Report.04 俺と竜と肉団子 後編
「先手必勝ぉっ! 『重塊』!」
角から飛び出したフェランは両掌に自身の魔力を球状に凝縮し、二つの魔力球を肉団子の群の両端目掛けて放つ。
純粋な力の集合体である魔力球は狙い通りに群の両端に着弾し、着弾地点にいた肉団子の十数体が爆発する。
同胞の爆発で漸くフェラン達の存在に気付いた肉団子の群は、扉を破る事を放棄して己の目的であり本能―体内に侵入して自爆し、内側から破壊する―に従って突貫する。
『フェラン……アンタは精霊の一種だから、闇属性魔法しか使えない。アンタの場合は、ソレを徹底的に伸ばしてくよ』
ダークマターは肉体が純粋な魔力のみで構築されている事、魔力の還元に因る豊穣能力を持つ事から精霊の一種だと言われている。
精霊は自身の司る属性―シルフなら『風』、イグニスなら『炎』といった具合だ―の魔法が先天的に特化されており、他の属性魔法の体得・行使は不可能だ。
その分、自身の属性魔法に関しては天賦の才を誇り、闇の精霊と言われているダークマターであるフェランの場合、闇属性魔法に特化されている。
闇属性魔法とは純粋に魔力を利用する魔法で、悪く言えば『力押し』の魔法である。
炎なら火傷、氷なら凍傷、風なら裂傷といった、属性に対応した自然現象に因る副次効果を闇属性魔法は得られない。
だが、その分、純粋な破壊力は他の属性魔法と比較すれば頭一つ……いや、二つ、三つは軽く抜きんでている。
副次効果を得られぬ分、破壊力に特化された魔法……ソレが闇属性魔法で、その系統でも初歩である『重塊』は、威力で言えばエヴァンの『旋風刃』に匹敵するのだ。
「コラムッ!」
「お任せくださいっ! 『障壁』!」
先制の一撃を加えたフェランは即座に下がり、入れ替わるようにコラムが前へ出る。
前に出たコラムは両手を突き出して『障壁』を詠唱、通路を塞ぐように透明な壁が彼女達の前に展開される。
進路を塞がれた肉団子の群は『障壁』にぶつかり、先刻のように続々とコラムの展開した『障壁』に体当たりを敢行する。
「いっくぞぉぉぉぉっ!」
可愛らしくも気合充分な声を上げてフェランは『重塊』を両手から次々と放ち、放たれた『重塊』が直撃した肉団子の群は爆発を繰り返す。
幾度も繰り返される爆発で生き埋めに遭う可能性があるにも関わらず、フェランは『重塊』を途切れなく放ち続ける。
フェランは信頼している、コラムの『障壁』を。
『障壁』展開の際、コラムは爆発から通路を守る為に自身の周囲……半径五メートル以内の通路に薄く、それでいて爆発を防げる強度を持たせた『障壁』を展開していたのだ。
『コラム……アンタの資質を活かすんなら、攻撃よりも防御や治癒を重視した方が良いね』
『偉大なる八人』が一人、バフォメットのフランシスは指導を始める際、コラムにそう告げた。
ユニコーンとバイコーンは治癒魔法に天賦の才を持ち、指導が無くとも強力な治癒魔法の行使が可能だが、その一方で穏やかな気性である為、攻撃魔法は不得手である。
故に、コラムは攻撃よりも、防御・治癒を重視した指導を受けていたのだ。
その指導の甲斐あって、コラムは防御・治癒に関する魔法の技量は、実力的に見れば既に達人級に匹敵している。
防御系魔法の中でも初歩中の初歩である『障壁』ならば、現在コラムが行っている芸当も容易いのである。
「コラムッ! 『障壁』はどのくらい持ちそう!?」
「まだまだ大丈夫です! フェランは駆逐をお願いします!」
「了解っ!」
繰り返される爆発に最前線で晒されるコラムに、フェランは『重塊』を放つ手を休めずに『障壁』の限界を問う。
ソレを問われたコラムは穏やかな笑みを浮かべながら大丈夫である事を告げ、その答えを聞いたフェランは外観の愛らしさに似合わぬ兇悪な笑みを浮かべる。
「どっかぁぁ――――――んっ!!」
兇悪な笑みを浮かべたフェランは最早弾幕に等しい『重塊』を放ち、次々と肉団子を駆逐する。
「うぅぅおりゃぁぁぁぁぁっ!!」
爆発音を聞き付けたらしく、戦場と化した狭い通路に小さな肉団子が続々と集まり始め、フェランは裂帛の気合と共に『重塊』を放ち続ける。
「うぅぅぅっ! キリが無いよぉっ!」
「キーンッ! 貴方も手伝ってくださいっ!」
轟く爆音、舞い上がる土埃、無数に集う肉団子。
無限とも思える増援にフェランは焦り始め、『障壁』を展開しているコラムは先程から何もしていないキーンに苛立った声をぶつける。
苛立ちをぶつけるも、キーンはこの状況下では何も出来ない事をコラムは理解している。
キーンは銛を使った近接戦闘が主体であり、そうなると必然的に爆発に巻き込まれる。
故に、苛立ちをぶつけてしまう事が間違いである事も理解しているが、それでもコラムはキーンに少しは手伝ってほしいと叫んだ。
「…………ん」
コラムの苛立ち混じりの叫びに答えたキーンは何を思ったのか、突然『障壁』を展開するコラムの前に立った。
「えぇっ!? キーン!?」
「手伝ってほしいと言いましたけど、何をするつもりですか!?」
いきなりコラムの前に立った事に二人は困惑し、肝心のキーンは地面に銛を突き立てると
『ニーケの勝利の印において我に力を与えよ、力を与えよ、力を与えよ。霊験灼(アラ)たかなる魔銛(マテン)よ、我が眼前の怨敵を殲滅せよ』
滅多に喋らないキーンが何らかの術式を詠唱し、地面に突き立てられた銛に怪異が起きる。
「ふえぇっ!?」
「なっ!?」
突き立てられた銛から、全く同じ形状の銛が何本も地面を抉りながら、キーンを中心に渦を描くように現れる。
その数、二〇本……キーンが持つ銛も合わせれば、二一本の銛が彼女を取り囲んでいた。
「…………超攻性魔銛結界」
驚愕するフェランとコラムを置き去りにして、キーンは地面に突き立てていた銛を抜くとソレに釣られるように二〇本の銛が宙に浮かび上がる。
「…………行って」
キーンが手に持っていた銛を前方に突き出すと、浮かび上がった二〇本の銛は獲物を狙う鮫の如く猛烈な勢いで宙を駆ける。
二〇本の銛の内、一四本はT字状の通路の角を塞ぐように其々七本ずつ床へと突き刺さり、突き刺さる銛の刃に貫かれた増援の肉団子は爆発する。
されど、爆発に晒されても突き刺さった銛は揺るがず、傷一つ付かずに通路を塞いでいる。
残る六本の銛は、コラムの『障壁』とキーンの銛で閉じ込められた肉団子達を殲滅すべく、爆発を物ともせずに狭い通路を縦横無尽に駆け巡る。
そして、閉じ込められた肉団子の群は、瞬く間にキーンの銛で殲滅された。
「キーン……貴方、魔法が使えたのですか?」
キーンの意外な活躍で、肉団子の殲滅を終えた三人……困惑を隠せないコラムは、疲れた溜息を吐くキーンに尋ねた。
何故、等級的には未だ素人の域を出ない二人でも高位の魔法と分かる魔法が使えたのか?
因みに、フェランは魔法の使い過ぎで息を荒げながら、床に大の字で寝っ転がっている。
「…………」
ソレを聞かれたキーンは屈み、地面に指で文字を書き始める。
キーン曰く、あの魔法は彼の地底湖に出入りしていたシー・ビショップに教わった魔法だそうだ。
そのシー・ビショップは魔法使いの夫を持っており、件の魔法も元々は夫が教えた魔法で、魔法の資質が無いキーンでは使えないと彼女は断った。
だが、同胞を守る為にと言葉少なくも懇願したキーンの熱意に負けたシー・ビショップは、魔法の資質の無いキーンに四苦八苦しながら、この魔法を伝授したそうだ。
この魔法の名は『武装錬金(アムド・アルケミア)』……使い手の武器―キーンの場合、銛だ―を魔力で複製して自在に操作する、本来なら達人級にしか行使出来ない魔法である。
同時に使い手には複製した武器を複数同時に操る精神力と武術の腕を求められる為、この魔法を行使出来る者は非常に少ないのだ。
本来、魔法の資質の無いキーンが一握りの達人級にしか行使出来ない魔法を教わった結果、彼女は『武装錬金』以外の魔法が全く使えなくなったそうだ。
「そうでしたか……キーンの努力は、私も見習わないといけませんね」
「…………♪」
その努力に感心するコラムに、キーンは自慢するように胸を張る。
「それでは、行きましょう」
「…………」
コラムは疲労困憊のフェランを背中に乗せ、通路の奥にある鉄扉へと近付いた。
この向こうに、生存者が居る事を願いながら。
×××
「んなろぉぉぉぉっ!」
「うおぉぉぉぉぉっ!」
俺とボイドは逃げ回る肉団子の親玉に損傷を与えながら、懸命に追い掛けていた。
自爆肉団子を逆手にとったお陰で、見た感じでは結構損傷を与えてる。
腐りかけた肉団子っぽい赤茶色の身体は火傷痕と爆発で抉られた痕だらけ、逃げる速さも明らかに落ちてる。
この調子でいければ勝てると思いたいんだが、俺の勘が引っ切り無しに告げる。
コイツは何か隠してる、この状況を覆せる何かを隠してると。
「んん?」
「どうした、エヴァン殿?」
変な声を上げた俺にボイドは首を傾げるが、今の俺はソレを気にする余裕は無い。
俺は霊視(み)た……肉団子の親玉の魔力が、尻(?)へと急速に集まってる?
魔力の収束を感じた瞬間、尻(?)に穴が開き、その穴から炎のような魔力が漏れ始めた。
「何だ? あの肉団子め、何をするつもりだ?」
ボイドの疑問も尤も、傷だらけの身体で今更何をするつもりなんだ?
新手の攻撃かと警戒する俺とボイドは、尻(?)へ魔力を収束させた肉団子の親玉が力を溜めるように屈んだ後に信じられねぇモノを見た。
「え、ええぇぇぇ―――――っ!?」
「何じゃそりゃぁぁ――――っ!?」
ピョイ〜ンと間抜けな擬音が付きそうな跳躍を見せた肉団子の親玉の尻(?)から、膨大な魔力が噴出され、物凄い勢いで『飛んでった』。
一瞬で少し先の角に到達した肉団子の親玉、そのまま壁にぶつかると思ったら、自然法則を踏み倒して強引に曲がりやがった!
傍から見りゃ、何というか、屁で空を飛んでるように見えるな、アレは。
「……はっ! 速度を上げるぞ!」
「お、おうっ!」
い、いかん……あまりにもオモロイ上に、何とも間抜けな光景に呆然としちまった。
急いで追い掛けねぇとっ!
「がぁぁぁっ! やっと、追いついたぁっ!」
猛烈な速度でブッ飛んでった肉団子の親玉に俺とボイドは漸く追い付くが、正直に言えば何時引き離されてもおかしくねぇ。
ソレだけの速度で飛び、オマケに自然法則を踏み倒した出鱈目っぷりに俺達は翻弄される。
自爆肉団子を生み出す魔力を高速飛行に回してるからか、自爆肉団子を落っことさねぇが、その出鱈目っぷりには参るぜ、畜生!
「エヴァン殿! 此処は先回りせねば!」
「いや、無理っ!」
猛烈な風圧に黒眼鏡が吹っ飛ばねぇようにしつつ飛ぶ俺に、ボイドが先回りしようと提案するが、俺は即座に却下する。
先回りしようにも、あの速度じゃ先回りしても強引に突破される可能性がデカい。
「ならば、どうするっ!? このままではっ!」
「だぁぁぁっ、クソッタレェェェェッ!」
打つ手無しか、ド畜生っ! このままじゃ、また自爆肉団子を撒き散らされんぞっ!
「えっ?」
なんて思ったら、何か知らんが肉団子の親玉がコッチに向かってきた。
何て、幸運っ! ……って、ちょっと待てよ?
通路は俺とボイドが横に並ぶとギリギリな程に狭いし天井も低い、そんな通路の文字通りド真ん中を高速で飛ぶ肉団子の親玉と俺達。
その二つが導く結果は
「ぐ、がはぁっ!」
「ぐえぇっ!」
正面衝突だよな、やっぱりぃぃぃっ!?
気色悪いくれぇにブヨブヨなのが幸いなんだが、それでも猛烈な速度でぶち当たってきた肉団子の親玉に、俺とボイドは激痛に息を詰まらせる。
だけど、怪我の功名っ! コレで追い掛ける手間が省けたぜっ!
「怪我の功名、という、モノだな! 一気に、決着を、付けるぞっ!」
身体中を走る激痛でボイドの言葉は途切れ途切れだが、言われなくてもヤってやるさ!
折角、こうして取り付けたんだ、俺のトッテオキを……って、此処で放ったら不味いっ!
俺の直ぐ隣には肉団子の親玉へ我武者羅に爪を突き立てるボイドが居るし、この距離じゃ先ず確実にトッテオキにボイドを巻き込む。
「………………」
どうする? どうする? 俺はどうするべきだ?
どうやって、この肉団子の親玉だけに『星間駆ける皇帝の葬送曲』を放つ?
思い出せ、思い出せ、あの時の感覚を……キーンと出会った地底湖で、あの糞ガキだけに『星間駆ける皇帝の葬送曲』を放った時の感覚を!
「ど……た、エ…ァン…!? こ……機を…駄に……つも…か!?」
直ぐ近くのボイドの声が凄く遠くから聞こえる程に、俺は精神を集中させる。
『星間駆ける皇帝の葬送曲』は俺の声に膨大な魔力を籠めて放ち、その超振動で遍く万物を消滅させる禁断の魔法。
声とは空気の振動であり、『星間駆ける皇帝の葬送曲』は膨大な魔力で、発声に因る空気の振動を増幅させる。
即ち、『星間駆ける皇帝の葬送曲』は膨大な魔力の籠められた歌である。
魔力を籠めた、歌……?
そうか、あの魔物だ! あの魔物がやってる事を、再現すればいいんだ!
「すぅぅ―――っ、はぁぁ―――っ……」
俺は思い描く、あの魔物の姿を。
俺は再現する、あの魔物の歌を。
セイレーン……魔力を籠めた魔性の歌声で船乗り達を魅了し、番となった男に求愛の歌を歌い続ける、自然が生み出した歌姫。
尤も、この怪物の為に歌うのは求愛の歌じゃなくて、全てを葬る滅びの歌だけどなぁっ!
膨大な魔力を操作し、制御せよ。
無作為に放つな、声に籠める魔力を集中させろ。
そう、俺が歌う滅びの歌は、コイツを滅ぼす為だけに歌えっ!
『―――――――――――――――――――――』
一点に集中させた魔力、異界の歌声で奏でられる滅びの歌。
その歌声は不可視の突撃槍(ランス)と化し、肉団子の親玉を貫き、内側から消滅させる。
目に見えぬ程に細かな塵すら残さず、ブリチェスターを襲った怪物は消滅した。
「ふぅぅ……」
「エヴァン、殿? 先程のは一体……?」
微小な塵すら残さずに肉団子の親玉を消滅させ、床に座り込んだ俺に、ボイドはさっきのアレが何だったのかを聞いてきた。
あ、そう言えば、ボイドは知らないんだっけ?
俺は、ボイドにさっきのアレ……俺の必殺技である禁断の魔法、『星間駆ける皇帝の葬送曲』の事を説明する。
勿論、俺が禁断の魔法を行使出来る事を知ったボイドは、かなり驚いたが。
「驚いた、本当に驚いたぞ……まさか、お主がソレ程の魔法使いだとは」
「いやぁ、照れる」
―ドクンッ…
「な゛……」
あ、しまった……説教くらったばっかだってのに、また使っちまった。
強烈な魔力供給衝動が、さっきの肉団子の親玉よろしく、高速で俺の体内を駆け巡る。
あぁ、俺って、本当に、学習能力が、ねぇなぁ。
「どうした、エヴァンドノ? カオイロがスグれぬが……」
シンパイそうに、オレのカオをノゾキきコむボイド。
ホしい、ホしい、ホしい。
チジョウのオウジャたるボイドが、ホしくてホしくてタマらないホドにホしい。
×××
「エヴァン殿? 本当に、んむっ!?」
差し伸べられたボイドの手を掴み、引き寄せ、胸に抱き、間近に迫った唇を奪う。
柔らかい唇は味などしないにも関わらず甘美で、驚愕で固まっているボイドの閉じられた唇を抉じ開けて舌を潜り込ませる。
「んんっ、んむっ、ん゛ん゛ん゛ん゛ぅっ!?」
縮こまっていたボイドの舌を見つけたオレは、引き摺り出すように舌を絡ませ、困惑するボイドの口腔内を蹂躙する。
「んふっ、れるるっ…じゅるっ、んんっ……」
口腔内の蹂躙で魔物の本能が蠢き始めたのか、頬が紅く染まった昂揚した顔で、ボイドは自分から舌を絡ませてくる。
息苦しさも心地良く、美味なる料理を貪り喰らうように、オレとボイドはキスに没頭する。
「ん、ぷはぁっ……」
先に唇を離したのはボイド、その唇からはオレの唇と繋がる唾液の橋が架かっている。
「エヴァン、殿……」
情欲で燃え上がり興奮で潤んだ目をしたボイドは、一度オレから離れ、翼で自身の身体を包み込み、カキン…と鎧の止め具を外すような音がした。
ボイドが翼を広げると、其処には美しくも劣情を誘う裸体が……傷も染みも無き白い肌、大型の果実を思わせる豊満な胸、既に洪水の如く愛液を滴らせる秘所が晒された。
「拙者の、裸体は……興奮する代物か?」
勿論、興奮するに決まっている。
そう答えると、ボイドは歓喜と妖艶さが混じった笑みを浮かべ、床に座ったままのオレのズボンの前を凶器に等しい爪で器用に開け、既に滾っているオレのモノを外に晒す。
外に晒されたオレのモノに跨るように、ボイドはゆっくりと腰を落としていく。
「ん、んくっ、あぁっ……」
ボイドの秘所に、熱く滾るオレのモノが飲み込まれ……いや、オレのモノが侵入していく、の方が正しいか?
秘所の中程まで侵入したオレのモノから肉を引き裂くような感覚が伝わり、ボイドの純潔を頂いた興奮がオレの背中を駆け上る。
「エヴァン殿、お主は真に強き雄だ……拙者の純潔を、捧げるに相応しい雄だ」
純潔が散った鈍痛に涙しながらボイドがオレを強い雄だと耳元で囁き、その言葉にオレは腰を突き上げる事で答える。
無論、渇きと欲望を満たす為に、手加減はしない。
「んあっ、あふっ、んんっ❤ エヴァン殿っ、いきなりっ、ああっ、激しくっ、ふぁっ、なんてっ❤ 未通女(オボコ)のっ、拙者にはっ、んふっ、あんっ、厳しいぞっ❤」
先程まで処女だったボイドはオレの激しい突き上げに悶え、しがみつくように腕を首へ、足を腰へ回してボイドは拘束して翼で包み込む。
「んくっ、ふぅっ、あぁっ❤ エヴァン殿のっ、逸物がっ、んぁっ、拙者のっ、奥にっ、ん、んふぅっ、当たってっ、おるぅっ❤」
コツコツと秘所の最奥を叩かれるボイドは快感で尻尾を揺らし、耐えるようにオレの肩を長外套越しに甘噛みしてくる。
鋼鉄をも引き裂く爪はオレの背中を―オレを引き裂かぬように、手加減されてはいるが―ガリガリと引っ掻いている。
甘噛みと引っ掻きは少々痛いが止めろと言う程でも無く、こうしないと快感に流されると解釈したオレは、嗜虐心の昂りを感じ取った。
「ん、あぁ? エヴァン殿、どうしひゃぁぁっ!」
急に動きが止まったオレに首を傾げるボイドだが、オレが背中を軽く撫でると、ボイドが驚愕混じりの甘い声を上げつつ仰け反った。
ほほぉ、此処が弱いのか……弱点を探るつもりで手近な背中を選んだだけだが、いきなり当たりを引いたか。
ボイドの弱点を見つけたオレは、昂る嗜虐心のままに背中を撫で回し、弱点を責められるボイドの反応を楽しむ事にする。
「駄目っ、駄目だっ❤ 拙者は、んんっ、背中がっ、ふぁっ、弱いのだぁっ❤」
弱点の弱点を撫で回されるボイドは、背中を撫で回す手から逃れるようにオレの上で悶え、甘い声を上げ続ける。
撫で回す度にボイドの秘所はオレのモノを締め付け、尻尾は忙しなく揺れ動く。
「んひゃっ、ん、んあぁっ❤ 駄目ぇっ、駄目だっ、ふあぁっ、くひゅぅっ、エヴァン殿っ、背中をっ、あふぁっ、撫でながらはっ、駄目だぁっ❤」
昂る嗜虐心のままに、オレは背中を撫でながら再び腰を動かし始め、ボイドを悶えさせる。
弱点の背中を撫でられ、秘所から快感が齎されるボイドは、堪えきれないように爪でオレの背中を引っ掻くが、その力も弱々しく、痛いというよりは最早擽ったい。
『地上の王者』と称されるドラゴンの悶える姿というのは、何とも嗜虐心を煽る光景だ。
「んひぃっ、ん、んんっ、くはぁっ❤ だからっ、撫でながらはっ、駄目だとっ、はひっ、んふぁっ、言ってっ、おるだろうっ❤」
密着する程に抱きしめられている為、ボイドの顔は分からない。
だが、甘い声から判断するに、王者の誇りを捨て去った雌の顔になっているだろうな。
背中を撫でる手を休めずにボイドの秘所の最奥をモノで叩き続け、オレはキツい締め付けを堪能する。
「ふぁっ、はぁっ、頼むからっ、んふっ、んんぅっ❤ あひぃっ、背中をっ、んふっ、撫でないでっ、あぅんっ、くれぇっ❤」
反響するボイドの声と淫靡な水音も、オレの興奮を存分に煽ってくれる。
興奮は際限無く昂り続け、昂り続ける興奮は嗜虐心へと変換され、オレの責めは激しく、いやらしくなっていく。
「もうっ、んひぃっ、くあぁっ、限界だぁっ❤ もうっ、んあぁっ、はひゅぅっ、拙者はぁっ、んはぁっ、耐えられぬぅっ❤」
切羽詰まった甘い声を上げるボイドの秘所は、オレのモノが食い千切られるのではないかと錯覚する程にキツく締め付けてくる。
その締め付けを感じながら、オレは腰を突き上げる速度を上げ、鋭く、激しく、ボイドの秘所の最奥を叩き続ける。
尻尾も快感に悶えるかの如く激しく揺れ動き、ボイドも息が絶え絶えになっている。
「んくっ、んんぅっ、ふあぁっ、ああぁぁ―――――っ❤」
一際高い声を上げたボイドの秘所が急激に強く締め付け、オレのモノが最奥を叩いた瞬間、ボイドは絶頂を迎える。
ボイドを絶頂を迎えると同時に、オレのモノは最奥目掛けて精液を放ち、ボイドは自分の物なのだと主張するように秘所の中を染め上げていく。
ドクドクと注がれる精液は秘所を埋め尽くし、収まりきれなかった精液が逆流して結合部から零れていく。
「ん、はぁぁぁ……拙者の中に、エヴァン殿の子種が溢れて、おる……」
身体の内側から焦がす熱に、恍惚の声を漏らすボイド。
オレはボイドの秘所からモノを抜き、尻が此方に向くようにして、四つん這いにさせる。
「はぁぁ……まだ、するのか?」
何を言っている? 当然、まだ続けるに決まっているだろう。
オレの衝動は一度の交わりでは治まらない、満たされない。
満たされるまで、ずっと続けるだけだ……
×××
「ふふっ……エヴァン殿は、魔法も交わりも強いのだな」
そう言いながら、素っ裸のままのボイドが俺の背中に胸を押し付けながら抱きしめてきて、胸の感触を感じながら俺は自分の中をジッと見据える。
コレで何人目だ? ボイドで五人目か?
俺の魔力はフェラン、コラム、ローラさん、キーン、ボイドの魔力と混ざり合い、何とも言葉にし辛い混沌とした魔力になっている。
敢えて言葉にすんなら、冒涜的なまでに形容し難い極彩色と言うべきか。
「エヴァン殿は拙者の『宝』、生涯を賭けてでも守り抜く大事な『宝』だ……」
そりゃ嬉しいが、何か複雑……男を『宝』と呼ぶのは、貴金属等を蒐集するドラゴン達の最大の褒め言葉であり、二度と手放さないという宣言でもある。
俺も男だしさ、こんな美女が俺を手放さないって言ってくれるのは嬉しいが、強姦紛いの交わりの後で言われると、無理矢理言わせた感がして複雑だ。
《此方、コラム。エヴァンさん、聞こえますか?》
「んぉ? コラムか……何か、あったのか?」
嬉しそうに抱きしめてくるボイドの為すがままにされてると、通信球からコラムの声が響く。
《えぇ、生存者の保護に成功しました。エヴァンさんの推測通り、生存者は女王の部屋に集まっていました》
「っ! ソレは本当か!」
通信球から響く声にボイドが驚き混じりで反応し、ボイドの声に微笑んだっぽいコラムは向こうの状況を伝えてくる。
曰く、女王の点呼から判断するに犠牲者は全体の二割程……つまり、このブリチェスターのジャイアントアントの殆どが生き残っていたそうだ。
犠牲は当時食料保存室の番をしていた者と防衛班の者だけで済み、女王が予め有事の際の避難訓練を度々行っていたのが幸いだった。
勿論、避難完了まで時間を稼いでくれたボイドと防衛班の活躍もあってだが。
《……なので、女王が謝礼を言いたいそうですので、早く此方に来てくださいね》
その言葉を最後に通信が途絶え、俺とボイドは顔を見合せて微笑んだ。
良かったな、なんて言葉は出さない……何か、野暮に聞こえるしさ。
「んじゃ、行くか」
「あぁ……アセナスに、大事な報告もしなくてはな」
アセナスってのは、此処の女王の名前だろうな……俺とボイドは立ち上がり、フェラン達の居る女王の部屋に向かう。
と、その前に。
「なぁ、ボイド……」
「ん?」
「鱗、着けてくれ。素っ裸は不味いから」
×××
「オリバー様、『GE‐04』に関する報告があります」
エヴァンとボイドが、ブリチェスターを統べる女王の元に向かおうとしていた頃。
とある教団の基地にて、人形じみた表情の騎士が司令官の部屋に入室していた。
「あぁん? 何だよ、コッチは忙しいんだよっ!」
部屋の中に居るのは、以前受けた傷の治癒に専念していたオリバー・ウェイトリィであり、苛立ちと激痛で悪鬼じみた表情を浮かべながら、入ってきた騎士を睨みつけた。
見ただけでも狂死しそうな程に兇悪な表情だが、騎士はソレに臆さず淡々と報告する。
「あ゛ぁっ? 『GE‐04』が、どうかしたのかよぉ?」
「はい、先程『GE‐04』の反応消失を確認しました」
「はぁっ!? オイオイ、『GE‐04』は九時間前に運用開始したばっかだろうがっ! 何で、んな早く反応が消えるんだよ!」
騎士が齎した報告―『GE‐04』の反応消失―に、オリバーは頭に血が一気に昇るのを感じ取り、憤慨するオリバーに騎士は先程と変わらずに淡々と告げる。
「はい、九時間前に起動させた『GE‐04』ですが……誤算が生じました」
騎士の言う誤算とは何か? オリバーは治癒魔法を行使しながら、ソレを静かに聞く事にした。
「一つ目の誤算、『GE‐04』を設置したジャイアントアントの巣に、ドラゴンが生息していました」
「はぁっ? ドラゴン? ジャイアントアントの巣穴にか?」
騎士の報告に、オリバーは素っ頓狂な声を上げる事しか出来なかった。
ジャイアントアントと酷似した姿を持つアラクネ種の魔物・アントアラクネなら、巣穴に紛れ込んでいても納得出来る。
だが、『地上の王者』と称されるドラゴンが、ジャイアントアントの巣穴に紛れ込んでいたというのは流石のオリバーでも驚くしかない。
「はい、『GE‐04』と感覚共有で視覚を共有していた魔法使いからの報告ですので、信用に足る情報だと思います」
淡々と報告する騎士は当基地でも最古参の者であり、嘘や冗談を吐くような者ではない事をオリバーは知っている。
故に、その内容はある意味ではオリバーの想像を凌駕していた。
「二つ目の誤算、件の魔法使い……エヴァン・シャルズヴェニィが介入してきました」
「だぁぁっ、クソッタレェェッ! また、あんの真似野郎か!」
最初の報告で間抜けな顔をしていたオリバーだが、騎士の次の報告で再び悪鬼じみた兇悪な表情を浮かべる。
どうやって『GE‐04』を知ったのかは分からないが、またしてもエヴァンに切り札を破壊された事にオリバーは憤怒を隠せない。
「本当にクソッタレだよなぁっ、エヴァン・シャルズヴェニィッ! コレで四体目だっ! 僕達の切り札のGEを何体ぶっ壊せば気が済むんだよ、エェッ!?」
地底湖で受けた傷がなければ、オリバーは直ぐにでもエヴァンを殺しに行くであろう。
それ程までに、オリバーのエヴァンに対する憎悪は膨れ上がっていた。
「おいっ、エイモスッ! 『GE‐02』を起動させろっ! 今直ぐにだっ!」
「了解しました、直ぐに『GE‐02』の起動準備に取りかかります」
エイモスと呼ばれた騎士は踵を返してオリバーの部屋を去り、部屋には主であるオリバーのみが残された。
「クソッタレ、クソッタレ、クソッタレェェ……今度こそ、今度こそは邪魔させねぇぞ、エヴァン・シャルズヴェニィ……」
溢れる憎悪を隠さずにオリバーは呟き、傷の治癒を再開させる。
何時の日か、エヴァン・シャルズヴェニィと彼の妻である魔物を殺す事を夢見ながら……
Report.04 俺と竜と肉団子 Closed
角から飛び出したフェランは両掌に自身の魔力を球状に凝縮し、二つの魔力球を肉団子の群の両端目掛けて放つ。
純粋な力の集合体である魔力球は狙い通りに群の両端に着弾し、着弾地点にいた肉団子の十数体が爆発する。
同胞の爆発で漸くフェラン達の存在に気付いた肉団子の群は、扉を破る事を放棄して己の目的であり本能―体内に侵入して自爆し、内側から破壊する―に従って突貫する。
『フェラン……アンタは精霊の一種だから、闇属性魔法しか使えない。アンタの場合は、ソレを徹底的に伸ばしてくよ』
ダークマターは肉体が純粋な魔力のみで構築されている事、魔力の還元に因る豊穣能力を持つ事から精霊の一種だと言われている。
精霊は自身の司る属性―シルフなら『風』、イグニスなら『炎』といった具合だ―の魔法が先天的に特化されており、他の属性魔法の体得・行使は不可能だ。
その分、自身の属性魔法に関しては天賦の才を誇り、闇の精霊と言われているダークマターであるフェランの場合、闇属性魔法に特化されている。
闇属性魔法とは純粋に魔力を利用する魔法で、悪く言えば『力押し』の魔法である。
炎なら火傷、氷なら凍傷、風なら裂傷といった、属性に対応した自然現象に因る副次効果を闇属性魔法は得られない。
だが、その分、純粋な破壊力は他の属性魔法と比較すれば頭一つ……いや、二つ、三つは軽く抜きんでている。
副次効果を得られぬ分、破壊力に特化された魔法……ソレが闇属性魔法で、その系統でも初歩である『重塊』は、威力で言えばエヴァンの『旋風刃』に匹敵するのだ。
「コラムッ!」
「お任せくださいっ! 『障壁』!」
先制の一撃を加えたフェランは即座に下がり、入れ替わるようにコラムが前へ出る。
前に出たコラムは両手を突き出して『障壁』を詠唱、通路を塞ぐように透明な壁が彼女達の前に展開される。
進路を塞がれた肉団子の群は『障壁』にぶつかり、先刻のように続々とコラムの展開した『障壁』に体当たりを敢行する。
「いっくぞぉぉぉぉっ!」
可愛らしくも気合充分な声を上げてフェランは『重塊』を両手から次々と放ち、放たれた『重塊』が直撃した肉団子の群は爆発を繰り返す。
幾度も繰り返される爆発で生き埋めに遭う可能性があるにも関わらず、フェランは『重塊』を途切れなく放ち続ける。
フェランは信頼している、コラムの『障壁』を。
『障壁』展開の際、コラムは爆発から通路を守る為に自身の周囲……半径五メートル以内の通路に薄く、それでいて爆発を防げる強度を持たせた『障壁』を展開していたのだ。
『コラム……アンタの資質を活かすんなら、攻撃よりも防御や治癒を重視した方が良いね』
『偉大なる八人』が一人、バフォメットのフランシスは指導を始める際、コラムにそう告げた。
ユニコーンとバイコーンは治癒魔法に天賦の才を持ち、指導が無くとも強力な治癒魔法の行使が可能だが、その一方で穏やかな気性である為、攻撃魔法は不得手である。
故に、コラムは攻撃よりも、防御・治癒を重視した指導を受けていたのだ。
その指導の甲斐あって、コラムは防御・治癒に関する魔法の技量は、実力的に見れば既に達人級に匹敵している。
防御系魔法の中でも初歩中の初歩である『障壁』ならば、現在コラムが行っている芸当も容易いのである。
「コラムッ! 『障壁』はどのくらい持ちそう!?」
「まだまだ大丈夫です! フェランは駆逐をお願いします!」
「了解っ!」
繰り返される爆発に最前線で晒されるコラムに、フェランは『重塊』を放つ手を休めずに『障壁』の限界を問う。
ソレを問われたコラムは穏やかな笑みを浮かべながら大丈夫である事を告げ、その答えを聞いたフェランは外観の愛らしさに似合わぬ兇悪な笑みを浮かべる。
「どっかぁぁ――――――んっ!!」
兇悪な笑みを浮かべたフェランは最早弾幕に等しい『重塊』を放ち、次々と肉団子を駆逐する。
「うぅぅおりゃぁぁぁぁぁっ!!」
爆発音を聞き付けたらしく、戦場と化した狭い通路に小さな肉団子が続々と集まり始め、フェランは裂帛の気合と共に『重塊』を放ち続ける。
「うぅぅぅっ! キリが無いよぉっ!」
「キーンッ! 貴方も手伝ってくださいっ!」
轟く爆音、舞い上がる土埃、無数に集う肉団子。
無限とも思える増援にフェランは焦り始め、『障壁』を展開しているコラムは先程から何もしていないキーンに苛立った声をぶつける。
苛立ちをぶつけるも、キーンはこの状況下では何も出来ない事をコラムは理解している。
キーンは銛を使った近接戦闘が主体であり、そうなると必然的に爆発に巻き込まれる。
故に、苛立ちをぶつけてしまう事が間違いである事も理解しているが、それでもコラムはキーンに少しは手伝ってほしいと叫んだ。
「…………ん」
コラムの苛立ち混じりの叫びに答えたキーンは何を思ったのか、突然『障壁』を展開するコラムの前に立った。
「えぇっ!? キーン!?」
「手伝ってほしいと言いましたけど、何をするつもりですか!?」
いきなりコラムの前に立った事に二人は困惑し、肝心のキーンは地面に銛を突き立てると
『ニーケの勝利の印において我に力を与えよ、力を与えよ、力を与えよ。霊験灼(アラ)たかなる魔銛(マテン)よ、我が眼前の怨敵を殲滅せよ』
滅多に喋らないキーンが何らかの術式を詠唱し、地面に突き立てられた銛に怪異が起きる。
「ふえぇっ!?」
「なっ!?」
突き立てられた銛から、全く同じ形状の銛が何本も地面を抉りながら、キーンを中心に渦を描くように現れる。
その数、二〇本……キーンが持つ銛も合わせれば、二一本の銛が彼女を取り囲んでいた。
「…………超攻性魔銛結界」
驚愕するフェランとコラムを置き去りにして、キーンは地面に突き立てていた銛を抜くとソレに釣られるように二〇本の銛が宙に浮かび上がる。
「…………行って」
キーンが手に持っていた銛を前方に突き出すと、浮かび上がった二〇本の銛は獲物を狙う鮫の如く猛烈な勢いで宙を駆ける。
二〇本の銛の内、一四本はT字状の通路の角を塞ぐように其々七本ずつ床へと突き刺さり、突き刺さる銛の刃に貫かれた増援の肉団子は爆発する。
されど、爆発に晒されても突き刺さった銛は揺るがず、傷一つ付かずに通路を塞いでいる。
残る六本の銛は、コラムの『障壁』とキーンの銛で閉じ込められた肉団子達を殲滅すべく、爆発を物ともせずに狭い通路を縦横無尽に駆け巡る。
そして、閉じ込められた肉団子の群は、瞬く間にキーンの銛で殲滅された。
「キーン……貴方、魔法が使えたのですか?」
キーンの意外な活躍で、肉団子の殲滅を終えた三人……困惑を隠せないコラムは、疲れた溜息を吐くキーンに尋ねた。
何故、等級的には未だ素人の域を出ない二人でも高位の魔法と分かる魔法が使えたのか?
因みに、フェランは魔法の使い過ぎで息を荒げながら、床に大の字で寝っ転がっている。
「…………」
ソレを聞かれたキーンは屈み、地面に指で文字を書き始める。
キーン曰く、あの魔法は彼の地底湖に出入りしていたシー・ビショップに教わった魔法だそうだ。
そのシー・ビショップは魔法使いの夫を持っており、件の魔法も元々は夫が教えた魔法で、魔法の資質が無いキーンでは使えないと彼女は断った。
だが、同胞を守る為にと言葉少なくも懇願したキーンの熱意に負けたシー・ビショップは、魔法の資質の無いキーンに四苦八苦しながら、この魔法を伝授したそうだ。
この魔法の名は『武装錬金(アムド・アルケミア)』……使い手の武器―キーンの場合、銛だ―を魔力で複製して自在に操作する、本来なら達人級にしか行使出来ない魔法である。
同時に使い手には複製した武器を複数同時に操る精神力と武術の腕を求められる為、この魔法を行使出来る者は非常に少ないのだ。
本来、魔法の資質の無いキーンが一握りの達人級にしか行使出来ない魔法を教わった結果、彼女は『武装錬金』以外の魔法が全く使えなくなったそうだ。
「そうでしたか……キーンの努力は、私も見習わないといけませんね」
「…………♪」
その努力に感心するコラムに、キーンは自慢するように胸を張る。
「それでは、行きましょう」
「…………」
コラムは疲労困憊のフェランを背中に乗せ、通路の奥にある鉄扉へと近付いた。
この向こうに、生存者が居る事を願いながら。
×××
「んなろぉぉぉぉっ!」
「うおぉぉぉぉぉっ!」
俺とボイドは逃げ回る肉団子の親玉に損傷を与えながら、懸命に追い掛けていた。
自爆肉団子を逆手にとったお陰で、見た感じでは結構損傷を与えてる。
腐りかけた肉団子っぽい赤茶色の身体は火傷痕と爆発で抉られた痕だらけ、逃げる速さも明らかに落ちてる。
この調子でいければ勝てると思いたいんだが、俺の勘が引っ切り無しに告げる。
コイツは何か隠してる、この状況を覆せる何かを隠してると。
「んん?」
「どうした、エヴァン殿?」
変な声を上げた俺にボイドは首を傾げるが、今の俺はソレを気にする余裕は無い。
俺は霊視(み)た……肉団子の親玉の魔力が、尻(?)へと急速に集まってる?
魔力の収束を感じた瞬間、尻(?)に穴が開き、その穴から炎のような魔力が漏れ始めた。
「何だ? あの肉団子め、何をするつもりだ?」
ボイドの疑問も尤も、傷だらけの身体で今更何をするつもりなんだ?
新手の攻撃かと警戒する俺とボイドは、尻(?)へ魔力を収束させた肉団子の親玉が力を溜めるように屈んだ後に信じられねぇモノを見た。
「え、ええぇぇぇ―――――っ!?」
「何じゃそりゃぁぁ――――っ!?」
ピョイ〜ンと間抜けな擬音が付きそうな跳躍を見せた肉団子の親玉の尻(?)から、膨大な魔力が噴出され、物凄い勢いで『飛んでった』。
一瞬で少し先の角に到達した肉団子の親玉、そのまま壁にぶつかると思ったら、自然法則を踏み倒して強引に曲がりやがった!
傍から見りゃ、何というか、屁で空を飛んでるように見えるな、アレは。
「……はっ! 速度を上げるぞ!」
「お、おうっ!」
い、いかん……あまりにもオモロイ上に、何とも間抜けな光景に呆然としちまった。
急いで追い掛けねぇとっ!
「がぁぁぁっ! やっと、追いついたぁっ!」
猛烈な速度でブッ飛んでった肉団子の親玉に俺とボイドは漸く追い付くが、正直に言えば何時引き離されてもおかしくねぇ。
ソレだけの速度で飛び、オマケに自然法則を踏み倒した出鱈目っぷりに俺達は翻弄される。
自爆肉団子を生み出す魔力を高速飛行に回してるからか、自爆肉団子を落っことさねぇが、その出鱈目っぷりには参るぜ、畜生!
「エヴァン殿! 此処は先回りせねば!」
「いや、無理っ!」
猛烈な風圧に黒眼鏡が吹っ飛ばねぇようにしつつ飛ぶ俺に、ボイドが先回りしようと提案するが、俺は即座に却下する。
先回りしようにも、あの速度じゃ先回りしても強引に突破される可能性がデカい。
「ならば、どうするっ!? このままではっ!」
「だぁぁぁっ、クソッタレェェェェッ!」
打つ手無しか、ド畜生っ! このままじゃ、また自爆肉団子を撒き散らされんぞっ!
「えっ?」
なんて思ったら、何か知らんが肉団子の親玉がコッチに向かってきた。
何て、幸運っ! ……って、ちょっと待てよ?
通路は俺とボイドが横に並ぶとギリギリな程に狭いし天井も低い、そんな通路の文字通りド真ん中を高速で飛ぶ肉団子の親玉と俺達。
その二つが導く結果は
「ぐ、がはぁっ!」
「ぐえぇっ!」
正面衝突だよな、やっぱりぃぃぃっ!?
気色悪いくれぇにブヨブヨなのが幸いなんだが、それでも猛烈な速度でぶち当たってきた肉団子の親玉に、俺とボイドは激痛に息を詰まらせる。
だけど、怪我の功名っ! コレで追い掛ける手間が省けたぜっ!
「怪我の功名、という、モノだな! 一気に、決着を、付けるぞっ!」
身体中を走る激痛でボイドの言葉は途切れ途切れだが、言われなくてもヤってやるさ!
折角、こうして取り付けたんだ、俺のトッテオキを……って、此処で放ったら不味いっ!
俺の直ぐ隣には肉団子の親玉へ我武者羅に爪を突き立てるボイドが居るし、この距離じゃ先ず確実にトッテオキにボイドを巻き込む。
「………………」
どうする? どうする? 俺はどうするべきだ?
どうやって、この肉団子の親玉だけに『星間駆ける皇帝の葬送曲』を放つ?
思い出せ、思い出せ、あの時の感覚を……キーンと出会った地底湖で、あの糞ガキだけに『星間駆ける皇帝の葬送曲』を放った時の感覚を!
「ど……た、エ…ァン…!? こ……機を…駄に……つも…か!?」
直ぐ近くのボイドの声が凄く遠くから聞こえる程に、俺は精神を集中させる。
『星間駆ける皇帝の葬送曲』は俺の声に膨大な魔力を籠めて放ち、その超振動で遍く万物を消滅させる禁断の魔法。
声とは空気の振動であり、『星間駆ける皇帝の葬送曲』は膨大な魔力で、発声に因る空気の振動を増幅させる。
即ち、『星間駆ける皇帝の葬送曲』は膨大な魔力の籠められた歌である。
魔力を籠めた、歌……?
そうか、あの魔物だ! あの魔物がやってる事を、再現すればいいんだ!
「すぅぅ―――っ、はぁぁ―――っ……」
俺は思い描く、あの魔物の姿を。
俺は再現する、あの魔物の歌を。
セイレーン……魔力を籠めた魔性の歌声で船乗り達を魅了し、番となった男に求愛の歌を歌い続ける、自然が生み出した歌姫。
尤も、この怪物の為に歌うのは求愛の歌じゃなくて、全てを葬る滅びの歌だけどなぁっ!
膨大な魔力を操作し、制御せよ。
無作為に放つな、声に籠める魔力を集中させろ。
そう、俺が歌う滅びの歌は、コイツを滅ぼす為だけに歌えっ!
『―――――――――――――――――――――』
一点に集中させた魔力、異界の歌声で奏でられる滅びの歌。
その歌声は不可視の突撃槍(ランス)と化し、肉団子の親玉を貫き、内側から消滅させる。
目に見えぬ程に細かな塵すら残さず、ブリチェスターを襲った怪物は消滅した。
「ふぅぅ……」
「エヴァン、殿? 先程のは一体……?」
微小な塵すら残さずに肉団子の親玉を消滅させ、床に座り込んだ俺に、ボイドはさっきのアレが何だったのかを聞いてきた。
あ、そう言えば、ボイドは知らないんだっけ?
俺は、ボイドにさっきのアレ……俺の必殺技である禁断の魔法、『星間駆ける皇帝の葬送曲』の事を説明する。
勿論、俺が禁断の魔法を行使出来る事を知ったボイドは、かなり驚いたが。
「驚いた、本当に驚いたぞ……まさか、お主がソレ程の魔法使いだとは」
「いやぁ、照れる」
―ドクンッ…
「な゛……」
あ、しまった……説教くらったばっかだってのに、また使っちまった。
強烈な魔力供給衝動が、さっきの肉団子の親玉よろしく、高速で俺の体内を駆け巡る。
あぁ、俺って、本当に、学習能力が、ねぇなぁ。
「どうした、エヴァンドノ? カオイロがスグれぬが……」
シンパイそうに、オレのカオをノゾキきコむボイド。
ホしい、ホしい、ホしい。
チジョウのオウジャたるボイドが、ホしくてホしくてタマらないホドにホしい。
×××
「エヴァン殿? 本当に、んむっ!?」
差し伸べられたボイドの手を掴み、引き寄せ、胸に抱き、間近に迫った唇を奪う。
柔らかい唇は味などしないにも関わらず甘美で、驚愕で固まっているボイドの閉じられた唇を抉じ開けて舌を潜り込ませる。
「んんっ、んむっ、ん゛ん゛ん゛ん゛ぅっ!?」
縮こまっていたボイドの舌を見つけたオレは、引き摺り出すように舌を絡ませ、困惑するボイドの口腔内を蹂躙する。
「んふっ、れるるっ…じゅるっ、んんっ……」
口腔内の蹂躙で魔物の本能が蠢き始めたのか、頬が紅く染まった昂揚した顔で、ボイドは自分から舌を絡ませてくる。
息苦しさも心地良く、美味なる料理を貪り喰らうように、オレとボイドはキスに没頭する。
「ん、ぷはぁっ……」
先に唇を離したのはボイド、その唇からはオレの唇と繋がる唾液の橋が架かっている。
「エヴァン、殿……」
情欲で燃え上がり興奮で潤んだ目をしたボイドは、一度オレから離れ、翼で自身の身体を包み込み、カキン…と鎧の止め具を外すような音がした。
ボイドが翼を広げると、其処には美しくも劣情を誘う裸体が……傷も染みも無き白い肌、大型の果実を思わせる豊満な胸、既に洪水の如く愛液を滴らせる秘所が晒された。
「拙者の、裸体は……興奮する代物か?」
勿論、興奮するに決まっている。
そう答えると、ボイドは歓喜と妖艶さが混じった笑みを浮かべ、床に座ったままのオレのズボンの前を凶器に等しい爪で器用に開け、既に滾っているオレのモノを外に晒す。
外に晒されたオレのモノに跨るように、ボイドはゆっくりと腰を落としていく。
「ん、んくっ、あぁっ……」
ボイドの秘所に、熱く滾るオレのモノが飲み込まれ……いや、オレのモノが侵入していく、の方が正しいか?
秘所の中程まで侵入したオレのモノから肉を引き裂くような感覚が伝わり、ボイドの純潔を頂いた興奮がオレの背中を駆け上る。
「エヴァン殿、お主は真に強き雄だ……拙者の純潔を、捧げるに相応しい雄だ」
純潔が散った鈍痛に涙しながらボイドがオレを強い雄だと耳元で囁き、その言葉にオレは腰を突き上げる事で答える。
無論、渇きと欲望を満たす為に、手加減はしない。
「んあっ、あふっ、んんっ❤ エヴァン殿っ、いきなりっ、ああっ、激しくっ、ふぁっ、なんてっ❤ 未通女(オボコ)のっ、拙者にはっ、んふっ、あんっ、厳しいぞっ❤」
先程まで処女だったボイドはオレの激しい突き上げに悶え、しがみつくように腕を首へ、足を腰へ回してボイドは拘束して翼で包み込む。
「んくっ、ふぅっ、あぁっ❤ エヴァン殿のっ、逸物がっ、んぁっ、拙者のっ、奥にっ、ん、んふぅっ、当たってっ、おるぅっ❤」
コツコツと秘所の最奥を叩かれるボイドは快感で尻尾を揺らし、耐えるようにオレの肩を長外套越しに甘噛みしてくる。
鋼鉄をも引き裂く爪はオレの背中を―オレを引き裂かぬように、手加減されてはいるが―ガリガリと引っ掻いている。
甘噛みと引っ掻きは少々痛いが止めろと言う程でも無く、こうしないと快感に流されると解釈したオレは、嗜虐心の昂りを感じ取った。
「ん、あぁ? エヴァン殿、どうしひゃぁぁっ!」
急に動きが止まったオレに首を傾げるボイドだが、オレが背中を軽く撫でると、ボイドが驚愕混じりの甘い声を上げつつ仰け反った。
ほほぉ、此処が弱いのか……弱点を探るつもりで手近な背中を選んだだけだが、いきなり当たりを引いたか。
ボイドの弱点を見つけたオレは、昂る嗜虐心のままに背中を撫で回し、弱点を責められるボイドの反応を楽しむ事にする。
「駄目っ、駄目だっ❤ 拙者は、んんっ、背中がっ、ふぁっ、弱いのだぁっ❤」
弱点の弱点を撫で回されるボイドは、背中を撫で回す手から逃れるようにオレの上で悶え、甘い声を上げ続ける。
撫で回す度にボイドの秘所はオレのモノを締め付け、尻尾は忙しなく揺れ動く。
「んひゃっ、ん、んあぁっ❤ 駄目ぇっ、駄目だっ、ふあぁっ、くひゅぅっ、エヴァン殿っ、背中をっ、あふぁっ、撫でながらはっ、駄目だぁっ❤」
昂る嗜虐心のままに、オレは背中を撫でながら再び腰を動かし始め、ボイドを悶えさせる。
弱点の背中を撫でられ、秘所から快感が齎されるボイドは、堪えきれないように爪でオレの背中を引っ掻くが、その力も弱々しく、痛いというよりは最早擽ったい。
『地上の王者』と称されるドラゴンの悶える姿というのは、何とも嗜虐心を煽る光景だ。
「んひぃっ、ん、んんっ、くはぁっ❤ だからっ、撫でながらはっ、駄目だとっ、はひっ、んふぁっ、言ってっ、おるだろうっ❤」
密着する程に抱きしめられている為、ボイドの顔は分からない。
だが、甘い声から判断するに、王者の誇りを捨て去った雌の顔になっているだろうな。
背中を撫でる手を休めずにボイドの秘所の最奥をモノで叩き続け、オレはキツい締め付けを堪能する。
「ふぁっ、はぁっ、頼むからっ、んふっ、んんぅっ❤ あひぃっ、背中をっ、んふっ、撫でないでっ、あぅんっ、くれぇっ❤」
反響するボイドの声と淫靡な水音も、オレの興奮を存分に煽ってくれる。
興奮は際限無く昂り続け、昂り続ける興奮は嗜虐心へと変換され、オレの責めは激しく、いやらしくなっていく。
「もうっ、んひぃっ、くあぁっ、限界だぁっ❤ もうっ、んあぁっ、はひゅぅっ、拙者はぁっ、んはぁっ、耐えられぬぅっ❤」
切羽詰まった甘い声を上げるボイドの秘所は、オレのモノが食い千切られるのではないかと錯覚する程にキツく締め付けてくる。
その締め付けを感じながら、オレは腰を突き上げる速度を上げ、鋭く、激しく、ボイドの秘所の最奥を叩き続ける。
尻尾も快感に悶えるかの如く激しく揺れ動き、ボイドも息が絶え絶えになっている。
「んくっ、んんぅっ、ふあぁっ、ああぁぁ―――――っ❤」
一際高い声を上げたボイドの秘所が急激に強く締め付け、オレのモノが最奥を叩いた瞬間、ボイドは絶頂を迎える。
ボイドを絶頂を迎えると同時に、オレのモノは最奥目掛けて精液を放ち、ボイドは自分の物なのだと主張するように秘所の中を染め上げていく。
ドクドクと注がれる精液は秘所を埋め尽くし、収まりきれなかった精液が逆流して結合部から零れていく。
「ん、はぁぁぁ……拙者の中に、エヴァン殿の子種が溢れて、おる……」
身体の内側から焦がす熱に、恍惚の声を漏らすボイド。
オレはボイドの秘所からモノを抜き、尻が此方に向くようにして、四つん這いにさせる。
「はぁぁ……まだ、するのか?」
何を言っている? 当然、まだ続けるに決まっているだろう。
オレの衝動は一度の交わりでは治まらない、満たされない。
満たされるまで、ずっと続けるだけだ……
×××
「ふふっ……エヴァン殿は、魔法も交わりも強いのだな」
そう言いながら、素っ裸のままのボイドが俺の背中に胸を押し付けながら抱きしめてきて、胸の感触を感じながら俺は自分の中をジッと見据える。
コレで何人目だ? ボイドで五人目か?
俺の魔力はフェラン、コラム、ローラさん、キーン、ボイドの魔力と混ざり合い、何とも言葉にし辛い混沌とした魔力になっている。
敢えて言葉にすんなら、冒涜的なまでに形容し難い極彩色と言うべきか。
「エヴァン殿は拙者の『宝』、生涯を賭けてでも守り抜く大事な『宝』だ……」
そりゃ嬉しいが、何か複雑……男を『宝』と呼ぶのは、貴金属等を蒐集するドラゴン達の最大の褒め言葉であり、二度と手放さないという宣言でもある。
俺も男だしさ、こんな美女が俺を手放さないって言ってくれるのは嬉しいが、強姦紛いの交わりの後で言われると、無理矢理言わせた感がして複雑だ。
《此方、コラム。エヴァンさん、聞こえますか?》
「んぉ? コラムか……何か、あったのか?」
嬉しそうに抱きしめてくるボイドの為すがままにされてると、通信球からコラムの声が響く。
《えぇ、生存者の保護に成功しました。エヴァンさんの推測通り、生存者は女王の部屋に集まっていました》
「っ! ソレは本当か!」
通信球から響く声にボイドが驚き混じりで反応し、ボイドの声に微笑んだっぽいコラムは向こうの状況を伝えてくる。
曰く、女王の点呼から判断するに犠牲者は全体の二割程……つまり、このブリチェスターのジャイアントアントの殆どが生き残っていたそうだ。
犠牲は当時食料保存室の番をしていた者と防衛班の者だけで済み、女王が予め有事の際の避難訓練を度々行っていたのが幸いだった。
勿論、避難完了まで時間を稼いでくれたボイドと防衛班の活躍もあってだが。
《……なので、女王が謝礼を言いたいそうですので、早く此方に来てくださいね》
その言葉を最後に通信が途絶え、俺とボイドは顔を見合せて微笑んだ。
良かったな、なんて言葉は出さない……何か、野暮に聞こえるしさ。
「んじゃ、行くか」
「あぁ……アセナスに、大事な報告もしなくてはな」
アセナスってのは、此処の女王の名前だろうな……俺とボイドは立ち上がり、フェラン達の居る女王の部屋に向かう。
と、その前に。
「なぁ、ボイド……」
「ん?」
「鱗、着けてくれ。素っ裸は不味いから」
×××
「オリバー様、『GE‐04』に関する報告があります」
エヴァンとボイドが、ブリチェスターを統べる女王の元に向かおうとしていた頃。
とある教団の基地にて、人形じみた表情の騎士が司令官の部屋に入室していた。
「あぁん? 何だよ、コッチは忙しいんだよっ!」
部屋の中に居るのは、以前受けた傷の治癒に専念していたオリバー・ウェイトリィであり、苛立ちと激痛で悪鬼じみた表情を浮かべながら、入ってきた騎士を睨みつけた。
見ただけでも狂死しそうな程に兇悪な表情だが、騎士はソレに臆さず淡々と報告する。
「あ゛ぁっ? 『GE‐04』が、どうかしたのかよぉ?」
「はい、先程『GE‐04』の反応消失を確認しました」
「はぁっ!? オイオイ、『GE‐04』は九時間前に運用開始したばっかだろうがっ! 何で、んな早く反応が消えるんだよ!」
騎士が齎した報告―『GE‐04』の反応消失―に、オリバーは頭に血が一気に昇るのを感じ取り、憤慨するオリバーに騎士は先程と変わらずに淡々と告げる。
「はい、九時間前に起動させた『GE‐04』ですが……誤算が生じました」
騎士の言う誤算とは何か? オリバーは治癒魔法を行使しながら、ソレを静かに聞く事にした。
「一つ目の誤算、『GE‐04』を設置したジャイアントアントの巣に、ドラゴンが生息していました」
「はぁっ? ドラゴン? ジャイアントアントの巣穴にか?」
騎士の報告に、オリバーは素っ頓狂な声を上げる事しか出来なかった。
ジャイアントアントと酷似した姿を持つアラクネ種の魔物・アントアラクネなら、巣穴に紛れ込んでいても納得出来る。
だが、『地上の王者』と称されるドラゴンが、ジャイアントアントの巣穴に紛れ込んでいたというのは流石のオリバーでも驚くしかない。
「はい、『GE‐04』と感覚共有で視覚を共有していた魔法使いからの報告ですので、信用に足る情報だと思います」
淡々と報告する騎士は当基地でも最古参の者であり、嘘や冗談を吐くような者ではない事をオリバーは知っている。
故に、その内容はある意味ではオリバーの想像を凌駕していた。
「二つ目の誤算、件の魔法使い……エヴァン・シャルズヴェニィが介入してきました」
「だぁぁっ、クソッタレェェッ! また、あんの真似野郎か!」
最初の報告で間抜けな顔をしていたオリバーだが、騎士の次の報告で再び悪鬼じみた兇悪な表情を浮かべる。
どうやって『GE‐04』を知ったのかは分からないが、またしてもエヴァンに切り札を破壊された事にオリバーは憤怒を隠せない。
「本当にクソッタレだよなぁっ、エヴァン・シャルズヴェニィッ! コレで四体目だっ! 僕達の切り札のGEを何体ぶっ壊せば気が済むんだよ、エェッ!?」
地底湖で受けた傷がなければ、オリバーは直ぐにでもエヴァンを殺しに行くであろう。
それ程までに、オリバーのエヴァンに対する憎悪は膨れ上がっていた。
「おいっ、エイモスッ! 『GE‐02』を起動させろっ! 今直ぐにだっ!」
「了解しました、直ぐに『GE‐02』の起動準備に取りかかります」
エイモスと呼ばれた騎士は踵を返してオリバーの部屋を去り、部屋には主であるオリバーのみが残された。
「クソッタレ、クソッタレ、クソッタレェェ……今度こそ、今度こそは邪魔させねぇぞ、エヴァン・シャルズヴェニィ……」
溢れる憎悪を隠さずにオリバーは呟き、傷の治癒を再開させる。
何時の日か、エヴァン・シャルズヴェニィと彼の妻である魔物を殺す事を夢見ながら……
Report.04 俺と竜と肉団子 Closed
12/10/13 05:34更新 / 斬魔大聖
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