旅行1 幼き王女との新たなる旅立ち
「はいおまたせ。今日の夜ご飯はジパングで教わったかき揚げ丼だよ!」
「わー美味しそー!」
「いい匂いだ……」
現在20時半。
今日は昼頃に色々あったのと、ちょっと慣れない料理で時間が掛かったので、今から遅めの夜ご飯だ。
今日の夜ご飯は小エビやシラス、貝柱などの魚介をネギやニンジン、玉ねぎと一緒に食用油でカラッと揚げたジパング料理、天ぷらの一種であるかき揚げだ。それをどんぶりに盛ったご飯の上に置き、特製の天つゆを掛けて出した。
作ったのは勿論私だが、材料のカットはアメリちゃんが率先してやってくれた。かなり上達したもので、指を切るなどの怪我もしていないし、切り方も綺麗である。
「それじゃあ……」
「いただきます!」
何時もの様にジパング式食前の祈りを済ませ、かき揚げに齧り付く。噛んだ瞬間、サクッとした触感が口の中で弾け、魚介の旨味が広がる。絡んだ天つゆの香りが鼻腔から抜け、更なる食欲を誘う。
自分で言うのも何だが、かなり美味しくできあがっていた。とはいえ、本場で食べた時はもう少し中はふわっとしていた気がするので、満足とまでは言えない。精進せねば。
「おいしー!」
「うん、美味い! 流石サマリだな!」
「えへへ、ありがとう!」
それでも、好きな人達から美味しいと言われたら素直に嬉しい。ユウロは一口一口味わうように食べ、美味いとストレートの感想をくれた。その笑顔と言葉に、思わずきゅんとしてしまう。
アメリちゃんは美味しいと叫びながらも、ユウロとは逆にどんぶりを傾けてかっ込んでいた。アメリちゃんのはつゆだく仕様なので、さらさらと掻っ込めるのだ。そんな食べ方をしているからか、茶色に染まった白米が頬に付いていた。
「ふう……お腹いっぱい♪」
「ごちそうさまっと。それじゃあ皿は洗っておくからシンクまで運んでくれ」
「はーい!」
夜ご飯を綺麗に平らげ、お腹は満足だ。何時もならば、この後は私とアメリちゃんがお風呂に入り、その間にユウロが皿洗いを済ませる。
そう、何時もならば、だ。
「さてと、お腹もいっぱいになった事だし……アメリちゃん?」
「う……」
しかし、今日は事情が違った。
とりあえず食器をどかした後、私は少し声のトーンを落としてアメリちゃんを呼び、正面に座らせた。
アメリちゃんも私の声で察したのか、とても気まずそうにおどおどしながらも大人しく椅子に座る。私の横にユウロも座り直したので、話を……いや、お説教を始める事にした。
「それじゃあ、お昼は色々あって有耶無耶になっちゃったから改めて聞くけど……アメリちゃんはなんで私達を置いて先に行っちゃったのかな?」
「えーっと……その……二人の邪魔しちゃ駄目だからと思って……ね?」
「はぁぁ……」
その内容は、前の街で宿の別の部屋に泊まっていた私達を置き去りにして、たった一人で先に行ってしまった件についてだ。理由は私とユウロが恋仲になったからというのは先程搔い摘んで聞いているし、それがアメリちゃんの親切心というか優しさの結果だという事はわかっている。
だが、そのせいで教団の兵士に襲われ、私達が追い付けたから助かったもののその命を散らす寸前にまで陥っていたのだ。流石にはいそうですかで終わらせる事はできない。
「さっきも言ったけど、アメリちゃんの事を邪魔だなんて思うわけないからね。それとも、私がそんな事思ってそうだって考えてたの?」
「そ、そんな事はないよ! でも、ラブラブな二人を邪魔しちゃ悪いかなって……」
「それを言ったら、勝手に居なくなって心配させる事でラブラブな空気を邪魔しちゃってるからね?」
「そういう言い方もどうかと思うが……まあ、余計な気を使い黙って行くんじゃなくて、アメリちゃんの考えをきちんと俺たちに伝えてほしかったかな。一緒に旅をしてきた仲間なんだし、相談くらいしてほしかった」
「うぅ……ごめんなさい……」
事が事だけに、今回は怒っている事を隠さずアメリちゃんに強い口調で説教を行う。アメリちゃんも説教を受け、泣きこそはしないが力なく項垂れて謝罪の言葉を呟いている。
「一応言っておくけど、私達の事をアメリちゃんなりに考えてくれていた事自体は嬉しいよ。でも、心配させるのは駄目だからね」
「そうだ。俺にとってサマリは確かに大切な存在だけど、それはアメリちゃんもだ。勝手に居なくなるのは悲しいし心配になる。これからは止めてくれよ?」
「うん……わかった」
さらっとユウロが嬉しい事を言ってくれたが、それは一先ず置いといて……そう、私達にとってアメリちゃんはとても大切な、妹のような存在だ。だからこそ、これからも黙っていなくなるような事はやめて欲しいのだ。
「まあ、わかっているならよし。この話はおしまい!」
「そうだね。じゃあアメリちゃん、お風呂に行こうか」
「うん!」
アメリちゃんも、項垂れながらもハッキリとわかったと言ってくれたし、この話はもうおしまい。気持ちを切り替え、私とアメリちゃんはいつものようにお風呂へと向かったのだった。
そう、ここからまた、幼き王女と気ままな旅が始まるのだった。
……………………
「お、なんか賑やかだな」
「そうだね。いったいなんだろう?」
現在15時。
ちょっと日が沈み始めた頃、私達は小さな村に辿り着いた。
この旅の目的の一つ、アメリちゃんのお姉さん……即ちリリムの一人が居るらしい街まではまだまだ距離がある。小さな村なのであまり期待できないが、食料や生活用品の買い足しがができればいいなと思い立ち寄ったのだ。ちらほらとではあるが魔物の姿も見えるので少なくとも反魔物領ではないだろうし、人化の魔法が使えない私でも安全だろう。
それで、お店を探すついでにちょっと村の中を見て回っていたのだが……村の中央にある他の家よりは大きなお屋敷の前で、村人なのか人だかりができているのが見えたので近付いてみる事にしたのだった。
「すみません、これ何の騒ぎですか?」
「ん? あんたらも見掛けない顔だな。旅人かい?」
「ええまあ。で、この騒ぎは……」
「ああ。いや、この屋敷に住む兄ちゃん……まあ、村長さんのご子息だけどな、その兄ちゃんが他所から嫁さんを連れてきたんだが、それがえらい別嬪さんでなぁ……物珍しさもあって皆して見惚れとるところだ」
「へぇ……」
どうやらこのお屋敷に住む人が連れてきた女性が物珍しいので人だかりができているようである。大した事でもないと思うが、小さな村ではそれも珍事なのだろう。
よく考えたら私の故郷だってこの村と同程度の規模だし、他所から来た人が居ればとりあえず一目見ようとしていたし、集まっているのもわかる気がした。
「どれどれ……んーここからじゃよく見えねえな」
「む……」
ユウロも一目見ようとしているのか、わざわざつま先立ちして人だかりの向こう側を見ようとしていた。まあ、私だって見ようとしたので別におかしな行動ではないが、別嬪と聞いてから恋人が動いたとなれば少し嫉妬心も出てきてしまうものだ。
「ん? ああ、別に他意はないぞ」
「別に何も言ってないじゃん……」
「顔に出てるっての。俺はサマリ以外に鼻の下を伸ばす気はねえよ」
「え、そ、そんな……♪」
という感じでじとっとユウロを見ていたのが簡単にバレて、すぐさまそう言い繕われた。私以外に下心を出すつもりはない、ようは俺はお前しか見ていないと言われたようなものなので、嫉妬心はどこかに消え失せ嬉しさが込み上げる。
「ふっ……アメリ高いところから見てみよっと」
私とユウロが完全に二人の世界に入っていて面白くなかったのだろうか。そんな私達のやり取りを見てどこか呆れたような溜息を吐いたアメリちゃんは、そう言って翼を動かし上空へと飛んだ。
「あ……!」
屋敷の方を見たアメリちゃんはその人を見つけたのか、短く声をあげた後上空で指を差して固まっていた。
「どうかしたのアメリちゃん?」
「うん。あのお姉ちゃん、アメリの知り合いかも」
「え、そうなの?」
「多分……もうちょっと近付いてみる!」
どうしたのかと思い聞いてみると、どうやらアメリちゃんの知り合いかもという事らしい。ここからだとよく見えないのか、近付いてみると言って屋敷の方へと飛んで行った。アメリちゃんの知り合いといえば大体魔王城に住む魔物なので、もしかしてその別嬪さんもそうなのだろうか。
「あー、やっぱりアリアお姉ちゃんだ!」
「あー! アメリ様! お久しぶりですね!」
やはり知り合いだったらしく、しばらくしたら人だかりの奥からこんな叫び声が聞こえてきたのだった。
……………………
「紹介するね。この人はアリアお姉ちゃん。旅立つアメリに色々教えてくれた先生なんだ!」
「初めまして、アリアです。魔王様の部下としてアメリ様を始め王魔界に住む子供達の先生をしています」
「どうも初めまして。私はアメリちゃんと一緒に旅をしているワーシープのサマリです」
「同じく、ユウロです」
現在16時。
私達は先程の屋敷の中に案内され、アメリちゃんを通じて自己紹介をしあっていた。
外に居た人達も別嬪さん……もといアリアさんが家の中に入った事で解散したようだ。少し前までは騒がしかったが、今は静かになっていた。
「へぇ……アメリちゃんに魔物の知識やテントの組み立て方なんかを教えたのがアリアさんなんだ」
「じゃあアメリちゃんが使う魔法なんかも?」
「魔法はまた別の人ですね。アメリ様は物覚えがかなり良いので教えた事をすぐ実践できてました」
「あーわかります。私も料理を教えてますがサクサクと覚えて自分のものにしてますからね」
「えへへー♪」
予想通りアリアさんは魔物で、ふわふわとした白毛の尻尾を持つミノタウロスだ。いや、アメリちゃん曰く白澤という魔物との事。まあ、詳しくは後で聞くがきっとミノタウロス属の魔物だろう。それでいてミノタウロスやホルスタウロスと違い聡明な雰囲気で、どこか落ち着いており掛けている眼鏡も似合っていた。
普段は魔王城のある王魔界で暮らしているらしく、そこで勉強を教えているとのこと。アメリちゃんにも旅立ち前にサバイバル術や魔界の外の世界の知識を教えていたようだ。魔王様の部下でもあり、生徒と先生という関係なのにアメリちゃんに対して敬語なのはその為みたいだ。
「どうぞ、お茶です」
「ありがとうございます、えーっと……」
「僕はネツギ。アリアさんの夫で、この村の村長の息子さ」
「どうも村長です」
「あ、どうも……」
「初めましてー!」
お茶請けと共にお茶を運んできた好青年。彼がアリアさんの旦那さんで、村長さんの息子だそうだ。
ちなみに部屋の扉から顔を覗かせていた好々爺が村長さんらしい。軽く挨拶し、そのまま部屋の奥へと戻っていった。
「いやあ、まさかこんな場所でアメリ様と再会するとは思っていませんでしたよ」
「だよねぇ。アメリも思わなかった。アリアお姉ちゃんはどうしてここに?」
しかし、そんなアリアさんがこの村に居るのは何故だろうか。
いや、今までの話や彼女らから互いの精や魔力の匂いがするので、ネツギさんと結ばれたからこの村へとやってきたのはわかる。だが、どうして王魔界に住む彼女と小さな村の村長息子が出会えたのかが気になった。
「実はですね、ネツギ君も私の生徒なのです」
「え? でもどうやって……」
「勿論、僕が王魔界に行ったのではなく、アリアさんが休暇で北にある街まで遊びに来てましてね。そこで偶然会って、お話を伺っているうちに気に入られちゃいまして……」
「彼、魔物学者の卵でしてね。私達白澤って魔物の知識は豊富なので、その知識を教えてあげていたのですよ」
「その流れで白澤……というかアリアさん自身の事を手取り足取り教えられちゃいましてね……はは……」
「あー成る程……」
という事でお二人の出会い話を聞いていたのだが、顔を赤くして苦笑いしたという事はそういう事なのだろう。聡明そうな雰囲気をしているが、やはり魔物だという事か。
「とまあ、そんなわけで僕達は結ばれたのですが、アリアさんは王魔界にある学校の教師ですし、僕としても魔王のお膝下で研究したいのもあって普段はそちらで暮らしているのですが……」
「学校も休暇に入ったので、今日はネツギ君の実家へ帰省したのです。ご両親への挨拶もきちんとはできていなかったので、それも兼ねてですね」
「成る程、それで村の人に見られて先程の騒ぎが……」
「いやあ、アリアさんは魔物の中でも特に美人さんですからね。皆が注目しちゃうのも仕方ないかなと」
「もぉ、ネツギ君ったら……♪」
どうやら偶々この村に来ていたタイミングで私達が通っただけのようだ。基本は王魔界とやらに住んでいるらしい。まあ、先生ならば旦那ができたからと言って生徒を放っては置けないし、魔物学者ならば魔王様のお膝下は絶好の研究環境だろう。
それにしても、説明中でも隙あらばイチャイチャするのはどうだろうか。ちょっと置いてけぼりになってしまうし、私だって招かれているというのにユウロとイチャイチャしたいと思ってしまう。
「ふっ……とりあえず、アリアお姉ちゃんとここで会えたのは偶然って事なんだね」
「えーはい、そうですね」
またもや呆れたような溜息を吐くアメリちゃん。しかし、アリアさんはそんなアメリちゃんにお構いなしの様子。全く変わらぬ様子で肯定した。
「何にしても、アリアお姉ちゃんが幸せそうで良かった! 早く旦那さんほしいってずっと言ってたもんね」
「ええそうですね。ありがとうございます。アメリ様も、元気そうで良かったです」
それにしても、他人がイチャついてる時に呆れた溜息を吐くなんて、普段とアメリちゃんの態度が違う気もする……が、幼馴染みのフランちゃん相手だとふてぶてしかったり何時もはしない悪戯とかしていたりしたし、推測だけど、案外もっと身近な相手にだけ見せる一面なのかもしれない。実際に、良かったと微笑むアメリちゃんの顔は、いつもと同じ優しい顔なのだから。
「さて、そろそろお暇しようか」
話をしているうちに暗くなってきたので、そろそろ屋敷を出ようと立ち上がった。
「そういえば宿どうする?」
「あー、この村って宿泊できる施設ってあります?」
その時、ユウロが宿をどうするのか聞いてきた。魔物とはいえ、夜道を歩くのは危険なのでこの村で一泊しようと考え、ネツギさんに宿泊施設があるのかを聞いた。
「いや、ないですね。特に観光資源はない小さな村ですから」
「そうでしたか……」
小さな村だったので予想はできていたが、宿泊施設はないとの事。『テント』はあるが、村の周りは草木が生い茂り、整地された道上くらいしか建てられそうな場所がなかったので少し困った事になった。
「アメリ様は『テント』持ってましたよね?」
「うん」
「なら、ここを出て左に向かって10分くらい歩くと広い空き地があるので、そこでテントを建ててもらっても構いませんよ」
「わかりました。ありがとうございます!」
流石に泊めてもらうわけにはいかないのでどうしようかと悩んでいたら、近くの空き地に『テント』を建てても良いと許可を得られた。村長さん直々ではないものの、息子のネツギさんが言うのなら大丈夫だろう。
「それじゃあ行こうか」
「あ、ちょっと良いですか?」
「はい?」
寝泊まりできる場所も決まったので今度こそお暇しようとしたら、今度はアリアさんに止められてしまった。
「サマリさんかユウロさん、ちょっとしたお話がありまして、どちらか御一人で良いので少し残ってもらえませんか?」
「えっ、じゃあ私が……」
どうやら私達に何か話があるらしい。アメリちゃんを止めなかったので、きっとアメリちゃんの話だろう。
内容はわからないが、とりあえずどちらか一人で良いとの事なので、夕飯にはまだ早いし、私の心情的にユウロを一人残したくないので私が残る事にした。
「じゃあ先に行ってるからな」
「ご飯の準備もしておくねー!」
「そんなに掛かりませんよ。ちょっとしたお話ですから」
「なら、おやつでも食べてるか」
「うん! じゃあサマリお姉ちゃん、また後で!」
「うん。じゃあ後で」
先に出ていった二人を見送り、私はまたアリアさんに向き合った。アリアさんに促されてネツギさんも部屋から出ていったので、完全に二人きりだ。
「さて……まずはお礼を。アメリ様の旅に同行してもらいありがとうございます」
「いえいえ、どちらかと言えば私に同行してもらってる感じですから」
さっきよりも真面目な雰囲気を纏ったアリアさんは、頭を深く下げながらお礼を述べてきた。
「一応、サマリさん達の事は報告は受けていましたが、どういった人なのかは実際に会ってみないとわからなかったですからね」
「報告……ですか?」
「ええ。魔王様へ、ベリリさんやアメリ様自身から共に旅している者の話はされていますからね」
「そうでしたか……」
どうやら私達の事は私と出会う前にアメリちゃんに仕えていたベリリさんやアメリちゃん本人が魔王様に伝えており、それを聞いていたアリアさんも知っていたようだ。
「短い会話とはいえ、想像以上にしっかりとした人だと思いました。アメリ様が懐いている様子も見られましたし、少し安心しました」
「あ、やっぱり不安に思われてたのですね」
「はい。直接話を聞いていた魔王様はそんなに不安がっては居ませんでしたが、私は少し。優しいお方とは聞いていましたが、伝聞だけではどうとも言えませんし。それと、ユウロさんはともかく、サマリさんは元々特別な訓練を受けていない人間の村娘という話でしたし、もし反魔物思想の人に襲われたら怖いなと」
「まあ……今までも何度かピンチになった事はありましたね」
「でしょうね。幼いリリムが人間界を旅をしているのは結構目立ちますし、他にもバラエティ豊かな複数の魔物が一緒となれば尚更です。噂になっていた事もありません?」
「あーっと、一度だけ情報通のラージマウスの女の子に目立つから知っている人は知っていると言われたことがありましたね」
元々アメリちゃんを護衛するために就かせたベリリさんが離脱し、その代わりに旅する事になったのが何の変哲もない村娘。保護者として不安に思わないわけがない。
実際、この旅の途中で何度も勇者や教団兵に襲われている。今までは何とか返り討ちにできているが、それも言ってしまえば運が良かっただけだ。その不安は何も間違ってはいない。
それはこの先の旅路でも同じ事が言える。以前私達の事を知っている少女が居たし、他にもどんな人が私達の噂を聞いているかわからない。リリムとはいえ幼いアメリちゃんを襲う輩が現れないとは言えないだろう。
「それでもここまで乗り越えていますし、アメリ様も無事です。一緒に旅をしているのが貴女方で良かった。本当にありがとうございました」
「こちらこそ、アメリちゃんに沢山助けられてますから。私がワーシープになって旅を続けられているのもアメリちゃんのお陰ですしね」
「詳しくは存じませんが、どうやらそうらしいですね。お互いに助け合ってるなんて、素敵じゃないですか」
「いえいえ……」
それでも、私達は助け合ってここまで来れたのだ。私もアメリちゃんもユウロも、それこそ今まで共に旅してきた誰かが一人でも掛けていたら、今ここでこうしてお話などしていなかっただろう。
そして、これもこの先の旅路においても同じ事だ。どんなピンチでも、皆で力を合わせればきっと乗り越えられる、そう信じて旅を続けるだけなのだから。
「と、言いますか……ベリリさんはともかくアメリちゃんはいつ報告を?」
それはそれとして、アメリちゃんが手紙などを出していた覚えはないのでいったいいつ親と連絡を取っていたのかが疑問だ。こっそりしていたとしても、ここまで全く気付かなかったのだから。
「あら、アメリ様それは言ってないのですね。アメリ様の旅の資金がどのように送られているかは御存じで?」
「まあ一応は……」
私達の旅の資金だが、私やユウロ個人の物に関しては、その個人が稼いだお金を使っている。元から持っていたお金だけではなく、立ち寄った街の日雇いや、道中で拾った珍しい物を売ったりして生計を立てているのだ。
そして、アメリちゃん個人の物や、食費などの旅そのものに必要な経費は、魔王城からアメリちゃんへと送られてくる。最初はあくまでもアメリちゃんへのお小遣いではないのかと思っていたが、どうやら共に旅をしている者は全員、形式ではアメリちゃんのお世話係として雇われているようで、私達もその旅費の恩恵を受ける権利があるとの事。
で、その旅費は、『テント』内にある金庫内へ魔王城から転送されてきているらしい。アメリちゃん以外が開けられない様にセキュリティも付いているとの事だが、魔法の知識がゼロの私では理解できないので、そこら辺は全部アメリちゃんに任せてあるのだった。
「あ、もしかして……金庫から手紙を送ってる?」
「ええ。双方へ転移可能な式が組み込まれていましてね、定期的にアメリ様から近況報告をしてもらっています」
「でも手紙っぽい物を書いていた覚えはないんだけどなぁ……」
「偽りし書物という魔法道具と同等の紙を使っており、読める条件は魔王様とその血を持つ者のみなので、サマリさん達にはアメリ様のお絵描きにしか見えていなかったりするかもしれません」
「へぇ……そんな物もあるんだ……後で聞いてみようかな」
言われてみれば備えられている紙に落書きやお絵描きをしているのは何度も見た事があった。偽りし書物というのは知らないが、名前からして書いてある内容がわからなくなる本だろう。だから、それら落書きの中に本当は手紙もあり、こっそりと魔王城へと送っていたという事か。驚きである。
「さて、話が逸れましたがそろそろ……」
と、一通り謎が解けたところで、アリアさんが話を区切り……
「サマリさん、これからもアメリ様の事、よろしくお願いします」
またも頭を深々と下げながら、そう頼んできた。
「はい。お任せください!」
私は、ハッキリと強く任せてと返事をしたのだった。
「では、お話はこれでおしまいです。アメリ様が向かわれた空地への道はわかりますか?」
「たぶん……ここを出て左に向かって10分くらい歩く、でしたっけ?」
「そうです。案内は必要なさそうですね」
「はい。その分ネツギさんと一緒に居て下さい」
「勿論、そのつもりです♪」
話はこれで終わり、こんなやり取りをしてちょっと笑いながら私も屋敷を出た。
「そういえばサマリさん。あまり魔物の事に詳しくなさそうですが、私がお教えしましょうか?」
歩き始めたところで、ふとそう言ってきたアリアさん。白澤は魔物の知識を広く持つというし、それ故の提案だろう。
「いえ、これからの旅の中で知っていこうと思います!」
勿論、その提案を私は断った。
魔物の事を知っていくのも、旅の醍醐味の一つ。今まで通り、旅を通じて知っていきたいからだ。
「ふふ、そう言うと思っていました!」
そう言って微笑むアリアさんに私は一礼し、『テント』へ向けて歩いたのだった。
「あ、お帰りサマリお姉ちゃん。お話は何だったの?」
「んーと、アメリちゃんをよろしくお願いしますって。先生として、生徒のアメリちゃんの事が心配だったみたい」
「そっか。じゃあ、また明日アリアお姉ちゃんにアメリは元気だよって言わなくちゃね!」
「そうだね!」
特に迷う事無く『テント』へと戻ると、おやつのクッキーを食べていたアメリちゃんがこちらへと駆け寄ってきて、気になっていたのか何の話をしたのか聞いてきた。
簡単に言われたことを伝えたら、満面の笑みを浮かべそう言うアメリちゃん。だから、明日の出発前にまた挨拶しに行こうと思った。
「さてと、今日の夜ご飯の準備しよっか」
「うん! 今日は何作るの?」
「今日は……結局何も買ってないし、有り合わせで……鶏肉あるし、チキンソテーでも作っちゃおうか。アメリちゃんはサラダ作るの手伝ってくれる?」
「うん!」
だが、今日はまず夜ご飯を作らなければならない。
だから私は、アメリちゃんに手伝ってもらいながら何時ものようにご飯を作るためキッチンへと向かったのであった。
====================
「んー! やーっと大陸に着いたか!」
ここは大陸にある港街フォルセカン。ジパングからの長旅も終わり、ウチは一息入れるように伸びた。
おとんが思ったよりはよ回復し、約束通り出発できたのはええが、こちらも思っとった以上に進んでいたようで、先回りするようにフォルセカン行きの船に乗ったため今まで以上の船旅になってしもうた。
「さて、今アメリちゃん達はどこに……」
船旅がしんどかったのでこの街でゆっくりしたいが、その間にここから更に離れられたら余計に合流が遅くなってしまう。せやからウチはポケットからマーカー確認用の道具を取り出し、とりあえずアメリちゃん達の位置を確認した。
「んー……まあ、一泊ぐらいはええか」
すぐ近くにおるわけやないものの、どうやらこちらに向かって進んどるらしいので慌てる事は無いやろう。むしろここで待っていてもそのうち会えそうやけど……ウチもはよ会いたいし、一泊したらこちらから向かおうと思う。
「よーし、ならまず宿を探すか!」
そうと決まれば早速行動に移そうと、ウチは大切な商売道具を背負って宿泊施設を探そうと歩み始めたのやけど……
「そこの商人狸さん、ちょっと良いかな?」
「ああん?」
背中から声を掛けられたさかい、ウチは怪訝そうに振り向いた。
商人として笑顔は大事やから、怪訝そうな表情で振り向くのは良くないやろう。せやけど、今は人化の魔法を使っとるっちゅうのにウチの事を疑う事無く狸と呼んだんや。怪しく感じても仕方のない事やと思う。
「ん? ああ、あんたリリムか。どうりでウチの正体を……」
やけど、振り向いた先におった人物の姿を見て、一発で正体を見抜かれた理由が分かった。
白くきめ細やかな短髪に同色のおっきな蝙蝠の翼、ほんで美しくしなる尻尾。対照的に深紅に染まる赤い瞳を持つサキュバス……いや、リリムがそこに立っとった。
珍しく胸は薄いので、髪型と併せどこかボーイッシュな雰囲気を纏っとるが、滲み出る魔力は強大で、今まで見た事のあるリリム達と同等の物やった。
「あ、ゴメン。隠してたんだね。ここは親魔物領なのに人間に化けてるなんて不思議な人だ」
「ええって。リリムに一発でバレるのはウチの修行不足やし。反魔物領を含めた世界中で売るのがウチの目的やから、常日頃から練習しとったんや」
今までもリリム相手にはウチが刑部狸だとすぐバレとったさかい、今回も一発で見抜かれたのはしゃあないともいえる。とはいうても、それは修行不足の結果やから、もっと精進せねば。
「で、何用なん?」
「ああ。魔界の果実の匂いがしたから、売り物だったら買おうと思ってね。一応この街にも売ってはいるけど、もう一つ気になる事もあったからさ」
「気になる事?」
それはそれとして、呼び止められた目的を聞き出す。大方何か売ってほしいのだろうと思っとったのやけど、どうやらそれだけやないみたいや。
「いや、商人さんからボクと同じリリムの魔力を微量だけど感じたからさ。姉妹の誰かと繋がりがあるのかなって」
「ああ、そういう事か」
曰く、自分と同じリリムの魔力を感じたから気になって呼び止めたらしい。
おそらく、ウチに付けられたアメリちゃんのマナ・マーカーから感じ取っとるのやろう。相互に付ける事によってより正確な位置がわかるからと、別れ間際に付けてもらっとったのや。
「せやで。今は別行動中やけど、リリムの女の子と一緒に旅をしてる。これから合流に向かうとこやで」
「へぇ……成る程」
納得したのか、ゆっくりと頷くボクっ娘リリム。
「じゃあさ、ボクも一緒に連れて行ってもらえないかい? 家から出た身だし、妹と会うなんてそう無い機会だからさ」
ほんで、自分も会いたいから連れて行きと言ってきよった。
「んー、まあ、その必要はないかな」
「え?」
「そのリリムの女の子な、自分の姉妹に会いたいが為に旅をしとるんや。ほんで今こっちに向かってきてるみたいやし、多分あんたに会おうとしとるんやないかなと」
「ほぉ!」
一緒に連れてくか悩むけど、どうも目的地がここみたいやし、きっと今は目の前の彼女に会おうとしとるのやろう。
やったら連れて行くより、ここにアメリちゃん達を連れてきた方がええ。会う為に旅をしとるわけやし、どうせこの街で観光もするのだろうから。
「ま、っちゅう事でこれから合流して連れてくるから、この街の観光名所でも考えといてくれへん?」
「わかった。じゃあボクが暮らしてる家まで連れてきてよ。今から案内するからさ」
「ええで。あ、それと魔界の果実やけど、虜の果実とねぶりの果実、あと陶酔の果実なら取り扱っとるで」
「じゃあねぶりの果実を2つと陶酔の果実を2つ買おうかな。家に着いてからでいいかな?」
「ええよ。あ、そういえば名前は?」
「ボクはブランカ。商人さんは?」
「ウチは花梨。宜しくな!」
っちゅう事で、ウチは合流したらこのボクっ子リリムことブランカさんに合わせる事になった。
合流時の手土産がもう一つ増えた事に、ウチの心はワクワクしっぱなしやった。
「わー美味しそー!」
「いい匂いだ……」
現在20時半。
今日は昼頃に色々あったのと、ちょっと慣れない料理で時間が掛かったので、今から遅めの夜ご飯だ。
今日の夜ご飯は小エビやシラス、貝柱などの魚介をネギやニンジン、玉ねぎと一緒に食用油でカラッと揚げたジパング料理、天ぷらの一種であるかき揚げだ。それをどんぶりに盛ったご飯の上に置き、特製の天つゆを掛けて出した。
作ったのは勿論私だが、材料のカットはアメリちゃんが率先してやってくれた。かなり上達したもので、指を切るなどの怪我もしていないし、切り方も綺麗である。
「それじゃあ……」
「いただきます!」
何時もの様にジパング式食前の祈りを済ませ、かき揚げに齧り付く。噛んだ瞬間、サクッとした触感が口の中で弾け、魚介の旨味が広がる。絡んだ天つゆの香りが鼻腔から抜け、更なる食欲を誘う。
自分で言うのも何だが、かなり美味しくできあがっていた。とはいえ、本場で食べた時はもう少し中はふわっとしていた気がするので、満足とまでは言えない。精進せねば。
「おいしー!」
「うん、美味い! 流石サマリだな!」
「えへへ、ありがとう!」
それでも、好きな人達から美味しいと言われたら素直に嬉しい。ユウロは一口一口味わうように食べ、美味いとストレートの感想をくれた。その笑顔と言葉に、思わずきゅんとしてしまう。
アメリちゃんは美味しいと叫びながらも、ユウロとは逆にどんぶりを傾けてかっ込んでいた。アメリちゃんのはつゆだく仕様なので、さらさらと掻っ込めるのだ。そんな食べ方をしているからか、茶色に染まった白米が頬に付いていた。
「ふう……お腹いっぱい♪」
「ごちそうさまっと。それじゃあ皿は洗っておくからシンクまで運んでくれ」
「はーい!」
夜ご飯を綺麗に平らげ、お腹は満足だ。何時もならば、この後は私とアメリちゃんがお風呂に入り、その間にユウロが皿洗いを済ませる。
そう、何時もならば、だ。
「さてと、お腹もいっぱいになった事だし……アメリちゃん?」
「う……」
しかし、今日は事情が違った。
とりあえず食器をどかした後、私は少し声のトーンを落としてアメリちゃんを呼び、正面に座らせた。
アメリちゃんも私の声で察したのか、とても気まずそうにおどおどしながらも大人しく椅子に座る。私の横にユウロも座り直したので、話を……いや、お説教を始める事にした。
「それじゃあ、お昼は色々あって有耶無耶になっちゃったから改めて聞くけど……アメリちゃんはなんで私達を置いて先に行っちゃったのかな?」
「えーっと……その……二人の邪魔しちゃ駄目だからと思って……ね?」
「はぁぁ……」
その内容は、前の街で宿の別の部屋に泊まっていた私達を置き去りにして、たった一人で先に行ってしまった件についてだ。理由は私とユウロが恋仲になったからというのは先程搔い摘んで聞いているし、それがアメリちゃんの親切心というか優しさの結果だという事はわかっている。
だが、そのせいで教団の兵士に襲われ、私達が追い付けたから助かったもののその命を散らす寸前にまで陥っていたのだ。流石にはいそうですかで終わらせる事はできない。
「さっきも言ったけど、アメリちゃんの事を邪魔だなんて思うわけないからね。それとも、私がそんな事思ってそうだって考えてたの?」
「そ、そんな事はないよ! でも、ラブラブな二人を邪魔しちゃ悪いかなって……」
「それを言ったら、勝手に居なくなって心配させる事でラブラブな空気を邪魔しちゃってるからね?」
「そういう言い方もどうかと思うが……まあ、余計な気を使い黙って行くんじゃなくて、アメリちゃんの考えをきちんと俺たちに伝えてほしかったかな。一緒に旅をしてきた仲間なんだし、相談くらいしてほしかった」
「うぅ……ごめんなさい……」
事が事だけに、今回は怒っている事を隠さずアメリちゃんに強い口調で説教を行う。アメリちゃんも説教を受け、泣きこそはしないが力なく項垂れて謝罪の言葉を呟いている。
「一応言っておくけど、私達の事をアメリちゃんなりに考えてくれていた事自体は嬉しいよ。でも、心配させるのは駄目だからね」
「そうだ。俺にとってサマリは確かに大切な存在だけど、それはアメリちゃんもだ。勝手に居なくなるのは悲しいし心配になる。これからは止めてくれよ?」
「うん……わかった」
さらっとユウロが嬉しい事を言ってくれたが、それは一先ず置いといて……そう、私達にとってアメリちゃんはとても大切な、妹のような存在だ。だからこそ、これからも黙っていなくなるような事はやめて欲しいのだ。
「まあ、わかっているならよし。この話はおしまい!」
「そうだね。じゃあアメリちゃん、お風呂に行こうか」
「うん!」
アメリちゃんも、項垂れながらもハッキリとわかったと言ってくれたし、この話はもうおしまい。気持ちを切り替え、私とアメリちゃんはいつものようにお風呂へと向かったのだった。
そう、ここからまた、幼き王女と気ままな旅が始まるのだった。
……………………
「お、なんか賑やかだな」
「そうだね。いったいなんだろう?」
現在15時。
ちょっと日が沈み始めた頃、私達は小さな村に辿り着いた。
この旅の目的の一つ、アメリちゃんのお姉さん……即ちリリムの一人が居るらしい街まではまだまだ距離がある。小さな村なのであまり期待できないが、食料や生活用品の買い足しがができればいいなと思い立ち寄ったのだ。ちらほらとではあるが魔物の姿も見えるので少なくとも反魔物領ではないだろうし、人化の魔法が使えない私でも安全だろう。
それで、お店を探すついでにちょっと村の中を見て回っていたのだが……村の中央にある他の家よりは大きなお屋敷の前で、村人なのか人だかりができているのが見えたので近付いてみる事にしたのだった。
「すみません、これ何の騒ぎですか?」
「ん? あんたらも見掛けない顔だな。旅人かい?」
「ええまあ。で、この騒ぎは……」
「ああ。いや、この屋敷に住む兄ちゃん……まあ、村長さんのご子息だけどな、その兄ちゃんが他所から嫁さんを連れてきたんだが、それがえらい別嬪さんでなぁ……物珍しさもあって皆して見惚れとるところだ」
「へぇ……」
どうやらこのお屋敷に住む人が連れてきた女性が物珍しいので人だかりができているようである。大した事でもないと思うが、小さな村ではそれも珍事なのだろう。
よく考えたら私の故郷だってこの村と同程度の規模だし、他所から来た人が居ればとりあえず一目見ようとしていたし、集まっているのもわかる気がした。
「どれどれ……んーここからじゃよく見えねえな」
「む……」
ユウロも一目見ようとしているのか、わざわざつま先立ちして人だかりの向こう側を見ようとしていた。まあ、私だって見ようとしたので別におかしな行動ではないが、別嬪と聞いてから恋人が動いたとなれば少し嫉妬心も出てきてしまうものだ。
「ん? ああ、別に他意はないぞ」
「別に何も言ってないじゃん……」
「顔に出てるっての。俺はサマリ以外に鼻の下を伸ばす気はねえよ」
「え、そ、そんな……♪」
という感じでじとっとユウロを見ていたのが簡単にバレて、すぐさまそう言い繕われた。私以外に下心を出すつもりはない、ようは俺はお前しか見ていないと言われたようなものなので、嫉妬心はどこかに消え失せ嬉しさが込み上げる。
「ふっ……アメリ高いところから見てみよっと」
私とユウロが完全に二人の世界に入っていて面白くなかったのだろうか。そんな私達のやり取りを見てどこか呆れたような溜息を吐いたアメリちゃんは、そう言って翼を動かし上空へと飛んだ。
「あ……!」
屋敷の方を見たアメリちゃんはその人を見つけたのか、短く声をあげた後上空で指を差して固まっていた。
「どうかしたのアメリちゃん?」
「うん。あのお姉ちゃん、アメリの知り合いかも」
「え、そうなの?」
「多分……もうちょっと近付いてみる!」
どうしたのかと思い聞いてみると、どうやらアメリちゃんの知り合いかもという事らしい。ここからだとよく見えないのか、近付いてみると言って屋敷の方へと飛んで行った。アメリちゃんの知り合いといえば大体魔王城に住む魔物なので、もしかしてその別嬪さんもそうなのだろうか。
「あー、やっぱりアリアお姉ちゃんだ!」
「あー! アメリ様! お久しぶりですね!」
やはり知り合いだったらしく、しばらくしたら人だかりの奥からこんな叫び声が聞こえてきたのだった。
……………………
「紹介するね。この人はアリアお姉ちゃん。旅立つアメリに色々教えてくれた先生なんだ!」
「初めまして、アリアです。魔王様の部下としてアメリ様を始め王魔界に住む子供達の先生をしています」
「どうも初めまして。私はアメリちゃんと一緒に旅をしているワーシープのサマリです」
「同じく、ユウロです」
現在16時。
私達は先程の屋敷の中に案内され、アメリちゃんを通じて自己紹介をしあっていた。
外に居た人達も別嬪さん……もといアリアさんが家の中に入った事で解散したようだ。少し前までは騒がしかったが、今は静かになっていた。
「へぇ……アメリちゃんに魔物の知識やテントの組み立て方なんかを教えたのがアリアさんなんだ」
「じゃあアメリちゃんが使う魔法なんかも?」
「魔法はまた別の人ですね。アメリ様は物覚えがかなり良いので教えた事をすぐ実践できてました」
「あーわかります。私も料理を教えてますがサクサクと覚えて自分のものにしてますからね」
「えへへー♪」
予想通りアリアさんは魔物で、ふわふわとした白毛の尻尾を持つミノタウロスだ。いや、アメリちゃん曰く白澤という魔物との事。まあ、詳しくは後で聞くがきっとミノタウロス属の魔物だろう。それでいてミノタウロスやホルスタウロスと違い聡明な雰囲気で、どこか落ち着いており掛けている眼鏡も似合っていた。
普段は魔王城のある王魔界で暮らしているらしく、そこで勉強を教えているとのこと。アメリちゃんにも旅立ち前にサバイバル術や魔界の外の世界の知識を教えていたようだ。魔王様の部下でもあり、生徒と先生という関係なのにアメリちゃんに対して敬語なのはその為みたいだ。
「どうぞ、お茶です」
「ありがとうございます、えーっと……」
「僕はネツギ。アリアさんの夫で、この村の村長の息子さ」
「どうも村長です」
「あ、どうも……」
「初めましてー!」
お茶請けと共にお茶を運んできた好青年。彼がアリアさんの旦那さんで、村長さんの息子だそうだ。
ちなみに部屋の扉から顔を覗かせていた好々爺が村長さんらしい。軽く挨拶し、そのまま部屋の奥へと戻っていった。
「いやあ、まさかこんな場所でアメリ様と再会するとは思っていませんでしたよ」
「だよねぇ。アメリも思わなかった。アリアお姉ちゃんはどうしてここに?」
しかし、そんなアリアさんがこの村に居るのは何故だろうか。
いや、今までの話や彼女らから互いの精や魔力の匂いがするので、ネツギさんと結ばれたからこの村へとやってきたのはわかる。だが、どうして王魔界に住む彼女と小さな村の村長息子が出会えたのかが気になった。
「実はですね、ネツギ君も私の生徒なのです」
「え? でもどうやって……」
「勿論、僕が王魔界に行ったのではなく、アリアさんが休暇で北にある街まで遊びに来てましてね。そこで偶然会って、お話を伺っているうちに気に入られちゃいまして……」
「彼、魔物学者の卵でしてね。私達白澤って魔物の知識は豊富なので、その知識を教えてあげていたのですよ」
「その流れで白澤……というかアリアさん自身の事を手取り足取り教えられちゃいましてね……はは……」
「あー成る程……」
という事でお二人の出会い話を聞いていたのだが、顔を赤くして苦笑いしたという事はそういう事なのだろう。聡明そうな雰囲気をしているが、やはり魔物だという事か。
「とまあ、そんなわけで僕達は結ばれたのですが、アリアさんは王魔界にある学校の教師ですし、僕としても魔王のお膝下で研究したいのもあって普段はそちらで暮らしているのですが……」
「学校も休暇に入ったので、今日はネツギ君の実家へ帰省したのです。ご両親への挨拶もきちんとはできていなかったので、それも兼ねてですね」
「成る程、それで村の人に見られて先程の騒ぎが……」
「いやあ、アリアさんは魔物の中でも特に美人さんですからね。皆が注目しちゃうのも仕方ないかなと」
「もぉ、ネツギ君ったら……♪」
どうやら偶々この村に来ていたタイミングで私達が通っただけのようだ。基本は王魔界とやらに住んでいるらしい。まあ、先生ならば旦那ができたからと言って生徒を放っては置けないし、魔物学者ならば魔王様のお膝下は絶好の研究環境だろう。
それにしても、説明中でも隙あらばイチャイチャするのはどうだろうか。ちょっと置いてけぼりになってしまうし、私だって招かれているというのにユウロとイチャイチャしたいと思ってしまう。
「ふっ……とりあえず、アリアお姉ちゃんとここで会えたのは偶然って事なんだね」
「えーはい、そうですね」
またもや呆れたような溜息を吐くアメリちゃん。しかし、アリアさんはそんなアメリちゃんにお構いなしの様子。全く変わらぬ様子で肯定した。
「何にしても、アリアお姉ちゃんが幸せそうで良かった! 早く旦那さんほしいってずっと言ってたもんね」
「ええそうですね。ありがとうございます。アメリ様も、元気そうで良かったです」
それにしても、他人がイチャついてる時に呆れた溜息を吐くなんて、普段とアメリちゃんの態度が違う気もする……が、幼馴染みのフランちゃん相手だとふてぶてしかったり何時もはしない悪戯とかしていたりしたし、推測だけど、案外もっと身近な相手にだけ見せる一面なのかもしれない。実際に、良かったと微笑むアメリちゃんの顔は、いつもと同じ優しい顔なのだから。
「さて、そろそろお暇しようか」
話をしているうちに暗くなってきたので、そろそろ屋敷を出ようと立ち上がった。
「そういえば宿どうする?」
「あー、この村って宿泊できる施設ってあります?」
その時、ユウロが宿をどうするのか聞いてきた。魔物とはいえ、夜道を歩くのは危険なのでこの村で一泊しようと考え、ネツギさんに宿泊施設があるのかを聞いた。
「いや、ないですね。特に観光資源はない小さな村ですから」
「そうでしたか……」
小さな村だったので予想はできていたが、宿泊施設はないとの事。『テント』はあるが、村の周りは草木が生い茂り、整地された道上くらいしか建てられそうな場所がなかったので少し困った事になった。
「アメリ様は『テント』持ってましたよね?」
「うん」
「なら、ここを出て左に向かって10分くらい歩くと広い空き地があるので、そこでテントを建ててもらっても構いませんよ」
「わかりました。ありがとうございます!」
流石に泊めてもらうわけにはいかないのでどうしようかと悩んでいたら、近くの空き地に『テント』を建てても良いと許可を得られた。村長さん直々ではないものの、息子のネツギさんが言うのなら大丈夫だろう。
「それじゃあ行こうか」
「あ、ちょっと良いですか?」
「はい?」
寝泊まりできる場所も決まったので今度こそお暇しようとしたら、今度はアリアさんに止められてしまった。
「サマリさんかユウロさん、ちょっとしたお話がありまして、どちらか御一人で良いので少し残ってもらえませんか?」
「えっ、じゃあ私が……」
どうやら私達に何か話があるらしい。アメリちゃんを止めなかったので、きっとアメリちゃんの話だろう。
内容はわからないが、とりあえずどちらか一人で良いとの事なので、夕飯にはまだ早いし、私の心情的にユウロを一人残したくないので私が残る事にした。
「じゃあ先に行ってるからな」
「ご飯の準備もしておくねー!」
「そんなに掛かりませんよ。ちょっとしたお話ですから」
「なら、おやつでも食べてるか」
「うん! じゃあサマリお姉ちゃん、また後で!」
「うん。じゃあ後で」
先に出ていった二人を見送り、私はまたアリアさんに向き合った。アリアさんに促されてネツギさんも部屋から出ていったので、完全に二人きりだ。
「さて……まずはお礼を。アメリ様の旅に同行してもらいありがとうございます」
「いえいえ、どちらかと言えば私に同行してもらってる感じですから」
さっきよりも真面目な雰囲気を纏ったアリアさんは、頭を深く下げながらお礼を述べてきた。
「一応、サマリさん達の事は報告は受けていましたが、どういった人なのかは実際に会ってみないとわからなかったですからね」
「報告……ですか?」
「ええ。魔王様へ、ベリリさんやアメリ様自身から共に旅している者の話はされていますからね」
「そうでしたか……」
どうやら私達の事は私と出会う前にアメリちゃんに仕えていたベリリさんやアメリちゃん本人が魔王様に伝えており、それを聞いていたアリアさんも知っていたようだ。
「短い会話とはいえ、想像以上にしっかりとした人だと思いました。アメリ様が懐いている様子も見られましたし、少し安心しました」
「あ、やっぱり不安に思われてたのですね」
「はい。直接話を聞いていた魔王様はそんなに不安がっては居ませんでしたが、私は少し。優しいお方とは聞いていましたが、伝聞だけではどうとも言えませんし。それと、ユウロさんはともかく、サマリさんは元々特別な訓練を受けていない人間の村娘という話でしたし、もし反魔物思想の人に襲われたら怖いなと」
「まあ……今までも何度かピンチになった事はありましたね」
「でしょうね。幼いリリムが人間界を旅をしているのは結構目立ちますし、他にもバラエティ豊かな複数の魔物が一緒となれば尚更です。噂になっていた事もありません?」
「あーっと、一度だけ情報通のラージマウスの女の子に目立つから知っている人は知っていると言われたことがありましたね」
元々アメリちゃんを護衛するために就かせたベリリさんが離脱し、その代わりに旅する事になったのが何の変哲もない村娘。保護者として不安に思わないわけがない。
実際、この旅の途中で何度も勇者や教団兵に襲われている。今までは何とか返り討ちにできているが、それも言ってしまえば運が良かっただけだ。その不安は何も間違ってはいない。
それはこの先の旅路でも同じ事が言える。以前私達の事を知っている少女が居たし、他にもどんな人が私達の噂を聞いているかわからない。リリムとはいえ幼いアメリちゃんを襲う輩が現れないとは言えないだろう。
「それでもここまで乗り越えていますし、アメリ様も無事です。一緒に旅をしているのが貴女方で良かった。本当にありがとうございました」
「こちらこそ、アメリちゃんに沢山助けられてますから。私がワーシープになって旅を続けられているのもアメリちゃんのお陰ですしね」
「詳しくは存じませんが、どうやらそうらしいですね。お互いに助け合ってるなんて、素敵じゃないですか」
「いえいえ……」
それでも、私達は助け合ってここまで来れたのだ。私もアメリちゃんもユウロも、それこそ今まで共に旅してきた誰かが一人でも掛けていたら、今ここでこうしてお話などしていなかっただろう。
そして、これもこの先の旅路においても同じ事だ。どんなピンチでも、皆で力を合わせればきっと乗り越えられる、そう信じて旅を続けるだけなのだから。
「と、言いますか……ベリリさんはともかくアメリちゃんはいつ報告を?」
それはそれとして、アメリちゃんが手紙などを出していた覚えはないのでいったいいつ親と連絡を取っていたのかが疑問だ。こっそりしていたとしても、ここまで全く気付かなかったのだから。
「あら、アメリ様それは言ってないのですね。アメリ様の旅の資金がどのように送られているかは御存じで?」
「まあ一応は……」
私達の旅の資金だが、私やユウロ個人の物に関しては、その個人が稼いだお金を使っている。元から持っていたお金だけではなく、立ち寄った街の日雇いや、道中で拾った珍しい物を売ったりして生計を立てているのだ。
そして、アメリちゃん個人の物や、食費などの旅そのものに必要な経費は、魔王城からアメリちゃんへと送られてくる。最初はあくまでもアメリちゃんへのお小遣いではないのかと思っていたが、どうやら共に旅をしている者は全員、形式ではアメリちゃんのお世話係として雇われているようで、私達もその旅費の恩恵を受ける権利があるとの事。
で、その旅費は、『テント』内にある金庫内へ魔王城から転送されてきているらしい。アメリちゃん以外が開けられない様にセキュリティも付いているとの事だが、魔法の知識がゼロの私では理解できないので、そこら辺は全部アメリちゃんに任せてあるのだった。
「あ、もしかして……金庫から手紙を送ってる?」
「ええ。双方へ転移可能な式が組み込まれていましてね、定期的にアメリ様から近況報告をしてもらっています」
「でも手紙っぽい物を書いていた覚えはないんだけどなぁ……」
「偽りし書物という魔法道具と同等の紙を使っており、読める条件は魔王様とその血を持つ者のみなので、サマリさん達にはアメリ様のお絵描きにしか見えていなかったりするかもしれません」
「へぇ……そんな物もあるんだ……後で聞いてみようかな」
言われてみれば備えられている紙に落書きやお絵描きをしているのは何度も見た事があった。偽りし書物というのは知らないが、名前からして書いてある内容がわからなくなる本だろう。だから、それら落書きの中に本当は手紙もあり、こっそりと魔王城へと送っていたという事か。驚きである。
「さて、話が逸れましたがそろそろ……」
と、一通り謎が解けたところで、アリアさんが話を区切り……
「サマリさん、これからもアメリ様の事、よろしくお願いします」
またも頭を深々と下げながら、そう頼んできた。
「はい。お任せください!」
私は、ハッキリと強く任せてと返事をしたのだった。
「では、お話はこれでおしまいです。アメリ様が向かわれた空地への道はわかりますか?」
「たぶん……ここを出て左に向かって10分くらい歩く、でしたっけ?」
「そうです。案内は必要なさそうですね」
「はい。その分ネツギさんと一緒に居て下さい」
「勿論、そのつもりです♪」
話はこれで終わり、こんなやり取りをしてちょっと笑いながら私も屋敷を出た。
「そういえばサマリさん。あまり魔物の事に詳しくなさそうですが、私がお教えしましょうか?」
歩き始めたところで、ふとそう言ってきたアリアさん。白澤は魔物の知識を広く持つというし、それ故の提案だろう。
「いえ、これからの旅の中で知っていこうと思います!」
勿論、その提案を私は断った。
魔物の事を知っていくのも、旅の醍醐味の一つ。今まで通り、旅を通じて知っていきたいからだ。
「ふふ、そう言うと思っていました!」
そう言って微笑むアリアさんに私は一礼し、『テント』へ向けて歩いたのだった。
「あ、お帰りサマリお姉ちゃん。お話は何だったの?」
「んーと、アメリちゃんをよろしくお願いしますって。先生として、生徒のアメリちゃんの事が心配だったみたい」
「そっか。じゃあ、また明日アリアお姉ちゃんにアメリは元気だよって言わなくちゃね!」
「そうだね!」
特に迷う事無く『テント』へと戻ると、おやつのクッキーを食べていたアメリちゃんがこちらへと駆け寄ってきて、気になっていたのか何の話をしたのか聞いてきた。
簡単に言われたことを伝えたら、満面の笑みを浮かべそう言うアメリちゃん。だから、明日の出発前にまた挨拶しに行こうと思った。
「さてと、今日の夜ご飯の準備しよっか」
「うん! 今日は何作るの?」
「今日は……結局何も買ってないし、有り合わせで……鶏肉あるし、チキンソテーでも作っちゃおうか。アメリちゃんはサラダ作るの手伝ってくれる?」
「うん!」
だが、今日はまず夜ご飯を作らなければならない。
だから私は、アメリちゃんに手伝ってもらいながら何時ものようにご飯を作るためキッチンへと向かったのであった。
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「んー! やーっと大陸に着いたか!」
ここは大陸にある港街フォルセカン。ジパングからの長旅も終わり、ウチは一息入れるように伸びた。
おとんが思ったよりはよ回復し、約束通り出発できたのはええが、こちらも思っとった以上に進んでいたようで、先回りするようにフォルセカン行きの船に乗ったため今まで以上の船旅になってしもうた。
「さて、今アメリちゃん達はどこに……」
船旅がしんどかったのでこの街でゆっくりしたいが、その間にここから更に離れられたら余計に合流が遅くなってしまう。せやからウチはポケットからマーカー確認用の道具を取り出し、とりあえずアメリちゃん達の位置を確認した。
「んー……まあ、一泊ぐらいはええか」
すぐ近くにおるわけやないものの、どうやらこちらに向かって進んどるらしいので慌てる事は無いやろう。むしろここで待っていてもそのうち会えそうやけど……ウチもはよ会いたいし、一泊したらこちらから向かおうと思う。
「よーし、ならまず宿を探すか!」
そうと決まれば早速行動に移そうと、ウチは大切な商売道具を背負って宿泊施設を探そうと歩み始めたのやけど……
「そこの商人狸さん、ちょっと良いかな?」
「ああん?」
背中から声を掛けられたさかい、ウチは怪訝そうに振り向いた。
商人として笑顔は大事やから、怪訝そうな表情で振り向くのは良くないやろう。せやけど、今は人化の魔法を使っとるっちゅうのにウチの事を疑う事無く狸と呼んだんや。怪しく感じても仕方のない事やと思う。
「ん? ああ、あんたリリムか。どうりでウチの正体を……」
やけど、振り向いた先におった人物の姿を見て、一発で正体を見抜かれた理由が分かった。
白くきめ細やかな短髪に同色のおっきな蝙蝠の翼、ほんで美しくしなる尻尾。対照的に深紅に染まる赤い瞳を持つサキュバス……いや、リリムがそこに立っとった。
珍しく胸は薄いので、髪型と併せどこかボーイッシュな雰囲気を纏っとるが、滲み出る魔力は強大で、今まで見た事のあるリリム達と同等の物やった。
「あ、ゴメン。隠してたんだね。ここは親魔物領なのに人間に化けてるなんて不思議な人だ」
「ええって。リリムに一発でバレるのはウチの修行不足やし。反魔物領を含めた世界中で売るのがウチの目的やから、常日頃から練習しとったんや」
今までもリリム相手にはウチが刑部狸だとすぐバレとったさかい、今回も一発で見抜かれたのはしゃあないともいえる。とはいうても、それは修行不足の結果やから、もっと精進せねば。
「で、何用なん?」
「ああ。魔界の果実の匂いがしたから、売り物だったら買おうと思ってね。一応この街にも売ってはいるけど、もう一つ気になる事もあったからさ」
「気になる事?」
それはそれとして、呼び止められた目的を聞き出す。大方何か売ってほしいのだろうと思っとったのやけど、どうやらそれだけやないみたいや。
「いや、商人さんからボクと同じリリムの魔力を微量だけど感じたからさ。姉妹の誰かと繋がりがあるのかなって」
「ああ、そういう事か」
曰く、自分と同じリリムの魔力を感じたから気になって呼び止めたらしい。
おそらく、ウチに付けられたアメリちゃんのマナ・マーカーから感じ取っとるのやろう。相互に付ける事によってより正確な位置がわかるからと、別れ間際に付けてもらっとったのや。
「せやで。今は別行動中やけど、リリムの女の子と一緒に旅をしてる。これから合流に向かうとこやで」
「へぇ……成る程」
納得したのか、ゆっくりと頷くボクっ娘リリム。
「じゃあさ、ボクも一緒に連れて行ってもらえないかい? 家から出た身だし、妹と会うなんてそう無い機会だからさ」
ほんで、自分も会いたいから連れて行きと言ってきよった。
「んー、まあ、その必要はないかな」
「え?」
「そのリリムの女の子な、自分の姉妹に会いたいが為に旅をしとるんや。ほんで今こっちに向かってきてるみたいやし、多分あんたに会おうとしとるんやないかなと」
「ほぉ!」
一緒に連れてくか悩むけど、どうも目的地がここみたいやし、きっと今は目の前の彼女に会おうとしとるのやろう。
やったら連れて行くより、ここにアメリちゃん達を連れてきた方がええ。会う為に旅をしとるわけやし、どうせこの街で観光もするのだろうから。
「ま、っちゅう事でこれから合流して連れてくるから、この街の観光名所でも考えといてくれへん?」
「わかった。じゃあボクが暮らしてる家まで連れてきてよ。今から案内するからさ」
「ええで。あ、それと魔界の果実やけど、虜の果実とねぶりの果実、あと陶酔の果実なら取り扱っとるで」
「じゃあねぶりの果実を2つと陶酔の果実を2つ買おうかな。家に着いてからでいいかな?」
「ええよ。あ、そういえば名前は?」
「ボクはブランカ。商人さんは?」
「ウチは花梨。宜しくな!」
っちゅう事で、ウチは合流したらこのボクっ子リリムことブランカさんに合わせる事になった。
合流時の手土産がもう一つ増えた事に、ウチの心はワクワクしっぱなしやった。
19/01/05 01:58更新 / マイクロミー
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