読切小説
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妖の宴
 いつものように畑で野良仕事をしていると、唐突に自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
 仕事の手を止め顔を上げると、やはり気のせいでは無かったようで、よく日に焼けた男前を汗まみれにしながら、壮年の男が慌てた様子でこちらに走ってきていた。
「そうたさんそうたさん。大変なんだ早く来てくれ」
「これは村長さん。どうなさいました」
 村長は膝に手を置いて息を整えようとする。そうたが腰に下げていた水筒を手渡してやると、うまそうに何度も喉を鳴らしてから大きく息を吐く。
「いやぁ助かった」
「そうですか。用が済んだなら」
「っと、そうじゃないんだそうたさん。またあいつらが騒いでいるんだよ。悪いんだが、あんたから何とか言ってやってくれんかねぇ」
 話の内容に大体の予想が付き、そうたはため息を吐いてこめかみを抑える。
「別に何かが壊されたとか、怪我させられたとかではないんでしょう。少しくらいは大目に」
「そういうわけにもいかないだろう。子供達が変な遊びを覚えてしまっても困るし、村の空気だって悪くなりかねない」
「村長さん。そう思うなら、たまにはあんたから言ってもらった方がいいんじゃないかな。一応この村の頭役はあんたってことになってるんだし」
「そんなこと言わずに、いつものように今回も頼むよ。あいつらだって慣れた顔の言うことの方が聞くだろうし、それにそうたさん、あいつらの中に知り合いだっているんだろ」
 言いたいことは無いでも無かったが、心底困り切った顔で助けを求めに来た年長者の頼みを無下にも出来なかった。
 皮肉や文句は黙って飲み込み、そうたは短く答えた。
「……場所は」


 のどかな田園風景を横目に、そうたは村長に言われた村外れの納屋に向かって走る。
 畑仕事をしていた幾人かがそんなそうたの姿に気が付き手を止める。だが、「そんなに血相を変えてどうした?」などと声をかけてくるものは居ない。居てもせいぜいが。
「おう、そうた。今日もまたいつものように妖怪退治かい」
 などと冷やかしてくる程度だった。
「あぁそうさ。いつものように軽くひねってやるさ」
「お前も大変だなぁ。ま、頑張っとくれ」
 村外れの納屋が近づいてくるにつれて、そうたにも問題の原因らしきものの正体が掴めて来た。というよりも、聞こえてきたのだった。
 愉快そうな話し声や笑い声。そして猥談。
 酒瓶を傍らに、道のど真ん中に陣取る人影が見えてくる。
 遠目には人間の女に見えなくもない。が、彼女らは人間ではない。
 角や獣の耳が生えているのなど当たり前。肌が真っ赤だったり、下半身が毛むくじゃらの蜘蛛の形になっていたり。姿形は様々だが、皆一様に人間離れした姿をしている。いわゆる、妖怪と呼ばれるモノたち。
 力は強いが、凶暴ではない。理屈が通らない事もあるが、邪悪ではない。悪い奴らでは無いようなのだが、はた迷惑なときもある。そういう奴等だった。
 どうやら今回は通りで酔って騒いでいるのを村のうるさいのに見つかってしまったようだ。
 そんな妖怪達の酒宴を低木の茂みの影から二人の小僧が覗いていた。妖怪達によっぽどご執心なのか、そうたがのっそりと近づいていっても一向に気がつく気配がない。
「どれ、そんなにいいものが見られるなら俺も一緒に見るとするかな」
「う。わぁっ。そうた兄ちゃん」
「いいいつからそこに」
 驚く二人を尻目に、そうたは妖怪達の種族に目星をつける。赤い肌のはアカオニ、頑強そうな蜘蛛の脚をしているのはウシオニ、獣耳のだけは狐か猫かイタチか分からなかった。
「あんまりふざけてちょっかい出すと、大ヤケドじゃ済まないぞ」
「だ、だってよぉ。あんなに綺麗な姉ちゃん達がおっぱい晒して飲んでるんだぜ」
「ちょっとくらいいいじゃんよぉ」
 晒してはいなかったが、確かにいつこぼれてもおかしくないような裸同然の格好だった。とは言え、大抵の妖怪は普段からあんな格好だが。
 気持ちがわからないでもないそうたは苦笑いして小僧たちを見下ろし、そして目を丸くした。二人共、頬が赤く腫れていたのだ。
「どうしたお前達。まさか本当にちょっかい出したのか」
「違うよ。俺達はあの姉ちゃんについてこうとしただけだよ」
「面白いことを教えてやるって言われたからさぁ」
「そしたら急に村長のおっさんが走ってきて、俺達をひっぱたいたんだよ」
「子供は帰って家の手伝いしろってさぁ。腕引っ張られて連れ帰られちゃったんだよ」
 そしてその足で村長は助けを呼びに来た、といったところなのだろうか。
「で、なんでお前達はまたここにいるんだ」
 小僧たち二人は顔を見合わせて、頬を赤くする。
「だってなぁ。あんな立派なもの、そうそう拝めねぇし」
「そうそう」
「なるほどな。お前達の気持ちはよく分かった。いいものいっぱい拝めて良かったな。じゃあそろそろ帰れ」
「えぇー。ひでぇよそうた兄ちゃん」
「もうちょっとくらいいいだろ」
「駄目だ。食われちまう前に帰れ」
 そうたが追い立てると、小僧たちはしぶしぶと言った様子ながらも素直に帰っていった。
「さて、と」
 そうたは顔を上げて妖怪達の方へと向き直る。と、妖怪達の方もそうた達がそこに居ることに気が付いていたらしい、手を振っていた。
「おうい、そうたよぉ」
 薄い着物が乱れるのなど気にせず手を振ってくる。若い娘の乳房がこぼれそうな姿は、年端もいかない小僧でなくても男であれば心ときめいてしまう。
 そうたは頬を叩き、気を引き締めて妖怪達のもとへと向かった。


「あんたたち、今日は一体どうしたんだ」
「あぁ、今日はいい酒が手に入ったもんでね。天気も良かったから、みんなで酒盛りをしてたのさ」
 酔っているのかいないのか、真っ赤な肌のアカオニが大きな酒瓶を掲げて笑う。
「そりゃあ景気がいい話だ。けど、俺達の村まで来てやることはないだろう?」
「せっかくのいい酒だ、お前さん達人間とも一緒に飲みたいと思ったんだよ。……なのに誘っても誰も寄って来やしねぇ」
 と、ふてくされた様に大きな盃を一気に乾かすのは大柄なウシオニだ。
「若い男以上に旨い肴は無いからねぇ。あの子達も、ここまで来る度胸があったら色々楽しいことを教えてあげたのにねぇ」
 獣耳の娘は小僧たちが走っていった方向に視線を向け、舌なめずりしながら着物の中に突っ込んだ手を落ち着きなく動かして息を吐く。
「……そうた、何ならあんたでもいいよ。あたしらの相手をしておくれよ」
 青白い燐光が飛び散り、そうたは半歩後ずさる。獣耳の妖怪は、どうやら稲妻をつかさどる雷獣だったようだ。
「すまないが遠慮させてくれ。俺はあまり酒が飲めないんだ」
 そうたは笑顔を取り繕いつつ、焦り始める。今日のところはとりあえず彼女らを追い返さなければならないのだが、向こうに主導権を取られかけてしまっている。
「そんな事言うなって、飲めないことはないだろ」
 雷獣とウシオニが立ち上がり、にじり寄ってくる。
「何だよ。お前も俺達の酒が飲めないってのかよ」
 ウシオニが肩を組んで、体を押し付けながら盃を差し出す。妖怪達の盃は大きく、そこに注がれている酒の量は小さな鍋一杯分はありそうだった。
「そういうわけでは無くて、本当に弱いんだ。こんなに飲んだらひっくり返ってしまう。独り者だし、一人で帰れなくなると困る」
「大丈夫さ。倒れたらあたしが送って行って、何から何まで介抱してやるよ」
「いや、そこまでしてもらうわけには……」
 妖怪達の目の色が変わっている事に気が付き、そうたは冷や汗を滲ませる。
「牡丹、あざみ、その辺にしておきなよ。あんまりそうたに迷惑をかけると、瑞葉がまた怒るよ。それに私達は何も村人達に迷惑を掛けに来たわけじゃないんだ」
 アカオニが酒瓶を地面にどすんと置きなおす。他の二匹は興が削がれた、と言った顔だ。
「何だよ呉葉」
「つまらないことを言うねぇ」
 思いもよらない助け舟だったが、この機を逃せば後がないと、そうたは話に乗ることにした。
「ま、まぁ多くの村人は言うほど迷惑とも思ってはいないが、昼間から飲んで騒いでいたりするのは良く思わない人もいるんだ。問題が起きると風当たりがもっと強くなる。……俺自身は、もっと妖怪達と仲良くやっていきたいとは思っているんだけどな。
 ともかく、子供をかどわかそうとしているなんて疑われたくも無いだろう? だから、今日のところは」
「あぁ、今日のところは引き上げよう。ただ、私達も気分よく帰りたい。あんた一人でも私らの酒を飲んでくれたら、少しは楽しい気分になれるんだがねぇ」
 やられた、と気がついたときにはもう遅い。助け舟に見せかけた泥舟は、既に引き返せない沖合にまで出てしまっていた。
 盃をあおり、にたりと笑うアカオニの呉葉。そうたの両脇を固める二匹も、そういうことならと表情を和らげる。
「そんなたくさんじゃなくたっていいんだ。気持ちだけでもいいから飲んでくれないかねぇ。あんたの気持ち、見せてほしいのさ」
「……分かったよ」
 ここまで来てしまったら断るわけにもいかない。たくさんでなくていいと言っても、気持ちを見せろと言われた以上は一杯くらいは飲んで見せなければなるまい。
 そうたは覚悟を決めて、ウシオニの牡丹から盃を受け取る。
 ええいままよと盃に口をつける。流れ込んでくる酒は、癖は少なく、しかしながら香りは豊潤で、一口で上質な酒だということが分かった。
 だが、分かったことはそれだけではなかった。
 酒が喉を通るたびに、身体が強く熱を帯びてゆく。すきっ腹の胃の腑を燃やし、頭の中身が炙られるようだ。
 強い。いつも飲んでいるものよりもかなり強く、そして濃い。
「おお、いい飲みっぷりだねぇ」
「そのまま一気にいっちまいなよ」
 熱さは不快ではなかった。しかし、だからこそまずいとそうたの理性は警鐘を鳴らしていた。
 しこたま飲んだ気がしたが、酒はまだ四分の一も減っていなかった。
 囃し立てる声も遠い。誰が何を言っているのかも分からない。
「牡丹! あざみ! 呉葉! まったく。見かけないと思ったらまた人里に下りて。迷惑を掛けていないだろうねぇ」
 誰かが怒っているような声を上げている。呉葉がアオオニに見えてきてしまった。その上、三匹だったはずが四匹に増えている。
 これは本格的にまずいと、そうたはいっとき盃から口を外して大きく息を吸う。
「あ、瑞葉だ。って、なんかすごく怒ってるけど、あたしたちなんか悪いことしたかねぇ」
「お、俺達は別に、楽しく飲もうと思っていただけだけど、なぁ。……まぁ、怒ってるのはそうたの事だろうなぁ」
 やんわりと手を取られ、誰かに盃を持っていかれる。目の前に眼鏡が見えた。角を生やした青い肌の鬼、アオオニの瑞葉の心配そうな顔がすぐ側にあった。
「大丈夫かいそうたさん。また無理をして、顔が真っ赤じゃないか」
「瑞葉、さん?」
「いやぁ瑞葉。誘わなくて悪かった。実はいい酒が手に入ってね、みんなに分けてやろうと思ったんだが、牡丹とあざみと話しているうちにまずは村の人間達にも分けてやろうという話になって。それで、そうたにも飲んでもらおうと勧めていたんだよ」
「だからって、人間が一度に飲める量は少し考えればわかるでしょう」
「いや、はは、酔っぱらってしまっていてなぁ。ほら、そうたは強いだろう」
「俺は、弱い」
 瑞葉の目つきが険しさを増し、三匹の妖怪達がたじろぐ。
「けど、俺が自分から進んで飲んだんだ、あまり怒らないで、やってくれ」
「そうたさんがそう言うなら、これ以上は何も言わないよ。けど、今日はこれ以上の騒ぎになる前に帰る。いいね」
 三匹の妖怪達は、それ以上はごねたり言い訳をしたりはしなかった。少し残念そうではあったが、素直に瑞葉の言うことを聞いて山へと帰っていく。
「分かったよ。悪かったね、そうた」
「けど、飲んでくれて嬉しかったぞ」
「今度はちゃんと一緒に飲もうねぇ」
 粗野な一面もあるが帰る前に頭を下げていくあたり、やはり憎めない妖怪達だ。片手を挙げて応えながら、そうたは思った。


「そうたさん、帰れそうかい」
「ああ、今日はもう、仕事には、ならなそうだが」
 そうたは手を振って答える。綿でも踏んでいるような心地だったが、歩けないことはなさそうだった。
 村の方へと振り向こうとすると、天地が一転した。
 昼間の青い空にいくつもの星が瞬く。
 と思えば、柔らかな感触に支えられていた。酔いが回った頭でも分かる、優しく包み込むような甘い香り。
「っと、大丈夫かい」
 目の前が青い。空よりも濃く、艶のある青。見上げると、目の前に瑞葉の驚いた顔があった。
 自分が女の乳房に顔から突っ込んでしまっていることに気が付き、そうたは慌てて体勢を立て直そうともがく。
「す、すまない」
 だが再び足はもつれ、倒れそうになったそうたはさらに強く瑞葉に抱き留められてしまう。
 他の妖怪の例にもれず瑞葉も皮の腰巻や胸当てをしている程度で着物らしい着物など着ておらず、不用意に肌と肌が触れ合ってしまい、そうたは思わず身を強張らせる。
「どうやらしばらくは歩けそうにもないね。どこか休めるところは……。納屋くらいしか無いか、けど、仕方ないね」
 瑞葉に肩を借りて、そうたはようやく歩き出す。膝が砕けそうになるたびに何度も抱き支えられながら、何とか納屋までたどり着く。
 中は土埃くさかったが、しかし風や日差しを避けて休むには十分だった。
「水は持っているかい。飲んだ方がいい」
「ああ、水筒がある」
 そうたは腰に下げていた水筒を取り出し、ふたを開ける。
「呉葉の持ってくる酒は大体いい酒だから、悪酔いはしないと思うけどね。まぁでも早く抜けたほうがいい」
 水筒を逆さにするが、水は一向に出てこなかった。そうたは村長に水をやったことを思い出す。
「村長のおっさん、まさかあの時全部飲んだのかよ」
「何だ、水が無いのかい。ま、まぁ、無いのなら仕方ない。私の飲みかけで良ければ、これを飲みなよ」
 瑞葉もまた水筒を持っていたらしい。そうたの隣に腰を下ろしながら、腰に括り付けられていた瓢箪型のそれを差し出した。
 そうたが見上げると瑞葉は何故か目をそらす。しかし水筒を引っ込めるつもりはないらしい。
「ありがたい。でも、いいのか」
「もちろんさ。その、もう私が口を付けてしまったもので悪いけどね。もとはと言えば仲間が無理やり飲ませてしまったんだから、気にしないでおくれ」
 そうたは受け取り、瓢箪を傾けて中の水をあおる。水のようだったが、ほのかに甘く、さわやかな香りがする気がした。
「酔い覚ましの薬草を漬け込んだ水さ。私もすぐに酔ってしまうからね、いつも飲みすぎて我を失う前にこれで調節しているんだ。
 見た目より中身はたくさん入っているから、遠慮せずに飲んでおくれ」
 その水は身体に染み込んでくるようで、そうたは夢中になって喉を鳴らす。
 瑞葉はそんなそうたの様子を微笑みながら見守っていたが、やがてそうたが水を飲み終わるころには気まずそうに目を伏せてしまった。
「うまかった。ありがとう」
「だから礼なんていいって。それより、いつも迷惑を掛けてしまって悪いね。騒いで迷惑かけるのも、今回が初めてじゃないだろ」
「ああ、まぁ、そうだな」
 瓢箪を返しながら、そうたは苦笑いで答える。
「たまに人んちの畑に入り込んで、作物をせびることもあるだろう。そういうことは村の人達は嫌がるからやめときなって言ってるんだけどねぇ」
 瑞葉は疲れた顔で大きなため息を吐く。
「別に、みんな村に嫌がらせをしたくてやってるんじゃないんだ。ただ私達は人間の事が好きで、もっと仲良くしたくて、それだけなんだよ。だけどやり方がその、下手なのかねぇ」
 瑞葉の言葉に嘘偽りは無さそうだった。妖怪達に悪意がないのも、普段から彼女達の言動を見ていれば分かることだった。
 そうたは傾きそうになる身体を支えながら、ふわふわした頭で何とか言葉を選ぶ。
「確かに煙たがる家もあるが、うちの野菜を美味いって言ってくれたって喜んでいた家もあったぞ。
 それに村に下りてくるとき山菜やきのこを持ってきてくれたり、鹿や猪が取れれば分けてくれたりするじゃないか。新しい家や橋、堤を作る時に力を貸してくれるのも皆ありがたがっている。
 俺だって嫌いじゃない。粗野なところが気になるときもあるが、裏表のあまり無いさっぱりとした気持ちのいい奴等だと思ってる」
 瑞葉の顔が少しだけ和らぐ。ほっと安心したように息を吐いた。
「ありがとうねそうたさん。いつも私達の味方をしてくれて」
「俺は、別に頼まれて来ているだけで」
「でも、今の村と妖怪の関係が成り立っているのはそうたさんのおかげだよ」
「何もしてないさ。今日だって結局、何も出来ていない。瑞葉さんこそ、いつも大変だな」
「私は嫌われたくないだけなんだ。もしかしたら牡丹や呉葉のようなやり方の方が正しいのかもしれない。
 でも……。そのうち恐れられでもして、私達の姿を見ただけで逃げられたりしたら寂しいからねぇ」
「奴等の陽気さは、羨ましいくらいだからなぁ。
 でも俺は、瑞葉さんのやり方も、間違ってないと思うよ。瑞葉さんとはこうやって、安心して、話していられるからな」
「……そうたさん?」
 そうたは目をつむる。その身体が、僅かに左右に揺れていた。酒のせいなのか、何もしていないにも関わらず呼吸も荒かった。
「でも、姿を見ただけで、逃げられたら、確かに寂しいことだよな……」
「そうじゃなくて、大丈夫かい? 揺れているよ」
「大丈夫、だよ。少し休めば……」
「横になりなよ、ほら」
 瑞葉は自分の太ももを叩く。ここに頭を乗せろ、ということだろうが。
「いや、それなら、地面に」
「こんなときに遠慮すんじゃないよ。いいからこっち来な」
 肩を掴んで引かれる。そうたはろくに抵抗も出来ず、瑞葉の膝枕に招かれた。
 瑞葉の身体は引き締まっているように見えて、その実とても柔らかかった。
 太ももは熱を帯びたそうたの後頭部を優しく受け止め、そこから見上げる二つの豊かな丘陵も絶景だった。
 心の臓が大きく脈打ち、身体がかっかと熱を帯びるのは酒のせいなのか否か。
「どうだい。悪くない寝心地だろう」
「あ、ああ」
「今日は迷惑かけてしまったからね。特別だよ」
 肌の色は空の色よりなお深く、頭には角を生やし、その膂力は鍛えた大人の男でさえ赤子扱い。けれど優しいその笑顔は、人とさして違いはない。
 そして彼女らは、自分達人間のことを気に入ってくれているのだという。仲良くなりたくて近づいてしまうのだと。
 人との違いは大きいだろう。けれど同じところも多い。
 人と獣は言葉は通じないが、それでも助け合い友になれる。ならば言葉が通じる妖怪と、それが出来ぬどおりも無いだろう。
 気付けば、そうたは口を開いていた。
「……今度、一席もうけないか」
「え?」
「俺達と、お前達で」
 酔いに任せて思いついたままを喋っている自覚はあった。だが、面白い考えに違いは無いだろうとも思っていた。
「宴会を開くんだ。お互い酒や肴を持ち寄って。ただしどっちのやり方に合わせるとかは無しで、人も妖怪も、それぞれ一人ひとりの楽しめる範囲で飲んで食べて、腹を割っていろいろ話すんだ。
 お互い気楽に酒を酌み交わせる相手だってことが分かれば、今より少しは上手くやれるだろうさ」
 柔らかそうな二つの青い山の谷間、眼鏡の向こうで、瑞葉が驚いたように目を丸くしている。
「面白そうだね。でも、いいのかい?」
「もちろん決まりは作る。そうだな、日取りは今度の満月の晩。日が沈んでから翌朝の日が昇るまで。場所は村はずれにある古屋敷。なんてのでどうだ」
「いいね、いいじゃないか。こっちも決まりを守るように、カラステングや白蛇みたいなうるさ……、いや、堅くて真面目な連中にも声をかけてみる」
「そりゃあいいな。決まりを守るよう、妖怪は妖怪同士で見張ってもらえるとありがたい」
「じゃあ、決まりだね。あぁうれしいねぇ。楽しみで楽しみで仕方ないよ」
「村の方で何人出てくれるかは分からないが、まぁ妖怪に興味がある衆も少なくはない。広く声をかけてみるさ」
「ありがとうそうたさん。一緒に飲もうね」
 子供みたいな無邪気な笑顔を向けられ、そうたも自然と笑みを浮かべていた。


 酔いが落ち着くころには、すでに日も傾きかけてしまっていた。
 瑞葉とは納屋で別れた。夜も近づきつつある時分に、そうたはようやく家路についていた。
 道すがら、そうたは腕を組んで策を考える。
 思い付きで宴会の話など出してしまったが、果たして本当に村の人間たちは集まってくれるだろうか。
「そうた兄ちゃんそうた兄ちゃん」
 ろくな考えも浮かぶ前に呼び止められる。振り向けば、妖怪達を覗き見ていた小僧どもだった。
 目を輝かせながら何を聞いてくるのかと思えば。
「一緒に納屋に入って行ったよな。しばらく出てこなかった」
「や、やったのか。あのアオオニの姉ちゃんとやったのか」
「この助平餓鬼ども。そういう話はいっぱしに酒が飲めるような年になってからにしろ」
「き、聞かせてくれたっていいだろ。なぁなぁ、良かったのか」
「妖怪の姉ちゃんってすげーんだろ」
「あーもう騒ぐな。お前らは母ちゃんのおっぱいで我慢しろ。帰れ帰れ」
 追い払おうとするも、小僧たちはしつこくまとわりついてくる。
 結局そうたは家に着くまで小僧たちの相手をし続けなければならなかった。だが、おかげで一つひらめいた事もあった。
 妖怪はみな美人ぞろいだ。その妖怪達との宴会となれば、若い男衆ならば食いついてくるかもしれない、と。


 かくしてそうたの目論見は成功した。
 寄合で話を出したところ、村の若い男達のほとんどは話に乗ってきてくれた。それどころか、以外にも老若男女様々な者が興味を持ってくれた。
 普段煙たがっている者達でさえ「天狗様や水神様が守ってくださるなら」と参加を検討しているほどだった。
 古屋敷の掃除や整備も無事に済み、そこまで贅沢なものではないながらも酒や肴も準備ができた。
 すべては順調に進み、そして当日を迎えたのだが。
「まさか、こんなことになるとはな」
 大分広いはずの古屋敷の広間が妖怪と村人達でいっぱいになっていた。
 角を生やし肌の色が違うもの、身体の一部に獣や鳥や昆虫の特徴を持つもの、死霊のようなもの、器物が変生したようなもの。
 それに交じる、普段は小難しい顔をしている爺さんや、いつも母親の陰に隠れているような若い娘、寡黙に男達を取り仕切る頭役の男、等々。
 見たこともない色々な妖怪達と、酒宴の場などに顔を出さないような村人達が、皆笑顔で盃を片手に盛り上がっている。
 そうたが古屋敷に到着した辺りから既に宴会の場は"出来上がって"おり、今や盛り上がりすぎて声を張らなければ会話もままならないほどだった。
「……というか、本当に大丈夫なのか」
 いつの間にか紛れ込んだのか、この辺りでは見た覚えのない女までもが、まるでそこに居るのが当たり前のような顔で、煙管で煙をくゆらせつつ盃を傾けている。
 酒で陽気になっているのか、すでに裸同然で飲んでいる者も多い。妖怪は最初から裸みたいな者ばかりだが、村人達も同じような気分になっているらしい。
 見れば、制止役のはずの天狗や白蛇達も一緒になって飲んでいる。
 もはや何が何やら分からない状態だった。しかしこの状況をどうこうすることも、もはや誰にも出来そうにない。
 そうたは諦念の吐息を吐きながら、自分の盃を空にする。
 先日飲んだ妖怪の酒に比べれば水みたいなものだった。実際、今度はつぶれてはまずいと少し薄めてはいたのだが。
「これは、先につぶれた方が楽だったかな」
「そぉうたさぁん」
 ひとりごちていると、急に後ろから抱き付かれた。驚いて振り向いたそうたの顔の目に、瑞葉のにこやかな笑顔が映る。
 元々の肌の色からでも分かるほど、目元や頬が赤かった。長いまつげに飾られた、うるんだ瞳が色っぽい。今は眼鏡を外しており、普段とは少し違った雰囲気だ。
 思わず見惚れそうになり、そうたは慌てる。
「ちゃんと飲んでるのかぁい」
「あ、ああ」
 酒の匂いに混じる、女の香り。吐息に首元をくすぐられ、身じろぎすればさらに強く背中に胸を押し付けてくる。
「その割には静かじゃないか。ちょっと飲ませておくれよ」
「そりゃ構わないが、瑞葉さん、酔ってるのか」
「だって酒を飲んでいるんだよ? 酔うのは当たり前じゃあないのさ。ほら、はやくぅ」
 酒を取ろうと、瑞葉の肌がさらに強く押し付けられる。ほとんど抱き締められているようなものだった。すぐそこから、女の肌の匂いがした。
「あ」
 手酌していた瓶を取られる。中身を少し飲んで、瑞葉は不満げに鼻を鳴らした。
「何だい。水じゃないか」
「いや、まるきり水では、いてて」
 そうたの着物の中に瑞葉の手が忍び込む。脇腹をつねられ、そうたはうめいた。
「ひどいじゃないか。一緒に飲めると思って楽しみにしてたのに」
 酔っぱらっているせいでそう見えるのだとわかっていても、その目が今にも泣きだしそうに見えてきて、そうたは狼狽する。
「いや、俺も飲んでいる。ちゃんと飲んでいるから」
「じゃあ、私の酒も飲んでくれるかい」
「ああ、もちろん」
 瑞葉は一転、嬉々とした顔で自分の持っていた酒瓶からそうたの器に酒を注ぐ。
 その色は黄金色がかっており、香りの強さも段違いだった。
 期待のこもった瑞葉の視線にあらがえず、そうたは器を一気に乾かした。
「おお、いい飲みっぷり」
 口の中に甘く豊かな味わいが、鼻の奥に芳醇な香りが広がる。酒は胃の腑から身体に染み渡って、身体の芯に温かな火を灯されたような心地がした。
「もう一杯いこうよ。あぁでも、ここはちょっと騒がしすぎるねぇ。場所を変えて、二人で静かに飲もうか」
「いや、流石にここを抜け出すのは」
「何よう。やっぱり私とは飲めないってのかい」
「そうではなく、一応決まりを作った身としては……」
 瑞葉は大分回っているらしい。そうたはどうにかしなくてはと考え、そういえば本人も酔い覚ましを飲んで調節していると話していたことを思い出す。
 あれがあれば何とかなるかもしれない。
 が、瑞葉の手元には見当たらず、腰にも下げては居ないようだった。瓢箪を探そうにもどんちゃん騒ぎの最中では歩き回る事もままならない。
 諦めかけたその時だった、意外と近くに瓢箪が転がっているのが目についた。手を伸ばしてもあと少し届かない。だが、そばに誰もいないというわけではなかった。
「ちょっとあんた、その瓢箪を取ってくれないか」
「ん? ああ、これかい」
 煙管で煙をくゆらせている若くて美しい女だった。村では見たことが無かったが、しかし妖怪にも見えなかった。
「旨い酒かい? なら私にも一口おくれよ」
 女は栓を取り、中身の匂いを嗅いで眉を寄せる。
「何だいこりゃ。酒じゃないねぇ」
「酔い覚ましのための水なんだ。気分が悪くなる前に飲ませてやりたくて」
 女はくっくっ、と笑い、栓を締める。そして瓢箪を渡してくれるかと思いきや、それを片手に持ったまま首を横に振った。
「だめだねぇ。酔いを楽しむ場にこんなものを持ち込んだら無粋ってもんだよ。飲みすぎて羽目を外すのも、酔いつぶれるのも、二日酔いで後悔するところまで引っくるめて、全部酒の楽しみなんだ。これは預からせてもらおうか」
 その手の中の瓢箪が音もなく黒い煙に変わる。そしてその煙は、煙管の中に吸い込まれてしまった。
「あ、あんたは」
「ま、お兄さんも今このときを楽しみなよ。大丈夫、酷いことにはならない。私が保証しよう」
 女は片目をつむる。彼女もまた妖怪だったらしい。
「そうたさぁん何してるのさぁ。もう待ちきれないよぉ。無理やりにでも連れて行くからねぇ」
 身体が急に宙に浮いた。瑞葉に肩に担がれているのだ。
「よっと」
 完全に床から離れる前に何かにしがみつこうとしたが、身体を支えられるようなものは掴めなかった。手の中に入ってきたのは瑞葉の眼鏡だけだった。
「ちょ、瑞葉さん」
「暴れちゃだめだよぉそうたさぁん」
 人間は力では妖怪に適わない。そうたは諦め、流れに身を任せることにした。


 場所を変えると言っても、屋敷の外に出るわけでは無かった。事前に調べてでもいたのか、瑞葉は迷う様子もなく廊下を進んで屋敷の奥へと向かっていく。
 篝火は無いが、月の明かりで廊下は薄明かりが差していた。それでも人間には歩くには心もとなかったが、妖怪は夜目が効くらしく瑞葉はよどみなく歩みを進めていく。
 たどり着いたのは月明かりの差し込む奥座敷だった。
 そうたを下ろし、瑞葉は隣に座って男の腕を取った。
「屋敷からは出てないよ。これなら文句ないだろう」
「まぁ、そうだな。決まりごとは破っていない」
「ふふ。これで二人で、静かに飲めるね」
 瑞葉は自分の器に酒を注ぐ。そして妖怪用のそれを、そうたに差し出した。
「さぁ、そうたさん」
「けどこれは、瑞葉さんの」
「私が使った盃じゃ、飲みたくないかい?」
「そんなことは無いよ。けど俺も自分のを持って……無い。担がれた拍子に落としたかな」
「飲みまわせばいいじゃないか。ね?」
「じゃあ、そうしようか」
 そうたは一口飲み、瑞葉に盃を返す。瑞葉は盃を半分ほど空け、またそうたへと手渡した。
「あとはそうたさんの分だよ」
「あ、ああ」
 盃に口をつけるが、下戸の人間が飲み進めるには妖怪の酒は少々濃すぎた。のんびりとした飲み方に痺れを切らしたのか、瑞葉は盃の反対側に手を当てて盃を傾け始める。
「そんな飲み方じゃつまんないよぉ。ほらぁ、もっと一気にさ」
 飲み込みきれず、更には口に収まりきらなくなった酒が口の端からあふれ出す。
「うぶ、す、すまない」
「ご、ごめんよ。私もちょっと調子に乗りすぎちゃった。お酒、弱いんだったよねぇ」
 瑞葉は申し訳なさそうな顔で器を受け取る。
 そうたは濡れた服を気にする風もなく、首を振って笑った。
「俺がもっと強ければな。今夜はせっかく瑞葉さんと飲めるのに。いい酒も、もったいないことをしてしまった」
「大丈夫さ。こうすれば、まだ飲める」
 瑞葉はにたりと笑い、そうたの身体に顔を近づける。そして、
「お、おい瑞葉さん。うっ」
 そうたの肌に舌を這わせて、酒を舐め取り始める。
 ぴちゃぴちゃと音を立てて瑞葉の赤い舌がそうたの肌の上を動き回る。みぞおちを、胸板を、そして酒がこぼれていないはずの乳首をついばむ。
「そこは濡れてないだろ」
「うふふ。酒にそうたさんの汗の味が混じって、……たまんないよ」
 耳打ちをするように瑞葉が囁く。そのまま彼女は耳の後ろを舐めてゆく。そうたの首周りを、頬を。
 そして二人の唇が、重なり合う。
「む、ぐっ」
 口の中に舌が入りこむ。熱く、ねっとりと唾液にまみれたそれが、そうたの口の中に押し入って舌に絡みつき、擦れ合う。
 そうた自身の汗の味と、酒の味、そして瑞葉の唾液の味が甘く混ざり合っている。
 頭がかぁっとのぼせ上がるようだった。
「んちゅっ。あぁ、おいしいねぇ。本当のことを言えばね、このお酒の飲み方はこうやって飲むのが正しいんだよ」
「正しい、飲み方?」
 瑞葉は口を離すと、酒瓶に手を伸ばす。そしてそうたに向かって微笑みかけながら、自分の胸に向かって酒瓶を傾けた。
 ちょろちょろとこぼれ出た酒が、瑞葉の乳房を濡らし、胸当てに染みを作ってへそから下へ滴っていく。
「そう。体液と交わることで旨さを増す酒なのさ。さぁ、私の酒を味わってみてよ」
 妖怪の酒で酔いが回ったのか、それとも月の光がそうさせたのか。
 そうたは疑うこともせずに、言われるがまま女の肌に唇を押し当てる。瑞葉にされたのと同じように、舌を這わせて、音を立てて吸い、ねぶる。
 汗の味は甘く。肌の匂いは果実のようだった。それを酒の味と香りが引き立たせ合う。瑞葉の胸当てに出来た染みを甘噛みし吸い付いたときの味わいがまた格別だった。
 するりと音がして胸当てが外れる。後ろ髪引かれる思いもあったが、しかしその下にはそんな思いすら霞んでしまうようなごちそうが待っていた。
「さぁ、好きなように味わっておくれ」
 そうたは豊かに実った果実にむしゃぶりつく。舌先で転がし、歯を立て、その手でつかみ、もみしだく。
 瑞葉の呼吸が乱れ始める。そのたおやかな指が髪を撫でても気づかぬほどに、そうたは瑞葉の肌に夢中になる。
 しかしその途中で、そうたの手がふと止まる。
 匂いがしていた。これまで嗅いだこともない、甘く魅力的な香りが。瑞葉の下の方から。
 そうたは滴った酒の跡を舌でたどりながら、匂いのもとを目指す。引き締まった腹の上を通り過ぎ、へそのくぼみに溜まった酒で渇きを癒し、そして腰布の湿り気をしゃぶる。
 匂いはこの下からしていた。
「いいよ、そうたさんの好きにしておくれ」
 腰布の結び目を噛み、解いて外す。衣擦れの音とともに腰布がはらりと落ちて、蠱惑的な匂いを立ち上らせる茂みがあらわになる。
 茂みをかき分け、そうたは匂いの元である割れ目に舌をねじ込む。鮮烈な瑞葉の香りと味わいが、そうたの理性を蕩けさせてゆく。
「あぁっ。そうたさんっ。いい、もっとぉ」
 割れ目から滲み出た蜜がそうたの舌を酔わせる。そこにさらに音もなく酒が滴り交じり、理性さえもが酩酊されていく。
 瑞葉が切なげにあえぎながら、酒を流していた。
「全部、飲んだら、今度は、私の番、だからねぇ」
 飲み干すのがもったいない。だけれど飲みこぼすのはもっともったいない。
 そうたは音を立てて割れ目をしゃぶり、舌でほじるようにして蜜を味わう。舌を動かせば動かしただけ、蜜は絶えることなく湧いて出た。
「あ、あぁあ、そうたさん。そうたぁっ」
 瑞葉は声を震わせながら、男の名を呼びその髪をかき回す。
 びくり、びくりと青い肌が震える。肉付きのいい太ももがそうたの顔を包み込むように押し当てられる。その指先に力がこもる。
 むっちりとした瑞葉の尻をわしづかみに、そうたはさらに奥へと舌をねじ込み舐めまわす。
「上手よ。あぁ、いい。いいよぉ。そうた。私もう、あぁああぁっ」
 瑞葉の身体が大きく震える。太ももがぐっと締まり、一気に蜜が噴き出した。
 やがて瑞葉の脚が弛緩し、その指先からも力が抜けてゆく。
 そうたは丁寧に蜜を舐めとってゆく。時たま瑞葉は身体を震わせていたが、荒い呼吸を繰り返すばかりで何も言わなかった。
 そしてほぼ蜜の味しかしない酒を最後の一滴まで舐めとってようやく、そうたは顔を上げた。
 とろけきった顔で見つめていた瑞葉と目が合った。その目はどこか虚ろで、目じりには涙がこぼれた跡があり、口元は緩んで涎が流れていた。
「あ……」
 罪悪感と背徳感、そしてほの暗い歓喜がそうたの下腹の底で湧き起こる。粘つくような欲望と混ざり合って煮え立ち始める。
 瑞葉は涙を零し、緩んだ口の端から涎を流す。
「どうやら、よっぽど私の酒を気に入ってくれたみたいだねぇ」
 自分のしでかしたことにようやく気が付き、そうたはかぁっと顔を赤くする。
「ち、違うんだ。俺は」
 素に戻った一瞬の事だった。肩を掴まれて、一気に押し倒されてしまう。
「さぁ、今度は私の番だよ」
 いつの間にやら、瑞葉は先ほどまでのような不敵な表情に戻っていた。
「二人きりなんだから誤魔化すことなんてしなくていいじゃないか。いつも私のおっぱいや足を見ていたくせにさ」
 そう言われると、そうたの意識はどうしてもそちらに向いてしまう。薄布とはいえ、いつもは隠されている柔肌が、今は自分のために晒されているのだ。
 見たくなかったと言えば嘘になる。触ってみたかった。玉の汗を見て、こんなことをしたいと夢見なかったわけでもない。だからこそ、こんなに夢中になってしまったのだ。
「それは、いや、その……」
 アオオニの肌のことを、死人のように不気味な肌だと言う者もいた。けれどそうたはそうは思っていなかった。
 傷一つない艶やかなその肌は高貴な陶磁器のように美しく、月光に浮かび上がる女性らしい丸みを帯びた肩や、大きいながらも張りを失わない乳房の曲線美は、ともすれば神仏のように神秘的だった。
 鬼子母神、まさにそんな感じだろうか。改めて目の前の相手の美貌に引き込まれ、そうたは何も言えなくなってしまう。
 そんなそうたを見下ろして、瑞葉は笑いかける。
「私はしたかったよ。ずぅっとしたかった。あんたの事が好きだったから」
「瑞葉さん」
「そんな他人行儀じゃなく、呼び捨てにしておくれよ」
「瑞葉」
 瑞葉は甘い吐息を吐きながら、唇の雨を降らせてくる。
「他の仲間たちの手前、んっ、お天道様の下で、んっ、こんなことしちゃ、んんっ、みんな歯止めが利かなくなってしまうと、んっ、思って。
 あんたはいつも、んっ、私達のために頑張ってくれて、んっ、私から逃げずに話を聞いてくれて、んっ。
 あんたにとっては、私も他の妖怪も変わらないかもしれないけど」
「俺も瑞葉の事が好きだよ。村の事も考えてくれて、どうするのがいいのか考えて、悩んでくれていた」
 いっとう強く唇が押し付けられる。舌が絡み合い、混じり合った後、唇が糸を引いて離れていく。
「すきぃ。そうたぁ」
 力いっぱい抱き締められる。柔らかい肌が押し付けられ、……そして自身の硬い部分も相手に押し付けられてしまう。
「ふふ。本当に、私の事気に入ってくれたんだね」
 指先が布切れ越しにそこを撫でてくる。そして抵抗する間もなく、ふんどしを剥ぎ取られてしまう。
「ねぇそうた。あんたの子種、私におくれよ」
 濡れた瞳で、優しげな女の顔で懇願してくる。
「夫婦になりたいなんて無理は言わないよ。……本当はなりたいけど、周りの目もあるだろう。だからせめて、あんたの子を孕みたいんだ」
「瑞葉、お前」
「とびきり、良くしてやるからさ」
 瑞葉は身体をずらしてゆき、そうたの下腹の前にひざまずく。そして酒瓶を取り、天井に向かって反り返るそうたの上に惜しげもなく注ぐ。
 冷たい酒が掛けられたかと思うと、すぐさま熱い唇が吸い付き、頭から根元まで飲み込まれてしまった。
 じゅるじゅると水音を立てて吸い付き、そうたが垂れ流し始めた粘液ごと酒を舐めとり始める。
 頭を上下に振りながら、尿道に寄り添うように舌を動かす。裏筋を舌先でちろちろと舐め、鈴口に唇をつけて吸い上げる。そして竿がひやりと冷えたかと思えば、再び熱い口の中へと収められる。
 そうたはたまらず歯を食いしばる。しがみつくように瑞葉の角を掴み、爪を立てると。
「んんっ」
 瑞葉があえいで、濡れた瞳で見上げてくる。
「出そうなのかい? いいよ、我慢しないで出しておくれ」
 瑞葉は再度そうたのそれに酒を注ぐ。そしてぬるりとした肉棒を手でやわやわとしごきながら、玉袋の方を舐め始める。片方ずつ口に含んで、甘噛みする。
 顔が汚れるのにも関わらず、そうたの自身を、その全体を隅から隅まで口で愛撫してゆく。
「みず、はぁ」
「んっ。震え始めたね。そろそろ出そうなんだね。いいよ、遠慮せずに出しちゃいなよ」
 舌を出して舐める姿を見せつけて、瑞葉は再びそうたの亀頭を咥えこむ。
「ほは、ひふへほ、はひはよ」
「けど、みずは、汚いだろ」
 舌が動き、目尻が緩む。笑ったのだった。笑って、それから頬をすぼめて強く吸い付いてきた。
「だめだ、出るっ」
 下腹の底で静かに煮え立っていたそれが一気に噴き上がる。堪え切れなくなった白濁が勢いよく女の口の中に注がれる。
「んん、んんんっ」
 そうたの先端を包み込むように、瑞葉の喉が動いていた。自分が放つものを女が喜んで飲み込んでいくのを感じ、雄の興奮は長く尾を引いた。
 やがて射精が落ち着いても、瑞葉はしばらくそうたを解放しなかった。尿道に残った精液一滴残らず吸い上げてようやく、瑞葉は口を離した。
「んっ。ほら」
 口の中を開けて、残った精液を見せつける。
 そしてそうたが何か言う前に、音を立てて飲み干した。
「それにしても、濃いのをいっぱい溜め込んでたもんだねぇ。あんまり濃いもんで、どうにかなってしまいそうだったよ」
「……不味いだけだろ、無理して飲まなくてもよかったんだぞ」
「ばぁか。私達にとっては、精気たっぷりの精液こそが一番のごちそうなんだよぉ。ましてや愛しい人のならなおさらさ。こんなに満たされたの、初めてだよ」
 やはり妖怪の理屈は分からない。そうたは何と言うべきか分からなかったが、しかし悪い気分では無かった。男としては、こんな風に求められることは。
「さて、そしたら本番にいこうかねぇ」
 瑞葉は身を起こし、そうたと腰の位置を合わせる。
「ちょ、ちょっと待てって、今出したばっかりだろ」
「馬鹿だねぇ。口の中に精液出したって子供は出来ないんだよ。あ、そうか言ってなかったねぇ。妖怪も人間の女と同じように、人間の男とまぐわって子供を作るんだ。男の妖怪はずいぶん前からいなくなっちまったからねぇ」
「いや、そうじゃなくて」
「見えるかい、ここにあんたの硬いのを入れるんだ」
 瑞葉は足を広げて膝を立て、指で広げて女の入り口を見せる。月明かりをぬらりと照り返し、ひくひくと引くついている雌の花を。
「極楽みたいな気持ちにさせてやるからさ、今みたいいっぱい精液出しておくれよ?」
 そうたは言葉の代わりに下半身のそれを跳ねさせて応える。
「何さ、興奮しちゃったのかい。さっきより元気になったみたいじゃないか。こりゃあちょっと期待しちゃうねぇ」
 瑞葉は一瞬驚き、そして頬を染めた様に見えた。しかし本当に一瞬の事で、すぐに調子を取り戻していたので本当に恥じらっていたのかはそうたには分からなかった。
「やる事は分かってるよ。俺が言いたいことはそういうことじゃなくて、あとそんなにおっぴろげるな」
「いいじゃないか、あんたしかいないんだからさ。……おーおーまだ硬いね。すぐにでも入れたくてたまらないって感じだね」
 瑞葉は熱を失わないそれを握りしめ、軽くしごく。
「出したばかりなんだ、そんなすぐには」
 瑞葉は自らの入り口にそうたの切っ先をあてがいながら、流し目で嫣然と微笑む。
「私を、雌を孕ませたくは無いのかい? 雄としてさ」
 暴れ出そうとするそれを、女の指が押さえつける。
「私は孕みたい。あんたの子を孕みたいのさ。だから意地でも、私ん中で果てさせてみせる。孕むまで、何度だってね」
 瑞葉はそう言って腰を沈み込ませる。ずぶずぶとそうたの欲棒が瑞葉の中に飲み込まれてゆく。
 瑞葉の秘肉が、彼女の中で一番柔らかく敏感なそれがそうたを覆いつくしていく。
 蜜をたたえて、じっとりと濡れて、隙間無くそうたに絡みついて、ぎゅうぎゅうと力強く締め付け、子種を求めて貪欲に責め立てる。
 途中で引っかかる感じもあったが、しかし瑞葉の身体はすんなりとそうたを受け入れていった。
「あンっ」
 最後はそうたの方から腰を突き上げ、そしてすべてが飲み込まれた。
「ど、どうだい。初めての、私の身体は」
「熱い。瑞葉の熱が、直に伝わってきて、……溶けてしまいそうだ」
「ふふ、溶けて、一つになろうよ。ねぇ、手ぇ繋いでいいかい」
「ん、ああ」
 二人は手を取り合い、指を絡めて硬くつなぎ合う。
 手の平に改めて感じる瑞葉の手は、強靭な肉体に似合わず、意外にもその指先は繊細でしっとりと柔らかかった。
 指先が愛おし気に、何度もそうたの手を握りなおす。手の甲に指や爪を立てる。
「そろそろ、動いてもいいかねぇ」
「俺はしばらくこのままでもいいけどな」
 瑞葉はいたずらっぽく笑い、腰を揺すり始める。
 ぐちゅり、ぐちゅりと音を立てて、敏感で繊細な部分がこすれ合い始める。上下に、前後に、角度を変えるごとに別の一面が触れ合い、抜けそうになるたびに切ないほどの寂しさが、深く繋がるほどに満たされるような愛しさが、身体の中に広がり、駆け巡る。
「あっ、あっ、そうた、そうたぁ」
「みずは、う、くっ、みずはっ」
 時に腰を打ち付けるように激しく、時に慈しむように穏やかに、二人は求めあい絡み合い溶け合ってゆく。
 やがてそうたの一物は更に硬く膨れ始める。それと同時に瑞葉の中の締め付けも脈打つように強まってゆく。
 互いの限界を感じ取り、二人はどちらからともなく互いの身体を引き寄せる。
 そうたの胸板で瑞葉の乳房が潰れる。触れ合った肌から熱と、心臓の音が重なる。その瞳は互いの乱れた姿を映して絡み合い、唇を重ねて舌も混ぜ合わせる。
 限界を超えて煮詰められた欲望が弾ける。そうたは、下腹の底から勢い良く湧き上がる奔流に身を任せる。
 脈動する。幾度も幾度も脈動しながら、己の全てを吐き出す勢いでそうたは瑞葉の中に欲望と愛しさが入り混じったそれを注ぎ込んでゆく。
 瑞葉の一番奥にねばついた白濁が叩きつけられ、白い穢れを残していく。それが呼び水となり、瑞葉の雌穴もまた雄の脈動に合わせて強くすぼまり、締め上げる。余すところなく受け入れ飲み干そうとでもするかように。
 二人は腰をがくがくと震わせながら、腰を打ち付け合う。痙攣し震える身体を重ね合い支え合いながら、肉体の快楽への酔を深めていった。


 鳥が鳴いている。薄明かりが差していた。
 朝だった。
 ぼんやりしたまま目を開けるが、なんだか周りに見覚えが無かった。寝ぼけているのだろうと目を擦り、いつもの場所に手を這わせるが、目当てのそれが見つからない。
「これか?」
 指先が細くて硬いものに触れる。探していたものだった。
「ああそうさ。これが無いと、よく見えなくてね」
 それを掛けると、ようやく視界が鮮明に見えた。けれどもやはり、見覚えが無い。ここはどこだ。それに眼鏡を渡してくれたのは。
「ありがと、う」
 すぐ目と鼻の先に、好きな男の顔があった。
 酒も飲んでいないのに顔が、身体が熱くなる。
「どうした瑞葉。アカオニみたいになってるぞ」
「ば、馬鹿な事言ってるんじゃないよ。え、なんで、なんでそうたさんがここに」
「そうたさんって、さんはもういらないんだろ」
 そうたは上半身裸で、そして下半身も裸だった。見下ろしてみれば自分も何も着ていなかった。一応、薄い布団はかぶってはいたが……。
「なんで私、裸で」
「なんでって、覚えていないのか?」
「待って、待って、今思い出すよ」
 見覚えが無い座敷。いや、見たことはある。そうたが酔ってつぶれたらここで休ませようと思っていたところだ。いい雰囲気になったら、出来れば仲を深めたいとは思っていた。
 ということは、ここは宴会をする予定の屋敷ということだ。
 いや、予定ではない。昨日の晩がその宴会だったのだ。始まりらしい始まりもなく、集まったものから飲み始めてしまって、自分も飲まされて引っ込みがつかなくなって……それで、それからそうたを見つけて。
 一緒に居たくて、話したくてたまらなくなって。一緒に飲んで、それだけじゃ満足できなくて独り占めしたくなってあああああ!
 頭を抱えて声にならない声で叫ぶ。やってしまったらしい。自分はそうたとやってしまったらしい。
 もっとちゃんとしようと思っていたのに、自分が一番禁じていた妖怪らしい方法でやってしまったのだ。そうたに襲い掛かってしまったのだ。
「二日酔いか? 水、もらってこようか」
「だ、大丈夫。それに全部思い出したよ」
「そうか。それなら良かった」
 ほっと表情を緩めるそうた。本当に申し訳が無かった。
「……悪かったね、そうた。謝って許してもらえるとは思っていないけど、私、本当に、こんなつもりじゃなかったんだ」
「こんなつもりじゃなかったって……。まさか」
 そうたの顔がまた険しくなる。青白くさえ見えるほどに。
「その、あんたへの気持ちは本気だったんだよ。だからこんな力ずくでなし崩しにじゃなく、人間みたいに仲良くなってからにしようって思ってたんだけど」
「何だそっちか。安心したよ」
 よっぽど気にかかる一言だったらしく、そうたはさっきとは比較にならないほどに大きく息を吐いた。
「ごめん。私昔っから、酒を飲むと気が大きくなることがあるんだ。だから酔い覚ましを持ってたんだけど、飲んでるうちにどっかにいっちゃったみたいで」
「あぁ、それは俺にもちょっと責任はあるかもしれない。……済まなかった。俺も調子に乗ってしまった」
「い、いいんだよ。酔い覚ましなんていくらでも」
「そうでは無くて、お前を傷物にしてしまった。……初めてだったんだろ」
「な、なんで知って」
 また顔が熱くなる。男の顔を見ていられず顔を伏せると、なぜそうたが気付いたのか、その理由が分かった。
 昨日敷布団よろしく畳の上に敷いてしまっていたもの。そうたの着ていた着物に、自分の純潔の証が、赤く染み付いていた。
「あんな風に誘われて責められて、俺の子を孕みたいとか、夫婦になりたいなんて言われたらな」
 顔を覆う。
「はしたない女で、ごめんよ。こんなあばずれ、好みじゃないだろう」
 指の間から覗くと、そうたは笑っていた。
「好みじゃなきゃ暴れて逃げていたよ。流石に俺も大人の男だ、妖怪には勝てなくても逃げることくらいは出来る」
「……ほんとう?」
「あぁ。お前さえ良ければ、俺の家に嫁いでこないか。村に来る気があればだが」
「じょ、冗談はよしておくれよ。期待しちゃうじゃないか」
「俺は本気だ。散々村長の頼みを聞いてきたんだ、たまには俺も好きにやる。……本気でお前と一緒になりたいんだ。瑞葉」
「そうた……。きゃっ」
 ときめいた一瞬の隙を突かれて、覆っていた手を掴まれて、そして押し倒される。
「んっ」
 唇を割って生あったかい舌が入ってくる。昨日はびくびく震えていたのに、今日は自分からこちらを求めて絡みついてくる。
 頭が痺れる。身体から力が抜けていく。
「んん、ふぅう」
 身体の芯が歓喜に震える。男の手が胸を揉んでいる。そしてその手が、今度はまたぐらに伸びて……。
「だ、駄目だよ。もう朝になる。宴会は日が昇るまでだって」
 慌ててうつぶせになりその手から逃れる。そうしなければ、自分の抑えが利かなくなりそうで。
 だがそんなことはお構いなしに、そうたは背中の上にのしかかってきた。
「宴会は、な。けどまぐわいを禁じたわけじゃ無い」
「そんなの詭弁だよ。あんたが言い出したんじゃないか」
 うなじに口づけされる。耳を甘噛みされ、舌を入れられる。
 身体が震えて、お腹の中が熱くなってくる。昨日たっぷり注がれたはずなのに、あの乾きが鎌首をもたげる。
「したくないのか」
「でも、みんなが」
「耳を澄ませてみなよ」
 言われた通り、耳を澄ませる。遠くから大きないびきが聞こえてくる。全員寝ているのは明らかだった。人間では予想でしかなくても、妖怪の聴覚をもってすれば間違いなかった。
「でも、でも」
「それとも、もう孕んだのか瑞葉」
「……多分、まだだろうね」
 腰を突き出す。朝から硬くて熱い、そうたの雄に向かって。
「分かった。好きなように、していいよ。私にあんたの子を孕ませておくれ」
 肩に口づけされて、そして後ろから、そうたが入ってきた。
 声を上げると、口の中に右手の指を入れられた。舌や歯を優しくこすり愛撫してくる。
 そして左手は乳房を鷲掴みだ。たまに乳首をつままれて、身体がかってに震えてしまう。
 そうたが中で遠慮無しに跳ね回るものだから、身体の中にも粗削りな快楽が暴れまわってたまらない。
 そうたの手は優しく気づかわし気でもあったが、力づくで犯されているみたいでもあった。もちろんひっくり返す事も出来るが、このままされるのも悪くなかった。
 恐れず、自分の気持ちやしたいことをぶつけてきてくれたことが嬉しかった。
 あぁ、でも冷静に考えられるのもここまでだ。
 理性が、とろける。人間の愛に身をゆだねて。
 願わくは、一日でも早くこの愛しい人の子を孕めますように。


 その村は特に特徴もない、平和で平穏な村だった。
 山あいの片田舎にあり、都からは離れているという不便はあるものの、山にも川にも近く、土地も肥沃とは言えなくとも痩せているわけでは無かったため、食うに困るということは無い。特に特産品と呼べるものも無いが、よそから来た人間との奪い合いに悩まされることも無い、静かな村。
 そんな静かな村でも、悩みの種が無いわけでは無かった。その土地には、人間だけでなく妖怪の住処でもあったからだ。
 近づきたい者も居た。距離を置きたい者も居た。色々な考えの者がいて、付かず離れず、煮え切らない関係が続いていた。ときにはいさかいが起きることもあった。
 だが、人と妖怪によって撒かれたその種は、あるとき意外にも立派な目を出し、まっすぐと成長していった。
 そしてその日。そうたと瑞葉、二人の婚姻により、ついには美しい花を咲かせたのだった。
 花は再び種を付ける。果たして次は、どんな花が咲くのか。
17/05/23 23:39更新 / 玉虫色

■作者メッセージ
初めましての方は初めまして。
お久しぶりの方は(大分)お久しぶりです。
もうちょっと早く投稿したいとは思っていたのですが、色々なことがありまして、気がつけば春を通り過ぎこんな時期になっておりました。

久々の話なのでまとまっているんだかまとまっていないんだか……。まぁ、いつも通りですね。

少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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