連載小説
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さくら組の日常!
「おはよーございまーす!」
「おはようございます! 慌てないでゆっくりと教室に向かってね!」
「はーい!」

園児達が馬車から下り、次々と教室に入っていく。
眠そうな目を擦りながらとぼとぼと入っていく子もいれば、元気に駆けながら入っていく子もいる。
私はそんな子供達に向かって、手を振り笑顔で挨拶をする。

「おはようゴート先生。やっぱりわたしをおよめさんにして!」
「おは……えっ!? ちゃ、チャモちゃん、だからそれは……」
「チャモちゃん!! だからパパのおよめさんはママと私なの!」
「マイアまで……二人ともいい加減にしなさい。僕のお嫁さんはママだけだよ」
「こーら二人とも、そうやって毎日ゴート先生を困らせてはいけません。そんな子は嫌われちゃうよ?」
「うー……でもマリン先生の言う通りだね。困らせてごめんなさいゴート先生」
「そうだね。ごめんねパパ。じゃあ私たち先に教室行ってまーす!」
「はい。チャモちゃんもマイアちゃんも教室で大人しく待っててね」

私のクラスの子であるチャモちゃんとマイアちゃんがひまわり組のゴート先生を困らせていたので軽く叱る。
ゴート先生の事が大好きでお嫁さんにしてもらいたいというのは大いに結構だが、そこまで好きな人を困らせちゃうのはあまり良くない。
特にマイアちゃんはゴート先生の実子だ。お父さんを困らせるのはダメだと叱る。
二人ともいつも通りわかってくれたので、二人仲良くさくら組の教室へと向かって行った。

「おはよーございます!」
「おはようございます……」
「おっはよーあははは〜♪」
「はい皆おはよう。今日も一日頑張ろう!」

次々と馬車から下りて園内へと入っていく子供達。
この幼稚園にはかなりの数の園児が在籍しているが、笑顔で挨拶していたらあっという間に皆馬車から下りて園児の影が無くなってしまった。

「さーて、そろそろ教室にもどろっと」
「そうだな。園児達も準備運動が終わっただろうし、早速相手してやらねばな」
「あら? 今日のばら組はたしか午前中は算数のお勉強ではありませんでしたか?」
「出席がてらの稽古だろう? うちのカティちゃんからそんな事していると聞いているぞ」
「ああそうだ。あ、言っておくがもちろん許可は取ってある。ねえ園長先生」
「ええ。そのほうがばら組の子達も一日を元気に始められるみたいですからね」
「ロラン先生含めてばら組の皆は朝も昼休みも稽古しておるからの。種族柄身体を動かすのが好きなのじゃろう」
「まあなんでもええけど、食べ終わったお弁当は忘れずに運んでな。たまーに一部の先生は弁当箱を持ってくるのが遅れるけど、ばら組は断トツだからね」
「う……すいませんツクヨ先生……」
「私も気をつけないと……生徒達と泳いでいるとつい忘れてしまいますからね……」
「まあ何にせよ、今日も一日頑張りましょうね」
「……頑張ろー……」

生徒が馬車内に残っていない事を確かめた後、先生方と軽くお喋りを交わしながら自分の担当する教室へと戻ったのだった。



……………………



「皆さん、おはようございます!」
『おはようございますマリン先生!!』
「それでは早速出席を取ります! 呼ばれたら返事をしましょう!」
『はーい!!』

教室に入り、大人しく待っていた園児達に挨拶して、早速出欠を取る。
まあ、一教室の人数は少ないので一目見れば全員居る事はわかるのだが、元気に返事をさせる目的もあるので一人一人名前を呼ぶのだ。

「アノンちゃん!」
「はいっ!」
「ウルちゃん!」
「はーい」

まずは、毎日葉っぱで出来た髪飾りをおしゃれに着こなす白肌エルフのアノンちゃん。長い耳をピクピクと揺らしながら、身体を突き出して元気に挨拶。ちなみにエルフだけど魔物なので人間は嫌っていない。
ウルちゃんはアノンちゃんとは対照的に褐色肌のダークエルフだ。お気に入りのマイ鞭片手に女王様気分(私の言う事は素直に聞いている)で、他の皆からもウルさまと呼ばれている。
ちなみにこの二人、エルフとダークエルフだが幼馴染みであり仲も非常に良い。親御さん同士は仲が悪いしウルちゃん曰く「堅苦しいエルフは好きじゃない」らしいが、よく2人とシアちゃんの3人で仲良く遊んだりお昼寝したりしているのでお互い大好きな相手なんだろう。

「エーウェちゃん!」
「はいっ!」
「クリルちゃん!」
「ふあ〜い」

お次はゴブリンコンビのエーウェちゃんとクリルちゃん。クリルちゃんのほうが年上だからか、エーウェちゃんはクリルちゃんを慕っており、クリルちゃんもエーウェちゃんを可愛がっている。
ちなみにエーウェちゃんはちょっぴりおバカで笑顔が絶えない元気っ子……だが、おバカキャラとは裏腹に計算能力だけは全園児の中でもトップクラスだったりする。お買い物でもあっという間に合計金額を考えおつりまでわかってしまう凄い子だ。
クリルちゃんは逆にのんびり屋で、普段からボーっとしている事が多い子だ。ゴブリンの中でも力持ちだし、もしかしたら将来胸が大きくなっちゃったりするのかもしれない。

「シアちゃん!」
「はいよっ!」
「チャモちゃん!」
「はーい!」

このクラスの中どころか、幼稚園全体でも背が低いシアちゃんは、お母さん特製クマのぬいぐるみとマイハンマーをいつも手に持つドワーフの女の子だ。アネゴ肌でありクラスの中心になっており、またドワーフとエルフの仲は悪いと聞くがそんな事はなく、アノンちゃんとは特に仲良しである。
そして先程門でゴート先生を困らせていたチャモちゃんは、狐耳と一本の毛並みが綺麗な尻尾を生やした妖狐の女の子だ。いつも元気いっぱいで、親友のマイアちゃんと仲良くはしゃいでいる。ただ、ゴート先生の事になるとちょっぴり喧嘩もしてしまうようだ。

「テミアちゃん!」
「はいはいはいはーい!」
「返事は1回でよろしい。フリアちゃん!」
「はいっ!」

お次は、落ち着きがないぐらい元気いっぱいなラージマウスの女の子、テミアちゃん。ネズミらしくチーズが大好きで、お弁当にチーズがでるといただきますより前に食べようとしちゃう困った子だ。
同じく元気ではあるがクラスの中でも落ち付きのあるフリアちゃん。ニヤッとすると可愛らしい八重歯こそ見えるものの、一見すると私と同じように人間としか思えない姿をしているが、もちろん魔物の女の子だ。
彼女はすみれ組にヴァンパイアのナリアちゃんという双子の妹がいる。そう、彼女はダンピールだ。ちなみに姉妹仲は良い。

「マイアちゃん!」
「はい!」
「ミヤコちゃん!」
「はい」

そして、ゴート先生の娘で、キキーモラであるマイアちゃん。元気で明るく素直な女の子だが、キキーモラだからか、それともあの家庭だからかはわからないが、お掃除が大好きで掃除をサボったりしている子には容赦しない。
そして、大人しくて大人びた狐耳のミヤコちゃんは、ジパングからこの魔界に越してきた稲荷の女の子だ。基本的に皆と仲が良いが、何故かチャモちゃんの事はライバル視している。

「ユクナちゃん!」
「はいはいはーい! はいはいはいはーい!」
「だからはいは1回でよろしい。ルーシーちゃん」
「……はい……」

テミアちゃんと同じく落ち付きのないユクナちゃんは、テミアちゃんと同じくラージマウスであり、そもそも二人は姉妹である。ユクナちゃんのほうが姉で、テミアちゃんを姉としてよく引っ張っている。
最後にルーシーちゃん。彼女は寡黙な、サイクロプスの女の子。寡黙と言っても、流石に同じ家に住むコスモス組のザラちゃん(ゲイザー)とは仲良くお話しているのを見たりもする。単眼なのを気にしているようだけど、私も皆も気にしていない。

「よーし、今日も皆元気に幼稚園に来たみたいだね。それじゃあお勉強を始めます!」
『はーい!!』

以上12名が私が担当するクラス、さくら組の園児たちだ。
見ての通りさくら組は人里で人間と密接に暮らしている種族の子が中心となっている。だからか、魔物の子に合わせて様々な変わった形の教室が多いこの幼稚園で、数少ない人間の子が通うそれと同じ形の部屋になっている。
ちなみに、暗黒魔界ではあるもののこの魔界が普通に人間界と同じような生活環境であるからか、このクラスに入るであろう種族の子供は毎年多い。その為か、本来ならばこのクラスになりそうな刑部狸やつぼまじんや魔女……は今の世代には居ないけど、そういった人里にいそうな子でも一部は別クラスになっていたりする。

「それじゃあ今日はまず音楽のお勉強から始めます! ピアニカは持ってきましたか?」
『はーい!』
「あ……ま、マリン先生……忘れてきちゃった……ごめんなさい……」
「あらら、クリルちゃん忘れちゃったの? 仕方ないなぁ……他の子は忘れてないよね?」
「大丈夫です」
「もちろん持ってきてまーす」
「よし。ならばクリルちゃんには先生のピアニカを貸してあげよう」
「わーい。ありがとうございまーす!」
「良かったですねクリルちゃん!」
「うん!」

出欠確認も終わったので、今日は早速音楽の勉強から始める。
という事で早速昨日持ってくるように言っていたピアニカを出すように言ったのだが、クリルちゃん一人忘れてしまったみたいだ。
素直にごめんなさいしたし、他に忘れた子はいないみたいなので、仕方ないから私が使っているピアニカを貸し与える。

「それじゃあ始めます。まずは皆でドレミファソラシドと順番に音を出してみましょう」
「よーし……ぴーぷー」
「シア、3つぐらい押す場所間違えているわよ? それになんか音おかしいし、強く吹き過ぎじゃない?」
「むぅ……難しいぞ……」
「ぷーぽー……むずかしい……」

ピアニカの練習は今年初めてではないが、まだそこまでやっていないので上手く演奏できない子も多い。
シアちゃんやルーシーちゃんのように、思ったように音が出せない子もいる。楽器は自分の身体とは違うので、思い通りに動かせないのは仕方がないだろう。

「♪ー♪ー♪ー」
「おーウルさま上手ー」
「上手だねウルちゃん」
「へへーん!」

ウルちゃんみたいに上手に演奏できる子もいる。
同じ子供と言えど、皆違うので得意不得意はもちろんある。
できた子には、上手だと褒めて自信に繋げる。
将来音楽家になるかはその子次第だし、ピアニカが弾けたぐらいで何だというものだが、それでもできた事に自信を持ち、更に挑戦する力を身に付けることが大事なのだ。

「くっそぉ……ウルはできてるのに……」
「シアちゃんも慌てない。ゆっくりシャボン玉を作るように優しく息を吹きながらここから押してみて」
「んーと……♪ー♪ー♪ー……できた!」
「よくできました」

もちろん、できた子だけを褒めていては、できなかった子は面白くはない。
だから、できなかった子に合わせてどうしてできなかったのかを丁寧に教えて、それでできたら同じように褒める。
自分だってできる。そう思わせる事で同じように自信に繋がり、明るい笑顔に繋がるのだ。

「ぴーぽー……んー難しい……」
「♪ー♪ー……できましたー!」
「マイアちゃんは上手……と思ったら何か書いてありますね」
「うん。パパがわかりやすいようにって貼ってくれたの!」
「こんな感じにピアニカにドレミファって貼ってあるとわかりやすくて良いよね」
「えーずるくなーい?」
「ズルじゃないよ。どこ押せばいいかわからなくなる子はこうやって皆もお母さんやお父さんに頼んで貼って貰いましょう」

教え合ったり、自分で工夫をする事で、どうにか全員演奏する。そうやって協力したり、苦手なりに対策を考える事によって子供達は成長していくのだ。

「よしできた!」
「せんせーできました! 次はー?」
「じゃあ、今日はチューリップを演奏してみましょう!」
「はーい!」
「それじゃあまず1列目から、ゆっくりと皆で演奏していきましょう。わからない子は先生や周りのお友達に聞いてね」
「ユクナお姉ちゃんここってどうやるの?」
「ここはこうだよ!」

皆で一緒に、楽しく音楽のお勉強。
時には音を盛大に外しながらも、皆で楽しく賑やかな演奏会は続くのであった。



……………………



「はーい、音楽のお勉強はここまで。皆今日も上手にできたね!」
「やっぱピアニカって難しいねルーシーちゃん」
「……うん……」

お昼の12時になったので、音楽のお勉強の時間は終わり。
がちゃがちゃと持ってきたピアニカをしまう園児達。クリルちゃんも私に返したので、それを専用のケースにしまう。

「さーて、お片づけも終わったのでお昼ご飯にしましょう!」
「よーしお弁当だー!! いっちばー……」
「こらユクナちゃん、テミアちゃん! まずは手を洗う! そして廊下は走らない!」
「は、はーい……」
「わかりましたー……」
「まったく。毎日言っても聞かないんだから……」

そして、待ちに待ったお弁当の時間。
せっかちなユクナちゃんとテミアちゃん姉妹が早速お弁当に手を伸ばしたので、先に手を洗うように注意する。

「今度はきちんと洗ったよマリン先生!」
「という事でお弁当ちょうだい!」
「はいどうぞ。でもみんな揃うまで食べちゃダメよ?」
「はーい!」

手を洗ってきた皆に早速今日のお弁当を配る。
今日のお弁当はジパング食のようだ。お弁当の半分に敷き詰められた白米の上には大きな海苔が1枚乗っており、おかずはカボチャと大根と竹輪と蒟蒻の煮物にお漬物、そしてデザートとしておまんじゅうが入っていた。そしていつもはホル乳だが今日はジパングの緑茶だ。

「それではみなさん、手を合わせて下さい」
『はい!』
「いただきます」
『いただきまーす!!』

皆にお弁当が行き渡ったので、皆の机をくっつけて、早速いただきます。
お腹が空いていた皆、特にせっかちなテミアちゃんとユクナちゃんはいただきますの後すぐに口に頬張り始めた。

「今日はジパング料理ですね。やった♪」
「ミヤコちゃんはジパング料理が好きなんだね」
「はい。大陸のご飯も美味しいですが、やはり産まれた時から食べているジパング料理のほうがなじみ深いです」
「そんなもんなんだ。でもお米は美味しいよね!」
「マイアちゃんもわかってくれますか!」

ジパング出身のミヤコちゃんは一人器用にも箸を使ってお弁当を食べる。
私は箸は苦手なのでフォークで食べているが、やっぱりジパング食は箸で食べたほうがあっていると思うので、今度ミヤコちゃんに教えてもらおうと思う。

「はむはむがつがつ……」
「むしゃむしゃもぐもぐ……」
「……早食い?」
「ぱくぱく……早く食べていっぱい遊ぶの!」
「ルーシーちゃんも一緒に遊ぼうよ!」
「うん……でも、ご飯はゆっくり食べたい」
「じゃあ食べ終わってからあそぼ!」

ぱくぱくもぐもぐと、慌ただしくご飯を頬張り込むラージマウスの姉妹。口いっぱいに放り込んでいるので、まるでハムスターのようにほっぺたが膨らんでいる。
この二人がここまで急いで食べているのかと言うと、本人達がせっかちなのと合わせて、早く外に出て遊びたいと思っているからだろう。
何度注意しても毎日こんな感じなので困りものだが……今のところ喉も詰まらせてないし、よく見るときちんと咀嚼もしているし、周りが迷惑しているわけでもないので大目に見てあげている。

「むぅ……苦くて美味しくない……」
「そう? 私はこのお茶の味好きだよ」
「アノンは苦いの平気だもんな。逆にウルは甘党だから苦手なんだろうな」
「そう言ってるシアちゃんもウルさまと一緒であまりお茶飲んで無いじゃん」
「ま、まあ……苦手ではないけど好きってほどでもないからな!」
「ジパングのお茶はおいしいのに……チャモちゃんは飲めるのですね」
「まあね。烏龍茶とかのほうが好きだけど、緑茶も大好きだよ!」
「先生は?」
「私もジパングのお茶は好きだよ。でも、少し前までは苦手だったからウルちゃん達の苦手意識もわかる。今日のお弁当だと、お饅頭を食べる時に一緒に飲むと美味しく感じるかもね」

子供達用に少し薄めにしてある緑茶だが、ウルちゃんを始めその苦みが苦手な子にはまだキツイようだ。
一方でアノンちゃんやミヤコちゃん、チャモちゃんなど美味しいって言う子もいる。
好き嫌いなくなんでも食べられる子もいるが、苦手な物が多い子もいる。
私だって、魔物になってからは味覚が変わって減ったとはいえ苦手な食べ物はあるし、好き嫌い言わずに全部食べなさいとは言い辛い。
でも、折角ツクヨ先生が色々と考えて作ったお弁当だ。お茶一つでも残さず食べてもらいたいので、できるだけ美味しく食べられる方法をアドバイスして、皆に食べてもらうようにしたいものだ。

「もぐもぐ……ちくわ美味しいね〜」
「大根も美味しいですよ!」
「私はちょっとこんにゃくは苦手かな……でも漬物もポリポリしてて美味しいよね」
「フリアちゃんも苦手な物とかあるんだ」
「うん。ナリアのほうがもの凄く好き嫌い多いからあまり気にされないけど、ちょっとはあるよ」
「あー……確かにナリアちゃん好き嫌い多そうだもんね〜。ニンニクとかさ」
「ニンニクはヴァンパイアだから仕方ない気がするけど……そういえばフリアちゃんはニンニク大丈夫なの?」
「はい先生。私はニンニクも美味しく食べられます。たまにパパと二人で食べてます!」

今日はこの地域の子達は普段食べないジパング食なので苦手な物も多いけど、皆で一緒に食べているからか残す子は一人もいない。

「おいしかったー!」
「よーしじゃあ遊ぶぞー!」
「はいそこ、ごちそうさまがまだよ」
「あ、そうだった」
「それじゃあ皆手を合わせて……ごちそうさまでした!」
『ごちそーさまでしたー!!』

まだ食べている子もいるが、大体の子は食べ終わったし、そもそもラージマウスコンビがこのままでは勝手に飛び出していきそうなので、ちょっと早いがごちそうさまをする。

「よーしそれじゃあ遊ぼう!」
「みんなでかくれんぼしようよ!」
「かくれんぼ? いいなそれ。うちもやる!」
「私も! チャモちゃんもやるよね?」
「もちろん!」
「チャモちゃんが参加するなら私もします。負けませんよ!」
「皆参加する流れなら私もやるー! あ、でも先にご飯食べ終わらないと」
「私も……ご飯食べたらクリルちゃんと一緒に混ざる」
「じゃあ決定ね。鬼は誰がやるの?」

ご飯を食べ終えたら、待ちに待った昼休み。
どうやらユクナちゃんの発案で皆でかくれんぼをする事にしたみたいだ。時間も沢山、人数も多いので盛り上がるだろう。

「鬼は……マリン先生がやって!」
「へ? 私?」
「うん! 先生この後お弁当片付けるんでしょ? その間にわたし達外に隠れるからお昼休み中に見つけて!」

なんて思っていたら、テミアちゃんに鬼役をやってと頼まれてしまった。

「ダメですか?」
「ん〜……いいよ。先生が鬼ね。大体10分後には私も自由になるから、それまでに隠れてね」
『はーい♪』

今日の午後は性と精についてのお勉強だから、そこまで準備は無いはずだ。
何より子供達と遊びたい気持ちは強いので、私は快く鬼役を引き受ける事になった。

「それじゃあ私はお弁当箱を持って行くから、皆校庭のどこかに隠れるのよ」
「はーい!」
「それ、隠れろー!!」
「あーまってー! まだ食べてる〜!」
「大丈夫ですよ。二人が食べ終わるまではここにいるし、先生が全部の仕事終えるまで10分は掛かるからね」

まだご飯を食べ終えていないクリルちゃんとルーシーちゃん、そんな二人に付き添っているエーウェちゃんとフリアちゃん以外は一目散に外へと駆けだしていった。




===========[ちょっと一息]===========

【もしもさくら組の子が大切な物を部屋で無くしたら】

・テミアちゃん&ユクナちゃんの場合

「うわーん! わたしのねずちゃん人形どこかいっちゃった〜!!」
「よしよしテミア。お姉ちゃんに任せな! 早速探すぞー!!」
「ぐすん……ありがとうユクナお姉ちゃん……」
「いいってことよ! でもその代わりテミアもわたしのカメちゃん人形探してね……」
「うん! じゃあ早速探そう!」

テミアちゃんは大泣きし、ユクナちゃんはお姉ちゃんらしく慰めます。
そしてユクナちゃんは妹に申し訳なさそうに頼み、慰められたテミアちゃんは笑顔で探します。

・ミヤコちゃんの場合

「どうしましょどうしましょ! お母さんにもらった大事な髪かざりが……あーどうしましょどうしましょ!」
「……落ち付いてミヤコちゃん……」
「落ち付けません! あーどうしましょ……」

慌てふためいてその場でぐるぐる回ってしまいます。

・チャモちゃんの場合

「うう……どこ行っちゃったんだろ私の櫛……はっ!?」
「チャモちゃん? この汚い部屋は何?」
「えっと……マイアちゃん……その……あははは……」
「まったくもうそんなにごちゃごちゃしているから簡単に物を無くしちゃうんだよ普段からきちんと整理整頓しておけば物なんてなくなりようがないんだよそうとわかれば今すぐ片付けする事わかった?」
「う、うん! わかったからマイアちゃんも手伝って!」
「もちろんそのつもりだよ……二度とチャモちゃんが部屋を散らかす事ができないように徹底的にやってあげるね……」
「ひぃぃ……」

掃除マニアのマイアちゃんに扱かれながら泣く泣くお片づけさせられます。

・シアちゃんの場合

「……うちのくまちゃん……ぐすん……」
「あーよしよし。シアのくまちゃんは私達が探してあげるからね」
「アノンは右側。私は左側を探すわ。だからシアも泣かないの」
「ひっく……ないてない……でもありがとうアノン、ウル……」

大切なクマのぬいぐるみがないと弱気になって涙目になります。

おしまい。

===========[一息終わり]===========



「さーて、じゃあ子供達を見つけますか!」
「あら、どうかしたのですか?」
「あ、ノーザン先生。それにガウス先生も。いやあ、さくら組の子供達にかくれんぼの鬼役を頼まれちゃったので、今から昼休みが終わるまでに全員探しだそうと思いましてね」
「そうなのですか……んっ……なんだか楽しそうに尻尾が揺らめいていましたのでね。何事かと思いました」
「あれ、揺れてました? やっぱり自分の意思に関係なく楽しいとつい動いちゃうんですよね。やっぱり元人間としては難しいものです」
「そうですかね? 私もガウスも元人間ですが、魔力の扱いは簡単にこなせますよ……あんっ」
「そりゃあノーザン先生はダークマターですし、この幼稚園の魔力管理者ですから。まあ、チャモちゃんもそうみたいなのでそんなものなのかなと思ってます」
「んふぅ……それならそれでいいかもしれませんね。それではかくれんぼ楽しんできて下さい」
「はいっ!」

午後のお勉強の準備も終えたので、職員室で夫であるガウス先生に跨り腰を振っているノーザン先生と軽く会話をした後、教室に戻って物品を置いた。

「さーて、皆はどこに隠れたのかな……っと」

やる事を終えたので、早速外に出てさくら組の皆を探し始めた私。お昼休みはあと20分。それまでに全員見つけ出さなければならない。
外に隠れると言っていたので建物の中には居ないはずなので、まだ隠れるところは限定されているはずだ。
パッと見た感じ、流石に遊んでいる子の中に混じっていたりはしない。一応全員隠れているようだ。そう、『一応』だ。
一応というのは……どうみても一人、教室の中から見てもうちのクラスの子がいるのがバレバレだからだ。

「よいしょっと」
「うわあっ!」
「あれ? てっきりクリルちゃんだと思ってた。でもいいや。エーウェちゃんみっけ」
「みつかっちゃったー! どうしてわかったの?」
「角が土管からはみ出していたわよ?」
「あーららー」

教室のすぐ近くにある小山。その麓にある、隠れるのに最適な土管の入口から、小さな角がヒョコっと一対出ていた。どうみてもゴブリンの角である。
これはのんびり屋なクリルちゃんかなと思い、土管に近付き腕を中に入れて引っ張り出したら、計算高いエーウェちゃんの方だった。
こんなミスするなんて意外だなぁ……なんて思いながら、見つかったエーウェちゃんには教室に戻るように言って、他の子を探す。

「山の上からならわりと……おっいたいた……」

高いところから見渡せば何人か見つかるかなと思い、小山を登り周囲を見渡すと……見知った子が何人か隠れているのが見えた。
とりあえず、一番近くにいる、ブランコの向こうにある大きな木の陰に隠れている二人を捕まえよう。

「アノンちゃんとウルちゃんみーっけ!」
「うっ、見つかっちゃったか……」
「まさか葉っぱに紛れた私まで見つかっちゃうとは……」

気の陰に息をひそめるように隠れていたウルちゃんと、その木の上に登り葉っぱの中に隠れていたアノンちゃんを捕まえた。
ウルちゃんの方は教室からならともかく、小山の上から見れば横向きで、綺麗な銀髪が丸見えだ。
アノンちゃんも森エルフらしく葉っぱの中に隠れるという考えは良かったが……

「普段着ならともかく桃色のスモックじゃすぐばれちゃうと思うよ?」
「あ」
「たしかに下から見てもアノンの位置はわかりやすかったわね」
「先に言ってよ〜!」

緑の中に明るいピンクでは不自然どころか余計に目立つ。という事で簡単に見つけたのだ。
二人が教室に向かうのを見送った後、私はさらに奥へ行きフェンスと垣根の間を覗く。

「さてお次はっと……ユクナちゃんとテミアちゃんみっけ!」
「ふぎゃっ!?」
「な、なんでわかったの?」

そこには思った通り、ユクナちゃんとテミアちゃんの姉妹が隠れていた。
二人ともここならそう見つからない自信があったのか、相当驚いている。
確かにここはそう人も踏み込まないし、暗黒魔界なのでただでさえ薄暗いのに木陰になり普通なら簡単には見つからないだろう。

「なんでって、二人とも落ち着きがないからずっとがさごそと動いていたんだもの。それじゃあ誰かいるって丸わかりだよ?」
「にぎゃ!?」
「そ、そんな〜……」

だがしかし、風もそこまでないのに垣根がずっと揺れ動いていたなら流石に誰か隠れているとわかる。
うちのクラスの子でそこまで落ち着きがないのはこの二人ぐらいだ。だからどっちかは居るだろうと近付いたら、両方とも居た。
自分達の落ち着きのなさに打ちひしがれ、珍しくとぼとぼと教室へ戻っていく姉妹を見送り、他の子を探し始めた。

「さてと、残り7人はどこかな……とりあえず手洗い場に行ってみようかな」

小山の上から発見できたのはさっきの2か所だけ。残りの子は別の場所に隠れているのだろう。
とりあえず虱潰しに探すしかないと思った私は、隠れられそうな場所を思い浮かべ、そっちに向かってみた。

「いるかな……あ、ルーシーちゃん見つけた!」
「むぅ……見つかっちゃった……」

少し大きい手洗い場の下は小さな空間があったはずだと思い、屈んでみてみたら、そこには大きな目をうるうるとさせているルーシーちゃんがいた。

「あれ? どうかしたのルーシーちゃん?」
「砂っぽくて目がしみたの……」
「それは大変。丁度手洗い場だし、目も手もきちんと洗ってから教室に戻ろうか」
「うん……」

かくれんぼで見つかっちゃって悲しかったのかと思ったが、そうではなくて砂が目に入ってしまったようだ。大きな目だから、他の種族の子と比べて砂埃は入りやすいのだろう。
丹念に目を洗わせた後、もう痛くないという事だが念のために教室まで一緒に行った。

「さてと、あと半分か……」
「先生あと10分しかないよー!」
「全員見つけられるかなー?」
「よし、頑張ってみるよ!」

まだ見つけていないのはクリルちゃん、シアちゃん、チャモちゃん、フリアちゃん、マイアちゃん、そしてミヤコちゃんの6人。残り時間は10分。
ここまで人数も時間もちょうど半分。ペースは悪くない。
建物の裏側はまだ行っていないので、今度はそっち側を当たってみる事にした。

「さーて……ん?」

幼稚園の建物の裏側、プールや多目的ホールがあるほうへ向かってみたが、いかにも怪しいシートが花壇の上に敷いてあった。
いや、たしかにシートは普段から敷いてある。今ここには何も植えていないので敷いてあると聞いている。
問題は、そのシートの真ん中に小さな膨らみがあるという事だ。
誰かまではわからないが、きっとうちのクラスの子だろう。そう思った私は、シートを掴んでバッと持ち上げた。

「そこにいるのは誰だ!」
「わわっ!?」
「シアちゃん見つけた!」

めくれたシートの下から現れたのは、クマのぬいぐるみを抱えるように小さく丸まったシアちゃんだった。
そうさせる気ではあったが、ビックリして慌てふためいていた。

「あーあ、汚しちゃって……ちゃんと砂を落としてから戻るのよ?」
「あいよ!」

雨の日だってずっとしいてあるシートは砂だらけだ。そんな中に入っていたシアちゃんの全身は砂まみれだ。
髪や服の砂をある程度は叩いて落とした。が、完璧ではないので、きちんと落としてから教室に入るように言う。

「さて次は……あれ?」
「あ……わ、私はここにいませ……」
「ミヤコちゃんみっけ」

他の子はもうちょっと奥にいるかなと思い歩き始めた時、ふと横を見たら……側面の隙間にすっぽりと入っていたミヤコちゃんとバッチリ目があってしまった。
たしかに横から見たら完全に死角だが、道からだと真正面だ。簡単に見つかってしまい、耳が垂れてあからさまにがっかりしている。

「ちゃ、チャモちゃんはもう見つけましたか?」
「チャモちゃんはまだかな」
「そんなぁ……」

何よりもライバルであるチャモちゃんに負けた事がショックのようだ。尻尾まで力無く垂れている。
ラージマウス姉妹以上にしょんぼりしながら教室に戻っていくミヤコちゃんを見送り、プールの裏側へ向かってみた。

「流石にプールの中には居ないよね……」

季節が季節なのでまだプールは空いていない。だからプール内にはいないはずだ。
だからいるとしたら裏側だと思うが、パッと見た感じだと誰も居なかった。
なのでそのまま引き返そうと思ったが……ふと、倉庫前の階段が目に入った。
すぐ横には壁があるが、微妙に空間もあるかもしれない。ここからは階段の向こう側は見えないので、もしかして……

「よいしょっと。あ、マイアちゃん見つけた!」
「あー見つかっちゃった。前ソーラちゃんに教えてもらったここなら自信あったのになー」

そう思って階段の向こうを覗いてみたら、マイアちゃんが縮こまって隠れていた。
たしかにここは難しい。一見何もないようにしか思えないので、感が冴えなければ見つからなかっただろう。

「後5分、そして3人か……」

マイアちゃんを見つけたところで残り5分、あと3人だ。
あと園内で隠れられそうな場所は花壇と馬車小屋ぐらいだ。きっと3人ともそこにいるのだろう。
順番に見て回るとして、まずは花壇へ向かった。

「花壇は……誰もいないかな?」

花壇に着いたので、陰になっているところや、念のため花壇の中も見てみたが、園児達の影は見当たらなかった。
ルーニア先生の分体はいるが、それ以上大きい人影は特に無さそうなので、早々に切り上げて馬車小屋へと向かった。

「さてと、中には居ないと思うけど……」

馬車小屋の入口はクラノ先生がきっちり閉めているので中に入っている事はない。という事は、微妙に空間のある床下か、裏側かだろう。

「下はっと……お、み〜つけた」
「わあっ。ついに見つかっちゃったか〜」

床下を見てみると……想像通り、そこにはチャモちゃんが身を隠していた。
あとちょっとで休み時間も終わりだったので、このタイミングで見つかってとても悔しそうだ。

「残り二人……でも裏側には居ないか……」

もう時間はあまりない。とりあえずチャモちゃんを引っ張り出した後、すぐさま小屋の裏側を覗いたが……予想に反して誰も居なかった。
こうなると残り二人がどこに隠れているかわからない……残り3分、空を見て考えを纏めようとしたところで、ふと気付いた事があった。

「窓に土が……まさか!」

馬車小屋にある窓の格子のところに、本来ならばあるはずのない土の塊が乗っていた。まるで、ここに誰かが立っていたかのように。
見つけていない園児はあとクリルちゃんとフリアちゃん。そのうちフリアちゃんはダンピールならではの運動神経を持っている。窓に足を掛けて屋根の上に登ることなど容易いはずだ。
そうかもしれないと思い、私は急いで園内に入り2階に上がる。家庭科室の前の廊下の窓からなら馬車小屋の上も見えるはずだ。

「いたー! フリアちゃん、そこは危ないから降りなさい!」
「あ……ご、ごめんなさい先生」
「慌てずゆっくりとね! 隠れ場所は凄かったけど、今度からはダメだよ!」
「わかりました。ごめんなさい!」

予想通り、屋根の上にフリアちゃんは四つん這いで乗っていた。
ダンピールと言えども落ちたら怪我をしてしまうので、大声で注意して、ゆっくり下りるように言う。
落ちたらここからじゃ支えられないからどうしようかと思ったが、そこは運動神経抜群のフリアちゃん。問題無くスタッと地面に降りた。

「ふぅ……さて、時間になっちゃったか……」

結局クリルちゃんを見つけられないまま、お昼休みが終わるチャイムが鳴ってしまった。
どちらにせよ隠れている場所が見当もつかなかったので、諦めて教室に戻る事にした。

「いやあ、クリルちゃんは見つけられなかったよ……ってあれ? クリルちゃんは?」
「まだ戻ってきてないよ!」
「もしかして寝てたりして」

チャイムもなった事だし、もう皆教室に戻っていると思いきや、まだそのクリルちゃんが戻ってきていなかった。

「だれかクリルちゃんがいる場所知らない?」
「私知ってるよ先生!」
「エーウェちゃん、じゃあ案内して!」
「いいよ!」

たしかに彼女なら隠れている途中で寝てしまっている可能性もある。
という事で、隠れている場所を知っているというエーウェちゃんに案内してもらった。

「ここだよ先生!」
「え……ここって、エーウェちゃんが隠れていた土管だよね?」

エーウェちゃんに案内してもらった場所は、まさにエーウェちゃん自身が隠れていた土管だった。
不思議に思いつつ、土管の中を覗いてみると……

「あ、いた!」
「むにゃむにゃ……あれー? 見つかっちゃった?」
「見つかってないですよクリルちゃん! もうお昼休み終わりましたよ!」

エーウェちゃんが隠れていた場所の奥に、縮こまって寝ているクリルちゃんの姿があった。

「もしかしてエーウェちゃんが見つかったのは……」
「へへ、実はわざとわかりやすく隠れて、先生にもういないと思わせてその奥にいるクリルちゃんが見つからないようにしてました!」
「なるほどね……してやられたよ」

確かにエーウェちゃんらしくないとは思っていたが、まさか自分を犠牲にしてまでクリルちゃんが見つからないようにする策とは思わなかった。これじゃあ見つからないはずだ。

「さて、お昼休みは終わりでこれからお昼のお勉強だよ。二人とも一緒に教室に戻ろう」
「はい!」
「うんっ!」

楽しいお昼休みは終わり。今からはお昼のお勉強の時間だ。
ちょっと寝惚け眼のクリルちゃんと、自信満々のエーウェちゃんと手を繋ぎ、ゆっくりと教室に戻るのであった。



……………………



「んー、疲れた!」
「お疲れ様ですマリン先生」
「あ、ゴート先生。お疲れ様です」

午後7時。もう既に赤い月が昇り、辺り一面が輝いている明るい夜が街全体を包んでいた。

「バイバイマリン先生!」
「うん。バイバイマイアちゃん。また明日ね」

職員会議など今日の仕事は全て終わり、先生達やその娘さん達が一斉に幼稚園から帰っていく。マイアちゃんもゴート先生と手を繋いで、私に手を振って家へと帰っていった。

「んー、今日はかくれんぼもしていたから一段と疲れたな〜。帰って油揚げを摘んで、ちょっとムラムラするしストレス発散にオナニーでもしよう!」
「ほほう。溜まっておるのならわしが発散してあげようかの?」
「きゃっ! セルクス先生、いきなり後ろから胸を鷲掴みにしないでください!」

私もゆっくりと帰宅する。
疲れからか、それとも午後は性のお勉強だったせいか、妙に身体がムラムラしているが、生憎私にはパートナーがいない。なので家に帰ったら思いっきりオナニーでもしようかなと思っていたら、後ろからサボテン組の担任、セルクス先生が後ろから抱きついてきて胸を揉んできた。
咄嗟の事で驚いた。ちょっと気持ち良かったのが悔しいところである。

「もう……女性同士でヤる趣味はないです!」
「なんじゃつまらんのう。わしは女子も好きじゃよ。それに、女同士でも一人でするよりは気持ちええんじゃぞ?」
「それは一応わかってますが……でも女性同士はちょっと……」
「まあ、無理にするつもりはない。命令なんぞして同僚に嫌われたくないからのぉ」
「ならいいですが……って尻尾も撫でないでください!」
「おや、ここに尻尾があったのか。気付かなかったのぉ……」
「嘘は止めて下さい! もう……」

セルクス先生は元々男性である為か、魔物でありながらわりと女性も好きである。そのせいでよく未婚の先生は胸を揉まれたりするし、一部先生はセルクス先生と性欲発散していたりする。
私もよく油断すると胸やお尻を揉まれたり、今みたいに尻尾を撫でられたりする。
スキンシップだとわかっているので本気で文句は言わないが、他の先生や子供達、それに近所の方にも言われるようにまだ人間らしいところも残っている私からしたら、ちょっと困りものである。

「まあ、確かにわしには見えておるのお。他の先生も一部魔力の扱いに長けておる者であれば見えておるじゃろうな。その燃えるような青白い尻尾と耳がの」
「そうみたいですね。肝心の男性には見えていないのが困りものです。おかげで保育士として保護者の方とお話する時に不思議がられますし、それ以前にパートナーとなる男性がなかなか見つけられません……」

困っているといえば、私自身よく保護者の方、特に父兄の方には魔界なのに人間がいると思われて毎度不思議がられているのが今一番の悩みだ。
たしかに、狐憑きという私の種族は他の人から見ると人間のようにしか見えない種族なので仕方がないのだが、別段変わってないのに奇異の目で見られるのはあまり心地良くない。
だからこそ、私のありのままの姿が見える人を見つけたいのだが……前途多難である。

「はぁ……」
「本気で疲れておるようじゃのう……わしの部下にマッサージが上手い者がおるが、受けてみるかの?」
「それはまた今度お願いします。お腹も空きましたし早く帰りたいので」
「なら仕方ないの……おや、誰かが向かってきてるぞ?」
「え?」

街外れにある遺跡の方面に私の家はあるので、途中まで一緒のセルクス先生と二人お話しながら帰っていたのだが、その途中、青白く光る何かが、道の向こう側から近付いているのが見えた。

「おーいマリンせんせー!」
「あ、あの子は!」

段々近づいてくる青い光は、私の名前を高らかに叫んだ。
その声といい、近付いてくるほどハッキリとしてくるその人型狐耳のシルエットといい、私はある一人の人物の事が思い浮かんだ。

「スラーちゃん! 久しぶりだね!」
「久しぶりマリン先生! それにセルクス先生も!」
「おお、久しぶりじゃの。わしとは卒園してからじゃから、もう5年は経つかの」

それは数年前、まだ保育士になったばかりの私が受け持った最初の卒園生である、狐火のスラーちゃんだった。
私とは数ヶ月に一回遊ぶ事もあるが、この前会ってからもう4ヶ月ぐらいになっていたので本当に久しぶりであった。

「でもどうしたのこんな時間に」
「なんだか先生に会いたくなってね。この時間ならまだ幼稚園かなって思って向かってたの」
「そうなんだ。ありがとう!」

もう11歳とはいえ、まだまだ子供のスラーちゃんが出歩くにはちょっと遅い時間だ。だからどうしてここにいるのか聞いてみたところ、私に会いたくなったからという事だ。
その言葉が嬉しくて、私はスラーちゃんにギュッと抱きついた。

「ほっほ。相変わらず二人とも姉妹のように仲が良いのお。それではわしは先に帰りますのじゃ」
「あ、はい。それではお疲れ様です」
「バイバイセルクス先生!」

私達の様子を見て、先に帰っていったセルクス先生。
彼女は私達の事を姉妹のようだと言ったが、そこまで間違っていない。
スラーちゃんを生み出した妖狐と、私に憑いた狐火を生み出した妖狐は同一人物だ。だから、ある意味姉妹と言えるだろう。実際彼女は妹のように一緒にいて楽しいし、何かあると会いたくなる。

「じゃあ、とりあえず私の家に行く? それで油揚げ一緒に食べる?」
「うん! マリン先生とご飯食べるって言って出てきたからね♪」
「じゃあ丁度良いか。折角だし、ついでに途中でケーキか何か買おうか」
「わーい!」

まあ、彼女はたしかに特別だが、他の子だってそうだ。
卒園していった教え子達とたまに会ってお話をすると、もの凄く楽しいし元気になる。
その瞬間が、私が保育士をしていて、幼稚園の先生をしていて一番よかったと言える。
多くの教え子達と楽しく過ごす時間が、私の一番の宝物だ。

「今日はどんな事したの?」
「今日はね、クラスの皆と幼稚園でかくれんぼしたよ。楽しかったけど、一人だけ見つけられなくて悔しかったな〜」
「へえ、マリン先生でも見つけられないなんてすごいね!」

溜まっていたストレスなんてどこかに飛んで行った。明日からも頑張れる。
スラーちゃんと手を繋ぎ、楽しくお喋りしながら、私は家へと帰ったのであった。
14/10/06 23:23更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
今回は人里組、さくら組のお話でした。
人里組という事で今回はわりと人間の子供達と同じような事をしましたが、どうだったでしょうか?
いえ、決してネタが尽きてきたとかではありません。まだ8クラスもありますしね…w

次回は、冒頭で出てきたロラン先生のバラ組か、最後のほうに出てきたセルクス先生のサボテン組か、はたまた別のクラスか……まあ、書く時の気分によりますw

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