第二十四話「盟友」
「・・・ついに、私だけになってしまったわね」
ミカドの都国元老院、すでにラファエルが失敗し、行方知れずになっていることはミカの耳に入っている。
ウリエル、ラファエル、ガヴリエル、すでに三人の大天使が失せ、残るはミカエルただ一人である。
「・・・ガヴリエルはともかくウリエルやラファエルまで離反するなんて」
こうまで続くと、怒りよりも先に疑念が生まれてしまう。
すなわち、自分たちは正しかったのか、神の秩序を行使し続けることを是とすべきなのか。
「失礼します」
ファリサイ修道院の長、ゴルゴスが元老院に現れた。
「・・・ゴルゴス、どうかしたのかしら?」
ミカエルの問いかけに、ゴルゴスは手にしていた資料を読み上げる。
「はい、京都ボルテックスの連中ですが、どうやら合力して我々に楯突こうとしているようです」
「・・・やはり、サナトね」
修羅人こと遮那、そう、あの男が全てを狂わせている。
ガヴリエルも、ウリエルも、ラファエルも、遮那と出会っておかしくなった。
ICBMも、遮那がいなければ通常通りの威力を発揮し、京都ボルテックスなど誕生しなかった。
「ゴルゴス、いかなる手段を用いても構わないわ、修羅人サナトの首を取るわ、それから、『封霊船プルガトリウム』の建造を急ぎなさい」
「・・・仰せのままに」
にやり、とゴルゴスは口元を歪めていたが、ミカエルはそれには気付かなかった。
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サムライに蹂躙されているかと心配していたが、ラファエルと別れ、カテドラルに遮那が帰還すると、真由らは無事だった。
「真由、みんな無事だったか」
「お互い、悪運は強いようですわね」
笑い合いながら遮那と真由はカテドラルの部屋で抱き合った。
「しかし、よくあの数を捌いたものだな・・・」
しみじみと言う遮那だが、アールマティは首を振った。
「私たちだけの力ではない、グリゴリの魔物娘たちがかけつけてくれた」
「ああ、サムライたち、みーんな魔物娘に攫われちまってたぜ?」
かはは、と楽しげに笑うアシャだが、いきなり出撃させられた上によくわからないまま嫁が出来たサムライたちに、少しだけ遮那は同情した。
「遮那さま、グリゴリとガイア教団ですが、やはり強力してミカドの都国を迎撃するようです」
予想どおりの結果だ、とりあえずしばらくは様子を見ることにしよう。
「遮那さまの方はいかがでしたか?」
「ああ、何とか『神の癒し』ラファエルは説得出来た、いささか手荒な交渉が必要だったがな」
実際はいささか、どころでないほどに手荒な交渉だったが、遮那はそれだけしか語らなかった。
「けれど、ラファエルやサムライを撃退したところで、ミカドの都国は次を、繰り出すはず」
アールマティの言葉に真由も頷く。
「アールマティさんの言う通りかもしれません、まだミカエルも現れていませんし、サムライも相当数いるはず」
「とするなら、ミカドの都国を攻略しねーとダメか?」
直情的なアシャの台詞に遮那は首を振った。
「いや、一度ミカドの都国の攻略に失敗している以上、仮にガイアとグリゴリが協力しても結果は変わるまい」
奈落の塔はその構成上仮に大軍で攻めたとしても、その人数を活かし切ることは難しい。
すなわち、そこをなんとかしない限りはミカドの都国を攻略することは出来ないだろう。
「いかがされるおつもりですか?」
真由の言葉に遮那は何事か、沈思黙考を続けるのだった。
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「・・・やはり、ガイアにもグリゴリにも中道はないか」
カテドラルのバルコニー、一人遮那は彼方にそびえる奈落の塔を眺めていた。
秩序である大天使ミカエルとの戦い、当たり前なのかもしれないが、グリゴリもガイアも和睦するつもりはないようだ。
「どちらが勝っても、いずれかの属性に傾き過ぎる、どうすれば・・・」
『・・・迷っているの?』
不思議な声が遮那の脳内に響き渡る、どこかで聞いたことのある声だ。
「この声、メタトロンか?」
『ええ、久しぶりね?、サナト・・・、四大天使は軒並み倒し、魔物たちもやる気十分、何を悩むの?』
悩むことはたくさんある、天使を斬っても魔物を斬ってもならない、いずれかが負ければ残ったほうの力が強くなる。
『貴方はどうしたいの?』
「・・・私は」
遮那の見つめる先、奈落の塔の果てには太陽に照らされたミカドの都国がある。
『サナト、貴方は天使とも魔物とも交わり、たくさんのコトワリを見たわ、そろそろ、貴方自身のコトワリを見つける時よ』
「メタトロン、私は・・・」
遮那は心を定めると、口を開いた。
「やはり私は、神とも魔物とも共存できる、中庸の未来を望む」
『中庸はどっちつかずの道、場合によっては秩序とも混沌とも戦わなければならないかもしれない、相対したその時、貴方はそれでも己のコトワリを突き通せるの?』
「ああ、私はみんなが平等に暮らせる未来を作る、それが私のコトワリだ」
一瞬だけ、奈落の塔の上から、カテドラルに向かって光が溢れた。
『わかったわサナト、それが貴方の結論ならば、私は貴方のコトワリが招く未来を見届けさせてもらうわ』
不思議な気配に遮那は奈落の塔の上部をよく見ようとしたが、もう光は消え失せていた。
『けれど、貴方だけでは理想を成し遂げるためにはあまりに力が足りないわ、まずは仲間を集めなければならないわね?』
仲間、果たして真由たちは、己についてきてくれるだろうか?
アシャやアールマティ、ミスラは元々ガイアの所属、ついてきてくれるとは考えにくいが。
『それは貴方次第、上手に説得することが出来たなら、みんな力を貸してくれるはずよ?』
それから、とメタトロンは続ける。
『中立勢力の妖精たちだけれど、彼女たちは京都御所をねぐらにしているみたいよ?』
ガイアでもグリゴリでもない第三勢力、京都御所にいたのか。
『恐らく立ち位置としては貴方に一番近いはずだから、一度会ってみたら良いかもしれないわね』
今は一人でも仲間が欲しい、遮那は一人頷くと、カテドラルに入っていった。
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『・・・いよいよ戦いは大詰め、やっぱり、混沌王の意志は変わらない、わね』
『秩序も混沌も越えた先・・・』
『そこに、貴方たちが願った未来はある』
『『賭け』は貴方の勝ちだったみたいね、修羅人サナト、いえ・・・』
『混沌王アフラ=マズダー』
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「・・・遮那さま」
カテドラルの出入り口には、真由、アシャ、アールマティの三人の魔物娘がいた。
「私は中庸を願う、そのために行動を起こす」
「中庸はいつか秩序か混沌に蹂躙されるためにあるかもしれませんよ?、それでも中立の未来を願うのですか?」
真由の問いかけに、遮那は迷わずに頷いた。
「人間が、魔物が、神族が、それぞれ一番『らしく』生きれるのが、その世界だ」
いずれ消え去るさだめであったとしても、遮那は三種族の未来を、信じたかった。
「・・・サナト、本当におめーって奴は・・・」
にやっ、とアシャは微笑んだ。
「あれだけ神に痛めつけられても、未来を信じるなんで、本当に、お人好し」
アールマティも半ばあきれ果てているが、微かに瞳の中には楽しそうな意識が見えた。
「私の心は先日告げた通り、いつも遮那さまとともにあります」
「・・・みんな」
付いてきてくれないと思っていたが、三人とも、一緒に来てくれるようだ。
「本当に良いのか?、秩序よりも混沌よりも、苦難の道になるかもしれないが・・・」
「まっ、旦那の無茶を助けるのも嫁の仕事だしな?」
「お人好しは、嫌いじゃない」
ぽん、と真由は遮那の肩に手を置いた。
「遮那さまだけでなく、みんな三種族の未来を願っているのです」
「・・・ありがとう」
短く告げると、遮那は仲間たちとともにカテドラルから外に出た。
目指すは妖精たちが率いる第三勢力のいる京都御所、まずは仲間を集めるところからだ。
16/09/07 21:07更新 / 水無月花鏡
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