オレンジゼリー(好評につき再入荷!)
何故、こんなことに。
自身が入院する病室で、彼は途方に暮れていた。
いや、こんなことになった『原因』はわかる。始まりは、彼の父親の行為によるものだ。
だが、それで父を責めるのは筋違いというものだろう。
誰が予想できようか。こんな事態になるなど…
(ねぇねぇ、出してよ?そして白いの出してよ。いいでしょ?)
(今はダメだって!隣の爺さんショック死したらどうする!)
ベッドの下に向かって小声で会話する、傍からは不審人物にしか見えない少年…
一式 正(いっしき ただし)は、今日も落ち着かない一日を送っていた。
成績平凡、容姿平均的、帰宅部、趣味はボウリング。
まったく特徴も無いような彼だが、ある日不幸にも交通事故に巻き込まれ、右腕と左足を骨折してしまい、今こうして入院生活を送る羽目になっていた。
不幸中の幸いか、手術の後リハビリに励めば、手も足も元通りに動くようになるらしい。
非常に痛い思いをしたわけだし、事故を起こした運転者に対しても思うところは多々あるが、元々やや楽天家であった彼にとっては、面倒くさい学校を長期にわたり休めるとして、それほど悲嘆してはいなかった。
(後に、授業に追いつくために苦労するであろう事には目をそらしていた)
だが、それなりにいる友人たちや、クラス一同からのお見舞いも済み、待っていたのは…
(死ぬ…暇すぎて、死ぬ……!!)
そう、退屈。圧倒的な退屈であった。
病室のテレビは料金がかかるため滅多に見ないし、自分以外に入院しているのは中高年だけ。
待合室などにある本は活字ばかりで読む気がせず、携帯電話は事故のせいで壊れた。
高校一年生、遊びたい盛りの少年にとって、これは相当な苦痛である。
入院してから一週間と経っていないが、談話室の共用テレビで延々と流される衛星放送の時代劇専門チャンネルと、老人たちのとりとめもない会話を尻目に、窓から外の道路を走る車を延々と眺めて過ごす…という一日を強いられ、加えて、先の見通しもまだ未定。
精神が音を立てて磨り減っていくような気さえする日々…。
だがそんな折、夕方、お見舞いに来た父親に、一個のゼリーを渡された。
「父さん、何これ?」
「何って、ゼリーだよ。オレンジゼリー。ちょっと赤いけどな。
入院生活だと、やっぱり色々と我慢しなきゃいけないだろ?甘いものとか。」
「いや、この『恋するゼリー』…って、何さ?」
「通販で買ってな。なんでも、恋が叶ったり、良縁が訪れる代物なんだと。」
「…こんな時に渡す?そんなものを。確かに俺、彼女なんていないけどさぁ。」
こんなもん渡されても、まず出会うチャンスがないでしょ。
病院からは出られないし、ここの病院、多分40歳以下の人、一人もいないよ?
そんな言葉を、父に免じて喉の奥に抑え込み、ゼリーを受け取った。
(…へぇ、このコのためか。うん、カオはパッとしないけど、なかなか…。)
「…ん?」
「どうした?」
「いや…何でもない。ありがと。」
「ほかに必要なものはあるか?」
「携帯。」
「バタバタしてて、修理に出すの遅れたからな…
もう少し待ってくれ。さすがに父さん達のやつは貸せん。」
「くそー…。じゃ、漫画とかは?今週の少年クランプ。」
「明日発売じゃなかったか?」
「あ…そうだった?やばい、暇すぎて時間の感覚もおかしくなってきたか…。」
「今日のところは、そのゼリーで何とか我慢してくれ。な?」
「しょーがないな…。」
そして父も帰り、ゼリーと共に残される正。
隣のベッドには彼より前から、齢70程と思われるお爺さんが入院しているが、今日は外泊で、自宅に戻っているらしい。そのため、余計に寂しく思う。
利き手が使えない状態で、がんばって夕食を食べ終え、冷蔵庫に入れていたゼリーを取り出す。
…しかしここで、ひとつ重大な問題に気付いた。
(どうやって開けよう…)
やってみれば分かるが、ゼリーの容器の蓋は、片手では非常に開けづらい。
しかも悪いことに、このゼリーの蓋は、強く接着されているタイプのものだ。
「イタズラ好きなくせに、ちょっと抜けてるんだよなぁ。父さん…」
まず両足で容器を挟んで固定し、左手で開けようとしたが、失敗。
左手で容器を固定し、口で蓋を開けようとしたが…ダメ。
備え付けのプラスチックスプーンで蓋を突き破ろうとするが、歯が立たず。
テレビ台にある引き出しの中のハサミを取り出そうとしたところで…
(あぁぁ、もー、じれったいッ!)
突然、ゼリーの容器が飛び上がったかと思うと、蓋がべりべりと音を立てて、ひとりでに開きはじめた。
そして次の瞬間、開いた容器の中から、膨れ上がる…というよりも、飛び出すように、赤いゼリーの塊が躍り出てきた。
「わああああッ!!な、え…!?」
「まったく!片手がつかえないだけで、なんにもできないなんて。
ニンゲンってば、フベンなんだから……あ。」
「…あ?」
飛び出したかと思いきや、ササッと再び容器の中に戻っていくゼリー。
(や、やりなおし!やりなおし!)
「……?」
今度は静かに、戸口をくぐるように容器から出てくるゼリー。
さっきは驚いていて見る暇もなかったが、その外見は、人間の若い女性のような姿をしている。
しかも顔だけ見るなら、非常に美人だ。20代くらいだろうか?
「はぁ〜い、スライムナースの『バレンシア』さんですよぉ♪
にゅういん生活でたまった性欲を、ワタシがショリして、あ・げ・る♪」
何事もなかったかのように口上を述べ、ポーズをとってウインクする赤いゼリー。
よく見てみると、ナース服とナースキャップを着用しているような姿になっている。そしてその下に隠されている、服の上からでも一目でわかるほどの、豊満な体…
しかし、目の前の現実を理解できていない正は、まだ反応する事ができなかった。
「…え?」
「『え?』じゃなぁーい!!もー、せっかくサービスしてあげようとしてるのにぃ…!」
「いや、いきなりそんな事言われても…というか、あんた何者…?」
「何者…って、ゼリーでしょ。あなたのために買われた。
でもほんとは、ゼリーのふりしたレッドスライムでぇ、このセカイに忍び込むために、スライムとだましてゼリーを売って、そのゼリーで…あれ?ワタシはゼリーで、レッドスライムで…ねぇ、ワタシってゼリー?スライム?」
「こっちが聞きたいよ!?喋って動くゼリーなんて普通無いだろ!?」
「う〜ん……」
「…というか、何しに来たの?」
「何するのかって?
さっき言ったじゃない。せ・い・よ・く・しょ・り♪そこは忘れないんだから♪」
「性欲…!?」
「お、やっとハンノウしてくれた♪そう、性欲よ。
ワタシ、知ってるんだから。にゅういん中のオトコはみーんな、性欲がたまっても、まわりに人がいるから、どうにもできずにたまりっぱなし…ってね!
あなたからも、そんなかんじのニオイがぷんぷん出てるし…じゅるり♪」
獲物を品定めするような眼差しを向けられ、少しだけ震える正。
「ちょっ、ちょっと待った。性欲処理なんて、そんな、いきなり…」
「えぇー?でも、たまってるんでしょ?あなたくらいのトシゴロなら、毎日、あふれそうになるほどたまるって言うし。それに…」
バレンシアは胸を強調するように腕を組み、にじり寄る。
「知ってるんだから。こんな風に、キレイなナースさんに、エッチなカンゴされたいって…
オトコなら、一度はあこがれたコトあるんじゃないのぉ?」
あった。
故に、それまで自身の右手しか味わったことがなく、その右手すら、ここ何日も断たざるを得なかった彼のペニスは、一気に頂点まで膨れ上がる。
「ふふふ…みごとにビンビン♪
それじゃあ、ふく、ぬいじゃいましょうねー♪」
カーテンを閉め、外から見えないようにすると、バレンシアは正の服を脱がせ始めた。
着脱しやすいよう、Tシャツと短パンのみを身に着けていた彼は、あっという間に全裸になる。
「あぁ、ガチガチでくるしそう…すぐ、ラクにしてあげますからね♪」
「や、め…あ痛ッ!」
暴れたせいで、右腕の折れた骨に響き、正は苦痛の声を漏らす。
「あっ、あばれちゃダメよ!ケガしてるのに…」
バレンシアは咄嗟に、自分の体を骨折部分に纏わせる。
ギプスの内側までスライムを浸透させると、冷たさのおかげか、痛みが急速に引いていった。
「だいじょうぶ?ワタシ、これくらいしかできないけど…」
「あ……うん。落ち着いた。…ありがとう。」
「よかった♪さて、つづきを…」
微笑んで、まだ硬いままの肉棒に、そっと手を触れる。
「ぁぐ…!!」
たったそれだけで、危うく限界に達しそうになる。
下腹部に力を込め、それをどうにか押しとどめている正の様子を、可愛らしいものを見るように眺めるバレンシア。
「うっふふふ。なんでガマンしてるの?
出しちゃって、ぜんぜんいいんだよ?性欲ショリなんだから♪」
男性器にさらに顔を近づけ、透き通った赤い舌で、鈴口をぺろりとなめ上げる。
それでもう限界だった。
下品な噴出音を漏らしながら、バレンシアの美しい顔に、すさまじい量と濃度と臭いを持つ、白濁どころか黄色味がかった精液が降り注ぐ。
「ぁぅぅぅぅ………!!!」
「はあぁぁぁぁ…ッ♪」
かたや、目の中に火花が飛ぶような快感と、溜まったものから解放された爽快感が混ざった感覚に、食いしばった歯の奥から情けない声を出し、かたや、極上の精をその身に受けたことによる歓喜に絶頂を迎え、恍惚とした声を上げて悶え震える。
「はぁーっ、はぁー……」
「ふぅ…んふふ、いーっぱい出しちゃったね♪それじゃ、ホンバン…いこっか。」
「ほん…え、本番!?今のがじゃなくて!?」
バレンシアの予想外の台詞に、我に返る正。
「今ののどこがホンバンなのよぅ。あれは、ただの性欲ショリでしょ?
ホンバンっていうのは、ワタシのおまんこにおちんちんを入れてぇ、いっしょにキモチよくなって、中で、びゅるーっと出すのがホンバンなんだから。そうでしょ?」
「そうだけど、いや、でも、そんなん、俺初めてだし、初めて会ったばかりの…」
「どうして?だって、キモチいいよ?ぜったい。
知ってるんだから。やったコトはないけど。」
「そうじゃなくて…どうして、俺なんだよ?」
「だってワタシ、そのために来たんだもん。
それにあなた、とってもカワイイし♪ソーショクケーっぽいけど、そこがまた、ってかんじ?
あなたのドウテイも、体も、ココロも、ぜーんぶほしいな♪そして、ワタシのダンナサマにしてあげるんだから♪」
言いながら、バレンシアは正をベッドの上に押し倒す。
ナース服のような形をとっていたスライムは、いつの間にやらナースキャップを残して形を無くし、丸い乳房と深い谷間を露にしたような、彼女にとってはいつもの姿に変わっていた。
その肢体に目を奪われ、射精したばかりのペニスに、再び活力がみなぎる。
「ふふふ。お次は、おちんちんのおネツを、ワタシのおまんこではかりまぁ〜す…♪」
腰の形の部分を持ち上げ、正の立ち上がったペニスの真上まで移動させる。
見せつけるようにゆっくり腰を落としていく。ひんやりした入り口が、先端に触れる。
年頃の男にとって、たまらなく煽情的な光景に、正はごくりと唾を飲み込んだ。
「出したくなったら、すぐ出してくださいねぇ……そぉー、れッ♪」
そこから一気に、根元まで正を飲み込んでしまった。
先程の手と舌よりも、遥かに気持ちいい感触が、男性器すべてを覆いつくす。
「あああぁぁぁ!!?」
不定形の生物とはいえ、その膣内はまさに魔性の搾精器官。
ほんの一瞬前まで童貞であった正に耐えられる筈もなく、抑えることすらできずに大声を上げてしまった。
…だが、すぐに思い出す。ここが何処なのか。急に大声なんて出そうものなら…
(一式さん!?どうかしましたか!?)
「ぇ……あっ!?」
叫び声を聞きつけた、恰幅のいい中年女性の看護師が、病室に飛び込んできた。
看護師がカーテンを開けて入ってくる前に、咄嗟に布団をかぶり、自分とバレンシアを隠す正。
「どうかされましたか?」
「い…いや、そこのコップ、落としそうになって…っ!?…ほ、ほら、水入ってたから…」
備え付けのテーブルに置いてあった給水用のコップを持って、わずかな時間で必死に考えた苦しい言い訳を話す。
「…そうでしたか。汗をかいてますが、腕と足は大丈夫ですか?痛みます?」
それでもどうやら、怪しまれずに染んだようだ。
「いえ、大丈夫です、ハイ……!?ぁっ…!」
ペニスには、まだバレンシアの膣がまとわりついていた。
その上、悪戯して楽しむかのように、不意に動き出すのだ。
「そうですか。
念のため、手足に巻いてる氷、換えておきますからね。ちょっと待っててくださいね…」
そして一旦引っ込む看護師。
その隙に、布団に首を突っ込んで、正は怒った。
(バレたらどーすんだよッ!!)
(ごめんごめん、つい。でも、見られそうになって、コーフンしなかった?
さっきよりもカタくなってたし♪)
あまり反省しているようではないバレンシアに、呆れてため息をつく。
その後、氷の交換もどうにか乗り切り、本番を再開することになった。
「さっきはごめんね?おわびに、もっとキモチよくしてあげる。
おっぱいも、すきなだけもんだり、すったりしていいから。ね?」
相手が人間でないとはいえ、健康な若い男は、女体の誘惑には抗えない。
正は仕方なく許し、先ほどの姿勢に戻ったバレンシアが、改めて上下に動き出す。
「うっ………く…!!」
挿入した状態で、しばらく時間が経っていたためか、膣内の感触に少しだけ慣れ、余裕が出た…ように思える。
だがそれでも、今にも射精してしまいそうな快楽に包まれていることには変わりない。
気をそらすものを求め、目の前で軽快に跳ね回る乳房に左手を伸ばす。
「ぁふっ……ちょっと、つよめだけど…いい、かも…はぅ♪」
水風船のようでいて、力を込めれば込めた分沈み、緩めると同時に元の形を取り戻す、指にそのまま吸い付いたような弾力。夢中になって揉み続けてしまう。
遊んでいる左胸に対しては、右手に代わり、体を起こして唇を付ける。
乳首はないが、舐めてみると、濃厚でさわやかな甘味がする。
しばらくの間、手と口で、母親のそれを除けば人生初のおっぱいを堪能していたが、それは、自分の興奮をますます高め、絶頂へと追いつめられるのを加速させる事でもあった。
しかも…
「あ、そうそう…♪ヤクソクどおりぃ、今から、んっ、もっとキモチよく、してあげる♪」
その言葉とともに、膣内の様子が一変する。
「慣れた」と感じたことなど、ただの気のせいだった。それほどの快楽が襲い来る。
「ぅ、んぃぅぅぅぅ………!?」
流体状の内壁が、締め付けられ、吸い付き、撫で上げ、回転運動まで…
目まぐるしく変化する責めに翻弄され、一瞬にして限界を超えさせられる。
「出てる出てるぅ♪キモチいい、でしょ?ワタシも、キモチいいよ♪」
バレンシアの本気に、絶頂させられたかと思えばまた絶頂させられ、出しても、出しても、止まらない。溜まっていた分など、とっくに出し尽くしたというのに。
止め処ない迸りを胎内に受けながら、バレンシアの腰も止まらない。
膣内をペニスが通過する感覚、仮初めの最奥部まで当たる感覚に加え、噴き上げる精によっても快楽を貪っているようだ。
相手を絶え間なく追いつめながら、彼女自身も、また追いつめられていく。
「はぁぁっ、いいよ…ケンコウ、そのもの、です、ねぇ…♪」
ラストスパート。音が出るのもかまわず、一層激しく腰を打ち付ける。
肉ではなく、液体が個体にぶつかる音が、びちゃっ、びちゃっ、と響く。
もはや意識を朦朧とさせた正が、たまらず口を乳房から離したところで、代わりに自らの唇を押し付けるバレンシア。
仕上げに、正の腰が自身の腰にめり込むほどに強く突き込み、彼女も大きな絶頂を迎えた。
「っ〜〜〜〜〜…!!!」
がくがくと体を震わせながら、砂山が崩れるように形を失っていくバレンシア。
それに合わせるかのように、精根尽き果てた正の意識も、眠りの中へ落ちていった。
「………はぁぁ〜♪」
満足そのものといった溜息を吐きながら、ひとしきり余韻に浸ると、バレンシアは元の形に戻る。
「ケガしてにゅういんして、でも、いいこともあったでしょ?
…おやすみ、タダシくん♪」
年齢的には、まだまだ子供といえば子供なのだが、子供のように幼げな、安心したような寝顔をさらす正。
表面上は平気なように振舞っていても、内心では、事故やケガ、環境の変化などが強いストレスになって、心安らかに眠れない日が続いていたのだ。
バレンシアはそんな彼を、消灯時間まで、幼子をあやすように愛おしそうに撫でていた。
「…あれ?まっくらになっちゃった。まあ、別にいいけど。」
暗くなったということは、見つかるリスクが少なくなったということでもある。
より深い眠りに入り始めた正の体を、触手状のスライムを出し、遠慮なくまさぐり始めた。
「さてさて。
ねてる間に、こんどは、しょくごのデザートをいただいちゃうんだから…♪」
当然、夫の精液には負けるが、汗や垢なども、スライムの好物である。
入院生活では体を洗うチャンスが限られており、現状、せいぜい濡れタオルで体を拭うくらいしかできないために、正の身体はやや垢じみていた。
溜まった垢と、先の交わりで噴き出た汗をじっくり味わいながら、丹念に、余すところなく落とし、吸収していく。
髪や頭皮の汚れまで食べつくし、綺麗になったことを確認すると、正に寄り添い、自身もようやく、眠りについたのだった。
翌朝。
昨日と同じく、通勤がてら、正の父が漫画を届けに来た。
「ほら、少年クランプ。」
「あ…ありがとう。」
昨日までの自分であれば、待ちかねたとばかりに受け取っていたが、何となくよそよそしい態度になってしまう正。
「あのゼリー、どうだった?」
「ゼリー!?…あ、あぁ。美味しかったよ。そりゃもう、最高だった…」
(でしょー?)
「!?」
冷蔵庫から聞こえるかすかな声に、心臓が飛び跳ねる。
楽天家の彼でも、トラブルはなるべく避けたいと思っていた。相手が親とはいえ、あのオレンジゼリー…バレンシアの存在が他人に知られれば、どうなるか分かったものではない。
それに加えて、ただでさえ周囲に人目が絶えない環境だ。退屈な入院生活は、一夜にして、見られてはいけないものを抱える恐怖と戦う日常に変わってしまった。
「どうかしたか?」
「あ…いや!全然!うっかりケガに触っちゃっただけ!ハハハ…いてえ。」
「…そうか。気をつけろよ?不便だろうけど…
なんかあったら、すぐに看護婦さんとか呼べよ?」
「うん、わかってる…」
人を呼んでどうにかなる問題であれば、どんなに良かったことだろう。
父が仕事に行くまで何とか取り繕い続け、隣のベッドの老人も、いつも通り談話室に向かい、ようやく一息ついた。
(ねぇ、もう出てもいい?)
「…いいよ。」
冷蔵庫の扉を開け、バレンシアが這い出して来る。
「この中、すっごくさむいんだけど…
せめてその、ベッドの下の、ふくとか入ってるハコに入れてくれない?
あのカップの中に入ってれば、小さくなれるから。おねがい、ね?」
「うん。…ごめん。こんな事させて…窮屈だろ?」
彼とて、バレンシアの事が邪魔だから、こういう事をしているのではない。
「ううん、それはべつに大丈夫。スライムだから。
…そのかわり、まいにち、性欲ショリさせてくれれば…のハナシだけど♪」
「え…毎日?」
「ダメ?」
「いや、気持ちよかったけど、アレをさすがに毎日は…」
「…女の子を、一日中じーっとさせるんだから、それぐらいはいいと思うんだけどー?」
「うー………わかった。」
流されてそうなったとはいえ、童貞を捧げた相手を無下にはできない。
むしろ、自分なんかとまたセックスしてくれるなら…と、思い直すことにした。
「うふふ…こんやも、すっごいコトしてあげるんだから♪」
「お、お手柔らかに…。」
こうして、良くも悪くも、入院生活に彩りが添えられたのであった…とまとめられればいいのだが、そう簡単にはいかなかった。
(ねえ、タダシくん。性欲ショリしよー?)
「もう!?もうすぐ回診だから、終わるまで待っててくれよ…」
夫とした者に対しては、どこまでも貪欲になっていくのが魔物娘。
毎晩交わっていても、バレンシアはそれだけでは満足できず、昼間でもことあるごとに、空気も読まずに正を求めてくる。
(おねがい、先っちょだけ!先っちょだけ!)
「それ男の台詞…ていうか今、友達いるんだけど!?」
『どうしたー、タダシ?』
「いや、独り言…」
見舞客が来ていても。
「タダシ、膝に布団掛けたままテレビ見てるけど…暑くないの?もう6月なのに。」
「いや、大丈夫だよ…母さん。」
(ちゅぱっ、んっ、ちゅずぅ…♪)
「大丈夫なわけ無いでしょ。汗もダラダラだし…具合悪くするわよ。」
「わ、わかってるって。もうすぐ、もうちょっとで出るから…」
正の親の前ですら彼女は自重せず、その度に、正の背筋に冷や汗が流れる。
しかし、はじめこそ「どうしてこんな事に」と思い、いつ何時泣き叫びだすかわからない赤ん坊のように思っていたが…それに慣れてくると、正はあることに気づいた。
(…ああ、そっか。
バレンシアも、暇なんだよな。)
彼女は単に、こちらをからかって、反応を見て楽しんでいるだけなのかもしれない。
自分は病院内だけとはいえ自由に動けるが、彼女は、このベッド周りから動けない。会話も、自分としかできない。
そう考えると、彼女が置かれている状況は、今までの自分以上に辛いものだと気づく。寂しさや退屈に悩まされて当然だ。
美しく、極上の快楽をもたらしてくれる上、身の回りの世話までしてくれるバレンシアに好意を抱き始めていたこともあり、その事実に気づくと、彼女のおねだりも「仕方ないな」と流せるようになり、また、夜以外でも、なるべく彼女に構ってあげたいと思うようになった。
「…それで気づいたときには、5人分の芋を食べる羽目になっててさぁ…」
(あはははは!せっかく犬までつれてきたのに、かわいそー…)
しかし、二人がそうしている間にも時は過ぎ、時が過ぎれば、状況も変わっていく。
何やら病院側のトラブルがあったようで、何日も延びに延びていたが、ようやく、手術を受ける日がやってきたのだ。
「いよいよ今日、手術か。」
「…うん。」
「今日を超えれば、あとは治るだけだ。
…頑張れよ。お前は、一人じゃない。」
「そんな大げさな…。でも、ありがとう。」
手術のため、朝食は少なく、昼食は抜かれ、手術着に着替えさせられる。
水を飲むこともできないため、代わりに左腕に点滴を打たれ、手術の準備が完了するまで、ベッドの上で待つことになった。
(…いよいよ、シュジュツ、するんだね。)
「…うん。」
(体を切って、ホネをネジでくっつけるんでしょ?…やっぱり、こわい?)
「仕方ないとは思うし、命にかかわるような手術じゃないことはわかってるけど…
それでも、ちょっと、ね。」
(…安心させてあげられるようなコトを言ったり、したりできなくて…ごめんね。)
「…こうして、話相手になってくれるだけでも、十分だよ。」
(……ありがとう。
…そうだ!シュジュツがおわったら…サイコーにすごいごほうび、してあげるから♪)
「…いつもしてるじゃん…。」
(こんどのは、もっとトクベツなの!今までのとはちがうんだから!
だから……その…がんばって、ね。)
「うん…。ありがとう。」
何とも言えない空気の中、正を手術室まで運ぶ車椅子が到着した。
「さ、一式さん、行きましょうか。」
「はい。」
そして車椅子に乗り、病室から出る直前に、ベッドの方を振り向く。
「…行って来る!」
そう告げると、ようやく、手術に対して前向きになれた気がした。
手術が終わり、全身麻酔から覚めた正。すでに真夜中で、自分のベッドの上にいた。
目が覚めたとはいえ、いまだ虚ろな意識のまま、ひどい喉の渇きと、手術後の手足の、コンクリートブロックをはめられたような重さに苦しんでいた。
左腕にはいまだ点滴が刺さっており、迂闊に動かすこともできない。
「あ、起きましたね?」
「あ゛ぁー…」
付き添っていた看護師が声をかけてきたが、苦しく、まともな返事もできない。
「まだちょっと辛いけど、もう少し経ったら、何か口に入れても大丈夫になりますから。
そしたら、氷水持ってきてあげますからね。」
「…あい…。」
そう言うと看護師は、病室を出て行ってしまった。
苦しさに加え、消灯後のため、明かりは豆電球のみとなった部屋の薄暗さから、孤独感までも沸き上がり、不安な気持ちが膨らんでいく。
しかしそんな時、しっとりと濡れているが温かい、手のようなものが、正の左手に触れた。
この感触には覚えがある。ここ最近、毎日触れ合っていたものだ。
「おかえりなさい…がんばったね。」
頭を動かしてみれば、バレンシアの、優しげな顔があった。
「だいじょうぶ、だからね。」
いつも賑やかな彼女だが、それ以上は何も言わず、正の手を握り続け、頭や顔を撫でながら、かいた汗をぬぐい取っていく。
彼女の手に安心感を覚えた正は、しばし目を閉じ、身をゆだねていた。
「…あ、かんごしさん来るみたい。またちょっとかくれてるね。」
そう言ってバレンシアが引っ込んだ直後、看護師が氷水を手に現れた。
いまた体は重いが、どうにか動かせるようになってきていたので、氷水を受け取り、飲む。
直接水分を吸収できずに悲鳴を上げていた内臓に染み渡り、苦しさも引いていく。
「消化にいいものだったら口にできますが、何かありますか?」
「…はい、ゼリーが。」
「蓋とか開けられますか?」
「蓋はもう開けてるんで…自分で食べられます。大丈夫です。」
「そうですか。慌てて、のどに詰まらせないでくださいね。
何かあれば、すぐ呼んでください。」
再び看護師は去り、代わってバレンシアが出てくる。
「ふふ…それじゃあ、ゼリー、たべさせてあげるんだから。んー……」
正が目を閉じ待っていると、唇が触れ、口内にゼリーが流れ込む。
彼女のゼリーは性交のごとく、毎日のように食べていても、新鮮で飽きが来ない。
加えて、育ち盛りの肉体に対して、朝から十分な栄養が与えられなかったこともあり、涙が出そうなほどに有難い美味に感じられた。
無意識のうちに舌まで彼女の口内に差し込み、貪欲にゼリーを啜る。
やがてお腹が満たされると、赤子のように、そのまま再び眠りに落ちてしまった。
最大の山場とも言える手術を終え、あとは抜糸とリハビリを経て退院という段になった。
術後の経過はすこぶる良い…どころか、医師が驚くほどのスピードで手術跡が癒えていき、抜糸は、若干前倒しで行われることとなった。
その裏に、バレンシアの存在があったことは言うまでもなく、正は怪しまれないかと一瞬焦ったが、一晩で治ったとかならまだしも、数日早まった程度なら常識の範囲内か、と、すぐに思い直した。
退院までには、繋いだ骨がある程度くっつくのを待ち、リハビリに励みと、まだまだ日数が必要であったが、バレンシアのおかげで、退屈はしないで済みそうだった。
(ごはーん♪)
「はいはい…って、もう性欲処理とかすら言わなくなってきたね…。」
だが、退院が近づくという事は、いよいよバレンシアの事を隠し通せなくなってきたという事だ。
少なくとも両親には、言わないわけにはいかないだろう。退院時、荷物をまとめて帰る際には隠し切れない可能性が高いし、何より、普段からの仕事もあるのに病院にも頻繁に来て、何かと世話を焼いてくれていた両親に、隠し事などしていたくはない。
今や彼にとって、バレンシアは心から大切と呼べる存在となっていた。それだけに、ずっと共に居たいという想いと、もしも引き離されでもしたら…という思いが葛藤し、なかなか打ち明けることができなかった。
抜糸が済み、ギプスから、手軽に着脱できる『装具』へと切り替わり、リハビリが始まった段になって…彼はようやく、お見舞いに来た父に、すべてを打ち明けた。
「…というわけで、バレンシアには、ずーっと助けられてきたんだよ。」
「…そうか。そんな事が…」
「だから、その…退院してからも…」
「ああ。お前の言いたいことはわかる。
だけど…その前に、父さんもお前に伝えたいことがあるんだ。
いったん家に戻るから、ちょっと待っててくれないか?」
「…何?」
「家に、取りに行かなきゃならないモノがあるんだ。…ようやく、だな。」
そう言って、いったん帰宅した父を、緊張を抱えたまま待つ正。
数十分後、ようやく父は戻ってきた。
「待たせたな。
伝えたい事は…『これ』についての事なんだ。」
そう呟き、父が取り出したものは…
…プラスチック容器に入った、真っ赤なゼリーだった。
「紹介しよう…、
新しい、お前の母さんだ。」
ゼリー容器の中から顔を出す、バレンシアとはまた違った顔立ちの美女。
「はじめまして。あなたが、タダシくんね?」
「えっ」
「そして、ベッドの下にいるのが…」
「あ、ナカマだ!はじめましてー♪」
嬉しそうに、ベッドの下の衣装ケースから這い出すバレンシア。
「ええっ…」
「父さんな…通販でゼリーを買ったとき、自分用にも、ひとつ注文してたんだよ。」
「えっ、じゃあ、最初から知ってて…っていうか、母さんは?元の母さんは?」
「それなんだが…紹介しよう。
『新しくなった』お前の母さんだ。」
父の言葉とともに、病室に入ってくる女性。
正がこれまで見ていた顔よりも、格段に若く美しくなっており、頭からは角が、腰からは悪魔のような翼や尻尾が生えていたが…
その顔は間違いなく、これまで自分を育ててきてくれた母のものであった。
「おはよう。ザ・ニューお母さんよ♪」
「新しい母さんを出した時、前からの母さんと二人そろってヤられちゃってな。
気が付いたら、前からの母さんがこんなになってて、そりゃあ驚いたよ。」
「あれ、え?だって、きのう来た時まで、その、もっと…年相応というか…」
「ああ。あれは、魔法で前の母さんのままの姿に見せかけてただけよ。」
「魔法!?」
ただでさえ現状が呑み込めていないのに、
とうとう『魔法』という非現実の極致まで出てきて、ますます混乱する正。
「大丈夫だ。中身は、前の母さんと変わりないから。
ちょっと…いや、すごく夜が積極的になったけどな。ワハハハハ!!」
大笑いする父に対して、ついに眩暈まで感じ、たまらずベッドに倒れこむ正。
「ってことは…全部、ぜんぶ俺に隠してたってこと?またいつものイタズラで?」
「ハハハハ…悪かったな、正。
退院したら、欲しがってたノートパソコン買ってやるから、それで許してくれ。」
「お母さん達も、退院祝いに、沢山美味しいもの作ってあげるから。ね?」
もはや、何と言ったらいいのかわからない。
更にそこに、同室の老人も戻ってきた。
「おー、正君。お見舞いかい?ずいぶん賑やかだなぁ。」
「あ…圭州さん!?これは、その…!」
「この人らは、君のご家族かい?」
「は…はい。そう…みたいです。」
「ひょっとしたら、『魔物娘』ってやつかい?」
「えっ…し、知ってるん…ですか?」
「知っとる知っとる。うちの孫も、その『魔物娘』ってのになった女の子と付き合っててな。
いくつになってもフラフラしてて心配だったんだが、まあ見違えるようになったよ。」
「えええ…」
「そう遠くないうちに、ひ孫の顔も見れそうだし…いい事ずくめさ。
しかし、正君も水臭いな。同じ病室なんだし、言ってくれればよかったのに…」
「ええええええ…圭州さんまで知ってたのかよぉぉぉ…。俺の努力って……」
病室には、みんなの笑い声が響いていた。
あまりのショックの連続に、正も、もはや乾いた笑いしか出てこなかった。
「な〜んだ、かくれるヒツヨウなんて、なかったんだ。」
「…うん、そうだねえ、ははは。おれのしんぱいしすぎだったよお……」
「それじゃあ、これからも、タイインしてからも…
もっともーっと、イチャイチャラブラブしてあげるんだから♪」
「うん、ずっといっしょだよお。ははははは…ははは…」
こうして、怪我がきっかけで、普通の少年の平凡な日常は終わりを告げ、
良くも悪くも刺激と驚きに満ちた、賑やかな日常が始まったのであった…とさ。
16/11/30 23:57更新 / K助
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