戦士の武器と首無し騎士
現在地-ダダイル-宿屋の庭
ガッと鈍い音が響き、俺の足とカズマが振った木刀が衝突する。
少々衝撃が足に来るが問題ない。
「どうした、その程度か?」
「舐めるんじゃねえっ!」
試しに挑発してみると、凄い勢いで乗ってきた。
「オラオラオラオラァ!」
凄まじい剣撃だが、足や腕で捌く事で1撃も喰らっていない…攻撃が単調すぎるな。
「こんの…!チョコマカとぉ!」
痺れを切らして思い切り頭上から振り下ろしてきた木刀をバックステップで避ける。
そしてカズマは今の攻撃で勢いが付きすぎてしまったのかバランスを崩して前のめりになっている。
「隙あり!」
「うがっ!?」
その顔面に跳び蹴りを放つと、それは直撃してカズマは面白い程吹っ飛んでいった。
少し強すぎたか?
顔を抑えて地面をゴロゴロ転げまわっているので、近づいて無事を確認する事にした。
「おーい、大丈夫か?」
「大丈夫な訳あるか…!鼻血出たわ…!」
確かに鼻血が出ているが些細な事だろう。
それにあれを喰らった後でコレだけの口を叩ければ上出来だ。
「はは、その内止まるさ…それでお前の戦闘力だが…はっきり言って微妙だ」
「なんだとコラァ!?」
今の言葉でガバッと起き上がって俺を睨みつけてくる。
「そんなに睨まないでくれよ…攻撃が正直すぎるんだ…アノンやポム位のパワーがあれば問題は無いんだがな」
「んな事言っても向こうは魔物で俺は人間だぜ?大体お前の脚力がおかしいんだよ」
「これは昔から訓練してたらこうなったんだ…俺に文句言われても困る」
「チッ」
バツが悪くなったのか、舌打ちして顔を逸らすカズマ。
「ま、兎にも角にも武器を買わないとな」
木刀じゃいざと言う時にも困る。
「お、何を買ってくれるんだ?」
「まあ武器屋に行ってみて色々見てみないと分からんし…武器が無いパノも誘って行ってみよう」
こうして、俺とカズマとパノは武器屋に行く事になった。
現在地-ダダイル-大通り
「ふふふ〜♪どんな武器にしよっかな〜♪」
パノは機嫌が良さそうだ。
て言うか前のパノの棍棒壊したのは俺だからな…もうちょい早く買ってやるべきだったかな。
「パノはやっぱり棍棒系の武器がいいのか?」
「ん〜、そうだな…今回は鉄の打撃武器が良いかもな〜」
ルンルンと足を進めていくパノに遅れを取らないように俺とカズマも足を速める。
「カズマ、お前は?」
「あん?やっぱし剣か…あれば刀も欲しいかな、刀」
まあ、木刀持ってるくらいだしな。
「ま、そんなに高くなければ大丈夫だ…皆で稼いだ金もあるしな」
そんなこんなをしている内に武器屋へと到着…中へ入る。
中には、鉄の鎧が飾られ、壁には剣や槍がかけられている。
「おう、らっしゃい」
店長は髪の毛が抜け始めた初老の男だった。
「まずはパノの武器から選ぶか…打撃系の武器は向こうだな」
打撃系の武器があるコーナーに行くと、そこには木製の棍棒を初めとして金属製のハンマーにでかい木槌のようなハンマーもある。
「武器はやっぱし実際に持って振ってみた方がいいんじゃねえか?」
「そりゃそうだろ、パノ、気に入ったのがあったら持ってみろ…決まったら言ってくれ」
「おう!」
まずパノは以前と似たような木製の棍棒を持つと、軽く振る。
「…駄目だ」
しっくりこなかったのか、棍棒を元の位置に戻すと今度はモーニングスターと呼ばれる金属の棘付き球体に棒が取り付けられたハンマーを持った。
そして今一度振ってみる。
「…これもちょっとな」
モーニングスターも元の位置に戻すと、迷っているようでキョロキョロしている。
俺もパノに合いそうな武器を選んでみる事にした。
ふむ、このハンマーは柄が長すぎるな…こっちのも駄目そうだ。
すると視界の端に、少し小ぶりだが2本持てるほどの大きさの金属製ハンマーがあった。
これならパノの小柄にも合うだろうし重量も問題ないだろう。
「パノ、この武器はどうだ?」
「お、ありがとう兄貴」
見つけた武器を差し出すと受け取って振ってみる。
「お、おぉ!すっげー振りやすいぞ!」
その調子で少し強めに振っている…物とか壊すなよ。
「じゃあ次はカズマだな…剣のコーナーは向こうだな」
今度は剣のコーナーに行くと、壁にかかっているのは結構高い武器だ。
安いのは、置いてある木箱や樽の中にある奴だな。
「じゃあ、こっちの木箱の方から選んで…」
「お、壁にかかってるので刀あるじゃん♪」
聞けよ。
「そっちは値段が高いからこっちの木箱の中から選んでくれよ」
「ハァ?こっちに刀があるんだぜ?武器は男のロマンだろ…好きなの選ばせろって」
「お前の金なら文句は無いが俺と仲間達が稼いだ金だからな、コレ」
「うっせーよ、おっさんこれ頂戴」
自分勝手すぎるだろうコイツ。
「分かった分かった…買うからせめて刃渡りのチェックだけでもしてくれ」
「おうよ」
カズマは刀を抜いて刃を確認する…不安だから俺もしておこう。
カズマが確認し終わると、俺も刀を貸してもらう。
…この刀、一見普通の刃に見えるが…触ってみた感触といい…あまり良い素材は使っていないな。
「これはやっぱり止めておいた方がいい…あまり良い刀じゃない」
「ハァ?値段も高いし見た感じ悪くはなさそうだ…俺はコレを買うぜ」
…もう何を言っても無駄か。
「ハァ…」
「だ、大丈夫か兄貴?」
深いため息を吐くと、心配してパノが寄って来る。
「ああ、ちょっと面倒になっただけだ…大丈夫だよ」
すると、入り口の扉がキィと音を立てて開いたので3人でそちらを向く。
そこには黒い鎧を着た女騎士がいた。
「邪魔するぞ、店主」
女騎士はツカツカと歩いてくると、壁にかかっている剣を取ると刃を確かめる。
「……」
俺たちを視界にも入れずに剣を次々にチェックしていく。
「…おいセン、早く買えよ」
「どうしてもそれがいいのか?」
「おうよ!」
刀を掲げてそう宣言する。
てか抜き身の剣を振り上げるなよ。危ないから。
すると女騎士は俺たちの方を向いて…いや、カズマの掲げた刀を見ている。
「…フッ」
鼻で笑ってるし。
「あぁ?テメェ今鼻で笑ったなァ?」
「フン、そんな鈍を意気揚々と掲げて買うなどと宣言されては笑いたくもなる」
確かに騎士からすれば見る目のない男だろうな。
「鈍だと…?俺の見る目が無いって事かァ?」
「そう言ったつもりだ」
「テメェ…なんなら今から俺と勝負すっか?俺の刀とテメェの剣で試合をしようじゃねぇか」
「フン、負けるつもりは無いからな…その勝負受けて立つ」
なんだか俺とパノは完全に蚊帳の外だな。
てかもう刀買う気かよ。
「俺が勝ったら今の言葉を取り消してもらって…今夜俺に付き合え」
「いいだろう、だが私が勝てば貴様は裸でジパングの土下座とやらをしてもらおうか」
「いいぜ、こっちだって負ける気はゼロだ!表出ろ!」
「臨む所だ」
…外出て行っちまった。
とにかく金だけ払わないとな。
「おっさん、これ、刀代とこのハンマー代な」
「ああ、毎度」
このおっさん生気を感じないんだが…大丈夫か?
やる気ねぇ感じ。
「兄貴、早く行かないと終わっちゃうぞ?」
「そだな、じゃあ邪魔したな」
武器屋を出ると大通りのど真ん中で女騎士とカズマは得物を抜いて向かい合っていた。
「おーいカズマ、今からでもいいから止めとけって」
一応忠告しておいてやる。
あの刀と向こうの剣じゃ多分勝負にならない。
「うるせえっ!俺の勝手だろうが!」
ギャラリーも集まりだしたな…。
「ヘッ、じゃあ…行くぜぇ!」
刀を振りかぶって女騎士に接近していくカズマ。
「残念だが…私は何度も打ち合ってやるほど甘くは無い」
「だりゃああああああああああっ!」
カズマは刀を思い切り振り下ろすと、女騎士は剣を横に薙ぐ。
ガギィンと金属音が響くと、カズマの刀は半ばから折れてしまった。
折れた刀身はヒュンヒュンと空中で数度回転すると、カランと地面に落ちた。
「な…んだと…!?」
「フン、太刀筋も未熟…そんな奴など斬るに値しない…さあ、約束を守ってもらおうか?」
「ぐ…!」
負けたら確か裸で土下座だったな…。
流石にそれは同じ男として可愛そうだな…。
「なあ、アンタには悪いんだが…勘弁してやってくれないか?」
俺は女騎士に頼み込んでみる事にしてみた。
「…男たる者、約束は守るべきではないのか?」
「そこを何とか頼む…この通りだ」
裸ではないが、俺は膝と手を地面に付けて土下座をする。
「あ、兄貴!なにもそこまで…!」
パノが止めようとしてくれるが、俺は頭を下げ続ける…。
「…仲間の為に頭を下げる…その精神に免じて許してやろう…その男に感謝するのだな、見る目の無い男」
剣を鞘に収めて立ち去っていく…。
そうしてやっと俺は頭を上げて立ち上がる。
「あ、兄貴…なんでアイツのためにそこまで…」
「仲間だからな…助け合うのは普通だろ…な?」
カズマに向けて笑顔になるが、アイツはバツが悪いのか顔を逸らしている。
「やれやれ、じゃあ刀の代わりの武器を買わないとな」
「…ケッ」
結局、カズマには普通のロングソードを買った。
現在地-ダダイル-ギルド
日も落ちた頃、俺達はギルドの酒場に集まっていた。
「…ていう事があったんだ」
俺は今日、武器屋であった事を皆に話していた。
「そりゃまた…情けないねぇカズマ」
「うるせ…」
カズマは完全に不貞腐れており、酒を結構飲んでいる…ヤケ酒だな。
大丈夫かコイツ…少し飲みすぎなんじゃないか?
「しかしその騎士は相当の使い手のようだな…一勝負してみたいな」
アーリアがそう言うと、カズマはまた不貞腐れたように酒を飲んだ。
どうやら相当頭に来てるらしい。
「所でお兄さ〜ん、その騎士さんは魔物だったんですか〜?」
「俺は魔物に詳しい訳じゃないが…あの太刀筋に刀を折った力は確かに魔物ぽかったな」
「騎士の魔物なら、デュラハンでしょうね」
ポムと俺の疑問に、ミスティが答えてくれる。
と言うかデュラハンって確か…
「首なし騎士か?」
「そうですね、彼女達は非常に理性的なのですが…」
へぇ、魔物にしては珍しいんじゃないかそれ?
「えっと…」
ミスティは何か言いたそうだが、しどろもどろになっている…どうしたんだ?
「どうした?言いたくないなら言わなくても…」
「いえ、そうじゃなくて…彼女達の首は、体の中の精を逃がさない為の蓋で…それが取れて空腹になると凄く好色で素直な性格になるそうなんです」
…やっぱり魔物は魔物か。
「セン、簡単にその人を口説いたりしないでね?」
ティピが冗談半分のように言ってくるが、別に俺は口説いたりした覚えは無い。
「別に口説いたりしても簡単に落ちたりしないだろ?」
「いいや、兄様は丁度危機の時に颯爽と現れて敵を一蹴、そんな状態で口説いたりすれば魔物に限らず女は簡単に惚れてしまうじゃろうて」
「特にセンは魔物と縁があるみたいだしね」
コロナとヴェロニカは納得しているような顔だ。
まあ確かに此処まで来るのに人間の女より魔物の方が縁があるけどさ…。
「しかしその者と試合をしてみたかった…」
まだ言ってるのかアーリア。
「セン、その者はどんな風貌だった?」
「さっき言った通り黒い鎧に装飾付きの両手剣、水色の長い髪だったよ」
「あんな感じー?」
キャノが指す方向にいる黒い鎧を着て装飾付きの両手剣を腰に挿し、水色の長い髪の毛をした女騎士を見て、俺は頷いた。
「そうそう丁度あんな感じ…って言うかあれが本人だ」
皆一斉にキャノが指差した方を見ると、アーリアは立ち上がってデュラハンに近づいていく。
なんだか嫌な予感がする。
「そこのデュラハン…悪くなければ私と打ち合って欲しいのだが…」
はい直球。
「なに…?」
アーリアの方を向くと、その向こうにいる俺たちが見えたのか、少し驚いた顔をする。
取り合えず、手を振っておいた。
「フ…いいだろう、リザードマンならばあの男よりも楽しめそうだ」
あの男ってのは恐らくカズマの事だろう…ってカズマ潰れて寝てるし。
2人は剣を抜いて向かい合う…って店内でやる気か!?
「でやぁああああああっ!」
「はぁあああああああっ!」
ガキィンと金属音を上げて剣と剣がぶつかり合う。
周りも余興として囃し立てるし。
あーあぁ…頼むから物とか壊さないでくれよ。
「ふんっ!」
アーリアが振り下ろす剣を、デュラハンは剣で受け止めて鍔競り合う。
「ふふ…やるな…!」
「貴様こそ…!」
暫くは互角に鍔競り合っていた2人だったが、僅かにアーリアは押し始めた。
「くっ…!?」
「貰ったぁあああああ!」
押し切って斬ろうとしたが、デュラハンは横っ飛びに避けると、その後ろにあった椅子が真っ二つになった。
「チィ…逃したか」
「まだまだぁ!」
今度はデュラハンの剣が薙ぎ払われるが、アーリアもしゃがんで避ける。
しかしその際にテーブルの上を剣が通り過ぎていき、風圧で上に置いてあった食器などが落ちて割れた。
「やあっ!」
「とりゃあっ!」
その後も暫く剣の攻防が続くが、その間にもどんどん物は壊れていく。
どうやら俺の願いは届かなかったようだ。
「あの…」
後ろから声をかけられたので、振り返るとギルドの職員がいた。
「なんすか?」
「これ、壊れた食器や椅子、傷ついた備品の弁償代です…あの調子だとまだ増えていきますけど…止めた方がいいですよ?」
紙を手渡されたので受け取ると、そこには驚愕の値段が書かれていた。
「…マジか」
「マジですよ」
おいおい、これ全部払ったら次の町に行くのにまた時間かかりそうじゃねぇか。
…よし、飲もう。
飲まなきゃやってられねぇよ。
「現実逃避ですか」
いいじゃん別に。
「「はぁああああああああああああああ!!!」」
まだやってるよ。
なんにしても、今日は出費がかさんじまったな。
…明日からまた節約しねぇとな。
こうして夜は更けていった。
ガッと鈍い音が響き、俺の足とカズマが振った木刀が衝突する。
少々衝撃が足に来るが問題ない。
「どうした、その程度か?」
「舐めるんじゃねえっ!」
試しに挑発してみると、凄い勢いで乗ってきた。
「オラオラオラオラァ!」
凄まじい剣撃だが、足や腕で捌く事で1撃も喰らっていない…攻撃が単調すぎるな。
「こんの…!チョコマカとぉ!」
痺れを切らして思い切り頭上から振り下ろしてきた木刀をバックステップで避ける。
そしてカズマは今の攻撃で勢いが付きすぎてしまったのかバランスを崩して前のめりになっている。
「隙あり!」
「うがっ!?」
その顔面に跳び蹴りを放つと、それは直撃してカズマは面白い程吹っ飛んでいった。
少し強すぎたか?
顔を抑えて地面をゴロゴロ転げまわっているので、近づいて無事を確認する事にした。
「おーい、大丈夫か?」
「大丈夫な訳あるか…!鼻血出たわ…!」
確かに鼻血が出ているが些細な事だろう。
それにあれを喰らった後でコレだけの口を叩ければ上出来だ。
「はは、その内止まるさ…それでお前の戦闘力だが…はっきり言って微妙だ」
「なんだとコラァ!?」
今の言葉でガバッと起き上がって俺を睨みつけてくる。
「そんなに睨まないでくれよ…攻撃が正直すぎるんだ…アノンやポム位のパワーがあれば問題は無いんだがな」
「んな事言っても向こうは魔物で俺は人間だぜ?大体お前の脚力がおかしいんだよ」
「これは昔から訓練してたらこうなったんだ…俺に文句言われても困る」
「チッ」
バツが悪くなったのか、舌打ちして顔を逸らすカズマ。
「ま、兎にも角にも武器を買わないとな」
木刀じゃいざと言う時にも困る。
「お、何を買ってくれるんだ?」
「まあ武器屋に行ってみて色々見てみないと分からんし…武器が無いパノも誘って行ってみよう」
こうして、俺とカズマとパノは武器屋に行く事になった。
現在地-ダダイル-大通り
「ふふふ〜♪どんな武器にしよっかな〜♪」
パノは機嫌が良さそうだ。
て言うか前のパノの棍棒壊したのは俺だからな…もうちょい早く買ってやるべきだったかな。
「パノはやっぱり棍棒系の武器がいいのか?」
「ん〜、そうだな…今回は鉄の打撃武器が良いかもな〜」
ルンルンと足を進めていくパノに遅れを取らないように俺とカズマも足を速める。
「カズマ、お前は?」
「あん?やっぱし剣か…あれば刀も欲しいかな、刀」
まあ、木刀持ってるくらいだしな。
「ま、そんなに高くなければ大丈夫だ…皆で稼いだ金もあるしな」
そんなこんなをしている内に武器屋へと到着…中へ入る。
中には、鉄の鎧が飾られ、壁には剣や槍がかけられている。
「おう、らっしゃい」
店長は髪の毛が抜け始めた初老の男だった。
「まずはパノの武器から選ぶか…打撃系の武器は向こうだな」
打撃系の武器があるコーナーに行くと、そこには木製の棍棒を初めとして金属製のハンマーにでかい木槌のようなハンマーもある。
「武器はやっぱし実際に持って振ってみた方がいいんじゃねえか?」
「そりゃそうだろ、パノ、気に入ったのがあったら持ってみろ…決まったら言ってくれ」
「おう!」
まずパノは以前と似たような木製の棍棒を持つと、軽く振る。
「…駄目だ」
しっくりこなかったのか、棍棒を元の位置に戻すと今度はモーニングスターと呼ばれる金属の棘付き球体に棒が取り付けられたハンマーを持った。
そして今一度振ってみる。
「…これもちょっとな」
モーニングスターも元の位置に戻すと、迷っているようでキョロキョロしている。
俺もパノに合いそうな武器を選んでみる事にした。
ふむ、このハンマーは柄が長すぎるな…こっちのも駄目そうだ。
すると視界の端に、少し小ぶりだが2本持てるほどの大きさの金属製ハンマーがあった。
これならパノの小柄にも合うだろうし重量も問題ないだろう。
「パノ、この武器はどうだ?」
「お、ありがとう兄貴」
見つけた武器を差し出すと受け取って振ってみる。
「お、おぉ!すっげー振りやすいぞ!」
その調子で少し強めに振っている…物とか壊すなよ。
「じゃあ次はカズマだな…剣のコーナーは向こうだな」
今度は剣のコーナーに行くと、壁にかかっているのは結構高い武器だ。
安いのは、置いてある木箱や樽の中にある奴だな。
「じゃあ、こっちの木箱の方から選んで…」
「お、壁にかかってるので刀あるじゃん♪」
聞けよ。
「そっちは値段が高いからこっちの木箱の中から選んでくれよ」
「ハァ?こっちに刀があるんだぜ?武器は男のロマンだろ…好きなの選ばせろって」
「お前の金なら文句は無いが俺と仲間達が稼いだ金だからな、コレ」
「うっせーよ、おっさんこれ頂戴」
自分勝手すぎるだろうコイツ。
「分かった分かった…買うからせめて刃渡りのチェックだけでもしてくれ」
「おうよ」
カズマは刀を抜いて刃を確認する…不安だから俺もしておこう。
カズマが確認し終わると、俺も刀を貸してもらう。
…この刀、一見普通の刃に見えるが…触ってみた感触といい…あまり良い素材は使っていないな。
「これはやっぱり止めておいた方がいい…あまり良い刀じゃない」
「ハァ?値段も高いし見た感じ悪くはなさそうだ…俺はコレを買うぜ」
…もう何を言っても無駄か。
「ハァ…」
「だ、大丈夫か兄貴?」
深いため息を吐くと、心配してパノが寄って来る。
「ああ、ちょっと面倒になっただけだ…大丈夫だよ」
すると、入り口の扉がキィと音を立てて開いたので3人でそちらを向く。
そこには黒い鎧を着た女騎士がいた。
「邪魔するぞ、店主」
女騎士はツカツカと歩いてくると、壁にかかっている剣を取ると刃を確かめる。
「……」
俺たちを視界にも入れずに剣を次々にチェックしていく。
「…おいセン、早く買えよ」
「どうしてもそれがいいのか?」
「おうよ!」
刀を掲げてそう宣言する。
てか抜き身の剣を振り上げるなよ。危ないから。
すると女騎士は俺たちの方を向いて…いや、カズマの掲げた刀を見ている。
「…フッ」
鼻で笑ってるし。
「あぁ?テメェ今鼻で笑ったなァ?」
「フン、そんな鈍を意気揚々と掲げて買うなどと宣言されては笑いたくもなる」
確かに騎士からすれば見る目のない男だろうな。
「鈍だと…?俺の見る目が無いって事かァ?」
「そう言ったつもりだ」
「テメェ…なんなら今から俺と勝負すっか?俺の刀とテメェの剣で試合をしようじゃねぇか」
「フン、負けるつもりは無いからな…その勝負受けて立つ」
なんだか俺とパノは完全に蚊帳の外だな。
てかもう刀買う気かよ。
「俺が勝ったら今の言葉を取り消してもらって…今夜俺に付き合え」
「いいだろう、だが私が勝てば貴様は裸でジパングの土下座とやらをしてもらおうか」
「いいぜ、こっちだって負ける気はゼロだ!表出ろ!」
「臨む所だ」
…外出て行っちまった。
とにかく金だけ払わないとな。
「おっさん、これ、刀代とこのハンマー代な」
「ああ、毎度」
このおっさん生気を感じないんだが…大丈夫か?
やる気ねぇ感じ。
「兄貴、早く行かないと終わっちゃうぞ?」
「そだな、じゃあ邪魔したな」
武器屋を出ると大通りのど真ん中で女騎士とカズマは得物を抜いて向かい合っていた。
「おーいカズマ、今からでもいいから止めとけって」
一応忠告しておいてやる。
あの刀と向こうの剣じゃ多分勝負にならない。
「うるせえっ!俺の勝手だろうが!」
ギャラリーも集まりだしたな…。
「ヘッ、じゃあ…行くぜぇ!」
刀を振りかぶって女騎士に接近していくカズマ。
「残念だが…私は何度も打ち合ってやるほど甘くは無い」
「だりゃああああああああああっ!」
カズマは刀を思い切り振り下ろすと、女騎士は剣を横に薙ぐ。
ガギィンと金属音が響くと、カズマの刀は半ばから折れてしまった。
折れた刀身はヒュンヒュンと空中で数度回転すると、カランと地面に落ちた。
「な…んだと…!?」
「フン、太刀筋も未熟…そんな奴など斬るに値しない…さあ、約束を守ってもらおうか?」
「ぐ…!」
負けたら確か裸で土下座だったな…。
流石にそれは同じ男として可愛そうだな…。
「なあ、アンタには悪いんだが…勘弁してやってくれないか?」
俺は女騎士に頼み込んでみる事にしてみた。
「…男たる者、約束は守るべきではないのか?」
「そこを何とか頼む…この通りだ」
裸ではないが、俺は膝と手を地面に付けて土下座をする。
「あ、兄貴!なにもそこまで…!」
パノが止めようとしてくれるが、俺は頭を下げ続ける…。
「…仲間の為に頭を下げる…その精神に免じて許してやろう…その男に感謝するのだな、見る目の無い男」
剣を鞘に収めて立ち去っていく…。
そうしてやっと俺は頭を上げて立ち上がる。
「あ、兄貴…なんでアイツのためにそこまで…」
「仲間だからな…助け合うのは普通だろ…な?」
カズマに向けて笑顔になるが、アイツはバツが悪いのか顔を逸らしている。
「やれやれ、じゃあ刀の代わりの武器を買わないとな」
「…ケッ」
結局、カズマには普通のロングソードを買った。
現在地-ダダイル-ギルド
日も落ちた頃、俺達はギルドの酒場に集まっていた。
「…ていう事があったんだ」
俺は今日、武器屋であった事を皆に話していた。
「そりゃまた…情けないねぇカズマ」
「うるせ…」
カズマは完全に不貞腐れており、酒を結構飲んでいる…ヤケ酒だな。
大丈夫かコイツ…少し飲みすぎなんじゃないか?
「しかしその騎士は相当の使い手のようだな…一勝負してみたいな」
アーリアがそう言うと、カズマはまた不貞腐れたように酒を飲んだ。
どうやら相当頭に来てるらしい。
「所でお兄さ〜ん、その騎士さんは魔物だったんですか〜?」
「俺は魔物に詳しい訳じゃないが…あの太刀筋に刀を折った力は確かに魔物ぽかったな」
「騎士の魔物なら、デュラハンでしょうね」
ポムと俺の疑問に、ミスティが答えてくれる。
と言うかデュラハンって確か…
「首なし騎士か?」
「そうですね、彼女達は非常に理性的なのですが…」
へぇ、魔物にしては珍しいんじゃないかそれ?
「えっと…」
ミスティは何か言いたそうだが、しどろもどろになっている…どうしたんだ?
「どうした?言いたくないなら言わなくても…」
「いえ、そうじゃなくて…彼女達の首は、体の中の精を逃がさない為の蓋で…それが取れて空腹になると凄く好色で素直な性格になるそうなんです」
…やっぱり魔物は魔物か。
「セン、簡単にその人を口説いたりしないでね?」
ティピが冗談半分のように言ってくるが、別に俺は口説いたりした覚えは無い。
「別に口説いたりしても簡単に落ちたりしないだろ?」
「いいや、兄様は丁度危機の時に颯爽と現れて敵を一蹴、そんな状態で口説いたりすれば魔物に限らず女は簡単に惚れてしまうじゃろうて」
「特にセンは魔物と縁があるみたいだしね」
コロナとヴェロニカは納得しているような顔だ。
まあ確かに此処まで来るのに人間の女より魔物の方が縁があるけどさ…。
「しかしその者と試合をしてみたかった…」
まだ言ってるのかアーリア。
「セン、その者はどんな風貌だった?」
「さっき言った通り黒い鎧に装飾付きの両手剣、水色の長い髪だったよ」
「あんな感じー?」
キャノが指す方向にいる黒い鎧を着て装飾付きの両手剣を腰に挿し、水色の長い髪の毛をした女騎士を見て、俺は頷いた。
「そうそう丁度あんな感じ…って言うかあれが本人だ」
皆一斉にキャノが指差した方を見ると、アーリアは立ち上がってデュラハンに近づいていく。
なんだか嫌な予感がする。
「そこのデュラハン…悪くなければ私と打ち合って欲しいのだが…」
はい直球。
「なに…?」
アーリアの方を向くと、その向こうにいる俺たちが見えたのか、少し驚いた顔をする。
取り合えず、手を振っておいた。
「フ…いいだろう、リザードマンならばあの男よりも楽しめそうだ」
あの男ってのは恐らくカズマの事だろう…ってカズマ潰れて寝てるし。
2人は剣を抜いて向かい合う…って店内でやる気か!?
「でやぁああああああっ!」
「はぁあああああああっ!」
ガキィンと金属音を上げて剣と剣がぶつかり合う。
周りも余興として囃し立てるし。
あーあぁ…頼むから物とか壊さないでくれよ。
「ふんっ!」
アーリアが振り下ろす剣を、デュラハンは剣で受け止めて鍔競り合う。
「ふふ…やるな…!」
「貴様こそ…!」
暫くは互角に鍔競り合っていた2人だったが、僅かにアーリアは押し始めた。
「くっ…!?」
「貰ったぁあああああ!」
押し切って斬ろうとしたが、デュラハンは横っ飛びに避けると、その後ろにあった椅子が真っ二つになった。
「チィ…逃したか」
「まだまだぁ!」
今度はデュラハンの剣が薙ぎ払われるが、アーリアもしゃがんで避ける。
しかしその際にテーブルの上を剣が通り過ぎていき、風圧で上に置いてあった食器などが落ちて割れた。
「やあっ!」
「とりゃあっ!」
その後も暫く剣の攻防が続くが、その間にもどんどん物は壊れていく。
どうやら俺の願いは届かなかったようだ。
「あの…」
後ろから声をかけられたので、振り返るとギルドの職員がいた。
「なんすか?」
「これ、壊れた食器や椅子、傷ついた備品の弁償代です…あの調子だとまだ増えていきますけど…止めた方がいいですよ?」
紙を手渡されたので受け取ると、そこには驚愕の値段が書かれていた。
「…マジか」
「マジですよ」
おいおい、これ全部払ったら次の町に行くのにまた時間かかりそうじゃねぇか。
…よし、飲もう。
飲まなきゃやってられねぇよ。
「現実逃避ですか」
いいじゃん別に。
「「はぁああああああああああああああ!!!」」
まだやってるよ。
なんにしても、今日は出費がかさんじまったな。
…明日からまた節約しねぇとな。
こうして夜は更けていった。
13/01/04 15:39更新 / ハーレム好きな奴
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