連載小説
[TOP][目次]
旅28 実家のお店の手伝いや!
「帰ったでオトン!!大丈夫か!?」
「おお、花梨か…久しぶりだなぁ…」
「うわ…結構重症やな……でも生きとってよかったわ…」
「心配掛けたか…すまんな……」

現在17時。
カリンの家に辿り着いた私達…早速カリンは自分のお父さんの様子を見に行った。

カリンの家に行くまでの間、いったい何があったのかをカリンのお母さんである小豆(アズキ)さんに詳しくお話を聞いた。

どうやら数日前、商売の為に遠出をしていたカリンのお父さんは帰り道の途中で山の上から麓の辺りまで滑り落ちてしまったらしく、全身打撲で複雑骨折の重傷を負ってしまったらしい。
一応インキュバス化していたうえにすぐに山で生活していたカラステングさんが発見してくれたおかげか、命に別状は無かったようだけど…動けないので商売どころでは無くなってしまったらしい。

事実、今目の前にはカリンのお父さんが寝ているのだが、全身に包帯を巻いていて痛々しい状態である。

「はぁ…もう、オトンなんで滑り落ちたん?」
「いやぁ…早く小豆に会いたくて急いでいたから不注意で…」
「はぁ〜…そう思ってくれたんは嬉しいけどな…うちとしては梯梧(デイゴ)には出来れば元気な姿で帰ってきてほしかったわ…」
「う…す、すまん小豆……」

その為、今は小豆さんが一人でお店を切り盛りしているが…やはり一人では大変なのだとか。
だから今日みたいにカリンのお父さん…デイゴさんの看病で休んだりしており、お店が休みがちになってしまっているとか。

「まあ…しばらくはウチが店の手伝いするでゆっくり療養してや!」
「おう…すまんな花梨…」

なので、たまたま見つけたカリンにお店の手伝いをしてもらおうという事らしいのだ。

「礼はウチやなくてこっちに言ってや!」
「ん?その人達は…?」
「ウチと一緒に旅してた仲間や!!皆大陸行きの船が出るまで手伝ってくれるってさ!!」
「そ、そうか…ありがとうございます!!」
「いえ…困ってるようですので…」

もちろん、私達もカリンの実家のお店を手伝う事にした。
どうせ大陸行きの船は週に1回しか出ておらず、次に出るのは5日後なので、その間は私達も手伝おうという事になったのだ。

「それじゃあ明日から頼みますわ!やであんたらは今から案内する部屋を使ってな!夕飯出来たら呼ぶでそれまでゆっくりしといてな!!」
「うん、わかった!」
「あ、私手伝います!!」
「いや、ええよ。今日はお客さんってことでゆっくりしとって!でも花梨は手伝え」
「わかっとるってオカン…」

という事で、私達はしばらくの間カリンの家に泊まりつつ、カリンの実家のお店を手伝う事にした。



あ、そうだ……今までカリンのお父さんの事もあって聞き忘れてたけど、カリンには夜ご飯の時にいろいろ聞かないとな……




…………



………



……








「で、カリンは結局人間じゃないんだね?」
「……うん。人間やなくて刑部狸やよ……」

現在19時。
完成した夜ご飯のたぬき蕎麦を食べながら、カリンにいろいろと聞いていた。

とりあえず言える事は『カリンは人間では無く刑部狸』である。
その証拠に今カリンの頭には丸みを帯びた茶色い耳が、腰には太い狸の尻尾が生えている。

「修行のひとつでな…なるべく誰にも妖怪やってバレへんように人化の術の精度を鍛えとったんや…」
「なるほど…だからアタイ達にも秘密にしてたのか」
「そういうことや…まあ流石にリリムであるアメリちゃんにはすぐバレてもうたし、同族にも簡単にバレとったけどな…」
「同族?…ああ、あの時の刑部狸さんか…」

だからアメリちゃんとよくこそこそと喋っていたり、刑部狸さんとすれ違う時隠れるようにして歩いてたのか…

「すまんな花梨…うちのせいでサマリちゃんとスズちゃんにバレてもうたんか…」
「まあいつかは言ったほうがええかなと思っとったでええよオカン…タイミング的にもちょうど良かったんやしな…それよりなんでユウロはあの時やっぱりって言ったん?」

そういえばユウロだけアズキさんを見たときに「やっぱりか」って言っていた。
つまりユウロはカリンが刑部狸だっておおよそ見当がついていたという事だろうけど…なんでわかったのだろうか?

「ああ…まあ初めて会った時は人間だと思ってたけどな」
「えっ!?って事は旅の途中で気付いたん!?なんで!?ウチなんかミスしたか!?」
「おう、結構してたぜ?なんならいくつか言ってやろうか?」
「頼むわ…今後の参考にする」

どうやらカリンの行動や言動でわかったらしいが…なにかあったかなぁ?


「まず最初に疑問に思ったのは…というか、一番の原因は宵ノ宮での事だ。お前俺が人間の女性だと思って指差した女性の事を狐憑きだって言ったよな?」
「ああ、たしかに言った……あ…」
「狐憑きは無関係の人間にはわからないのになんでお前は狐憑きだってわかったんだ?俺には青白い耳や尻尾は見えて無かったんだぜ?」
「せやったな…あ〜あれはドジったわ〜…」

狐憑きって人間じゃあわからないんだ…初めて見たのが魔物化してからだから知らなかった。
たしかにあの時カリンは「あれは狐憑きや!!」って言ってたな…ユウロはその時にカリンは人間では無いかもと思ったのか。

「それから旅している間にもおかしな行動が多かったしな。わざわざ風呂を別にしたり、メーデさんの時だってメーデさんカリンが人間と言った時に首傾げてたしな」
「お、おおお…ユウロって意外と注意深く様子を観察するんやな…」
「意外とはなんだ意外とは」

今思えばたしかに変な話ではあった。
メーデさんの時もたしか何か言い掛けていたのをアメリちゃんが止めてたんだっけ…あれはたぶん刑部狸だよね?って言おうとしてたんだろうな…

「まああとはあまり信憑性の無いものだけど…普通の人間が手に入れられるとは思えないような物売ってたりとか、稲荷を異常と言える程嫌っているとこだな」
「ああ…まあたしかに冷静に考えれば虜の果実なんて人間は売っとらんか…」
「花梨あんたそんなもん堂々と売ったんかい…ユウロ君みたいに知識あるもんにはバレやすいから気をつけんとアカンで…」
「せやな…今後の参考にするわ…」

そういえばあの果実は魔界にあるって言ってたっけ…
魔界の業者と繋がっているって言ってたけど…冷静に考えたらそれこそ人間の女性じゃ難しいところだよな…

「でもな…稲荷の事はあんま種族関係ないで…事実オカンはそんな嫌ってないし…」
「え?そうなんですか?」
「ああ、まあうちは嫌ってまではおらん…ちぃとばかし気にいらんとこもあるけどな…」
「え、じゃあなんでカリンお姉ちゃんは稲荷さんきらいなの?」
「ああ…そういえば言って無かったか…あのな……」

そんなカリンは刑部狸だから稲荷が嫌いなのかと思ったらそうでもないらしい…
そういえば一人の稲荷が嫌いだと言ってたような気がする…なのでどうやら別の理由があるらしいのだが…

「実はな…ウチには男の幼馴染みがおったんやけどな…ウチそいつの事好きやったのに…初恋やったのに……」
「好きだったのに?初恋だったのに?」
「やのに…昔近所に居たほぼ同年代の稲荷の奴に…そいつとられた……」
「ああ……それは気の毒だな……」

なるほど…好きだった幼馴染みをその稲荷さんにとられたわけか…

「だったらカリンお姉ちゃんもその人に告白すればよかったじゃん。稲荷さんがいてもそのおさななじみの人のこと好きだったんでしょ?」
「…最初はそうしようと思ったよ…ウチがいつまでも好きやって言えんかったのが悪いんやしな…でもな……」
「でも?」

カリンは当時の事を鮮明に思い出しているのか、怒りで拳を強く握り身体や尻尾をわなわなと震わせている…

「あの稲荷の奴…ウチが押し掛けようと決めた日に…そいつとこの町からどっか行ってもうたんや!!しかもどこに行ったかわからへんように、追い掛けようにも追いかけられんようにしてや!!」
「ええ〜っ!?」
「ウチ慌てて探してみたけど見つからんかった…あの稲荷の奴見つけだら絶対シバいたる!!と思って探したのに見つからんかったんや〜…」

そして余程悔しかったのか、叫びながらボロボロと涙を流し始めた。
まあ形はどうあれ初恋の人を盗られ、挙句トンズラされたら泣きたくもなるだろう。

「しかもなぁ…その稲荷も店やっとったんやけど…ウチが考え付いたアイデアも何度か奪われ、そのまま客も奪われた事もあるんや〜……」
「あったなぁそんな事も…もうその稲荷の店は無いけどな…何度かお母さん謝りに来とったけど本人おらな意味無いしな…」
「それは…嫌いにもなるか…」
「わかってくれるかスズ〜!!」

そういえば前にもアイデアや客を奪われたって言ってたなぁ…
いくらなんでもここまでされたら嫌いにもなるか…


「まあカリンの謎は全て解けたし、やっとスッキリしたわ」
「ほんまにスマンな。今思えば皆には言っても良かったかもな…」
「いやまあカリンの都合もあるし、私は全く気にしないよ」
「そうか…ありがとなサマリ…」

まあとりあえずカリンが人間じゃない事や、どうして隠していたのかは分かった事だし、隠していた事をどうこう言うつもりもない。
一応カリンも泣きやんだし、夜ご飯の続きを食べて明日から元気にお店の手伝いをしますか。



あ、そうだ。
カリンに一つお願いがあるんだった。

「ねえカリン…」
「ん?なんやサマリ?」
「その尻尾…触ってみていい?」
「…なんでいきなり?」
「いや…気になったから」

カリンが人化の術を解いて出てきた尻尾を見たとき…ちょっと触ってみたいと思ってたんだよね。
なんか私のと違って太くて大きいからどれだけもふもふしてるか気になるんだよね。

「まあええけど…あんま強く握らんでな」
「やった!じゃあ早速……」

カリンからの許可も貰ったから早速触ってみよう!



もふっ!



「…おお!思ったとおりのもふもふ感…!!」
「なんやそれは…まあたしかにこの尻尾はウチの自慢でもあるけどな」

当たり前だが私の毛とはまたちょっと違った柔らかさもあり気持ちいい。
本人がするなって言うからしないけど、思わずギュッてしたくなるほど心地良い肌触りをしている。

「アメリも触ってみたい!!」
「ええけど強く握ったりせんでな」
「…さっきから強く握るなって言うけどなんで?」
「……だって性感帯やもん……」

まあ尻尾が性感帯なら仕方がないか…なんとなくそんな気はしてたけどね。

「へぇ…やっぱ魔物って尻尾が性感帯だったりするのか?」
「たぶんな…サマリもやろ?」
「まあ…たぶんね」
「アメリもたぶんそうだよ」
「アタイは…尻尾無いからな…」

魔物化したばかりの時に、なんとなく自分の尻尾を握ってみたら身体がビクッとしたからたぶん私も尻尾は性感帯だしね。



「せや!ウチサマリの尻尾触りたい」
「へっ!?ま、まあ別にいいけどさ…カリンもギュッとしないでよ?」
「わかっとるって!」

と、カリンの尻尾を触っていたら今度はカリンが私の尻尾を触りたいと言い出した。
今自分が触っているし、断る理由も思いつかないから触らせる事にする。



もふんっ



「おおお〜!!なんかウチと違う!!ふわっふわや!」
「そりゃあ種族違うしね…」
「アメリもさわるー!!」

ちょっと触られた時にピクッとしたけど、優しく触ってくれたのでこれ位なら問題ない。
普段はあまり尻尾の事を意識してないけど、ちょっと前までは存在してなかった部分を触られるというのはちょっと不思議な気分だ。

「なんならスズとユウロも触る?」
「アタイは後でいいや。二人が触ってたらこの大きな手じゃ邪魔になるしね」
「俺パス。なんか嫌な予感するし」
「そう…残念…」

ちょっと触ってほしかったので残念だ…
まあもし事故って最悪の事態になったら問題だし仕方ないか…


「ほな皆さんお風呂の準備出来たで入りな!うちのお風呂は広いで三人までなら一緒に入れるで!!」
「オカン…残念ながらアメリちゃんの持っとる『テント』のお風呂はウチら全員が入ってもゆとりがある程の広さなんや」
な!?なんやて!?ま、まあそれと比べたら狭いけどゆっくり入ってや!」

アズキさんにお風呂に行くように言われたので、私とアメリちゃんとスズでお風呂に行く事にした。



まあアメリちゃんの『テント』程ではないが、なかなか広いお風呂だった。



====================



「いらっしゃいませー!!たぬたぬざっかにようこそー!!」
「ん?キミは?」
「アメリって言うんだ!お店のお手伝いしてるのー!!」

現在11時。
私達は約束したように、朝早くからカリンの実家のお店『たぬたぬ雑貨』のお手伝いをしている。
名前の通りこのお店は雑貨屋で、鉛筆から鈍く光る怪しい物体まで様々なものを販売している。

「いろんなものがいっぱいあるからゆっくり見てなにか買ってね〜!!」
「そうだね…こんな可愛いお譲ちゃんに言われちゃあ買わざるをえないか」
「わーい!ありがとーおじさん!!」


アメリちゃんはその絶大な可愛さからお店の呼び込み兼マスコット役をしている。
アズキさん曰く「時間帯で比較していつもの1.5倍客がいる」らしい…恐るべしアメリちゃん。


「店員さーん、湯のみはどこにあるかね?」
「はい、えっと…こちらの棚に置いてありますよ」
「おお!ありがとね白いもこもこの妖怪さん」
「いえいえ、お役に立てたようで良かったです」


私は接客兼商品の整理係をしている。
朝早くからアズキさんにどこに何の商品があるのか教えてもらい、自分でも何度も確認しているから大体の物はどこにあるかわかっている。


「おっ!花梨ちゃんじゃないか!!昨日花梨ちゃんっぽい人見たからもしやと思ってたけど帰って来たのか!!」
「あ、花屋のおばさん!!久しぶりやな!!」
「おう!久しぶり!!相変わらず可愛らしい耳をしてるねー!!」
「おおきに!!でもそんな褒めても安くせえへんで〜。まあおばさんの頭の花はごっつ綺麗やって褒めたりはするけどな!」
「へへっありがとな!まあ抜かれ遅れた分綺麗に咲き誇ってたからね!それじゃあおばちゃん褒められて気分いいからいっぱい買ってくよ!」
「おおホンマか!?ならちょっとはマケたるわ!!」


カリンは私と同じく接客兼商品の整理係、それとレジも担当している。
今は花屋のおばさんという程だから知り合いなのだろう…頭に花を生やして、足が根のようになっている緑色の魔物(後でカリンに聞いたところ『マンドラゴラ』という植物型の魔物らしい)を接客していた。
というか、アズキさんの許可無く安くしても良いのだろうか?


「はいはいごめんなさいねー。ちょっと商品のチェックするので退いて下さいね」
「ん?男の子とは珍しい…花梨ちゃんの旦那さんかい?」
「いいえ、違いますよ。まあカリンの友人の一人ってとこです…あ、筆が少ないな…」


ユウロは商品の確認係をしている。
少ない商品があったらそれを奥の倉庫から持ってきて並べる係と、万引きしようとする悪ガキなるものが居ないかの見張りをしている。
まあこのお店で万引きなんかしたら…説明していた時のアズキさんのドSの人も引く気がする程の暗黒の笑みからして…した人はいったいどうなってしまうんだろうか…


「……あの〜……」
「ん?どうかしましたか?」
「あ、い、いえ…その……」
「…アタイの事が怖いかい?」
「あ、い、いえ、違います…探し物をしているのですが…その…こ、これありませんか?」
「これ?……ああ、精力剤か…精力剤ならここにあるよ。もしかして彼氏と今夜にでもヤルの?」
「え、えっと…そ、そんなところです……」


スズは普段は接客、商品が業者から届いたらそれをアズキさんと運ぶ係だ。
最初は…というか今も「ウシオニは怖がられるから…」と接客には消極的であったが、実際臆病なドッペルゲンガーの少女がスズに怖がる事無く話しているのをみると大丈夫であろう。

というか結構ジパングの魔物以外も居るな…まあ大陸と船が行き来しているからだろう。



「おおきにー!!ふぅ、お昼になって客少なくなったなぁ…よし、じゃあスズちゃんとアメリちゃんはお昼休憩行ってええよ!ご飯は机の上に用意してあるからなー!!」
「了解です!」「はーい!!わーいごはんだー!!」

と、一生懸命働いているうちにお昼近くになりお客さんも減ってきたので交代でお昼ご飯を食べる事になった。まあ私はまだだけどね。

アズキさんが奥から出てきてそう言ったので、アメリちゃんとスズは笑顔で奥に消えて行った。
ちなみにアズキさんはお店の奥で納品チェックや経理の仕事、必要に応じてレジなどをしている。
表は私達がいるので裏の仕事を中心に安心してできるのだとか。
だが流石にお金の計算は学が無い私達に出来ないのでアズキさんもやっているというところだ。

「ふ〜…じゃあもうひと頑張りしますか」
「そうだな…あ、サマリ、お客さんきたぞ!」
「え、あ、いらっしゃいませー!!」

このたぬたぬ雑貨は倭光にあるお店の中でも大きいほうで、アズキさんの腕もあり町の雑貨屋の中では一番大きい。
つまり、それだけこのたぬたぬ雑貨にはお客さんが集まってくるのだ。
なのでいくらお昼で人が減ったとはいえお客さんが来る事には変わりは無い。
だから気を抜かずにいなければならないのだが…ちょっとした眠気などもあってなかなか難しいものである。


こんな感じに、お手伝い1日目は順調に過ぎて行った……




…………



………



……








「いやあ〜、皆助かったわ〜!!今まで休みがちやった分まで今日だけでほとんど稼げたわ〜!!」
「そ、そんなになんかオカン!?たしかにウチがまだ手伝っとった時より多かった気はするけど…昨日聞いた時は結構稼ぎ少なかった気がしたんやけど?」
「やからその分がほとんど売れたっちゅうことや!アメリちゃんの呼び込みが一番効果あったんやと思うで!!」
「ホント!?わーい!!」

現在20時。
お店は19時に閉まるので、それから在庫と売り上げのチェックと店内のお掃除をして、今はアズキさんに今日の売り上げや様子などを聞いているところだ。

「結構疲れるな…」
「そうだね…でもアタイはいろんな人や魔物とお話出来て楽しかったよ!」
「そりゃ良かったな…俺はいろんな人や魔物にカリンの旦那かと聞かれて大変だった…」
「ははは…まあ仕方無いやん…ここにはウチしか娘はおらんからな。男がおったらそう思われても仕方ないやん」

一日働いてみたのだが…次から次へとお客さんが来て想像以上に忙しかった。
だが、それ以上にお客さんとの触れ合いなどもあって楽しかったし、商品の場所を教えてありがとうと言われた時は凄く嬉しかった。


「さあさあ皆さん、ご飯出来ましたよ〜!!」
「ん?おおっ!!サマリちゃんのご飯めっちゃ美味そうやなあ!!」
「オカン、サマリの料理は美味そうちゃう、美味いんや!!」
「カリン…そこまで言われると照れるよ…///」

そして、今からちょっと遅めの夜ご飯である。私だけお店が終わったと同時に抜け出してご飯を作っていたのだ。
アズキさんは店長なので抜けるのは良くないが、夜ご飯遅くなると主にアメリちゃんが可哀想なので私だけ抜けて作りに行く事になったのである。
私自身も含めて皆を労おうと頑張って作った料理だが、まだ食べていないのにもかかわらずアズキさんとカリンが褒めてくれた…なんだか照れてしまう…

「まあ先に食べといて〜。うちは梯梧にこの粥を食べさせてくるわ」
「ん。じゃあオカンもそう言う事やし…というかどうせオトンと無理無い程度でイチャイチャして当分戻ってこーへんやろうし、アメリちゃんもお腹空かしとるようやし食べよっか!」
「う〜ん…まあ本人とその娘がそういうならいいか…」
「おなかすいたー!いただきまーす!!」

そして食べようとしたところで、アズキさんはいつの間にか作ってあったお粥をデイゴさんに食べさせに行ってしまった。
まあカリンの話から当分帰って来そうでも無いので、アズキさんの分は取っておきながら先に食べる事にした。


「もぐもぐ…おしごとしてからたべるごはんはとってもおいしいね!!」
「せやな!アメリちゃんは今日大活躍やったしな!いっぱい食べて明日も頑張るんやよ!」
「うん!!アメリ明日もお客さんよびこむね!!」

今日の夜ご飯は…白米と味噌汁に豚の生姜焼き、あと冷奴に何種類かのお漬物である。
ちなみにもう味噌汁は大好物だというカリンからお墨付きがくる程の出来である。

「しかし…カリンがこうやって店をやっているのを見ると商人だなって思うな」
「…それどういう意味やユウロ…今までウチの事商人やって思って無かったんか?」
「そうじゃねえけど…今日ほど商人だなって思った日は無いという事だよ…普段あんなに速くそろばんはじいてないだろ?」
「まあ今日は値段が決まっとるもんを速く計算せなあかんかったからな。それに普段からあんな速く計算しとっても疲れるだけやしな」

そういえば今までの旅の途中でも何度か商売をしているカリンを見たけど、今日ほどそれっぽい時は無かったな…
巧みな話術で買おうか迷っている物を買わせたり、そろばんを高速でミス無くはじいている姿はとてもカッコ良かった。


「そういえばカリン…」
「ん?なんやスズ?」
「いや…ちょっと気になったから聞いておこうと思った事があるんだけど…」
「ん?なんか妙に俯き気味にどうしたんや?」

と、ここでスズがご飯を食べるのを中断して、唐突にカリンに質問をした…




「カリンはさ…4日後に大陸行きの船にアタイ達と一緒に乗るの?それとも…実家の手伝いを続けるの?」
「ああ……その事か……」




気になってはいたけれど、誰も聞き出さなかった事についての質問を…



「んーとな…まあまだ未定ってとこやな…」
「え!?カリンお姉ちゃんいっしょに行かないの!?」
「ん〜…まあオトンの回復の程度次第やな…」
「まあ…そうだよね……」

カリンが言うには、どうやらまだ未定らしい。
デイゴさんの怪我の治り具合によって旅をこのまま続けるか、一旦旅は止めてお店の手伝いをするか決めるらしい。
まあ…それが妥当であろう。

「ま、ちゅうわけでウチが一緒に行くかはオトン次第って事や!」
「梯梧がどうしたって?」
「あ、オカンが戻ってきた…思ったより早かったな…」
「まあ…あの怪我じゃ本番は出来へんからな…」

で、カリンが話の結論を付けたと同時に案外早くアズキさんが戻ってきた。
流石に大怪我をしているデイゴさんと本番をするわけにはいかないと言いながら戻ってきたアズキさんは…嬉しそうな顔で空のお椀を持っているのは良いとして、どうして口元にお粥の米粒が付いているのだろうか?

「オカン…だからって口移しとかしても生殺しやから止めたほうがええで…」
「な!?花梨あんた何故うちが梯梧に口移しで食べさせとった事わかったんや!?」
「口に米粒ついとるでオカン…しかも嬉しそうにニコニコ顔で戻ってきたらわかるわ!!」

…どうやらお粥を口移しで食べさせていたらしい。
どうりで嬉しそうで、口元に米粒が付いているわけだ…

「で、ご飯食べます?」
「もちろん食べる!」

という事で、夜ご飯とお話にアズキさんも加わった。


お話も更に盛り上がり、楽しいひと時は過ぎていった…



====================



「皆おつかれー!!ホンマもの凄く助かった!一生うちで働いていて貰いたいほどやったわ〜!!」
「いえいえ…お役に立てたようでなによりです」

現在21時。
特に大きなトラブルも無く、大陸に戻る前日までお手伝いした私達。

「しかし…万引き犯君はご愁傷様だったな…」
「何を言っとるんやユウロ君!犯罪者には容赦なんかいらん!」
「いや…まだ10代前半だったから…あそこまでやる必要はなかったんじゃないかな〜と思っただけdすみませんそんなことありません万引きは許されないですよね俺もそう思うのでその怖い笑顔と握り拳を解いて下さいお願いします」
「わかればええわかれば」

いや…正確にはトラブルもあるにはあったが。
今日のお昼過ぎに…なんと万引きをした悪ガキなるものが現れたのだ。
だが万引きをしているのをアメリちゃんに見られ、逃げているところをユウロに捕えられた後、スズの糸で動けないようにグルグル巻きにされて…


…その悪ガキはアズキさんの手によって店の入り口にまるで提灯のように閉店10分前まで吊り下げられ、アズキさんの説教を受けていたのだった…
ちなみにその後にその万引き犯の両親が申し訳なさそうに引き取っていったが…お仕置きされていた本人は最後のほう若干嬉しそうだったので再びわざとやる可能性がありそうである。


「ほんならお風呂も用意出来たで、順番に入ってな!」
「はーい!それじゃあサマリお姉ちゃん、おふろいこ!」
「あ、今日はスズとアメリちゃんの二人で先に入ってて!私は後でカリンと入るから!」
「…え?なんで?」
「いやぁ…夜ご飯の片づけを手伝おうと思ったのと、他にもちょっとやりたい事あるから」


まあ嘘はついてない…実際に片づけを手伝おうと思っているし、明日旅立つのだからその準備も忘れないうちにしておきたいしね。

でも一番の理由は、温泉でしか一緒に入っていなかったカリンと一緒にお風呂に入りたかったからだ。
刑部狸とバレて隠す必要は無くなったのだが、実家なだけありカリンはアズキさんにいろいろ扱き使われて結局私達と一緒に入っていなかったからね。

「じゃあしょうがないね…いっしょに入ろうスズお姉ちゃん!!」
「そうだね!」

二人がお風呂に行った後、私は言ったとおり夜ご飯の片づけ…皿洗いをし始めた……




…………



………



……








シャアアアアア……


「そういえばカリンの家ってシャワーあるんだね…」
「まあな…倭光は微妙に大陸の文化も取り入れとるからこういったもんもあるんや。トイレやって大陸風やったろ?」
「そうだね…でも畳に布団だったりジパングっぽいとこもあるし…なんか不思議だったよ」

現在22時。
アメリちゃんとスズが出てきた後、私とカリンはまだやる事がそれぞれ残っていたので先にユウロに入ってもらったのでいつもより遅めの入浴である。

「で、わざわざウチと一緒に入った理由はなんかあるんか?」
「そうだね…特にある訳じゃないよ…今までほとんど一緒に入った事無かったなと思ってね…」

石鹸で身体をわしゃわしゃと洗っているカリン…
大体カリンは長ズボンを穿いているから気付きにくいけど、アズキさんと同じように足にも毛が生えている。
うーん…なんとなく触ってみようかな……

「……えいっ」
「ん?なんやサマリ?ウチの足なんか触ってどないした?」
「いや…珍しいものだからつい…」
「ついって…まあウチ長ズボン好きやからいつもは見えんからな…」

触った瞬間カリンが不思議なものを見る目で私を見てきたけど、納得したのか特に文句は言ってこなかった。

「足の毛ももふもふだね〜」
「まあな!そういうサマリももこもこやん。また微妙に伸びてきとるしな」
「そうだね…もう少ししたらまた短くした方が良いかな…」

そのかわりカリンは私の腰周りの毛を触ってきた。
触ってくる手つきが微妙にいやらしいが、まあ特に変な事をされているわけではないからいいか…


「そういえばサマリはさ…自分の身体に毛とかが生えているのに違和感を感じた事とか無いん?」
「へっ?なんで?」
「いやな…サマリって元人間なんやろ?人間やった頃にはこんな毛も角も尻尾も無かったわけやん。ウチは生まれた時から刑部狸やったからどうなんかな〜と思ってな…」
「ああ…そういう事ね…」

そのまま私の角を触りながらそう聞いてきたカリン。

「違和感は…特に無いかな。言われてみれば少し前まで自分には無かった物があるってのは不思議ではあるけど、普段そこまで意識してないのと、今はあって当たり前だって思っている部分もあるからかな…」
「ふーん…そんなもんなのか…」

ちょっと角を触られる感覚がこそばゆいけど、こんな風に触られていたりしない限り別段気になる事はない。
それに今となってはこのもこもこした毛が生えていない自分というのが想像しにくい…もう私はワーシープである事が当たり前だと思っているのだろう。

まあ…別に人間だった頃の自分がわからないなんて事はないけどね。



カポーン……



「ところでさカリン…」
「…なんやサマリ…」

身体を洗い終わり、浴槽に二人して入った時に、私はカリンに聞く事にした…


「結局さ…明日どうするの?」
「……せやな……」



私達とこのまま一緒に旅を続けるか、それとも実家の手伝いをする為に残るのかを…



そして……



「オトンの怪我…インキュバスやで治りも速いけど…それでもまだ完治するまでには二月程は掛かるし、その間店なんか出来へん気がするからな…ウチここに残って手伝う事にするわ……」
「そう……じゃあカリンとはお別れか……」


カリンは…実家に残る事にしたらしい。
つまり…私達とはここでお別れだ……
カリンは私達の中で一番明るかったから、少し寂しくなるな……


「あ、でもな…オトンの怪我が完治したらまた行商の旅にでる、しかも今度は大陸でするつもりなんや。やでそん時はまた一緒に旅しような!!」
「うん!もちろんだよ!!」

でも、それは一時的なものである。
デイゴさんの怪我が完治し、またカリンが旅にでたら一緒に行く事にするからだ。

「それに…もしかしたらそれより早く会う事だけは出来るかもしれんしな」
「えっそうなの!?なんで?」

それだけじゃない…もしかしたら旅は出来ないけど会う事は出来るかもしれないらしい…なんでだろうか?

「あのな…ウチの店は結構珍しい商品なんかを取り揃えとるからかたまに大陸のほうから注文が入ったりしてな…それを自分達で大陸まで商品を届けたりしているんや」
「つまり…それを届ける時に会うかもしれないって事?」
「せや。いつもはオトンがやっとるんやけど、機会があったらウチが大陸での修行の予習として行かせてもらえるようオカンに頼んでみるつもりや。と言ってもオトンがある程度回復しとらんとその依頼自体断る可能性もあるけどな」

つまり…大陸のほうにお店の手伝いで行く可能性もあって、その時に会えるかもしれないという事か。
確率は高くないけど、また会えたらいいな……

「なるほどね…まあその時会えて、私達の目的地が特に決まって無かったらそこまで一緒に行こう!」
「おう!その時はまたよろしゅうな!」


お互いに握手をして、カリンとの再会とまた一緒に旅する事を誓った。


「そういえば昨日変な人がお店に来てたよね〜」
「ああ、あの船のパーツは無いかと言っていた男の人やな。んなもんいくらなんでも売っとらんけどな…なんか慌てとったけどどないしたんやろな?」
「さあ…様子からして大陸に行きたいとかではなさそうだったけどね…そういえば…変な人といえばやっぱあの河童さんは衝撃だったなぁ…」
「ああ、あのきゅうりでオナニーしとった河童か!あれはウチも引いたわ〜…」


その後二人で適当に旅の思い出を言ったりして、身体が温まった後に浴槽から上がって、私を待っていたアメリちゃんと一緒にお布団に入った…





明日には船に乗って大陸に戻る…つまり、ジパングやカリンとはしばしの別れである。
なんだかいろんな人や魔物と出会った…どれもこれも楽しかったな……
ある時はツバキとリンゴの故郷を侵攻していた教団を追い払ったり…ある時は狐系の魔物が沢山いる街を観光したり…ある時はオーガ属の魔物達と宴会をしたり…
それに…アメリちゃんのお姉さんにも…メーデさんやノーベさんにも会った。
実際は一月も居なかったけど…長い間ジパングに居たような気がする程非常に濃い体験をした。


そして明日からは…正確には船旅を終えた後から、また大陸での旅が始まる。
大陸はジパングと違い魔物を敵視している町や国もある…それにセレン達やエルビ達と遭遇するかもしれない…
それだけ不安もあるけど……やっぱりワクワクのほうが勝っているのだ!


大陸に戻った後に寄る場所はどんな場所だろうか…どんな人や魔物が居るのだろうか…
それに…アメリちゃんのお姉さんもどんな人がいるのだろうか…

あと…スズの記憶は戻るのか…アメリちゃんは謎の人物『フラン』の事を教えてくれるのか…
それと…ユウロは自分の過去を語ってくれるのか…
どうなるかは…これからの旅次第だな……



そんな想いを持ったまま、私はすやすやと眠り始めた……
12/07/02 23:18更新 / マイクロミー
戻る 次へ

■作者メッセージ
えっと…バレた瞬間カリン離脱かよ!?と思った方に言っておきます…
最後のほうを読めばなんとなくカリンがどうなるかわかるかなぁとね…
あと次回の頭にもいます。

という事で今回はカリンの実家でのお話。あまりシーン自体は多くないけれどお店の手伝いでした。
お風呂シーンあるのに黒サマリが居ないのは仕様です。カリンは隠していた毛で回避しました。
そしてジパングでのお話はこれで終了です。これからは再び大陸でのお話となります。
そう…大体の人が予想出来ていると思いますが…今までとやる事は基本は変わりませんw
まあ伏線みたいになっているものは順次回収していきますがね。

そして次回は…倭光から旅立ち…すんなり大陸に行かずサバイバルだと!?の予定。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33