連載小説
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歌―sing the song―
ボクには彼を締め付ける蔓をどうすることもできない、彼の寂しさを取り除こうと思っていても何も出来ない、そんな無力な自分に苛立った、それでも何かボクに出来ることは無いか考えた。
……そうだ、ボクには歌があるじゃないか!!歌なら蔓に締め付けられている彼の心にも届くはずだ……でもボクに出来るのか?人の心に響くような歌が歌えるのか?一瞬不安が過ぎる、そんなこと気にしていちゃ駄目だ始める前から失敗するなんて考えてたら、本当に失敗してしまう。今は彼に響くような歌を歌うことに集中しなくちゃ。

ボクは精一杯歌った。ボクの声が彼に届くように。

どんな形でもいい、ボクの声が彼に届いてくれれば。

望むなら、美しい歌声として聞こえてほしい。

だけど、雑音でも金切り声でも不快な音として聞こえても構わない。

彼の一人ぼっちになってしまっている心に届けばいい。

ねぇ、この声で気が付いて?アナタの近くにボクがいることを。

うるさいって怒鳴ってくれてもいい、ボクとアナタが触れ合えるのなら。

ボクだってきれいな歌声だねって褒めてもらって撫でてもらえるのが一番嬉しいけど。

今のボクはそんなことは望まない、違う望めないの。

だってアナタが一人ぼっちでいるのが一番悲しいことなんだよ。

アナタが寂しいときに、ボクだけが幸せなんて望めない。

だから……この声がアナタに届いて……アナタの心に触れさせて……

頭が真っ白になっていた、よくよく考えたらセイレーンが異性と二人っきりでその人に歌を歌うってとんでもない事をしたんじゃないだろうか?
いや、よく考えろここは魔界じゃない……セーフだろう、おそらく向こうもセイレーンの特別な歌なんて知らないだろうし。それにアレだ、まだ好きかもわからない相手に歌った特別な歌はノーカウントだ!……だぶん。
っとそんなこと考えてる場合じゃない、彼の反応は……キョトンとしてるよ、もしかして彼の心に触れるどころか、何いきなり歌ってるんだコイツ?って思わせちゃった?
ボクが涙目になって落ち込みかけてたその時、彼は少し声を出して笑った。
もしかして俺の為に歌ってくれたの?ありがとう、いい歌だね。彼は笑顔で言ってくれた。
ボクは嬉しかった、たとえお世辞でもボクの声が彼に触れることが出来たんだ。そう思うともっと嬉しくなって彼と一緒になって声をあげて笑った。
少しの間、二人で笑い合った彼にはまだ寂しそうな部分があったけど、でもボクがいることは伝わった。少しずつでいいから彼の寂しさを取り除こう、ボクはこの時そう決めた。
10/11/02 01:20更新 / アンノウン
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■作者メッセージ
あの時の歌の歌詞は覚えていない、無我夢中で歌ってなんて歌ったかは忘れてしまった。
ここにあるメモはあの時のボクの気持ち……彼に伝えたかったこと。
でも、ちきゅうに来た甲斐はあったかな?お母さんに言われていた歌に気持ちをこめるって子他がわかったから。

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