第二話 我が家の義姉妹たち
「はぁ、ただいま…」
アルバイトの時間を詳しく決めていなかったのも悪いと思うが、まさか閉店まで働かされるとは思ってもみなかった。
おかげで家の電気はもう消えて静寂だけが漂うばかり。
少し広めな家な事も相まって、なんだかお化け屋敷にでも迷い込んだような気分だ。
「うぅん……なんでよぉ…」
まさか家に帰ってきて早々、寝ていると思った家族と出会えるなんて。
まぁ、思いっきり酔い潰れてるけど。
彼女は僕の姉で、サキュバスのミナ義姉さん。
なんで義理だからと言って魔物娘が姉妹に居るかだって?そんなの答えは一つに決っている。
父は一夫多妻を勝手に実現させようと色々な女性とあんな事やこんな事をしていたらしい。
まぁ、それが祟ってか8年前に事故で亡くなったが。
「ミナ姉さん……ほら、早く自分の部屋戻って…」
「あっ……お帰りなさい、光定…」
彼女はミナ姉さんと同じく僕の姉さんでナイトメアのヒメア姉さん。
小説家を目指して日々執筆活動に明け暮れており、その為か家から出ることも殆んど無い。
その結果が、この病気と見えなくもないまでの肌白さである。
ナイトメア特有の馬体は黒主体だから肌白さが際立つ。
資料などを読むと、大概大鎌を持っているナイトメア種だが、彼女はそう言った類の物は所持どころか握る事すら出来ない。
本人いわく、「お茶椀より重い物なんて持てない」んだそうだ。
「ヒメア姉さんはもう寝なよ。どうせ寝てないんでしょ?」
ヒメア姉さんに限らず、姉たちの事は僕が一番よく知っているだろう。
なにせ、何人も居る姉妹の中で唯一の男なのだから、僕は。
「うん…そうする……おやすみ、光定…」
はい、ぐっすり休んで下さいね。
さぁ、次はこの酔いどれをどうするか…
「あぁ〜!ヒメア姉さんばっかり構ってもらってずるぅい!」
一体何を基準にずるいと言っているのだろう。
と言うか、ミナ姉さんは現在進行形で婚活中じゃなかったっけ?
と言う事は、またフラれてヤケ酒浴びていたな?
「はいはい、ミナ姉さんの部屋はこっちだろ?」
ミナ姉さんの部屋は、奇しくも僕の隣なのだ。
だから、婚活で上手く行きそうで上機嫌な時などは大きな声が僕の部屋にまで漏れてくる事も。
だからこそ、心の奥底では「早く夫作って旅立てよ」と思う僕がいる訳である。
「♪〜♪…あれ?お兄ちゃん、おかえり〜♪」
どうやら案外皆起きているらしい。
彼女は僕の義妹で末っ子のアスカ。
ニッコリ笑顔が良く似合う、とっても良く出来た妹である。
だがアマゾネスだ。
「あぁ、アスカ………」
「ねぇねぇ〜!わたしも構ってよ〜!」
「あぁ〜…ミナ姉さん、またフラれたんだ…」
ミナ姉さんの事は、家族の誰もが知っているだろう。
そりゃ、年に数十回のペースで彼氏作ってはフラれの繰り返しなら、もうこんなにヤケにもなるというものだ。
だが、薄い本的な「彼氏が出来ないから弟を食って彼氏にする」展開だけはやめてほしい。
まぁ、そう言う事を未然に防止するためのトラップが、僕の部屋にはギッシリな訳だが。
「いいよ、私が運んでおくから、お兄ちゃんはもうおやすみ」
それにしても、またアスカは身長が伸びたんじゃないだろうか。
僕の目の高さにアスカの目がある感じだ。
これでギリギリ小学生とはまるで思えない。
それにしても、このアマゾネスならではの怪力。
自分と同じ位の年の子ならば、酔い潰れた大人を引き摺って行くのも一苦労な筈なのに、アスカは肩に担いで運んで行く。
心の中で「文字通りのお荷物だなぁ、姉さんは」と思った僕にグッジョブと伝えたい。
「ふあぁ…それじゃ、部屋に戻って…」
「ただいまぁ…っても誰も……あれ?光定まだ起きてたの?」
「あぁ、シグレ姉さん…おかえり」
彼女は僕の義姉にしてこの家を支えている長女のシグレ姉さん。
現在は検事をしていて、時折家族の団欒中に仕事の電話一本で飛び出して行く事もある忙しい人だ。
どうやら今日の仕事も終わったらしい。
「私はもう寝るけど、お前はどうするの?」
言い忘れていたが、シグレ姉さんはワーウルフである。
当然だが、その腰からは尻尾の様な物が垂れていて時折左右に揺れている。
シグレ姉さんが働き始めた頃は、心の中だけで「警察の犬(笑)」とか言ってた僕だが、今では反省している。
「僕ももう寝たいんだけど…」
「そう、おやすみ…」
もう夜も遅いんだから、そりゃ寝た方が良いだろう。
そう言えば、何処からともなく「あれ?お母さん達は?」とか聞こえてきそうだから答えておこう。
母親達は、皆が皆父親と一緒に行って、全員亡くなった。
魔物娘としては、少々あっけない最後だったのかもしれないが、正直僕にはどうでもよかった。
なにせ…
「ふぅ、今日はなんだか色んな事が………まだあったのか…」
そこにあったのは、処分しきってもう無いと思っていた昔の写真だ。
その写真には、フリフリのドレスを纏った小さな少女がいた。
しかし、この少女は誰であろう僕である。
当時の自分程もある大きなウサギのぬいぐるみを抱えて、写真に撮られて少し恥ずかしそうにしている。
そう、父親は僕と同じく「小さい物好き」なのだから。
こんな趣味で染め上げようとしたのも父親である。
僕の母親は僕が生まれて暫くした時に居なくなったらしいし、下手をすれば姉たちも止めなかったかもしれない。
そうなっていたら、僕はきっと女装趣味の気持ち悪い青少年に育っていた事だろう。
そうならなかった事に関しては、本当に姉達に感謝しなければ。
「…後で処分しておくか……もちろん焼却で…」
そうして、写真をポケットに入れた僕はそのまま眠りに付く。
それが一番良い選択なのだろう。
というか、正直に言ってしまえば睡魔が圧倒的に勝っていただけである。
――――――――――――――――――――
そして、当然の様に朝はやってくる。
今日は土曜日で学校は休みだ。
しかし、そんな優しい時間は遠い昔に捨て去られていた。
プルルルルルッ…
「はい、爲葉ですけど…」
『あぁ、新入り……爲葉か?今日もバイト来いよ?』
「へっ?いや、僕土日はシフト入れてなんか…」
『安心しろ、私が組み直した。お前は土日どころか毎日働け。と、言う訳だから来いよ?』
それだけで、電話は切れてしまった。
「……これ、やっぱり昨日のがだめだったのかな…」
まぁ、反省しても今は遅い。
とりあえずはバイトに行こうか。
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アルバイトの時間を詳しく決めていなかったのも悪いと思うが、まさか閉店まで働かされるとは思ってもみなかった。
おかげで家の電気はもう消えて静寂だけが漂うばかり。
少し広めな家な事も相まって、なんだかお化け屋敷にでも迷い込んだような気分だ。
「うぅん……なんでよぉ…」
まさか家に帰ってきて早々、寝ていると思った家族と出会えるなんて。
まぁ、思いっきり酔い潰れてるけど。
彼女は僕の姉で、サキュバスのミナ義姉さん。
なんで義理だからと言って魔物娘が姉妹に居るかだって?そんなの答えは一つに決っている。
父は一夫多妻を勝手に実現させようと色々な女性とあんな事やこんな事をしていたらしい。
まぁ、それが祟ってか8年前に事故で亡くなったが。
「ミナ姉さん……ほら、早く自分の部屋戻って…」
「あっ……お帰りなさい、光定…」
彼女はミナ姉さんと同じく僕の姉さんでナイトメアのヒメア姉さん。
小説家を目指して日々執筆活動に明け暮れており、その為か家から出ることも殆んど無い。
その結果が、この病気と見えなくもないまでの肌白さである。
ナイトメア特有の馬体は黒主体だから肌白さが際立つ。
資料などを読むと、大概大鎌を持っているナイトメア種だが、彼女はそう言った類の物は所持どころか握る事すら出来ない。
本人いわく、「お茶椀より重い物なんて持てない」んだそうだ。
「ヒメア姉さんはもう寝なよ。どうせ寝てないんでしょ?」
ヒメア姉さんに限らず、姉たちの事は僕が一番よく知っているだろう。
なにせ、何人も居る姉妹の中で唯一の男なのだから、僕は。
「うん…そうする……おやすみ、光定…」
はい、ぐっすり休んで下さいね。
さぁ、次はこの酔いどれをどうするか…
「あぁ〜!ヒメア姉さんばっかり構ってもらってずるぅい!」
一体何を基準にずるいと言っているのだろう。
と言うか、ミナ姉さんは現在進行形で婚活中じゃなかったっけ?
と言う事は、またフラれてヤケ酒浴びていたな?
「はいはい、ミナ姉さんの部屋はこっちだろ?」
ミナ姉さんの部屋は、奇しくも僕の隣なのだ。
だから、婚活で上手く行きそうで上機嫌な時などは大きな声が僕の部屋にまで漏れてくる事も。
だからこそ、心の奥底では「早く夫作って旅立てよ」と思う僕がいる訳である。
「♪〜♪…あれ?お兄ちゃん、おかえり〜♪」
どうやら案外皆起きているらしい。
彼女は僕の義妹で末っ子のアスカ。
ニッコリ笑顔が良く似合う、とっても良く出来た妹である。
だがアマゾネスだ。
「あぁ、アスカ………」
「ねぇねぇ〜!わたしも構ってよ〜!」
「あぁ〜…ミナ姉さん、またフラれたんだ…」
ミナ姉さんの事は、家族の誰もが知っているだろう。
そりゃ、年に数十回のペースで彼氏作ってはフラれの繰り返しなら、もうこんなにヤケにもなるというものだ。
だが、薄い本的な「彼氏が出来ないから弟を食って彼氏にする」展開だけはやめてほしい。
まぁ、そう言う事を未然に防止するためのトラップが、僕の部屋にはギッシリな訳だが。
「いいよ、私が運んでおくから、お兄ちゃんはもうおやすみ」
それにしても、またアスカは身長が伸びたんじゃないだろうか。
僕の目の高さにアスカの目がある感じだ。
これでギリギリ小学生とはまるで思えない。
それにしても、このアマゾネスならではの怪力。
自分と同じ位の年の子ならば、酔い潰れた大人を引き摺って行くのも一苦労な筈なのに、アスカは肩に担いで運んで行く。
心の中で「文字通りのお荷物だなぁ、姉さんは」と思った僕にグッジョブと伝えたい。
「ふあぁ…それじゃ、部屋に戻って…」
「ただいまぁ…っても誰も……あれ?光定まだ起きてたの?」
「あぁ、シグレ姉さん…おかえり」
彼女は僕の義姉にしてこの家を支えている長女のシグレ姉さん。
現在は検事をしていて、時折家族の団欒中に仕事の電話一本で飛び出して行く事もある忙しい人だ。
どうやら今日の仕事も終わったらしい。
「私はもう寝るけど、お前はどうするの?」
言い忘れていたが、シグレ姉さんはワーウルフである。
当然だが、その腰からは尻尾の様な物が垂れていて時折左右に揺れている。
シグレ姉さんが働き始めた頃は、心の中だけで「警察の犬(笑)」とか言ってた僕だが、今では反省している。
「僕ももう寝たいんだけど…」
「そう、おやすみ…」
もう夜も遅いんだから、そりゃ寝た方が良いだろう。
そう言えば、何処からともなく「あれ?お母さん達は?」とか聞こえてきそうだから答えておこう。
母親達は、皆が皆父親と一緒に行って、全員亡くなった。
魔物娘としては、少々あっけない最後だったのかもしれないが、正直僕にはどうでもよかった。
なにせ…
「ふぅ、今日はなんだか色んな事が………まだあったのか…」
そこにあったのは、処分しきってもう無いと思っていた昔の写真だ。
その写真には、フリフリのドレスを纏った小さな少女がいた。
しかし、この少女は誰であろう僕である。
当時の自分程もある大きなウサギのぬいぐるみを抱えて、写真に撮られて少し恥ずかしそうにしている。
そう、父親は僕と同じく「小さい物好き」なのだから。
こんな趣味で染め上げようとしたのも父親である。
僕の母親は僕が生まれて暫くした時に居なくなったらしいし、下手をすれば姉たちも止めなかったかもしれない。
そうなっていたら、僕はきっと女装趣味の気持ち悪い青少年に育っていた事だろう。
そうならなかった事に関しては、本当に姉達に感謝しなければ。
「…後で処分しておくか……もちろん焼却で…」
そうして、写真をポケットに入れた僕はそのまま眠りに付く。
それが一番良い選択なのだろう。
というか、正直に言ってしまえば睡魔が圧倒的に勝っていただけである。
――――――――――――――――――――
そして、当然の様に朝はやってくる。
今日は土曜日で学校は休みだ。
しかし、そんな優しい時間は遠い昔に捨て去られていた。
プルルルルルッ…
「はい、爲葉ですけど…」
『あぁ、新入り……爲葉か?今日もバイト来いよ?』
「へっ?いや、僕土日はシフト入れてなんか…」
『安心しろ、私が組み直した。お前は土日どころか毎日働け。と、言う訳だから来いよ?』
それだけで、電話は切れてしまった。
「……これ、やっぱり昨日のがだめだったのかな…」
まぁ、反省しても今は遅い。
とりあえずはバイトに行こうか。
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12/11/05 18:04更新 / 兎と兎
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