連載小説
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旅27 街の為に働くお姉さん!!
「今日もたのしかったねー!!」
「そうだね。なんか変な人もいたしね」

現在20時。
私達は樫紅に向かって順調に旅を続けていた。
伍宮を出発してから今日で大体一週間…明日の午前中には樫紅に到着する予定だ。

「ってかあれはいったい何だったんだ?」
「さあ…変わった趣味の人もいるって事なんじゃないか?」

ここ一週間では、特に大きな出来事は起こらなかった…いたって順調な旅だったと言えるだろう。
まあここまでの道でいろんな人や魔物には出会ったし、その中には変わった人もいたけどね…

「でもすごかったよね〜!あんなに入るんだね!」
「うんそうだね…まさか本当にいるとは思って無かったよ…」
「まあ…実際にそういう目的で買っとるって言うとったしな…」


例えば…大百足さんに巻きつかれながら何気ない表情で普通に歩いている人が居たし、浮気と勘違いされるような事でもしたのか白蛇さんに青白い炎を投げつけられて必死に逃げている男性も居たし、後は狐火に憑依されていた女性とその女性に襲われかけていた兄か弟かとにかく顔がその女性にそっくりな男性なんかも居た。

他にも…クノイチをハリセンで叩いている人間女性(幼馴染みらしく、漫才の練習をしていたらしい)とか、「ペチャパイで悪いかー!!」と叫んでいるネコマタなんてのも居た…
どこか親近感を覚えるのはなんでだろうか…

「いやでもまさか現場を見るとは思わなかった…」
「見てるのがバレた時もの凄く気まずかったしね…」
「もうあれは見られる為にやってたんちゃうんかな?って程堂々とやってたけどな…」

そして、今日の昼過ぎに出会った魔物が一番衝撃的だった…



「まさか一週間前にきゅうりを売っていた河童さんが言っていた事を本当にしている河童に会うとは思わなかったな…アタイまた記憶喪失とかなっても絶対忘れられない自信あるよ」
「だよね…見られた事がバレて緑色の皮膚が真っ赤に変色したのも衝撃だったよ」
「ウチもあれはちょっとな…見ていて面白かったっちゃあ面白かったけどな…」
「俺は興奮した河童に襲われないかヒヤヒヤしてたけど…恥ずかしさのほうが勝ってたのか川の底に逃げてったから助かったけどな」



そう、一週間前に伍宮で野菜を売っていた河童さんが言っていた…

『きゅうりを男性器に見立てて舌で舐めまわす』
『自分の乳首に押し付ける』
『下の口に擦りつけて感じる』
『膣の中に入れてぐちゃぐちゃに掻きまわす』

…を普通にやっていた河童さんを見掛けてしまったのだ。

まさかの遭遇だったのでユウロ一人反対する中でおもわず茂みに隠れてずっとその様子を気付かれないように見ていたのだが…流石に自慰をし終えた後にそのきゅうりを川で洗った後に食べようとしていたのを見て思わず声を出してしまい気付かれてしまったのだ。

その後、しばらく無言で互いを見ていたが、数秒後には河童さんが顔どころか全身を真っ赤にしながら川に飛び込んでどこかに行ってしまったのだった。

「でも河童のお姉ちゃんきもちよさそうだったね〜…アメリもやってm「駄目だよそんなことしたら!!」…じょーだんだよサマリお姉ちゃん…」
「冗談でもそういう事は言っちゃ駄目だよアメリちゃん」
「はぁ〜い…ごめんなさい…」

そんな河童さんがやっていた事をやってみたいとでも言おうとしていたアメリちゃん。
まあ子供ならではの好奇心だとは思うが…ちゃんと注意をしておこう。

「あのねアメリちゃん…食べ物で遊んじゃ駄目だし、そんな行為に使うのも良くないんだよ。育てた人は食べてもらいたくて育てたんだからね」
「そうだよね…」
「まあ流石に自分でそういう目的があって育てたのなら誰も文句は言えないけれどそうじゃないんだから…もしやりたいんだったら一から育てる事、わかった?」
「うん…」

さて…ちゃんと注意もした事だし、お風呂に入る事にしますか。



「…俺ツッコミを入れていいか?」
「さあ…別にええんとちゃう?」
「そうか…じゃあ言わせてもらうわ…」

と、話がまとまったのにユウロが何かを言いたそうにしていた。
何かおかしなところでもあったのだろうか?

「何ユウロ?」
「あのな、前半はまあ良いとして後半は言ってる事がおかしいだろ?」
「そう?」
「いやだってなんで行為そのものは否定しないんだよ」

……ああ、そういう事か。
まあたしかに少しはおかしな事を言っているかもしれないが…

「いやぁ…まあそこまで情熱を持ってやるんだったら止められないと思うんだけど…」
「いや止めろよ…それともアメリちゃんにやってほしいのか?」
「そこまでしてやりたいのであれば止めても無駄かと…実際やっている人が居たって事は可能性はあるし…そんなにおかしい?」
「……言われてみればそうかもな」

ユウロが納得したようなので、私達は話を止めてお風呂に向かう事にした。


「なぁ…ウチの経験上これって普通喧嘩腰の口論になると思うんやけど…なんでこうもあっさり解決したん?」
「そんな事最近の記憶しかないアタイに言われても…でも二人が口論してるのを見た事無いな…」
「そーいえばアメリも見たことない…サマリお姉ちゃんとユウロお兄ちゃんとケンカしてるの見たくないからいいけど」
「大体はユウロが引く気がする…まあサマリ怖い時は怖いし、何か逆らえんしな…」
「あーそれかも。何故かサマリには逆らっちゃ駄目だって思えるんだよね…」

「ん?何か言った?」
「「「別に何も…」」」

アメリちゃんとスズとカリンが何か喋ってたけど、よく聞こえなかったので聞き返したが教えてくれなかった…



====================



「さて…今はどうなっとることやら…」
「まあノーベさんいるらしいし…魔物も住んでるなら隠す必要無い…んだよね?」
「たぶんな…」

現在11時。
私達は予定通り午前中には樫紅に辿り着いた。
そして目の前には…重圧な大きい扉と門番みたいな人が二人立っていた。
事前にカリンから聞いた話だと、この街はあまり魔物と友好的ではなさそうなのでちょっと怖いのだが…メーデさんが勧めた事もあるのでたぶん大丈夫だろうと特に隠さずに行く事にする。


「……そこの者達、止まれ!」
「は、はい!何でしょうか!?」
「ここらでは見掛けない顔だな…この街に何の用だ?」
「えっとですね…」
「この街にアメリのお姉ちゃん…ノーベお姉ちゃんがいるってきいたから会ってみたくてきたの!!」

案の定止められたが、別に魔物だから止めた風ではなさそうである。
それなら有無を言わさず何かやるだろうし、ここらではあまり見掛けない顔ということは普通に怪しい者が街に入らないようにしている門番なのだろう。



なので素直に理由を言ったのだが……予想以上の返しが来た。





「な!?ノーベ様の妹君ですと!?」
「こ、これは失敬しました!!ど、どうぞお入りください!!」


「わーいありがとー!!」
『……え、何コレ?』



アメリちゃんがノーベさんの妹と言った瞬間、まさかの敬礼が来て扉が簡単に開きました。



「あの〜…」
「おや?あなた方はノーベ様の妹君のお付きの方ですか?」
「えっと…まあ大体そんな感じです」

正確にはお付きの方では無いけど、説明するのも面倒なのでそういう事にしておこう。
そんなに間違っているわけでもないしね。

「それで…ノーベさんってどんな人なんですか?何か凄く尊敬されてますが…」
「あ、あれ?ノーベ様の事を知らないのですか?」
「うん…アメリ会ったことないお姉ちゃんに会うための旅をしているんだ!」
「ああ、そういう事ですか。では私達が簡単に説明します!」

ただ、そこまで慕われているノーベさんがどんな人なのか凄く気になったので、会いに行く前に門番さんに軽く聞いておく事にした。


「アメリ様の姉君であるノーベ様は、数年前にこの樫紅に突如現れ、この街を変えた偉大なお方です!」
「この街を変えた?たしかこの街って妖怪反対派やったよな?それが変わったんか?」
「おお、よくご存じで。その通りです!」
「この街では昔から力のある退魔師の家系が長であったせいで妖怪には風当たりが厳しかったのですが…実は住民の大半はそれを快く思ってはいなかったのです」
「俺もそうなんですが…こっそりと妖怪と暮らしていた者もちらほらと居たのですが…見つかったら最低でも街から追い出されるし、最悪の場合は…口に出したくもありません」
「ほぉ…あれ?でもウチ小さい頃にこの街来たとき街中に妖怪がおった気がするんやけど…」
「それはきっと奴隷としてその退魔師の家に居た者でしょう…」
「ああ、なるほどな…やであの時オカンええ顔せんかったんか…」

どうやら昔はカリンが言ってた通り私達魔物には厳しい街だったようだ。
当時の事を語る門番二人の辛そうな表情からもそれが読み取れる。

「そんな状況だった樫紅に、ある日突然ノーベ様は現れたのですよ!どうやらノーベ様は小さい頃からジパング人好きの姉君からジパングの事をよく聞いていたらしく、自分もジパングに住んで旦那様を探そうって事でやってきたらしいのです」
「そして何をしたかまでは詳しくわかりませんが…どうやら多数の妖怪を連れて退魔師の家に侵攻なさったようで…いつの間にやらその退魔師の家系は全員妖怪と結ばれたか妖怪になってまして…その為晴れて堂々とこの街で妖怪と暮らす事が出来るようになったのです!!」
「へぇ〜!!ノーベお姉ちゃんってすごいんだね!!」
「もう凄いなんてものではないですよ!!我々の恩人です!!」

その状況を変えたのがノーベさんか…流石リリム。やる事が大きいなぁ。
しかしまあ…そんなノーベさんに益々会ってみたくなってきた。

「ではそのノーベさんに早速会いたいのですが…どこに行けば会えますか?」
「あ、それでしたら俺が案内しますよ!って言いたいところですけど門番としての仕事がありますので…」
「なので私が持っているこの街の見取り図をお渡しします。赤い丸がついているのがノーベ様とその旦那様が開いておられる病院です」

という事で早速ノーベさんがいる場所を聞いてみたら、一枚の地図を渡された。
それはこの街全体の地図らしく、縮尺からしてかなり広い街のようだ。
で、その地図の中央より左下辺りに大きな赤い丸が付いていた…って結構大きい病院だな…

ん?病院?

「あ…そういえばメーデさんはさらっと言ってたけど、ノーベさんってお医者さんだったっけ…」
「あ〜そういえばそうだったね!!じゃあノーベお姉ちゃんいそがしいのかな?」

そういえばメーデさんがそんな様な事を言っていた気がする。
お医者さんで、更に大きな病院となると会う時間なんかあるのだろうか?

「まあ今は勤務時間ですからね…でも12時半過ぎになれば患者の数も減るので会う事は可能ではないかと…それに19時を過ぎれば病院も終わりますし、妖怪がこの街に来てからは滅多に緊急入院するような怪我をする患者はいませんからお時間は取れると思いますよ」
「今は誰かがお産だなんて聞かないからその仕事も無い筈ですのでそれなりに時間はあるのではないかと思いますね!」
「そうですか…ありがとうございます!」

もう後1時間程経ったら時間ができるかもしれないという事なので、ちょっとこの街をいろいろと見て周ってから会いに行く事にした…



====================



「で、ここか…」
「地図で見ても大きいとは思ったけど、実際かなり大きいな…」

現在13時。
お昼ご飯を済ませてたら少し予定より遅くなってしまったが、ノーベさんがやっている病院に着いた私達。
その病院は、木造2階建てとはいえ普通の家が6軒は入るんじゃないかというほどの大きさだった。

「休憩中って札はぶらさがっとるけど…裏から行けばええんか?」
「たぶん…私達は患者ではないし、ノーベさんはここに住んでいるって話だしね」

表側の扉は『休憩中』と書かれた札が掛けられており、鍵も掛かっている。
聞いた話によると居住スペースもあるとの事なので、そちらの入口に周る事にする。

「……ここかな?」
「そうじゃねえかな…すみませーん!!」

裏に周ると玄関っぽいものがあったので、ノックしながら叫んでみた。



ガラガラガラ……


「はい、どちら様で……あれ?」


すると、数秒後には扉が開かれた。
中からは白衣を着た白髪ショートで、アメリちゃんと同じような翼や尻尾、さらには角を持った巨乳の女性が出てきて、アメリちゃんを見て固まっていた。

これらの特徴からしてきっとこの女性がノーベさんだと思うが……


「えっと…あなたがノーベお姉ちゃんですか?」
「ああ、私がノーベだが…もしかして私の妹か?」
「うん!アメリって言うんだ!!初めましてノーベお姉ちゃん!!」
「そうか…初めましてアメリ!ようこそ!!」


やはりノーベさんだったようだ。
ノーベさんも妹だとわかった途端、アメリちゃんににこやかな表情で対応し始めた。
これだけの会話でわかったが、メーデさんとは真逆でちょっと早口でかつハッキリとした声で喋る人のようだ。
口調も男…まではいかないが、プロメ以上に『姉御タイプ』な感じだと思う。

「ところで、アメリは私に何か用でもあるのか?」
「ううん、アメリ会ったことないお姉ちゃんたちに会いたくて旅してるの!!ちょっと前にメーデお姉ちゃんにノーベお姉ちゃんのことおしえてもらったから会いにきただけだよ!」
「そうか…メーデお姉様の紹介か…まあ玄関口で喋るのもどうかと思うからお付きの方も一緒に家に上がってくれ!」
「あ、はい。ではお邪魔します…」

そんなノーベさんの案内で、私達はノーベさんのお家に上がらせてもらう事になった。




…………



………



……








「デルエラお姉様とはそんなお話をしたのか…そういえば、アメリは姉妹に会いたくて旅をしているのだったよな?私はそんな事考えた事もなかったな…今思えば会った事無い姉妹とお話などもしてみたいものだ…」
「そうなの?アメリはいろんなお姉ちゃんたちのおはなしきいて、お姉ちゃん全員に会ってみたいって思ったんだ!!」
「へぇ〜…それはいいんじゃないかな?私もアメリと会えて嬉しいしな!」
「可愛い妹さんだね…ノーベも小さい時はこんなだったの?」
「うーん…自分じゃわからないなぁ。というか繁縷(ハコベ)、午後の診察の準備は終わったのか?」
「終わって無ければ話に参加してないさ」

そして現在14時。
私達は病院の2階…居住スペースの一室である畳が一面に張られている広い部屋に案内されて、ノーベさんやその旦那さんであるハコベさんとお話をしていた。

「それで、話を戻すけデルエラお姉様の次はどの姉妹に会ったんだ?」
「んーと…デルエラお姉ちゃんの次はたしか…アクチお姉ちゃんかな?」
「アクチかぁ…一応聞いた事はあるな…たしかどこかの街で領主をしている妹だったか?アクチとはどうだった?」

それで今はノーベさんに他の姉妹のお話をしている所である。
さっきデルエラさんというお姉さんのお話は終わったので、次はアクチさんの時の話をしようと思う。

「アクチお姉ちゃんは…ずっとだんなさんのじまんしてた」
「あーそうだったね。私は途中でそこでメイドしていたアルプさんの所に行ってたから詳しく聞いてなかったけど…」
「…まあそれも仕方の無い事だろう…私だって繁縷の自慢をずっと出来る自信はあるしな」
「それは…照れるからご遠慮願えるかな…」
「するとはまだ言って無かったのだが…まあ仕方がないか」

あの時のアクチさんは旦那さんが帰ってくるまでずっと自慢してたからな…というか、帰ってきた後今度は夫婦で自慢しあってたからな…
まあアクチさんは領主として街の発展に貢献していたし、旦那さんは自警隊としてそんなアクチさんをサポートしているから互いに自慢もしたくなったのだろう。

「というか聞いたことあるって…そのアクチさんっちゅう妹に会った事はないんか?」
「ああ、無い。私が家を出た後に生まれた妹なのだろう…名前だけはどこかで聞いた」
「ふーん…そんなもんなんやな…」
「そりゃあカリン、アメリちゃんが旅している理由から大体考えられるだろ?実際かなり歳は離れているだろうし……って言っといて何だけど実際ノーベさんは何歳なんですか?」
「……メーデお姉様よりは下だ」
「いやそれはわかりますが…」
「そもそもユウロよ、女性に歳を聞くのは失礼ではないか?」
「…すいません…」

実際アメリちゃんは『会った事の無い』お姉さん達に会う為に旅をしているのだ…そのお姉さん同士で会った事の無い人もいるだろう。
むしろメーデさんとノーベさんみたいに歳の近い姉妹じゃなければ互いに知らないんじゃないかな?
って本当に何歳だろう…基本的に若い人は言ってくれるからそうではないんだろうけどね…

「アクチお姉ちゃんはだんなさんとラブラブだったし、そのはなしをきいてアメリも面白かったよ!」
「なら私達の話も後でしよう…繁縷が恥ずかしがるから繁縷がいないところでな」
「うーん…できればいっしょにききたいな…でもしょうがないか」
「は、はは…ごめんねアメリちゃん…俺結構恥ずかしがりやだから…」

たしかに、私達がいたのにも関わらず隣の部屋でシてたからな…
あの時は人間だったから興味なくてすぐ寝たけど、今なら絶対に聞き耳立ててただろうな…
ホントあの時はアクチさんの喘ぎ声とか甘い言葉のやり取りとかあったもんな…聞いておけばよかった…

「アクチとはそんなものか?」
「うん…あとはおしごとしてる場所をみせてくれたぐらいだよ!それで次は…えっと…」

と、アクチさんの時の話も終わったので、次のリリスさんの時の話をしようとしたら…



スパーン!!


「先生方、急患です!!急いで診察室まで来て下さい!!」

勢い良く襖が開かれて、ナース服を着たサキュバスさんが慌ててそう言ってきた。

「何!?それは大変だ!行くぞノーベ!!」
「言われなくても!皆さんはここで待っていて下さい!!」
「あ、はい。お仕事頑張って下さい!!」

急患だという事で、ノーベさんとハコベさんは呼びにきたサキュバスさんと共に診察室まで急ぎ足で出て行った。


「なんかノーベさん達大変そうだな」
「まあ急患やって話やしな…大きい病院やし良く怪我人とかも運び込まれてくるってさっき言っとったしな」
「でもそれだけノーベお姉ちゃんやハコベおじさんは街の人たちにしんらいされてるんだよね…カッコいいな〜!!」

流石に医療に関してなんの知識も無い私達が「手伝います!」なんて言ったところで邪魔になるだけだから、大人しくしているのが賢明であろう。
という事で、私達は言われたとおりにここでじっと待っている事にした。


あ、そうだ…
流石に治療のお手伝いは出来ないけど……他に手伝える事はあるな……



====================



「ふぅ……お待たせした……あれ?サマリとカリンの二人は?」
「あ、ノーベさん!ちょうどいい所に!!」
「あ、後ろに居たのか…ってどうしたんだその格好は?」

現在16時。
運ばれてきた患者さんは結構大事だったらしく、やっと一息ついて戻ってきたノーベさん。
でもこれからまた午後の診察の時間になるから、すぐに行ってしまうだろう。
だから私は、今のうちに聞いておこうと思って一旦戻ってきた。

ちなみに今の私の格好はというと…お手製のマイエプロンを身に着けている。
つまり、料理をするときの格好をしているのだ。もちろん料理をする為である。

「いやあ…忙しいお二人の為に何か助けになる事をしたくて…」
「なるほど…それは助かる。では任せても良いか?」
「はい!えっと…それで何人分位あれば良いですかね?」
「そうだな…サマリ達の分まで含めれば、10人分あれば…いや、今日は私も普通の料理を食べる事にするから11人分頼むよ」
「わかりました!ではキッチンや材料をお借りしますね!」
「ああ、よろしく頼むよ」



ここの病院は広いだけあり、大勢の人や魔物が働いている。
その中には元々ノーベさんと共にジパングにやってきた魔物もおり、未だに旦那さんがいない者はここの一室で暮らしているらしいのだ。
そんな彼女達の食事などはノーベさんとハコベさんも含めて当番制になっているのだが、今日みたいに急患が入ったりして忙しいと満足に食事が作れないらしい。
ノーベさんはハコベさんから精を貰えばいいし、ハコベさんもノーベさんとヤり続ければ良いだけだけど、他の魔物はそうはいかず、片付けなどが長引くと飲食店も閉まってしまい最悪一食抜きになってしまう事もあるとの事。


だから私達で作っちゃおうという事になったのだ。

「じゃあ早速作り始めようか。カリンはまずお米洗っておいて」
「おっし、まかせとき!その後はウチ掻き揚げ作るわ」

一応今日担当の人…まさかのノーベさんだった…に、今許可を貰えたようなものなので、早速作り始める事にした。

「そんじゃあ俺らはどうすればいい?」
「あーそれじゃあユウロとスズでここに書いたもの今すぐ買ってきて!」
「了解!じゃあユウロ行くよ!」
「おう!」

材料はあるにはあるが、私達の分もあるので買い足す事にした。
なので、スズとユウロには必要な食材を買ってきてもらう事にした。

「アメリは?アメリも手伝う!」
「そうだね…じゃあアメリちゃんは私達と一緒にキッチンに来て。何か簡単で危なくないものを手伝ってもらうね」
「わかった!!アメリがんばる!!」

アメリちゃんは、今日はいつものように踏み台がある訳じゃないからどうしようか迷ってたけど、やっぱり料理を手伝ってもらう事にした。


こうして私達は、ノーベさん達が頑張ってお仕事をしている間に、いっぱい夜ご飯を作っていった…




…………



………



……








「…どうですか?」
「……す、凄すぎる………サマリの料理が上手だと話に聞いてはいたが、これは想像以上だ…」

現在20時。
午後の診察の時間が無事に終わり、次の日の準備も完了したノーベさん達が居住スペースに戻ってきたので、早速完成した料理を並べてみた。

ちなみに、お昼の急患は例の退魔師の家からで、昔使っていた魔力を暴発させる効果のある札を処分しようとした際に誤って長の奥さんであるクノイチさん(ノーベさんが攻め入る際に雇っていたらしい)が触れて魔力が枯渇してしまったらしい。
怪我自体は大した事無く、魔力回復と精神安定を施したので入院させる程では無かったので、急患があったにしてはこれだけ早く終わる事が出来たとの事。

「な、なにこれ…すっごく美味しそうなんですけど…」
「大変だった仕事が終わって、待っていたのが凄い料理の数々とは…私感動しちゃう…」
「今日いつも以上に忙しくて疲れてたけど…これ見た瞬間疲れが吹っ飛んでったよ…」
「あ、ありがとうございます!!」

そんなノーベさんや看護師の皆さんが料理を見て次々に言葉を呟いている…どうやらかなり高評価のようだ。
作ったこちらとしては嬉しい限りである。

「では、冷めちゃう物もあるので冷める前に食べましょう!!」
「そうだね…では早速…」

いっただっきまーす!!


という事で、私達はちょっと遅めの夜ご飯を、楽しくお喋りしながら食べ始めた。



「むぐむぐ…う、うまい!このポテトサラダ味付けが完璧です!!」
「あ、そのポテトサラダはアメリがじゃがいもつぶして味付けしたんだ!」
「マ、マジですか!?アメリ様が!?め、めちゃくちゃうまいですよ!!」
「えへっありがと!!……でもアメリに様はいらないよオークのお姉ちゃん」
「いやでもノーベ様の妹様でありますし…つまりリリム様ですし…」
「むぅ…まあいいけどさ……」


看護師の一人である豚の特徴を持つ『オーク』さんは、味付けを含め大半をアメリちゃんに作ってもらったポテトサラダを絶賛している。
私も最後にアメリちゃんに気付かれないように味を整えようとしたが、そんな必要が全く無かった。
まあ当の本人は様付けされてむくれているけど…そんなに嫌なのだろうか?


「ちょ、ちょっと!何をするんだ!?」
「いやあ〜、まさかウシオニがいるなんて思わなかったからつい…」
「ついって…そんなに身体をベタベタと触らないでほしいんだが…今ご飯の最中だし…」
「じゃあ後でいい?このもふもふ感私には無いから羨ましくて…」
「……わかりました。いいですよ……」


スズは普通に揚げたてのコロッケを食べていたが…隣に居る看護師の『アラクネ』さんに蜘蛛部分を触られている。
っていうかアラクネっぽくないなこの人…スズと同じく凶暴性は皆無だ。


「うん、美味しい。この掻き揚げサクサクしてて、味もしっかりしてるね」
「それウチが作ったんや!どうや?完璧やろ!」
「んー…たしかに繁縷が言うとおり美味しいな…カリン、後で私にサマリと一緒にこの掻き揚げの作り方教えてくれないか?」
「ええで!」

ハコベさんとノーベさんはカリンが作った掻き揚げを絶賛している。
たしかにサクサクしてるし、魚介の風味や野菜の甘味などもしっかりしていておいしい。
私も後でカリンにコツを聞いてみようかな……

「…って、私も料理を教えるんですか?」
「ああ、頼む!繁縷に美味しい物を食べさせたいんだ!!」
「まあ良いですけど…そんな話今までしてなかったのに今普通に教えてもらうって言ってたので驚きましたよ…」
「あ、いや、後で直接頼もうかと思っていたんだ…まあそう言ってくれると助かる」

という事で私は後でノーベさんに料理を教える事になった。
その前に自分が作った物を美味しく食べないとね…

うん、我ながらこのジャーマンポテトは上手に出来ていると思う。


「…ってじゃがいも料理ばっかだな…掻き揚げにもよく見たら入ってるし…」
「じゃがいもが沢山あったからね…でもまあいいじゃん。どれもこれもおいしいしね」
「たしかに美味しいですぅ…まさかじゃがいもがこんなに美味しくなるとは思ってなかったですぅ…」
「…何その喋り方?」
「昔からぁ語尾を伸ばす癖があるだけですぅ!!」

と、つっこみを入れてきたユウロが食べている物は前リンゴのお母さんに教えてもらった肉じゃがである。
看護師の一人である特徴的な喋り方をする『ダークプリースト』さんがおいしいと言ってくれてるので味付けも煮込み具合もバッチリだったようだ。


ちなみに、じゃがいもはノーベさんの家にあったものだ。どうやらちょっと前に農家の人に貰ったらしい。
なんとアメリちゃんが入りきるサイズの箱の中に大量に入っていたうえ、貰ってから結構な時間が経っていたらしいので、一気に使ってしまおうと沢山の芋料理を作ったのだ。
ポテトサラダにコロッケにジャーマンポテトに肉じゃが、更には掻き揚げと味噌汁の中にも入っているが、別にじゃがいもだらけで嫌になる事無くどれもこれもおいしく出来ているから良しとしよう。



「ふぅ…お腹いっぱいだ…これなら精だけでなく毎日ご飯食べたいとも思えてくる」
「それはどうも…皆さん食べ終わったようですね…では…」

ごちそうさまでした!!

そして、そんなじゃがいも尽くしの夜ご飯も全部食べ終わった。
ノーベさんやハコベさん、それに看護師の皆さんも満足してくれたようだ…

もちろん私達も満足した…アメリちゃんだって…

「うぅ……たべすぎてうごけない……」
「大丈夫かアメリ…ちょっと苦いが胃薬を分けてやろうか?」
「苦いのはイヤだけどもらう…ありがとうノーベお姉ちゃん…」

少し膨らんだお腹を上向きに、苦しそうだがどこか満足した表情で座布団の上に寝転んでいた…



====================



「たのしかったよノーベお姉ちゃん!!また会おうね!!」
「そうだな…アメリと話をするのは楽しかったよ!今度久しぶりにメーデお姉様の所にでも行こうかな…」


現在10時。
私達はノーベさんとお別れをしているところだ。

「それとサマリ、カリン…昨日はいろいろ料理のコツなどを教えてくれてありがとう!」
「いえいえ…あんなのでよろしければ…」
「せや。ノーベさん元からかなり上手いでそんな教える事無かったもんな」

昨日は夕飯の後1時間ちょっとの間ノーベさんに私とカリンはいろいろ料理のコツなどを教えていたが、元から結構上手だった事もあってすぐにマスターしていた。
それが嬉しかったのか早速今日の朝は当番で無かったのにも関わらず作っていた。
ちなみに言うととても美味しかった。

「そーだノーベお姉ちゃん。他のお姉ちゃんのこと知らない?」
「ん〜…すまない、何人か名前は知っている姉妹は居てもメーデお姉様以外はどこに居るのか詳しく知らないんだ」
「そうなんだ…じゃあどうしようかな〜」

それで今、次の行き先をどうしようか悩んでいる。
メーデさんの時みたいに上手くいかず、次のお姉さんの情報はないのだ。
まあメーデさんの時以外はずっとそんな感じだったし、また気ままにいろんな場所を旅しながら探せばいいだろう。

「まあ適当に旅してればきっと誰かに会えるよ」
「それもそうだね!じゃあ次はどこ行こう?」

という事で、次はどうしようかな〜って考えてたら…

「なぁ…次どこに行くとしてもちょっとウチの故郷に寄ってええか?」
「ん?ああ、そういえば隣町だっけ?」
「せや。まあ久しぶりに故郷に行くのもええかなと。どうせここからならすぐ着くしな…まあ商人修行も終わっとらへんし、実家に行くかはまだ保留やけどな」

カリンが自分の故郷に行きたいと言い出したのだ。
たしかカリンの故郷は、この樫紅の隣町である倭光(わみつ)だったはずだ。
すぐに着くという事だし、ならばまずは倭光に向かおう。

で、それからどうしようかと思ってたらノーベさんが…


「へぇ…カリンの故郷は倭光か…なら大陸に戻るのも良いんじゃないのか?」
「へっ!?」


倭光に行くなら大陸に戻るのも良いのではないかと言ってきた。何故?


「だって倭光なら大陸行きの船もあるだろうし、ジパングに他の姉妹がいるかもわからないから一回大陸に戻ってみてはどうかと思ったのだが…」
「せやな…たしかに大陸行きの船も出とるな…ウチはもちろん乗った事ないけどな…」

ノーベさん曰く、どうやら倭光も港町らしく大陸行きの船もあるらしい。
一回大陸に戻ると言うのはジパングよりは大陸に居るお姉さんのほうが多いと判断しての案だろう。

さて…まだジパングで旅を続けるか、それとも大陸に戻ってみるか…どうしようか……

「大陸に戻ってみるか…どうするアメリちゃん?」
「ん〜…みんなはどうしたい?」
「俺はアメリちゃんについて行くだけだよ」
「ウチはちょっと気になるけど…まあアメリちゃんが決めるべきやな」
「アタイは…ジパングじゃないなら記憶の手掛かりがあるか微妙だけど…いろいろ見てみたいから大陸も行ってみたいと思ってるからどっちでもいいよ」
「う〜ん…そうだなぁ…」

皆はアメリちゃんに合わせるらしい…もちろん私もだが。
それを聞いたアメリちゃんは「う〜ん」と唸りながら長く悩んでいたが…




「…うん、決めた!たいりくにもどってお姉ちゃんさがす!!」




どうやら大陸に戻る事を決めたらしく、明るく元気にそう宣言した。


「なら早速倭光に行くか!!」
「そうだね!という事でノーベさん、お世話になりました!!」
「ああ、こちらこそ!機会があったらまた会おう!!」
「うん!じゃあね〜ノーベお姉ちゃ〜ん!!」

なので私達はノーベさんとお別れして、倭光に向かって歩きだした。



「アメリ可愛かったな…私もあんな時期があったのだろうか…?」
「おーいノーベちゃ〜ん…」
「ん?あ、メーデお姉様!!」
「なんだか〜アメリとお話してたら会いたくなっちゃって〜今日来ちゃった〜!!」
「そうですか…まあ私もそう思ってたところです。忙しくてなかなか機会が作れなさそうだったのでお姉様のほうから来てくださってとても嬉しいです!」
「えへへ〜。じゃあお仕事始めるまでわたしとお喋りしよっか〜」
「そうですね!では家の中へ…」




……………



…………



………



……








「さあここが倭光やで!!」
「おお!賑やかだな!!」

現在16時。
カリンが言ったとおり、樫紅からあっという間に倭光まで辿り着いた。
港町らしく、海が近いからか風に乗って潮の匂いがする。

「ほら、そこの可愛らしいブランコがある公園…なつかしいわ〜…あそこでウチはよく遊んどったわ〜」
「へぇ…しかしお店が結構多いね…港町だからかお寿司屋さんが多い気もするけど…」
「まあ魚介系は結構この町の産物やからな!祇臣の物より美味い…とまでは言わんけど、やっぱこっちのが昔から親しんどるからなぁ…」

やはり故郷に戻ってテンションが上がっているのか、カリンがいつになく嬉しそうに町を歩いていた。
町に入ってからその表情は笑顔のままである。


「おお、花梨ちゃんじゃねえか!!町に戻ってたんか!!」
「あ、魚屋のおっちゃん!!久しぶりやな〜!ちょっと近くまで来たから寄ったんやよ!!」
「そうか…たしか5年ぶりか……」

そのまま大きな通りを歩いてたら、魚を運び売りをしているおじさんが声を掛けてきた。
どうやらカリンとは知り合いらしく、親しそうに話をし始めた。


「あ、そうだ花梨ちゃん…」
「ん?なんや真剣になって…なんかあったんか?」
「ああ…ちょっとな…」

と、ここで先程までのテンションを落とし、深刻な顔になったおじさん…
どうやら良くない事が起こったようだが……


「花梨ちゃん、今すぐ家に戻りな…」
「え?何なの?何かあったんか?」
「花梨ちゃんのお父さんがな……あ」
「あ?どうしたんやおっちゃん?」

カリンのお父さんの身に何かが起こったらしく、それを伝えようとしていたのだが、おじさんは何かを見つけたらしく言葉を途中で切ってしまった。
いったい何を見たのか気になるので目線の先を追ってみたら…




「あ、花梨!!あんたちょうどええ時に戻ってきたんか!!一時帰宅か修行を終えたんかは知らんがちょっと家に戻ってきてくれへんか!?」
「あ、お、オカン…!!久しぶりやな!!残念ながら一時帰宅や!」
「そうか…って挨拶は後でええ!はよ家に!!」
「おお、わかった…オトンがどうした…ん………あ…しもうた……」
「ん?なんや……ああ、もしかして…」
「うん…お察しの通りや……オカンのせいでバレてもうた…」



そこには、綺麗な女性がいた。


カリンの話からすれば、その人物はカリンのお母さんだろう…


たしかに顔つきや話し方なんかはカリンとそっくりだが……



「え?どういう事なの?」
「花梨…あんたまさか……」
「……やっぱりか……」
「あーあ…バレちゃったねカリンお姉ちゃん……」
「あ、あははは……」



そのカリンのお母さんは……



茶色いセミロングの髪と茶色い瞳を持って……



頭の上には髪と同じ色の丸い耳が、足にも茶色いふわふわとした毛が生えており、腰にはふっくらしている尻尾がある…



つまり、カリンのお母さんは……魔物の『刑部狸』だった。
12/06/27 22:36更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
『○カリオ貰いにポ○セン行くか!!』とか『○ケモン新作おもしれー!!』などいろいろあって遅くなりました…
そして地味に処女作投稿から半年経過…時間が経つのが早く感じる…

そんな今回は新たなる姉で旅24で出た(今回もいますが)メーデのすぐ下の妹、ノーベのお話。
ノーベはメーデとは喋り方を逆にしてみました…なってるかな?
そして最後…故郷に着いて早々にとうとうバレちゃったカリン…まあ皆さんにはバレバレでしたがw

という事で、次回は倭光のカリンの実家でのお話…の予定。
もちろんカリンのオトンは生きてますよ。

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