此処は、教団の拠点である大聖堂の一室。

周囲の光がステンドグラスを通り抜けて幻想的に反射している。

そんな部屋の扉がノックされると、中に1人の男…シュラークが入ってきた。

部屋の主は以前シュラークと話していた初老の男だが、彼はシュラークを見ると眉間に皺を寄せた。

「フフフ、賭けは私の勝ちでしたね」

「…賭けの品はそこに置いてある。勝手に持っていけ」

初老の男は視線で場所を示すと、そこには机の上に置かれた高級そうなボトルがあった。

「『愚者』程度では『死人喰らい』は止められませんよ……」

ボトルを持ち、薄ら笑いを浮かべてシュラークは部屋の外へと出て行こうとする。

「……貴様なら、『死人喰らい』の親である貴様なら何か奴の弱点を知っているのではないか？」

初老の男がそう言うと、シュラークはその場でピタリと歩みを止めた。

そしてシュラークは、瞳の光を消し、敵意を込めた視線を初老の男に向ける。

「そうだろう？『偽り人』」

「何のことだか、わかりませんねぇ……」

それだけ言い残すと、シュラークは部屋から出て行ってしまった。

初老の男は、再び視線を窓の外へと向けるのだった。





一方、ストリークの街より2日ほど東に歩いたその先には、緩やかな山地が広がっている。

標高の低い山地が集まってできたこの山地地帯を、人々はハルペー山地帯と呼んでいる。

ハルペー山地帯は先ほど述べたとおり緩やかな山が幾つも存在しているが、道自体は整備されており、人々の往来も盛んな為か道はしっかりとしている。

しかし今、そんなハルペー山地帯には良くない噂が広がっていた。

ハルペー山地帯の街道で、オークの群れが襲ってくるという噂だった。

行商人が何度も襲われ、護衛や商人仲間が何人も連れて行かれて商売にならないとギルドに訴えた所、ギルドもこのオーク達の討伐依頼を出した。

この手の魔物娘の討伐依頼はちらほら見かけるが、なにも本当に殺して討伐しろという訳ではない。

説得してその場から立ち退いて貰っても良い。

しかしその場合はアホな魔物でもない限り何かしらの代償、交換条件が必要となってくる。

更には本当に立ち退いた証拠となるものが必要でもある。

若しくは殺さない程度に痛めつけてその場から追い出したり、魔物によっては仲間にしたり嫁にしたりもする。

此方の場合は魔物に勝たなければならない前提条件があるので、実力のある傭兵、冒険者にしか達成できない。

まぁ、何にしても教団でもない限り今の美しく可愛らしい魔物娘達を好き好んで殺してしまう人間はそうそう居ない。

そんなオークの群れの出るハルペー山地帯を、レブル一行は歩いていた。

日は傾き、既に赤い夕暮れに辺りが染まっている。

レブルは街道を少しだけ逸れた場所に木の少ない休憩できそうな場所を見つけると、其方へ歩いていき荷物を降ろした。

「今日は此処で野営だ」

「ん、じゃあボクは食材の準備をするよ。レブルは休んでて」

「私は薪を集めて、ブレスで火を点けよう。レブルは休んでいろ」

イオとライラは互いに仕事を決めると、睨みあってライバル心をむき出しにした。

「「…フンッ！」」

同じタイミングで2人は木々を掻き分けて奥へと進んで行った。

イオは薪を探しに、ライラは飲み水を探しに行ったのだろう。

その場に1人取り残されたレブルはフゥと溜息をついてその場に座り込んだ。

2人が仲間になってから数日が経過しているが、何時も1人で淡々とやっていた事だが、仲間が居ると楽しく思えてしまう。

だが、レブルは研ぎ澄まされた感覚に反応があると、暫く瞳だけを動かして周りを見渡す。

そして徐に立ち上がり場所を移動する。

今度は先ほどより木々の奥にあった、広場のような場所だった。

「……出て来い」

レブルの呼びかけに反応して茂みから3つの人影が現れる。

それぞれ赤、黒、緑のフード付きのロングコートを着ており、フードを目深に被っている男達が現れる。

「俺達の気配に気が付くとは、流石だな」

「『死人喰らい』か…侮れんな」

「関係はない。殺すだけだ」

上から赤、黒、緑のコートを着た男の呟きである。

「お前等……知っているぞ。『砂漠の三人衆』とか言う賞金稼ぎだな」

レブルは反魔物領では巨額の賞金首となっている為、態々親魔物領まで暗殺にやってくる賞金稼ぎの輩は多く居た。

そのため、名の売れている暗殺者や賞金稼ぎは『泥人形』やその他情報屋から情報を買って対策をしていた。

「良く俺達の事を知っているな」

「だがお前には此処で死んで………」

レブルはそれ以上言葉を聞くことはしなかった。

緑色のコートの男が短剣を抜いてレブルに突きを放って突っ込んできたのだ。

「仲間が喋っている途中だが？」

「俺の名は……『不意打ちの緑』」

『不意打ちの緑』が放った突きを、レブルは接近されきる前に短槍を構えて弾いた。

キィインと、金属がぶつかり合った音が辺りに響く。

残っている2人を確認するために視線を向けるが、先ほどまで正面に居た黒コートの男が居ない。

「俺は『闇討ちの黒』」

その声より数瞬早くレブルは気配に気がつき、背後からの攻撃を短槍を使い迎撃した。

振り下ろされる短剣を短槍の柄で受け止め、蹴りを放つ。

しかし『闇討ちの黒』もバックステップで距離を取る。

「そして俺は―――」

再び背後からの奇襲、これはある程度予測していたレブルは振り返る。

「―――『騙まし討ちの赤』」

目の前に居た赤いコートの男は手に武器を持っておらず、その両手をレブルの眼前でパァン！と叩いた。

所謂、猫騙しである。

これで怯んだと見た『騙まし討ちの赤』は素早く短剣を抜いてレブルのフルプレートアーマーの隙間に向けて短剣を振るうが、それよりも速くレブルの拳が『騙まし討ちの赤』の腹に突き刺さり、吹き飛ばした。

「が、はぁっ…！？」

地面を転がる『騙まし討ちの赤』はあらゆる賞金首を仕留めてきたこの連携を打ち破られた事に驚きを隠せなかった。

「貴様……何故怯まなかった…！？」

「言っただろう、お前等の事は知っていると」

『砂漠の三人衆』の連携攻撃の情報は既にレブルは知っていた。

手はずを知っていれば、猫騙しの一発位は耐える事ができる。

「落ち着け赤よ、今度は別の陣形で攻めるぞ」

「そうだ、俺達の連携で殺せぬ者は居ない」

『不意打ちの緑』と『闇討ちの黒』がそう言うが、すると『砂漠の三人衆』の背後の草陰から2つの影が飛び出した。

片方はその腕の鱗で覆われた拳で『不意打ちの緑』を殴り飛ばし、もう片方は細身のレイピアを振るって『闇討ちの黒』の背中に×印を刻んだ。

「ぐばぁっ！？」

「うっ…！」

「貴様等、レブルに手出しはさせんぞ！」

「急所は外したけど、その傷じゃもう戦えないはずだよ」

影の正体は勿論イオとライラだ。

今の戦闘時の音を聞きつけてすぐさま駆けつけたのだろう。

ドラゴンの力で殴られ、不意を突かれて斬られれば戦闘を続ける事は不可能だろう。

「…くっ！」

戦況が不利と感じた『騙まし討ちの赤』はその場から逃げ出そうとするが、その進行方向にレブルは先回りをすると、鳩尾に拳を叩き込んだ。

「が、はぁ……！」

「仲間を見捨てて逃げようとするもんじゃない…」

気を失った『騙まし討ちの赤』が地面に倒れると、レブルはイオとライラを見る。

既に『不意打ちの緑』と『闇討ちの黒』は地面に倒れており、意識は無いようだ。

「じゃ、この人たちは縛ってその辺に置いておこうか」

ライラは自分の荷物の中から縄を取り出すと、3人を縛り上げて街道沿いの木に縛り付けた。

「まったく…私のレブルの首を狙うとは…」

プンプン！といった感じで怒っているイオだが、このような賞金稼ぎや教団の奇襲は何度もあった為、レブルは別段気にしていなかった。

「……所でライラ、何故お前は縄をこんなにも持っていたんだ？」

素朴な疑問を、レブルはライラに聞いてみた。

ライラの荷物である麻袋はそんなには大きくなく、3人分も縛ることのできる縄を入れていては場所を取ってしまうのだが…。

「んー、実はレブルとのプレイの時に何か使えないかと思ってね」

「…そういう趣味か？」

ライラの趣味に若干引きつつ、レブルは荷物を纏める。

「野営をするのはもう少し進んだ所にしよう。こいつ等が起きても面倒だ」

「そうだな」

「了解」

そしてレブルとイオ、ライラはもう1時間ほど歩いた場所で野営をすることとなった。





そして、夜も更けた頃。

目を覚まし、木に縛り付けられた『砂漠の三人衆』は脱出を試みていた。

「おい、あまり押すな」

「くっ……まさかドラゴンと人間の仲間がいたとはな……だが向こうの状態を把握したのなら我々も負けん」

「…ん？あれは何だ？」

木々の向こうから数人分の人影を見つけた3人は、闇に目を凝らし、その正体を把握するとギョッと目を大きくする。

「あれぇ〜、何でこんな所で男が3人も縛られてるのかな？」

『砂漠の三人衆』の目の前に現れたのは10人のオークだった。

こんな状態でオークの目の前に居ては格好の餌である。

「う、うわぁ！？」

「やめろォ！」

「そんなの駄目だよォ。いっぱいヤらせて貰うからね♥」

6人のオークが3人に群れると、押さえつけつつ服を脱がせていく。

それを尻目に残っているオークの内、1番立派な装備をしているオークが街道に残っている足跡に目を凝らす。

「フフフ、皆、まだまだ獲物は残ってるみたいだよ」

「あ、本当だ。人間の足跡が2つ…魔物が1つかな？」

「ついさっきできた足跡みたいだし、そう遠くには行っていないでしょ。皆！こいつ等とヤり次第次の獲物の所に行くよ！」

「「「お〜！」」」





-Rebel-　反逆者と魔物娘

-オークの章-　了

■作者メッセージ
オーク10匹VSレブル&イオ&ライラ

どうみても勝敗が見える…

オークたち御愁傷様ですね。