連載小説
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旅29 よい子達の無人島サバイバル生活!!
「それじゃあバイバイカリンお姉ちゃん!!」
「またなカリン!絶対大陸に来いよ!!」
「花梨…この角飾り、大事にするからな!!」
「じゃあねカリン!!私の毛、欲しくなったら会いにきてよね!!」
「おう!皆…またな!!絶対会おうな!!」


現在10時。
私達は大陸行きの船に乗る……前に、倭光の実家に残るカリンとお別れの挨拶をしていた。
お別れと言っても…いつかまた会う事を前提にしたものではあるが。

「しかしカリン…もうお店のほうは始まっているんじゃないのか?」
「ああ…オカンがちょっとならええって言ってくれたんや…やで船が出るまでは皆を見送るよ」
「そうか、ならいいけどさ…無断だったらアズキさんに怒られるんじゃないかと思ったぜ…」
「まあ無断やったら確実にオカンの説教ルートやな!」
『はははは!!』


お別れの挨拶がてら、皆で他愛の無い会話を交わして…




ブォォォォ……




「お、もう出発なんか…」
「そうだね…やっぱりカリンが居ないとちょっと寂しいな…」
「まあ…絶対ウチはまた旅に出る!!そん時はまた一緒に旅しような!!」
「うん!絶対だよカリンお姉ちゃん!!」

船の汽笛が高々と鳴り響き、出発時間だと知らせてきたので船の中に入る事にした…


そして…



「カリンお姉ちゃーん!!またねー!!」
「おー!!アメリちゃんまた会おうなー!!」
「味噌汁もっと上達させとくから、絶対だよー!!」
「わかったー!!サマリの味噌汁楽しみにしとくわー!!」
「カリン!!大陸で墓穴掘って反魔物領で捕まったりするなよー!!」
「忠告おおきにー!!んな失敗せーへんようにするわー!!」
「カリンとの旅は楽しかったよー!!アタイ絶対忘れないからー!!」
「おー!!今度会う時はスズの記憶が戻っとるとええなー!!」



船の甲板から、互いの声が届かなくなるまで叫びながら言葉を交わした……


「……もう姿も見えないし聞こえないか…」
「そうだね……ジパングたのしかったね!!」
「ああ…また機会があったら絶対行こうぜ!まあその時はどこが目的でも倭光や祇臣に寄ってさ!」
「うん!もしかしたらまだアメリちゃんのお姉さんがいるかもしれないしね…その時は皆にも会いに行こう!!」


私達はジパングでの思い出を語りながら、大陸での新たな旅を楽しみにしていた……


これから何が起こるのかを、いろいろと想像しながら……





「…行ってもうたか……」
「なんや…そない寂しそうな顔するんやったら一緒に行っても良かったんやで?」
「いや、ええ…たまには親孝行でもせーへんと…ってオカン!?なんでここにおるんや!?」
「今日は11時開店にした。あの子達の見送りも大事やからな…ところで花梨、あんたユウロ君に惚れとらへんのか?」
「惚れとらんよ。本人達は自分でわかっとらんようやけどユウロにはすでにええ相手がおるしな…」
「そう…うちはいつになったら花梨の男を紹介してもらえるんやろうな…」
「さあな。あ、そうだオカン…今度大陸に商品届けなあかん事があったらウチにやらせてな」
「まあそうやな…そん時次第では考えたるわ。そんじゃ今から店の準備や。帰るで花梨」
「おう!……ん?ちょっと待ってオカン……あれは…」
「ん?どないした花梨?海なんか見つめて……なんかおるな……あれはネレイスか?」
「おう…しかも知っとるやつかもしれん……どないしたんやろ?」




……………



…………



………



……








「う〜…なんか気持ち悪いな…」
「何ユウロ?船酔い?」
「かもしれん…ジパングに行く時は全然問題無かったんだけどな…」

現在12時…といっても、倭光を出発してから1日経過している。
私達は大陸に向かって船旅を続けていたのだが…どうもユウロが船酔いしてしまったらしい。

「情けないなあ…また寝不足か何かなのか?」
「いや…昨日は普通に眠れたぜ?というより、なんか船の揺れが昨日より大きくないか?」
「え…あ、言われてみればそうかも…」

ジパングに向かう時は全く問題無かったので山登りの時みたいに寝不足だったりしたのかと思ったけど、どうやらそうでは無く船自体が結構揺れているみたいだ。
ふと海を部屋の窓から見てみると…波が昨日と比べ非常に高い気がする。
どうやら船の揺れはこの波が原因のようだ。

「うーん…海が荒れてるなぁ…」
「あらしでもくるのかな?」
「アメリ…そんな恐ろしい事言わないで…本当に来たら嫌だな…船も沈むだろうし……」
「まあお船が沈んでも海にすむ魔物のお姉ちゃんがたすけてくれると思うよ?ユウロお兄ちゃんはもってかれちゃうかもしれないけどね…」
「本気でシャレにならねえ……まあ遠くの様子を見に甲板に行ってみるか」
「そうだね…荷物は…このままでいいか」

アメリちゃんが不吉な事を言い始めたのもあって、私達は甲板に出て海や空の様子を見る事にした…


このときに荷物を一緒に持っていってればまた違ったのだろうな……





「海の様子はどう?空は大丈夫そうだけど…というか綺麗な青い空をしているけど…」
「うーん…波以外何もないかな…魚とかも居ないから逆に変な気はするけど…」

そして甲板に出て遠くの空を見てみたのだが…まあ良い天気であり嵐の予感は無い。
海のほうは…変わらず波が立っているだけ……ん?


「ねえ…なんかおかしくない?」
「ん?何が?」
「ほら…なんか微妙に船が回っているような気が……」

その波を見ていると…何重もの円のようになっているような気がした。
いや…気がしたのでは無く…実際に何重もの円…というより渦状になっている…

「…ってこれまさか!?」
「う、渦潮dうわあっ!?」

渦潮が発生しかけていると認識した瞬間、船が突然高速で動き始めた。
そう…渦潮が本格的に発生したのだ!


「あわわわわわわわわ〜!!」
「ア、アメリちゃん、何かにしがみついて!」

唐突に船の速度が上がって大きく揺れ始めた。
本当に突然の事だったので、体重の軽いアメリちゃんがあっちこっちに吹き飛ばされている。

「な、何かって言っても〜みぎゅ!?」
「おっし!アメリちゃん回収成功!」
「よしナイスユウロ!!ってわあっ!?」

だが同じく飛ばされていたユウロが無事に片手でアメリちゃんを抱き寄せ、もう一方の手で手摺に捕まった。
これで安心かと思いきや、今度は船が大きく傾き始め……そして……



「はっ!?この船沈んでやがる!!」
「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
「なんだよこの渦潮!?まさか魔物か!?」
「ちょ!?オイラ泳げねえんだけど!?」
「うっそだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「えー…」
「何かに捕まらなきゃ!!」
「どうなってるんだこれ!?」
「う、うわああああああああああああああああああああああああ!!」



私達も含めた乗客全員を巻き込んで、船は渦に飲み込まれて…沈み始めた……




…………



………



……






=======[ユウロ視点]=======




白く光る砂浜…

夕焼けで紅く染まる空…

視界に広がるオレンジの海…

頬を撫でるそよ風とそれに乗ってくる潮の香り…





「これで遭難してなければ最高なんだけどな〜」
「そこ!文句言ってないでもっと魚を獲る!」




こんなロマンチックな夕方の海辺で、俺は食糧調達をしていた。
スズお手製の網(ほぼ輪の形になってた枝と真っ直ぐな枝とスズの糸を組み合わせて作った)を使って、腰辺りまで海に浸かって魚を獲っている。

「へいへい……スズのほうは焚き火に使えそうな木を拾ってきたのかよ?」
「もちろん。こんなもんでいいか?」
「あ〜…たぶん大丈夫だろ」

何故こんな状況になっているかというと…乗っていた船が魔物『カリュブディス』のせいで沈んでしまったからである。
アメリちゃんが「これはきっとカリュブディスさんがおこしたものだよ!」って言ってたから間違いないと思う…なんとまあ迷惑な。

「それで魚は?」
「ん〜…まあ夜に腹が満たされる位は獲れたかな…明日の朝獲るの面倒だからその分もあった方がいいかと」
「そうか…それじゃあこの木を置いてきたらそっち手伝うよ」
「おう、よろしく〜」

そんでまあ沈みゆく船を俺はアメリちゃんに抱きかかえられ飛びながら、スズはちょうど船から飛ばされ浮かんでいた木箱を浮きがわりにして溺れないようにサマリを背負って、船が沈んでいくのを見送った後陸地を目指して潮に流されつつ泳ぎ始めた。
運が良い事に1時間ほどで陸地が見えたので、俺達は頑張って上陸し今に至る。


「はぁ…しっかしまあ荷物さえあればこんな事しなくて済んだのにね…」
「言うなよ…無い物を望んでも仕方ないだろ?」

船が沈んだのは唐突な事だったので俺達は自分達の荷物を回収する事が出来なかった。
全員荷物はアメリちゃんの『テント』の中に置いていたが、その『テント』自体がアメリちゃんの他の荷物と一緒に海の底に沈んでいるので今俺達の手元には何もないのだ。
せめて『テント』さえあれば食糧と寝る場所と着替えとその他もろもろの問題は解決出来たのだが……無いものは仕方がない。


「おーいユウロお兄ちゃーん!!スズお姉ちゃーん!!」
「ん?お、アメリちゃん」

と、上空から可愛らしい声が聞こえてきた。
上を見ると、この島を空から見渡しに行っていたアメリちゃんがこちらに向かい飛んできていた。

「どうだった?」
「うーん…見たところ人も魔物もいなかった…海の近く以外は森ばっかで、一応大きなみずうみみたいなのが森の中にあった」
「マジか…って事はやっぱここは無人島かー!!」

この島の海岸は人の手が加わった形跡が一切無かったのでもしかしたらと思っていたが、やはり無人島だったか…
これは本気で助かるかわからなくなってきた…

「このままじゃアタイ達マズイんじゃ…」
「まあな…最悪どの方角に行けば人がいる島に着くかわかればアメリちゃんに飛んでもらって助けを呼べるけど…それも難しいよなぁ…」
「うーん…お船が近くをとおるといいんだけどね…」

しかし…いくら嘆いても現状が良くなるわけではない。

「まあ…これだけ魚があれば明日の朝の分まであるかな…」
「そうだね…一応木の実や食べられそうな野草は摘んでおいたから、それと組み合わせれば大丈夫だと思うよ」
「それじゃあサマリお姉ちゃんがねてるとこまでもどろう!!アメリとびつかれてへとへとだよ〜…」

とりあえず俺達はある程度魚を獲ったので、サマリが寝ている場所まで戻る事にした。

「しかしまあ結構時間経ってるからサマリも大丈夫だよな?」
「たぶんね…しかし、ほとんどアタイが泳いでた気がするけど…なんであんなにへばってたんだ?」
「きっとサマリお姉ちゃんの毛がお水をいっぱいすって重かったんだよ…それにお姉ちゃんおよぎあまり上手じゃなさそうだしね」

俺達全員が頑張っている間、サマリが寝ている理由は…身体が重いとのこと。
最初は海に浸かっていた事によって風邪でも引いたのかと思ったが、そんな事も無かった。
ただ…全身の毛が今まで見た事無い程水を吸っていたのが原因だろう。ぼたぼたと水滴が落ちていたほどだ。
なので近くにあった岩場で日光に当て乾かしていたら…すっかり熟睡していたのでそのまま放置しておいたのだ。

「はぁ…まあ焚き火の火種はアメリちゃんの魔法でなんとかなるか?」
「うん…アメリおなかすいてつかれてるけどがんばる…」
「そ、そうか…無理はするなよ?無理そうなら原始的な方法で頑張るからさ」
「まだ大丈夫だよ…ところでユウロお兄ちゃん、なんでパンツ穿いたまま海に入ってたの?」
「脱いだら海にいる魔物や身近な3人に襲われる気がしたからです」
「ああ…アタイらはともかく海に棲む魔物のほうは納得した」

まあ全裸で海に入れば魔物が釣れて助けを呼べるかもしれないけど…それだけはしたくない。
それに、魔物は精だけで生きていける…つまり極限まで追い詰められたらアメリちゃん含め3人とも理性を捨てて俺に襲いかかってくる可能性もあるし…それまでになんとかしなければな…


「あ、ついた…サマリお姉ちゃん何してるんだろ?」
「さあ……まあ動けるようにはなったっぽいな」

喋ったり考え事をしながら歩いているうちにサマリが寝ていた場所に着いた。
どうやらサマリは起きたようで、そこではサマリが自分の身体を手で払ってたり飛び跳ねたりしていた。

「おーいサマリー、何してるんだー?」
「ん?ああ、皆おかえりー。身体中の毛についてる塩を払い落してるの」

そう言ったサマリの足元の岩を見てみると…たしかに塩らしきものがたくさん落ちていた。
どうやら海水が蒸発して塩だけが毛に残っていたようだ。

「ああ、だったらその塩魚焼くのに使おうぜ」
「え…これ使うの?」
「大丈夫だろたぶん。塩あった方が焼き魚美味いしさ…」
「うーん…まあいいか…」

まあ自分の一部に付いていた物を使うのは抵抗あると思うが、まあ別に汚くは無いだろうし、いつもと違い限られた物しか使えないのだから使える物は使っておきたい。

「そんじゃあ調理はサマリとスズに任せるぞ。俺とアメリちゃんはアメリちゃんが見つけた湖みたいなものを見てくる」
「わかった。飲めそうならスズが拾ってきたこの何かの実の殻に入れてきて」

海の水を飲むわけにはいかないので、先程アメリちゃんが言っていた湖みたいなものを見に行く事にした。
淡水ならいいが…海の水が流れ込んで出来たものだったら最悪だな…

「了解!それじゃ行こうかアメリちゃん。案内してくれ」
「うん!でもその前に火を点けるね!!『フレイムスパーク』!!」

そういってアメリちゃんはスズが拾ってきた木の束に向けて火の粉を飛ばす魔法を使った。
上手くいったようで、丁度良い感じの大きさで燃えている焚き火が完成した。

「よし、じゃあ行くか…アメリちゃん疲れてるならおんぶしてあげようか?」
「そこまではいいよ…ちょっとはずかしいし…それにユウロお兄ちゃんがつかれちゃうもん。だから手をつないでいこ!」
「オッケー。そんじゃ行ってくるよ」
「いってらっしゃーい。こっちも出来るだけおいしくなるように作っておくよー!!」

この場でする事も済んだので、俺はアメリちゃんと手を繋ぎながら湖みたいなものを見に行く事にした。




…………



………



……








「んく……ん〜…たぶん大丈夫だと思う…」
「ホントに?じゃあアメリものんでみていい?」
「うん…じゃあこれ使って水を掬って飲んでみて…」
「うん……こくっ……ん〜たぶん大丈夫だね〜…」

アメリちゃんの案内で湖に辿り着いた後、俺は水が飲めるものかどうかをはっきりとさせるために一口飲んでみたところ…まあ美味しいとまでは言わないが普通に飲める水だった。
アメリちゃんも飲んでみると言ったので持ってきた木の実の殻を渡し、それを使って飲ませた…飲んだ結果アメリちゃんも俺と同じ感想を残した。

「そんじゃ水をこれで汲んで持って帰りますか…」
「そうだね。早くごはんたべたいなー」

まあ飲めそうだという結論が出たので、持ってきた木の実の殻に水を汲んで戻る事にした…


「…ん?ねえユウロお兄ちゃん…」
「ん?どうしたアメリちゃん?何かあったのか?」
「うん…あれ…みずうみの向こうの森のほう…木と木の間…おうちみたいなのがある」
「えっ!?あ、ホントだ!!」


…のだが、水を汲んでいる最中にアメリちゃんが何かを発見して声を上げた。
おうちみたいなものがあると言ったのでアメリちゃんが指差すほうを見てみると…たしかに小屋があった。
あるにはあるが…人が居るわけではなさそうだった。

「灯りとかは点いてないから誰か居る可能性は低いか…なんかボロイしね」
「そうだね…でも今お姉ちゃんたちがいる場所でねるよりはいいかもしれないよ?」
「それもそうか…だったら一旦戻って、ご飯食べてからもう一回ここに来てみるか。それであの小屋を調べてみようぜ」
「そうだね。アメリ早くごはんたべたいしそうしよっか!」

という事で、小屋の事は一旦おいといてまずはサマリ達のとこに水を持って戻り、ご飯を食べてから改めて小屋を調べる事にした…




…………



………



……








「ただいまー!!」
「あ、おかえりー。どうだった?」
「飲めそうだったから汲んで来た。ほらこれ」
「ありがと。早速ちょっと飲もうかな…」

空に昇る煙と湖までの道の記憶を頼りに戻った俺達。
サマリ達も順調に魚を焼いているようで、香ばしい匂いが漂ってきている。

「サマリお姉ちゃん、まだお魚さんたべちゃダメ?」
「うーん…もうそろそろ大丈夫かな。熱いから気をつけて食べるんだよ」
「うん!じゃあアメリこれにしよ!」

しかも丁度完成したところだったようなので、早速食べる事にした。

「いただきまーす!!はむっ…あちっ!!」
「熱いから気をつけてって言ったじゃんか…はいお水」
「こくっ…あつかった〜…だっておなかすいてたから…でも気をつけてたべよ!」
「さてアタイ達も食べるか…どれどれ…」

直に焼いているので相当熱くなっているが、お腹が空いて我慢出来なかったアメリちゃんは魚に齧り付いて…あまりもの熱さで少し涙目になった。
そんなアメリちゃんを注意した後、残る俺達も食べ始める事にした。

「むぐむぐ…おいしー!!」
「うん…塩加減がいいな…流石サマリだ」
「いやあそれほどでも…魚を刺したりして焼いたのはスズだし、おいしく出来たのはスズのおかげだよ」
「いやいや…この美味しい味を出せてるのはサマリの下地が良いからだよ」

ホクホクとした魚の身は脂がのっていて、塩が程良いアクセントとなっていてかなり美味かった。


「ごちそーさまでした!!アメリまんぞく!!」
「アメリちゃん3匹も食べたもんな。よっぽどお腹空いてたんだな」
「うん。今日はずっととんでたからへとへとだったもん」
「はは…ありがとなアメリちゃん」
「どういたしましてユウロお兄ちゃん!」


今自分達が遭難中である事を忘れそうになるほど充実した夜ご飯だった。




……………………




「湖の近くにそんな小屋があったんだ…何か便利な物があるといいけど…」
「そうだな…まあ人は住んで無さそうだったけどな」

夜ご飯の後処理が終わったので、俺はサマリとスズに先程発見した小屋の事を話した。
もしかしたらどこかに連絡する手段があるかもしれないし、無いとしてもこの無人島で生活していくのに便利な物があるかもしれない、最悪何もなくても雨風を避ける事が出来るのでその小屋に行く事になった。

「で、その小屋ってあれのことか?」
「おう、そうだけど…あれ?」

サマリ達に説明しながら歩くこと数分、湖まで到着したのだが…

「…おっかしーな…なんで明るいんだ?」
「ん〜…誰かいるのかな?」

何故かさっきの小屋の内部がほんのりと明るかった。
オレンジ色の明かりだから一瞬小屋が燃えているのかと思ったが、煙が発生していないので蝋燭か何かだろう。
問題は…明らかに誰もいなさそうな小屋でさっきまで無かった灯りがあるのかという事だ。

「あれ?さっきまでわからなかったけど…あの小屋にいるの魔物だよ」
「え!?マジで!?」
「うん…とりあえず行ってみようよ!もしかしたらお船か何かで来たのかもしれないし、それならアメリたちたすかるよ!!」
「それもそうか…それじゃあ行ってみるか…」

アメリちゃんが言うには、あの小屋に魔物がいるらしい。
どんな魔物かはわからないけど…さっきまで居なかったのに今居るという事は、俺達がご飯を食べている間にどこかからここに来た可能性が高い。
それが島の外からならば助けてもらえるかもしれないので、少し怖いが小屋に入ってみる事にした。





「すみませーん!!誰かいますかー!!」
「……」
「……あれ?反応無いね…」


小屋の目の前まで来て、扉の前で大きな声を出してみたのだが…いくら待っても反応が無い。

「どうする?」
「うーん……あれ?」

どうしようか悩みながら、とりあえず取っ手を握ってみたら…扉が少しだけ開いた。
どうやらこの小屋には鍵が掛かっていないらしい。

「鍵は掛かって無さそうだ…勝手に入るか?」
「でも勝手に入って良いのか?アタイはどうかと思うけど…」
「まあ…でも助かるかもしれないんだし、入ってどんな魔物がいるのかの確認ぐらいしようぜ」
「うーん…まあ悩んでても進展しないか…なら入ってみようか…」

なので俺達は勝手に扉を開け、小屋の中に入る事にしたのだが…


「……ねえ…おかしくない?」
「ん?何がだよサマリ?」
「なんでさっきまで明るかったのに今少し開いている扉から灯りが漏れて無いの?」
「ん?……そういえば…扉が2重になってるとかじゃ…」
「あれ?ねえねえ…小屋のあかりがなくなってるよ…」
「へ?あ、ホントだ…なんで?」


さっきまで点いていた灯りが無くなっていたのだ。
俺達が来た事によって消したのか…それとも別の理由かはわからないが…なんか奇妙だ。

「ねえ…怖いから帰ろう…」
「でもスズ、怖いから帰るって言ってもどこに?さっきの海岸?」
「そ、それは…」
「それに中に居た魔物に何かが起こった可能性もあるし、入るべきじゃない?」
「そ、そうだよね…うん、入ってみよう!!」

奇妙だが…何も無い今この現状では、この小屋だけが頼りでもある。
なので怖がるスズをサマリが説得して入ってみる事になった。



「…おじゃましまーす…」
「…誰もいない?」
「…でも…それならさっきのあかりは?」
「うーん…とりあえず中を調べる?」

とりあえずゆっくりと扉を開けて中を覗いてみたが…誰も居なかった。
しかも扉の向こうは一部屋しか無く、さらに灯りの発生源らしきものは見当たらなかった。
ついでに言うと人の気配も無い…でもアメリちゃんは魔物がいるって言ってたし…



少し不気味だが、詳しく小屋の中を調べてみようとした、その時である…



ピカッ


「たああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うおっ!?な、なんdぐへあっ!!」
「きゃ!?な、なに!?」


突然視界の淵が仄かに光ったかと思ったら、可愛らしい叫び声が響き、俺は何かに蹴られたような感覚が横腹に発生した。
その蹴りみたいなもののせいで俺は盛大に倒れる事になってしまった……とても痛い。


「強盗は出てけー!!ここは私とご主人様の家だー!!」
「いってぇ…いきなり何しやがr」
「強盗は帰れー!!」
「ごはっ!!か、顔を蹴るな!!つーか俺達は強t」
「ご主人様の留守は必ずまもーる!!」
「ぎゃっ!!」

可愛らしい声の持ち主は俺達の事を強盗だと思っているらしく、こっちの話を聞かずに叫びながら蹴ったり叩いたりしてくる。
まあ被害を受けているのは俺だけだけど…つーか誰か助けて……

「強盗は消えろー!!ご主人様が帰ってくる時までには消えろー!!」
「いたっ!痛いって!!やめろって!!」
「…なんか楽しそうだけど…そろそろユウロを助けよっか…」
「いや早く助けてあげなよ!?たしかにじゃれ合ってるだけに見えるけどたぶん相当痛いよアレ」

なんかサマリが少し酷い事を言っているような気がするけど可愛い声の魔物に叫びながら攻撃され続けてるせいで良く聞こえない。
そもそも俺を強盗だと思って攻撃し続けているこいつはいったい何の魔物だ?
顔を蹴られる時何故か目の前が光に覆われるからイマイチ相手の姿が確認出来ないでいる。

「強盗めー!!私が退治してyむわっぷ!?」
「はーい落ち着いて〜。私達は強盗じゃないよ〜」

突然叫び声と攻撃が止んだと思ったら、どうやらサマリが例のもこもこなんたらをしたようだ。
自分の毛を、俺を攻撃していた魔物の顔に押し付けている。

「ご、強盗じゃないならなんだ!!ご主人様の命を狙う暗殺者か!?」
「ちがうよー!!アメリたちはそうなんしゃだよ!」
「そうなん…遭難者?嘘だ!!」
「うそじゃないもん!!アメリたちはごうとうじゃないもん!!」

俺達が遭難者だと言っても信じないこいつは…

「…提灯おばけか?」
「私は提灯おばけの牡丹(ボタン)ですがそれがなんですか強盗さん…まさか私に強姦するつもりじゃ…嫌だ!!私を襲っていいのはご主人様だけだー!!」
「するわけねーだろバカ!」

一見ジパング人の女の子のようにも見えるが、お腹…というか臍辺りには弱い灯火が存在し、足首には半分になった提灯みたいなものが付いていた…つまりこの女の子は『提灯おばけ』である。どうりで蹴られた時眩しかったわけだ。
ボタンと名乗る提灯おばけは先程までの勢いが無い…どうやらサマリの毛皮が効いてきたようだ。

「つーかお前のご主人様とやらはどこに居るんだよ!?この小屋見てる感じじゃあ人が生活してる感じはしないぞ?」
「そ、それは…でもご主人様はきっと私の為に帰ってきてくれるんだ…」

そしてこの提灯おばけのボタンが言うご主人様だが…本当にいるのだろうか?
だって…この小屋の内部には生活していた跡はたしかにあるのだが、埃の積もり具合からして2週間以上は誰も住んでいなそうである。
それに…そのご主人様の話をした途端、ボタンの様子が少しおかしくなった。
サマリの毛皮で眠くなっただけとは思えない程表情を暗くして…俯いて呟くようにしか声を発さなくなった。

「ご主人様は…帰ってきてくれる?」
「そうだ…絶対帰ってきてくれるんだ…」

そして、少し泣きそうな顔になって……





「私を捨ててどこかに行ったわけじゃないんだ……!!」
「…っ!?」





自分は捨てられたんじゃないと、自分に言い聞かせるように…弱々しく叫んだ。









『ごめんなさい…もうしないから…』

『おねがい…すてないで…』

『そんなこと…言わないでよ……おかあさん…』



『ボクは…………ダメだったの?』









「……」
「ん?どうしたのユウロお兄ちゃん?かお色わるいよ?」
「いや、何でも無いよ…大丈夫」

そんなボタンの叫びを聞いたら、嫌な事を思い出してしまった…
それが顔にでも出ていたのだろう…アメリちゃんが俺の顔を覗いてきて心配していた。



…俺は今更何を思い出してるんだか……もう関係の無い事なのにさ……



====================



「早とちりしてごめんなさい…よく考えたらこの島には元々ご主人様以外誰も生活してませんでしたね…」
「いえいえ…まあ勝手に入った私達も悪いしね…」

サマリの毛の効果やいろいろあったりして少し落ち着いてくれたので、俺達はボタンに事情を説明する事が出来た。

どうやらこの小屋はボタンのご主人様とやらがこの無人島の自然の研究を行う為の拠点のようだ。
その証拠として本棚には植物図鑑や成分表みたいなものが入っているし、フラスコや試験管など科学者が持ってそうな物が結構小屋の中にあった机の上に置いてあるし、この島で採ったであろう土や植物がそれらの試験管に入っていたりしている。

「それで…お前のご主人様とやらはお前に何か言ってからどこかに行ったのか?」
「ううん…私が喋って動けるようになったのはついこの前だから…ご主人様が居なくなった2週間前はただの提灯だったから特に声は掛けられてないよ」
「そうか…じゃあなんとも言えないな…」

そして俺達はボタンの話を詳しく聞いてみる事にした。
放っておけはしないし、何よりそのご主人様がどうしたかが気になったからだ。

「うぅ〜…やっぱり私捨てられたんだ〜…」
「い、いや、そんな事無いって!!今まで大切にされてたんだろ?だったら大丈夫だって!!」

自分は捨てられたんだと嘆くボタンであるが…作られたばかりの頃にそのご主人様に買われ、以来15年間ずっと大事に扱われて

きたのだから捨てられたとは思えない…きっと何か事情があったに違いない。

問題は…その事情が何かという事だ。
無事なら良いが…もし海に沈んでたりしたら…生きてはいる可能性は高いけど戻ってくる可能性は低いだろうな…



「……なあ…そのご主人様って…どんな姿してた?」
「へ?えっとですね…」

と、ここでさっきから一言も喋っていなかったスズが口を開いた。
どうやら何か引っかかるらしく、何かを考えている表情のままボタンにそのご主人様の姿を聞いた。

「ご主人様は…ジパング人らしい黒髪、黒い瞳で髪は短い男の人です。身長は170センチ程で意外とがっちりした体形で…眼つきは鋭くて年齢は24です」
「ふんふん……もしかしたらそのご主人様って…あの人かなぁ…」
「えっ!?ご主人様にあった事あるのですか!?」

そして特徴を聞いたスズは自信を持った表情でうなずいた…どうやら思い当たる人物がいるようだ。

「スズお姉ちゃんあったことあるの?」
「ああ…というかさ、たぶんだけどその人、3日前にたぬたぬ雑貨に船のパーツは無いかって来た人じゃない?」
「え?……ああ!!きっとそうだよ!!今ボタンちゃんが言った特徴が全部当てはまってる!!」
「ああ、あの人か!!」

スズがそう言って思い出したが、たしかに3日前たぬたぬ雑貨に短い黒髪で黒目の、それに身長は俺(165センチ)より少し高く170センチ位で眼つきは鋭かった船のパーツを買いに来ていた男の人がいた。
状況や特徴から考えて、きっとこの人がそのご主人様だろう。
船のパーツなんか求めてどうするんだろうと思ったが、この無人島に戻る為となれば合点がいく。

「ならきっと何かしら問題があって一旦ジパングに戻ったはいいけど、船が壊れたか何かでここに戻れなくなっているだけなんじゃないかな?」
「そうなのですか!?じゃ、じゃあご主人様は私を捨てた訳じゃないのですね!!」
「まあ100パーとは言い切れないけど、ほぼ間違いなくそうだと思うよ」
「そっかあ〜…私は捨てられたわけじゃないんだ…やったあー!!

その事を伝えたら、ボタンは涙を流しながら大喜びし始めた。
余程嬉しいのだろう…お腹の炎が会ってから一番明るく大きく燃え上がっている。

「ま、いつかくるだろ…最悪明日海岸で船か何かが近く通ったら一緒に連れていってもらおうぜ」
「そうだね。そのほうがボタンちゃんも早くそのご主人様に会えるもんね」
「ありがとうございます!!わーご主人様に会えるんだーえへへ〜♪」

さて…話もまとまった事だし…

「ふぁぁ〜……アメリもう眠い…」
「ああ、今日はいろいろあって大変だったもんな…眠くもなるか」
「あ、でしたらこの毛布をお使い下さい。ちょっと埃っぽいですが何も無いよりはいいかと」
「ありがとう!じゃあ皆で寝て、明日の事は明日考えよう!」
「そうだな…そんじゃあおやすみ……」

アメリちゃんが眠いと言ったのでこの話をやめ、俺達は皆で小屋で寝る事にした。
ボタンに渡された毛布はたしかに埃っぽかったが、何も無いよりはかなりマシで、疲れもありぐっすりと眠る事が出来た…




…………



………



……








「さて…海岸に来てみたはいいけど…」
「やっぱそうそう船なんか通ってこないか…」

次の日の朝。
俺達は船でも通りかからないかと思いながら、取り合えず海岸に来たが…それっぽいものは見当たらない。
まあ他にやる事も無いので、俺とサマリはボーっと遠くを見ていた。

ちなみにスズとアメリちゃん、それにボタンは…

「みてみてー!!砂のおしろー!!」
「おおっ!?凄いじゃないかアメリ!!なんかそれっぽいぞ!!」
「おー凄いよアメリちゃん!!お城をどこかで見た事ある…よね。アメリちゃんって魔王様の娘さんだもんね」
「うん!でもおうちはこれよりもっと大きいよ!!」
「凄いなそれ…アタイもお城とか大きいところに住んでみたいなぁ…」
「私もです…」

砂浜で仲良く元気に遊んでいる。
どうやら3人それぞれで砂で何かを作っているようだが、アメリちゃんが作った砂のお城が半端じゃない。
細部もきっちり作られているし、なんで砂で作られてるのに座ったアメリちゃんサイズで存在しているのだろうか?

「はぁ…まあこれも助かれば楽しい思い出になるんだろうなぁ…」
「ああ…助かれば楽しい旅の一部だわな…はぁ……」

一方俺達は元気なく現状をぼやいていた。
どこかの神が特に信仰とかしてない俺達の事助けてくれたらいいのに…それでも主神と堕落神はお断りするが。



「…ん?今何か水面から顔みたいなものが出て無かった?」
「へ?どこらへんで?」
「えっと…ほらあそこ。少し波立ってるし…」

と、都合のいい神頼みをしていたら、サマリが何かを見つけたようだ。
顔みたいなって言ってたから魔物かもしれない…もし話が通じる奴なら助かるかもしれない!

そう思ってじっと水面を見ていたら……



ザバーンッ!



「あー!!やっぱりサマリ達だー!!よかった〜ここに居たんだー!!」

水面から青い魔物が現れた…何故かサマリの…というか俺達の事を知っているようだ…




「あ、リ、リンゴ!!リンゴじゃんか!!久しぶり〜!!」
「久しぶりー!!元気そうで良かったよ!!」




…って良く顔を見たら知っている人物だった。
青い魔物の正体は…ネレイスのリンゴだったのだ。

「あ!!リンゴお姉ちゃん!!」
「…誰?」
「えっとね…スズお姉ちゃんに会うより前にアメリたちといっしょに旅していたネレイスのリンゴお姉ちゃんだよ!」
「へぇ〜…林檎か〜…」
「あ、あなたがスズね!わたしは林檎、よろしくね!!」
「う、うん!よろしく林檎!!」

そういえばスズとリンゴは出会った事無かったっけ…
あれ?じゃあなんで林檎がスズの事を知っているのだろうか?
まあそれは今はおいといて…


「なあリンゴ…どうしたんだこんな所で?ツバキは?」


何故リンゴがここに居るのかを聞いてみる事にした。
どうやら俺達を探してくれていたようだけど…そもそもどうして俺達が遭難している事を知っているのだろうか?

「えっとね…椿ったら毎日わたしとセックスしてるのになかなかインキュバスにならないからさ〜、一昨日サキュバスの秘薬が売って無いか双母に行ったら『倭光の大きな雑貨屋なら売っているかも』って言われて行ってみたんだけど…」
「倭光の大きな雑貨屋…って言ったら…カリンの実家のお店かな?」
「そうそう!倭光に着いたら刑部狸になってる花梨に会ってさー、花梨は人間だって思ってたからもの凄く驚いたよ!」
「だよねー、私も驚いたもん…で、それがどうしたの?」
「それで花梨に聞いたら売り切れてて、次の日に入荷するって言ってたから昨日改めて行ったんだよ。そしたらサマリ達が乗った船が沈没したって情報が入ったから昨日からずっと探して今見つけたってわけ」
「なるほど…それはありがたい。助かったよリンゴ!」

なるほどね…カリンのお店に行ったから俺達の情報が入ったわけか。
ホント凄い偶然だな…信仰してなくても助けてくれる神っているんだな…

「それじゃあリンゴ、俺達の場所もわかった事だからどこかから助けを呼んできてくれ!!」
「あ、待って…その前に…はいこれ!」

リンゴが来てくれたのでこれで助けを呼べると思い、リンゴに助けを呼んできてと頼んだが…その前にと何かを持っていた右手を水面から出した。
その何かとは…

「あ!アメリのリュック!!」
「やっぱりこれアメリちゃんのだったか。なんとなく見覚えがあったから海の底に沈んでいたのを拾っておいたんだよ!」
「わーいありがとーリンゴお姉ちゃん!!」

一緒に旅をし始めてから毎日見たアメリちゃんのリュックだった。
これで旅を再開しても今まで通りの旅が出来る。



「それじゃあ助けを呼んでくるけど…ここまでジパングからはかなりの距離があるし、普通の船だと何日か後になっちゃうけど大丈夫?」
「マジで!?まあ一応『テント』も戻ったし大丈夫だけど…待ち時間長いなぁ…ボタンが大丈夫かどうか…」
「牡丹?ああ、そこにいる提灯おばけ?」
「おう…ちょっとお腹の火が弱めだし、そろそろ精が無いとマズそうだからな…あ、既に相手が居るから俺があげればとか言うなよ?」
「言わないよ…でもそうね…」

これで助かると思ったが、どうやら助けが来るのは何日か後になるらしい。
まあ大型の船で丸一日以上進んだ場所にある島だからな…小型の船ならそれ以上掛ってしまうだろう。
そうすると人間の男性の精を糧とする提灯おばけのボタンが危ない…実際さっき魚を食べさせたけど、炎はほとんど元気にならなかった。

「ならさ…牡丹だけわたしが先ジパングに連れていこうか?」
「え!?私海に入るのはちょっと…」
「いやそこに木箱が置いてあるし、それに乗った牡丹をわたしが運んで行こうかなと…なんであんな木箱がこんな無人島にあるかわからないけど」
「ああ…あれはアタイが浮きがわりにしてた木箱だよ。浮力も十分だし丁度良いんじゃないかな?」
「なるほどね…で、どうする?」

だからリンゴは先にボタンをジパングに連れていこうかと提案してきた。
最初は提灯だからか海に入るのは嫌そうにしていたが、話を聞いているうちになんとかなりそうだと思ったのかだんだん覚悟を決めた表情になっていき…

「わかった…ご主人様に早く会いたいし林檎さんと一緒に行く…なるべく水に浸からないようにお願いします!!」
「じゃあ決まりだね!早速準備してね!」

先にリンゴと一緒にジパングに行く事を決めた。



「それじゃあ皆はもう少し待ってて。それまでに死んだりしないでね!」
「縁起でもない事言うなよ…でもなるべく早く来てくれると助かる」

海に浮かべた木箱の上にボタンを乗せ、リンゴが出発しようとした時…



ポチャン……



「あの〜…ちょっとお話が聞こえたのですが…もしかして遭難者ですか?」
「ん?」

そう言いながら、すぐ近くに女の人の顔が水面に現れた。

「そうだよシー・ビショップのお姉ちゃん。アメリたちそうなんしてるの」
「そうですか…」

アメリちゃん曰くこの女性は『シー・ビショップ』であるらしい。
たしかによく見ると下半身はエメラルド色の鱗が輝く魚みたいになっている。

で、そのシー・ビショップさんはちょっと何かを考えた後…



「でしたら…私達の船に乗ります?」
「へ?」



私達の船に乗らないかと言ってきた…どういう事?


「あ、申し遅れました。私はシー・ビショップのサフィアと言います。キッド…私の夫が船の船長をしているので、この島で皆さんを私達の目的地である大陸の『リオクタ』でよろしければ乗せてもらえるようキッドに頼んでみますが…」

どうやらこのシー・ビショップ…サフィアさんの旦那さんであるキッドって人が船の船長をしているらしい。
だからリオクタでよければ乗せてもいいと提案してきた。

「どうする?たぶんわたしを待ってるよりはよっぽど良いと思うけど」
「うーん…アメリはどっちでもいいよ」
「それじゃあ…お言葉に甘えさせてもらっても良いですか?」
「はい!ではキッドを呼んでくるので少しお待ちください。30分程で辿り着くと思いますので」
「わかりました!ありがとうございます!!」

正直に言うと一刻も早く無人島からは脱出したいので、その好意に甘える事にした。
俺達がそういうとサフィアさんは凄い速さで泳いで行った。きっとそのキッドさんを呼びに行ったのだろう…

…なんかキッドって言うと海賊みたいな名前だけどきっと大丈夫だよな…
まあ名前で人を判断しちゃいけないか…


「それじゃあまあ皆はこのままでも大丈夫だね。じゃあわたしは牡丹を倭光に連れていって一緒にそのご主人様ってのを探しに行くよ」
「え?ご主人様を探してくれるのですか!?ありがとーございます!!」
「いいよ!途中でさよならもなんか嫌だしね…それじゃあ皆!また今度、いつかは絶対会おうね!!」
「おう!ツバキやカリンにもよろしく言っといてくれよ!!」

もうこれでリンゴが俺達の下にくる必要が無くなったので、別れの挨拶をしてからボタンを運んで行った。




………



……








「やった〜!これで私達旅を続けられるね!」
「そうだな…この無人島生活も楽しい思い出にする事が出来そうだな!」
「まあまた体験したいかって言われたら嫌だと答えるけどね…」
「リンゴお姉ちゃんにも久々に会えたもんね〜!!」

とりあえず皆と喋りながら船を待つ事約30分。

「ん?ねえ皆、さっきサフィアさんが言ってたのってあれじゃないか?」
「きっとそうだよ!だってあの船アメリたちの所に向かってきてるもん!!それに魔物の魔力がいっぱい感じるからあの船だよ!!」


どうやらそれらしい船が来たようだ…


「ほら!あれサフィアお姉ちゃんだよ!!」
「おーい皆さーん!!助けに来ましたよー!!」
「おーいサフィアお姉ちゃーん!!ありがとー!!」


まあたしかに立派で大きな船ではあるのだが…


「なあサマリ…あれってどう思う?」
「どうって…少なくとも商船とか客船ではなさそうだね…」
「だよなぁ…」


その船は…何故か立派な大砲が沢山並んでいた…


「というか…どう考えてもアレだよな…」
「そうだね…アレだね…」


そして船のマストのてっぺんに風に靡かれている黒色の旗に描かれているマークは…髑髏のマークとその下に長剣とショットガンらしきものが交差するように描かれていた…


「てか名前で人を判断できる時があるんだな…」
「いやぁ…初めて見たよ…私達どうなっちゃうんだろうね…」


つまり、サフィアさんが呼んできたキッドさんなる人物が船長を務めている船は…


「……海賊か……」
「……海賊だね……」


誰がどう見ても海賊船だった。
12/07/08 21:04更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
とりあえず補足…最初ユウロとアメリちゃんが小屋を見つけた時、ボタンはちょうど毛布を被って寝ていました。だから灯りが点いていなかったのです。

今回また最長記録更新した…なんかだんだん平均文字数が多くなってきているような…
そんな今回は無人島でのお話。『テント』が無いといろいろと大変に…あまりなってないな…なんでだ?
という事で冒頭ではカリン、終盤ではリンゴが再登場しました。
それと最後のほうに登場したシー・ビショップのサフィアさん…名前の法則にあってない?

それもそのはず。彼女は僕のキャラではないからです!
という事で次回はシャークドンさんの作品『海賊と人魚』シリーズとのコラボです!!
今回先行してサフィアさんを登場させました。シャークドンさん、変なところがあったら言って下さい。
キッドさん率いる海賊団と海賊船『ブラック・モンスター』でのお話…の予定。期待しないで待っていて下さい。

ひげ親父さんの勇ナマパロおもしれー!!マオウの言動がいちいち笑えるw
…急にどうしたかと言われたら、その作品でプチ宣伝されたのでそのお返しみたいなものです。
元ネタ知らない人も是非読んでみて下さい。あまり知らない僕でも楽しめるのですから楽しめると思いますよ!

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