以外の何物でも無い。
そんなものをもし流されて居たら、私はそうだと分かった瞬間にその首を刎ねてやる。
穏健派の吸血鬼?人と接したがる変質者?そんなものは関係ない。
私とギルの仲を引き裂こうとする者が居るならば、その魂ごと滅してくれるまでの事。
何より、精液の味どうこうよりも私がギルを見間違える筈がない。
「それにしても、男の射精の感覚はどうだった?」
「っ?!」
「小僧かと思えば、貴様小娘か…」
射精された時の腰遣いの覚束なさから、女性経験が無いか浅い者だとは思った。
後はこうやって問答してやれば、性別の差異くらいは見破れる。
「「小娘」「魔術、それも人格の上書きが出来る魔術師」「嗜虐性癖の強い者」「ギルの帰り道にある街にいる」ここまで絞れば、ほとんど候補は絞られよう?」
「ぐっ……こ、こうなればこの男を…」
「やはり浅はかな娘だな……あぁ、ここか」
このギルに憑りついた小娘、相当の馬鹿だったようだ。
ギルを人質に自爆でもしようとしたのだろうが、実に愚か。
首筋の、ギルにいつも噛み付いている場所が仄かに光っているのを見つけた。
これが、ギルの人格を封じ込めて身体を操っている魔法陣だろう。
「もし見ていたなら、覚悟しておくのだな、小娘…」
「や、やめ」
いつものように舌で軽く舐めてからでなくいきなり噛み付いてしまうが、ギルなら許してくれるだろう。
噛み付き、牙で以て魔法陣を破壊する。
噛み付くのを阻止しようとしていたギルの腕も、魔法陣を破壊してしまえばすっかり力なくダランと垂れてしまった。
せっかくだ、噛みつきついでにギルの血をいくらか飲んで置くとしよう。
「んっ……ちゅるっ……はむはむっ……っ! ぷはっ…いけないいけない、美味しくてつい飲み過ぎてしまう所だった…」
涎のように垂れる血を指で掬って舐め取る。
それだけでも、舌に触れるギルの血がまるで麻薬のように心地良い舌触りを齎してくれる。
思わず蕩けてしまいそうになるが、今はそれどころではない。
「やれやれ…」
「……うぅ…」
おお、どうやら起きたようだ。
思い切って血を少し吸い過ぎてしまったような気がするが、死ぬような事はないだろう。
……うん?
ギルめ、まさか吸血された刺激だけで射精してしまったと言うのか?
私の腹に精液が掛かってしまっているではないか。
というか、私も気付かなかったのか。
「あ、あれ…アリス…?」
「ギルめ、やっと起きたか…」
この時の私は、一体どんな顔をしていたのだろうか。
久しぶりに啜ったギルの血の味に酔って蕩けた顔をしていたか。
彼を心配するあまり、ただでさえ血の気が引いたように白い肌を更に青白くさせていたか。
それとも、安心するあまりに表情が綻んでいたかもしれない。
まぁ、どれにしたって次の瞬間には怒りの表情に変わっていたが。
「ギル、貴様に聞きたい事がある…」
「ふぇ?! あ、アリス?」
私は、いつ頃からだったかは忘れてしまったが、ギルに対しての呼び分けをするようになっているらしい。
普通に接している時は「お前」だったり「ギル」だったりするのだが、怒っている時は「貴様」と呼んでいるらしい。
らしい、というのもギルが長期勤務に向かう直前にしてくれた夜伽の際に教えてくれたことなのだ。
「魔術式の張られていた場所が気になってな…まぁ座ってくれ」
座ってくれ、と言いはしたが促すような優しい物じゃない。
元から互いに支え合うような形で膝立ちになっていたのを突き飛ばして座らせた、と言う方がいくらか正しい。
「ま、魔術式…?」
眼が…逸れた。
右上へ視線が逸れる。
「あぁ、丁度この首筋の所に…」
「っ!? な、何もないよ?」
その通り、何も無い。
あるのは私が噛んで吸血した跡だけだ。
それなのに、ギルはまるでどこの事を言っているか知っているかのように手で隠して焦る。
ついでに言うと、瞬きが非常に多くなっている。
「? 何もない訳がないだろう? 私の噛み跡がある」
「えっ? あ、あぁ、そうだね。アリスが噛んだ跡がある」
呼吸が乱れる。
早口になる。
相手の言葉を反復する。
どれも、人間が嘘を吐く際、無意識に取ってしまいがちな行動の典型例だ。
まさか、ギルがそれらの全ての行動をとってくれるとは思わなかったが。
「それを塞ぐように術式が張られていたのだが……貴様、何をした?」
「あうっ…」
ギルが倒れたままの恰好であるうちに、私も姿勢を変えてギルの股間へ足を伸ばす。
本当に嫌がっているのなら手で払われていただろうが、ギルは私の足を受け入れてくれたようだ。
そのまま両足で挟み込むようにしてギルのモノを挟み込んでやる。
大きさこそ萎んでしまったが、まさかあれしきの事で精液を出し切ってしまっている訳ではあるまい。
「貴様の身体を乗っ取った小娘が、私を殺しに来たぞ? 追い払う事しか出来なかったのが残念ではあるが、貴様の救出はしてやったと言う訳だ」
「あぅ……はぅぁ! ぼ、僕がそんな事を…?」
自覚はないらしい。
人格を乗っ取られていたのだから致し方あるまい。
だが、私が気になっているのはそんな事ではない。
「あの手の魔術の行使に必要な行為がある…貴様、それが何か知っているか?」
「し……しらな…あうっ! 知らないよぉ…」
ならば教えてやろう。
人格を他者へ植え込む類の魔術に絶対不可欠な物があるのだ。
それは、術者本人の体液を塗り込む事だ。
ほとんどの場合は血を媒介にして行われるが、唾液や涙でも問題は無い。
ただまぁ唾液や涙の場合、成功率は低くなってしまうのであまりやりたがる物は居ないのだが、あの小娘は成功率よりも楽な方を優先したのだろう。
「へ、へぇ…そんなのがあった…はぅあ!!」
「っ! ……」
そっとギルのパンパンに膨れ上がったモノに絡めていた足の指を離す。
ねっとりとした液体が糸を引いて、もっとしてくれと懇願しているかのようだ。
まだギルを射精させる訳にはいかない。
「……や、やめちゃうの…?」
「真実を言えば…」
「分かった、言うよ!」
折れるのがあまりにもあっさりしていた。
いや、ここは欲望に忠実になっていたと言うべきか?
「帰り道の途中、貧困で苦しんでる少女と出会ったんだ」
「ほう…」
それが、ギルに私を襲わせた小娘という事だろう。
「途中、街と街の丁度真ん中くらいで野宿する事になって…」
「ふむふむ…ん?」
野宿…?
「身体が冷えて寒いから同じ寝袋に入れてくれって言われて…」
「……入れたのか?」
呆れてロクに言葉も出てこない。
「うん…それで、布団に入れた途端、あの子が積極的になってきて…」
「手口がまるっきり未婚の魔物娘のそれではないか…」
私が居たら、近づいてきた時点で追い返している所だ。
それなのにギルと来たら。
あまり人が良すぎると私の方が心配になってくる。
「それで……どこまで覚えているのだ?」
「や、やましい事は何もしてないよ!………多分」
今「多分」と言ったか!?
信じられん。
妻と娘が居ながら小娘に手を出してしまうなどと。
しかも貴様は貴族の人間だろう!
これが周りに知られてみろ、信用はガタガタになる事くらい誰にだって分かる。
「と、途中で気を失っちゃったんだ。首筋にキスをされてからの事は何も覚えてないんだ」
「なるほど、人格の移植はその時点で終了していたという事か…」
と、いう事はその時点でギルの意識は封印されたという事になる訳か。
「となると、どうやってここまで…」
「ふぐっ?!」
考え事をしながらであってもできるお仕置きを見つけたぞ。
思考回路をフル回転させながら、ギルを押し倒してそのまま顔に座り込む。
ギルの精子がまだ残っているかも知れないが、この際だ、綺麗にして貰うとしよう。
何、それは男がして貰うものだと?
そうか…だが止めん。
「んっ……はぁぁ…んっ…」
「っっっ……! ちゅるるるっ!」
ひゃうんっ?!
止めろっ?!?
恥骨を麺でも啜るかのように吸い取るなんて卑怯だぞ!
「いっく…だめぇぇぇぇぇ!!」
見ろ、すぐイッてしまったではないか。
少々汚いだろうが、イッたはずみで噴いてしまった潮を顔中に浴びてしまえ。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「……」
やれやれ、まさかギルの顔に座り込んで果てる日が来ようとは。
しかもそれが自分の寝室のベッドの上でだなどと…とんだ笑い話ではないか。
下着の一枚でも履いていれば良かったのだろうが、少し前まで操られていたとは言えギルに寝込みを文字通り襲われていたのだ。
薄手のパジャマを上だけ着て、後は裸同然。
着替えには丁度いいかもしれないな。
「んひっ…っ?! お、おいっ?! 離してくれっ?!」
まずいまずい、非常にまずい!
太腿を撫でられた時のゾクッとした感覚が、敏感だった身体を震わせてしまいある衝動に襲われる。
「尿意がっ! 来てるっ! そこまでっ!」
言葉が支離滅裂になってしまうあたり、私が焦っている事は分かって貰えるだろう。
そして問題はギルだ。
私が尿意を催していると分かるや否や、両腕で私の腰を顔面にしっかりと固定したまま離す気配が全くない。
舌で弄ってくるような事がないのが救いかとも思っていたが、息が内腿にあたるだけでゾクゾクとしたものが背筋を駆けて行く。
それは、私の尿意を促進させるには十分すぎると言う物だ。
「離しっ…はっ、はっ…離してっ……ギルぅ…お願いだからぁ…ふっ…ふっ、ふー…」
「ぷふっ!」
一体、この時の私はどんな顔をしていたのだろう。
尿意を必死に我慢する事だけで頭がいっぱいになっていた私の顔を見て、ギルは笑った。
とんでもない事をしてくれたものだ。
「っっっっ〜〜!!」
薄い泡の幕でなんとか決壊せずに済んでいたような物だったダムが、ギルの噴き出した事による振動の所為で全てが文字通り水泡に帰した。
ギルの拘束から抜けだそうともがいていた手も、途中からはギルの腕ではなくベッドのシーツを掴む。
じわじわと尿道から尿が出て行こうとするのがスローモーションのように感じられ、その時になって全てが後悔と共に流れ出てくる。
「あはぁぁぁ………」
厠でいつも感じているのとは何倍も異なる、尿意からの解放感と充足感。
気付かない内に流していた涙は、嬉しいとか悔しいとか、そんな短絡的な物ではない。
ただただ「恥ずかしい」
「おっと!」
背中があまりの気持ち良さにビクビクと揺れる。
それと連動するようにして動いていた腰が浮き、慌ててギルが顔を引っ込めたのが分かる。
どうせなら、いきなり引っ込めるなんて真似、止めて欲しかったものだ。
「はぁぁぁぁぁん!!」
放尿中という無防備も無防備な状態の中で、ギルの前髪が私の秘部を擽って来たのだ。
ほんの少し触れるかどうかと言う程の微妙な距離感。
だが、それ故に最大限の効果を発揮するとも言える。
私はまるで犬や猫が用を足すかのように屈んだ体勢のまま、嬌声と共に尿を垂れ流していた。
ブシャァと勢いよく噴き出した尿がシーツに次から次へと大きなシミを作ってしまう。
「あ…あぁぁ…ぁぁ…」
絶頂感と解放感の混ざり合った気持ち良さは、私の意識をグチャグチャにしてしまうには十分過ぎた。
全てを流し切った私は、そのまま力尽きるようにしてベッドへ倒れ込む。
気が付けば、ギルは腕の拘束を解いて私から離れていたようだ。
こんな恥ずかしい体勢になるのは、一体いつぶりだっただろうか。
セシアを産む時だってこんな体勢にはならなかったぞ。
「ふぅ…アリス、大丈夫?」
全く、これではどちらがお仕置きをしていたのか分からないではないか。
きっとどんな方法でお仕置きしようとしたとしても、ギルが優勢になってしまうのだろう。
ヴァンパイアとしては恥ずかしい限りだ。
「はぁ、はぁ…っ、お前と言う奴はぁぁ…」
今、ギルの事を「お前」と言ったのか、私は。
いつの間にか怒りは甘えに変わってしまっていたようだ。
私の心も、ギルを責める事よりもギルと共に居られる喜びを優先していた。
当たり前だ、愛する者がやっと帰って来たのだから。
「あっははは…ごめんよ」
「ひぎっ!」
謝りながら、流れるように胸を揉むなど何を考えているのだ。
あまりにいきなりすぎた所為で母乳が噴き出してしまっているではないか。
いや、待ってほしい。
何か物音が聞こえた気がしたのだが?
「あー…」
「っ?! ギル、見ているか?」
「あぁ……飛んでるね…」
目の前の光景に、私は自分の目を疑った。
両手をばたばたと動かし、どこから生えてきたのか小さな翼と魔力での浮力を使って、私の娘が浮いていた。
時折、この子は天才なんじゃないかと思う事もあったが、もしかすると本当にそうなのかも知れない。
「あーう!」
「おお! ここまで来れたのか!」
「凄い!」
ゆっくりとではあったが、見守る私の胸へ一直線に飛び込んできてくれた。
ふわふわと浮かぶように飛んでいたからか、体重はほとんど感じない。
まぁ、飛ぶ事を止めたらちゃんと体重を感じるようにはなったが。
「これは…このまま本当に天才になってしまうのではないか?」
「良かったねセシア…あっ」
「ひぎぃ!」
すっかり忘れていた。
胸をさらけ出していては、飲んでくれと言っているようなものではないか。
しかも丁寧に甘噛みするようにして母乳をねだってくる。
「おっ、それじゃパパも…」
「なっ?! お前、何を考え…んひぃぃ!!」
それから、二人がかりで責められ続けた私は朝になってピュアが起こしに来てくれるまでイキっぱなしだったらしい。
正直な所言うと、セシアに「これが夫婦のセックスだ!」とギルが私を突き始めた頃から記憶が殆どない。
ピュアに起こしてもらうと私は、ベタベタしたものに身体中を濡らして床に倒れ込んでいたんだそうな。
因みにギルはと言えば、飲酒時のテンションのようなものだったのを放置したまま一緒に寝たのが祟ったか、丸一日は二日酔いのような症状に襲われていたんだそうな。
セシアは私の腕の中ですやすやと寝ていたが、どうして全裸の上に精液をかけられていたのか…
単にセシアを抱えていた私にギルがぶっかけただけだと思いたい物だ。
それから、時は過ぎて行く…
思えば、あれ以来私への攻撃的なアプローチが無い。
何かの前触れでなければいいのだが…
つづく
17/06/18 12:41更新 / 兎と兎
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