連載小説
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『マイナスな気分』をそとに追い出しているのだよ
「ラスト一回じゃ!」
「はああぁぁ!」
 前に現れた人形を殴り倒し、後ろから接近してきた二体を振り向きざまに、回し蹴りで蹴り飛ばす。
「・・・うむ、終了じゃ。」
 そういうとトコトコと、少女―バフォメットのカプリコーンが歩み寄ってきた。
「どうだ?」
「ふむ、気力体力技量、どれをとっても文句なしのSランクじゃ!」
 私、東雲龍紀は昨晩散々カプリコーンとのゲームに強制参加させられ、徹夜で現在フラフラだ。
「・・・飲み物。」
「ああ、ありがとう。」
 スピアから、キンと冷えた水を貰う。生き返るようだ。
「しかし、どう育てばこれほどの力を?しかも、ヌシの世界では魔物はいなかったのじゃろう?」
「我が家の教育方針だ。」
 まさかこのような形で役に立つとは。
「朝飯にするか。」
 先頭きって行くのが、バハムート。酔いがさめたようだ。
「私はもう寝るぞ・・・。」
 ・・・憎むべき仇敵。ヴァンパイアのシルヴィア=ヘルゴールド。この者のせいで、私は徹夜する羽目になったのだ。許すまじ。・・・まあ、今は朝御飯と睡眠が大切だ。
「ちょっと。」
 ん?えーっと誰だっけ?
「今日町まで買い物に行くんだけど―」
 ああ、そうだ幼児退行のミリアムだ。町までの買い物か。うむ、この地域のことを知るにも、ぜひついて行こう。何なら荷物も持ってやるか。
「荷物を持ってやろうか?」
 どうせすぐには帰れないし、だからと言ってやることがある訳でもない。いまさらに感じるが、私の生活は生徒会の職務に埋め尽くされていたんだな。
「―よかったら一緒に・・・へ?」
 何を呆けた顔をしているんだ?・・・まさか、昨晩のことを思い出そうとしているのか!?
「べ、別に。勝手についてくれば?」
「そうか、なら遠慮しよう。」
 時間があるとはいえ、無理について行かなくてもいいか。スピアなら、頼めばいつでも連れて行ってくれるだろう。
「い、いや、町の案内とかもしてあげるから。」
 ・・・怪しい。一体何を企んでいるんだ?
「・・・判った。ついて行こう。」

―ふう。何とか怪しまれずに済んだわね。さすが私。エルフの鑑ね。実は昨日のシルヴィア様の一言が気になって、一睡も出来てない。だから、買い物に行くより、寝ていたいんだけど・・・。
「?、行くなら早いほうがいいのではないか?」
 やっぱり、シルヴィア様の一言が気になる!だから今日は眠いのをガマンして、この女・・・じゃなかった。男をテストしてやるわ・・・!

―なんだ?ミリアムの奴、さっきからちらちらと人のほうを見てきて。
『お前に気があるんだよ!』
 バカは休み休み言え。あの目はどう考えても、何かを知ろうとしている眼だ。
『お前がレズかどうかを知りたいんじゃないのか?』
 フムフム成るほど・・・いや!私は男だ!レズではおかしいだろう!
「・・・どうしたの?顔が物凄い憎しみ色に染まっているわよ。」
「本当の敵は己にあり。という言葉をかみ締めていたのだ。」
 ふうん。といってまた前を向いてしまうミリアム。
『・・・きわどいスカートだな。』
 何処を見てるんだ悪魔。張っ倒すぞ。
『ええ!?見たい見たい!』
 そこで反応するな!バカ天使!・・・まあ、わが学院だったら確実にアウトなレベルだな。
『『見てるじゃん!』』
 バカをいうな。チェックだ。ただのチェック。
『なに!?チェック柄だと!』
 違う!そういう意味でいったんじゃない!第一、それでは、私が本当の変態ではないか!
『えー、縞パンがよかった・・・。』
 いちいち出てくるな!くそ!腹立たしい。
「本当に大丈夫?」
 心配そうに覗き込んでくるミリアム。あまり大丈夫ではないが、ここはガマンだ。そのうち天使と悪魔両名死刑だ。現在は特別に執行猶予期間だ。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 マズイ。会話が無くなってしまった。何か話題を・・・。
「なあ。」「あの。」
 かぶった!最悪のタイミングでかぶった!何コレ虐めか!?
「さ、先に聞こう。」
 よし、何とか途切れさせなかったぞ。ファインプレーだ。
「その、行けない場所からどうやってきたの?」
 ・・・・・・?
「だから!バハムートから聞いたけど、ジパング出身なんでしょ!?」
 大声で怒鳴らなくてもいいと思う。
「旅先で『対の鏡』というものに取り込まれた。」
 ミサがウソをついていなければ、コレが理由。ただし―
「よく、『対の鏡』に魅入られたわね。」
 そう、そこが最も疑問な点。何故私なのだ?
「たいへんだねー。」
「全くだ。私には書類の作成や、来年度の予算の編成。クリスマスパーティーの段取りや・・・うん?」
 あれ?いつの間に三人になったんだ?
「?」
 ミリアムの反対側には熊のような女性が一緒になって歩いている。
 ダッ!  ←ダッシュの音。
 ガッ!  ←ミリアムが腕を掴む音。
 ガブッ! ←熊(仮)が噛み付いた音。
「痛っ!噛む必要は全く無かったよな!?」
「逃げるなんて失礼だよー。」
「ごめんねリリー。この人は東雲龍紀って言うんだけど、魔物がいない世界から来たんだって。」
「そんな世界があるんだー」
 眠そうな眼をしているから、まったく驚いているように見えない。
「それより、蜜は集めなくていいの?」
「そうだったー。ミリアムが女の子同士で歩いているから、つい。」
「うむ、仲良きことは美しきかな。そして、私はおと―ムグッ!?」
「ふぇ?」
「なんでもない、なんでもない。私達は先を急ぐから!」
 おいいい!!待ってくれ!このままだと私が女に!
(黙ってなさい!)



「・・・一体どういうことだ・・・!」
 コレでもしあの熊が『別の世界から女の子が来たよー』なんて言いふらしたらどうする!・・・あれ?男でも変わらないか?いや、今はそこが問題なのではない!私の男の尊厳を否定したことが問題なのだ!
「これ、ちゃんと読んでおきなさい。」
「ん?『魔物図鑑・改』・・・?」
 何だこの本。しかも改ってなに。そんなに改って付けるほど生態が換わるものなのか?魔物って。
「旧魔王に代わって、新魔王になってからは、魔物たちの主食は『男の精』になったのよ。」
 うん、全く持って意味がわからない。
「それではまるで、新魔王?とやらが、物凄い好色家のように聞こえるぞ。」
「そのまさかよ。・・・まあ、私は興味ないから知らないけどね。」
 何その無責任な発言。・・・まずいな、このままでは私の夢見る初体験が・・・!
『大丈夫だろ?女っぽいし。』
『こんなところで役に立つとはな。』
 ・・・否定できない・・・!
「このページ見てみなさい。」
「ん?」
 開かれたページには、先程の熊の特徴的な耳や、手足をもった(当然別人・・・いや、別熊?)『グリズリー』という魔物の説明があり―。
「・・・!」
「発情する熊と交尾するのと、一時の恥。どっちが大事?」
 いうまでもない。自分の貞操だ。
「そ、それ、よかったら買ってあげるわよ?」
 いや、さすがにそれは申し訳ない。日本円が使えるのかは知らないが、
「大丈夫だ。」
 まあ、出すだけ出してみよう。
「2500ギャースじゃ。」
 腰の曲がった死にそうな・・・いや、たいそうなご高齢のお爺さんだ。・・・といより、ここではお金の単位が『ギャース』なのか・・・?
「?、どうしたのじゃ?」
「い、いや・・・。」
 今は、二千円札が無い。仕方ない。野口さん二人と、五百円玉で。
「・・・なんじゃ?この紙切れは。」
 ・・・まあ、想像ついたが―
「おおおぉぉぉ!キンじゃ!金を持っておる!」
 ?金?ああ、五百円玉か。まあ、綺麗な奴を選んだし―。
「ちょっ、本一冊にこんな大きな金出すなんて、どんな了見してるのよ!」
「これ、外がメッキになっているだけで、中は別物だぞ?」
「おおお、キンじゃ!キンじゃ!」
「おーい。」
 駄目だ。凄くテンションがハイになってて、聞いてくれないや。
「これで。」
 よこから、変な女の人が書かれたお札を出すミリアム。
「いや、じゃが・・・。」
「こ・れ・で。」
 有無を言わせぬ口調。ああ、おじいさんに悪いことしたな・・・。

―その後、町を巡りながら、ミリアムの買い物に付き合い、途中で下半身が蛇の人に、この服どお?と、メイド服を出されたり、クモみたいになっている人から、この服着なさい。とゴスロリ服をだされながら、町を一通り廻った。

―「遠慮する。」
 ・・・また服屋に捕まってる。コレで何軒目よ。そもそも、女の私より声がかかる(私は一度も無いけど。)っていうのはどういうこと?しかもさっきは、本屋で金を出すし・・・。
「もういいのか?」
 帰途についた私に、後ろから声を掛けてくる。声色からして既に、男っぽくない。きわめて中性的な声。
「・・・・・・。」
 なんか納得いかない。
「キミ、人が話しかけているんだ。返答ぐらいするのが最低限のマナーだろう?」
「なんで、説教してんのよ。」
 意味不明。どうせそのうちいなくなるのだから、仲良くしないほうがいい。私の両親が、人間同士のくだらない争いのせいで、あっけなく居なくなってしまったように。
「別に。ただ、初めてまともに会話できる相手にあったからな。」
 ・・・今のアイツからは、なんともいえない哀愁が漂っている。
「・・・・・・。」
 本当にこんな男が頼れるんですか?シルヴィア様・・・?

―まったく。落ち着いた今だから思えるが、本当に変な奴にしかあっていない。『お前も蝋人形にしてやろうか!』と叫ぶミミック。人のことを着せ替え人形にしようとするドラゴン。なぜか『・・・私が嫁。』と言い寄ってくるデュラハン。全く統制の取れていない『グールツインズ』(三人だけど)。やっと人にあったと思ったら(最初にも四人会ったが、人として論外。)今度はゲイでブリーフだし。思い出しただけでため息が出る。ため息ク○ーバーだ(まあ、ため息ク○ーバーは歌だけど)。
「・・・みんなはどうしているだろうか。」
 すっかり忘れていたが、ジパングについて調べ始めなければ。このままズルズルと世話になりっぱなしって訳にも行かないしな。
「はぁ。」
「ため息は幸せが逃げていくわよ。」
 やれやれ、何を言ってるんだか。
「どんなときにミリアムはため息が出る?」
「そうね・・・何かに失敗して落ち込んだり、退屈なときだったりかしら。」
「つまりは、『マイナスな気分』の時だろう?つまりだね、ため息は体に溜まった『マイナスな気分』をそとに追い出しているのだよ。」
 ・・・まあ、先生の受け売りだがな。
『またまた、いいセリフ言っちゃって。』
 なんだ?悪魔―ではなく、天使。・・・最近悪魔と天使の区別がつかないな。
「はぁ。」
「どうした?」
 話していてつまらなかったのだろうか?話題が無いから仕方の無いことだが。
「・・・『マイナスの気分』を追い出しているのよ。」
 ツンとそっぽ向くミリアム。・・・ドタバタしているほうが性に合っているが、たまにはボケに振り回されないのもいいな、と思う。
「あ、ミリアムー。」
 ダッ!  ←ダッシュの音。
 ガッ!  ←ミリアムが腕を掴む音。
 ガブッ! ←リリーが噛み付いた音。
 ・・・結局こういうオチか!
11/04/28 07:54更新 / ああああ
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■作者メッセージ
睡魔に負け、気がつけば朝に・・・!まあ、そんなことは瑣末なことです。
 今回は前回出したエルフのミリアムに焦点を当ててみました。この話では珍しい、きわめてまともなキャラだと思います。

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