黒槌と牛
現在地-不明-薄暗い下水道
「ふあっ!誰かっ!誰か助けてぇ…!」
地下下水道をぬるぬると進んでいくバブルスライム。
曲がり角の向こうには、巨大な体を持つ何かの影が見える。
その体は太く、グニグニと蛇のような体を蠢かせる。
「助けてぇ…!嫌だよぉ…!」
巨大な何かは、曲がり角を曲がると一気に加速してバブルスライムに襲い掛かった。
「いやぁ…!いやぁああああああああああ!」
現在地-闘技場都市ソサエティの南部の森-鍛冶小屋
此処は大陸のほぼ中央にある闘技場都市、ソサエティ。
世界一大きな闘技場コロッセウムのある巨大な街であり、彼がいるのはそのすぐ南ある何の変哲も無い唯の森。
彼は、そこにある鍛冶小屋の外に寝転がっていた。
ジパング風の着物にズボンをはいていて、髪の毛は短い茶髪だ。
顔は悪くない…決して美形とは言えないが男らしさと言う雰囲気を纏っている。
しかし彼は体中に腕や足を初め顔や胸にも黒い刺青を刻んでいる。
刺青は魔法を発動させる術式の一種であり、これは非常に強力な強化の術式であり、人間にしながらとんでもない怪力を発揮できるのである。
代わりに代謝が激しく、すぐに空腹になってしまうというのは本人談。
この男の名前はタタラ・ヒトツメ。
サイクロプスとドワーフの鍛冶技術を習得し、かつてブラックハンマーと呼ばれるほどに高名の鍛冶職人だったのだ。
しかし彼は教団に騙されて武器を作らされた挙句に無理矢理術式を刻まれて戦場に駆り出されてしまい、逃げ出した。
それ以来武器は作らないと決めたのだった。
風が草木を過ぎて擦れる音と共に、北にあるソサエティから声が聞こえてくる。
もうすぐ月に一度の闘技大会が行われるせいだろう。
「闘技大会か…アイツも出るのか…?」
起き上がると、そろそろ来るはずの来客を待つ。
暫く待っていると草木を掻き分けてポニーテールにされた赤い髪に赤い鱗、褐色の肌を持ち、吊り目で勝気そうな顔立ちをし、ビキニパンツをはいた魔物であるサラマンダーが現れた。
「よっすタタラ!」
「毎日毎日良く飽きないなカレン」
彼女はカレン。
以前折れた剣の修理をタタラに依頼しに来たのだが、勿論タタラは断り、色々あってその剣を元に作り直してもらったのだ。
その際にカレンがタタラに惚れてしまい、一度まぐわったのだが、カレンが自分で振り向かせてみせると言って半月前ほどから毎日此処に通っているのだ。
「大好きなタタラのとこに来るのが飽きる訳ないだろ」
嬉恥ずかしそうにそう言うと、タタラも少しだけ顔が赤くなる。
「馬鹿言ってる場合か…やれやれだ」
カレンはタタラの横に座ると腕に抱きついた。
「なぁタタラ、最近ソサエティが騒がしくなってきたんだけどどうかしたのか?」
「ああ、月に一度の闘技大会があるからそのために集まってるんだろ。腕に自信のある奴等がうじゃうじゃ集まってくるぞ」
そう告げると、タタラに抱きついたカレンの腕にこもる力が少し強くなった。
それを不思議に思ったタタラはカレンに視線を向けると、カレンはキラキラした目をしており、尻尾の炎も強くなってきている。
「ど、どうしたカレン?」
「そっか!世界中から強い奴等が集まってくるんだな〜!アタシも参加してやる!負けてられねぇぞ〜!」
どうやらサラマンダーとしての戦闘本能に火をつけてしまったようだ。
早速立ち上がってソサエティの方へと向かっていくカレンの背中をタタラはゆっくりと見送っていた…。
「あ、タタラも来いよ!」
だが急にUターンしてタタラの腕を引っ掴んで引っ張った。
「うおっ!待てカレン!俺は別に…」
「何だよ!別にいいだろ!じゃあ出発!」
「ま、待てって、ハンマー持ってくるから少しだけ待ってろ!おいカレン!」
暫く引っ張り合いが続いたが、タタラが自身の武器である巨大なハンマーを背中に背負って漸くソサエティに向かう事になった。
街の大通りは人々が行き交い、出店も普段よりも多く出ており様々な所で様々な人が色んな物を見ている。
遥か向こう側に見える闘技場コロッセウムからは大きな歓声が聞こえているので恐らく自由試合が行われているのだろう。
自由試合とは言え闘技大会が近くなってくれば満席に等しいほど客が集まる。
個人の賭け事でもかなりの額が動くはずだ。
「で、俺まで連れてきて何処に行くんだ?」
再びタタラの腕にしかみつきながら歩くカレンにそう尋ねる。
どうでもいいが抱きつかれているせいでタタラはかなり歩き辛そうだ。
「んー、そうだなぁ…出店が出てるしなんか買って食おうぜ!」
カレンは屋台までタタラを引っ張ると、屋台でバナナをチョコレートに浸しているおっさんに話しかける。
「おっさん!それ二本くれ!」
「あいよっ!いやー、兄ちゃんにくいねぇコノッ!こんな美人のねーちゃんに抱きつかれてよ!」
「勘弁してくれ」
おっさんは冷やかすが、タタラは顔を手で押さえ、カレンは嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
代金を支払ってチョコバナナを受け取って再び街道を歩き出す。
タタラはチョコバナナを食べるとほんのりと甘い味が口に広がり、思わず美味い…と漏らしてしまう。
しかしカレンはチョコバナナを口に含むと、むぐむぐ舐めるだけで食べようとしない。
尻尾の炎も少し強くなっている。
「…どうした?食べないのか?」
「んむ…ちゅ、じゅる、ちゅ…ぱぁ…!いや、タタラのおちんぽを妄想しながら舐めてたら止まらなくて…ちゅぷ、れろ…」
「…やれやれだ」
ハァ、と溜息を一つ吐きタタラはチョコバナナを食べきった。
と言うか、カレンはそんな事を道のど真ん中で言っていて恥ずかしく無いのだろうか。
結局カレンもチョコバナナを食べきり、次の出店へと向かおうとするが…。
「オラァ!もう一回言ってみろ!」
ドガンッと何かが壊れる音と共に男の声が響いた。
大勢の人々は其方を向いており、それはタタラとカレンも例外ではなかった。
先ほど壊れた音の正体は屋台が崩れた音で、傍には金髪で、可愛い顔立ちをした十三歳ほどの少年が座り込んでいた。
その手前には筋肉ムキムキのおっさんが、恐らくは屋台を蹴ったのだろう、蹴りを放った体勢をしていた。
「と、闘技大会に優勝するのは兄ちゃんだ!お前なんか優勝できるもんか!」
「…あぁ、このガキ…怪我してぇみたいだな!」
どうやらおっさんは闘技大会の参加者らしく、あの少年の言った事が気に食わなかったのだろう。
闘技大会の参加者は総じて気性の荒い者も多く、沸点が低い者はすぐに実力行使をしようとする。
このおっさんも例外ではなかったようで、背中の大剣を抜いて構えた。
瞬間、大通りにいる人々がザワッと騒ぐ。
「アイツ…!」
カレンも腰の炎の力を宿す魔剣である封炎剣を抜こうとするが、手をタタラに押さえられる。
「タタラ…!?如何して!?」
「待て……凄い速さで何か来る」
周りがその男と少年に注目する中で、タタラはその近づいてくる圧倒的な存在を感じ取っていた。
それはおっさんが大剣を振り下ろす瞬間に少年とおっさんの間に飛び入り、大剣を受け止めた。
緑色の肌に白く長い髪、そこから覗かせるは二本の角。
右腕に青い刺青が入れられており胸と腰周りにだけボロ切れた布を巻いて服代わりにしている魔物。
「オーガか…」
ある人は目を逸らし、ある人は唖然とし、ある人は興味深そうにそれを見つめる。
そんな中、タタラはその魔物の種族を呟いた。
超強力な腕力を持った魔物であるオーガ。
彼女達は腕に覚えのある個体が多いので、この街にはその腕を試そうとよく訪れる事がある。
おっさんは素手で大剣が止められて唖然としていたがハッと気を戻すと一度剣を退いた。
「テメェ…なんで邪魔すんだコラ!」
オーガを睨みつけるおっさんだがオーガは鋭い目でおっさんを見据えると、臆したのかおっさんは少しだけ足を後ろに下げる。
「おめーこそ何してやがんだよ?相手はガキなのに剣抜かないと如何にかできねーのか?」
怒っているような、呆れているような、そんな目でおっさんを睨み続けるが、おっさんも後には引けないようで剣を構え直した。
「あぁ!?俺が屋台で飯を買いながら闘技大会で優勝は貰ったって言ったらいきなりそのガキがイチャモン付けやがったんだぞ!俺は悪くねぇし素直に謝らないガキには教育が必要ってなモンだろうが!」
よっぽど自分の腕に自信があるのか、それとも単に馬鹿なだけかオーガにも喧嘩を売るような口調のおっさん。
普通の人間では、策でも無い限りオーガにはまず勝てない。
「はっ!久しぶりに見る屑野郎さね…少し灸でも据えてやるよ!」
おっさんは大剣を振りかぶってオーガに近づき、振り下ろそうとした瞬間に、オーガは大剣の腹を横から叩いて軌道を逸らし、隙が出来たおっさんの顔面を殴り飛ばした。
「ぶはっ!?」
暫く吹っ飛び続けたおっさんは木箱が積まれている場所に突っ込むことでやっと勢いが止まったのか、ゆっくりと立ち上がる。
足は少しフラフラしているが、ギロリとオーガを睨みつける。
「ぶっ殺す!」
「やってみなこの三下!気絶するまで殴り続けてやる!」
拳を構えるオーガと、大剣を振りかぶるおっさんだが、流石にこれ以上は拙いと判断するタタラは二人の間に入り込み、大剣はハンマーの柄で、オーガの拳は手の平で受け止めて止めた。
勿論術式の力を使ってだ。
モロにオーガの拳を受け止めればその手は二度と使い物にならなくなるかもしれないだろう。
「んだテメェは!退きやがれ!」
「邪魔すんじゃねぇよ!」
二人とも興奮していてこのまま引き下がる雰囲気でも無い。
更に力が込められる拳と大剣に対し、タタラは更に術式の力を強く発動して二人を押し返して弾き飛ばした。
「どっちもこれ以上はお預けだ…まだ続けるなら警備隊にしょっ引かれるぞ」
背中からハンマーを下ろし、石畳に置くとその並々ならぬ重量感が辺りにも感じられる。
三人は暫く睨みあった後、おっさんが大剣を背中に収めた。
「チッ、命拾いしたな、ガキにオーガ…この借りは闘技大会で返すぜ。俺の名前はフォカス・ハイドラントだ…次にこの名前を聞く時がお前等の命日だぜ」
そう言い残してその場を去っていくおっさん改めフォカス。
人々は騒動が終わったと判断すると、すぐに散り散りになっていった。
「タタラ!大丈夫だったか!?」
駆け寄ってくるカレンを目で確認してからタタラはハンマーを背に戻す。
「ああ、問題無い」
そうは言ったが、タタラはオーガの拳を受け止めた手の平は未だに強い痺れが残っていた。
「おいお前」
先ほどのオーガに呼び止められて、タタラは振り返る。
オーガは少し不機嫌そうな顔をしてタタラを睨んでいた。
「なんで俺の邪魔したんだ?あの位の相手なんて…」
「おいアンタ!折角タタラが手遅れになる前に止めてくれたのに邪魔は無いだろ!?」
その言葉に食って掛かったのはカレンで、詰め寄って喧嘩腰に話す。
「止めろなんて言ってねぇし余計なお世話だっての」
「んだとコノ〜!」
サラマンダーであるカレンもそこまで沸点が高い訳も無く、オーガに掴みかかろうとするが、タタラに止められる。
「タタラ…!」
「落ち着けカレン。俺が止めたのはこれ以上騒ぎを起こすとお前等が警備隊にしょっ引かれると判断したからだ…警備隊が来る前に俺はトンズラするからな」
それだけ言い残すとタタラはハンマーを背負いなおすと一目散に走り去っていく。
「あっ!タタラ!?くそっ、おいオーガ!アンタの事は許さねぇから覚えてろよコノヤロー!」
それを慌てて追うようにカレンも走っていったのだった。
現在地-ソサエティ-宿屋ミルクハウス
此処はホルスタウロスが経営している街の一角にある小さな宿屋。
そこにタタラとカレンは来ていた。
カレンはこの宿に寝泊りしており、タタラはこの街に来たばかりの頃はこの宿を利用していた。
二人はこの宿のカレンの部屋でミルクを飲んで落ち着いていた。
「くっそー…あのオーガ礼の一つも言えばいいのによ」
未だオーガに対して文句を言っているカレンだが、タタラはいい加減辟易していた。
「いい加減にしろカレン…」
「自分の好きな男にあんな言い方されたら嫌な気分にもなるさ」
ムスッとしたままカレンがミルクを飲み干すと、傍にいたホルスタウロスがポッドから新たにミルクを注いだ。
彼女はこの宿屋の主人であるホルスタウロスのコレットだ。
「カレンさんは本当にタタラさんが好きなんですね」
「おう!アタシの初めても貰ってもらったし後は振り向かせるだけだ!」
目の前でそんな事を宣言されて嬉しいような恥ずかしいような呆れるような、そんな感情を抱きながらタタラは深い溜息を吐いた。
「そう言えば最近の行方不明事件はご存知ですか?」
コレットの言葉に、タタラとカレンは首を傾げる。
「行方不明事件?」
「はい、最近夜遅くに人目につかない場所に入り込んだ人々が狙われたかのように姿を消すそうです…」
なにやら物騒な事件らしい。
「親魔物領の…それもこんな大きな街でそんな事件が起こるのは珍しいな」
反魔物領では誘拐や暗殺をされる魔物が多く、更には性処理の相手として使い捨てにされる事も珍しくは無い。
しかしこの親魔物領ではかなり不気味で珍しい事件だった。
「何処のどいつが…許せないな!」
カレンはどうも怒っているようだが、タタラは殆ど気にしていないようだ。
「カレンもコレットも十分注意しろよ」
「おう!て言うか誘拐でもされそうになったら返り討ちにしてやる!」
「フフ、心配してくださってありがとうございます」
この話は此処で区切り、三人は暫く談笑を続けている。
そしてタタラはふとカレンに問う。
「そんな事よりカレン、お前は闘技大会に出場する気なのか?」
そう、カレンが闘技大会に出場するかの確認だ。
もし出場するのなら応援くらいには行ってやりたいと思っているのだ。
「勿論さ!この封炎剣の力を存分に試せるしな!」
タタラがカレンに封炎剣を作ってからの半月間、カレンはタタラとの模擬戦や獣相手にしか封炎剣を使用していないのだ。
本気で振り回す機会は中々無く、今度の闘技大会はその格好のチャンスだろう。
「なら参加登録は急いだ方がいいぞ。何だかんだで参加人数にも制限があるからな。漏れるとまた来月まで待たないとならないしな」
いくら大きな闘技場の大会とは言え、いくら二日から三日かけての大きな大会と言えど期限が存在し、長引き過ぎないように人数制限が存在する。
毎回その人数は変化するが闘技場の管理人の判断人数でストップがかかる。
それを聞いてカレンは椅子からガタンと音を立てて立ち上がる。
「そ、そう言う事は早く言ってくれよ!急げー!」
部屋から慌てて飛び出して行ってしまった。
「あらら…開催は明後日ですしそろそろストップがかかる頃ですし間に合うんですかね…?」
「さぁな、と言うかお前はこの部屋に居続けていいのか?」
宿屋の主なのに一つの部屋に付いてミルクを注ぐサービスをしているのは他の客人の迷惑にならないのだろうか。
「あ…いいんです…今家に泊まってるお客さんはカレンさんだけなので…」
妙に落ち込んでしまったコレットは肩を落としてしまう。
悪い事聞いたか…と思ったタタラは立ち上がってコレットを椅子に座らせる。
「ふぇ…?どうしたんですかタタラさん?」
「アンタは座ってろ…俺が茶でも淹れてやるよ」
「…ウフフ、ありがとうございます」
そのまま二人はカレンが戻ってくるまでお茶を楽しんでいたが、戻ってきたカレンが嫉妬して封炎剣を振り回していたのは余談だ。
因みにカレンは闘技大会に参加できる事になったらしい。
現在地-ソサエティ-闘技場コロッセウム
あれから二日。
漸く闘技大会が開催されて、タタラとコレットは闘技場の席に座ってカレンの出番を待っていた。
「今回も凄く盛り上がってますね」
「ああ…ってその手に持っている紙はなんだ?」
コレットの手には小さなチケットの様な物が握られていた。
「あう…このままだと借金が返せなくて…カレンさんに賭けちゃいました…」
テヘへと舌を出して言うコレットだが、タタラは別段なにも言わなかった。
この街に存在する住民は闘技場の賭け事で収入を得ている者が全体の三割も居る…そう言った奴等にとっては賭けも立派なビジネスだ。
すると最初の参加者達が入場してきた。
西口からは赤毛の髪の小さな女の子…だがその手には大きな木作りの棍棒が握られている…ゴブリンが入場してきた。
東口からは手足から黒い毛を生やし尻尾もあり質素な服装に鎖付きの首輪をつ
けたワーウルフが入場してきた。
「さぁ!西口からはゴブリンのシャボン!東口からはワーウルフのテュー!今月の闘技大会最初の勝者はどちらだぁ!?それでは試合開始ィ!」
そして最初の試合が始まった。
ゴブリンの棍棒によるパワーのある攻撃とワーウルフの爪を活かしたスピードのある攻撃が交錯する。
ウォオオオオオオオオと大きな歓声が響き、空気が揺れる。
激しい攻防の末に先に倒れたのはゴブリンだった。
巨大な歓声が街中に届き、闘技場が興奮に包まれる。
それから暫く試合が続いていく。
参加者は人間の男女、武闘派の魔物等様々であり、戦略を練る者や正々堂々と武器と体技のみで戦う者も居れば魔法で戦闘を行う者も居た。
「さぁ!続いて西口から現れるのは屈強なオーガの闘士!リンだぁあああ!」
西口から入場してきたのは緑色の肌に白い髪に二本の角。
青の刺青に質素な布の服装。
それは間違いなく二日前のあのオーガだった。
「あいつは…!」
タタラは人目でそのオーガに気がついた。
「え?お知り合いなんですか?」
「二日前にカレンが色々言ってたオーガだ」
あのオーガの名前はリンと言うらしく、タタラは彼女を興味深そうに見ていた。
彼女は闘技場の中央に来ると、東口から彼女の相手が現れる。
「さぁ東口から来るのは今大会最大の体格を誇る男ぉ!その異名を巨人!クロフ・リオニセスだぁああああああ!」
瞬間、一部の歓声が倍は強くなった。
東口の入り口からは身長三メートル近くはある超巨漢で髪も髭も伸び放題、獣の皮で作られた服を着た男が入場してきた。
流石のタタラも目を大きくし、コレットは唖然としている。
「ありゃ本当に人間かよ…旧世代の魔物って言われた方が現実味がある」
「ふぁああ〜、おっきい人ですね…」
周りの人々も、あのクロフと言う男があそこまで巨大だと知らなかった者は唖然とし、彼に金を賭けていた者は歓声を上げている。
流石にあの化け物じみた男が相手ではオーガが相手でも勝てないと思っているのだろう。
「では試合開始ィ!」
司会の声と共にクロフはその巨大な拳を握って突き出す。
リンもこの巨大な拳を受け止めはせずに横に跳んで避ける。
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
人間離れした声を上げて今度は蹴りを放つクロフ。
だがリンはそれを紙一重で避けるとその足首を両手で掴む。
そのまま自分を中心に時計回りで高速回転を始めた。
「うおりゃああああああああああああ!」
所謂ジャイアントスイングと言うやつだろう。
そのままクロフを放り投げると、クロフはその巨体で石造りの闘技場の壁に突っ込んで、砕いた。
あまりの光景に会場は静まり返ったがすぐさまリンを賞賛する歓声が沸いた。
…しかしクロフもそこまでヤワでは無かったようで、すぐに立ち上がった。
「ギィイイイガァァアアアアアアアアアア!」
その叫び声は人間と言うよりは旧世代形態のドラゴンに近く、タタラは内心化け物かコイツはと毒づきながら耳を押さえた。
そんな叫び声を間近で聞いていたリンは耳を押さえるだけではなく思わず目も瞑っているようで、その隙にクロフはラリアットでリンを吹き飛ばした。
「ぐ…!」
今度はリンが吹き飛ばされ、闘技場の床を転がる。
だが転がる最中にすぐさま体勢を立て直し次の攻撃に備える。
「グォオオオオオオオオオオオオオオ!」
クロフは更に叫び声を出すと、リンはその声の煩さに僅かな隙を作ってしまい、クロフは其処に蹴りを放った。
「ぐがっ…!」
そのまま吹き飛んでいくと闘技場の壁にぶつかってやっと止まった。
ワァアアアアアアアと闘技場に歓声が響き渡る。
人間が魔物に勝つ…普通、これは大番狂わせという物であって、クロフの倍率は彼の体格を知らない者は殆どリンに賭けていたので彼女よりも低い。
「これは終わっちゃいましたかね…?」
コレットもリンが立ち上がれないと判断したようだが、タタラはリンから溢れ出る闘気を感じ取っていた。
「まだだ…立つぞ」
「え?」
タタラの言った通り、リンは結構なダメージを受けてしまったようだがまだしっかりと立ち上がった。
会場のあちこちからドヨヨッと声が聞こえる。
「まだだぜ、このデクの棒!」
リンは立ち上がるとクロフに突っ込んでいく。
再び巨大な拳がリンに向かっていくが、リンはジャンプして腕の上に乗るとそのまま走って上っていく。
「だりゃあああああああああああああっ!」
クロフの顎に、リンの強烈なアッパーカットが炸裂する。
オーガの怪力で殴られれば幾ら巨大で頑丈な体でも無事では済まない。
それが人間の顎という部分なら尚更だ。
軽く打たれるだけでも脳震盪を起こしてしまう急所だというのに、更に強力な力だ殴られてしまえば最早戦うことは出来ない。
顎を殴られたクロフは宙を舞い、仰向けに倒れた。
恐らく今ので顎が砕けて脳震盪でも起こしたのだろう、もう立ち上がる力は無かった。
「あ…勝者リン!」
司会の男の勝利宣言でリンの勝利が確定したが、ダメージがあるのか、リンは少し疲れたように退場した。
会場は少し静まり返っていたが、退場していく最中のリンに大歓声を送っていた。
「凄い戦いでしたね!私も赤い物を見たときほどじゃないけどコーフンしましたよ!」
「あ、ああ…かなりの力だな…あの大男を一撃で沈めちまったしな」
コレットは少し興奮してタタラの手を握り早口に話し始める。
何時もはのんびりなコレットがこんな状態なのに多少戸惑いつつもそう答える。
その間にクロフは十数人がかりで運ばれていってしまった。
そして更に試合が続いていくと、とうとうカレンの出番が訪れた。
「さぁ!西口にはサラマンダーの剣士カレン!東口には人間の戦士フォカスだぁああああああ!」
フォカス…そう言えばあのおっさんだな。
と二日前の騒動を思い出して会場を見る。
西口からは既に封炎剣を抜いて闘技場の中央に駆け出すカレン、東口からは大剣を背負っているカレンと同じ様に走っていた。
「良かったなコレット、十中八九カレンの勝ちだ」
実力と武器の差からタタラはそう判断した。
それを聞くとコレットは目を輝かせた。
「本当ですか〜!?良かったです!これで少し借金を返す事ができます!」
賭けのチケットを握りながら嬉しそうに顔を緩ませるコレットを見てタタラも少し嬉しく思う。
彼女の宿屋ミルクハウスは家具は必要な物は揃っているし広さも金額から考えれば少し狭いが問題は無い程度だ。
だがミルクハウスに客が来ないのは場所の悪さが原因だ。
大通り沿いの道にあればある程度の客は入ってくるが残念ながらミルクハウスは大通りから入る少し狭い路地に入るとある宿で、人の目に入る事は早々無く、そこに辿り着く前に旅人は他の宿屋を選んでしまうのだ。
よって彼女は生活と宿を守るために少々借金をしている…。
はっきり言うと少々どころの額では無いのだが。
試合が始まった。
フォカスは背中から大剣を抜くとカレンに向かって突っ込んだ。
だがカレンも同じ様に封炎剣を構えて突っ込むと、二人は闘技場のほぼ中央で激突した。
武器の力はフォカスの方が上だが本人の力はカレンの方が強いので鍔競り合いになっている。
「チィ…!俺の一撃を止めるとはな…流石はサラマンダーって事か」
「へっ!この封炎剣を舐めるなよ!」
次の瞬間、カレンの持つ封炎剣の刀身が燃え上がる。
刀身の素材に使用した火の力が込められている鉱石の力で、カレンの魔力を消費する事によって刀身に炎を纏う事が出来るのだ。
その炎の熱により大剣の刀身が少しだけ溶けてしまう。
「んな…!?」
そのまま鍔競り合っていると、大剣はどんどん溶けてゆく。
慌ててフォカスは身を退いて後退する。
「くそっ!何だあの剣は!?」
「おらぁ!まだまだこれからだぁ!」
カレンが振り回す封炎剣をある時は避け、ある時は大剣で防ぐが大剣で防ぐごとに刀身が溶けてゆき、原型を失っていく。
「や、ヤベェ…!」
そして大剣は殆ど崩れ落ち最早剣としての機能を果たしていなかった。
「三下が使う鈍にタタラの作った剣を使うアタシに敵う筈ねぇだろ!」
カレンは燃える刀身振りかぶり、フォカスを捕らえるとそれを振り下ろした。
フォカスの胸を切り裂き赤い血を噴出させると同時にその身を焼く。
その攻撃にフォカスは成す術も無く倒れ伏した。
会場に歓声が上がる。
「やったぁー!カレンさん勝ちましたね!」
コレットもキャーキャー騒いで喜んでいる。
タタラも心なしか口を緩めて嬉しそうにしている。
「ああ、封炎剣をかなり使いこなしている…あいつこの半月間手に馴染むように訓練を欠かさなかったからな…」
自分の武器で、カレンが勝ってくれた事がとても嬉しい。
表情は薄いがそんな顔をしている。
闘技場のカレンはキョロキョロと周りを見渡してタタラを見つけると、封炎剣を空に掲げてにっこりと笑う。
そしてカレンは退場していき、大会は進むのだった。
現在地-ソサエティ-宿屋ミルクハウス
「それじゃあ、カレンさんの準々決勝出場を祝して…乾杯です〜!」
三人でミルクと酒が入った杯を打ち合うとカァンと音を立てて少し中身が零れた。
因みにタタラは酒、カレンも酒、コレットはミルクを飲んでいる。
「ぷっはー!酒が進むなぁ!」
「親父臭いなお前」
カレンがドンと机に杯を叩きつけるとまた中身が零れる。
「このまま行けば優勝もあるぞ!優勝賞金が手に入ったらタタラに好きな物買ってやるからな!」
ニヒヒと笑っている所を見ると、もう少し酔っている様だ。
タタラはちびちび飲んでいるが酒には強くは無いようだ。
「ふふふ、カレンさんのお陰で借金が少し返済できました〜」
余程借金には困っていたのか、ふにゃけた笑顔でミルクを飲み続ける。
「お前昼間からそればっかりだな…後どれ位借金あるんだ?」
「…この宿屋を売り払えば何とか…」
まだそんなにもあるのかと内心溜息と同情をするタタラだが、疑問もあった。
「借金は儲からないからしているんだろうが…何故この宿を売り払って金にしない?別の職にしようとは思わないのか?」
「そういえばそうだよな…実の所なんでなんだコレット?」
カレンも気になったようで、酒で酔った顔を赤く染めながら話に割り込んでくる。
「…この宿は父と母が経営してたのですが、街の拡大として周りに建物が出来て路地の奥になってしまったんですが…父と母の遺産なので捨てるなんて私にはとても…」
コレットの話を聞いたカレンは、何処となく自分の事情に似ていると思った。
そしてそんなコレットを救いたいと思った。
「…ごめんなタタラ、優勝したら賞金はコレットの借金返済に使う!」
「ええっ!?」
「…そう言うと思ったよ」
コレットは心底驚いたように、タタラは予想通りと言わんばかりの表情だった。
「コレットは以前のアタシと似てるんだ…だからアタシは絶対に優勝してコレットの為に賞金を手に入れる!」
「え、えぇっ!?そんな、悪いですよ!」
「良いんだよ!アタシがしたいだけなんだから!」
ニヒヒと笑いながら酒を飲み干すカレンは、すぐに次の酒を注ぐ。
未だ戸惑うコレットに、タタラが説明する。
「カレンは以前まで母親の形見である剣の修理を俺に頼んでいてな…だが完全に折れた状態だった上に寿命で、最終的に俺が打ち直したんだ。大事な物を守れるのなら守ってやりたいんだろう」
一気飲みをしているカレンを眺めながら説明を終えたタタラは酒をまた少しだけ喉に通す。
ほんのりとタタラも顔が赤くなっており、カレンなどはもう真っ赤だ。
コレットはまだ少し驚いていたが、そんな二人を見て笑顔を浮かべると酒の入っているジョッキを掴んで飲み干した。
普段は大人しいコレットがそんなに酒を飲んだのに驚き、タタラは少しギョッとしている。
「…」
「お、おいコレット…そんなに飲んで大丈夫か?」
ジョッキを置いてから暫く何の反応も無いコレットにタタラが声をかけるが、全く反応が無い。
「……ぶもぉおおおおお!」
「なっ!?」
急に叫び声を上げて、コレットはタタラを押し倒した。
「ふぉえ!?お、おいコレット何してんだ!?」
カレンも酔ってはいるがコレットの只ならぬ様子に駆け寄ってくる。
「くっそ…!どうしたコレット!酔ってるのか!?」
「ぶもぉおおおおおおお!もぉおおおおおおおおお!」
押し倒された状態でもとりあえず肩を掴んで押し返しているが、コレットは正常に戻らない。
術式の力を使っていないので簡単には押し返せないが、カレンも引き剥がそうとしているので、少しずつ体が離れていく。
しかしコレットの尻尾が偶然にもカレンの顔に当たりよろけたカレンは机に倒れこみ、宙に舞った酒をもろに浴びてしまう。
それを見たタタラは全てを悟った。
カレンが浴びたのはラム酒の他に赤ワインが混ざっていた。
あの時、コレットが飲んだのは赤ワインでありその色がコレットの目に入ったのだろう…ホルスタウロスは赤い物を見ると凶暴化するのだ。
勿論、性的な意味で。
押し倒されたタタラは手早くズボンを脱がされるが、それはまだ萎えたままだった。
「あぅむ…」
しかしタタラがそれを隠すより先に、コレットはタタラのペニスを咥えこんだ。
「じゅぷ…ちゅ、ちゅぱ、じゅるる…!」
「う…!」
フェラをされたペニスはすぐに大きくなり、コレットの口からはみ出した。
するとコレットはペニスを一度口から出すと、カリの部分をペロペロ舐め始めた。
「ん…ぺろ、ぴちゃ、んちゅ…!」
「ぐ、くぅ…!カレン…コレットを止めろ…!」
そして視界の端にカレンが立ち上がるのを目にし、タタラは助けを求める。
しかしタタラも必死であり、カレンの様子に気づいていなかった。
既にカレンは大分酔っており転んだ拍子に酒を更に大量に被ってしまったのだ。
トロンとした目に反して尻尾の炎はかなり燃え上がっていた。
「たたりゃ〜!」
呂律が回らない状態で押し倒されるタタラに駆け寄り、コレットの隣で同じ様に尿道口をペチロチロと嘗め回す。
ダブルフェラだ。
「れろ、んふ、ぴろ…」
「ぴちゅ、ん、へろ…」
二人がペニスを舐める淫らな音が部屋に響き、タタラの表情も少し妖しくなってきている。
「く、ぅ…!射精る…射精るぞっ!」
ビュルルルルルッ!ビュ、ビュッ!
ザーメンはカレンとコレットの顔にかけられて白く染め上げる。
二人とも口を開けてザーメンを少しでも飲もうとしている。
「ん…おいひぃ…!」
「もぉぉぉぉ…美味しいれふぅ…!」
「「もっと欲しい…」」
二人はザーメンを舐めきると再びフェラをしようとする。
「いい加減にしろっ!」
術式の力を使って怪力を発揮して漸くタタラは二人を押し返す。
カレンは以前まぐわっているものの、コレットはまだ処女のはず…このままではコレットの分の責任も付きまとう事になってしまう。
「カレンはまだ良いとして…コレットまで俺を犯すつもりか!犯されるつもりか!?俺なんかで良いのか!?」
結構慌てているらしく、大声で問いただす…しかしコレットはにんまりと笑ってタタラに覆いかぶさる。
「私…本当はずっとタタラさんの事が好きでした…初めてこの店に来てくれたときから気になってたんです…時々私に会いに来てくれる…そんな貴方が何時の間にか特別になっていたんです、だから…むぅ!?」
全部言い切る前に、カレンがコレットの後頭部を押して無理矢理キスさせた。
「たたりゃ、これっとぉもたたりゃのころ好きなんりゃよ〜?あたひもだ〜い好きだから…二人とみょ可愛がってよぉ」
「…やれやれだ」
此処まで言われてしまえば、タタラも抗うことは出来なかった。
「…服を脱いでベッドに行こう。二人とも俺がイかせてやるよ」
「もぉおおお、お願いしますぅ…!」
「やっひゃぁ!」
ランランと目が輝かせて服を脱いで一糸纏わぬ姿となって三人でベッドに寝る。
タタラは仰向けになり、コレットが股を開いてタタラに乗る。
「最初は痛いかも知れんが…すぐに気持ちよくなる。カレンは…マンコ舐めてやるから…こっち来いよ」
カレンはマンコをタタラの顔の前に持ってくると、既にどろりと愛液が滴り落ちてタタラの顔にかかった。
「よし…コレット」
「…はい」
コレットはドロドロなマンコを広げてタタラのペニスを迎え入れ、どんどん中へと挿入ていくと、処女膜を破って根元まで入った。
「くぅっ!」
悲鳴に似たコレットの叫びが納まると、タタラは目の前にあるマンコを嘗め回す。
「ぴちゅ、じゅる、れる、んんっ…!」
「あんっ、あっ、たたりゃっ!きもちひぃいいっ!」
すっかり目じりを下げて口を開け、涎を垂らしてその気になっているカレン。
それに続いてコレットも腰を動かす。
「んっ、あっ、きゅうっ!」
じゅぽじゅぽとペニスが愛液に塗れて淫らな音を立てる。
「ひぃっ!いいっ!こりぇ…きもちひぃれすぅ!」
「ちゅ、んぷ、ちゅぴ、ちゅ、れろ…」
「あふぅ!いぃ!おまんこなめられてぇ…きもちひぃ!たたりゃぁ…あらしのおまんこ…はぅっ!お、おいひぃ?」
「んぁ…ああ、カレンの味がする」
「たたらしゃん…!あたひぃ…あたひのおまんこどうれすかぁ!?おちんぽ気持ちいいれすきゃぁ!?」
「ああ、気持ちいいっ…!っ!もうイキたいくらいだっ…!」
三人のまぐわいはどんどんヒートアップしていき、そして三人はほぼ同時に限界を迎える事となる。
マンコを舐められているカレンは舌を突き出してアヘっとした顔になり、コレットももうすぐに絶頂を迎えようと顔を緩ませ、タタラも我慢の限界だ。
「あ、あぁっ!イくぅ!おみゃんこなめりゃれてイっちゃうぅううう!」
「き、きもひぃ…!も、もぉイっちゃいますぅ!」
「お前等っ…!もし俺より先にイったら…後でお仕置きだからな…っ!」
お仕置き、という言葉にカレンとコレットは更に興奮し、そして同時にイってしまう。
「んぅ…!うにゃあああっ!」
「あ、あひぃいいいぃいいいいっ!」
それに一歩遅れて、タタラはコレットの中に射精すのだったが、その表情はニッと妖しく笑っており、先にイってしまった雌火蜥蜴と雌牛は、これからのお仕置きの期待と嬉しさに妖しく微笑んでいた。
現在地-ソサエティ-裏路地奥
此処は薄暗いソサエティの裏路地。
オーガであるリンは、この奥にある下水道の入り口に陣取っていた。
宿に泊まろうにも金が無いのだ。
しかしリンの耳に、なにかグチュグチュとした音が届く。
「…んだ?」
今から眠ろうとしていた所に謎の音が聞こえ、警戒心を高めると共に少しだけだが不機嫌になる。
その不機嫌さが仇になった。
機嫌を紛らわせようと髪の毛をボリボリと掻く…その隙に下水道の奥…暗闇の奥から謎の触手が伸びてくると、リンの体中を縛り上げる。
「なっ!?」
慌てて振りほどこうとするが、触手は強力で千切れる事も振りほどく事も出来なく、どんどん触手はリンに絡まっていく。
「くっ!この…!」
抵抗虚しく、リンは顔以外全て触手に絡み取られてしまった。
此処に来て漸くリンは助けを呼ぶ事を決めた。
他人に頼るのは好きではないが、こんな状態では助けを求める以外に方法は無かった。
「だ、誰か!手ェ貸して…うぐぅ!?」
助けを呼ぼうとした矢先に、口が開いた瞬間を狙って触手の一本の先端が口の中に割り込んできて、声を出す事も出来なくなってしまう。
「ふぁぐ…!むうぅううぅ!」
触手を噛み切ってやろうともしたが、弾力も強く効果は無かった。
「む!?あぐぅうううううううう!?」
そのままリンは下水道の奥に、闇の中へと引きずり込まれていったのだった。
「ふあっ!誰かっ!誰か助けてぇ…!」
地下下水道をぬるぬると進んでいくバブルスライム。
曲がり角の向こうには、巨大な体を持つ何かの影が見える。
その体は太く、グニグニと蛇のような体を蠢かせる。
「助けてぇ…!嫌だよぉ…!」
巨大な何かは、曲がり角を曲がると一気に加速してバブルスライムに襲い掛かった。
「いやぁ…!いやぁああああああああああ!」
現在地-闘技場都市ソサエティの南部の森-鍛冶小屋
此処は大陸のほぼ中央にある闘技場都市、ソサエティ。
世界一大きな闘技場コロッセウムのある巨大な街であり、彼がいるのはそのすぐ南ある何の変哲も無い唯の森。
彼は、そこにある鍛冶小屋の外に寝転がっていた。
ジパング風の着物にズボンをはいていて、髪の毛は短い茶髪だ。
顔は悪くない…決して美形とは言えないが男らしさと言う雰囲気を纏っている。
しかし彼は体中に腕や足を初め顔や胸にも黒い刺青を刻んでいる。
刺青は魔法を発動させる術式の一種であり、これは非常に強力な強化の術式であり、人間にしながらとんでもない怪力を発揮できるのである。
代わりに代謝が激しく、すぐに空腹になってしまうというのは本人談。
この男の名前はタタラ・ヒトツメ。
サイクロプスとドワーフの鍛冶技術を習得し、かつてブラックハンマーと呼ばれるほどに高名の鍛冶職人だったのだ。
しかし彼は教団に騙されて武器を作らされた挙句に無理矢理術式を刻まれて戦場に駆り出されてしまい、逃げ出した。
それ以来武器は作らないと決めたのだった。
風が草木を過ぎて擦れる音と共に、北にあるソサエティから声が聞こえてくる。
もうすぐ月に一度の闘技大会が行われるせいだろう。
「闘技大会か…アイツも出るのか…?」
起き上がると、そろそろ来るはずの来客を待つ。
暫く待っていると草木を掻き分けてポニーテールにされた赤い髪に赤い鱗、褐色の肌を持ち、吊り目で勝気そうな顔立ちをし、ビキニパンツをはいた魔物であるサラマンダーが現れた。
「よっすタタラ!」
「毎日毎日良く飽きないなカレン」
彼女はカレン。
以前折れた剣の修理をタタラに依頼しに来たのだが、勿論タタラは断り、色々あってその剣を元に作り直してもらったのだ。
その際にカレンがタタラに惚れてしまい、一度まぐわったのだが、カレンが自分で振り向かせてみせると言って半月前ほどから毎日此処に通っているのだ。
「大好きなタタラのとこに来るのが飽きる訳ないだろ」
嬉恥ずかしそうにそう言うと、タタラも少しだけ顔が赤くなる。
「馬鹿言ってる場合か…やれやれだ」
カレンはタタラの横に座ると腕に抱きついた。
「なぁタタラ、最近ソサエティが騒がしくなってきたんだけどどうかしたのか?」
「ああ、月に一度の闘技大会があるからそのために集まってるんだろ。腕に自信のある奴等がうじゃうじゃ集まってくるぞ」
そう告げると、タタラに抱きついたカレンの腕にこもる力が少し強くなった。
それを不思議に思ったタタラはカレンに視線を向けると、カレンはキラキラした目をしており、尻尾の炎も強くなってきている。
「ど、どうしたカレン?」
「そっか!世界中から強い奴等が集まってくるんだな〜!アタシも参加してやる!負けてられねぇぞ〜!」
どうやらサラマンダーとしての戦闘本能に火をつけてしまったようだ。
早速立ち上がってソサエティの方へと向かっていくカレンの背中をタタラはゆっくりと見送っていた…。
「あ、タタラも来いよ!」
だが急にUターンしてタタラの腕を引っ掴んで引っ張った。
「うおっ!待てカレン!俺は別に…」
「何だよ!別にいいだろ!じゃあ出発!」
「ま、待てって、ハンマー持ってくるから少しだけ待ってろ!おいカレン!」
暫く引っ張り合いが続いたが、タタラが自身の武器である巨大なハンマーを背中に背負って漸くソサエティに向かう事になった。
街の大通りは人々が行き交い、出店も普段よりも多く出ており様々な所で様々な人が色んな物を見ている。
遥か向こう側に見える闘技場コロッセウムからは大きな歓声が聞こえているので恐らく自由試合が行われているのだろう。
自由試合とは言え闘技大会が近くなってくれば満席に等しいほど客が集まる。
個人の賭け事でもかなりの額が動くはずだ。
「で、俺まで連れてきて何処に行くんだ?」
再びタタラの腕にしかみつきながら歩くカレンにそう尋ねる。
どうでもいいが抱きつかれているせいでタタラはかなり歩き辛そうだ。
「んー、そうだなぁ…出店が出てるしなんか買って食おうぜ!」
カレンは屋台までタタラを引っ張ると、屋台でバナナをチョコレートに浸しているおっさんに話しかける。
「おっさん!それ二本くれ!」
「あいよっ!いやー、兄ちゃんにくいねぇコノッ!こんな美人のねーちゃんに抱きつかれてよ!」
「勘弁してくれ」
おっさんは冷やかすが、タタラは顔を手で押さえ、カレンは嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
代金を支払ってチョコバナナを受け取って再び街道を歩き出す。
タタラはチョコバナナを食べるとほんのりと甘い味が口に広がり、思わず美味い…と漏らしてしまう。
しかしカレンはチョコバナナを口に含むと、むぐむぐ舐めるだけで食べようとしない。
尻尾の炎も少し強くなっている。
「…どうした?食べないのか?」
「んむ…ちゅ、じゅる、ちゅ…ぱぁ…!いや、タタラのおちんぽを妄想しながら舐めてたら止まらなくて…ちゅぷ、れろ…」
「…やれやれだ」
ハァ、と溜息を一つ吐きタタラはチョコバナナを食べきった。
と言うか、カレンはそんな事を道のど真ん中で言っていて恥ずかしく無いのだろうか。
結局カレンもチョコバナナを食べきり、次の出店へと向かおうとするが…。
「オラァ!もう一回言ってみろ!」
ドガンッと何かが壊れる音と共に男の声が響いた。
大勢の人々は其方を向いており、それはタタラとカレンも例外ではなかった。
先ほど壊れた音の正体は屋台が崩れた音で、傍には金髪で、可愛い顔立ちをした十三歳ほどの少年が座り込んでいた。
その手前には筋肉ムキムキのおっさんが、恐らくは屋台を蹴ったのだろう、蹴りを放った体勢をしていた。
「と、闘技大会に優勝するのは兄ちゃんだ!お前なんか優勝できるもんか!」
「…あぁ、このガキ…怪我してぇみたいだな!」
どうやらおっさんは闘技大会の参加者らしく、あの少年の言った事が気に食わなかったのだろう。
闘技大会の参加者は総じて気性の荒い者も多く、沸点が低い者はすぐに実力行使をしようとする。
このおっさんも例外ではなかったようで、背中の大剣を抜いて構えた。
瞬間、大通りにいる人々がザワッと騒ぐ。
「アイツ…!」
カレンも腰の炎の力を宿す魔剣である封炎剣を抜こうとするが、手をタタラに押さえられる。
「タタラ…!?如何して!?」
「待て……凄い速さで何か来る」
周りがその男と少年に注目する中で、タタラはその近づいてくる圧倒的な存在を感じ取っていた。
それはおっさんが大剣を振り下ろす瞬間に少年とおっさんの間に飛び入り、大剣を受け止めた。
緑色の肌に白く長い髪、そこから覗かせるは二本の角。
右腕に青い刺青が入れられており胸と腰周りにだけボロ切れた布を巻いて服代わりにしている魔物。
「オーガか…」
ある人は目を逸らし、ある人は唖然とし、ある人は興味深そうにそれを見つめる。
そんな中、タタラはその魔物の種族を呟いた。
超強力な腕力を持った魔物であるオーガ。
彼女達は腕に覚えのある個体が多いので、この街にはその腕を試そうとよく訪れる事がある。
おっさんは素手で大剣が止められて唖然としていたがハッと気を戻すと一度剣を退いた。
「テメェ…なんで邪魔すんだコラ!」
オーガを睨みつけるおっさんだがオーガは鋭い目でおっさんを見据えると、臆したのかおっさんは少しだけ足を後ろに下げる。
「おめーこそ何してやがんだよ?相手はガキなのに剣抜かないと如何にかできねーのか?」
怒っているような、呆れているような、そんな目でおっさんを睨み続けるが、おっさんも後には引けないようで剣を構え直した。
「あぁ!?俺が屋台で飯を買いながら闘技大会で優勝は貰ったって言ったらいきなりそのガキがイチャモン付けやがったんだぞ!俺は悪くねぇし素直に謝らないガキには教育が必要ってなモンだろうが!」
よっぽど自分の腕に自信があるのか、それとも単に馬鹿なだけかオーガにも喧嘩を売るような口調のおっさん。
普通の人間では、策でも無い限りオーガにはまず勝てない。
「はっ!久しぶりに見る屑野郎さね…少し灸でも据えてやるよ!」
おっさんは大剣を振りかぶってオーガに近づき、振り下ろそうとした瞬間に、オーガは大剣の腹を横から叩いて軌道を逸らし、隙が出来たおっさんの顔面を殴り飛ばした。
「ぶはっ!?」
暫く吹っ飛び続けたおっさんは木箱が積まれている場所に突っ込むことでやっと勢いが止まったのか、ゆっくりと立ち上がる。
足は少しフラフラしているが、ギロリとオーガを睨みつける。
「ぶっ殺す!」
「やってみなこの三下!気絶するまで殴り続けてやる!」
拳を構えるオーガと、大剣を振りかぶるおっさんだが、流石にこれ以上は拙いと判断するタタラは二人の間に入り込み、大剣はハンマーの柄で、オーガの拳は手の平で受け止めて止めた。
勿論術式の力を使ってだ。
モロにオーガの拳を受け止めればその手は二度と使い物にならなくなるかもしれないだろう。
「んだテメェは!退きやがれ!」
「邪魔すんじゃねぇよ!」
二人とも興奮していてこのまま引き下がる雰囲気でも無い。
更に力が込められる拳と大剣に対し、タタラは更に術式の力を強く発動して二人を押し返して弾き飛ばした。
「どっちもこれ以上はお預けだ…まだ続けるなら警備隊にしょっ引かれるぞ」
背中からハンマーを下ろし、石畳に置くとその並々ならぬ重量感が辺りにも感じられる。
三人は暫く睨みあった後、おっさんが大剣を背中に収めた。
「チッ、命拾いしたな、ガキにオーガ…この借りは闘技大会で返すぜ。俺の名前はフォカス・ハイドラントだ…次にこの名前を聞く時がお前等の命日だぜ」
そう言い残してその場を去っていくおっさん改めフォカス。
人々は騒動が終わったと判断すると、すぐに散り散りになっていった。
「タタラ!大丈夫だったか!?」
駆け寄ってくるカレンを目で確認してからタタラはハンマーを背に戻す。
「ああ、問題無い」
そうは言ったが、タタラはオーガの拳を受け止めた手の平は未だに強い痺れが残っていた。
「おいお前」
先ほどのオーガに呼び止められて、タタラは振り返る。
オーガは少し不機嫌そうな顔をしてタタラを睨んでいた。
「なんで俺の邪魔したんだ?あの位の相手なんて…」
「おいアンタ!折角タタラが手遅れになる前に止めてくれたのに邪魔は無いだろ!?」
その言葉に食って掛かったのはカレンで、詰め寄って喧嘩腰に話す。
「止めろなんて言ってねぇし余計なお世話だっての」
「んだとコノ〜!」
サラマンダーであるカレンもそこまで沸点が高い訳も無く、オーガに掴みかかろうとするが、タタラに止められる。
「タタラ…!」
「落ち着けカレン。俺が止めたのはこれ以上騒ぎを起こすとお前等が警備隊にしょっ引かれると判断したからだ…警備隊が来る前に俺はトンズラするからな」
それだけ言い残すとタタラはハンマーを背負いなおすと一目散に走り去っていく。
「あっ!タタラ!?くそっ、おいオーガ!アンタの事は許さねぇから覚えてろよコノヤロー!」
それを慌てて追うようにカレンも走っていったのだった。
現在地-ソサエティ-宿屋ミルクハウス
此処はホルスタウロスが経営している街の一角にある小さな宿屋。
そこにタタラとカレンは来ていた。
カレンはこの宿に寝泊りしており、タタラはこの街に来たばかりの頃はこの宿を利用していた。
二人はこの宿のカレンの部屋でミルクを飲んで落ち着いていた。
「くっそー…あのオーガ礼の一つも言えばいいのによ」
未だオーガに対して文句を言っているカレンだが、タタラはいい加減辟易していた。
「いい加減にしろカレン…」
「自分の好きな男にあんな言い方されたら嫌な気分にもなるさ」
ムスッとしたままカレンがミルクを飲み干すと、傍にいたホルスタウロスがポッドから新たにミルクを注いだ。
彼女はこの宿屋の主人であるホルスタウロスのコレットだ。
「カレンさんは本当にタタラさんが好きなんですね」
「おう!アタシの初めても貰ってもらったし後は振り向かせるだけだ!」
目の前でそんな事を宣言されて嬉しいような恥ずかしいような呆れるような、そんな感情を抱きながらタタラは深い溜息を吐いた。
「そう言えば最近の行方不明事件はご存知ですか?」
コレットの言葉に、タタラとカレンは首を傾げる。
「行方不明事件?」
「はい、最近夜遅くに人目につかない場所に入り込んだ人々が狙われたかのように姿を消すそうです…」
なにやら物騒な事件らしい。
「親魔物領の…それもこんな大きな街でそんな事件が起こるのは珍しいな」
反魔物領では誘拐や暗殺をされる魔物が多く、更には性処理の相手として使い捨てにされる事も珍しくは無い。
しかしこの親魔物領ではかなり不気味で珍しい事件だった。
「何処のどいつが…許せないな!」
カレンはどうも怒っているようだが、タタラは殆ど気にしていないようだ。
「カレンもコレットも十分注意しろよ」
「おう!て言うか誘拐でもされそうになったら返り討ちにしてやる!」
「フフ、心配してくださってありがとうございます」
この話は此処で区切り、三人は暫く談笑を続けている。
そしてタタラはふとカレンに問う。
「そんな事よりカレン、お前は闘技大会に出場する気なのか?」
そう、カレンが闘技大会に出場するかの確認だ。
もし出場するのなら応援くらいには行ってやりたいと思っているのだ。
「勿論さ!この封炎剣の力を存分に試せるしな!」
タタラがカレンに封炎剣を作ってからの半月間、カレンはタタラとの模擬戦や獣相手にしか封炎剣を使用していないのだ。
本気で振り回す機会は中々無く、今度の闘技大会はその格好のチャンスだろう。
「なら参加登録は急いだ方がいいぞ。何だかんだで参加人数にも制限があるからな。漏れるとまた来月まで待たないとならないしな」
いくら大きな闘技場の大会とは言え、いくら二日から三日かけての大きな大会と言えど期限が存在し、長引き過ぎないように人数制限が存在する。
毎回その人数は変化するが闘技場の管理人の判断人数でストップがかかる。
それを聞いてカレンは椅子からガタンと音を立てて立ち上がる。
「そ、そう言う事は早く言ってくれよ!急げー!」
部屋から慌てて飛び出して行ってしまった。
「あらら…開催は明後日ですしそろそろストップがかかる頃ですし間に合うんですかね…?」
「さぁな、と言うかお前はこの部屋に居続けていいのか?」
宿屋の主なのに一つの部屋に付いてミルクを注ぐサービスをしているのは他の客人の迷惑にならないのだろうか。
「あ…いいんです…今家に泊まってるお客さんはカレンさんだけなので…」
妙に落ち込んでしまったコレットは肩を落としてしまう。
悪い事聞いたか…と思ったタタラは立ち上がってコレットを椅子に座らせる。
「ふぇ…?どうしたんですかタタラさん?」
「アンタは座ってろ…俺が茶でも淹れてやるよ」
「…ウフフ、ありがとうございます」
そのまま二人はカレンが戻ってくるまでお茶を楽しんでいたが、戻ってきたカレンが嫉妬して封炎剣を振り回していたのは余談だ。
因みにカレンは闘技大会に参加できる事になったらしい。
現在地-ソサエティ-闘技場コロッセウム
あれから二日。
漸く闘技大会が開催されて、タタラとコレットは闘技場の席に座ってカレンの出番を待っていた。
「今回も凄く盛り上がってますね」
「ああ…ってその手に持っている紙はなんだ?」
コレットの手には小さなチケットの様な物が握られていた。
「あう…このままだと借金が返せなくて…カレンさんに賭けちゃいました…」
テヘへと舌を出して言うコレットだが、タタラは別段なにも言わなかった。
この街に存在する住民は闘技場の賭け事で収入を得ている者が全体の三割も居る…そう言った奴等にとっては賭けも立派なビジネスだ。
すると最初の参加者達が入場してきた。
西口からは赤毛の髪の小さな女の子…だがその手には大きな木作りの棍棒が握られている…ゴブリンが入場してきた。
東口からは手足から黒い毛を生やし尻尾もあり質素な服装に鎖付きの首輪をつ
けたワーウルフが入場してきた。
「さぁ!西口からはゴブリンのシャボン!東口からはワーウルフのテュー!今月の闘技大会最初の勝者はどちらだぁ!?それでは試合開始ィ!」
そして最初の試合が始まった。
ゴブリンの棍棒によるパワーのある攻撃とワーウルフの爪を活かしたスピードのある攻撃が交錯する。
ウォオオオオオオオオと大きな歓声が響き、空気が揺れる。
激しい攻防の末に先に倒れたのはゴブリンだった。
巨大な歓声が街中に届き、闘技場が興奮に包まれる。
それから暫く試合が続いていく。
参加者は人間の男女、武闘派の魔物等様々であり、戦略を練る者や正々堂々と武器と体技のみで戦う者も居れば魔法で戦闘を行う者も居た。
「さぁ!続いて西口から現れるのは屈強なオーガの闘士!リンだぁあああ!」
西口から入場してきたのは緑色の肌に白い髪に二本の角。
青の刺青に質素な布の服装。
それは間違いなく二日前のあのオーガだった。
「あいつは…!」
タタラは人目でそのオーガに気がついた。
「え?お知り合いなんですか?」
「二日前にカレンが色々言ってたオーガだ」
あのオーガの名前はリンと言うらしく、タタラは彼女を興味深そうに見ていた。
彼女は闘技場の中央に来ると、東口から彼女の相手が現れる。
「さぁ東口から来るのは今大会最大の体格を誇る男ぉ!その異名を巨人!クロフ・リオニセスだぁああああああ!」
瞬間、一部の歓声が倍は強くなった。
東口の入り口からは身長三メートル近くはある超巨漢で髪も髭も伸び放題、獣の皮で作られた服を着た男が入場してきた。
流石のタタラも目を大きくし、コレットは唖然としている。
「ありゃ本当に人間かよ…旧世代の魔物って言われた方が現実味がある」
「ふぁああ〜、おっきい人ですね…」
周りの人々も、あのクロフと言う男があそこまで巨大だと知らなかった者は唖然とし、彼に金を賭けていた者は歓声を上げている。
流石にあの化け物じみた男が相手ではオーガが相手でも勝てないと思っているのだろう。
「では試合開始ィ!」
司会の声と共にクロフはその巨大な拳を握って突き出す。
リンもこの巨大な拳を受け止めはせずに横に跳んで避ける。
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
人間離れした声を上げて今度は蹴りを放つクロフ。
だがリンはそれを紙一重で避けるとその足首を両手で掴む。
そのまま自分を中心に時計回りで高速回転を始めた。
「うおりゃああああああああああああ!」
所謂ジャイアントスイングと言うやつだろう。
そのままクロフを放り投げると、クロフはその巨体で石造りの闘技場の壁に突っ込んで、砕いた。
あまりの光景に会場は静まり返ったがすぐさまリンを賞賛する歓声が沸いた。
…しかしクロフもそこまでヤワでは無かったようで、すぐに立ち上がった。
「ギィイイイガァァアアアアアアアアアア!」
その叫び声は人間と言うよりは旧世代形態のドラゴンに近く、タタラは内心化け物かコイツはと毒づきながら耳を押さえた。
そんな叫び声を間近で聞いていたリンは耳を押さえるだけではなく思わず目も瞑っているようで、その隙にクロフはラリアットでリンを吹き飛ばした。
「ぐ…!」
今度はリンが吹き飛ばされ、闘技場の床を転がる。
だが転がる最中にすぐさま体勢を立て直し次の攻撃に備える。
「グォオオオオオオオオオオオオオオ!」
クロフは更に叫び声を出すと、リンはその声の煩さに僅かな隙を作ってしまい、クロフは其処に蹴りを放った。
「ぐがっ…!」
そのまま吹き飛んでいくと闘技場の壁にぶつかってやっと止まった。
ワァアアアアアアアと闘技場に歓声が響き渡る。
人間が魔物に勝つ…普通、これは大番狂わせという物であって、クロフの倍率は彼の体格を知らない者は殆どリンに賭けていたので彼女よりも低い。
「これは終わっちゃいましたかね…?」
コレットもリンが立ち上がれないと判断したようだが、タタラはリンから溢れ出る闘気を感じ取っていた。
「まだだ…立つぞ」
「え?」
タタラの言った通り、リンは結構なダメージを受けてしまったようだがまだしっかりと立ち上がった。
会場のあちこちからドヨヨッと声が聞こえる。
「まだだぜ、このデクの棒!」
リンは立ち上がるとクロフに突っ込んでいく。
再び巨大な拳がリンに向かっていくが、リンはジャンプして腕の上に乗るとそのまま走って上っていく。
「だりゃあああああああああああああっ!」
クロフの顎に、リンの強烈なアッパーカットが炸裂する。
オーガの怪力で殴られれば幾ら巨大で頑丈な体でも無事では済まない。
それが人間の顎という部分なら尚更だ。
軽く打たれるだけでも脳震盪を起こしてしまう急所だというのに、更に強力な力だ殴られてしまえば最早戦うことは出来ない。
顎を殴られたクロフは宙を舞い、仰向けに倒れた。
恐らく今ので顎が砕けて脳震盪でも起こしたのだろう、もう立ち上がる力は無かった。
「あ…勝者リン!」
司会の男の勝利宣言でリンの勝利が確定したが、ダメージがあるのか、リンは少し疲れたように退場した。
会場は少し静まり返っていたが、退場していく最中のリンに大歓声を送っていた。
「凄い戦いでしたね!私も赤い物を見たときほどじゃないけどコーフンしましたよ!」
「あ、ああ…かなりの力だな…あの大男を一撃で沈めちまったしな」
コレットは少し興奮してタタラの手を握り早口に話し始める。
何時もはのんびりなコレットがこんな状態なのに多少戸惑いつつもそう答える。
その間にクロフは十数人がかりで運ばれていってしまった。
そして更に試合が続いていくと、とうとうカレンの出番が訪れた。
「さぁ!西口にはサラマンダーの剣士カレン!東口には人間の戦士フォカスだぁああああああ!」
フォカス…そう言えばあのおっさんだな。
と二日前の騒動を思い出して会場を見る。
西口からは既に封炎剣を抜いて闘技場の中央に駆け出すカレン、東口からは大剣を背負っているカレンと同じ様に走っていた。
「良かったなコレット、十中八九カレンの勝ちだ」
実力と武器の差からタタラはそう判断した。
それを聞くとコレットは目を輝かせた。
「本当ですか〜!?良かったです!これで少し借金を返す事ができます!」
賭けのチケットを握りながら嬉しそうに顔を緩ませるコレットを見てタタラも少し嬉しく思う。
彼女の宿屋ミルクハウスは家具は必要な物は揃っているし広さも金額から考えれば少し狭いが問題は無い程度だ。
だがミルクハウスに客が来ないのは場所の悪さが原因だ。
大通り沿いの道にあればある程度の客は入ってくるが残念ながらミルクハウスは大通りから入る少し狭い路地に入るとある宿で、人の目に入る事は早々無く、そこに辿り着く前に旅人は他の宿屋を選んでしまうのだ。
よって彼女は生活と宿を守るために少々借金をしている…。
はっきり言うと少々どころの額では無いのだが。
試合が始まった。
フォカスは背中から大剣を抜くとカレンに向かって突っ込んだ。
だがカレンも同じ様に封炎剣を構えて突っ込むと、二人は闘技場のほぼ中央で激突した。
武器の力はフォカスの方が上だが本人の力はカレンの方が強いので鍔競り合いになっている。
「チィ…!俺の一撃を止めるとはな…流石はサラマンダーって事か」
「へっ!この封炎剣を舐めるなよ!」
次の瞬間、カレンの持つ封炎剣の刀身が燃え上がる。
刀身の素材に使用した火の力が込められている鉱石の力で、カレンの魔力を消費する事によって刀身に炎を纏う事が出来るのだ。
その炎の熱により大剣の刀身が少しだけ溶けてしまう。
「んな…!?」
そのまま鍔競り合っていると、大剣はどんどん溶けてゆく。
慌ててフォカスは身を退いて後退する。
「くそっ!何だあの剣は!?」
「おらぁ!まだまだこれからだぁ!」
カレンが振り回す封炎剣をある時は避け、ある時は大剣で防ぐが大剣で防ぐごとに刀身が溶けてゆき、原型を失っていく。
「や、ヤベェ…!」
そして大剣は殆ど崩れ落ち最早剣としての機能を果たしていなかった。
「三下が使う鈍にタタラの作った剣を使うアタシに敵う筈ねぇだろ!」
カレンは燃える刀身振りかぶり、フォカスを捕らえるとそれを振り下ろした。
フォカスの胸を切り裂き赤い血を噴出させると同時にその身を焼く。
その攻撃にフォカスは成す術も無く倒れ伏した。
会場に歓声が上がる。
「やったぁー!カレンさん勝ちましたね!」
コレットもキャーキャー騒いで喜んでいる。
タタラも心なしか口を緩めて嬉しそうにしている。
「ああ、封炎剣をかなり使いこなしている…あいつこの半月間手に馴染むように訓練を欠かさなかったからな…」
自分の武器で、カレンが勝ってくれた事がとても嬉しい。
表情は薄いがそんな顔をしている。
闘技場のカレンはキョロキョロと周りを見渡してタタラを見つけると、封炎剣を空に掲げてにっこりと笑う。
そしてカレンは退場していき、大会は進むのだった。
現在地-ソサエティ-宿屋ミルクハウス
「それじゃあ、カレンさんの準々決勝出場を祝して…乾杯です〜!」
三人でミルクと酒が入った杯を打ち合うとカァンと音を立てて少し中身が零れた。
因みにタタラは酒、カレンも酒、コレットはミルクを飲んでいる。
「ぷっはー!酒が進むなぁ!」
「親父臭いなお前」
カレンがドンと机に杯を叩きつけるとまた中身が零れる。
「このまま行けば優勝もあるぞ!優勝賞金が手に入ったらタタラに好きな物買ってやるからな!」
ニヒヒと笑っている所を見ると、もう少し酔っている様だ。
タタラはちびちび飲んでいるが酒には強くは無いようだ。
「ふふふ、カレンさんのお陰で借金が少し返済できました〜」
余程借金には困っていたのか、ふにゃけた笑顔でミルクを飲み続ける。
「お前昼間からそればっかりだな…後どれ位借金あるんだ?」
「…この宿屋を売り払えば何とか…」
まだそんなにもあるのかと内心溜息と同情をするタタラだが、疑問もあった。
「借金は儲からないからしているんだろうが…何故この宿を売り払って金にしない?別の職にしようとは思わないのか?」
「そういえばそうだよな…実の所なんでなんだコレット?」
カレンも気になったようで、酒で酔った顔を赤く染めながら話に割り込んでくる。
「…この宿は父と母が経営してたのですが、街の拡大として周りに建物が出来て路地の奥になってしまったんですが…父と母の遺産なので捨てるなんて私にはとても…」
コレットの話を聞いたカレンは、何処となく自分の事情に似ていると思った。
そしてそんなコレットを救いたいと思った。
「…ごめんなタタラ、優勝したら賞金はコレットの借金返済に使う!」
「ええっ!?」
「…そう言うと思ったよ」
コレットは心底驚いたように、タタラは予想通りと言わんばかりの表情だった。
「コレットは以前のアタシと似てるんだ…だからアタシは絶対に優勝してコレットの為に賞金を手に入れる!」
「え、えぇっ!?そんな、悪いですよ!」
「良いんだよ!アタシがしたいだけなんだから!」
ニヒヒと笑いながら酒を飲み干すカレンは、すぐに次の酒を注ぐ。
未だ戸惑うコレットに、タタラが説明する。
「カレンは以前まで母親の形見である剣の修理を俺に頼んでいてな…だが完全に折れた状態だった上に寿命で、最終的に俺が打ち直したんだ。大事な物を守れるのなら守ってやりたいんだろう」
一気飲みをしているカレンを眺めながら説明を終えたタタラは酒をまた少しだけ喉に通す。
ほんのりとタタラも顔が赤くなっており、カレンなどはもう真っ赤だ。
コレットはまだ少し驚いていたが、そんな二人を見て笑顔を浮かべると酒の入っているジョッキを掴んで飲み干した。
普段は大人しいコレットがそんなに酒を飲んだのに驚き、タタラは少しギョッとしている。
「…」
「お、おいコレット…そんなに飲んで大丈夫か?」
ジョッキを置いてから暫く何の反応も無いコレットにタタラが声をかけるが、全く反応が無い。
「……ぶもぉおおおおお!」
「なっ!?」
急に叫び声を上げて、コレットはタタラを押し倒した。
「ふぉえ!?お、おいコレット何してんだ!?」
カレンも酔ってはいるがコレットの只ならぬ様子に駆け寄ってくる。
「くっそ…!どうしたコレット!酔ってるのか!?」
「ぶもぉおおおおおおお!もぉおおおおおおおおお!」
押し倒された状態でもとりあえず肩を掴んで押し返しているが、コレットは正常に戻らない。
術式の力を使っていないので簡単には押し返せないが、カレンも引き剥がそうとしているので、少しずつ体が離れていく。
しかしコレットの尻尾が偶然にもカレンの顔に当たりよろけたカレンは机に倒れこみ、宙に舞った酒をもろに浴びてしまう。
それを見たタタラは全てを悟った。
カレンが浴びたのはラム酒の他に赤ワインが混ざっていた。
あの時、コレットが飲んだのは赤ワインでありその色がコレットの目に入ったのだろう…ホルスタウロスは赤い物を見ると凶暴化するのだ。
勿論、性的な意味で。
押し倒されたタタラは手早くズボンを脱がされるが、それはまだ萎えたままだった。
「あぅむ…」
しかしタタラがそれを隠すより先に、コレットはタタラのペニスを咥えこんだ。
「じゅぷ…ちゅ、ちゅぱ、じゅるる…!」
「う…!」
フェラをされたペニスはすぐに大きくなり、コレットの口からはみ出した。
するとコレットはペニスを一度口から出すと、カリの部分をペロペロ舐め始めた。
「ん…ぺろ、ぴちゃ、んちゅ…!」
「ぐ、くぅ…!カレン…コレットを止めろ…!」
そして視界の端にカレンが立ち上がるのを目にし、タタラは助けを求める。
しかしタタラも必死であり、カレンの様子に気づいていなかった。
既にカレンは大分酔っており転んだ拍子に酒を更に大量に被ってしまったのだ。
トロンとした目に反して尻尾の炎はかなり燃え上がっていた。
「たたりゃ〜!」
呂律が回らない状態で押し倒されるタタラに駆け寄り、コレットの隣で同じ様に尿道口をペチロチロと嘗め回す。
ダブルフェラだ。
「れろ、んふ、ぴろ…」
「ぴちゅ、ん、へろ…」
二人がペニスを舐める淫らな音が部屋に響き、タタラの表情も少し妖しくなってきている。
「く、ぅ…!射精る…射精るぞっ!」
ビュルルルルルッ!ビュ、ビュッ!
ザーメンはカレンとコレットの顔にかけられて白く染め上げる。
二人とも口を開けてザーメンを少しでも飲もうとしている。
「ん…おいひぃ…!」
「もぉぉぉぉ…美味しいれふぅ…!」
「「もっと欲しい…」」
二人はザーメンを舐めきると再びフェラをしようとする。
「いい加減にしろっ!」
術式の力を使って怪力を発揮して漸くタタラは二人を押し返す。
カレンは以前まぐわっているものの、コレットはまだ処女のはず…このままではコレットの分の責任も付きまとう事になってしまう。
「カレンはまだ良いとして…コレットまで俺を犯すつもりか!犯されるつもりか!?俺なんかで良いのか!?」
結構慌てているらしく、大声で問いただす…しかしコレットはにんまりと笑ってタタラに覆いかぶさる。
「私…本当はずっとタタラさんの事が好きでした…初めてこの店に来てくれたときから気になってたんです…時々私に会いに来てくれる…そんな貴方が何時の間にか特別になっていたんです、だから…むぅ!?」
全部言い切る前に、カレンがコレットの後頭部を押して無理矢理キスさせた。
「たたりゃ、これっとぉもたたりゃのころ好きなんりゃよ〜?あたひもだ〜い好きだから…二人とみょ可愛がってよぉ」
「…やれやれだ」
此処まで言われてしまえば、タタラも抗うことは出来なかった。
「…服を脱いでベッドに行こう。二人とも俺がイかせてやるよ」
「もぉおおお、お願いしますぅ…!」
「やっひゃぁ!」
ランランと目が輝かせて服を脱いで一糸纏わぬ姿となって三人でベッドに寝る。
タタラは仰向けになり、コレットが股を開いてタタラに乗る。
「最初は痛いかも知れんが…すぐに気持ちよくなる。カレンは…マンコ舐めてやるから…こっち来いよ」
カレンはマンコをタタラの顔の前に持ってくると、既にどろりと愛液が滴り落ちてタタラの顔にかかった。
「よし…コレット」
「…はい」
コレットはドロドロなマンコを広げてタタラのペニスを迎え入れ、どんどん中へと挿入ていくと、処女膜を破って根元まで入った。
「くぅっ!」
悲鳴に似たコレットの叫びが納まると、タタラは目の前にあるマンコを嘗め回す。
「ぴちゅ、じゅる、れる、んんっ…!」
「あんっ、あっ、たたりゃっ!きもちひぃいいっ!」
すっかり目じりを下げて口を開け、涎を垂らしてその気になっているカレン。
それに続いてコレットも腰を動かす。
「んっ、あっ、きゅうっ!」
じゅぽじゅぽとペニスが愛液に塗れて淫らな音を立てる。
「ひぃっ!いいっ!こりぇ…きもちひぃれすぅ!」
「ちゅ、んぷ、ちゅぴ、ちゅ、れろ…」
「あふぅ!いぃ!おまんこなめられてぇ…きもちひぃ!たたりゃぁ…あらしのおまんこ…はぅっ!お、おいひぃ?」
「んぁ…ああ、カレンの味がする」
「たたらしゃん…!あたひぃ…あたひのおまんこどうれすかぁ!?おちんぽ気持ちいいれすきゃぁ!?」
「ああ、気持ちいいっ…!っ!もうイキたいくらいだっ…!」
三人のまぐわいはどんどんヒートアップしていき、そして三人はほぼ同時に限界を迎える事となる。
マンコを舐められているカレンは舌を突き出してアヘっとした顔になり、コレットももうすぐに絶頂を迎えようと顔を緩ませ、タタラも我慢の限界だ。
「あ、あぁっ!イくぅ!おみゃんこなめりゃれてイっちゃうぅううう!」
「き、きもひぃ…!も、もぉイっちゃいますぅ!」
「お前等っ…!もし俺より先にイったら…後でお仕置きだからな…っ!」
お仕置き、という言葉にカレンとコレットは更に興奮し、そして同時にイってしまう。
「んぅ…!うにゃあああっ!」
「あ、あひぃいいいぃいいいいっ!」
それに一歩遅れて、タタラはコレットの中に射精すのだったが、その表情はニッと妖しく笑っており、先にイってしまった雌火蜥蜴と雌牛は、これからのお仕置きの期待と嬉しさに妖しく微笑んでいた。
現在地-ソサエティ-裏路地奥
此処は薄暗いソサエティの裏路地。
オーガであるリンは、この奥にある下水道の入り口に陣取っていた。
宿に泊まろうにも金が無いのだ。
しかしリンの耳に、なにかグチュグチュとした音が届く。
「…んだ?」
今から眠ろうとしていた所に謎の音が聞こえ、警戒心を高めると共に少しだけだが不機嫌になる。
その不機嫌さが仇になった。
機嫌を紛らわせようと髪の毛をボリボリと掻く…その隙に下水道の奥…暗闇の奥から謎の触手が伸びてくると、リンの体中を縛り上げる。
「なっ!?」
慌てて振りほどこうとするが、触手は強力で千切れる事も振りほどく事も出来なく、どんどん触手はリンに絡まっていく。
「くっ!この…!」
抵抗虚しく、リンは顔以外全て触手に絡み取られてしまった。
此処に来て漸くリンは助けを呼ぶ事を決めた。
他人に頼るのは好きではないが、こんな状態では助けを求める以外に方法は無かった。
「だ、誰か!手ェ貸して…うぐぅ!?」
助けを呼ぼうとした矢先に、口が開いた瞬間を狙って触手の一本の先端が口の中に割り込んできて、声を出す事も出来なくなってしまう。
「ふぁぐ…!むうぅううぅ!」
触手を噛み切ってやろうともしたが、弾力も強く効果は無かった。
「む!?あぐぅうううううううう!?」
そのままリンは下水道の奥に、闇の中へと引きずり込まれていったのだった。
11/09/06 22:13更新 / ハーレム好きな奴
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