ジュン「出会いなんてそんなに転がってる訳がないと思ってたけどそんな事なかった。」(ワーウルフ)※これもジュンが選んだ結末の末の未来の1つです。
俺は荷物を整理しつつもこの後の不安に頭を悩ませていた。
「どうすれば生き残れるかな…?」
俺はほぼ不可能だと思われることを考えて、ため息をついた。
「とりあえず魔物がいなくなるまで様子を見て考えよう。」
俺は旅館ロビーの窓からタイミングを見計らって温泉街に行く事にした。
「奴らも分かっているのか、なかなかタイミングが掴めない…。」
俺はロビーでミネラルウォーターを飲みながら呟いた。
「お、誰か出ていくみたいだな。」
ロビーから恐らく俺と同じ理由で連れてこられた青年達がロビーを出ると外にいた魔物娘達はその青年達を集団でほぼ拉致も同然に連れて行った。
「名も知らぬ青年達よ、貴方方の犠牲は忘れない…。」
俺はこのチャンスを見逃さずに旅館の外に出た。
「とりあえずどうするかな…。」
俺は空を見ながらそう呟いたその時、左側から衝撃が走り俺は体勢を崩しかけた。
「何だ!?」
『だ、大丈夫ですか!?』
「俺は平気だがちゃんと前見て走れよ…。」
『すみません…、って早く行かないと!』
「事情は知らんが何かに追われてるのか?」
『チンピラがお爺さんに絡んでるところを一喝したら3人に追いかけられました。』
「なるほど、あのろくでなし共か。」
『はい、あのろくでなし共です。』
と話しているといかにもな性根が肥え溜め以下の雰囲気を出す3人組が走って来た。
「なに?」
「何なんだよお前は?」
「その言葉、そっくり返す。」
「何なの?正義の味方気取り?」
「語彙の足りない輩だな、見た目以下だ。」
「うるせぇよ!」
「単調極まりないな、論破することもできないなんて。」
「うるせぇってのが聞こえてねぇのか!」
「反論せずにただキレて大声で威嚇するだけなら野生の獣でもできる、まあそれ以下だろうけど。」
ろくでなし共が顔を真っ赤にして殴りかかろうとしてきたその時、女性の声が聞こえた。
『貴方が手を汚す必要はないわ。』
「?」
『私達がやってあげる。』
俺が振り向くと恐らくダークエルフの女性とアマゾネスの女性がいた。
「いや、多少カンに触ったから脳天に灸をすえようかと。」
『それ、死なない?』
「大丈夫、自分は師匠から格闘術を教わっているのであの程度なら無力化可能です。」
『貴方の出る幕、ないみたいよ?』
俺が横を見るとそこにはウシオニ、オーガ、アラクネ、ヘルハウンド等々狂暴性が高いか腕っぷしの強いことで有名な魔物娘達がたくさんいた。
「あ、確かに出番ないな。」
『後は私達に任せなさい?』
「なら後はお願いします。」
そこからはすごかった、あのろくでなし共達は力づくで押さえ込まれ、気絶させられた後に運ばれて行った…。
『あの、ありがとうございます!』
「礼を言う対象を間違えていないか?」
『いえ、貴方があのろくでなしに立ち向かう決意をしなかったらどうなっていたか…。』
「ああいう輩は嫌いだからな、彼女達に運ばれて行ったのはある意味良かったのかもしれない。」
『?』
「俺が出てたら多分3人とも良くて病院送り、下手したら死んでただろうから。」
『え』
「俺は一応護身術を覚えてるからな、どちらかというと殺人術だけど。」
『つまり…』
「加減しなかったら多分ボコボコにしてた、これが何か分かるよな?」
俺は袖に仕込んでいたトンファーを見せた。
「これは非常に硬い特殊合金で作られている、しかも先端が尖っている上で撃ち出せる。」
『杭撃ち機か何かですか?』
「原理は同じ、しかも硬くて結構重いから鈍器としても強力だ。」
『頭を殴ったら死にませんか?』
「当て方と当てた箇所によってはあり得る。」
『何でそんな物騒な物を…?』
「平和的な魔物ばかりではないだろう?いざというときに頼れるのは自分の力だけだからな。」
『否定はしません…。』
「ところで君は襲い掛かって来ないのか?」
『私、元人間のワーウルフです。』
「なるほど、つまりはワーウルフの中では大人しい方と。」
『はい。』
「さて、食べ歩き行くかな、多少遅れたけど。」
『温泉街の食べ歩きですか?』
「そういう事だ、アクシデントがあったから多少遅れたけど。」
『ご一緒しても、いいですか?』
思わぬ伏兵がいた事に俺は多少驚きつつも俺は上目遣いで視線を向けてくる彼女の頼みを断れなかった。
「まぁいいや、ところで君は地元の人?」
『私はツアーに参加してここに来ました。』
「伴侶探しか」
『え、あ、はい…。』
彼女の顔が真っ赤になって行く。
「つまり俺も獲物候補って訳か。」
『獲物って…。』
「言い方は悪いけど間違ってはいないだろう?」
『否定はしません…。』
「足元を掬われないようにしないと。」
『ふふふ。』
「とりあえずあの串焼き食うかな。」
俺は店で串焼きを買うことにした
「ここの肉は割と赤身で歯ごたえがあるな、嫌いではないが。」
『確かに噛めば噛んだだけ旨みが出てきますね。』
「味付けも塩胡椒のみで俺好みのシンプルな味付けだ。」
『素材がおいしいなら味付けは最低限でいいって話を聞いたことがあります。』
「確かに。」
『次はあのクレープ屋、いいですか?』
「わかった。」
それから食べ歩きをしばらくして旅館に戻った。
「夕食までは多少時間があるな、どうするか…。」
『なら…。』
「何か案が?」
『私の部屋に、来ませんか?景色、綺麗ですよ?』
「まあ、時間も少し余ってるからいいか。」
この時の俺はあまりにも迂闊で無用心だったのかもしれない。
『ここです。』
「…確かに、雪山と夕焼けの空、それに川が流れているな、風景画を描くのには良さそうだ。」
『でしょう?』
「日が暮れて夜になれば月明かりや星に照らされた風景になるな。」
『そうですね。』
彼女が見せた笑顔に俺は今までに感じたことのない感覚を持った。
「そろそろ夕食の時間だな、俺は行く。」
『ではまた。』
俺はとりあえずいきなり襲われなかったことに安堵して夕食に向かった。
『隣、いいですか?』
「構わない。」
下手に知らない魔物と隣り合わせになるよりはいいと俺は考えた。
『もう夜ですね。』
「冬は日が暮れるのが早いからな。」
『夜景、ご飯終わったら見に来ませんか?』
「特に予定もないな、行く。」
俺はまた行っても襲われないと思っていた、「柳の下にいつも鰌はおらぬ」という諺があるのに。
「夜景も別の良さがあるな。」
『そう、ですね…。』
「どうかした?」
『月、忘れてました…。』
俺は空の月を見た。
「満月、まさか…。」
『もうこの際だから、言います。』
「お、おう…。」
『理性が限界です!早く逃げてください!』
「…。」
『このままだと本能のままに襲い掛かってしまうから早く逃げてください!』
俺はドアの覗き窓から廊下の様子を見て、諦めた。
「詰んだ。」
『どういうことですか?』
「廊下にも魔物が居る、俺が逃げてもあの数では捕まるだろう。」
『そんな…、私発情期なのに…。』
「そういえば…。」
俺は太ももにあるポケットからビンを出した。
『これは?』
「魔物用のドリンクタイプ鎮静剤だ、飲んだらいい。」
『ありがとうございます…。』
しばらく経って、彼女は少し落ち着いたようだ。
「少し落ち着いたみたいだな、良かった。」
『寒いです…。』
彼女は俺に抱き付いてきた。
「なら収まるまでこうしてたらいい。」
俺は彼女の頭を撫でながら言った。
『あったかい…。』
「…。」
それからしばらく経って、彼女は理性を取り戻したようだ。
「鎮静剤が完全に効いてきたしいな。」
『何とか落ち着きました。』
「良かった。」
『だけど…。』
「?」
『貴方が好きなのは発情期に関係ないことも分かりました。』
「はい!?」
『これで欲望に関係なく私の気持ちをぶつけられます。』
「…。」
『私は今日貴方が立ち向かった勇気に…』
「だから違うって。」
俺は言葉を遮るようにして言った。
「弱者を虐げる輩は潰さないと気が済まないだけだ。」
『…?』
「かつて俺がいじめの被害者だったから俺はそういう輩を叩き潰さないと気が済まないんだ。」
『…。』
「勇気ではない、暗い負の念の衝動のままに叩きのめそうとしただけだ。」
『…嘘です。貴方は弱いものを守るために力を振るう、違いますか?』
俺は反論出来なかった、例え負の側面を語っても彼女は止まらない、なぜかそう分かった。
『自分をそんなに卑下しないで。』
「…。」
『それに、貴方は私から逃げなかった。』
「どっちにしろ詰んでたし」
『私は貴方が、好きです…。』
「!」
俺は彼女の部屋に初めて来た時と同じ感覚を感じた。
『…。』
「これが、「愛おしい」って感情か…。」
『…!』
「俺も、君が好き、みたいだ。」
『!』
彼女の顔が真っ赤になって緩んで行くのが見えた。
「…。」
『ふふふ。』
「とりあえず今日は疲れただろう、温泉行こう。」
『うん!』
と彼女は尻尾をちぎれんばかりに振って俺が見た中で最高の笑顔を見せた。
「そういえば。」
『?』
「名前、俺はジュン。」
『私は月華です。』
「月華って名前だったのか。」
『告白までして自己紹介が後って…。』
「結果が良ければいいんじゃないかな。」
『かもしれませんね。』
「月華の部屋にある温泉はどんな感じ?」
『露天風呂で飲み物が飲める設備があります。』
「なら行こうか。」
『うん!』
「さて、寒いし入るか。」
『お待たせ。』
月華も入って来たが、彼女は産まれたままの姿だった。
「!?」
『タオル、巻けなかったの…。』
「尻尾が邪魔なのか。」
『うん…。』
「しかし、雪月花だな。」
『花は?』
「俺の愛おしい女、月華だよ。」
『!』
と言い終わると月華の顔が真っ赤になった。
『はぅぅ…!』
「うん、かわいい。」
『今晩は寝かせません!』
「やっぱりプラシーボ効果では限界があったか…。」
『?』
「さっき飲ませたのは気分を落ち着かせる成分を含んではいるけど鎮静剤じゃないからな。」
『え…。』
「紅茶とかにあるだろう?あの成分だ。」
『ほとんど精神力だけで抑え込んでたってことですか?』
「そういう事だ。」
『大丈夫、発情期じゃないです。』
「お、おう。」
『好きな人としたいのは当たり前のことでしょう?』
彼女は真っ赤な顔をして上目遣いでそう言った。
「確かに、な。」
『もう逃がしません!』
月華はそのまま抱き付いてきた。
「ついに捕まった。」
『ジュン、大好き!』
「俺もだ。」
結局俺は逃げられなかったが、こんなにも幸せなら逃げ切れた未来よりも幸せなんじゃないかなと思った。
『私今すごく幸せです…。』
「同じ気分だ…。」
俺は抱き付いてきた彼女の髪を梳きながら呟いた。
『ずっと一緒だよ。』
「もちろん。」
大切なものはこんなに近くにあった、手を伸ばさなくても届くほどに。
「どうすれば生き残れるかな…?」
俺はほぼ不可能だと思われることを考えて、ため息をついた。
「とりあえず魔物がいなくなるまで様子を見て考えよう。」
俺は旅館ロビーの窓からタイミングを見計らって温泉街に行く事にした。
「奴らも分かっているのか、なかなかタイミングが掴めない…。」
俺はロビーでミネラルウォーターを飲みながら呟いた。
「お、誰か出ていくみたいだな。」
ロビーから恐らく俺と同じ理由で連れてこられた青年達がロビーを出ると外にいた魔物娘達はその青年達を集団でほぼ拉致も同然に連れて行った。
「名も知らぬ青年達よ、貴方方の犠牲は忘れない…。」
俺はこのチャンスを見逃さずに旅館の外に出た。
「とりあえずどうするかな…。」
俺は空を見ながらそう呟いたその時、左側から衝撃が走り俺は体勢を崩しかけた。
「何だ!?」
『だ、大丈夫ですか!?』
「俺は平気だがちゃんと前見て走れよ…。」
『すみません…、って早く行かないと!』
「事情は知らんが何かに追われてるのか?」
『チンピラがお爺さんに絡んでるところを一喝したら3人に追いかけられました。』
「なるほど、あのろくでなし共か。」
『はい、あのろくでなし共です。』
と話しているといかにもな性根が肥え溜め以下の雰囲気を出す3人組が走って来た。
「なに?」
「何なんだよお前は?」
「その言葉、そっくり返す。」
「何なの?正義の味方気取り?」
「語彙の足りない輩だな、見た目以下だ。」
「うるせぇよ!」
「単調極まりないな、論破することもできないなんて。」
「うるせぇってのが聞こえてねぇのか!」
「反論せずにただキレて大声で威嚇するだけなら野生の獣でもできる、まあそれ以下だろうけど。」
ろくでなし共が顔を真っ赤にして殴りかかろうとしてきたその時、女性の声が聞こえた。
『貴方が手を汚す必要はないわ。』
「?」
『私達がやってあげる。』
俺が振り向くと恐らくダークエルフの女性とアマゾネスの女性がいた。
「いや、多少カンに触ったから脳天に灸をすえようかと。」
『それ、死なない?』
「大丈夫、自分は師匠から格闘術を教わっているのであの程度なら無力化可能です。」
『貴方の出る幕、ないみたいよ?』
俺が横を見るとそこにはウシオニ、オーガ、アラクネ、ヘルハウンド等々狂暴性が高いか腕っぷしの強いことで有名な魔物娘達がたくさんいた。
「あ、確かに出番ないな。」
『後は私達に任せなさい?』
「なら後はお願いします。」
そこからはすごかった、あのろくでなし共達は力づくで押さえ込まれ、気絶させられた後に運ばれて行った…。
『あの、ありがとうございます!』
「礼を言う対象を間違えていないか?」
『いえ、貴方があのろくでなしに立ち向かう決意をしなかったらどうなっていたか…。』
「ああいう輩は嫌いだからな、彼女達に運ばれて行ったのはある意味良かったのかもしれない。」
『?』
「俺が出てたら多分3人とも良くて病院送り、下手したら死んでただろうから。」
『え』
「俺は一応護身術を覚えてるからな、どちらかというと殺人術だけど。」
『つまり…』
「加減しなかったら多分ボコボコにしてた、これが何か分かるよな?」
俺は袖に仕込んでいたトンファーを見せた。
「これは非常に硬い特殊合金で作られている、しかも先端が尖っている上で撃ち出せる。」
『杭撃ち機か何かですか?』
「原理は同じ、しかも硬くて結構重いから鈍器としても強力だ。」
『頭を殴ったら死にませんか?』
「当て方と当てた箇所によってはあり得る。」
『何でそんな物騒な物を…?』
「平和的な魔物ばかりではないだろう?いざというときに頼れるのは自分の力だけだからな。」
『否定はしません…。』
「ところで君は襲い掛かって来ないのか?」
『私、元人間のワーウルフです。』
「なるほど、つまりはワーウルフの中では大人しい方と。」
『はい。』
「さて、食べ歩き行くかな、多少遅れたけど。」
『温泉街の食べ歩きですか?』
「そういう事だ、アクシデントがあったから多少遅れたけど。」
『ご一緒しても、いいですか?』
思わぬ伏兵がいた事に俺は多少驚きつつも俺は上目遣いで視線を向けてくる彼女の頼みを断れなかった。
「まぁいいや、ところで君は地元の人?」
『私はツアーに参加してここに来ました。』
「伴侶探しか」
『え、あ、はい…。』
彼女の顔が真っ赤になって行く。
「つまり俺も獲物候補って訳か。」
『獲物って…。』
「言い方は悪いけど間違ってはいないだろう?」
『否定はしません…。』
「足元を掬われないようにしないと。」
『ふふふ。』
「とりあえずあの串焼き食うかな。」
俺は店で串焼きを買うことにした
「ここの肉は割と赤身で歯ごたえがあるな、嫌いではないが。」
『確かに噛めば噛んだだけ旨みが出てきますね。』
「味付けも塩胡椒のみで俺好みのシンプルな味付けだ。」
『素材がおいしいなら味付けは最低限でいいって話を聞いたことがあります。』
「確かに。」
『次はあのクレープ屋、いいですか?』
「わかった。」
それから食べ歩きをしばらくして旅館に戻った。
「夕食までは多少時間があるな、どうするか…。」
『なら…。』
「何か案が?」
『私の部屋に、来ませんか?景色、綺麗ですよ?』
「まあ、時間も少し余ってるからいいか。」
この時の俺はあまりにも迂闊で無用心だったのかもしれない。
『ここです。』
「…確かに、雪山と夕焼けの空、それに川が流れているな、風景画を描くのには良さそうだ。」
『でしょう?』
「日が暮れて夜になれば月明かりや星に照らされた風景になるな。」
『そうですね。』
彼女が見せた笑顔に俺は今までに感じたことのない感覚を持った。
「そろそろ夕食の時間だな、俺は行く。」
『ではまた。』
俺はとりあえずいきなり襲われなかったことに安堵して夕食に向かった。
『隣、いいですか?』
「構わない。」
下手に知らない魔物と隣り合わせになるよりはいいと俺は考えた。
『もう夜ですね。』
「冬は日が暮れるのが早いからな。」
『夜景、ご飯終わったら見に来ませんか?』
「特に予定もないな、行く。」
俺はまた行っても襲われないと思っていた、「柳の下にいつも鰌はおらぬ」という諺があるのに。
「夜景も別の良さがあるな。」
『そう、ですね…。』
「どうかした?」
『月、忘れてました…。』
俺は空の月を見た。
「満月、まさか…。」
『もうこの際だから、言います。』
「お、おう…。」
『理性が限界です!早く逃げてください!』
「…。」
『このままだと本能のままに襲い掛かってしまうから早く逃げてください!』
俺はドアの覗き窓から廊下の様子を見て、諦めた。
「詰んだ。」
『どういうことですか?』
「廊下にも魔物が居る、俺が逃げてもあの数では捕まるだろう。」
『そんな…、私発情期なのに…。』
「そういえば…。」
俺は太ももにあるポケットからビンを出した。
『これは?』
「魔物用のドリンクタイプ鎮静剤だ、飲んだらいい。」
『ありがとうございます…。』
しばらく経って、彼女は少し落ち着いたようだ。
「少し落ち着いたみたいだな、良かった。」
『寒いです…。』
彼女は俺に抱き付いてきた。
「なら収まるまでこうしてたらいい。」
俺は彼女の頭を撫でながら言った。
『あったかい…。』
「…。」
それからしばらく経って、彼女は理性を取り戻したようだ。
「鎮静剤が完全に効いてきたしいな。」
『何とか落ち着きました。』
「良かった。」
『だけど…。』
「?」
『貴方が好きなのは発情期に関係ないことも分かりました。』
「はい!?」
『これで欲望に関係なく私の気持ちをぶつけられます。』
「…。」
『私は今日貴方が立ち向かった勇気に…』
「だから違うって。」
俺は言葉を遮るようにして言った。
「弱者を虐げる輩は潰さないと気が済まないだけだ。」
『…?』
「かつて俺がいじめの被害者だったから俺はそういう輩を叩き潰さないと気が済まないんだ。」
『…。』
「勇気ではない、暗い負の念の衝動のままに叩きのめそうとしただけだ。」
『…嘘です。貴方は弱いものを守るために力を振るう、違いますか?』
俺は反論出来なかった、例え負の側面を語っても彼女は止まらない、なぜかそう分かった。
『自分をそんなに卑下しないで。』
「…。」
『それに、貴方は私から逃げなかった。』
「どっちにしろ詰んでたし」
『私は貴方が、好きです…。』
「!」
俺は彼女の部屋に初めて来た時と同じ感覚を感じた。
『…。』
「これが、「愛おしい」って感情か…。」
『…!』
「俺も、君が好き、みたいだ。」
『!』
彼女の顔が真っ赤になって緩んで行くのが見えた。
「…。」
『ふふふ。』
「とりあえず今日は疲れただろう、温泉行こう。」
『うん!』
と彼女は尻尾をちぎれんばかりに振って俺が見た中で最高の笑顔を見せた。
「そういえば。」
『?』
「名前、俺はジュン。」
『私は月華です。』
「月華って名前だったのか。」
『告白までして自己紹介が後って…。』
「結果が良ければいいんじゃないかな。」
『かもしれませんね。』
「月華の部屋にある温泉はどんな感じ?」
『露天風呂で飲み物が飲める設備があります。』
「なら行こうか。」
『うん!』
「さて、寒いし入るか。」
『お待たせ。』
月華も入って来たが、彼女は産まれたままの姿だった。
「!?」
『タオル、巻けなかったの…。』
「尻尾が邪魔なのか。」
『うん…。』
「しかし、雪月花だな。」
『花は?』
「俺の愛おしい女、月華だよ。」
『!』
と言い終わると月華の顔が真っ赤になった。
『はぅぅ…!』
「うん、かわいい。」
『今晩は寝かせません!』
「やっぱりプラシーボ効果では限界があったか…。」
『?』
「さっき飲ませたのは気分を落ち着かせる成分を含んではいるけど鎮静剤じゃないからな。」
『え…。』
「紅茶とかにあるだろう?あの成分だ。」
『ほとんど精神力だけで抑え込んでたってことですか?』
「そういう事だ。」
『大丈夫、発情期じゃないです。』
「お、おう。」
『好きな人としたいのは当たり前のことでしょう?』
彼女は真っ赤な顔をして上目遣いでそう言った。
「確かに、な。」
『もう逃がしません!』
月華はそのまま抱き付いてきた。
「ついに捕まった。」
『ジュン、大好き!』
「俺もだ。」
結局俺は逃げられなかったが、こんなにも幸せなら逃げ切れた未来よりも幸せなんじゃないかなと思った。
『私今すごく幸せです…。』
「同じ気分だ…。」
俺は抱き付いてきた彼女の髪を梳きながら呟いた。
『ずっと一緒だよ。』
「もちろん。」
大切なものはこんなに近くにあった、手を伸ばさなくても届くほどに。
16/03/01 15:15更新 / サボテン
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