連載小説
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第九話 隠されると、余計気になって探したりしません?
 どうも皆様ごきげんよう。
 え、いつものアリスではないのかですって?
 はい、私は娘のセシアですわ。

「……ふっ……っ」

「……んっ……ぅ…」

 少し「めた」な話になってしまいますが、前話からかれこれ6年ほど経過しております。
 お母様が心配なさっていたような、どこぞの刺客などからの攻撃的なアプローチは全くなく、平和な日々をこうして送っている訳ですが。
 全くどうして、これは平和ボケしていると言わざるを得ないのではないでしょうか。

「んっ……だめだっ…セシアも…ひぅ…いるのだぞ…?」

「大丈夫だよ……ちゅっ…それに、ぐっすり寝てるじゃないか…ほら、こんなに濡らしてる…」

 どうやらお二人とも、私の狸寝入りに全く気が付いていないご様子。
 薄目を開けて見てみれば、同じベッドの中で、私を余所に二人が新婚カップルか磁石のような物であるかのようにくっついてモゾモゾしているのが丸見えではないですか。
 起きてお仕置きをとも思っていますが、私はそんなに短絡的な女性ではありません。
 期が熟すのを待つのも、また楽しみの一つと言う物ですよ。

「そんなっ…はうぅ……これはお前が弄るからっ…」

「アリスは欲しがりさんだからなぁ…ここも相当欲しがってるように見えるけど?」

「あっ…ふわぁぁ…」

 いつも思うのですが、何故私は両親と一緒のベッドで寝かされているのでしょう?
 ここは仮にもお屋敷…いいえお城です、余った部屋などいくらでもあるでしょうに。
 考えられる理由で一番可能性が高いのは、こうして二人が致している場を私に見せつけて『お勉強』させているというものですが…

「んぅぅ…」

「「っ!?」」

 ちょっと寝返りを打てばびっくりして行為を中断してしまうあたり、その可能性は薄いのかもしれません。
 では、どうして私は隣で寝かされているのか?
 その理由はきっと…

「……ふぅ…このドキドキ感、たまらないよね」

「バカを言え…セシアが可哀そうでは…んぅっ!」

 理由が確定しました。
 お父様の下卑た心の部分が私を夫婦の愛の巣に縛り付けているみたいです。
 まるで、発情したウサギみたいな両親ですね。

「ほぉら…いくよ?」

「……うん…っ!」

 やれやれ、としか言いようがありません。
 ついには本格的な性行為にまで及んでしまっているのですから。
 それも娘の目の前で。
 もう一回唸ってみましょうか。

「んっ…ふっ! ふぁ! ぎるっ! しゅごいぃっ!」

「うんっ! 僕もっ! 気持ちいいよっ! すっごい締め付けっ!」

「わかりゅっ! ギルのがおくでっ! びくんびくんってぇ!」

「アリスのもっ! きゅんきゅん締めてきてっ…うあぁぁ!」

 大人のSEXというものはこんなにも激しいものなんでしょうか。
 6歳の私にはまだ分かりませんが、ただ一つ言える事があります。
 非常に喧しい。
 二人が身体を揺らす度に軋むベッドは勿論の事、腰を振る度に喘ぐ声が耳障りです。

「うるさいなぁ…」

「っ!? あっ…」

「んはぅ!」

 本当に、いや本当に五月蠅いのです。
 例えるなら珍獣を見つけて狂喜に騒ぐカップルのような、害獣を見つけて狂気に騒ぐ無力な人々のような。
 キャーキャーと耳に響いて、これじゃ私が本当に寝ていたとしても起きていたでしょう。
 さらには鼻を刺激するこの独特な匂いは。

「………出しちゃったんですね? ドピュって」

「……あっはは…」

「はうぅ…」

 流石にこれまで数えきれないほど嗅いできた匂いなんです。
 お母様の膣内にあってもその匂いが完全に遮断できるものではない程に強いその匂い、もう覚えてしまっていますよ。
 甘く蕩けてしまいそうな、甘美で背徳的なその匂い。
 精なんて呼ばれてるそうですが、私にはまだよく分かりません。
 それを欲しがる本能があるのは分かるのに、どうして欲しがるのかは分からない。
 まぁ早い話、私にはまだ早いお話という事ですね。

「………お父様、お母様、何してるんです…?」

 私にとってはもう分かりきった事ですが、あえて聞くのが二人にとっては一番よく効く事でしょう。
 何を聞いているんだこの娘は、みたいな顔をされても引きません。
 お父様とお母様の口から、しっかりと説明して貰いたいのです。
 やれ「母様が夜泣きしていたから慰めていた」だの「父様が怖い夢を見たらしくて」などと誤魔化されても、もう騙されません。

「こ、これは……あ、アリスが急に血を吸いt」

「お仕置きです」

 また誤魔化すのは、どうも私の癪に障るのです。
 子供をそう何度も同じような言い訳で騙せると思ったら大間違い。
 そんな考え方をしているお父様にはお仕置きの一つでも叩き込まなければ。
 ここはひとつ、お母様から教えて貰った魔法でも叩き込んであげましょう。
 お父様の素肌に触れて、そこから電流を叩き込んでやるのです。

「いぎっ!」

「んんぅ!!」

 これは驚きです。
 お父様にお仕置きをする筈が、お母様にも飛び火してしまったご様子。
 でも私は止めようとは思いませんよ。

「せし…あぁっ!!」

「はぁん! ぎ、ぎる…でてる…」

 どうやらこの電撃のピリピリとした刺激でお父様はまた精をお母様へ叩きこんでいるようです。
 お母様はお母様で甘い声と蕩けた顔が非常にだらしないではありませんか。
 元は魔界の領主だったそうですが、少なくとも今の顔からは想像もできませんね。
 お母様にもお仕置きが必要なようです。

「……えい」

「ひぐぅ!」

「ひゃっ! せ、せしっ…はぁぁぁん!!」

 甘い声を聴いていると、私までなんだかえっちな気分になってきてしまいます。
 私までそんな気分にさせるなんて、これはまだまだお仕置きが必要なようで。

「えいっ……えい」

「きゅんっ……んんんぅっ!」

「あいだっ! あ、あり…すっ! そんな強く噛んじゃ…うあぁぁぁ!!」

 …なんだか面白くなってきました。
 電撃をパチリと当てるだけで、抱き合うお父様とお母様が喘いで気持ち良さそうにしているのを見ていると、なんとも言えない気持ちになります。
 しぎゃくしん…でしたか?
 まぁ、言葉などこの状況ではどうでも良いのです。
 お母様がお父様とより愛し合って、私も気持ち良くなれる。
 一石三鳥というやつではありませんか。

「………うふっ…」

「うあぁぁぁぁ!! セシアが下衆い顔…んほぉぉ!」

「あぁぁ! だめっ…アリスっ! 止まらないよぉぉ!」

 うぅん、あまりに濃い精の匂いに私も…あぅ…
 匂いにあてられてしまってだんだんと思考が緩くなっていきます…
 このままでは、心を押し留める事なんてとてもとても。

「はぁ…はぁ…せ、セシアっ! しっかりしろ、セシアっ!」

「あふぁ! あ、ありしゅっ! しゃせ…とまらなっ…とまらないぃぃ!」

「お前はもっとしっかりしろ!」

「きゃいん」

 あぁ…夫婦漫才が見れてよか…った…

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「……ぅあ…」

 いつの間にか気を失ってしまっていたようですね。
 最後まで二人の果てる姿を見届けられなかったのが残念ですが、それは私がまだ丈夫でない証拠。
 悪いのは私であって両親ではないのです。
 まだまだ精進しなくては。

「……はぁ…」

 目が醒めて、誰も居ない寝室をいつもと同じルートで歩き顔を洗って服を脱いで着替えて髪を整えて部屋を出る。
 自分で歩き回るようになってから一体何回同じ事を繰り返してきたでしょうか。
 廊下で犬か猿のように盛っているピュアさんは、きっと傍まで行っても私に気付かず夫のシュリヒトさんを喰らいそうな勢いで腰を振り続けるのでしょう。
 なんと教育上よろしくない事か。
 まあ私達が言えたことではないのでしょうけど。

「はぁ…はぁ…んっ……いいっ! これいいのぉ!」

「ここ…? ここがいいんだね? うぁ!」

「うんっ! そこぉ! もっといっぱいぃ! しゅきぃ!」

 二人の致している場所から私の居る所まで少し距離があるというのに、二人の嬌声がここまで聞こえてくる…と言う事は、相当喧しいと言う事なのでしょう。
 これはお仕置きを与えた方がいいかもしれませんね?
 今回のお仕置きはどんな物にしてあげましょうか。

「あっは! でてるぅ! びゅるびゅるってでてるぅ!」

「うあぁ! し、絞られるぅ…」

 どうやらひとしきりヤり終わったようですね。
 そのまま作業へ戻ってくれたなら私も見逃す所なんですが。

「ね、もいっかい! もーいっかいしよ?!」

「はぁ…はぁ…ち、ちょっと休憩…」

「だぁめ! ほぉらもっかい大きくして? あは! お腹の中でビクビクしてるぅ!」

 どうやらもう一回戦おっ始めるようですね。
 これはお仕置きが必要でしょう。

「よーし……あれ? う、動けない…?」

「拘束魔法です。 本来であれば魔法で手錠とか作る物なんですが、お二人は既に重い枷で繋がってますので」

「い、イノセンシアお嬢様…っ?! ピュア、締まるっ?!」

 「きじょーい」って言うんでしたっけ?
 馬に乗ってるような恰好で致すんだとか。
 そう言えば前にお父様もお母様に乗られて致していた事がありましたっけ。

「そ、そんな事いっても…いちばん奥までずんずんって…ふぁぁ?!」

「確か、尻尾の付け根…でしたっけ?」

「や、お嬢様やめ…んひぃ?!」

「ぐっ…キツすぎ……ま、また出るっ!」

 二人して背を反らせて、本当に可愛らしい。
 ピュアさんもシュリヒトさんも、子供みたいな容姿だからでしょうか?

「やらっ! いっひゃう! あにゃたぁ! いっひょにいこぉぉ!」

「もっと締まって…も、もう…むりぃぃぃ!!」

 一番奥まで挿入した状態で拘束しているので腰は振れていませんけど、ピュアさんはサキュバス。
 挿入しているだけで相当な快感をシュリヒトさんに与えているのでしょう。
 後は私が尻尾を扱いてもうひと押ししてやれば…

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

「くひぃぃぃ!!!」

 我慢の限界など容易く壊してしまえるのです。
 それにしても凄い勢いの射精ですこと。
 耳を澄ませている訳でもないのに、ハッキリと射精する音が聞こえるだなんて。

「はぁ…はぁ…れてるぅ…」

「うぅ……だ、だしすぎた…」

 お二人とも満身創痍のようですし、ここは回復魔法の一つもかけてあげましょうか。
 そう言えば回復魔法と言えば、お母様からの宿題の一つが回復魔法の練習でしたね。
 ちょうどいい実験サンプルが二人揃って疲弊しきった状態でいるじゃありませんか。
 ここはひとつ、彼らには実験台になって貰うと言う事で。

「お二人とも、動かないでくださいね…?」

「う、うごけまひぇーん」

「ぼ、ぼくも…です…うっ」

 それは何より。
 準備も完了した事ですし発動してしまいましょうか。
 この名もなき回復魔法を。

「さ、どうぞ」

「あ…ありがとうございま…っ?! だ、だめっ…ぴゅあぁぁぁぁ!!!」

「んひぃぃぃ!! いっぱいぃ! いっぱいきてりゅにょぉぉぉ!! らめぇ! しょんなにはいんないひぃ! はいんないにょぉぉぉ!!」

 いきなりシュリヒトさんがピュアさんを抱きしめたかと思えば、大量の精液が二人の繋がりから溢れ出てまるで噴水のように吹き出て来ました。
 これはいくらなんでも量が異常過ぎるのでは…?
 ピュアさんの方も、精液がお腹に入り過ぎて赤ちゃんがいるんじゃないかという程に膨らんでいますし。
 これは……失敗でしょうか。
 とりあえず拘束魔法は解いておくことにしましょう。

「あ……あ…あっ…」

「……」

 お二人とも、快感が強すぎて失神しているようですね。
 これは少々やりすぎたような気がします。
 ごめんなさい、二人とも…

「……ごめんなさい…」

 疲弊しきって動けない二人を浮遊の魔法で浮かばせて、二人の部屋へ運んであげます。
 こうなってしまった原因の一端は私にあるのですからこうするのは当然の事。
 ちゃんと二人の部屋に運んで、ベッドに寝かせて布団をかぶせておやすみなさいを言って静かに部屋を去るのです。

「さって…と」

 空を見れば、まだまだ太陽があんなに高い。
 気温も心地良いくらいですし、お散歩なんて良いかもしれません。
 昨夜から周りの人たちが色めき立って、それが私にも。
 この言い表せない何とも言えない気持ちを紛らわせるためにも、お散歩と洒落こみましょう。

「お父様とお母様、どうしてるんでしょうか…」

 なんて思いながら、お城の門をくぐって外の世界へ。
 漂う空気にお父様とお母様を感じながらの散歩は、なんだかとっても気持ちがいいもので。
 心が安心しきっている、とでも言いましょうか。
 言ってしまえば、隙だらけな訳でもありますが。

「お仕事中にあんな事をしていないといいのですが…きゃんっ!?」

 両親を心配していた上で、背後からの衝撃に倒れてしまいました。
 何かと思って振り返ってみれば、そこに居たのは一匹の大型犬。
 私の背丈ほどもありそうなその犬が、私に飛びかかってきたのです。

「いたた… な、何ですの…んひゃっ!」

 犬は愛好の印に顔を舐めて来るというそうですが、私は顔を舐められるなんて初めてでした。
 ペロペロと顔を舐めてくる犬は、尻尾をパタパタと振りながら私の顔を一生懸命に舐めてくるのです。
 走ってきたからなのか興奮しているのか、荒い息が動物臭い匂いと共に私の鼻を劈くのは、とても不愉快。
 けれどその犬には何の罪もない訳で。

「や、やめっ くすぐったいですわっ!」

 結局、舐められる事を良しとしてしまうあたり、私はまだまだお子様なのでしょう。
 押し退けて犬を追っ払う事も出来たでしょうに。
 正直な所、私と同じかそれより大きいような動物を追い払えるのか不安ではありましたけど。

「はぁ…はぁ… ?…どうしたんですの?」

 顔を必死に舐めまわすのを止めたかと思えば、今度は私の身体に這わせるように鼻を擦り付けて来ました。
 ふんすふんすと鼻を鳴らして、まるで何かを探しているみたいに。
 様子を嫌がらずに見守ってみようという好奇心を持ってしまったのが運の尽きだったと言えましょう。

「ねぇ… っ?! んっ…やめっ…あぁっ!」

 暫く匂いを辿っていた犬は、いきなり止まったかと思えば私のスカートの中に顔を突っ込んできたではありませんか。
 しかもこの感じ、ただ匂いを嗅いでいるだけではない。

「はっ…んぅっ…」

 匂いを嗅ぎつつ私のお股をペロペロと舐めまわしてくるではありませんか。
 なんというエッチな犬でしょう。
 まだどんな殿方にも許してなんていないのに、まさかこんな犬畜生が最初になってしまうだなんて。
 抗おうにも、気持ち良さとかくすぐったさとかそういうのが纏めて襲ってきて動くに動けない。
 そんな私をこの犬は、好き放題に舐めまわすのです。

「やっ… やだぁぁ…」

 頭を押さえようにも、幼い私の腕力じゃ大きな犬の頭を抑え込むなんて無理な話でした。
 まして華奢な私には特に。
 しかもぐちゃぐちゃに舐めまわされて力が入らない事もあって、すっかり好き放題な状態。

「っ!? だめっ お…おねがい…これいじょ…はうぅ!」

 足を閉じようにも、犬の顔を挟みこそしてもその勢いが収まる事は無く。
 逆に頭が固定されて舌の動きがどんどん激しくなっていく一方。
 そんな中、急にこみあげてきた物を私が抑える事は出来ませんでした。

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 背中を反らせ、今まで感じた事のないような感覚に頭の中を支配されながらの絶頂。
 刺激に溺れて犬畜生に汚された、私の初めてのイキ方は、ド派手なおもらしでした。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 ひとしきり尿を噴き出しきった私がぐったりしている所へ、犬はまだまだ足りないとばかりに息を荒げてこちらを狙っているようでした。
 その腰にぶら下げた、人間の男性とは比較しようもないほど悪辣で悪臭を放つ異形の逸物を揺らしながら。
 私は、この犬に犯されてしまうのか。
 恋をし愛し合った殿方との逢瀬で散らすべき花びらを、今此処でこんな犬畜生に無理矢理奪われるのか。
 そう思ってしまうと、手も足も竦んで動けなくなってしまいました。

「いや…… そんな…いや…」

 私を完全に服従させたと思ったのでしょう。
 犬は私にのしかかって来て、その腰をどんどん私の大事な場所へと近づけて行くのです。
 嫌だ、やめろともがこうにも手足は竦んで動けないし、魔力のコントロールも出来ていないのか、静電気の一つも起こせやしない。

「たすけて… おかあさま…」

「よかろう」

 もうだめだ、そう思った時でした。
 私を食らってしまおうと襲い掛かる犬畜生は、一瞬で吹き飛ばされていたのです。

「お母様っ!?」

「大丈夫か、セシア?」

「大丈夫じゃないです。危うく犬畜生のお嫁さんにさせられる所でした!」

「犬畜生って… ギルよ、セシアの未来が心配だぞ私は…」

 お上品に言葉を飾っている余裕なんてないんです。
 それはお母様にも分かって欲しいものでした。
 あんなに獣よろしくどこかしこでお父様とイチャイチャと…しかも私の前ですら致す始末。
 けれど、今のお母様はそんな事忘れさせてくれるような頼もしさを持っていました。

「全く… あんなワンコロに襲われているようではシュテリウムの名が泣くぞ?」

「うぅぅ…」

「それにこんなにおもらしして…」

 あぁ、私が盛大に漏らしてしまった所をそんなにマジマジと…
 見られるだけでも恥ずかしいというのに、そんな指摘までされるだなんて恥ずかしくて死んでしまいそうです。

「しかも、襲われているのがただのイヌコロではないと来た」

「…ふぇ?」

 あの犬がただの犬で無いと言うのなら、なんだと言うんでしょう。
 助けに来たお母様に吹き飛ばされて森の樹に激突して、でも倒れないその犬は。
 ちょっと頑丈な犬だったでは済まされないその強度は確かに普通の犬ではないという証明になりました。

「これは私に対する宣戦布告と見ていいのか?」

「お母様…? 犬相手にお喋りなんてそんな」

『…ふフふ… ばレてしまイマしたカ…』

 喋った?!
 今あの犬、喋りませんでしたか?
 しかもなんだか発声に慣れていないようなぎこちなさで。

「どこの誰かなど知らんし興味もない。 だが、我が愛する娘に手を出した罪は万死に値すると知れ」

「っ?!」

 ただ抱えられているだけでも分かる、分かってしまう。
 今までに見た事が無いようなお母様の怒りの感情。
 その覇気だけでも私なんて殺せてしまいそうでした。
 お母様にこんな一面があるだなんて知りませんでした。
 これからはなるべく怒らせないようにしなくてはいけませんね。

『おォ…こワイこワイ』

「何が目的かは知らんが、探知は済んだぞ、いつぞの小娘」

 どうやらお母様のお知り合いのようですね。
 恨みでもあったんでしょうか。
 犬をけしかけて私を襲うよう仕向けるなんて回りくどい真似をするなんて。

『っ!? こノ…魔女メっ!』

「私はヴァンパイアなのだが…まあいいか。 言いたい事はそれだけか? ではまた会おう」

 あ、お母様、どうして目を隠すんですか。
 別にあの犬を見ていたかったとかではないですが、隠されるとそれはそれで

グチャッ

「…えっ…」

「さあ、帰るぞセシア」

「お母様、今の音は」

「うん? 何か聞こえたか?」

 聞き間違いではないんでしょうね。
 目を手で隠されていて見えませんでしたけど、きっとあの犬はもう…
 そこまでする必要があったのか聞きたい所でしたけど、きっと答えてはくれないのでしょう。
 お母様は優しいから。

「お母様…」

「うん?」

「私、犬が嫌いになりました」

「仕方あるまい。 嫌いな物が一つ出来てしまったのなら、まずは一つ、新しく何か好きになれる物を探すがいい」

 嫌いな事を克服するのはそれからでも遅くない、と言ってくれたお母様の表情は、とても優しかったのを覚えています。
 実際、怖かったのも犬が嫌いになってしまったのも事実ですが、お母様の言葉で気持ちが楽になった気がしました。

「そうだな…好きな食べ物でも探すのはどうだ? ピュアの料理スキルを磨かせる事にもなるし一石二鳥だ」

「食べ物、ですか…?」

 なんて言ってくれたお母様でしたが…



「んゃっ…ギル…んふぅ!」

「アリス…あぁ、アリスぅ!!」

 お城に帰ってちょっとしたらすぐにコレです。
 愛に飢えているのでしょうか?
 愛に飢えている、というのが私にはまだ分からないですけど。

「はぅ…ま、まて…今はセシアが…はぁん!」

「セシア? あの子が覗いてるって? いいじゃないか、見せつけようよ」

「……ドン引きです」

 淫らで淫靡な私達ですが、今日も明日も明後日も、平和で愛に満ちた日々を過ごしていくのです。
 ところでお父様、「みだら」とか「いんび」ってなんですか?

つづく
18/11/02 19:55更新 / 兎と兎
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■作者メッセージ
大変長らく放置していてすみませんでした。
(ネタが見当たらなかったのと他方面で忙しい故)
どうかお許しください。

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