闘技場ではリザードマン(前編)
現在地-スーダン-宿屋
…まあ、何と言うか、行為を終えた俺とアノンは体を水で流してポム達と一緒に宿の食事を取っている。
「う…ま、まだ違和感がある…」
そう言って大事な所を押さえるアノンだが、それはある意味俺のせいじゃない。
「…自業自得だろ」
実は行為の途中で激しくしすぎたせいか、俺の頬の傷が少し開いて赤い血を見たアノンがより興奮して更に激しくなった。
俺は大したことは無いのだが。
「なあ兄貴、これからどうするんだ?」
「そうだなぁ…闘技大会にでも出るか!」
結局昨日は闘技場まで行けなかったからな。
「参加するんですか〜?」
「おう、やるからには優勝目指すぞ」
強い奴がいればいいけどなー。
「兄貴が参加するならあたいも参加するぞー!」
「ぞー!」
「ぼ、僕は遠慮します…」
「私は参加する〜」
「アタシは…下半身の調子が元に戻ったら参加しようかね」
どうやらウト以外は全員参加するようだ。
「そいじゃ早速手続きしに行くか」
食事を終えると、俺達は闘技場へ向かう。
「そういえばセンさんとキャノは何処に行ってたんですか?」
「んー?裏路地を仕切ってる奴を締め上げてきた」
「そうなんですか…って何でそんな事に?」
「話せば短いようで長い話になるんだが…って何だありゃ?」
俺達の前方に大きな砂埃が見える…どんどんこっちに近づいてるみたいだ。
「やっほー!」
そう声が響くと、砂埃の正体は俺の目の前で停止した。
「なんだ、ティピと愉快な仲間達か」
昨日助けたラージマウスのリーダーのティピとその仲間のラージマウス達だった。
「昨日のお礼をしに来たよ」
「お礼って…どういう事なんだ兄貴?」
「あー、さっきの話の続きなんだが…」
俺は昨日あった事をかいつまんで説明した。
「成る程〜、それでお兄さんはラージマウスさん達と知り合いなんですね〜」
「そーゆーこと!さあ、私達の住処へ人間一人、ミノタウロス一人、ゴブリン三人、ホブゴブリン一人ご案内!」
「「「アイアイサー!」」」
ティピの掛け声と共に俺達は大量のラージマウスに担がれて運ばれる。
「おいおい!俺達は闘技場に…!」
「了解!皆、進路変更!闘技場に行くよー!」
「「「アイアイサー!」」」
こうして俺達は闘技場に運ばれ(拉致られ)ていったのだった…。
現在地-スーダン-闘技場
ラージマウスに運ばれて俺達は闘技場に運ばれてきたのだが…。
「いや、さ…確かに素早く楽に移動できたけどな…」
俺の周りにはラージマウス、ラージマウス、ラージマウス…。
「こんな大所帯じゃ目だって仕方ねーよ」
「でもお礼に私達の住処に連れて行ってご馳走でもと思ってさ。まあ他の皆は外で待機させておくから」
そう言うとティピ以外のラージマウスは外に出て行った。
「やれやれだね…あんなにいて厄介ごとにならなければいいけどね」
「大丈夫だよ。基本的に人の迷惑になるような事はしないように言ってあるし」
アノンもため息を吐いて愚痴を漏らしているが、ティピがフォローを入れる。
「とにかく参加登録しに行こうぜ!」
パノに手を引っ張られながら受付カウンターまで歩いていく。
「こんにちは、闘技場受付カウンターです。本日は闘技大会参加登録ですか?それとも通常出場の手続きですか?」
営業スマイルで出迎える魔女の少女…足の長い椅子に座っている…。
「闘技大会の出場登録を頼む」
「はい、では此方にお名前をどうぞ」
差し出された用紙と羽ペンを使って名前を書いていくが…羽ペン扱い辛い!
「うぐ…変な文字になっちまった…」
へにょへにょだが…まあ読めなくはないよな?
俺からパノやポム、アノンとキャノも署名して魔女に返す。
「はい、セン・アシノ様とアノン様、パノ様にポム様にキャノ様ですね?闘技大会は明日になりますので本日はこれで終わりです」
「明日か…随分都合がいいな」
「どうする?今日出てる奴を見て対策でも立てておくかい?」
アノンの案は絶対に優勝しなきゃいけないならやるけど…
「別にいいだろ、相手の手を知って戦っても面白くないしな。今日は帰ろう」
そうして出口に向かおうとするが…
「ピィー!皆行くよー!」
ティピが口笛を吹いて叫ぶと、向かい側から再びラージマウスが砂埃を立てて此方に走ってくる…。
「「「アイアイサー!」」」
「ちょっ!お前等…!」
「いいから私達の住処に来てよ!準備も済んでるしさ!」
「準備って何の…ってうおおおおおおおお!?」
こうして俺達はまたラージマウスに担がれて運ばれ(拉致られ)ていった。
現在地-スーダン-砂漠方面の門
sideカルマ
俺の名はカルマ・アルディエンデ。
今俺は砂漠側の門に来ている。
砂漠からは滅多に人は来ず、出て行かないので人通りはあまり無い。
昨日までこのスーダンの街の裏路地を仕切っていたのだが…。
「畜生…この俺をコケにしやがって…!」
セン・アシノと言う男に手下共々蹴散らされてしまい、俺はボロボロ、手下も数人しかいなくなっちまった。
「か、頭〜、やっぱり仕返しなんて止めましょうよ!」
「じゃあこのまま尻尾巻いて逃げ出せってのか!?」
「そうじゃありませんけど…あいつもの凄く強かったじゃないですか…それにミノタウロスやゴブリン達まで居るんですよ?」
昨日、俺の怪我を処置している間に残った手下に奴の事を調べさせると、魔物の仲間が居るって言うじゃねえか…確かに迂闊に手は出せない…。
「頭〜!」
「帰ってきたか」
奴等の動向を探らせていた手下が帰ってきたな。
「どうだった?」
「奴等、明日の闘技大会に出るらしいです…片角のゴブリンは出ないみたいですが」
闘技大会…これを何とか利用する方法は…?
「くそっ…!何か手はねぇのか!考えろ…考えろ…」
頭を抱えて考えを巡らせるが一向に良い案は出てこない。
「…ん?」
ふと、視界の端に茶髪の髪をポニーテールにして、緑色の鱗を纏い、後ろ腰の下には尻尾があり、腰に剣を提げた女が写った。
ありゃあ確かリザードマン…誇り高く武を極める戦士か。
「あれを利用すればいけるかもしれねえ…」
そう思った俺はリザードマンの後ろに回りこみサーベルを抜いた。
「おらっ!」
「っ!?」
そして後ろから斬りかかるが、瞬時に反応したリザードマンは腰の剣を抜いて防御した。
「何のつもりだ貴様!」
声をかけられるが俺は応えず、サーベルを鞘に仕舞う。
そしてジパングに伝わる謝り方である土下座をする。
「すまねえ、今俺はアンタを試したんだ!」
「…試す?」
「誇り高いリザードマンと見て頼みがある…実は最近になってこの街の裏路地を仕切りだした男がいて…俺は何もしてないのに傷を負った…」
俺は胸の傷を見せる。
「それだけじゃねえ…奴は近い内にこの街を支配する気だ…明日の闘技大会で自分の力を証明する気なんだ」
俺はより深く頭を下げて頼み込む。
「武人のリザードマンと見ての頼みだ…奴を倒してくれ!」
頭なんて幾らでも下げれる…これでセンを潰したらこいつも始末してこの街は再び俺の物だ。
「…分かった、引き受けよう」
「ほ、本当か!」
「ああ、弱き者を喰い物とするその男、野放しにはしておけないな」
「お、恩に着るよ!」
念のためにもう一度頭を下げておく。
「所で、その男の名は?」
俺は顔が見えないのをいいことに、ニヤリと笑みを浮かべた。
「セン・アシノ」
現在地-スーダン-下水道
sideセン
「セン!セン!起きなセン!」
んー、この声はアノンか…?
てか俺はどうしたんだっけ…。
身を起こすと、辺りにはラージマウスと散らかった料理…主にチーズが大量に散らかっていた。
そうだったな、昨日ティピに連れてこられてラージマウス達の宴に招かれたんだったな…チーズばっかだったけど。
この下水道、今は使われて無いらしく、ティピ達が掃除しているらしく清潔に保ってある。
「どうしたアノン?」
「どうしたじゃないよ!もうすぐ闘技大会の試合開始時間だよ!」
「げっ!?マジでか!?」
慌てて立ち上がり近くにいたポム達を起こす。
「起きろポム!ティピ、俺達は闘技場に行くからな!」
中々起きないポムとキャノを背中に背負い走り出す。
アノンはパノとウトを起こし、俺の後を追ってきた。
下水道の出口兼入り口のマンホールまで梯子を上りマンホールの蓋を開けて外に出る。
そして闘技場の見える方向へ走り出そうとするが、襟を掴まれて進めない?
「待ちなセン…アンタはアタシの後ろを付いてくること」
「ど、どうして?」
「どうせ辿り着けないだろう?さあ行くよ!」
そんな感じで闘技場に駆け込んでギリギリセーフ。
この闘技大会はトーナメント制で、AブロックとBブロックに分かれている。
Aブロックには俺とアノンとパノ。
Bブロックにはキャノとポムが振り分けられた。
まずは俺の一回戦は…パノとだ。
「セン・アシノ様、出番が来たのでお願いします」
控え室にいた俺は呼び出しを受けて控え室を出て会場に向かう。
この闘技大会のルールはまず殺しは無し、もう一つは本人が負けを認めるか気絶するまで勝敗は決まらない。
これだけだ。
そして俺は石の壁を抜けると広い会場に出た。
青い空が見え、丸い闘技場。
観客はワーワーと歓声を送っている。
向かいの入場口からはパノが入ってきた。
「さぁ、東口からはジパングから来た男…セン・アシノォおおおお!」
実況のような男が俺の名を呼ぶと観客は更に興奮する。
「そして西口からはゴブリンのパノだぁああああああ!」
そして観客の興奮が最高潮になった所で…
「それではァ……試合開始ィ!」
その合図と共に、パノは木造の棍棒を振りかぶって俺に接近してくる。
「行くぞ兄貴!」
「来いパノ!」
振られる棍棒を、俺は黒空で真正面から受け止めた。
「うぬっ!?」
「どうした?ゴブリンの…お前の力はその程度か!?」
左足を蹴り抜き棍棒を押し返すとパノは大きく後ろに跳んで距離を取った。
だが…。
「距離の取り方が甘いぞ!」
すぐにその距離を縮めると右足の二ドルキックを繰り出す。
「くうっ!」
蹴りを棍棒で何とか受け止めるが、その衝撃で再び吹き飛ばされる。
それを追撃してもよかったが、一旦足を止める。
「くっ…流石兄貴だぜ…あたいじゃ全然敵わない」
「それが本気を出さない理由か?」
「え?」
キョトンとした顔になり、俺を見つめる。
「パノ、お前はまだ全力で戦っていない…それはお前が最初から俺に勝てないと思い込んでいるからだ」
「そ、そんな事無いよ…あたいじゃ兄貴には…」
「パノ、その考えは捨てろ…お前が仮に弱くても俺はお前を守りたい…だが何時までも俺はお前を守ってやれない…俺を倒す気で来い…俺を困らせないでくれ」
俺は一度だけ優しく微笑むが、すぐに戦いの表情に戻す。
「兄貴…」
俺を一度だけ呼ぶと、パノの目つきが変わり棍棒を構える。
「次の一撃で決着をつけるぞ、早くて客には悪いがな」
「おう!」
そして俺とパノは同時に走り出すと棍棒と右足を振った。
「「でりゃああああああああああああああっ!」」
鈍い音が辺りに響くと共に、パノの棍棒は砕け散りながら宙に舞った。
現在地-スーダン-闘技場客席
結果は見ての通り俺の勝ちだ。
武器を破壊されたパノは、清清しい表情で負けを認めた。
そして俺の右足にはまだ少し痺れが残っている。
「惜しかったねパノ」
Aブロックの一回戦は終わりに近づいており俺とパノは客席にいるウトの元へ行った。
「えへへ…結局負けたけど、最後の一撃は手ごたえがあった!」
「ありゃ強力だったな」
今はアノンの試合だ。
相手は豚の魔物、オークだが、はっきり言ってレベルが違うな。
お、アノンの斧でオークのハンマーが弾き飛ばされて斧が首に押し付けられた…終わったな。
アノンは見事に勝利し、二回戦に駒を進める。
このまま行けば次の次、準決勝で俺とアノンの試合だ。
お、Bブロックの試合が始まった。
最初はポムと人間の男か…力任せだが強力な一撃をなんとか受け止める男だが、あの一撃は受け流した方がいいだろう。
でないと手が痺れたり武器が壊れる。
あ、やっぱしな…男の使っていた剣が折れて棍棒で頭に一撃。
気絶して見事にポムの勝利だ。
続いては知らない奴等だな。まあ此処は割愛しよう。
次はキャノとリザードマンの試合だ。
キャノは棍棒を振り回すが、隙が大きい。
すぐに隙を見抜かれて反撃を受けると、体制を崩し、蹴りで地面に倒されて喉元に剣を突きつけられて試合終了だ。
あちゃあ、これでキャノも負けか。
………こんな感じで試合は進んで行き、俺とアノンの試合がやってきた。
「よ、アノン」
「セン、アタシはアンタと初めて会った時に戦いを挑もうとしたよね…」
「ああ、そうだったな」
「その時やる筈だった事を今やろうじゃないさ!」
俺に斧を突きつけてそう言うと俺も足に力を込める。
「臨む所だ!」
瞬間、俺の足刀とアノンの斧がぶつかり火花が飛び散る。
俺の脚力とアノンの腕力に大きな差はないが俺の方が少しだけ上だ。
そのまま押し切るとアノンの斧は後ろに下がる。
「そりゃ!」
後ろ回し蹴りを繰り出すが、アノンは斧を持っていない左腕で防御した。
そして俺の足を掴むと思いっきりブン投げたが、俺は空中で一回転すると体制を整えて着地した。
「やるじゃないさ!」
俺が着地するのを予測していたのか、アノンは既に接近してきており、斧を横に振った。
咄嗟に身を屈めて回避するがそれをも読んでいたのか、はたまた本能か、俺に蹴りを繰り出していた。
避けられないな…そう判断した俺はその蹴りを腕で受け止めて、蹴られると同時に地面を強く蹴って跳んだ。
少しだけ空が近くなり、重力を感じた時には落下していく。
下のアノンは斧を振りかぶって止めを刺す気だ。
「うぉぉおおおおおおおおおおお!!!」
落下の重力を生かして、俺は下に居るアノンに左足の黒空を叩きつける。
甲高い金属音が響くと、アノンの斧は大きく吹き飛ばされて空中で回転すると地面に落ちた。
そして着地すると反対の足の白地を首に寸止めする。
「…アタシの負けだね」
こうして、俺は決勝へと駒を進めた。
現在地-スーダン-闘技場廊下
sideカルマ
「フフフ…いい具合にセンは決勝に出たな」
「そうですね、頭」
「計画通りっす」
だがアイツの仲間のホブゴブリンとリザードマンのBブロック準決勝か…。
負けるとは思えないが、念には念を入れておくかな。
ん?あれは…
「兄貴達凄かったな!」
「うん、アノンさんも負けちゃったけどセンさんをあそこまで追い詰めるのは凄かったよね」
「所でキャノは何処行ったんだ?」
「ポム姐さんの控え室に付き添いだってさ」
センの仲間のゴブリンか…これを使わない手はないな。
計画の為に昨日の内に用意した道具を入れてある袋を弄る。
「おい、隙を見てこれを使え」
「「はい」」
手下にある薬品と布を渡すと、俺はゴブリン達の前に立つ。
「ねえ君達、あのセンって選手の知り合い?」
「え?そうだけど…アンタは?」
「そうだね、セン選手のファンかな?」
そう言うと赤髪の方のゴブリンは顔を輝かせる。
「ウト!兄貴のファンだってさ!流石は兄貴だぜ!」
「そ、そうだね!こんな短時間でファンができるなんてセンさんはやっぱり凄いね!」
興奮してる所悪いが…今だ。
俺が目でこっそりゴブリン達の背後に回りこんでいた手下に合図すると、薬品を染み込ませた布でゴブリン達の口と鼻を覆う。
「むぐっ!?」
「んんっ!?」
ジタバタ暴れて見かけによらぬ怪力で抜け出しそうになるが、俺も手伝い押さえ込む。
「むぐぐっ!?んぐー!」
「うううっー!」
暴れている内に少しずつ力が抜けていき、最終的には気を失った。
この薬品はとある植物から取った睡眠薬だ…この二人を使えば、俺達の計画は完璧だ…俺は手下に指示を出すと、俺も準備をするために移動したのだった。
…まあ、何と言うか、行為を終えた俺とアノンは体を水で流してポム達と一緒に宿の食事を取っている。
「う…ま、まだ違和感がある…」
そう言って大事な所を押さえるアノンだが、それはある意味俺のせいじゃない。
「…自業自得だろ」
実は行為の途中で激しくしすぎたせいか、俺の頬の傷が少し開いて赤い血を見たアノンがより興奮して更に激しくなった。
俺は大したことは無いのだが。
「なあ兄貴、これからどうするんだ?」
「そうだなぁ…闘技大会にでも出るか!」
結局昨日は闘技場まで行けなかったからな。
「参加するんですか〜?」
「おう、やるからには優勝目指すぞ」
強い奴がいればいいけどなー。
「兄貴が参加するならあたいも参加するぞー!」
「ぞー!」
「ぼ、僕は遠慮します…」
「私は参加する〜」
「アタシは…下半身の調子が元に戻ったら参加しようかね」
どうやらウト以外は全員参加するようだ。
「そいじゃ早速手続きしに行くか」
食事を終えると、俺達は闘技場へ向かう。
「そういえばセンさんとキャノは何処に行ってたんですか?」
「んー?裏路地を仕切ってる奴を締め上げてきた」
「そうなんですか…って何でそんな事に?」
「話せば短いようで長い話になるんだが…って何だありゃ?」
俺達の前方に大きな砂埃が見える…どんどんこっちに近づいてるみたいだ。
「やっほー!」
そう声が響くと、砂埃の正体は俺の目の前で停止した。
「なんだ、ティピと愉快な仲間達か」
昨日助けたラージマウスのリーダーのティピとその仲間のラージマウス達だった。
「昨日のお礼をしに来たよ」
「お礼って…どういう事なんだ兄貴?」
「あー、さっきの話の続きなんだが…」
俺は昨日あった事をかいつまんで説明した。
「成る程〜、それでお兄さんはラージマウスさん達と知り合いなんですね〜」
「そーゆーこと!さあ、私達の住処へ人間一人、ミノタウロス一人、ゴブリン三人、ホブゴブリン一人ご案内!」
「「「アイアイサー!」」」
ティピの掛け声と共に俺達は大量のラージマウスに担がれて運ばれる。
「おいおい!俺達は闘技場に…!」
「了解!皆、進路変更!闘技場に行くよー!」
「「「アイアイサー!」」」
こうして俺達は闘技場に運ばれ(拉致られ)ていったのだった…。
現在地-スーダン-闘技場
ラージマウスに運ばれて俺達は闘技場に運ばれてきたのだが…。
「いや、さ…確かに素早く楽に移動できたけどな…」
俺の周りにはラージマウス、ラージマウス、ラージマウス…。
「こんな大所帯じゃ目だって仕方ねーよ」
「でもお礼に私達の住処に連れて行ってご馳走でもと思ってさ。まあ他の皆は外で待機させておくから」
そう言うとティピ以外のラージマウスは外に出て行った。
「やれやれだね…あんなにいて厄介ごとにならなければいいけどね」
「大丈夫だよ。基本的に人の迷惑になるような事はしないように言ってあるし」
アノンもため息を吐いて愚痴を漏らしているが、ティピがフォローを入れる。
「とにかく参加登録しに行こうぜ!」
パノに手を引っ張られながら受付カウンターまで歩いていく。
「こんにちは、闘技場受付カウンターです。本日は闘技大会参加登録ですか?それとも通常出場の手続きですか?」
営業スマイルで出迎える魔女の少女…足の長い椅子に座っている…。
「闘技大会の出場登録を頼む」
「はい、では此方にお名前をどうぞ」
差し出された用紙と羽ペンを使って名前を書いていくが…羽ペン扱い辛い!
「うぐ…変な文字になっちまった…」
へにょへにょだが…まあ読めなくはないよな?
俺からパノやポム、アノンとキャノも署名して魔女に返す。
「はい、セン・アシノ様とアノン様、パノ様にポム様にキャノ様ですね?闘技大会は明日になりますので本日はこれで終わりです」
「明日か…随分都合がいいな」
「どうする?今日出てる奴を見て対策でも立てておくかい?」
アノンの案は絶対に優勝しなきゃいけないならやるけど…
「別にいいだろ、相手の手を知って戦っても面白くないしな。今日は帰ろう」
そうして出口に向かおうとするが…
「ピィー!皆行くよー!」
ティピが口笛を吹いて叫ぶと、向かい側から再びラージマウスが砂埃を立てて此方に走ってくる…。
「「「アイアイサー!」」」
「ちょっ!お前等…!」
「いいから私達の住処に来てよ!準備も済んでるしさ!」
「準備って何の…ってうおおおおおおおお!?」
こうして俺達はまたラージマウスに担がれて運ばれ(拉致られ)ていった。
現在地-スーダン-砂漠方面の門
sideカルマ
俺の名はカルマ・アルディエンデ。
今俺は砂漠側の門に来ている。
砂漠からは滅多に人は来ず、出て行かないので人通りはあまり無い。
昨日までこのスーダンの街の裏路地を仕切っていたのだが…。
「畜生…この俺をコケにしやがって…!」
セン・アシノと言う男に手下共々蹴散らされてしまい、俺はボロボロ、手下も数人しかいなくなっちまった。
「か、頭〜、やっぱり仕返しなんて止めましょうよ!」
「じゃあこのまま尻尾巻いて逃げ出せってのか!?」
「そうじゃありませんけど…あいつもの凄く強かったじゃないですか…それにミノタウロスやゴブリン達まで居るんですよ?」
昨日、俺の怪我を処置している間に残った手下に奴の事を調べさせると、魔物の仲間が居るって言うじゃねえか…確かに迂闊に手は出せない…。
「頭〜!」
「帰ってきたか」
奴等の動向を探らせていた手下が帰ってきたな。
「どうだった?」
「奴等、明日の闘技大会に出るらしいです…片角のゴブリンは出ないみたいですが」
闘技大会…これを何とか利用する方法は…?
「くそっ…!何か手はねぇのか!考えろ…考えろ…」
頭を抱えて考えを巡らせるが一向に良い案は出てこない。
「…ん?」
ふと、視界の端に茶髪の髪をポニーテールにして、緑色の鱗を纏い、後ろ腰の下には尻尾があり、腰に剣を提げた女が写った。
ありゃあ確かリザードマン…誇り高く武を極める戦士か。
「あれを利用すればいけるかもしれねえ…」
そう思った俺はリザードマンの後ろに回りこみサーベルを抜いた。
「おらっ!」
「っ!?」
そして後ろから斬りかかるが、瞬時に反応したリザードマンは腰の剣を抜いて防御した。
「何のつもりだ貴様!」
声をかけられるが俺は応えず、サーベルを鞘に仕舞う。
そしてジパングに伝わる謝り方である土下座をする。
「すまねえ、今俺はアンタを試したんだ!」
「…試す?」
「誇り高いリザードマンと見て頼みがある…実は最近になってこの街の裏路地を仕切りだした男がいて…俺は何もしてないのに傷を負った…」
俺は胸の傷を見せる。
「それだけじゃねえ…奴は近い内にこの街を支配する気だ…明日の闘技大会で自分の力を証明する気なんだ」
俺はより深く頭を下げて頼み込む。
「武人のリザードマンと見ての頼みだ…奴を倒してくれ!」
頭なんて幾らでも下げれる…これでセンを潰したらこいつも始末してこの街は再び俺の物だ。
「…分かった、引き受けよう」
「ほ、本当か!」
「ああ、弱き者を喰い物とするその男、野放しにはしておけないな」
「お、恩に着るよ!」
念のためにもう一度頭を下げておく。
「所で、その男の名は?」
俺は顔が見えないのをいいことに、ニヤリと笑みを浮かべた。
「セン・アシノ」
現在地-スーダン-下水道
sideセン
「セン!セン!起きなセン!」
んー、この声はアノンか…?
てか俺はどうしたんだっけ…。
身を起こすと、辺りにはラージマウスと散らかった料理…主にチーズが大量に散らかっていた。
そうだったな、昨日ティピに連れてこられてラージマウス達の宴に招かれたんだったな…チーズばっかだったけど。
この下水道、今は使われて無いらしく、ティピ達が掃除しているらしく清潔に保ってある。
「どうしたアノン?」
「どうしたじゃないよ!もうすぐ闘技大会の試合開始時間だよ!」
「げっ!?マジでか!?」
慌てて立ち上がり近くにいたポム達を起こす。
「起きろポム!ティピ、俺達は闘技場に行くからな!」
中々起きないポムとキャノを背中に背負い走り出す。
アノンはパノとウトを起こし、俺の後を追ってきた。
下水道の出口兼入り口のマンホールまで梯子を上りマンホールの蓋を開けて外に出る。
そして闘技場の見える方向へ走り出そうとするが、襟を掴まれて進めない?
「待ちなセン…アンタはアタシの後ろを付いてくること」
「ど、どうして?」
「どうせ辿り着けないだろう?さあ行くよ!」
そんな感じで闘技場に駆け込んでギリギリセーフ。
この闘技大会はトーナメント制で、AブロックとBブロックに分かれている。
Aブロックには俺とアノンとパノ。
Bブロックにはキャノとポムが振り分けられた。
まずは俺の一回戦は…パノとだ。
「セン・アシノ様、出番が来たのでお願いします」
控え室にいた俺は呼び出しを受けて控え室を出て会場に向かう。
この闘技大会のルールはまず殺しは無し、もう一つは本人が負けを認めるか気絶するまで勝敗は決まらない。
これだけだ。
そして俺は石の壁を抜けると広い会場に出た。
青い空が見え、丸い闘技場。
観客はワーワーと歓声を送っている。
向かいの入場口からはパノが入ってきた。
「さぁ、東口からはジパングから来た男…セン・アシノォおおおお!」
実況のような男が俺の名を呼ぶと観客は更に興奮する。
「そして西口からはゴブリンのパノだぁああああああ!」
そして観客の興奮が最高潮になった所で…
「それではァ……試合開始ィ!」
その合図と共に、パノは木造の棍棒を振りかぶって俺に接近してくる。
「行くぞ兄貴!」
「来いパノ!」
振られる棍棒を、俺は黒空で真正面から受け止めた。
「うぬっ!?」
「どうした?ゴブリンの…お前の力はその程度か!?」
左足を蹴り抜き棍棒を押し返すとパノは大きく後ろに跳んで距離を取った。
だが…。
「距離の取り方が甘いぞ!」
すぐにその距離を縮めると右足の二ドルキックを繰り出す。
「くうっ!」
蹴りを棍棒で何とか受け止めるが、その衝撃で再び吹き飛ばされる。
それを追撃してもよかったが、一旦足を止める。
「くっ…流石兄貴だぜ…あたいじゃ全然敵わない」
「それが本気を出さない理由か?」
「え?」
キョトンとした顔になり、俺を見つめる。
「パノ、お前はまだ全力で戦っていない…それはお前が最初から俺に勝てないと思い込んでいるからだ」
「そ、そんな事無いよ…あたいじゃ兄貴には…」
「パノ、その考えは捨てろ…お前が仮に弱くても俺はお前を守りたい…だが何時までも俺はお前を守ってやれない…俺を倒す気で来い…俺を困らせないでくれ」
俺は一度だけ優しく微笑むが、すぐに戦いの表情に戻す。
「兄貴…」
俺を一度だけ呼ぶと、パノの目つきが変わり棍棒を構える。
「次の一撃で決着をつけるぞ、早くて客には悪いがな」
「おう!」
そして俺とパノは同時に走り出すと棍棒と右足を振った。
「「でりゃああああああああああああああっ!」」
鈍い音が辺りに響くと共に、パノの棍棒は砕け散りながら宙に舞った。
現在地-スーダン-闘技場客席
結果は見ての通り俺の勝ちだ。
武器を破壊されたパノは、清清しい表情で負けを認めた。
そして俺の右足にはまだ少し痺れが残っている。
「惜しかったねパノ」
Aブロックの一回戦は終わりに近づいており俺とパノは客席にいるウトの元へ行った。
「えへへ…結局負けたけど、最後の一撃は手ごたえがあった!」
「ありゃ強力だったな」
今はアノンの試合だ。
相手は豚の魔物、オークだが、はっきり言ってレベルが違うな。
お、アノンの斧でオークのハンマーが弾き飛ばされて斧が首に押し付けられた…終わったな。
アノンは見事に勝利し、二回戦に駒を進める。
このまま行けば次の次、準決勝で俺とアノンの試合だ。
お、Bブロックの試合が始まった。
最初はポムと人間の男か…力任せだが強力な一撃をなんとか受け止める男だが、あの一撃は受け流した方がいいだろう。
でないと手が痺れたり武器が壊れる。
あ、やっぱしな…男の使っていた剣が折れて棍棒で頭に一撃。
気絶して見事にポムの勝利だ。
続いては知らない奴等だな。まあ此処は割愛しよう。
次はキャノとリザードマンの試合だ。
キャノは棍棒を振り回すが、隙が大きい。
すぐに隙を見抜かれて反撃を受けると、体制を崩し、蹴りで地面に倒されて喉元に剣を突きつけられて試合終了だ。
あちゃあ、これでキャノも負けか。
………こんな感じで試合は進んで行き、俺とアノンの試合がやってきた。
「よ、アノン」
「セン、アタシはアンタと初めて会った時に戦いを挑もうとしたよね…」
「ああ、そうだったな」
「その時やる筈だった事を今やろうじゃないさ!」
俺に斧を突きつけてそう言うと俺も足に力を込める。
「臨む所だ!」
瞬間、俺の足刀とアノンの斧がぶつかり火花が飛び散る。
俺の脚力とアノンの腕力に大きな差はないが俺の方が少しだけ上だ。
そのまま押し切るとアノンの斧は後ろに下がる。
「そりゃ!」
後ろ回し蹴りを繰り出すが、アノンは斧を持っていない左腕で防御した。
そして俺の足を掴むと思いっきりブン投げたが、俺は空中で一回転すると体制を整えて着地した。
「やるじゃないさ!」
俺が着地するのを予測していたのか、アノンは既に接近してきており、斧を横に振った。
咄嗟に身を屈めて回避するがそれをも読んでいたのか、はたまた本能か、俺に蹴りを繰り出していた。
避けられないな…そう判断した俺はその蹴りを腕で受け止めて、蹴られると同時に地面を強く蹴って跳んだ。
少しだけ空が近くなり、重力を感じた時には落下していく。
下のアノンは斧を振りかぶって止めを刺す気だ。
「うぉぉおおおおおおおおおおお!!!」
落下の重力を生かして、俺は下に居るアノンに左足の黒空を叩きつける。
甲高い金属音が響くと、アノンの斧は大きく吹き飛ばされて空中で回転すると地面に落ちた。
そして着地すると反対の足の白地を首に寸止めする。
「…アタシの負けだね」
こうして、俺は決勝へと駒を進めた。
現在地-スーダン-闘技場廊下
sideカルマ
「フフフ…いい具合にセンは決勝に出たな」
「そうですね、頭」
「計画通りっす」
だがアイツの仲間のホブゴブリンとリザードマンのBブロック準決勝か…。
負けるとは思えないが、念には念を入れておくかな。
ん?あれは…
「兄貴達凄かったな!」
「うん、アノンさんも負けちゃったけどセンさんをあそこまで追い詰めるのは凄かったよね」
「所でキャノは何処行ったんだ?」
「ポム姐さんの控え室に付き添いだってさ」
センの仲間のゴブリンか…これを使わない手はないな。
計画の為に昨日の内に用意した道具を入れてある袋を弄る。
「おい、隙を見てこれを使え」
「「はい」」
手下にある薬品と布を渡すと、俺はゴブリン達の前に立つ。
「ねえ君達、あのセンって選手の知り合い?」
「え?そうだけど…アンタは?」
「そうだね、セン選手のファンかな?」
そう言うと赤髪の方のゴブリンは顔を輝かせる。
「ウト!兄貴のファンだってさ!流石は兄貴だぜ!」
「そ、そうだね!こんな短時間でファンができるなんてセンさんはやっぱり凄いね!」
興奮してる所悪いが…今だ。
俺が目でこっそりゴブリン達の背後に回りこんでいた手下に合図すると、薬品を染み込ませた布でゴブリン達の口と鼻を覆う。
「むぐっ!?」
「んんっ!?」
ジタバタ暴れて見かけによらぬ怪力で抜け出しそうになるが、俺も手伝い押さえ込む。
「むぐぐっ!?んぐー!」
「うううっー!」
暴れている内に少しずつ力が抜けていき、最終的には気を失った。
この薬品はとある植物から取った睡眠薬だ…この二人を使えば、俺達の計画は完璧だ…俺は手下に指示を出すと、俺も準備をするために移動したのだった。
11/05/30 18:44更新 / ハーレム好きな奴
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