連載小説
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もも組の日常!
「やあ、おはようナハリちゃん、カティちゃん」
「おはようございますマダル先生!」
「おはようございます先生」

朝の打ち合わせが終わり私が教室内に入ると、そこにはもう二人の園児が座って待っていた。
挨拶をすると、二人とも小さな白い翼をゆらゆらと揺らしながら私のもとへと近付いてきた。

「マダル先生、今日の帽子はいつもより大きいですね」
「ああ。今日はちょっと暑かっただろ? だから大きな帽子を被ってきたのさ。魔界だから問題はなさそうだがね」
「今日も似合ってます!」
「ありがとうナハリちゃん」

二人は私のクラスの園児、エンジェルのナハリちゃんとヴァルキリーのカティちゃんだ。
ナハリちゃんは父親のギース先生がこの幼稚園の養護教員をしており、朝は一緒に幼稚園まで来る。そしてカティちゃんは寝坊しない限りはナハリちゃんと一緒にきているから二人は早いのだ。
そんな二人は幼馴染みの関係で、二人とも親が天界出身だったり元教団関係者だからかかなり礼儀正しい。

「この帽子ってキノコなんですよね?」
「ああそうさ。旦那のキノコ汁をおまんこに注がれる事で作られる私の大事なキノコだ。君達にも将来大事なキノコを見つけられるといいな」
「えっと……はい……」
「キノコって……でもそうですね。旦那さまを見つけたいです」

とはいえ、もちろん魔界のど真ん中にあるまもむす幼稚園に通っているので、二人ともしっかりと魔物である。
私がちょっと際どい発言をしても、少しは顔を赤らめるが特に問題無く会話ができるのが何よりの証拠だろう。

「さて、今日も皆が来るまでの間三人でお茶会でもしようか」
「はい! マダル先生の紅茶は美味しいので大好きです!」
「今日はどのようなお茶ですか?」
「今日はハーブティだ。魔界ハーブの一種、ストイック・ラヴをベースにキーナちゃんの魔力を混ぜてある。頭がシャキッとするし、しつこくない甘みもありお砂糖いらずだ。調整はしてあるから君達でも飲めるぞ」
「ありがとうございます!」
「おいしいです!」

時計をちらっと見たところ、他の子達が来る時間までまだ少しある。
という事で、ほぼ毎日している朝のお茶会を開く事にした。

「先生、今日はどんなお勉強をするのですか?」
「今日は数字のお勉強と、お昼からは運動のお勉強だ。今日はかけっこだが……二人とも翼を使って飛ぶのはダメだぞ?」
「わかってますよ先生。一番速く走って見せます」
「う……私速く走れるかなぁ……」
「おっ流石カティちゃん。ナハリちゃんもそんなに心配しなくてもいいよ。速くなくてもいいし、誰かより速い必要は無いからね。勝つとしたら、前の自分の記録に勝てばいいんだよ」
「はい、がんばります」

二人にも私のオリジナルブレンド紅茶を渡し、味わいながらお話をする。
今朝すみれ組のエーネ先生と飲んだ時も好評だったが、二人も気に行ってくれたようだ。

「そういえば先生、ずっと気になっていた事聞いていいですか?」
「なんだいカティちゃん」
「先生のエプロンの下に着てる服、キノコ生えてないですか?」
「ああ……そうだね」
「もしかして先生の着てる服って……キノコですか?」
「ふふ……さあ? ナハリちゃんはどう思う?」
「えっと……流石に服がキノコって事はないんじゃないかなぁ……と」
「えーでもナハリ、マタンゴさんは身体がキノコだし、マッドハッターのマダル先生だってキノコじゃないの?」
「あー、んー……カティの言う通りなのかなぁ……」
「はは、君達が卒園する頃には教えてあげよう。それまでは秘密って事で」
「「えー!」」

ゆっくりと全身に水分が染み渡る感覚……もといお茶を楽しみながら、二人の天使達と会話を続ける。
二人ともからかうとほっぺを膨らませて抗議してくる。そんな表情が可愛くてついからかいたくなってしまうのが私の悪い癖だ。

「むぅ……教えてくれないと先生のキノコ帽子食べちゃいますよ?」
「おっとそれは困るな。そんな事したらカティちゃんがお腹を痛めて1週間以上幼稚園に休まないといけなくなってしまう」
「え……で、では食べません!」
「ははは……ん?」

笑ったりむくれたりしながらお茶会を楽しんでいたら、ガララッと扉が勢い良く開いた。

「おはよーございまーす!」
「ねてるちゃんお届けにまいりましたー!」
「すぴー……おはよーございましゅ……ぐぅ……」
「やあおはよう」

入口に居たのは、さくら組のラージマウス姉妹、テミアちゃんとユクナちゃん。そしてその二人に抱えられているねてるちゃんこと、私のクラスの子であるドーマウスのキーナちゃんだった。

「おっと、もう皆着いていたのか。もう遅いかもしれないが皆を迎えに行ってくるよ。二人はキーナちゃんを起こしておいてくれ」
「はーい!」
「わかりました!」
「すぴー」

その3人がここにいるという事はすでにクラノ先生がいるという事で……教室から外を見たら、既に大勢の園児達が門の前に群がっていた。
お茶会に夢中で時計を見ていなかったが、たしかに皆が来るような時間だった。
しまったと思いながら、私は二人にキーナちゃんを起こすように言って急いで外に出たのであった。



……………………



「やあ皆、おはよう」
『おはようございます!』
「今日は済まなかったね。ボーっとお茶を楽しんでいたら先生遅刻してしまったよ。では出席を取るから、名前を呼ばれた子は元気に挨拶してくれ」

園児のお迎えに遅れた事をちょっと園長先生に怒られてしまったが、過ぎた事なので気にせず教室に戻る。
戻った時にはパッと見たところ教室に全員揃っていたので、早速出席を取る事にした。

「イーリンちゃん!」
「はい!」
「エルクちゃん!」
「はーい!」

まずはどっしりと構えた強気な女の子、イーリンちゃん。鋭い爪、大きな翼を持つ不思議の国の住民、ジャバウォックの女の子だ。角にハートのシールが付いているが、本人曰くいとこの男の子から貰った大事なシールとの事。
そしてエルクちゃんは、陽気で元気っ子なフェアリーだ。今年うちのクラスにはピクシーの子はいないが、イーリンちゃん始め魔物に囲まれているので『遊び』には興味津々だ。
ちなみにエルクちゃんは思ったより頑丈だ。身体が小さいのでよく身体を大きくしたイーリンちゃんに潰されてたりするが、全くものともしていない。

「カティちゃん!」
「はい」
「キーナちゃん!」
「……すぅ……」
「……カティちゃん、キーナちゃんを起こしてくれ」
「はい。キーナ、起きて下さい。先生に名前を呼ばれてますよ」
「むにぃ……ふぁ〜い……」

朝一緒に飲んだハーブティーのおかげか、シャキッとした表情で元気に返事をしたカティちゃん。
一方、床に伏しているキーナちゃんからは気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。種族的には仕方ないし、たとえ寝ていてもお話はもちろんの事お勉強はできるしご飯も食べられるが、せめて朝ぐらいは起きてもらう。寝ぼけ顔は可愛いがね。

「サンデーちゃん!」
「はい先生」
「スエノちゃん!」
「……」
「あれ? スエノちゃ」
「にゃはーい!」
「おっと。いつの間に先生の後ろに。気付かなかったよ」
「にゃは♪」

サンデーちゃんは堕落神を信仰しているダークプリーストの女の子。尻尾の先端を触って感じるのが大好きな、ちょっぴりエッチな女の子だ。時々ナハリちゃんを堕とそうとする、ちょっと困ったちゃんでもある。
そして、自分の席に座っていたはずのスエノちゃんは、いきなり私の後ろから返事をしたので驚いた。いつもニヤニヤしているチェシャ猫の女の子であり、この教室は不思議の国と同じようになっているので姿を消したり表したりは自由自在だ。

「ティレちゃん!」
「はいっ!」
「ナハリちゃん!」
「はい……ってティレちゃん! 筆が顔に当たりそうだから振らないでください!」
「あ、ゴメンねナハリちゃん。ねえねえこの絵どうおもう?」
「ん〜……すごく上手ですね」
「へっへー♪ げーじゅつはエクスプロージョンだー!」
「……ティレちゃん、ちょっとだけ静かにしてくれないかな?」
「あ、ごめんなさい先生……」

お次はティレちゃん。魔法の絵の具が付いた自分より長い筆を常に持ち歩いている、お絵描きが大好きなリャナンシーの女の子で、今のように「げーじゅつはエクスプロージョンだー!」とよく叫んでいる。
そんなティレちゃんの筆が顔に当たりそうになりしかめっ面を浮かべるナハリちゃん。ちなみに彼女が信仰している神はエロス神であるが、違う神を信仰しているサンデーちゃんとの仲は悪くは無い。堕とそうとしてくる事は迷惑にしているみたいだが。

「パーシュちゃん!」
「じゅぷじゅぷ……ん?」
「パーシュちゃん、人参をしゃぶるのに夢中なのはいいが、返事はしてほしいな」
「れろ……はーい!」
「ペラーちゃん!」
「ちゅぱ……はい!」
「ペラーちゃんは魚肉ソーセージか……二人とも、お勉強の時間までには食べ終わるように。お昼が食べられなくなっても知らないぞ?」
「「はーい!」」

人参をおちんちんのようにしゃぶっているのは、私以上にエロい事ばかり考えている、淫乱ピンクことマーチヘアのパーシュちゃんだ。よく猥談をしており、エルクちゃんに影響を与えている。とはいえ、まだ子供なのでお昼休みは人参をしゃぶるよりも友達と外を駆け回っている事の方が多い。
そんなパーシュちゃんと同じように魚肉ソーセージをしゃぶっていたのが、堕落天使ことダークエンジェルのペラーちゃん。堕落の果実が大好きな子で、セックスは気持ち良くなる事、する事でよくナハリちゃんと言い合っていたりする。

「マーシーちゃん!」
「はい!」
「最後、ルルマちゃん!」
「はい」

そんなペラーちゃんと同じダークエンジェルのマーシーちゃんは、ダークエンジェルにしては性に対しての関心が薄く、堕落神への信仰も薄い。ボーっとしてる事が多いのもそのせいかもしれない。
そして最後の一人、ティレちゃんと同じリャナンシーであるルルマちゃん。彼女は小さなおたまを手にしているところからわかるように、彼女は料理の創作が大好きだ。まだ4歳だが、彼女が作るお菓子はお茶会でも毎回出したいと思うほど美味しい。

「よし、皆いるな。それじゃあ今日のお勉強を始める。皆鉛筆とノートを出したまえ」
『はーい!』

このもも組は万魔殿や不思議の国など、所謂異界に住む魔物達で構成されたクラスだ。
現在の担当はマッドハッターである私なので教室内は不思議の国と同じような空間になっている。「ような」と言うのは、残念ながら淫らなハプニングは起こらないといったように一部違うところがあるからだ。
もちろんこの空間を作ったのは園長先生のお姉さんだ。彼女の大好きなお菓子を山ほど用意してわがままに散々付き合ってようやく作ってもらったと以前聞いた事がある。
そのおかげで私を含め不思議の国出身の魔物達はとても過ごしやすい空間になっている。もちろん、天界や万魔殿、妖精の国組の魔物達も不自由なく過ごせている。

「それでは数字のお勉強だ。今日は時間について教えるから、まずは皆時計を見てくれたまえ。キーナちゃんも目を開く」
「ふぁ〜い……」

そんな子供達は、もちろん魔物らしいお勉強もするが、普通のお勉強もする。
早速寝ているキーナちゃんに注意しながらも、私は子供達に数字のお勉強を教えるのであった。



……………………



「よし、午前のお勉強はここまで。お昼のお茶会にしよう」
「むむ……やっぱり数字のお勉強はむずかしいよ……」
「そうか? 私は好きだぞ」
「イーリンちゃんは凄いですね」
「んー、おちんちんがビクビクってなった回数は数えられるけどそれ以外はむずかし〜」
「あーそれわかる」

お昼を合図する鐘が鳴った。
という事で今からはお待ちかねのお昼ご飯の時間だ。

「ほら皆、手を洗ってきなさい」
「おーててあらおー!」
「手をあらおー!」

皆に手を洗いに行かせている間に、私はお弁当の時にでるホル乳にあう紅茶を取りに職員室へ戻る。
以前試しにホル乳ティーを皆に出したところ気に入られてしまいそれから毎日出すようにしている。私の自慢の紅茶を気に入ってもらえるのは嬉しい事だ。

「皆手を洗ったかい? それじゃあお弁当を配るよ」
「今日のお弁当は〜……スパゲッティだー!」
「ハンバーグもありますわね」
「雄々しい肉棒に太くて長い剥けるものも……❤」
「これは黄色いからバナナだね。給食のおばちゃんが前好きだって言ってたよ」
「おいしそう……ぐぅ……」

今日のお弁当は洋風のようで、トマトスパゲッティにミニハンバーグ、ちょっと大きいウインナー、そしてプチトマト入り野菜サラダにバナナが1本入っていた。
ウインナーやバナナを見て早速ピンクな妄想をしているパーシュちゃん。それ自体は健全ではあるものの、そこまで淫らな思考ができないナハリちゃんは若干引いている。
まあ……私だって帽子を被らされる前までは性的な事に免疫が無く、おそらく引いていただろうし、わからなくもない。

「それでは各自、自分なりの食前の挨拶を済ませて食べ始めよう。いただきます」
「はーい。いただきまーす!」
「はい。主よ……」
「すぴぃ……」

全員にお弁当とホル乳ブレンドミルクティーが行き渡ったので、挨拶をさせてから食事に入る。
この幼稚園では基本的に手軽だからという事と園長先生が気に入っているので挨拶はジパング式なのだが、カティちゃん、ナハリちゃん、サンデーちゃんにペラーちゃんは神を信仰しているので、それぞれ信仰している神への御祈りを済ませてから食事に入る。
食前の祈りを一つにする意味は無い。どの方式であれ、日々食べ物を食べられる事に感謝できるのだから。なので、各々の好きなスタイルで食べさせている。
ちなみに同じく堕落神を信仰しているマーシーちゃんだけはいただきます派である。本人曰く言葉の響きが大好きだからとの事だ。

「もぐもぐ……うん、今日もお弁当はうまい!」
「それはそうだよ。だって給食のおばちゃんが作ったんだもん。私も給食のおばちゃんのような料理作れるようになりたいもん」
「ルルマちゃんはもう美味しい料理作れてると思います。この前くれたお菓子美味しかったですし」
「ルルマのお菓子も美味いな。また作ってよ!」

いただきますと同時にミニハンバーグを一口で平らげたイーリンちゃん。美味しさのあまり、口から少し桃色の吐息が漏れている。
他の子達も食前の祈りを終えて次々に食べ始めている。
ルルマちゃんやナハリちゃんのようにお喋りしながら食べている者もいれば……

「はむはむ、むしゃむしゃ……」
「あら? ティレちゃんなんでそんなに慌てて食べているのですか?」
「ティレちゃんは早く食べてお絵描きがしたいらしいのです。私もばら組の皆と剣の修業をしたいので早く食べようかと思いましたが……」
「カティちゃんはゆっくり食べてるねー」
「あちらがどうかわからないのでとりあえずゆっくり食べてます……あ、こらエルク。サンデーのバナナを持って行こうとしない」
「わわ、いつの間に!? 全然気付きませんでしたわ……」
「あはは、ばれちゃった」
「こらエルクちゃん。人の食べ物を盗ったら泥棒だぞ?」

ティレちゃんのように早く遊びたくてがつがつと食べている子もいる。
私としてはお茶はゆっくりと飲んでほしいものだが、そんな大人の気持ちなど知らず、自分が遊びたいからと行動するのが子供だからとやかく言うつもりはない。
ただまあ、エルクちゃんのように悪い事をしたら怒る。それが先生としての私の役目だ。

「もぐ……すぅ……」
「にゃふふ……ぷにぷに〜♪」
「むぅ……ご飯食べてる時にほっぺつつかないでよマーシーちゃん……すやぁ……」
「……え? わたし? スエノちゃんじゃなくて?」
「た、たぶん寝てるんにゃよね? つついてたの私だし……」
「ははは、やはりキーナちゃんは凄いな……」

そして、キーナちゃんのように寝ながら食べている子もいる。
寝ているのにきちんとフォークを持ってスパゲッティーをもぐもぐ食べているし、お茶もゆっくり飲んでいる。本当に不思議だ。

「れる、れろ、じゅぷ……」
「ちろちろ……んんっ……」
「……どうしてあなた達二人はそうやってバナナを食べるんですか……」
「ちゅぱ……フェラチオのれんしゅうだよ! おまたに入れるのは流石にやらないけどね」
「将来だんな様になる人のおちんちんをなめなめする特訓。それにこうやって食べたほうが気持ちいいし美味しいよ。ナハリちゃんもやってみる?」
「わ、私は……遠慮しておきます」

また、案の定バナナを男性器のようにしゃぶっている淫乱コンビもいる。
二人の舌技にバナナがふにゃふにゃに蕩けて、まるで事後のようになっている。

「ん……ふぅ。先生のお茶おいしいね」
「これ飲めるのもも組だけみたいだよ。みんなうらやましがってた」
「そんな事は無いさ。羨ましがってた子には先生に下さいと頼みに来るように言ってあげてね。来た子にはもれなく先生特製のお茶をあげるよ」

お弁当の中身を全て食べ終え、ゆっくりと食後の紅茶を飲む。
ホル乳の深みを引き立てる紅茶に仕上げたが、中々の出来だ。満腹になったお腹をやさしく包んでくれる。

「皆食べ終わったね。それでは各自、自分なりの食後の挨拶をしよう。ごちそうさまでした」
「ごちそーさまでしたー!」
「おお主よ……」

全員食べ終わったようなので、食前の時と同じく各々のやり方でごちそうさまをする。

「さて、お弁当の空箱を持って行くか……」
「マダル先生、私も行きます!」
「おやルルマちゃん、手伝ってくれるのかい?」
「はい! 給食のおばちゃんとお話したいし、お手伝いします。ネネちゃんもいるかなぁ……」

皆が食べ終わったお弁当を運ぶ。
給食のおばちゃんことツクヨ先生とお話したいルルマちゃんも手伝ってくれるようだ。覚えたての人化の術を使って他の子と同じような大きさになり、お弁当の一部を持ってくれた。
という事で私達はお弁当を運ぶ。これが終わったら、午後の授業の準備だ。



===========[ちょっと一息]===========

【もしももも組の子がお菓子作りをしたら】

・エルクちゃんの場合

「おかっしかしかしおっさとーあーまあーま……♪ あれれ? 失敗しちゃった♪」

陽気に歌いながら作り、失敗しても気にしません。


・キーナちゃんの場合

「すぴー、ぐぅー、むにゃむにゃ……」
「……すごい……ねながらチーズクッキー作ってる……」

ぐーすか寝ながら自分の大好きなチーズのお菓子を作ってしまいます。


・ルルマちゃんの場合

「えっへん!」
「うわぁ……げーじゅつはエクスプロージョンだー!! 同じリャナンシーとしてそんけーするよ!」

あっという間に全て食べられるタイプのウエディングケーキを作りあげてしまいます。


・パーシュちゃんの場合

「ちゅぱちゅぱ……じゅるる、ん、ん……❤」

お菓子作りそっちのけで材料の棒状のチョコレートを一心不乱にしゃぶります。

おしまい。

===========[一息終わり]============



「さて皆、今からこの赤い旗から向こうの白い旗のある場所まで走ってもらうよ。時間も測るから手は抜かないように」
『はーい!』
「あと、エルクちゃんとティレちゃんとルルマちゃん以外は飛ぶの禁止だ。あくまでもかけっこのタイムだからね。今言った三人は流石に身体の大きさが違い過ぎるから飛んでもいいよ」
「マダル先生! 翼の向きを変えて走りやすくするのはアリ?」
「いい質問だイーリンちゃん。もちろんありだ」

昼休憩も終わり、午後の運動の時間。
今日はクラスの皆のかけっこ50メートルのタイムを比べる。かけっこと言っても、妖精属の子は流石に無理なので飛んでもらう。

「時間の測定は保健室の先生であるギース先生とフロン先生にも手伝ってもらい、3人同時に行う」
「よろしく。転んでもすぐに治療してあげるから、皆思いっきり走ってね」
「よろしくねみんな!」
「あっお父さん!」
「ナハリも良い子にしてるね。一生懸命走るんだよ」

今回は園児達の体力測定も兼ねているので、養護教諭の二人にも手伝ってもらっている。

「それじゃあ名前を呼ばれた子からその線の上に並んでね。イーリンちゃん、カティちゃん、パーシュちゃん」
「へっへーん、一位をとってやる!」
「そう上手く行きませんよ。一位は私のものです」
「わたしだって負けないよー! だって足腰はきたえてるもん!」

早速始める事にしたので、まずは足の速い3人を並ばせる。
全員が全員脚力に自信があるので始める前から火花を散らし合っている。
対抗意識を持つ事は互いに成長を促すので大いに結構だ。

「それでは行くぞ。位置について、よーい……どん!」
「うをおおおおおおっ!」
「はああああああっ!」
「ぴょーん!」

空砲の合図とともに一斉に走り出した三人。
一歩一歩が跳ぶように走るパーシュちゃんが最初はリードしていたが、翼が上手く風を掴みグングンと加速していくイーリンちゃんがそれを追い越した。
負けじとカティちゃんも走る。軽い物とはいえ普段着が鎧らしいので素の速さは相当のものだ。
カティちゃんもパーシュちゃんを抜き、イーリンちゃんに迫るが……ギリギリのところでゴールラインに辿り着いてしまった。

「はぁ……はぁ……やった一番!」
「う〜負けたぁ……悔しい……次は私が勝ちます!!」
「んー、もうちょっとだったんだけどなぁ……でもそんなにおそくないから良いや♪」
「はいお疲れ。3人ともここに座って他の子達の走りを見てる事、いいね」

順位は出たが、イーリンちゃんもカティちゃんも去年の秋の測定時よりも速くなっている、今年から幼稚園に入ったパーシュちゃんも、二人が年少だった時の記録と比べると明らかに速い。将来有望だろう。

「次、エルクちゃん、ティレちゃん、ルルマちゃん」
「速く飛ぶの苦手だなぁ……」
「走るのもエクスプロージョンだー!!」
「よーしがんばるぞー!」
「では……位置について、よーい……どん!」

次は妖精組。彼女達に50メートルを走らせるのは相当厳しいので、飛んだ時の時間を測定する。
普段からあちこちに忙しなく飛んでは絵を描いているティレちゃんは断トツ一位で、残り二人が良い感じに飛んでこちらに向かっていたが……

「ふーん……わわっむぎゅ!」
「おっと! 大丈夫かいエルクちゃん!?」
「うぅ……へ、平気だよ……」

途中でバランスを崩してしまい、地面に墜落してしまったエルクちゃん。
慌てて駆け寄ってみたところ、手と足をすり向いてしまったようだった。
とはいえ一応大丈夫なようで、特に問題無くふらふらとまた飛び始め、無事ゴールした。

「はい、お怪我を治しましょうね」
「ふあ〜♪」
「さて、エルクちゃんは大丈夫そうだから次の子は準備するよ。スエノちゃん、ペラーちゃん、マーシーちゃん」
「んー、走るのは苦手だにゃぁ……」
「スエノちゃんは教室だとよくパッと移動するもんね」
「みんなでがんばろう!」
「そうだね! がんばろう!」

エルクちゃんがフロン先生の治癒魔術を施されている間に、次のそこそこ速い子達を並ばせる。
残りの子達はちょっと足に自信のない子が多いが、こうしてみんなで励まし合って頑張って走る。

「位置について、よーい……どん!」
「にゃあああっ!」
「いっちに、いっちに!」
「たあああっ!」

エルクちゃんの治癒が終わったので、三人もスタートさせた。
全員がほぼ横ばいになって走り、平均的なタイムで着いた。

「はぁ……疲れた……」
「がんばったにゃ……」
「次もがんばろーね……ふぅ……」

そして、三人で健闘を称え合う。こうして友情はより深い物になると、私は思っている。

「それでは最後、キーナちゃん、サンデーちゃん、ナハリちゃん」
「むにゃ……がんばりゅぅ……」
「羽が邪魔で速く走れません……」
「私も……だからいっしょにがんばろうねサンデーちゃん!」
「はい!」
「それでは位置について、よーい……どん!」

最後は、このクラスの中でも比較的足の遅い子達だ。
キーナちゃんは半分寝ているからまともに走れない、サンデーちゃんとナハリちゃんはイーリンちゃん達と違い翼が逆に抵抗になってしまって上手く走れないから遅いのであって、運動神経は悪くは無い。

「むにゃ……ねーむーいぃ……」
「はぁ……はぁ……あとちょっと……」
「はぁ……はぁ……むぎゅ!?」
「あっナハリ!」

ゆっくりと走る三人。とはいえ、段々とゴールには近付いている。
そして、あと10メートルでゴールといったところで……ナハリちゃんがまるでヘッドスライディングでもしたかのように盛大に転んでしまった。

「ふえぇ……」
「だ、大丈夫かナハリ?」
「うぇぇ……いたいよお父さぁん……」

エルクちゃんよりも大きな擦り傷を作ってしまい、倒れたまま泣き始めてしまったナハリちゃん。
泣いている娘を心配して近付くギース先生。その間に二人はゴールして……そのままコースを戻り始めた。

「ふうぅ……ぅぇえええん!」
「むにゃ……がんばってナハリちゃん……」
「そうですわナハリちゃん。ゴールはもう少しですわよ」
「ふえっ……キーナちゃん、サンデーちゃん……」

そして、泣いているナハリちゃんの近くに来て、頑張れと声を掛けた。

「がんばれナハリ! もうちょっとでゴールだぞ!」
「がんばってナハリちゃん!」
「がんばれー!!」

そして、ゴールで待っている皆も立ち上がってナハリちゃんを応援し始めた。

「そうだぞナハリ。お友達だって頑張れって言ってるんだ。立ち上がってゴールまで走ろう」
「ぐす……うんっ!」

皆に応援されて元気が出たナハリちゃんは立ち上がり、痛い足を引きずりながらも無事ゴールした。
そして父親のギース先生の手で怪我の治療を受ける。その顔は、涙が零れながらも良い笑顔をしていた。

「よーし、これで全員測り終えたね。じゃあ教室に戻って、おやつの時間までゆっくり休んでくれたまえ」
『はーい!』
「むにゅぅ……もうねる……」

ナハリちゃんはそのまま少しの間保健室で治療を受け、私はフロン先生とかけっこの結果を纏める。
その間走り終えてへとへとの園児達は教室でお昼寝タイムだ。元気な子は遊んでいるかもしれないが、キーナちゃんみたいにもう寝むそうな子もちらほらいる。
あるものは元気に、あるものはとぼとぼと眠たそうに戻っていく姿を見送り、私は養護教諭の二人やまだ痛がっているナハリちゃんと共に保健室へと向かったのだった……



……………………



『先生さよーなら!』
「ああ、さよなら。また明日も元気に幼稚園へ来るんだぞ!」

さようならの挨拶も済ませ、散り散りになっていく園児達。

「それではナハリ、また明日」
「うん。また明日ねカティ!」
「ほらキーナちゃん、帰るにゃよ?」
「すぴー……かえろうかルルマちゃん……」
「わたしはスエノだにゃあ……」

ギース先生の仕事が終わるのを待つナハリちゃん以外は、クラノ先生の馬車まで元気に駆けていく。カティちゃんもいっしょに残る事もあるが、今日は帰るようだ。
今日のお昼は疲れるまで走ったのに、ちょっと寝ておやつを食べたらすぐに元気になるところはさすが子供達と言ったところか。

「さて、それじゃあお遊戯室へ行こうか」
「はい!」

私達二人を除く全員が教室からいなくなったところで、私はナハリちゃんをお遊戯室まで連れていく。

「今日は大変だったねナハリちゃん。もう怪我は大丈夫かい?」
「はい。お父さんがいたいのとんでけしてくれたのでもう大丈夫です!」
「そうか。それはよかったよ」

手を繋いで、楽しくお喋りしながらお遊戯室へ向かう。
つい数時間前に泣いていたとは思えないような、曇りのない笑顔を浮かべながら楽しくお喋りをするナハリちゃん。もう、足の痛みは全く無いみたいだ。

「あっナハリちゃん! こっちですよー!」
「あっフラニちゃん! すぐ行きます!」
「それじゃあナハリちゃん、お父さんがお仕事終えるまでここでフラニちゃん達と遊んでてね」
「はい! マダル先生さようならです!」
「ああさようなら。また明日」

お遊戯室に着くと、もうそこにはナハリちゃんと同じく幼稚園の先生の子供達(リリムのフラニちゃんは園長先生の妹だが)が集まっていた。
呼ばれたナハリちゃんは、私にさようならを言った後、とたとたと輪の中へ駆けて行った。

「……さて、会議の前に元気の出るタケリダケティーでも飲むとするか……」

離した手に小さな寂しさを感じながら、私は会議ややり残した仕事の為に職員室へと向かうのであった。



……………………



「ふ……ん……今日も疲れた……」

全ての仕事が終わり、帰路に着く私。

「子供……か……」

私は小さい頃からお母さんになりたかった。
しかし、ある日迷い込んでしまった不思議の国で私はあるマッドハッターに気に入られてしまい、自分の子供が産めるかどうかわからない身体になってしまった。
たしかに、夫との交わりで生まれた帽子を被せてマッドハッターへと変わった女性はある意味自分の娘なのかもしれない……とはいえ、自分だってそのマッドハッターを師匠とは思いつつも母とは思っていないので違うだろう。

「まあ……園児達だって自分の子供のようなものだろうな……」

そんなこんなで私はならばとせめて保育士として子供と接していたいと思いこの職に着いたのだが……案外楽しいものだ。
園児一人一人が成長していくのをみていると、まるで我が子が成長しているように感じて……とても嬉しいものだ。
だから私はきっと、この身が朽ちてしまうまでは保育士を続けるだろう。何年も、何十年も。

「ただいま」
「あ、おかえり」

家に帰ると、私の愛しい夫がおかえりと声を掛けてくれた。

「今日も元気いっぱいな子供達と一緒にはしゃいだから疲れたよ。疲れを飛ばす紅茶を飲みたいのだが、君のミルクをブレンドさせてくれないかな?」
「もちろん、君のお願いを断るつもりはないさ」
「おお……そこいらのタケリダケよりも立派なキノコではないか。早速扱かせてもらうよ。もちろん、その後は私と言うキノコもその汁で育ててもらうけどね」
「お安い御用さ。何なら今日はネバリダケもブレンドしよう」

それだけでも一日の疲れは飛ぶし、少し寂しくなっていた心も躍る。
だが、私の身体はそれ以上のものを求める。
できるかわからないが、私も園児達のような子供を作るために、夫と愛を深めるのであった。
14/06/02 22:11更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
3クラス目はもも組。万魔殿や不思議の国などの異界の園児達を集めたクラスでした。
今回はちょっと行事や他の先生達を交えてみました。いかがだったでしょうか?

ちなみに、微エロにしようかどうか迷ったりしましたw
なんせ今回は先生から園児まで結構きわどい事やってますからね…w

次回はおそらくひまわり組のゴート先生の娘、マイアがいるさくら組の話…かな?

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33