連載小説
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「仲間」
 眼の前に風の壁ができている。
 
 俺の前に立つ異形の鎧―基調は白だが、所々つなぎの部分が灰色の鎧だ。
 だが、ただの鎧じゃない。鎧のつなぎ目によく目を凝らすと、つなぎ目が発光し、淡い白色に輝いているが、少しでも離れると灰色にしか見えない。

 シルエット的には全身が何も凹凸のない、曲線的なデザインの鎧、特徴といえば肩が異様にでかい、あそこまででかいと邪魔じゃないかと思う。

 顔にはフェイスマスクをかぶっている、いや、どちらかといえばマスクと言うよりも顔面用の鎧だ。

 本来、フェイスマスクは人の顔を摸しているが、それは人の顔を摸してなどいない。こいつが摸しているのは、蜻蛉だ。

 眼がある場所には、昆虫のような赤く輝く巨大な複眼(蜻蛉みたいだ)がついているし、口もあのなんとも言えない牙のような歯が生えている蜻蛉の口そのものだ。

 騎士団の鎧はジパングの兜のような鍬形のような飾りに似た角のようなものがあるが、こいつにはそれが無い、基調が白ということもあり、髑髏のようにも見える。

 だが、何よりも異色なのは、奴のベルトだ。

 ベルトには体の正面に巨大な宝石のように白色に輝いている石が埋め込まれ、鎧のつなぎ目の光と連動して光っているようだ。それと、体の側面左右に、正面に埋め込まれた石よりも小さいが石が埋め込まれているが、こちらは光ってはいない。

 こいつの名前は、トウギ(75の意味)

 同じローグスロー騎士団の一員で、同じ異端者

 俺と同じ時期に騎士団に入った数少ない同期、甘ったるフェイスの持ち主で、ラヴェ・カイエンなどに行っても俺と違って人気者だ。

 人気者の理由は二つ、前述の通り優男の顔を持っているので女性に人気、そして、もう一つが奴の能力のお陰だ。

 今奴が来ている鎧は、騎士団から配給されるものではない、自前か、といえば厳密には違う、いや、鎧を纏ってすらいない。なんたって、今纏っている鎧が能力そのものだからだ。

 能力名は『強化装甲』

 その名の通り、個人によって異なるポーズを取ることによって、召喚した鎧を身にまとい戦う戦士だ、しかし、この能力の最大の特徴は鎧ではない、いや、むしろ、鎧も相当な防御力があるが、それには遠く及ばない。

 最大の特徴、それは身体強化と彼らしか使用できない特殊術式を利用した一撃必殺技

 本来魔物と戦うのは武器などを用いるが、身体強化は素手で魔物とやり合える力を彼らに与え、これで雑魚なら一掃できる。

 そして、特殊術式を利用した一撃必殺、これはかなり強力だ。

 なんでも個人によってその術式の発動形態は違う、蹴りや殴って発動させる者や召喚した銃や剣などで切り裂いて発動する者、個人によって違う、だが、 共通しているのはなんでも魔物の中にある魔力を暴走させ、爆発のエネルギーに変化させるというもの、つまり、魔物が食らえば食らった魔物を爆殺させる一撃必殺。たとえ、リリムだろうがバフォメットだろうが殺す、最大術式

 だが、弱点も多い。
 魔物が弱っていない状態でないと効果が出ず、その為、身体強化の肉弾戦である程度まで弱らせて倒すのが彼らの戦術だ。

 この技術を応用すれば、人間と魔物が互角に戦えるかもしれないが、彼らの特殊術式は不思議なものらしい、何度も術者などが彼らの特殊術式を解明する努力をしたが、なんでも彼らに共通する同じデザイン、形などはないが、皆でかいベルトを変身すると装着する、その装着したベルトから力を得て発動するため、通常の人間は不可能らしい。

 だが、町などの子供にはこの鎧やベルトのデザイン、鎧を召喚し着用する際のポーズは人気だ。

 前に町の祭りで露天商がきて店をやっていたが、その際にこいつのフェイスマスクを摸した仮面まで売ってた…いつ商品化したんだ……

 稀に『強化装甲』の異端者は、大都市まで行って握手会や子供に見せる舞台などをやってる…最近では収入財源の一端にもなってるから修練場の一画に練習用の舞台部屋まであった。
 つまり、子供心をがっちりと掴んでしまったために人気があるのだ。
 まったく、俺の力は化け物だって石投げつけられるのに…正直うらやましい



 とにかく、こいつの登場はイレギュラーだ。
 あまりの出来事に、一瞬我を忘れていた。

 風の壁が弱まり、魔物どもが見えてくる。

 そして魔物どもはトウギの後ろで何か言っている、あ、そういやまだ戦いの最中だった。

 トウギは安心しろといった風に何本か背中に刺さっていた矢を抜く、っつ、もうちょい優しくしてくれ………

 そのあと、トウギは立ち上がると、まるで、自ら軍勢を、魔王軍と同じかそれ以上の軍勢を率いている指揮官のように、堂々と対峙した。

 魔王軍はいきなり表れたトウギに困惑しているようだ。

 「貴様は何者だ!!!?」
 魔王軍の一人が意を決して叫んだ。

 トウギは腕を組み、答える。

 「貴様を地獄に送り返すものだ!!覚えておけ!!!」


 おお、今日のトウギはかっこよく、なお且つ頼もしく見える。

 今まで泣き虫トウギと呼ばれてたころが懐かしく思えるぐらいだ。
 
 やれ、戦え!!!トウギ!!

 そのままトウギは、腕組をほどくとそのまま構えた。
 魔王軍も構えの姿勢を取る。

 固唾をのみこみ、辺りは異様な静けさに包まれる。
 そして、そのまま、


   転がっている俺と抱えて逃げた。



 「おいいいいいいいいいいいい!!!何してんだてめぇ!!!!戦うんじゃねえのかよ!!!」

 その叫びに対して、フェイスマスクしてるから分からないが、絶対いい笑顔しているはずの顔で、答える。

 「はっはっはっはっはっは、僕の能力は実はさっきの風で限界なんだよ。はっはっはっはっは」

 「はっはっはっは、じゃねーーーーーーーーーーー!!!」

 …何しに来たんだこの男は。つうか魔王軍も一瞬のことで呆気にとられてたが、めっちゃ撃ってるぞ、オイ、さっきの倍だ、倍の量の矢が降り注ぐ

 そのまま物陰−魔王軍の輜重などが入っている木箱が積み重なった場所に隠れる。

 このままやり過ごすことはできないな…矢がすさまじく、物陰から出たら即ハリネズミになる運命だ。

 フェイスマスクを上げると、顔中汗が滝のように流れている、冷や汗だ、その証拠に足腰が震えてるよ…

 「………どうすんだよ、つか、よくお前さんも生き延びたな」

 怪我に意識を向け、回復をしていく。
 ドドドドドドドと滝のような音を立て、木箱に矢が刺さる音を聞きながらとりあえず、今後の方針と打開策、それと生き残ったことに対しての感想が先だ。

 どうするべきか考えていると、

 「まぁね、兄さんが逃がしてくれたんだ…」

 うつむきながら、答えた。

 こいつは双子の異端者だ。
 トウギの兄貴も『強化装甲』の異端者、ただし、こいつの鎧が白だが兄貴の鎧は黒が基調となっており、そして、何よりも最強の『強化装甲』の異端者だ。

 ただ、先ほどの戦いだ、こいつしかいないことなどを考えれば予想がつく。

 そうか、としか言えなかった。
 あと、一つ、打開策として何をすべきか考えることとした。
 いや、一つだけ簡単に思いつく打開策はあるにはあるが、俺の身がよじれるほどの痛みを伴い、下手すると発狂するから嫌だ

 どうすっかなー、と頭をかく。
 
 「ただし、この後はわかる、援軍が来るよ」
 
 俺は怪訝な顔で奴を見る、よく見ると、トウギがうつむいて見ていたのは懐中時計だ。

 そして、

 バババババババババババババババババッッッッ!!!!

 轟音が辺りに轟いた。

 「そら来た」

 トウギの声だけがしっかりと聞こえた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 カミンティは自分の指揮していた隊の約9分の1の兵が、横から轟音とともに倒れ、ある者は地面に臓物を撒き散らし、ある者はその場に崩れ落ちる光景を見た。

 なんだ、と顔をそちらの方を見る。5時の方角―城門に目を向けると、


 そこには、何十という数の兵が隊列を組み、銃口をこちらに向けていた。
 そして、その後ろには、城門の扉が壊れてしまったために、見張りのために配置した数人の兵が、横になっていた。

 長銃を向けている兵は、皆闇夜に紛れやすいように黒色に近い鎧を纏い、フェイスカバー(フェイスマスクと違い、兜というよりもお面のようにかぶり、顔面を保護する物)までも黒色で、不思議なことに魔力、精なども感知できない。大方、特殊な薬品を使って気配を消すことも可能である。
 それに、部隊に綻びが見えない、相当の訓練を積んでいるらしい。

 ただの兵じゃない、こいつらは特殊兵だ。

 謀られた、カミンティは奥歯を噛みしめる。
 さっきの奴は囮だ、囮だったのだ

 「反撃しろ!!敵は少数だ!!今なら殲滅も可能だ!!!」

 ありったけの声で叫ぶ、しかし、兵の半数が混乱状態であり、まともに動ける兵は少ない

 この奇襲は自分のミスだ、と自責の念と、早く立ち直れとあせりが心の中にある。

 早く、早くしなければ、もう一度一斉射撃など食らえばひとたまりもない。
だが、勝機はある。

 銃は単発式だ、連射は不可能、それに弾を込め、発射までに三十秒ほどかかる。
 つまり、三十秒間は敵は何もできない、距離は、一町ほど

 倒れた自軍の兵の数と、確認できる突如として表れた兵の数、ほぼ同じくらいで、奥に撃っていない銃を積んだ荷台や、伏兵などは確認できない。
 敵の全ての銃には今弾は装填されていないのだ。

 この距離なら、一般兵で突撃しても間に合わないが、ケンタウロスなら敵陣に突っ込んで混乱させ、その間に一般兵で突撃、殲滅する。

 近くにいた、ケンタウロス部隊の部隊長も同じことを考えていたらしい、すでに腕には白兵戦用の、人間を殺さず、捕虜にするためにしびれ薬が塗ってある剣に持ち替えていた。


 さすがは歴戦の戦士だ、この状況でも、あの人間たちを殺さずに捕虜にするらしい

 アイコンタクトで確認し、頷く。

 「ケンタウロスたちは、我に続けーーーーーーー!!!」

 ケンタウロス部隊長は叫びながら、敵陣に突っ込んでいった。

 混乱していたケンタウロス兵たちも、我に返り、部隊長に続く、

 20、いや30騎はいる、さすがだ、この状態でも陣形を組んでいる。

 よし、このままいけ!!

 そして、最初に突進したケンタウロス部隊長が、敵陣まで10間まで迫り、最初の一斉発射から時間にして18秒弱、どんなに早くとも次弾発射は不可能だ。

 勝った!!

 勝利をカミンティは確信した。


 そして

 二回目の轟音が響き渡り、突撃していたケンタウロスたちが、崩れるのを見た。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 「…おい、トウギ、何だあの部隊は?」

 突如横槍を入れられ、魔王軍の魔物どもの攻撃がやんだ。

 本来なら、この機に乗じて突撃を仕掛けるべきなんだろうが、何分刺さっていた矢の数が半端じゃない。
 複数同時に怪我をして、同時修復なんてやると必然的に回復速度は遅くなる。

 左膝の関節の傷が深いため力が入らず、立つことすらできない。

 それでも顔だけ木箱の陰から出して、突如出現した連中を見る。

 よく、訓練されてる部隊だが、ありゃ構成員は人間だ。勘で分かる。だが、見たことがないな、あんな鎧は…

 「…テニファ様が率いてる近衛騎士団の特殊大隊だよ、それの先鋭部隊のみなさま方だ…」

 トウギはフェイスマスクを下して、陰から覗く。つか、その複眼に望遠機能ついてるはずだよな、なんかずるい

 と、そんなことを思っていたら魔物が俺たちに気付いたのか、矢が飛んできたので再び木箱の後ろに隠れる。


 テニファ様ってのは領主さまの第三子にしてご長女様、だけど、勇者として生まれており、様々な武勇の伝説をお持ちだ。

 例えば、16歳の時、自ら結成した騎士団率いて領内の魔物退治をおこなった。
 魔物退治といってもちゃちな獲物じゃない、初戦は長年領地の山岳地帯にある古城に巣食らっていたドラゴンを退治し、見事に首を持ち帰ったという伝説がある。

 その後もすさまじい快進撃が続く、下手すれば、ローグスロー騎士団よりも打ち取った魔物の数は多いかもしれない、とにかく殺しつくし、魔界までその名を轟かせたらしい。

 だが、確か8年前に大敗を喫し、騎士団は壊滅、テニファ様は命からがら生き延びたらしいが、その後、どっかの貴族の嫁にいったんじゃなかったか?

 そのことを質問すると、納得の答えが返ってきた。

 その旦那が同じ領内にある別な騎士団の団長で、結婚後、副団長に就任。騎士団内部改革を推し進め、旦那と去年離婚すると元旦那を横領の罪で告訴、騎士団を掌握してたのはテニファ様であり、そのまま団長に就任

 今でも無双ぶりは健全らしい
 
 だが、あまりに強く強化してしまい、その為近衛騎士団に採用されたらしい

 何年か前に我が領地が献上する近衛騎士団が変わったというのは聞いていたが、テニファ様が率いていた騎士団だったとは、予想外だ

 近衛騎士団というと、王族を守るのが役割の騎士団だがこの国の近衛騎士団は変わっている。
 この国の王族を守護する近衛騎士団は王の持つ騎士団や兵団ではないのだ。別に王が兵を持っていないわけではない、むしろ、王は法で最も多くの兵を持つことを許され、国内のパワーバランスの調整などを行うことが主な役割として使うため、最も戦いたくない相手だろう

 なぜ、それほどの兵力を持ちながら、近衛騎士団は王の持つ兵士ではないのか、それは臣下の証として、少し言い方がおかしいが、国王自ら選んだ信頼の厚い領主に自らを守る騎士団を献上の機会を与えるためだ。

 つまり、国王が自らの身を任せられると思っていると領主を信頼しているという証であり、これは大変な名誉だ。
 それに、領主がどれだけの戦士を持っているのかというアピールにもなり、大体の領主は自ら最高の騎士団を選ぶ、個々の強さや騎士団としての強さだけではなく、品格や礼儀作法、全てにおいて優秀な騎士団を選ぶのだ、無論、ローグスロー騎士団は候補にもあがらない、いや、別に選ばれたいわけじゃないのだが、なんだか選考にもされないと悔しいものだ。

 無論、献上した領主の領地の戦力は下がる分、それ以上の価値がある様々な特権が与えられる、例えば、献上した兵力の2倍ほどの戦力を持つことも許されるし、本当に様々な特権がある。

 だが、一つの騎士団が永遠に近衛騎士団となるわけではない、騎士団の献上に選ばれた領主を「天領主」と呼ぶが、現在天領主は我が領主様を含めて4人いる

 そして、近衛騎士団は4年ごとの交代になっている。

 無論、その間王都に騎士団が留まって王族の騎士団や兵として駐留してもいいが、大概の場合は領地に帰ってもいいため、帰ってくる。
 故郷のために、故郷を守る騎士団に戻ってもよいことになってる。その代わり、再び番がくると近衛騎士団として王都に行くのだが

 なるほど、つまり、お勤めが交代したから戻ってきたわけか、よかったな…………ん?なんか早すぎないか?

 なんでこんなところに都合よくいるんだ?

 近くの騎士団がいる町まで早くとも2日かかるぞ、早すぎないか?

 疑問をトウギに尋ねようとしたら、トウギは木箱から顔を出し、じっと戦場を見つめていた、その横顔にはフェイスマスクで分からないが、確実な焦りが浮かんでいる。
 いや、鎧の隙間から淡い光であったが、赤く発光している、精神があちら側にいってる合図だ


 俺も木箱の陰から顔を出して様子を見た時、そんな疑問はどうでもよくなった、まずいな魔王軍に押されはじめてる…

 確かに、ケンタウロス部隊を殲滅したのは見事だ、たぶん、俺も初めてみたが、あれが連射式の回転式弾倉を持つリボルバーライフルってやつだろう、どっかの技術国が連射の技術革新に成功したということは聞いていたが、この目で実物を拝める日がくるとは思っていなかった。

 この頃の技術進歩には目を見張るものがある、特に銃に関してはすさまじい

 半世紀前まで、銃を持つ兵は100人に一人ほどの割合で剣やアックスに比べるとかなり高価な代物、しかも距離も50間が限界であり、単弾式で発射してしまえば次弾装填、発射までに30秒はかかる、しかもその間は無防備、魔王軍も一時期銃を採用した頃があったらしいが、すたれたらしく今、銃を使う魔物はいない。しかも、うれしいことにそこで奴らの銃の知識などの時間は止まっている。

 しかし、半世紀でかなり技術が進歩した、最早、魔物どもがしる銃とは別物だ。

 弾丸の改良により悪条件でも使用が可能となり、中折れ式の採用で、次弾装填、発射まで時間の短縮、ライフリングの確立による射程距離の大幅な飛躍、術式を組み合わせた術式弾の開発など、挙げればきりがない

 しかし、いまだに高価な武器であることは確かで、あまり普及していないのも事実で、演習でもこれほどの銃隊を見たことは無い

 魔王軍、騎士団ともに弓矢や接近戦の武器が主流だ。

 今回は初めて魔物どもが経験する銃の戦闘なのだろう、だが、

 やはり多勢に無勢、魔王軍はいま一個大隊、約800程いやがる、それに比べ、テニファ様の部隊は一個中隊ほど、150名ほどしかいない、正直おされぎみだし、魔物どもも混乱から立ち直って反撃しつつある、しかも捕虜にするつもりだ、矢などに薬が塗ってあるのだろう、肩や足などの急所じゃない部分にあたっているのに、矢が当たった兵の多くは呻いている。

 兵は捕虜にするつもりだろう、人間を連れて帰って男は旦那、女は同族にするつもりだ、そして、同族にした女を戦わせ、男との間に生まれた魔物の子に人間と戦わせるという方針なのだろう…………

 なるほど、なるほど、人間は保護し、殺傷はしないということか、まるで魚を取る漁師のように、人間は商品ということか………………






 



ふざけるな

 俺たち、人間はお前たちの道具でも、商品でもない。

 同族殺しや同胞を苦しめるための生き物じゃない、同族を守るための兵士だ

「守る」為に「殺す」モノだ

 魔物が俺たち人間に手加減して戦っている、その事実だけで、体の中にふつふつと怒りと殺意が芽生え始めた。


許すことはできない、許容をはるかに超えた一片の慈悲もない圧倒的な怒り
自らの存在そのもの、大切な物を踏みにじった者に対する圧倒的な殺意

 その二つの感情に支配させる感覚
 だが、これは人間の感覚だ。魔物に近くなった時の感覚は、純粋な、どこまでも純粋な狂気、怒りなどという感情は無い



コロシテヤル、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス

 体中が暑くなるのを感じた、傷が全てふさがっていく。


 ただし、傷がなくなったからといって敵陣に突っ込んでいくなどの愚は犯さない、奴らに斬りかかる前にハリネズミになって終わるだけだ。

 だが、勝機はある、というか、隣にいるのがトウギで良かった、これが別の誰かだったら勝算のない特攻を仕掛けるしかないところだったがこいつだったからある程度の勝算が見込める。ま、勝算といっても2,3パーセント増えるだけだがな…

 トウギも俺と同じことを考えてたらしい、互いの顔を見て、頷く


 勝算は、いや、戦法は最初からあった。
 だが、あれは身がちぎれ飛ぶほどの激痛を伴う、だからなるべく使いたくなかっただけだ

 そんな自分が臆病ものにしか感じない

 何をためらう、何に臆する、痛い?慣れているじゃないか、痛みは、生を受けてからずっと、痛みと共にあったじゃないか

 連中を、魔物どもを、殲滅する日まで戦うことを誓ったじゃねぇか

 気が狂うかもしれない?
 戦いの際には、狂人となる男がないをいってるんだ、狂気は俺の師ではないか、いや、俺そのモノじゃないか……

 だったら、戦えよ

「やれ、トウギ」

「あぁ」

 頷くと、トウギの鎧が淡い光を放ち、すぐに光は消える。

 そこには、鎧が消え、ついもの騎士団の緑が基調の服を着ているトウギがいた。

 そして、そのまま、トウギは俺の頭を両腕で掴み、力を込め、自分の頭が潰される感覚を味わった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 うまくいく、このままいけば、事が進めば、うまくいく

 だが、カミンティの胸の内には言い知れぬ胸騒ぎがする。

 なんなんだ、この不安は…

 確かに連射式の銃は恐ろしいほどだった、銃があれほど恐ろしいものだということも身をもって知った、だが、それも終わりだ。

 敵の半数はすでに仕留めた、無論、殺したのではなく捕虜にするために通常のしびれ薬やギルタブリルの毒などを塗った矢で発射したため、殆どは死んでいないだろう

 兵たちの士気が高いということも救いだった、先の戦いでは敵が自爆したため捕虜は無く、捕虜のない戦いでは士気が下がってしまったことも更なる被害を出してしまったことの要因だ。

 だが、今回の戦いでは捕虜が得られる、と兵たちに鼓舞すると、指揮官のいうことに素直に従うようになった。
 己のためにでも、信念のためにでも、とにかく何かのために戦う兵ほど強いものはいない、正直助かった。

 もはや時間の問題だ、あと一刻もすれば勝てる、その後すぐに撤退だ

 指揮官は私だ、家名のことなど、関係ない、
 失敗と判断されてもいい、軍法会議が待っていようとも構わない
 兵たちを一人でも無事に帰還させる、それが、使命だ

 だが、何のだ、この不安は

「少佐殿、あと、一刻ほどで殲滅完了しますね」

 隣の副官が確認の意味を込め、言う。
 だが、分かっている、副官―ラドルフが声をかけてくるときは何か新しく報告することがあること、そして、その報告することは戦場の不安要因になりかねないことなのだ。

「何があった?」

 「あれを御覧ください」

 手には望遠鏡を持っている、その方向には、横槍が入るまで侵入者が潜んでいた場所だ。

 そこから、一人の人間がこちらに歩いてきている。距離が遠く、見えない。
 
 しかし、感じる、すさまじいまでの何か、禍々しいものを感じる。
 
 ラドルフが持っている望遠鏡をもらうと、それで見る。

 男、一番最初に侵入し、士官たちの天幕を爆破させた男ではない、初めてみる男だ。常識的に考えれば先ほど鎧を着ていた男だろう、しかし、と違和感を感じる。

 先ほどの鎧は戦うところか逃げ出した男だが、戦いの殺意どころか敵意すら纏っていなかった、だが、あの男は殺意の塊そのモノだ。雰囲気が違いすぎる、正直に言って恐ろしい

 年は二十代程、服装は騎士などに支給させるどこかの騎士団の服だが、異様だ、異様すぎる

 眼が、眼が野生の獣のように赤く輝いていた、いや獣ではない

 聞いたことがある、私の先祖、前の魔王時代の魔物に近い、いや、魔物そのモノだ

 紅の瞳がこちらを睨んだ気がした。


 気がついた時には、近くにいた弓兵に射殺せ、と叫んでいた。

 そして、矢が一斉に奴めがけ飛んでいく




 矢が一斉に、俺、俺たちめがけて飛んでくる。

 あと5秒ほどでハリネズミの完成だ。

 『やれ』

 自分の声が反響する、こればかりは何度やっても不思議な感覚で慣れない

 「あぁ、やるか」

 トウギが答える。

 本来、俺の見えている二つの眼で見る世界と異なる世界、まるで体中が眼で出来ている感覚、正直、これだけで気が狂いそうだ

 トウギは左手を上に突き出し、上に向け、平手にした右手を右腰につける、そして、左手を伸ばしたままゆっくりと胸の高さに、水平に突き出す

 腰に、ベルトが出現し、中央の石が赤く輝く、そして、トウギの全身が赤い光に包まれる

 <モード・リヴァイバル>

 人の声でもなく、獣のような鳴き声でもない、感情のない生物が発するような声が聞こえた。


「変身!!!!!!!」


 トウギの叫びが聞こえた。
 そして、そのまま俺の意識は赤い光に包まれる。



 
 
誰が止められるのか、誰が殺せるのか
止められるモノはいない、殺せるモノはいない
なぜなら彼は英雄だから
次回「英雄」
英雄は死なず、何を残すか
11/09/18 20:55更新 / ソバ
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■作者メッセージ
今回、自分の趣味に走りました。
今日が日曜だったのでちょっと合せました、本当は8時に投稿したかったのですが、まぁ、いろいろあって過ぎてしまい、夜の8時に投稿しようと思ったら某歴史ドラマ見てて忘れてました。
だって、日曜8時の番組面白いんですもの!!!
すいません、少し暴走しました。
ちなみに朝の8時で好きなライダーはギルス、夜の8時の好きなドラマは風林火山です。どっちも泣けた。
ご意見、ご感想お待ちしてます。

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