現在地-ガレス-大部屋

ガレスが親魔物領の軍勢に落とされてから2日後…。

俺は今現在、コロナとアーリアを護衛に、ある宿の大部屋で親魔物領の軍の総帥と対面していた。

「う〜ん、見れば見るほどイイ男ね」

「そ、そうか……」

しかしその総帥が、どうもリリムという魔物らしく、現魔王の娘らしい。

白髪で赤い瞳が印象的で、サキュバス種によくあるコウモリのような翼と角が付いていて、絶世の美女と言って差し支えない女だった。

そして俺と視線が合うと、彼女の赤い目がキラッと光る。

「うっ…！？」

意識が薄くなってぼんやりする。

だが俺の視線は彼女に釘付けになり、彼女しか見えない。

「セティ様、兄様を誑かすのはそこまでにして欲しいのじゃ」

「ウフフ、しょうがないわね」

コロナの声が聞こえ、パチンッと彼女が指を鳴らすと意識がはっきりして視界が広がる。

「っとと……何だ今の？」

「魅了の魔法よ。こんなに沢山の魔物に愛されてる素敵な男性みたいだから、ちょっとイタズラしてみちゃった♪」

は、ははは……なんだか小悪魔みたいな性格してるな。

「私はセティよ。親魔物領軍の総帥として貴方にお礼を言うわ。貴方のお陰で多くの魔物が救われたわ」

「いいや…俺は自分の女を取り戻しただけだからな」

「それでもよ。夫婦となって引き離された娘達もいるみたいだったから……人間と魔物に共存を目指す私としては今回の件が片付いたのは大きな前進だと思ってるわ。今回で新しくパートナーを得た娘もいるみたいだしね」

今回俺が魔物の監獄を落とした後、地上を制圧された事を知った騎士達は降伏、極僅かが抵抗したらしいが、すぐに取り押さえられたらしい。

今頃は宜しくヤっている事だろう。

「今回、親魔物領から貴方達sans rival団に報奨金を渡すわ」

そう言って付き人のようなリザードマンが俺の目の前に大きな袋を5つ置いた。

置いた瞬間にジャリン！と重い金属が置かれるような音がした。

ちょっと恐かったが、恐る恐る袋を1つ開けて中身を見てみる。

「こ、これは…！？」

中身はパンパンになるまで金貨が詰め込まれていて、輝いていて目に眩しい。

「なっ！？これは1番価値の高い金貨では…！？」

アーリアが袋の中を覗きこんできて一緒に驚いている。

これが5袋もあるって事は大分出しているんじゃないのか！？

「こ、こんなに貰えないぞ？」

「あら、ご不満？sans rival団……特に団長である貴方はそんな怪我も負ったのだから……」

「それにしたって出しすぎじゃ…？」

「フフ、確かに正統な報酬を考えれば1袋なのだけれど、4袋は私から個人的な感謝の証。ポケットマネーだから安心して受け取って？」

……確かに少し貰いすぎな気がするが、ここで遠慮し続けるのは用意してくれたセティにも失礼な気がするし、傭兵団を続けるにしても俺の怪我が完全に治るまで身動きが取れない。

貰うのが、俺にとっても、sans rival団にとっても、セティにとっても一件落着か。

「……分かったよ。ありがたく受け取らせて貰う」

そして俺達は自分の宿に戻るために宿を出て大通りを歩く。

俺の右手はコロナが手を繋いでおり、左手はアーリアが腕を組んでくる。

2人は貰った報酬に貰った金貨の入った袋を空いている手で持っている。

「ムフフ、やったの兄様！これでワシ等も大金持ちじゃ！」

さっきからコロナが大はしゃぎしているが……まぁ、確かにこれで暫く金が持ちそうだな。

「でも報酬の受け渡しや挨拶位なら俺1人でできるって……」

「駄目だ！」

俺の言葉を遮ってアーリアが大声を上げるので、驚いてしまった。

コロナを見ると、ウンウンと頷いている。

「いいかセン、君の身体はボロボロなんだから今はしっかりと休むって、昨日皆と約束しただろう？それを百歩譲って挨拶に生かせたんだから護衛くらいは付いて当然だろう？」

「う……」

俺は上半身の右半分が包帯でグルグルと覆われているし、血を取り戻す為に此処2日で肉を多く食べている。

確かに昨日、傷が治るまではゆっくりと身体を休めると約束した。

だがセティに挨拶に来て欲しいと使いの魔物に呼ばれ、団長が行かないのも何だったので無理を言って行きたいと言ったのだ。

「今回の件にしても、兄様に感謝はしておるし益々惚れてしまったのじゃが、ワシ等の心配も増したのじゃ」

「そもそもセンは――」

2人からグチグチ言われているが、両側をガッチリとホールドされているので逃げる事もできやしない。

その説教は、皆の集合場所と決めていた酒場の前に来てもまだ続いていた。

「兄様は――」

「センは――」

「わーったって！勘弁してくれよホント……」

俺達が酒場の中に入ると、中にいた客の視線が一斉に俺に集まる。

そして一瞬ドヨッと声が上がったと思ったら、爆発した。

「キャーッ！英雄の登場よー！」

「マスター！酒だ酒！主役に酒を用意しろォ！」

酒場のテンションはＭＡＸになってしまい、魔物が俺に群がってくるが、コロナが障壁を展開させて俺への接触を防ぎ、アーリアが目を細めて威嚇する。

「お主等！兄様は怪我をしておるのだから少しは遠慮せい！」

「あーん、コロナちゃんのいけずー」

ともかく、2人のお陰でどうにか人混みに飲まれずに済んだ俺達は障壁を解くと、どうにか落ち着いた人や魔物の間を通って1番大きなテーブルに向かう。

そこには、ウト、ティピ、イズマ、シャム、ミスティ、シャナが座っていた。

「よう、早かったなお前等」

「ニャ〜、簡単な依頼だったからニャ」

軽くそう言うと、シャムが出されている魚の料理を頬張りながら返してきた。

俺がセティに挨拶しに行く間、護衛の2人以外はクエストボードから依頼を受けて幾つかのチームに分かれて依頼をこなして居る筈だ。

このガレスの街は教団の管理が杜撰で犯罪が横行している街だったのだが、ここ2日で大分落ち着いた。

しかしまだ人手が足りないらしいので、依頼は幾らでもある。

「ん」

シャナが俺を隣に座らせ、左隣に引っ付いた。

「あ、ずるいですよシャナさん！私だって！」

俺の隣に座ったシャナに対抗心を燃やしたのかミスティがすぐに俺の右隣に座る。

「ぬあ！これではワシが座る場所が無いではないか！」

「センの横以外に座ればいいじゃないか」

「それでは意味が無いのじゃー！ラブラブできないのじゃー！」

コロナの叫びにイズマが突っ込むが、再び叫びを上げて子供のように駄々をこねている。

「フフン、甘いねコロナ。まだセンの傍で座る方法はあるんだよなこれが」

「ぼ、僕も一緒に座ってもいい？」

「勿論！さぁ行くぞ！｣

ティピとウトがテーブルの上を渡り俺の膝の所まで来た。

俺の右膝にはウトが、左膝にはティピが座る。

「ぬぐぁー！？ワシとしたことが兄様の膝元を見逃すとはー！？」

一生の不覚なのじゃー、とか言って騒いでいるコロナは自然と注目される。

仕方が無いな、幼女でコロナだけ仲間外れは不公平だもんな。

「コロナ、肩に乗っていいぞ」

「……大好きなのじゃ兄様ー！」

駄々をこねているのをピタッと止めて、すぐさま俺に飛びついてきた。

肩車のように抱きつき、俺にそのナイチチを押し付けてくる幼女5人。

5人に囲まれ、くっ付かれているがその5人が幼女なこともあってあまり重かったりはしない。

周りから見ればロリコンハーレムなんだろうなぁ。

「やぁ、よければボク等もご一緒していいかな？」

と、そこへ声を掛けられ振り返ると、そこにはメリスが率いるテナ、プリム、エステル、ヴィーナがいた。

「おう、お前たちか、空いてる席はあるから好きにしろ」

「じゃあ、失礼するよ」

俺が許可すると、メリス達は椅子に座る。

「あ…セン、そういえばこれ、返すよ」

テナが持っている荷物の中から黒い着物が綺麗に折りたたまれた状態で俺の前に出てきた。

これは確か、地下で俺がテナに着せた俺の着物だ。

「所々破れてたし、汚れもあったからアラクネに依頼して修繕して貰ったんだ。ありがとな」

テナはそれだけ言うと、恥ずかしいのか顔を少し赤くして顔を逸らした。

今の俺は怪我人用の上着を着ているが、正直着慣れていない服より着慣れた服の方がいい。

「ありがとな、そろそろ修繕したいと思ってたところだから助かった」

まぁ、今の俺はロリ娘におしくらまんじゅう状態なので着替える事はできないが、後で着替えるとしよう。

「それから、ボク達は君に頼みがあるんだがいいかな？」

「何だ？お前達には監獄で助太刀して貰った恩があるし、俺にできることなら構わないが」

「ボク等を君達の傭兵団の仲間に加えて欲しいんだ」

メリスがそう言われ、俺は思考に入る。

人間の女、スライム、メドゥーサ、エルフ、オーガが加われば俺達の戦力はまだ上がるだろう。

それに皆俺を助けてくれたし、性格も問題ないだろう。

「ああ、構わない。これから宜しく頼むぜ」

「フフ、此方こそ、セン」

「プリム、頑張る…」

「私が入ってあげるんだから、ありがたく思いなさいよ！」

「う、受けた恩を返すだけだからな……」

メリス、プリム、ヴィーナ、テナはそう言ってくれるが、エルフのエステルだけはそっぽを向いて鼻を鳴らした。

「おい貴様！兄様に助けられた分際でその態度はなんじゃ！」

「……礼儀がなってない」

そんなエステルの態度を見て、コロナが叫び、シャナまで食いついた。

「私は自分の里に帰るまでのついでだ。東に向かう途中の森にあるからな。精々傷を癒し、私の足を引っ張らない事だ」

最後にもう1度鼻で笑うと、エステルは席を立って酒場を出て行ってしまった。

「エルフはニャんだか面倒な性格をしているニャ〜」

「以前の私を見ているようだな……」

シャムは呆れつつ魚料理を食べ進めていき、イズマは気まずそうな顔で腕を組んでいた。

その内打ち解けていければいいんだが……。

「でもイズマと一緒って事は……」

「結局センさんに……」

「あー、ありそうですね」

ティピ、ミスティ、ウトがそう言ってなんだかウンウン頷いている。

なんだか釈然としないんだが…。

「セン！終わったぞ！」

「ご主人様〜！」

「お兄さーん！」

その声と一緒に他の仲間達が酒場になだれ込んできた。

「ま、その内なんとかなるさ……さぁ！金も入ったし、新入団者歓迎会だ！飲んで食って騒げお前等！」

その後、俺達が酒場で宴会騒ぎをしたのは言うまでも無い。

■作者メッセージ
今回は短めです。

次回から魔物の個人にスポットライトを当てたものになっています。

まずはアノンを予定していますので、お楽しみに！