連載小説
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「逆襲」
 魔王軍<陸軍>オルフェルド方面隊は多大な損害をだした為、現在は僅か二個大隊(約1200名)程の魔物がローグスロー騎士団の砦となった城を占領し、本来魔王軍は魔物の種類ごとに大隊は編成されるが、それができないほど先の戦いで損傷してしまったために、混成大隊を一時的に編成、それによって戦線を維持している。しかも、頭数には戦闘を行える負傷兵も混じっているため、実際は戦力としては大分低いことは予想できる。

 城壁の内側、外庭の一画にある天幕の中では生き残った将校たちや編成部隊の大きな割合を占める種族の部隊長、それと3人の魔術兵が簡易机を囲んでいた。
 しかし、将校と言っても、七人しかいない。それも将校といっても殆どが兵学校を出たばかりの士官たちと、本来ならば攻城戦、平野戦には向かないオークなどの所属による部隊などの部隊長など、はっきりいって、彼らには向いていない仕事だ。

 しかし、現在部隊を指揮、運営できるのは彼らしかいない。なぜなら、先ほどの戦いでは多くの将校が戦死または負傷、戦線を離脱してしまい、新米の士官たちは戦場の後方で援護を行っていた。

 だが、何度か敵が少数で背後から奇襲攻撃を行ったため、その時、部隊に被害も出たが、前線で指揮を執っていた将校よりも戦死・負傷した将校の数は少なかった。
 そのため、前線で戦っていた部隊よりもかなり損傷率も低く、再編も可能である隊もある、兵と将校が生き残っただけでも御の字である。


 無事な将校で最も階級が高く、現在、二個大隊を指揮しているデュラハンのカミンティ・ノッグレス少佐であった。
 少佐は目の前に机に広げた紙に城の見取り図を見ていた。

 本来ならば、城の焼け残った天守か主塔の一室でも使いたかったが、城に入ってから城中に仕掛けられた罠があちこちで作動し、天守や主塔も例外ではなく、すでに天守の中だけで16人が死んでいる。そして、また爆発がどこかで起こり、その振動が天幕の中に伝わった。

 しかし、部隊を指揮しているカミンティ少佐は多少の振動に気がつかないほど、疲れ果てていた。
 頬がやつれ、眼の下には大きな隈ができ、本来の髪は艶と張りがある銀髪であるが、ぼさぼさで、土煙りにまみれ、外見からも疲れている様子が分かる。

 カミンティ少佐はまだ31歳ほどの若い魔物であったが、すでに魔界にある東部の一画を治める貴族の当主であり、その貴族としての血には僅かながらに先代の魔王の血が混じっていた。そのおかげで、出世できたことを彼女自身自覚していたし、部下からも無能な指揮官、という評価を受けていることも分かっていた。だが、今まで思ったように戦果が出せなかったことも事実であり、焦りがあった。

 撤退した方面軍指揮官、軍団長グレンテァ中将の命令は、援軍が到着するか撤退命令がくるまで城を掌握し戦線の維持であったが、城中は罠だらけで、しかも、迷宮のように複雑(わざと迷宮のようにデザインされて作られたのではなく、城の増築、改修箇所が至る所に見れるため増築を重ねたために迷宮のようになってしまったのだろう)、現在、この城の中を部隊が通路などを調べ、見取り図をつくっている。(なぜ、見取り図を製作しなければいけないかは後述する)

 しかし、任務の城の掌握どころか、城に駐留しているだけで罠によって兵力減衰による戦線が構築不能になり撤退、というわけのわからない状況に陥る可能性すらあった。
 
 もしも、そんな状況になれば指揮しているカミンティ少佐は左遷で済めば良いが、貴族階級としての剥奪、お家お取りつぶしという知らせが届くかもしれない。

 もしも彼女が民衆出身ならば、そんなこともないのであろうが、魔界の大領主でもあるため、軍内部での権力闘争が激しく、少しでも彼女を蹴落とす機会を狙っている者たちにとって、彼女の失敗は格好の餌でしかない。
 それだけは何としても避けなければならない、焦りながらも城の見取り図をつくって城を掌握する必要があったのだ。

 ちなみに、城の見取り図の作成にあたっては、今も城を索敵している部隊の前世紀のような伝令の報告がメインだ。魔界であったなら、通信用の魔術などを使って交信を行い、逐一情報が更新できるのだが、先の戦いで魔術兵の多くは前線に配置されたため、戦死。
 大隊にも生き残った魔術兵はいるものの、先ほどの戦いで魔力を損耗し、戦いが終わってから天幕の中で横になって寝ていたが、完全に回復するまであと10日程かかるため、よほどのことがないと使うことができない。
 
 いや、そもそも、魔術兵の人数も4人、それに魔界と違って、人間界には空気中に魔力があふれているわけではないから使える魔法も限られてしまい、魔力の消費量も段違いである為、どの道使えない。
 それに一人は外庭に陣を張る際、無理をして罠などが仕掛けられていないかを調べてもらい、現在魔力切れで、別の天幕の中で寝ている。活動できるのは天幕の中にいる三人だけだ。
 
 ここで、先ほどでてきた魔術兵という単語も含めて、現在の魔王軍について説明する。
 もともと、先代の魔王が、魔界に侵攻して村々を襲う人間や勇者などに立ち向かうために各地に点在していた村々の自警団などを魔王が統括し、また、人間界に侵攻するために作りだした軍隊であるとされる。
 
 これは今の魔王の代になっても変わらずに存続されたが、最近人間側で武器の技術革新やそれまでの傭兵に頼った戦いから騎士団、市民軍などの設立と集団組織戦法の確立など、様々なことが起こり、約半世紀ほど前に軍を再編、それまで魔術部隊、騎士団、勇者部隊などには分かれていたが、あまりに大きなくくりであり、部隊長の権限などもあいまいな部分が大きかった。
 その為、種族ごとによる部隊編成、階級制度、兵科の設立、戦略単位としての軍の部隊編成などの確立など改革を実施した。 
 
 魔術兵も兵科の一つで、かつての魔術部隊であったが、他の兵科と違い、種族によって適正が出るため、現在でも供給が不安定であり、確固たる確立には至っていないのが実情である。

 カミンティ少佐は悩んでいた。
 彼女の経歴も、出身も何の汚点と呼べる汚点はなかった。
 士官学校を卒業し、幾つかの反乱の鎮圧などの実戦を経て士官候補から、魔王軍は人員の交代が早いため、異例の若さで上級士官となった経歴を持ち、元々デュラハンという種族はかつての魔王軍精鋭部隊、魔王騎士団の中軸を担うほど用いられている。魔王騎士団が解体され、騎兵部隊となる前の、騎士団最後の団長は先代のノッグレス家の当主、つまり彼女の母親であること、それと貴族としての血が彼女の異例の昇格の早さを後押ししていた。
 オルフェルド方面隊第二大隊の大隊長に赴任してすでに4年、しかし、部隊を掌握することろか、部下に無能者という評価を受けている。
 これが彼女の初めての挫折であった。
 
 その理由として、異例の若さの出世と、前任の第二大隊隊長、名将とうたわれ、最期は残存部隊を救うため、自ら前線にでて指揮を取り、残存部隊を救出に成功したが、戦死した―勇猛果敢とうたわれた名将パルテノ・バルクホルンであった。
 
 カミンティも決して無能な指揮官ではなかったが、魔王軍の歴戦を勝利に導いた名将が前任者では、カミンティは哀れな道化にしてしまった。
 その実力はあまりに貧しいものとして兵たちの目には映り、無能な指揮官、と陰口をささやかれることがカミンティを苦しめる一つにもなり、必要以上に他人の目を気にしてしまう癖がついていた。今も天幕の中で同席している将校たちは笑っているに違いない、戦死報告が届く度に、部下たちの視線を感じる。

 城の見取り図一枚作るのに何人の兵士を無駄死にさせるとつもりなのか、あの士官様は。やはりパルテノ様が生きていればこんなことにはならなかっただろうに。

 そんな風に部下たちは心の中で私を蔑んでいるに違いない、彼女は冷笑にも似た軽蔑のまなざしを感じていた。
 
 

 そんな自責の念とも、自己嫌悪とも判断しずらいモノにかられながら、しかしなんとまぁ魔物をどこまでも苦しめる城だろう、城の見取り図を見て、悪意に満ちたものを感じた。まるでこの城までが自分のことを嘲笑っているかのようだ。
 半世紀以上前からこの砦は難攻不落の城とされた。カミンティ自身も何度か部隊を指揮し、戦ったが、この城はとても落とせるものではない、というのが率直な感想であり、この砦を落とすには多大な犠牲がつくと思っていたが、その通りになった。

 魔王軍が長年にわたって計画していた『サイモンの涙』作戦
 これは長年戦線膠着が続く戦域の、魔物排斥運動などがひどい反魔派の国家、領地などに面している方面隊の砦に残す兵力はあくまでも管理に必要な人数しか残さず、防衛に必要とされる兵力・予備役の者すらも戦線に投入し、一気に反魔派の領地や国の首都まで進軍、そして反魔派の撤回と親魔派への改宗などの条約などを取り付け、そのまま在留する、といった作戦と呼べるかどうかも分からない、力づくの作戦であった。

 軍記物にでてくる鮮やかで手品のような作戦と、本来行われる作戦などはこのような力づくなものだろうな、とカミンティは作戦概要を聞いた時に感じた。
 一方で手薄となった方面軍の砦などは魔王軍中央軍が一時的に守護する、といったこととなっているらしい。援軍が来ることとなれば中央軍だが、装備からしてそれは無いだろう。

 そもそも援軍を用意することなど、作戦には含まれてはいない。
 それ以上の兵力を持ってくる作戦なのだ。

 方面隊としての抽出した戦力は一個師団、約17000名というすさまじい数であった。

 この時代、魔王軍に所属している魔物の数などは決して多くは無く、そして、人間側も人口が減少傾向にあったため、中規模の戦闘では両軍合わせて1000名ほど戦闘に投入される数であり、いかに多いかが分かる。

 そしてオリフェルド方面隊の敵、たしか、ローグスロー騎士団だったか、その騎士団も約800名ほどであることも分かっていた。
 この数を前に、敵は濁流にのまれる小石でしかなかったはずであった。

 しかし、ふたを開けてみると、逆にその人数があだとなってしまった。

 まずこの作戦が秘密的に計画されており、そのため、大規模な軍事演習を行えずに作戦を決行(中隊規模程度の演習ならば行えたが、実戦では布陣に倍近い時間をかけてしまった)、そのため、部隊は混乱した。
 それに兵たちに大きな疲れがあったことも事実である。
 
 確かに親魔派の領地とは戦闘行動を行わないが、彼らが援護してくれるわけでも、補給があるわけでもない。
 かといって、領地から軍の行進に必要な物資−兵站などを親魔派の村々から略奪を行えば親魔派から反魔派へと鞍替えする。
  
 つまり、大規模な輜重部隊が伴うのだ。
 輜重部隊はこれほど大きな作戦で人員を割いたのも初めての経験であり、この作戦は進軍のスピードが重視され、その為、進軍速度の遅い輜重部隊が取り残され、満足に補給も受けられない状態に一部陥った。兵に無理をさせたのが疲れとなったのである。

 また、敵は少数部隊を組織、異端者ということもあり、布陣が完成する前、こちらの矢や投石機(まだ魔王軍では人間側ほど火器類が発達しておらず、攻城戦においての遠距離攻撃の最大の射程を誇る武器は投石機などであるが、数が少なく十分にいきわたっていない)の射程に入る前、砲火や異端者として何らかの特殊な力(術式ではなかった)を浴び、兵の約3割が負傷、約1000人ほどが戦死した。
 
 その後も後方や側面からの奇襲攻撃、地の利を利用した巨大術式など、様々な攻撃を受けた。
 事前に敵の砦の内部からかく乱させる作戦があり、それがオリフェルド方面隊の最期の一手となるはずの、もう一つの作戦があったが、動揺したのは最初だけであり、あまり効果がなかったらしい。

 が、やはり多勢に無勢、魔王軍の猛攻の前に敗れ、魔王軍は何とか城を陥落させた。

 しかし、魔王軍オリフェルド方面隊一個師団の戦力は著しく低下、それにかつて3世紀ほど前にカルゲルデンソロスの停戦条約の際に結ばれたもう一つの人間の取り決め、

 <薄氷協定>とも呼ばれる戦争の取り決めなどをこと細かく決めた協定であるが、その協定に違反したこともここで侵攻を頓挫させる理由の一つになった。
 

 魔王軍は城を陥落させる直前、隙を突かれ城から馬車などで逃げ出す一団があった(完全に城を包囲できず、また魔王軍の中でもかなり損害が生じてしまい、部隊によっては壊滅してしまったところすらある)、それを確認したマミー部隊(本来マミーは砂漠の魔物であるが、作戦が立案された当初から部隊数が足りず、中央軍に増援を頼んだところ、砂漠方面隊で余っているマミー部隊が増援部隊として贈られたのである)が追撃を敢行した。

 しかし、逃げ出した人間の方が地の利があったためか、近くの町にあるあたりで巻かれてしまった。それだけならば問題は無いのだが、追撃隊のマミーが飢えていたということがまずかった。
 魔力を先の戦いで損耗し、彼らは飢えていた。

 精などを渇望するあまり、町の中を食料として家畜に手を出し、早い話が強奪などを行い、ここが城の中であると思考能力の落ちた頭で判断してしまい、町に火を放ってしまった。
 
 マミー部隊は攻城戦を行ったつもりだったのかもしれないが、「戦力を持たない町」に「略奪などの武力を伴う行動」、挙句の果てに火をつけ「町を破壊」してしまった。
 これは明確な<薄氷協定>違反であり、例え戦力がまだ十二分にあったとして、そのまま進軍し、領主の治めるラヴェ・カイエンを占領して親魔派になる協定を結ばせても、<薄氷協定>違反であるとして無効と通達してくることは確実だ。

 いつもならば、近くの騎士団の仕業にするのだが、逃げ出した連中がいるため、それも不可能、それどころか、騎士団の連中の仕業にして下手すれば、他の方面隊の戦果もだめになる可能性すらある。

 それだけは避けるため、この城を陥落させただけでも戦果とすることにしたのである。
 
最大の勝利条件は満たせなかったが、計画の第二目標『ローグスロー騎士団の壊滅』は果たせた。これでこの領地の戦力は大幅に低下する。あとはもう一度隊を再編すれば、ラヴェ・カイエンまで進撃も可能だろう。そう判断したため、中将も含めた負傷兵などは撤退することになった。
 
 負傷兵などは国家と魔王軍の条約で治療のために親魔派の領地の兵力をもった町で治療することも可能である。(しかし、再度戦線に兵士として投入することは不可能になるのであるが)


 無事であった将校などで、大隊クラスを指揮したことのある者はカミンティのみであったことや、カミンティ率いる部隊の損傷率も低く、そのまま無事であった部隊がカミンティの部隊に編成させる形となったこともあり、カミンティがこの大隊を指揮する理由となった。

 最初、カミンティはこの城に入り、城の外部からではなく内部から見た光景は輝かしいものであったのだ。
 
 半世紀にわたって魔王軍の魔物を苦しめ、決して魔王軍の侵攻を許すことは無かった城。
 しかし、これからこの城を動かしていくのは魔物であり、人間ではない。
 今度はこの城に人間が苦しむ番だ。

 そのことが城に入るまで愉快でたまらなかったが、次々と出てくる損害報告を聞く度、高揚した気分は冷めていく。
 
 城の中を歩くだけで部隊に大きな損害が出た。
 
城中に罠型の術式が仕掛けられていたためだ。
 
 最初は解除させるように命令を出したが、その術式が高等術式で解除は術をかけた本人しか解除できないこと、解除せずに無効化するためには、この術式が龍脈などの大地の力(魔力か精に相当する)を利用しているため、城の見取り図などをつくって、その術式に力を与えている龍脈などの記号を全て変え、術式の魔力供給を寸断させ、無効化する方法しかない。
 
 その為に、城の見取り図をつくるしかなかった。
もしも、下手に一部だけ記号を変えてしまうと、この城の術式と在留している魔物の魔力に影響してこの辺り一面が吹っ飛ぶ可能性もある。
 それだけは避けるため、見取り図を製作し、記号を調べるしかなかった。
 
 今も天幕の中で3人の魔術兵が未完成の見取り図を見ながら、あれこれと話し合っている。なにを話しているか、専門用語が多すぎてわからないが見取り図さえ完成すれば、二刻ほどで全て記号が分かるらしい。

 どのようにして一斉に記号を変えるかは魔術兵に任せるとして、退却命令がおりた際、どの部隊から退却させるべきか、などを考えていると、いつの間にか、カミンティにゆっくりと睡魔が襲ってきた。


「お疲れのようですね」
 それに気がついたナイトメアの将校が声をかけた。
 その声に目を覚まし、カミンティは周りの将校や部隊長も自分を見ていることに気がつく。

 すまん、と言って咳ばらいをしつつ背すぎを伸ばし、姿勢をただしたが、眠い。

 「カミンティ〜少佐は〜ずっと〜がんばって〜らっしゃいましたから〜お休みに〜なられた〜方が〜〜良いですよ〜〜〜」
 
 カミンティよりも寝むたそうな声で、この大隊では13%の割合を占めるゴブリン部隊の部隊長であるボブゴブリンが進言し、周りの将校、部隊長がそれに頷き、同調の姿勢をとった。

 睡魔に襲われた状態ではまともに考えなどできないし、効率も悪い。それに、と見取り図を見ると8割程が完成しており、ここまでくれば大丈夫だろう。

 今も城の中を詮索しているマミー部隊の伝令兵が、報告書の入った封筒を携えて天幕に入ってきたところだ。

 このまま自分がいなくとも平気だろう、そう判断し、その言葉に甘えることにした。

「あぁ、そうさせてもらうよ」

 思えば確かに戦闘が終結してから一睡もしてない。
 これは彼らなりの善意だと感じた。

 カミンティは腰を上げると、隣に立っていた副官と共に天幕から出ていく。


 空を見ると太陽はもう西に傾き、ここから地平線に沈む夕日は城壁に隠れてしまい見えないが、もう空が夕焼けから夜の黒に少しばかり朱が混じっているような空になっている。

 すでに城の見取り図は完成しつつある。記号の解析も早ければ今夜中には終わるし、二個大隊も駐留している。

 事前に調べていた情報だと早ければ敵が明日中には来るかもしれないが、明日には間に合う。
 そうなれば安全だ。

 そんなことを考え、士官用に与えられた別の天幕に足を進める。
 簡易ベットがある天幕の中に入ろうとした時だった。



 今、士官たちが集まっている天幕から術式が発動する精を感じた。



 ふりかえる前に爆風と爆音がカミンティを襲い、天幕の布に頭から突っ込んでしまい、そのまま布を挟んで地面の土の固さが痛さとして伝わった。


 カミンティが顔を上げ、士官たちが集まる天幕を見ると、

紅蓮の炎が天幕を焼いていた。

 かろうじて天幕の骨組の鉄だけが見えるが、他は炎に包まれてしまった。

 現状を飲みこめた兵たちが延焼を防ぐため近くの天幕を取り壊す者、堀の水を汲みに行き消火しようとする者、様々な行動が見れたが、カミンティはそんなことはどうでもよかった。


 なぜだ、それが最初に浮かび上がった怒りに似た感情に似たものであった。

 いつも自分は最上と思える行動しかしない、いや、それしかしたことがなかった。

 家のために、魔物のために、いつも何かのために最上と思える行動しかしたことがなかった。しかし、その何かを行うたびにいつも邪魔が入り、評価が正当にされることがない。

 たとえば、今回のようにいつもあと少しで完成するというところで、積み上げた煉瓦の塀が倒壊するように、音を立てて崩れ落ちる。

 この方法は大方、伝令兵の持ってきた報告書に、報告書の封筒を開くと爆発する術式などが仕掛けられていたのだろう。かなりオードソックスな戦術だ。

カミンティは同じく吹っ飛ばされ、隣で呆然としている副官に叫んだ。

「…城の内部で情報収集を行っている部隊を集結させろ!!!敵はこの城に潜んでいる!!!不審者を発見次第、抵抗するなら殺せ!!!」

即座に反応できなかったが、副官は我に返ると復唱し、すぐに走っていく。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 燃える魔王軍指揮官たちがいた天幕を見ながら、顔に巻きつけたマミーの包帯を少し緩め、包帯を炎に投げ捨てた。

 すぐに炎は包帯を燃やす。


 運が良かった。それが感想だ。

 最初は城に潜入するのは日が沈んでからにしようと思ったが、城門の跳ね橋が上がっているものの、城壁通路には見張りの兵がおらず、時々天守から煙が上がっているため、まだ敵が見張り兵を置くまで城を掌握していないのではない、と判断
『魔法紙』の一枚を使って城壁に飛翔、まぁ、飛翔というより、脚力をすさまじく底上げし、城壁通路に上がったのだ。

 案の定、敵兵の姿がおらず、そのまま城壁通路から主塔に侵入し、外庭に陣を張る魔王軍を観察することとした。

 外庭に陣を張るのは悪くない判断だ。このまま主塔か天守にでも拠点を張れば兵力はかなり減退する。こちらとしてはそうなってほしいが、だめか……

 とりあえず、観察して敵のおおよその数、命令方法、主塔、天守から出てくる魔物部隊の装備や状態等を観察、そのうちに将校たちのいると思われる天幕を見つけた。

 その天幕に入っていくマミーを、そのマミーを見てある作戦を思いついた。

 マミーの数を確認する、決して多くは無いが部隊数はそこそこ
 そしてマミー部隊の一部隊、数は3体が天守に入っていくのを確認すると、天守に通じているまだ連中も知りえない、術式でつくられているため暗号を唱えないと開かない、改修の際に利用する通路を走った。

 確かに蟻のように外庭でわらわらと蟻のように動いている魔物どもに斬りかかっても魔物は混乱する、だが、働き蟻を潰すよりも女王蟻を潰す方が働き蟻どもも混乱する。

 副団長が教えてくれた戦術だ。それに割に合っている。

 しかし、その作戦を実行するに必要な物はマミーの包帯、マミーの包帯は特殊なもので決して一般的な包帯では一瞬で分かってしまう、ならば、その包帯を奪うだけだ。

 あとは中略するが、まぁ分かるだろう、皆殺しだ。
 いや、マミーはアンデット種だから死体だから物だろうし、正確には「殺す」ではなく「壊す」だろう、つまりは皆壊しだな


 その後、奴らを皆壊しにすると、包帯を奪い、自分の顔に紋章を刀で刻んだ。

 回復能力があるとはいえ、かなり痛い。いや、めっちゃ痛い…………この能力は便利だが痛覚は残ってるのが難点だ。ちくしょう、めっちゃ痛い

 回復能力を持っている異端者はローグスロー騎士団に28人いたが、回復能力は大きく分けて2パターンある。

 問答無用で傷が自己回復していく者、こいつは自分の認識していない傷も自動で治っていく。

 そして、もう一つ、俺のタイプは傷を自分で認識し、そして傷に意識を向けないと回復することは無いタイプ

 よって傷に意識を向けないと傷は回復することは無いのだ。

 ああ、ドチクショウなまでに、めっちゃ痛い。

 だがマミーの包帯は魔力が纏ってある、このままマミーの包帯を巻いて魔物化なんて嫌だ。そんなことなら敵陣に突っ込んで自爆した方がましだ。

 だが、この紋章を刻むことによって魔力を防ぐことができるが、難点としては皮膚に直接刻まなくてはいけないことぐらい、だ。めっちゃ痛い

 なんとか紋章を刻み、顔がわからないように包帯を露出しているところに巻く、そして魔王軍の鎧を身につける。

 なるべく、自分と同じ背丈の奴の鎧を身につけた。

 誤差2寸ほどでこれほどならば分からない、顔は包帯で隠しているし、胸などは鎧で分からないといった寸法だ。

 本来マミーは鎧などを着るタイプじゃないが、マミーに適していない戦場のために鎧を着ていたのだろう、正直助かった。

 騎士団の鎧を置いていくことは少し未練があるが、騎士団の鎧なんて着ていったら、即座に囲まれる。場所と時が時だ、仕方ない、魔物の武器がばらばらだから刀を捨てることがないのが救いか…………

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 そして、今に至る。

 運が良ければこのままごたごたにまぎれて撤退が望ましい。

 だが、
 だが、そんな気分になれなかった。

 世の中すべてが赤く染まる、

 目の前で、慌てふためいている魔物全てが、全てが倒すべき存在だ、その倒すべき存在を倒すべく、刀を抜いた。

 刀は最初から赤、いや、精神が魔物化に近いことを示し、警告を示す、今の空のような夜の青に限りなく近い夕日の色だ。

 
 目の前にいた魔物、オーク二体が俺に気がつき、すぐに構えをとった。
 魔物からしても、俺は異常なのだろう、正解だ。

 楽しい、楽しい、楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい

 楽しくてたまらない、殺そう、殺そう、楽しく殺そう

 走った。
 

 逆襲の始まりだ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ドスッ

 左足のひざ裏に突き刺さった矢で、あちら側からの意識から戻った。
 
 後ろを見ると、ケンタウロスが一騎、弓矢を構えてこちらを狙っていた。

 いや、ケンタウロス一騎だけではない。
 城壁通路には魔物はいないが、あちらこちらから弓兵が狙っている。

 周りの倒れている魔物の数は20かそこら、まぁやるだけのことはやったな。

 そんなことを考えていると、更に背中に衝撃が走る。今度は何本刺さったかわからない。

 思わず、倒れる。

 倒れてからも次々と容赦なく矢が刺さる、ひでぇな…………
 
 
 少しだけ腕に力にこめ、立ち上がると、連中を見た。

 どいつもこいつも俺のことを見ている、特に、指揮を取っていると思われるデュラハン、めっちゃ睨んでる。俺によほど恨みがあるらしい…………あれは本気で殺す眼だ

 矢が飛んでこない、指揮を執ってるデュラハンがなにか言ってる、俺に言ってるのではなく、周りに命令を出しているのだろう

 そして、にこりとほほ笑むと、右手を挙げた。

 右手を振り下ろすと同時に矢が一斉に飛んでくるのだろう


 あぁ、ドチクショウ

俺もにこりとほほ笑んだ。

……………俺にしちゃ、頑張りましたかな。オルフレッド様……………

デュラハンの右手を振り下ろすのが見えた、そのまま眼をつむる





















 あれ?痛くねぇ

 眼を恐る恐る開けると、目と同じ高さ、つまり地面に何十本、何百本という数の矢が落ちている、いや、今も進行形で矢がガラガラと音を立て、落ちて積み重なってる。

顔を上げると、風が、俺の前に巨大な風の壁ができてる。

風の壁の前に、よく見知った鎧、全身をすっぽり白と灰色が基調の鎧を纏い、肩が異様にでかい特徴のある鎧だ、顔面を隠すフェイスマスクを上げるとその下から、二十代後半、黒髪が特徴的な、女が好みそうな優男の顔の、人の弱みになる、そんなものを見つけた時の満面の笑みだ。

「よっ、セルセ。また僕の助けが必要かい?」

 
 その顔を見た時、正直驚いた。
 
 なんて言ったらいいか分からず、出た言葉は、

 「おせぇんだよ、馬鹿が」


俺は、その場でできる最大の笑顔を奴に向けた。
奴の笑顔が安心できる日が来るとは考えたこともなかったな





彼らを動かすモノは、意地か誇りか?
守るモノは何なのか?
それは誰にも分らぬ、彼らにしか…
次回「仲間」
新たなるルーレットは回りだす
11/09/16 00:10更新 / ソバ
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■作者メッセージ
えー、今回は自分の中で最悪の回です。
魔王軍の編成どうしよう、と悩んでおり、最初は第二次大戦中の英軍をモデルにしようと思っていました。
しかし、なんだかおかしな方向に行き、最終的にはなんだこの軍隊、つーか軍隊じゃない!!自ら突っ込み所満載でお送りする回となってしまいました。
…6回ぐらい書き直したんじゃないかな。
軍隊に関して、これからも設定が変わるかもしれませんが、どうかお願いします。

あと、今回、バトル大幅に削っちゃいましたが、文字数5万越えでしたので大幅にカットしました。

いろいろとすいません。
ご意見、ご感想お願いします。

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33