連載小説
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ExtraReport.02 俺と教団と過去の怨念
〜交易都市・セレファイス〜
「……………………」
「あ、エヴァン居たのさ。エヴァン、ダーリンが呼んでるのさ……って、聞いてる?」
「……………………」
「エヴァン、エヴァーン、エ〜ヴァ〜ンッ! ……むぅ、全然聞こえてないみたいなのさ」
「……………………」
「う〜ん……せりゃぁっ! なのさ」
―ガインッ!
「いってぇぇぇぇ―――――っ!?」
俺、エヴァン・シャルズヴェニィは、ゲイリーの医療所の裏庭の一角にてジパング伝来の精神集中方法・『ザゼン』をしてたら、思いっきり頭をぶん殴られた。
畜生っ! 誰だ、ザゼンの邪魔した奴は!
ぶん殴られた部分を擦りながら俺が背後に振り返ると、其処には古ぼけたスコップを肩に預け、清潔さに溢れる桃色の看護服を着たジャイアントアントが一人。

「エルザじゃねぇか……何だよ、何か用でもあんのか?」
「用ならあるのさ。ダーリンが、エヴァンを呼んでたのさ」
俺をぶん殴ったジャイアントアントの名はエルザ、一ヶ月前から此処に居候して……いや、居候じゃなかったな、ゲイリーの『押し掛け女房』だ。
一ヶ月と一週間前、俺達はボイドの友人であるジャイアントアント達の救出に向かった。
救出は見事成功……出不精のゲイリーを強引に引っ張ってきて、一週間程ブリチェスター復興に従事したんだ。

その時、ゲイリーの何処に惹かれたのか、ゲイリーにエルザが一目惚れして、帰る前日の夜に夜這いで既成事実を作ったエルザはそのまま付いてきたのだ。
あの時は本気で勘弁してほしかったな……何が悲しゅうて、「おふぅ」とか「あひぃ」とか、男の喘ぎ声を聞かにゃならんのだ。
因みに、その時同室に居た俺はゲイリーとエルザの喘ぎ声でバッチリ眠れず、寝たふりで何とか切り抜けた。
兎に角、既成事実を作られた以上、無碍にする事も出来ず、看護婦として手伝う事を条件にエルザを迎え入れたという訳だ。

「若しかして、頼んでたアレか?」
ゲイリーが呼んでたって事は、ブリチェスターに行く前に頼んでた事絡みか?
「頼んでたアレが何かは知らないけど、全然違うのさ。エヴァンにお客さんが来てるのさ」
「俺に客? その客って、エキドナだったか?」
「うぅん、エキドナも居たけど男の人も居たなのさ」
うぅん……エキドナの客ならローラさんだろうけど、男の方が見当付かん。
まぁ、此処でウンウン唸っても仕方ないし、さっさと会いに行くとすっか。

「「「「「…………」」」」」
「失礼しましたぁぁっ!」
ゲイリーの医療所の待合室に着いた俺は、即座に回れ右して逃げようとした。
だって、待合室の空気がめっさ冷たいんだもん! 俺、裏庭で大人しくザゼンしてる!
「やぁ、君がエヴァン・シャルズヴェニィ君だね」
逃げようとした俺を引き留めたのは、力強さと優しさに溢れた低い声。
その声に引き留められた俺は声の主が誰なのかと振り返ると、其処には純白の甲冑に身を包んだ壮年の男が居た。
「初めまして、になるかな? 私はスティーリィ・ゴールディ……『教団』の騎士だ」

×××

「…………」
あぁ、待合室の空気がかなり冷たいのも理解出来たぜ。
俺達、親魔物派と魔物にとって最悪な敵が、一人でノコノコと来たんだからな。
因みに俺を除いて待合室に居るのは、フェラン、コラム、ローラさん、キーン、ボイド、ゲイリー、それとスティーリィと名乗った教団の騎士。
フランシス様は所用で出かけてるから、今は医療所にいない。
「そんなに、睨まないでくれたまえ。私は君達と争いにきた訳じゃないんだ」
信用出来るか、んな言葉……俺はスティーリィを睨みつつ、魔力探知で周囲を探る。
「言っておくが、本当に私一人だよ。あと、私はゲイリーの友人だ」
げ、ゲイリーの友人だって!?
スティーリィの言葉に俺達は一斉にゲイリーへ視線を向ける……ゲイリー、お前、教団の関係者だったのかよ!?
「ふむ、円滑に物事を進める為にもウォー……ゲフンッ、スティーリィと我輩の関係から話さねばならんのであ〜るな」
冷たい視線も何のその、ゲイリーは何時もの調子でスティーリィとの関係を話し出した。

「我輩とスティーリィが知り合った切欠は、五年前に我輩が発表した論文なのである」
曰く、『医学的方法による死者の蘇生』の研究が父さんの鉄拳制裁で中断されたゲイリーは、今度はコレからの社会についての考察を始めた。
あぁ、そう言えば、何となく憶えてるぞ……父さんの書斎から何冊も本を引っ張り出したり、当時一一歳とは思えねぇ行動力で何処かに遠出してたりしてたっけ。
その考察を纏めた論文の題名は『魔物と人間の関係の変化に伴う社会の変容』で、内容はコレから魔物が増え続けた場合この世界はどうなるのか、だっけ。
内容を簡潔にまとめると、近い将来―早くて約二〇〇年後―、女性が全て魔物に変化して人間が絶滅する代わりに、魔物夫婦の間にも男が産まれるようになるとか。

「一〇代の下らない妄想と笑われてしまった我輩の論文であったが、この論文を真面目に捉えてくれたのがスティーリィなのであ〜る」
四年も掛けてまとめた論文を笑われたゲイリーは、笑った連中を見返してやろうと医学の勉強の合間を縫って、古今東西の文献を―俺を使って、だが―集め続けた。
その途中で、ゲイリーはスティーリィと知り合ったそうだ。
当然、最初は教団の騎士であるスティーリィを警戒してたそうだが、
『私事にまで立場を持ち込む程、私は仕事中毒者ではないさ』
という教団らしからぬ言葉で、ゲイリーはスティーリィと立場を越えた友人となった。

「ゲイリーの論文を読んだ私は、彼の論文が正しいかどうかを見極める為、単身『王魔界』に乗り込み、魔王と謁見したんだ」
スティーリィの発言に、俺達は驚きを隠せなかった。
『王魔界』は魔物を統べる魔王の直轄地で、数ある魔界の中でも最大規模の魔界であり、人間のまま帰ってくる事は不可能と言われてる場所だ。
勿論、それなりに対策はした、とスティーリィは言うが、正直信じられねぇぞ。
「結論から言えば、ゲイリーの論文は正しかったよ……彼の魔王の目的は、人間と魔物を一つの種族に統合する事だ」
種族統合……つまり、人間と魔物を『人類』としてまとめちまおうという事か。
んで、その野望達成の暁には、魔物夫婦の間にも男が産まれるようになるって訳か。
凄いぜゲイリー、お前の考察通りじゃねぇか。

「彼の論文の正しさが実証された以上、近い将来、我々教団は役目を終えるだろう。故に、私と私が率いる部隊は『魔物との和平』を開始したんだ」
その言葉は、『王魔界』に単身乗り込んだ事以上の衝撃を俺達に与えた。
だって、当然だろ! あの教団が『魔物と和解する』って言ったんだぞ!
「そもそも、我々が魔物を敵視するのは、魔物が神の教えに反する存在であるのと同時に、人間の絶滅を危惧しての事だ」
魔物夫婦の間には魔物しか産まれない以上、この状況が続けば何れ人類は滅んでしまう。
故に、教団は魔物の討伐を積極的に行っていたが、ソレをゲイリーの論文が見事に覆した。
何れは魔物夫婦の間に男が産まれるようになる以上、絶滅を危惧する必要も無くなる。
だから、スティーリィと、その配下は極秘裏に魔物との和平を進めていたそうだ。

「だが、スティーリィよ……汝の言葉が真実であるなら、最近の教団の活動はどうなる? 汝の行っている活動とは無縁ではないか」
その言葉にローラさんが疑問をぶつけるが、ローラさんの疑問も尤もだ。
教団が魔物と和解する為に活動してるなら、何で問答無用の過激な活動をしてるんだ?
ローラさんに疑問をぶつけられたスティーリィは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「あぁ、正直に言おう……今の教団は、オリバー・ウェイトリィの傀儡だ」

×××

「オリバー、ウェイトリィの?」
オイオイ、何で其処で糞ガキの名が出てくるんだよ……アイツ、本当に教団だったのかよ。
「オリバー・ウェイトリィ……確か、旧世代末期に現れた最凶最悪の魔法使いだな」
「えっ……ローラさん、あの糞ガキの事を知ってるのか!?」
あの糞ガキを知ってるらしいローラさんに、俺はオリバー・ウェイトリィが何者なのかを聞いたら、トンデモナイ答えが返ってきた。

ローラさん曰く、オリバー・ウェイトリィは三〇〇年前……魔王が代替わりする三〇年前に突如現れた魔法使いだそうだ。
残虐非道を体現したオリバー・ウェイトリィは、魔物は勿論の事、今で言えば親魔物派の人間も『魔物』と見做して問答無用の殺戮を繰り広げていた。
その暴虐っぷりに争っていた魔物も人間も脅威を感じて結託、オリバー・ウェイトリィの討伐に乗り出したらしいが、討伐軍結成直後に現れた時と同様に突如失踪した。
オリバー・ウェイトリィが問答無用の殺戮を行っていたのは僅か一〇年だが、その一〇年で数百万という犠牲者が出たそうだ。
而も、俺の『星間駆ける皇帝の葬送曲』はオリバー・ウェイトリィが編み出した魔法で、あの糞ガキは他にも窮極的破壊力を秘めた魔法を失踪直前に幾つも編み出したらしい。

「全ては我の母から聞いた事である故、多少は異なるかもしれぬがな……」
そう締め括ったローラさんだが、俺達は絶句するしかなかった。
何で、何でだよ……何で、三〇〇年前の怨霊が、今更化けて出てくるんだよ!
「オリバー・ウェイトリィが教団に入団したのは、今から八年前の事だ」
重苦しい沈黙の最中、スティーリィは言葉の所々に怒りを滲ませながら語り出した。

「入団当初は単なる魔物嫌いの人間だと私は判断していたが、その判断は間違っていた」
スティーリィ曰く、教団に入団したオリバー・ウェイトリィは、入団直後に教団のとある一派と接触したそうだ。
『人類の護符(ウマノ・タリズマ)』……名前は実に壮大なんだが、実際はどうすれば魔物を一体も残さず殲滅出来るかを妄想するだけの、総団員数の一割にも満たない極少数の一派。
その妄想を実現させたのが、オリバー・ウェイトリィだった。
『人類の護符』に接触したオリバー・ウェイトリィは幻惑魔法を応用して構成員を洗脳、洗脳した団員の人脈を悪用して勢力を増やしていった。
最悪なのは『人類の護符』に教団でも高位の幹部が居た事で、その幹部の部下や友人をも洗脳して配下に加えた。

勢力の拡大と並行して、オリバー・ウェイトリィは対魔物用の生物兵器の開発にも着手。
禁忌の魔法・『生命創造(ゲネシス・ラーフィ)』を用いて旧世代に絶滅した魔物を復活させたり、旧世代の神話に登場した神格の名を冠した人造魔物を生み出した。
三〇〇年前の怨霊が創造した生物兵器、名は『魔物娘捕食者(ガール・イーター)』……魔物を害する為だけに、頭の螺子がぶっ壊れた造物主が生んだ、憐れな怪物達。
「君達が、以前遭遇した怪物……アレがオリバー・ウェイトリィ率いる『人類の護符』の切り札、『魔物娘捕食者』だ」
「あの怪物共が……」
遺跡の包帯、獣の吼える森の蚯蚓、地底湖の蛙、ブリチェスターの肉団子。
あの怪物共、全員があの糞ガキに生み出された怪物、だと……

「入団から三年……丁度、私がゲイリーの論文を基に和平交渉を開始するのと同時期に、オリバー・ウェイトリィは密かに研ぎ続けた牙を向けた」
スティーリィの和平交渉と同時に、オリバー・ウェイトリィは魔物の殲滅を開始。
オリバー・ウェイトリィ率いる『人類の護符』の凶行に和平を望むスティーリィと、その配下―便宜上、『和平派』としよう―達は勿論反発したが、時既に遅し。
教団の九割が既に『人類の護符』に飲み込まれ、『和平派』は活動開始と同時に活動停止を余儀無くされた。
現在、『和平派』は地下に潜伏し、『人類の護符』の凶行に因る犠牲者を少しでも減らす為に活動しているそうだ。

×××

「そんな実情があったのか……」
スティーリィから語られた教団の実情に、俺達は言葉を失った。
俺達の嫌っていた教団が、実は過去の怨霊の操り人形になっている。
スティーリィの語った実情が嘘とは思えない……俺は盲目の代償に魔法的感覚が鋭敏になってて、魔力の色で感情を読み取る事が出来る。
嘘を吐いた者の魔力は、嘘を吐いた罪悪感で魔力の色が黒くなるんだが、スティーリィの魔力の色は憤怒の深紅に染まっている。
息をするかの如く嘘を吐く者は兎も角として、魔力の色に因る真偽の判断はほぼ正確であり、スティーリィが嘘を吐いてない事は明白だ。

「エヴァン君、君の事はゲイリーから聞いている。今日、此処に来たのはコレを渡す為だ」
そう言いながら、スティーリィは足元に置いてあった鞄の中から書類の束を取り出した。
書類の束の一番上の紙には、『魔物娘捕食者・簡易報告書』と書かれて……って、えぇっ!?
「私の部下達が、決死の覚悟で入手した報告書だ……大事にしてくれ」
スティーリィの悲しそうな表情を余所に俺は手渡された書類を捲り、フェラン達も横から書類を覗いてくる。

「コレは、あの時の……!」
コラムの驚きの声は当然、最初の一枚目に記されていたのは、獣の吼える森の蚯蚓だった。

GE‐01:識別名ズアウィア
飲み込んだモノを溶解させる粘液で構築された肉体を持つ旧世代の魔物・ズアウィアをそのまま転用したGE。
オリバー様曰く、支配下に置く為の処置以外は原種のままだが、処置を施した時は幼体で、オリバー様が洗脳した獣の吼える森のオーク達に成長させる事にした。
追記
ズアウィアは旧世代の魔物の中でも最上位に位置する魔物であり、魔力保有量だけなら当時の魔王にも匹敵し、その強大な力から獣人型魔物に神格として崇拝・信仰されていた。
尚、転用されたズアウィア以外の個体は、オリバー様が絶滅させた

二枚目に記されてたのは、毛むくじゃらの気色悪い巨人。

GE‐02:識別名ガグ
洞窟や迷宮に生息していた旧世代の亜人型魔物・ガグを基に開発したGE。
胃を中心とした消化器官内に臓器を模した無数の寄生蟲型人造魔物の卵を内包し、状況に応じて孵化させ、体外に放出する事で大量殺戮を可能にした。
また、孵化させた人造魔物を体内に収容・分解し、卵の状態に戻す事も可能である。
追記
前述通り、ガグは洞窟や迷宮に生息していた魔物で腕力に優れているが、知能は極めて低く、太陽光に弱いという弱点を持っていた。
洞窟や迷宮に生息していたドラゴンやエキドナを始めとする最上位の魔物との生存競争に敗れ、絶滅した

三枚目……コレは、生物なのか? 何かデカい火の玉が記されてた。

GE‐03:識別名クトゥグア
超広域殲滅を目的に開発された、使い捨て前提の量産型GE。
膨大な熱量を持つ魔力塊を生成後、疑似生命を付与、親魔物派に特攻・爆発させる。
計算上、中規模の親魔物国家なら壊滅させる破壊力を持つ事が判明したが、GE‐03の基となる魔力塊の生成が難航し、一体あたりの生産費用も高額となる為、開発中止。
追記
クトゥグアとは旧世代の神話に登場する炎の神格で、バフォメットのような角を生やし、全身から白い炎を噴き出す四足獣の姿で描かれている

「あの肉団子、神格として崇拝されていたとは……」
四枚目に記されてたのは記憶にも新しい、ボイドの居たブリチェスターに現れた肉団子。

GE‐04:識別名アイホート
屋内に逃げ込んだ魔物の殲滅を目的に開発したGE。
半自律行動型生物爆弾・識別名『アイホートの雛』を散布しながら、配置された屋内を徘徊し、目標達成後証拠隠滅の為に本体も自爆するようにした。
緊急時には、臀部から魔力を噴出させての高速移動も可能である。
追記
アイホートとはズアウィアと同様に、迷宮を守る神格として崇拝・信仰されていた魔物だが、力量的には中堅程度かつ知能は低く、迷宮に生息する魔物との生存競争に敗れて絶滅した

「…………!」
五枚目を見た瞬間、キーンの顔が険しくなる……五枚目には、地底湖の蛙が記されてた。

GE‐05及び06:識別名05=ダゴン 06=ハイドラ
生産費用の低減化を前提に開発した量産型GE。
旧世代の魔女が使い魔として使役する事の多い蟇蛙を巨大化させ、戦闘力向上の小改造を加えるだけに留める事で、生産費用の低減化に成功した
尚、差別化を図る為、05には先端が枝分かれした触角を、06には先端に人間の男性を模した疑似餌が付いた触角を加えた。
追記
ダゴンとハイドラは旧世代の神話にも描かれた実在の魔物であり、現在のポセイドンと並ぶ程に漁師や海棲の魔物から崇拝・信仰されていた。
共食いも辞さない貪欲かつ旺盛な食欲を持っており、その食欲の所為で自業自得に近い形で絶滅した

六枚目に記されてたのは、三枚目の奴に近い氷の塊。

GE‐07:識別名イタクァ
超広域殲滅を目的に開発された、使い捨て前提の量産型GE。
絶対零度の魔力塊を生成後、疑似生命を付与、親魔物派に特攻させる。
計算上、中規模の親魔物国家なら壊滅させる破壊力を持つ事が判明したが、GE‐03と同様に魔力塊の生成が難航、一体あたりの生産費用も高額となる為、開発中止。
追記
イタクァとは旧世代の神話に登場する氷の神格で、神話では四肢が異常に細い巨人か、氷の身体を持つ旧世代のドラゴンの姿で描かれている

「あっ! コイツ、アタシが生まれた遺跡に居た奴だ!」
最後の七枚目にはフェランが言ったように、あの包帯が記されてた。

GE‐08:識別名真理の糸
GE‐05及び06同様に、生産費用低減化を目的に開発されたGE。
08は包帯に疑似生命と再生力を付与し、魔物の死体を依代にする事で生産費用低減化を図る事にした。
乾燥によって非常に脆い死体の骨格の代替を果たせるように強度を向上させ、緊急時は集合して巨人形態を取る事で戦闘力の低下を免れるようにする。
追記
真理の糸はオリバー様独自に生み出した人造魔物で、識別名の由来は魔物が滅びる事が真理であるという事を証明する為だそうだ

「本当に、糞ガキだな……オリバー・ウェイトリィ」
胸糞悪くなる内容の書類を読み終えた俺は沸き立つ憤怒のままに呟き、俺の呟きにフェラン達は同意するように頷く。
オリバー・ウェイトリィ、テメェはさぁ……どんだけ魔物が憎いんだよ! こんな怪物を生み出してまで、魔物を滅ぼしたいのかよ、テメェはよぉ!
「オリバー・ウェイトリィの魔物への憎悪は、計り知れない。なにせ、『産まれたばかりの赤ん坊すら躊躇無く殺す』程だからな」
スティーリィの言葉に、俺達は三年前の事件を思い出した。

『鮮血の新年(ブラッディ・ニューイヤー)』……教団の悪名を一気に広めさせ、親魔物派と魔物を震撼させた惨劇。
新魔王歴二六七年 甲冑月(一月)ノ一日、総人口二万五千人程の親魔物派領・ムナールを降服勧告無しに強襲した教団は、僅か一晩でムナールを制圧。
『王魔界』から派遣された魔王軍はムナールの惨状に、熟練の猛者も思わずゲロを吐いたというのは悪い意味で有名だ。
なにせ、『屍山血河すら生温い、寧ろかなり控えめな表現だと言いたくなる程に、老若男女分け隔てなく、筆舌にし難い惨たらしい死体にされていた』からだ。
極めつけがムナール領主親子の死体で、領主の館を訪れた魔王軍は領主の寝室で領主親子の死体を発見したんだが、ソレが『死体』と呼べるのかは甚だ疑問だ。
何故なら、領主親子の死体は『角砂糖程度の大きさの真っ赤な立方体』にされてたからだ。
調べるまで死体だと分からず、魔法で検死してみたら、三つの立方体の内の一つは『生後二ヵ月の赤ん坊』だというのが判明した。
『あの惨劇は後世まで語り継がれる、教団の悪行だ』……当時派遣された魔王軍の隊長の言葉である。

「『鮮血の新年』……GE‐03の開発が頓挫した事に苛立ったオリバー・ウェイトリィが、単なる八つ当たりで引き起こした惨劇であり、奴だけであの惨劇を引き起こしたんだ」
二万五千人程の都市を、一人で制圧した?
而も、その理由が『GE‐03開発に失敗した八つ当たり』?
そんな下らな過ぎる理由で二万五千人の命を惨たらしく奪った、だと!
ギリ…と歯軋りする俺の心は、苛烈な憤怒で轟々と燃え盛ってる。
多分、この場に居る全員が俺と同じ感情を抱いてるだろう……ボイドなんか、口から蒼い炎が漏れてるし。

「コレは此処に来る途中で入手した情報だが、『人類の護符』は『ネフレン=カの墓所』にGEを投入するそうだ」
「『ネフレン=カの墓所』だと!? 彼奴等め、永久中立領を攻撃するつもりか!」
スティーリィの情報にローラさんは驚き、俺達も身体を強張らせた。
『ネフレン=カの墓所』は大陸北西部にある国家並に巨大墓地だ。
身寄りのいないモノや、不幸な死に方をしたモノ達を分け隔てなく受け入れる死者の楽園であり、幸福な二度目の生を授かった屍人(アンデッド)型の魔物達の楽園でもある。
此処への攻撃は人道的倫理に反するからか、流石の教団もネフレン=カの墓所を守護する墓守一族と不可侵条約を結んだ、大陸でも数少ない永久中立領でもある。
其処を攻撃するなんて……あの糞ガキ、何処まで頭の螺子がブッ飛んでやがる!

「皆、直ぐに行くぞ!」
また、何の罪も無い魔物が殺される……んな事を放っておける程、俺は冷血漢じゃねぇ。
俺の号令に、セレファイスを離れられないローラさん―あと、戦えないゲイリーとエルザ―を除く全員が頷いて答えてくれる。
ゲイリーの医療所を飛び出した俺は即座に黒球を生成、フェラン、コラム、キーンの三人が黒球に乗り込んだのを確認してから飛び立とうとすると
「エヴァンッ!」
ローラさんが俺を呼んだ。

「ローラさん?」
呼び止められた俺は黒球の上からローラさんを見下ろすと、ローラさんは
「生きて、帰ってくるのだぞ……我と、汝の子の為にも……」
膨らんだお腹を撫でながら、慈愛に溢れた優しい表情で俺を見上げていた。
そういや、そうだった……ローラさんのお腹には、俺の子供が居るんだった。
ははっ、だったら尚更だ。
無辜の魔物達の為にも、ローラさんと俺の子供の為にも、コイツは負けられねぇ!

「ローラさん、約束する……生きて帰ってくる、必ずだ!」
俺は親指を立ててから黒球を飛翔させると、ボイドは既に上空で俺を待っていた。
俺とボイドは無言で頷き合い、ネフレン=カの墓所を目指して空を駆ける。
セレファイスからネフレン=カの墓所までは馬車だと早くても二ヶ月は掛かる道程だが、最高速度で空を飛べば大体半日で到着する、と思う。
なにせ、其処まで飛んだ事が無いし、間に合うかなぁ……いや、違う、間に合わせるんだ!

「さぁ、行くぜぇぇぇぇぇぇっ!」
目指すはネフレン=カの墓所! 最高速度でかっ飛ばすぜ!

ExtraReport.02 俺と教団と過去の怨念 Closed
12/10/25 14:32更新 / 斬魔大聖
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■作者メッセージ
お待たせしました、魔物娘捕食者更新です。
本作のタグにその他が付いている理由……それは、本作の『教団』は公式設定とは異なるからです。
本編でも語られているように、本作の教団は魔物と仲良くしようとする一派と、魔物を殲滅しようとする一派に別れており、魔物が酷い目に遭っているのも、オリバー・ウェイトリィ率いる一派の活動に因るモノです。
本作のタイトルも、オリバー・ウェイトリィが生み出した怪物達の総称です。

オリバー・ウェイトリィ率いる『人類の護符』を分かり易く言えば、図鑑世界版ブルー・コ○モス。
元々、教団を悪役で執筆してみたいという思いの基に本作の構想を練っていて、教団の活動を過激にしてみようと判断。
滾るボンクラ物書き魂のままに突っ走って執筆したら、図鑑世界版ブ○ー・コスモスになってしまった、というオチです。

それでは人物紹介といきましょう。
―エルザ―
ゲイリーの押し掛け女房となった、ブリチェスターのジャイアントアント。
「〜のさ」が口癖の活発な性格の持ち主で、ブリチェスター復興を手伝っていたゲイリーに夜這いして既成事実を作り、ゲイリーの医療所まで付いてきた。
現在は看護婦として、ゲイリーの仕事を手伝っている。

―スティーリィ・ゴールディ―
ゲイリーの友人である教団の騎士。
教団の人間でありながら、魔物と和平を結ぼうと地下で活動している。
本編中、ゲイリーが「ウォー……」と言い掛けた事から、どうやら偽名のようだが……

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