連載小説
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魔が誘う、背徳の夜に...
 ジリジリという、ランプが燃える音がする。
 魚油が燃焼する独特の臭いではなく、オリーブ油の爽やかな匂いが、静かな室内にうっすら漂う。

 こくり。
 のどの鳴る音がやけに大きく感じらる。それに、心臓の音も。
 心許ない明かりは、“それ”を照らすのを畏れでもするようで。少年――ミリシュフィーンは、そんな“異形”を改めて見た。

 一対の角、背には翼と、腰には尾。
 〈リリム〉と〈ドラゴン〉。
 いずれも魔軍の頂点に君臨する化け物であるはずが、どうしたことか。白い裸身をさらし、目隠しと、後ろ手に鉄の鎖が巻き付く。床に座した姿は、まるで罪人だ。
 だが。そんな姿に貶められても、彼女たちは確かに気高く――そして、美しかった。

 白い髪のリリムは、同じく抜けるように白い肌と相まって、まるで月の化身だ。いや、夜空で皓々と輝くあの銀月こそが、この女の影なのだ。そう、思う者がいたとして、誰も笑うまい。

 赤い髪のドラゴンは、灼熱の太陽か。鍛えた剣を思わせる、玉の肌と冴え冴えとした妖姿。気安く触れれば斬り捨てられる――そんな苛烈さの匂う肢体を、深紅と燃える鱗がちりばむ。

 異教の神殿に安置された女神像。
 そんな言葉がピッタリな、ある種の歪さを感じさせながらも、知らず膝を突きたくなる神秘性と、魂に焼き付いて離れないであろう麗しさ。
 神聖にして不可侵なる領域にあって、ミリシュフィーンはいたたまれなさを感じずにはおれない。
 それでも、震える膝を叱咤して、前に出る。
 彼も全裸だった。
 少女と見紛う可憐な裸身の中で、屹立し反り返った陰茎だけが激しい自己主張をする。

 自分でも驚くほど熱を持ったそれを手で掴み……ドラゴンの前に立つ。
 目隠しをしてなお凜々しさの窺える相貌は、本来、自分如き矮小な者が、触れて、汚していい存在ではない。が、決意を胸に、少年は進む。
 瑞々しい唇に、そっ、と亀頭を当て。
 その瞬間、敏感な粘膜に熱を感じ、思わず腰をひいてしまった。
 熱かった訳ではない。だが、人よりは高めな体温と、何より、情欲の炎に薪をくべるような……そんな熱情を感じた気がして、驚いたのだ。
 再度、おそるおそる唇を割り――ついには、陰茎を差し入れた。
 刹那、激しく蠢く舌で滅茶苦茶に亀頭を舐め回され、悲鳴を上げて腰をひく。
 すると、
 唇の隙間からぬらつく舌が大蛇のように姿を現し、取り逃がした獲物を悔やむように身をくねらせると、巣穴の奥へ姿を消した。
 座したドラゴン自体は微動だにしていないのに、先程まで女神像を思わせていたその姿が、地の底へと誘う淫虐の魔獣に見えてくる。

 ミリシュフィーンは数歩後退り――今度はリリムを見た。

 意図的に後回しにしていたのだ。だが、やらねばならない。胸元で手を組み、神の加護を……祈りそうになって、慌てて首を振る。加護などあるはずがない。いや、あってはならない。
 意を決して淫魔へと近寄り、紅を引く必要のない、赤く色付く柔らかな肉の実へと、亀頭を触れさせる。
 すると、甘やかな感触をじんわり伝えてきて、どうしてだか泣きたくなる。
 ぎゅっと目を閉じ、少しずつ赤い実を割って侵入する。口内は、温めたジャムにでも浸したのかと思うほど、温かくネットリと潤っていて。もうそれだけで腰が震えてくる気持ちよさだが、幸い、リリムは動かない。

 安心し、深呼吸。

 唇の輪を抜け、ムニムニ柔らかな舌とツルツル硬い口蓋に挟まれながらじわじわと進めば、やがて、亀頭の先が柔軟でプニプニしたものに触れる。子宮口ともまた違う、弾力に富んだ肉の穴だ。
 抜き差しを始めると、それに合わせるように唇がすぼまり、口内も狭くなる。
 視線を下ろせば、目隠ししてなお美しい顔が、そこにはあった。こんなにも綺麗な存在を、まるで物扱いして快楽を得ようとする。それは、凄まじい背徳感を少年に与える。
 舌が蠢き、陰茎に絡みついてくる。決して激しくなく、包み込むように、労るように。主人に尽くすメイドのように、甲斐甲斐しく愛撫する。
 リリムが。
 魔王の娘が。
 神の敵にして、高貴なる魔性の美姫が。
 奴隷のようにひざまづき、小便を垂れ流す排泄器官に、黙々とご奉仕している。
 あまりの背徳行為に胸が締め付けられ、同時に言いようのない昂ぶりを覚える。それでも、罪の意識から、
「ごめんなさい」
 と小さく漏らせば、
 まるで咎めるかのように、口淫奉仕が激しくなった。
 もう立っていられない。頭の黒い角に――死に神の鎌を幻想させる魔族の象徴にしがみつき、必死でこらえるのだが。

 ビュルルルルーーーゥッ!!

 ついに、魔界の皇女の口内に、大量射精してしまった。
 のど奥に勢いよく叩き付けられる精液。

 こくん♪ こくん♪

 白いのどが鳴る。飲んでいるのだ、精液を。陰部から迸った不浄を。

 ビュルッ、ビュッ、ビュ、ビュ……。

 一度の吐精では収まらず、我が身の浅ましさに頬を染めながらも、気持ちの良い口内射精を続けてしまう。
 やがて。
 射精の終わった陰茎から、中の残りカスも吸い出し、舌で綺麗に清め、お掃除は完了した。

 そこまでだった。
 へたり込むように腰を下ろし、息を整える。

 気付けば、ドラゴンの尾の先端が、ピコ、ピコ、と小さく揺れているのが見えた。
 待たせる訳にはいかない。
 重い腰を上げ、ドラゴンの前に立つ。
 怖ず怖ずと歩を進め、形の良い唇に亀頭を当てる。それから、少しずつ陰茎を押し進める――つもりだった。

 ズボッ!!

 あっという間だった。
 強烈な吸引に為す術もなく引き込まれ、

 ごつんっ♪

 のど奥に亀頭がぶち当たる。
 その衝撃が凄まじく、また、唇とのど奥の締め付けや、肉竿に巻き付く舌の圧力に負け、

 ビュルルッ! ビュビューーー!

 呆気なく射精してしまった。
 下腹部をめいっぱいドラゴンの顔に押し付けているのに、それでもなお吸われ。このまま体ごと呑み込まれてしまいそうな恐怖に駆られ、天を衝く角にすがりつき腰をひく。
 が、吸われて元に戻される。

 ズルズルッ、ぺたん!
 のど奥に、ごっつん♪

 図らずも何度かそれを繰り返してしまい、

 ビュルビュルビュルーーーッ!!

 射精してしまった。

「もうっ、もうお終い!」
 哀願混じりに叫んでも許して貰えず。後ろに下がればドラゴンもついてくる。
 その時。お尻に何かがぶつかる感触があった。
 振り返れば、いつの間にかリリムが背後に回っており。尻に顔を押し付け、舌を伸ばしてくる。

 ねろぉん♪

「ぅひゃあぁ〜〜〜!?」
 思わず情けない悲鳴が漏れるが、それも仕方がない。なんとリリムが舐めたのは、少年のお尻の穴だったのだから。
「ダメダメダメッ、そこ汚いヒィン!?」
 尻の穴に舌が侵入する。
 それから逃げようと腰を前に突き出せば、
「スボボッ♪ おむ♥ ジュルッ♪ ジュルルッ♪」
 やっと乗り気になったのかと勘違いでもしたか、ドラゴンのフェラチオが激しさを増す。
「ひいぃぃぃんっ、吸わないでぇ!!」
 反射的に腰をひけば、
「んふ♥ チュルル♪ チュルッ♪ ヌロォ〜♪」
 ますます腸内への侵入を許し、無法な肉舌がのたくる。
 前後から挟まれ、逃げ場はない。
「いやいやいやいやぁっ、んひっ? きたないぃ、そこ汚いからぁあぁんッ!!」
「ここは城ではなく宿なのだから。隣の部屋まで聞こえてしまうよ? まあ、私はその方が燃えるが」
 舌が上手く使えず不明瞭になった言葉が、楽しげに注意をうながす。
「んぅんっ? んんっ、んー、んー」
 実際は魔術で音を遮断しているので、隣の宿泊客が起きることはない。が、少年にそんなことは分からない。だがそう言われてしまえば、手で口を塞ぎ、必死に声を我慢するしかない。残されたもう片方の手は、逞しいドラゴンの角を、ぎゅっと握り締める。
 そんな健気な姿に……魔物二体は、否応なく情欲をそそられ、より激しく責めてしまうのだった――。



 宿は良いものを取った。
 三人並んで寝ても端から落ちる心配のない、広々とした寝台。その中心で、グッタリ仰臥する少年を真ん中に、魔物二体がしどけなく横になっている。
 それぞれ翼を毛布に見立て、華奢な体を優しく覆う。上半身はドラゴンのサラサラした翼で。下半身はスベスベしたリリムの翼によって。
「『奴隷とご主人様ごっこ』はなかなか楽しかったね」
 ミリシュフィーンのふっくらした頬をつんつん突きながら、リリム――アストライアが言った。紅玉みたいな赤い目は未だ情交の熱が冷めやらず、酒に浸したチェリーのようにふやけている。
「リーフィ、最初はわたしに挿れようとしたのに、どうして途中でやめたの?」
 金の髪を飽きずに撫でつつ、ドラゴン――ルーナサウラが少し悲しげに男の子の愛称を呼ぶ。普段は盛夏の空を想起させる青い瞳に、雨雲の兆しがちらつく。
「うぅ……だって」
 口ごもる少年の代わりに、アストライアが告げた。
「『置物フェラ比べ』だとあれほど言い含めておいたのに、君がいきなりがっつくからだよ。はしたないね、このはらぺこドラゴンは」
「う、うるさい!」
 心当たりがあるのか、ルーナサウラはすっきりした頬を髪と同じ色に染めながら、ガルルと咆えた。
「それよりも明日はどんな趣向を凝らそうか? 『女医と患者ごっこ』はしたし」
 プレイ内容を思い起こし、淫魔の唇が淫らな弧を描く。
「あの時のリーフィ、可愛かった」
「『雌牛搾乳ごっこ』は楽しかったね」
「下らんことに魔法を使いおって……」
 言いながら、ルーナサウラは甦る胸の感触に突き動かされ、ミリシュフィーンの小さな口に胸を寄せる。
「んむっ? あ、あむぅ……んぅ……」
 突然顔を塞ぎ、口内に侵入した果実の弾力に、少年は目を白黒させる。
「『姉弟相姦ごっこ』はなかなか燃えたと思わないかい?」
「あ、あれは……背徳感が凄まじかった……」
「じゃあ次は『勇者と魔王ごっこ』でもするかい? 勇者が魔城に乗り込み、あと一歩という所で力及ばす敗北。見せしめに、配下達の前で犯され尽くすのさ」
 少年の体がブルリと震え、乳房の下で顔が引きつる。
「わたしは格好いいリーフィが見たいから、荒々しく魔物を服従させるのがいいと思うが」
「じゃあ、勇者に倒され、改心するまでペットとして調教されるパターンにするかい?」
「ぺ、ペット!? ……う、うむ、わたしはそれでも、その、構わんが……」
 頬を赤らめながら、青い瞳が情欲の炎に煌めき。闇に生きる生物の多くがそうであるように、縦に裂けた瞳孔が、獲物を前にしてクワリと開いた。
「んんぅ、ぷはっ、……あ、明日はお休みさせてぇ」
 やっとのことで、甘美な肉の戒めから逃れた少年が抗議すれども、
「めっ。軟弱は許さないよ。旅の間も睦事は欠かしません。夫婦円満の秘訣だからね」
「あうぅ……」
 主役の希望は聞かれることなく、明日の演目が決まってしまったのだった。
 助けを求めてドラゴンを見れば、碧眼は申し訳なさげに逸らされて。
 彼に、味方はいなかった。
16/04/29 21:54更新 / 赤いツバメと、緑の淑女。
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■作者メッセージ
 イマジネーションが貧困で、それでも何か書いてみたかったので、処女作のキャラを使い回してみました。
 ある程度長い連載物を想定しています。彼ら・彼女らと共に、書き手の私も少しずつ成長していけたらなぁ……と思います。

 それから、ここまで目を通して下さった皆さん。本当にありがとう御座います。「続きを読んでやってもいいかな?」と思って頂けるお話作りにチャレンジしていきますので、長い目で見て貰えると幸いです。

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