オレンジゼリー
(……)
今あたしは、なんだか小さくてツルツルしたものの中につめられて、
そのうえ、紙みたいなので出来たハコの中に入れられて、どこかに運ばれてる。
(たいくつ…)
別に、悪いニンゲンにつかまってるワケじゃない。
この中も、いたかったり、苦しいわけでもない。ちょっとせまいけど、それはあんまり気にならない。
でも、なんにもないし、なんにもできないから、ものすごー…く、たいくつだった。
(…でも、ガマンしなきゃ。オトコをつかまえるためだもんね。)
この中で待ってるだけで、オトコの所までつれてってくれる。
そしてオトコをひとりじめ出来る!なんておトクなハナシなんだろう。
それに、その話にのったあたしも、なんてアタマがいいんだろう♪
(うふふふふ…。あの白くてすごそうなマモノさんには、かんしゃしないとね。)
さあ、待ってなさい。あたしのオトコ!
「…はぁ〜あ。いつになったら調子が戻るやら…。」
試合を終えて自宅に戻り、プロ野球選手(捕手)である俺『茂仁田 江歩』(モニタ エフ)は、ガックリうなだれていた。
「まあ、自分がまいた種なのは分かってるんだが…。」
こうなったのもついこの前、チームメイトと飲みに行った際に、
とんでもない失敗をしてしまったからだ。
何軒も飲み屋をハシゴした挙句、意識が飛ぶほど泥酔してしまい、
その果てに、何を思ったかビルの3階からパンツ一丁で飛び降りたらしい。
幸運にも選手生命に関わるほどの怪我もせず、スキャンダルにもならなかったが、
それでも半月ほど病院で過ごすハメになってしまった。
しかもようやく退院できたと思ったら、怪我の後遺症なのか、今度は未曾有の大スランプに陥ってしまった俺である。
今やスタメンからも外され、このままでは一軍に居ることすら危うい…。
「こんな事になっちまったんだ、脱出するためにも、やっぱ酒やめないと…
…って言ってやめられたら、そもそもこんな目にもあってないんだってーのな…ハァ。」
アル中とまでは行かないが、無類の酒好きと周囲でも評判の俺だ。
酒で失敗したと分かっていても、そこに酒があれば飲まずにはいられない。
ほかに夢中になれるような趣味も持ってないしな…。
「…とりあえず、いつものやって、シャワー浴びて寝るか…。」
テレビを横目に見ながらの、腕立て腹筋等の自主筋トレ。
小学生の頃から続けている、家での毎晩の日課だ。
スランプともなれば、ますますおろそかに出来ない。
「…73…74…75……」
テレビには、丁度ニュース番組が映っている。
ちょうど野球の話題になり、各球団の順位発表が出ていた
自分のチームの順位は、相変わらず低い。
「…優勝してえなぁ…。」
プロ野球選手であるからには、やっぱり優勝・日本一を経験したい。
そしてあわよくば、その時には、俺がそこまで導いたヒーローでありたい。
プロ選手なら誰もが持つ夢だろう。俺もそうだが、今の体たらくじゃなぁ…。
「…もっと努力しないとな。」
筋トレを再開する。効果は変わらないだろうが、さっきよりも少し勢いよく。
そのうちにスポーツニュースは終わって、CMを挟んでトーク番組に変わり、
それが後半あたりに差し掛かった頃に、俺の筋トレも終わった。
「明日から、もう少し増やすかな…。」
汗をかき、適度に疲れた俺の体は、疲労と渇きを癒せるモノをよこせと言ってくる。
すなわち、酒。
今、冷たいビールでもガーッと流し込んだら、どんなに幸せになれるだろう…
あ、ビールじゃないが、今ちょうど、もらい物の缶の日本酒がある。あれを…
「…って、ダメだダメだ。さっき決意を新たにしたばっかりだろ!」
無反省に酒を求める自分の心に喝を入れる。少なくとも今日は飲まないぞ、今日は…
「…おっと。そういえば、ゼリーがあったんだった。」
そこで、この前偶然見た通販番組で購入した『オレンジゼリー』の事を思い出す。
勝負事に強くなるとか、強い意思がつくとか、何度でも食べられるとか…はっきり言って、すごく胡散臭い効能を謳っていたが、司会をしていた二人のおねーちゃんがあまりに美人だったので、それにつられて、つい買ってしまったモノだ。
「あれ食うか。酒の代わりに。」
美味かったらよし、不味かったら、自制できない自分への罰だ。
あたしはあいかわらず、ツルツルしたものの中。
ちょっと前に紙のハコから出されて、開けてくれるのかなー、と思ってたら、
なんとそのまま、まっくらで、しかもすごくさむい所に入れられた。
まったく!べつにカゼなんてひかないけど、このアタマのいいあたしに対して、なんて『シウチ』かしら!
ここから出たら、何日も何日も、みっちりしぼってやるんだから!
そうだ。ここから出たときに、どっちが上か思い知らせてやらなきゃ。
そのためには、やっぱり『インパクト』よね。どんなふうに出てやろうかしら…
相手がビックリするような出方をかんがえて、
あたしはアタマもいいし、こわーいマモノなんだってアピールしてやる。
…でも、あんまり怖がらせると、にげちゃうかも知れないし…う〜ん……
むずかしいなぁ……
……
…………ハッ!いけない、ねてた。
ずーっとまっくらな中にいるから、今が昼か夜かも、もうわからない。
たいくつ…
…そういえば、ここに入れられたときに見えた、小さなタルみたいなのは何だろう?
ここには、ニンゲンの食べ物みたいなのが色々入ってるから、アレも食べ物かな?
それとも…ひょっとすると、お宝の入れ物だったりして!
ピカピカだったし、絵とか、文字みたいなのがいっぱいかかれてたし、
それに、大事なものは、いがいと何でもないようなところにかくされてるものだ…
…って、本好きの友達が言ってたし。
何が入ってるんだろう?気になる〜…
……いや、いけないいけない。大人しくしてないと…あとインパクトも考えないと…
でも、気になるなぁ…
…
……
………ダメだ、気になる!じっとしてられない!
ちょっとだけ……ちょっとだけ外に出て、中身をのぞかせてもらおう。
怒られるかもしれないけど、ぬすんだりするワケじゃないから…許してくれるわよね。
(ちょっとだけ、ちょっとだけ…)
心の中で何度もつぶやきながら、音を立てないように、シンチョウに、ツルツルした入れ物のフタをはがしていく。
やがて、出られるほどのスキマが出来たから、そこから体をほそーく外へ伸ばしていった。
手さぐりでタルみたいなのを探して、それをあちこちさわってあけ方を調べる。
しばらくさわって、どうやら上のレバーを引けば開くことに気付いた。
でも、これを引いたら、もう後には引けない…。このまま行っちゃって、いいんだろうか。
しばらく考えて…でも、やっぱり『コウキシン』には勝てずに、
ゆっくり力を込めて…レバーを引いた。
(う〜ん…!)
…カシュッ!
フタが開いたら、中からふんわり甘いような、でもなんかへんな香りが広がってきた。
なんだろコレ?飲み物?かいだコトのないニオイだけど…
…こんな入れ物に入ってるんだから、めずらしいモノなのかも…。
……………気になる。
うー、気になる!
かってに飲んだら、ホントに悪い事だし、いよいよ許してくれなくなるかもしれないけど…
それでも……気になる!どんな味なの!?飲んでみたい!!
いや、あたしがイジきたないとかじゃなくて、ジュンスイな『チテキコウキシン』で!
アタマのいいあたしとしては、色んな『ケンブン』を深めておかないとだから!
……な…なめるくらいなら、いいわよね?
ほんのちょっとなめて、フタ閉めておけば、バレない…よね?
…ていうか、この入れ物のフタ、ちゃんと閉まるよね?見たことないカタチだけど…
フタの閉まらない飲み物の入れ物なんてないよね?タルもビンも閉まるんだし。
…うん、きっと閉まる。大丈夫。
ちょっとだけ…ちょっとだけ、いただきまーす…。
…ピチャ…ピチャッ……
…あ、おいしい…。
さらさらしてるのに、トロリとした味わい…。
ちょっと苦いような辛いようなカンジだけど、ほんのりした甘さがそれをつつみこんで、まろやかな味になってる。
しかも、雪みたいに冷たいはずなのに、体に入ると、もえるみたいにアツくなってくる。
なにコレ…おいしい!
はじめて飲んだけど、おいしい!
こんなめずらしくておいしい飲み物、そりゃあ、こんな入れ物にも入れるよね…。
……うう、もうちょっと飲んでみたい…。
…もうひとなめ…もうひとなめしても、バレない…はず…。
…もうひとなめ。
…
あと、ちょっとだけ…。
……
…もうすこ……あれ?なんか…へん。
さっきから…くるくるして、あつい…。あれ?なんだろう、これ。
なんだか、 あたまが ほんわか し て…………
プロ野球のスター選手は、朝晩のニュースとかCMとかに出る事も少なくない。中には、トークやバラエティ番組に出ちゃう選手だっている。
まあ俺はあいにく、そうしたことは大の苦手で、そういう話自体もほとんど来なかったが。
…何が言いたいかというと。
まさか自分がドッキリ番組みたいな出来事に遭遇するなんて、俺は夢にも思わなかったのだ。
今日、この時までは。
「ふー…。さて、ゼリーゼリー…」
シャワーを浴び、下着のままで台所に行き、冷蔵庫の戸に手を掛ける。
腕に力を込めて引くと、ドアポケットの中身が揺れる音が混ざった、独特の開閉音が鳴る。
当たり前の行為、当たり前の動作で戸を開けた瞬間……当たり前でない事が起こった。
(ドポポポッ…!)
「……?、!? ううおわぁあ!!?何だぁ、こりゃあ!?」
開いた冷蔵庫の隙間から、大量の真っ赤な液体が、ドバッと溢れ出して来たのだ。
なんだ!?血!?…いや、血にしては透明すぎる。
これはむしろ、昨日届いて冷蔵庫に入れといた…
「あ〜…?…あ!えへぇ。オトコらぁ……♪」
「うわ、何だ!?喋った!?」
「うへへへへぇ♪しゃべった、らって〜♪」
突然、女の子みたいな声が聞こえて、さらにビビる。…なんか酔っ払ったみたいな声だが。
念のため言うが、俺には嫁も恋人も居ないし、女の子など居るわけがないのだ。
いったい誰だ!?どこから声が…と思っていたら…
なんとその声は、床に垂れ落ちて広がった、真っ赤な粘液から聞こえてきたのだ…。
「んもぉ。びくびくしてらいでぇ。あたひと、きぃもひいいことしなはいよぉ。れ?
こひとらぁ、じゅっとくらくて、しゃむかったんらからぁ…」
いつの間にか冷蔵庫から全部こぼれ出した粘液は、うにょうにょと緩慢な動作で形を変え、次第に女の子のような姿になった。
たわわな胸から形のよい尻へと見事な曲線美を描く極上のプロポーションに、
やや童顔気味でちょっと気が強そうで、そのふたつの要素が絶妙に調和している可愛らしい顔立ちを備えた、正直、非常にレベルの高い美女だった。
…カタチだけは。
しかし、整っているはずのその顔面には、妙にだらしの無い笑顔を浮かべている。
「な、何なんだお前…!?」
「なんなんらとはしちゅれいねぇ!あんたがかったんれしょお!?」
「かった…?…って、まさか…」
「しょうよ!あたひが『オレンヂジェリー』とひて、あんたにかわりぇてあげたの!
ちゅまり、あんたはあたひのショクリョウになりゅわけ!わかった!?」
「え…え!?どういう事だ!?おかしくないか!?いろいろ…」
「おかしゅくない!らまって、あたしにしぼられなしゃい!」
そう言うと、赤い変な奴は、やおら抱きついてきた。
思わず振りほどこうとしたが、女(の形)とは思えない力で抱きしめてくる。
しかも、ピッタリと密着しつつも、こちらが苦しくないよう絶妙に加減して、だ。
柔らかく、ひんやりぬるぬるとした感触が俺の素肌に触れ、
鼻腔には、甘酸っぱく爽やかで、それでいて魅力的な『女の香り』が流れ込んでくる…
「…って、なんか…酒臭くないか?お前…。」
「おしゃけぇ?」
開きっぱなしの冷蔵庫の中を、チラリと見る。
「…あ!開いてる…もしかして、あの缶日本酒飲んだのか!?」
「あ〜…?…あの、のみもののこと?おいひかった♪」
「道理で…じゃねえや、人のもんを勝手に飲むなよ…。」
「…うー…かってにのんだのは、ごめんなしゃい。」
そう言うと、彼女はちょっとすまなそうな顔で謝ってきた。意外と素直だ。
…と、思いきや。
「…だから、かわりに、あたひのからだ、たべてもいいよ♪」
「体ぁ?…んむッ!?」
いきなりキスをされ、唇を割り入って、口の中にゼリー状のものが流し込まれる。
口いっぱいに広がる濃厚な甘さ。
わけもわからず、それの味をよく認識できないまま、飲み込んでしまった。
「えへ、おいしかったぁ?」
「あ…えーと…まあ…。」
「んー?…なによぉ、そのビミョーなへんじわぁ。
もっとよくあじわいなしゃいよ、ほらぁ!」
「うぐ!?」
再びキスされ、ゼリーが流し込まれる。
「ほらほらほらほらぁ…!」
更にそのまま、彼女の舌(らしきもの)も口の中に差し込まれ、
俺の舌と一緒にゼリーをかき混ぜていく。
彼女は口が塞がっていながらも、どこからか、俺を急かすような声を発していた。
「ん、んん…。」
仕方がないので、ゼリーをよく味わってみる。
オレンジより濃厚で舌に絡みつき、けれどもオレンジのような爽やかさを伴っている甘味。
彼女の甘酸っぱい体臭と、微かな酒の匂いと相まって、柑橘類のカクテルのようだ。
…けっこう、旨い。旨いが…なんだか…妙な感じだ。
「フーッ…フッ……フー……」
ゼリーが喉をすべり、胃に落ち込むごとに、頭の中にモヤがかかっていく。
思考は鈍り、なぜか、目の前の彼女のことばかり意識して、夢中で舌を絡めてしまう。
後から後からこのゼリーが欲しくなり、もっとこのままでいたいと思う。
なにかがおかしい。酔ってきたのか…?いや、彼女が飲んだ酒が残っているにしたって、その量はたかが知れている。そんなので酔うほど下戸な俺じゃない。
一体なにが…と、薄れ始めた理性をもって、必死に頭を働かせていると、
いつのまにかゼリーが無くなり、キスも終わってしまった。
「ちゅぽっ……。どうよ。おいしかったれしょ?」
口を離して、にへっと笑う彼女。
「あ…いや、旨かったけど…。」
ゼリーは終わったが、まだ頭が少しボーっとしている。
「でしょー。こうふんしたぁ?」
「は?何だそりゃ…」
「あんたのおてぃんぽがおぉきくなったか、きいてんろよぉ。なってっしょ?」
「何聞いてんだ。こんなので…」
………なってる。
穿いているトランクスの股間には、俺のイチモツを柱にした、立派なテントが勃っていた。
「ほぉら、なってるりゃないの、うそちゅきぃ…♪」
「うそつき…じゃないだろ。俺に、何をした…?」
「にゃにをしたかってぇ?うふふふ…。これから、しゅるのよぉ♪」
「は、ちょ、何を…」
「いったれしょ?あんたはぁ、あたひのショクリョーなんの♪」
「な…まさか…」
このままだと、食われる!?畜生、油断してた!
酔っ払ってても、相手が得体の知れない存在な事に変わりはないのに!
「逃げ…!?」
…足が、動かない……。
ゼリーを口移しで食わされてる間に、俺の両足首は、
彼女の下半身の、溶けて広がっているような部分に入っていた。
その部分が、いつの間にか硬いゴムのようになって、俺の両足を固定しているのだ。
「にれるなんて、さしぇるとおもってんろぉ?バカれぇ♪」
「うっ…くっ…くそっ…抜けない……!」
なんとか脱出しようともがく俺を、彼女はすぐには襲わず、
こちらの様を、にやにやと意地悪な微笑を浮かべつつ見つめてくる。
すぐには襲われないという事が、余計に焦りを加速させ、結果、ますます抜けなくなる。
悪戦苦闘の末、いつしか俺は、全身汗だくになっていた。
そして…
「はあっ、はぁっ…も、もう、らめぇ…!」
俺ではなく、彼女が唐突に声を上げる。拘束に疲れてきたのだろうか?
体力は俺のほうが上なのだろう、これはチャンスだ。野球選手でよかった!
この機を逃さないよう、渾身の力を振り絞ってもがく…!
「もう…ゲンカイ……!
いっ…
いっただっきまぁーしゅッ♪」
「!!?」
そこで彼女が突然、汗まみれの俺にがばっと抱きついてきた。
「あはぁ♪おいしぃ、すっごいおいしいよぉ♪あののみものより、じゅっとおいしい♪」
「や、やめ、うおおぉぉお!?何だ何だ!?」
そのまま、両腕で、胸で、髪で、全身を駆使して、俺の全身を撫で回す。
まるで、俺の全身から滴る汗を拭い取るように。
「う、うひっ、や、め…」
全身がこそばゆいが…不快感は感じない。むしろ、妙に気持ちいい。
しかも、性的な方向に。性感マッサージでもされてるようだ。
体にも力が入らなくなり、抵抗する気力が、根こそぎ無くなっていく…
「あぁぁ〜〜、しゅごいのぉ…。コクがあって、せいもたっぷりぃ♪
あたひのしゅきなあじらわぁ…。
しゃてはあんたぁ。なんか、すっごくカラダをうごかすおしごとれしょお。ちがう?」
「あ…え?当たってる…けど、…どうした?」
「なにがぁ?」
「食うんじゃ、ないのか?なんで、こんな…」
「いま、たべてるりゃないの。」
「え…汗だけ?」
「それともにゃに?
もうメイン・ヂッシュにいきたいわけぇ?しぇっかちなんらからぁ、もう♪
しょうがらいわね。ならホラ、おちんぽだしなしゃい!」
言うが早いか、彼女は俺のパンツを素早くずり下ろした。
想像以上にガチガチになっていた俺のイチモツが、パンツという戒めを解かれ、勢いよく跳ね上がり、へその下にぶつかりそうなほど大きく振れた。
「ぬふふふふ…。なかなかいい『オトコ』りゃないのぉ。きにいったわぁ…♪」
うっとりしたような声を上げ、抱きついたまま俺をゆっくり押し倒す。
彼女の足元の粘液が、俺の下半身全体を包み込んだ。
「まじゅはこのまま、どろどろしてあげるからねぇ…。」
その言葉を合図に、俺の腰周り、特にイチモツの辺りが、流動的に動き出した。
「おお…っ…?」
まったく未体験の感覚が、下半身からゆるやかに頭の中に届く。
例えるなら、粘っこい蜜を、延々イチモツに垂らし続けられているような感覚。
手でも、口でも、むろん膣でもない、人間では絶対にありえない感触。
しかし、冷えていたはずの彼女の体は、いつの間にか人肌の温度になっていて、
ここ最近ご無沙汰だった俺の体に、不思議と『女』を認識させた。
全く未知の体験なのに…気持ちいい。
「は〜い、いかがきゃしらぁ?」
「い…いいけど、だから、何してるんだ…?」
「なぁにぃ?わかんらいわけぇ?
あんたのおてぃんぽから、ジャーメンしぼってるにきまってんれしょ!
あせであんらけおいしかったんだから、ザーメンはもぉぉ、さいこうのあじにてぃがいないわ!」
当たり前であるかのようにそう言い、にへにへと笑いながら舌なめずりをする。
混乱の中にあっても、その様は、とても扇情的に見えてしまった。
「んぅふふふ。ようやく、あたしのみりょくにトリコんなったみたいれぇ。
もっとみらはいよ。ほぅら…」
なおも粘液の流動でイチモツを責めながら、密着していた体を少し持ち上げる。
そのまま、突き出した尻の形をした部分を、アピールするようにゆらゆらと揺らしながら、
俺の胸板の上で潰れかかった、非常に大きな乳の形の部分を、擦りつけるように動かす。
…はっきり言って、そこらのAVなんかより、はるかに欲望を掻き立てる光景だ。
粘液溜まりや透き通った体も、今や、魅力的に感じる要素のひとつにさえ見えてきた。
「あは。もっとカタくなってきた♪
さきっぽから、ちょっとおいしいしるもでてきたし…
そろそろ、ほんきでイかしぇてあげるわねぇ♪」
すると、流れ落ち続けるばかりだった粘液が、渦を巻いて吸い上げるような動きに変化した。
一瞬、風呂とかの排水口を思わせたが、それよりも遥かに強力で、それでいて、優しく。
なおかつその流れは、俺のモノのあらゆる部位を、絶妙な精度で撫で上げていくのだ。
根元から玉ごと巻き込み、裏筋をくすぐり、雁首に流れ込み、亀頭の微細な凸凹をこそぎ、鈴口をなぞるように滑り、俺の中のあらゆるものを吸い上げるようにしながら、また彼女の体の中へと戻っていく。
いや、吸い上げるように…じゃない。吸い上げているんだ。
宣言どおり、人外のテクニックをもって、俺のことを本気で『イかせ』にかかっているのだ。
更にそこに、膣内をピストンしているような上下の動きも加味され、人間の責めと人外の責め、両方の刺激がいっぺんに、俺のモノに加えられた。
「ほぉーら。アタマのいいあたひは、こーんなコトまれできちゃうんよぉ♪」
「う、ぐくぅぅ…!!」
赤い粘液越しに、限界まで膨れ上がり、もはや爆発まで秒読みの状態となったモノを見て、ぼやけた脳内に、まとまりのない疑問が次々浮かび上がる。
もう出る。いや、出していいのか?出した後どうなる?食われるのか?それともひょっとして子作り?できるのか?なんで初対面の俺を?なんでこんなことに?こいつはいったい…?
だが、そんな疑問の嵐をもってしても、イチモツを襲う未知の刺激は止まらず…
数秒のち、今まで一度も体験した事のないような、頭の中の混乱すべてを吹き飛ばすほど強力な射精の快感が、全身を走りぬけた。
「……ッぉぉぉ!!!」
「きゃぁー!でた、れたぁぁぁ♪
せい、ざぁめん、あんたのおちんぽみるくぅぅ♪おいひぃ、おいひしゅぎるぅ……♪」
俺の放った精液が、彼女の体の中で白い渦を描いては、すうっと溶け消えていく。
白い渦はあとからあとから吸い上げられるままに出てきて、止まらない。
普通は多くても大さじ数杯くらいしか出ないようなものが、これだけ出る事に自分で驚く。
彼女はというと、放たれたそれを吸収していくごとに、嬉しくてたまらないといった風な表情を浮かべながら、絶頂の痙攣のように身を震わせていた。
「っ……ふはぁー…。…つ、つぎは…どうする気だ、おい…?」
射精した後の、独特の倦怠感と疲労感の中、半ばヤケ気味に自分の今後を尋ねる。
「はふぅぅ…♪え、つぎぃ…?つぎはねぇ…にゅるにゅるして、めろめろして、しょんで…
ふたり…いっひょに、とろ…とろりゅ…むにゃ…はbでjふぉb…tyr…………」
急に言葉が小さく、不明瞭になってきたかと思うと、彼女の体がずぶずぶと溶けて、
あれよあれよと言う間に粘液溜まりの中に見えなくなり、床の上に延びていった。
「おい………ちょっと、おーい…?」
声をかけてみても、動かない。…まさか…死んだ?と思っていたら…
「……しゅぴー……ぷるるる……」
かすかに聞こえる寝息と共に、床に広がる粘液全体が、呼吸するように上下に動き出した。
どうやら、文字通り『酔い潰れた』だけらしい。それは安心だが…
「…で、どうしよう、こいつ…。」
気持ち良さそうに(?)眠っている、未だ正体不明なままの粘液生物を前に、フルチンのまま途方に暮れる俺だった。
「う…うぅ……?……あれ、ここは…」
「お、起きたか。」
朝7時頃、平べったい塊が、もぞもぞと人型を取り始めた。
「あんた、えっと………うう、なんかキモチワルイ…。なにが、あったの?」
「何が、ってえとな…。ナニをされたというか…。」
「……あ!そ、そうだ!インパクト!」
「インパクト?」
すると突然、彼女は両手を広げて、高らかに叫んだ。
「えっと…ふ、うっふっふっふっふ!おそれおどろきなさい!
あんたがダマされて、あたしを買ってしまったのが運のちゅき!
スライムよりもアタマがよくて、スライムよりもおそろしい…
レッドスライムの『ネーブル』さまが、一生、ホネまでしゃぶりつくしてあげるわ!」
「………?」
「…なんかいいなさいよ!こわがりなさいよ!こわいでしょう?」
「それは手遅れすぎるぞ…。」
「なによー!こわがりなさいよ、ニンゲンのくせにー!うぅ〜…」
手をばたつかせて悔しがる彼女…ネーブル。
しかし、元気は意外とすぐになくなった。
「…ふぅ…なんだろ、チョーシわるい…。」
昨夜の酒のせいだろうか。あれだけ酔っ払ってたしな…。
「酔いも覚めたみたいだし、色々聞きたいが…まず、水飲むか?」
「…のむ。」
コップに水道水を注いで彼女に渡すと、両手でコップを持ち、こくこくと飲み始めた。
その姿は、なんだかちょっと可愛らしく思えた。
「…ふー。おいしい…」
「もっと飲むか?」
「…うん。ありがと。」
水を何杯か飲み、やっと落ち着いたらしいところで、
互いに自己紹介をし、ネーブル自身の事や、何をしに来たのかなど、色々と質問した。
「別の世界なんてもんが、本当にあるなんてな…。
…それで、これからどうする気だ?」
「ふふん。きまってるでしょ?あんたはいいオトコだし、
このアタマのいいあたしが、あんたをずーっとショクリョウにしてあげるわ。」
「えぇ…。それはちょっと…。」
「なんでよ!?ようするにアレよ!?
お…おヨメさんになってあげるってコトよ!?」
「いや、いきなり結婚しろとか言われてもなぁ…。」
「いいじゃないのよー。ゴハンはあんたの汗と精と、お水だけでいいし。
家のそうじとかもやるからー。ね?ね?」
「うーん…。放り出すわけにもいかんしなぁ……
……しょうがない。仕事から帰ってくるまでに考えとくから、
それまで家で大人しくしててくれ。」
「…そういえば、あんたって、どんなシゴトしてるの?」
「仕事か?野球選手だ。…スランプ中だけどな。」
「?…ヤキュウセンシュって…なに?」
「あ、そうか。別の世界から来たんだったな。
うーむ…口で説明するのが難しいな…。
野球って言う『競技』をする仕事だ。競技は分かるか?」
「…あ、それなら知ってる!レスリングとか、かけくらべとか…
たたかいとあそびの、まんなかみたいなヤツ!そうでしょ?」
「…まあ、そんな感じかな。」
「で、どんなキョウギなの?ヤキュウって。
おしえておしえて!」
「教えてやりたいのは山々だが…結構複雑だし、教えてたら遅れちまうな。」
「そんなぁ…。」
とたんに残念そうな顔をするネーブル。なんだかこっちも申し訳なくなってしまう。
「むむ……そうだ。
ちょっと待ってろ。甥っ子に見せてやったDVDが…」
「でぃーぶいでぃー?」
テレビ台の中のDVD用の棚を漁り、「はじめてのやきゅう」というDVDを取り出した。
以前、兄一家の家に行った際、甥っ子に見せて、野球に興味を持ってもらおうと思って買った物だ。
甥っ子が気に入ったら、そのままプレゼントしようと思っていたが…
残念ながら、見せてもあんまり興味を持たれなかったので、そのまま持って帰って仕舞い込んでいたのだ。
教え方は分かりやすいと思ったんだけどな。
「ほれ。帰ってくるまで、これでも見ててくれ。」
「なにこれ?」
「…あ、そうか。知らないか。
まず、このテレビってものをだな…」
リモコンから、テレビの電源を入れてやる。
「…わっ!?なにこれ、ニンゲンがみえる!?これ…どうなってるの?」
「…テレビについても、帰ったら説明してやるから。変な事するなよ。
これの見方だけ、まず覚えてくれ。いいか?まずここにこれを入れて、これを押して…」
少し苦戦したが、どうにかDVDの使い方は教える事ができた。
『…これはなにかな?…そう、ボールだね!これがないと…』
「………」
ネーブルは早速、食い入るように映像を見ている。
物珍しさもあるんだろうが、こうも真剣に見てくれると、こっちも嬉しい。
「……って、やばい、もうこんな時間だ!?」
大急ぎで支度を済ませて、球場へ。
練習後は、いつものようにベンチに座り、出してもらってもしょっぱい働きしか出来ず…
そんな冴えない試合を、こっちの負けという形で今日もつつがなく終え、飯を食ってから家に帰った。
「ただいまー…っと。」
…そういえば、久しぶりに「ただいま」って言ったな。
「あ、おかえりー。」
ネーブルは、床でくつろぎながら、渡したDVDを見ていた。
「うふふふ。おかげで『ヤキュウ』のことは、カンペキにリカイしたわ!
やっぱりあたしはアタマがいい!」
「お、そうか。知ってくれて嬉しいよ。」
「…でも『ヤキュウ』って、ちょっとむずかしくない?
この『ディーブイディー』じゃ、いまいち、どこが面白いのかわかんない…」
「まあ、野球の面白さは、試合見ないと分からないだろうな…。
じゃあ次は、俺の一押しの名試合を撮ったヤツを見せてやろう。きっと面白いぞ。」
「やった♪
…ところで、あさのハナシ、考えてくれた?」
それだ。一応、今日一日考えてみた…が。
「……うーむ。結婚…は、まだ考えたいな。
一緒に暮らすこと自体は、別に大丈夫なんだが…」
見合い結婚とかに偏見があるわけでもないので、初対面からいきなり結婚って事自体は、別に問題にはしてない。
…ただ、未だ残る戸惑いの気持ちや、相手が人間じゃない事で起こるかもしれないトラブル、未だスランプを克服できていない自分の、今後に対する不安…それらが、どうしても俺を足踏みさせるのだ。
「なによそれ。『にえきらない』わねー…
…ま、今はそれでいいわ。そのうち、あんたの方からプロポーズさせてやるくらい、
あたしにメロメロにしてやるんだから♪」
カクゴしてなさいよ?と、不敵に笑うネーブル。
我ながらもどかしい答えで申し訳なかったが、元気な彼女の様子に、少し救われた。
「…ああ。もうちょっと待っててくれ。
……ありがとう。」
「ふふん♪
…ねえ、そういえばあんた、まだ体あらってないわよね?」
「え?…あ、そう言えばまだだな。…臭いか?」
「ぎゃくよ、ぎゃく。ふふ…、サイコーにおいしそうなニオイ♪
あんたのその汗と精!あたしにたべさせなさい!」
そう言うと、突然飛びかかって来て、床に押し倒された。
「ばんごはんー♪ばんごはんー♪」
「おいっ、ちょ…」
そのまま、服をぽいぽい脱がされる。
「今日もするのか!?」
「できるでしょ?
ゆうべのコトはあんまりおぼえてないから、楽しみたいの。ダメ?」
…昨夜のアレは非常に気持ちよかったし、素面の今なら、どんな事をしてくれるのか…
正直、非常に興味はある。あるが…
「明日も仕事なんだが…」
「だいじょーぶ♪
終わったら、すごい疲れ取れるスライムマッサージしてあげるから。
フツーにねるより元気になれちゃうかもしれないわよ?」
「そんな事も出来るのか…?」
「もちろん。あたしはアタマがいいからね♪」
…まあ、それなら…いいか。
どのみち、鍛えてる俺の力でも、彼女を振り払うことは出来ないのだ。
今は潔くあきらめて、何も考えず、目の前の赤く魅力的な粘体に身を委ねよう…。
奇妙な同棲生活が始まって、はや一月。
いつも家に帰ると、ネーブルは見たDVDの内容について、興奮しながら語ってくれた。
あの選手のこのプレイが凄かったと、監督はあの時選手を交代させるべきじゃなかったと、劣勢からの逆転ホームランには大興奮したと、日本シリーズ最終戦には思わず涙が出たと…
子供のように、目を輝かせて語ってくれた。どうやら彼女も、野球の面白さを分かってくれたと見える。この面白さが分からなければ、野球を完璧に理解したとは言えないだろう。
しかし、それだけじゃない。
ただDVDばかり見ているわけではなく、家の掃除洗濯までしっかりとやってくれるし、最近では、料理も少しずつ覚え始めた。
その体を活かして、家具の隙間などに積もったホコリも、壁の汚れまで取ってしまう。家を空けることの多い俺にとっては、嬉しい限りだ。
それに、俺が遠征から帰った時に、簡単ながらも温かいご飯と共に出迎えてくれるのは、とても嬉しく、幸せに思えた。
家に居る間は毎晩、溜まったモノをこってりと搾り取られるのが常だが…やつれるような事もなく、彼女の体のゼリーとマッサージのおかげで、むしろ翌日は元気一杯になる。
何より変わったことは、酒をあまり飲まなくなったことだ。
以前は飲み屋通いが日常になっていたのだが、それをしなくなり、家で飲むことも殆どなくなってしまった。
それというのも、この生活が、酒も忘れるくらいに楽しくなってしまったからだ。
ネーブルに野球のDVDを見せるのが、その感想を嬉々として語ってくれるのが、いろいろな事を教えるのが、夜の生活が、温かく帰りを迎えてくれるのが…それら全てが楽しすぎて、酒どころではなくなってしまったのだ。
たまに酒を買ってきても、最初のアレのようにネーブルも飲んで、夜のスパイスとするのが主で、チームメイトとの飲みも、すっかり無くなってしまった。
まあ、全体的に言って…以前と比べると、ずっと楽しい生活を送れていた。
しかし、ある日…
「…うーむ。そろそろ見てないDVDも無くなってきたな…。」
「うん。…そういえばさ。」
「ん?」
「『テレビホウソウ』でやってる野球って、昔じゃなくて今の試合を、そのまま見られるんでしょ?
…あたし、あんたが活躍してるところ、テレビホウソウで見てみたいな…。」
「う…。」
ある意味、恐れていた、そして避けられなかった事だった。
俺も野球選手なのだ。そして(辛うじてまだ)一軍。彼女が俺の活躍に興味を持つのは当然と言えるだろう。
しかし俺は、今に至っても、スランプを克服できていないのだ。
偶然にも、次の試合はテレビ中継される。
だが、彼女の前で、今のしょっぱい働きを晒すのは…避けたい。
どうしたものか……悩みながらも、時間は無常に過ぎて、試合は始まってしまった。
そして…
『続きまして バッター 茂仁田』
今日も、バッターボックスに立つ機会をもらえた。…だが、監督の視線はきつい。
『今日もダメだったら…分かっているな?』と、暗に言っているのだろう。
これがラストチャンス。加えて今日は、ネーブルも家でこの試合を見ている。
(ネーブルが、俺を見てる…)
…そう、ネーブルだ。
男として、彼女にいい所を見せたい。
…いつの間にか俺は、彼女の事を、変な生き物ではなく、ひとりの『女』として見ていた。
別の世界から来た彼女が『野球』というものの魅力を知ってくれたた今、俺もその『野球』の中にいるということを見せてやりたい。
大量の不安で頭がいっぱいだったのに、いざバッターボックスに立ってみると、頭の中は、不思議とその一つに収束していた。
スランプに陥ってからずっと重かったバットが、今は嘘のように軽い。
これなら…!?
『打ったッ!! 大きい、打球は伸びて、伸びて、伸びて…!
入ったあぁぁッ!!! ホームラン、見事なホームランです!
茂仁田、ついにスランプ脱出かぁー!?』
「や、やった…!!」
そのときは、それしか声が出てこなかった。すごく、すごく、うれしかった。
テレビの中のあいつも、ものすごーくうれしそうなエガオで、ベースを回ってた。
試合も、あいつの得点のおかげで、あいつのチームの勝ち。
『ヒーローインタビュー』の時には、ナミダまで出してた。
…ずっと、チョーシわるかったんだもんね。
大好きなことがうまくできないのは、きっと、すごくツラいんだと思う。
あたしだって、あいつをちゃんとセックスでキモチよくできなかったら…って考えると、すごくツラいもん。
それだけに…あいつのチョーシがもどって、ホントによかった。
あたしも目から思わず、うれしナミダがポロポロあふれてきちゃった。
そして、あのホームランのシュンカンも…サイコーに、カッコよかった。
今まで見たDVDのどのセンシュよりも、あいつが、一番カッコよかった!
今のあたしはナミダでビチョビチョだけど…あたしがスライムじゃないマモノだったら、きっと今ごろ、オマンコも、すっっごいグチョグチョにヌレてたんじゃないだろうか。
大好きなオトコの、サイコーにカッコいい所を見たせいで、あたしの大好きなキモチは、おさえきれなくなっちゃった。
あたしがニンゲンだったら、あの場所にいられたら、きっと大声でさけんでたと思う。
やったね!
スゴかったよ!
ちゃんと見てたよ!
大好きだよ!!
大、大、大、大、だぁーい好きだよ!!!…って。
このキモチを、今すぐにあいつに伝えられないのが、苦しくてしかたない。
…でも、ガマンしないと。
ガマンしてガマンして…帰ってきたあいつに向かって、思いっきりぶつけてやるんだ。
そのためにも…まずは『インパクト』よね。
家じゅうピッカピカにして、あいつが帰ってくるのに合わせて、サイコーにおいしそうなリョウリをつくって…
アタマのいいあたしの、とびっきりのエガオで、あいつをビックリさせてやるんだから!
あれから、俺の調子はすっかり良くなり、それどころか、メキメキと成績が上がっていった。チームメイト達も、俺に負けじとグングン腕を上げていき、結果、チームの勝率も、少しずつ上がっていった。
心に余裕が出来た今、スランプの原因と、解決したきっかけを、俺なりに考えてみる。
原因は…おそらく、入院中の事だ。
怪我が治るまで何も出来ず、酒も飲めず、ただただ暇を持て余していたせいで、つい考えてしまったのだ。
『俺はいったい、何のために野球を頑張ってるんだ?』と。
野球が好きだから…もちろん、それはそうだ。でなきゃ、日本でたった何百人というプロの中に混じって、大観衆の前でボールを追っかけてなんかいない。
けど俺にとっては、ただ野球が大好きだから…というだけでは、自分が頑張る理由として納得できなかったのだ。
沢山のファンの為…それも、少し違う気がした。確かにファンの声はすごく嬉しいし、俺自身も、ファンの期待に応えたいという気持ちはある。だが、ファンというのはあまりに大勢いて、距離もなんとなく遠くに感じてしまう。こんな事を言ったら失礼かもしれないが、頑張りの素とするには、少し実感が薄かった。
家も車も買ったが、別に金や物欲のために野球をしてるわけでもない。
肉親の為、仲間の為、日本一の為…色々考えたけど、答えは出なかった。
それどころか、頑張る原動力が、俺には『無い』んじゃないか…、そんなことも考えた。
退院してからも、その考えが頭から離れなくなってしまい…
そして実際に、まるで力の源が無くなってしまったかのように、思うように力を出せなくなってしまったのだ。
…しかしそこに、ネーブルが現れた。
通販番組を通じて、俺のすぐ傍にいきなり現れた、奇妙な赤い粘体の女。
出会っていきなり、俺と肉体関係を結んだ女。
拒もうと思えば同棲も拒めたはずなのに、なぜ俺は彼女を家に置き、毎日毎日、野球を教えていたのか。
…彼女に魅了されたから、というのもあるが……要は、寂しかったのだ。
結婚して、子供もすくすく育っている兄を見て。
買ったはいいが、帰ってくるといつも暗く冷えていた家に居て。
俺も、すぐ傍に居てくれる人が欲しかったんだと、思い当たった。
俺の一番近くで無邪気に目を輝かせ、一緒に喜怒哀楽を分かち合い、笑顔で応援してくれる存在に、ネーブルはなってくれた。
彼女のために頑張ろう。かっこいい所を見せてやろう。喜んでもらおう…そう思った時に、俺はようやく力を出せたのだ。
今なら言える。
俺はネーブルのことが好きだと。ネーブルこそが、俺の野球を頑張る理由だと。
どんな障害でも、ネーブルが居れば乗り越えられると。
心をしっかり整理し、シーズン終了を待って、彼女に言ってやった。
「…俺の負けだよ。ネーブル、結婚してくれ。」
「ようやく言ってくれたわね。待ってたんだから…バカ。」
そして…
「…とうとう、出発ね。」
「おう。…それにしても、俺が日本シリーズの舞台に立てるなんてな…。
夢見ちゃいたけど、実現するなんて驚きだ。」
「まだこれで終わりじゃないでしょ?やるからには、やっぱり日本一!違う?」
「その通り!へへ…、今からワクワクして来た。」
「あたしたちも、テレビの前でしっかりオウエンしてるから。ねー?」
「んー。おうえん、する!おとーさん、まけないで!」
「負けないで、か…。こりゃ責任重大だな。」
「バカね。負けるワケないでしょ?
あんたには、アタマのいいショウリのメガミさまが、二人もついてるんだから♪」
「そうだな。…うん。負ける気がしない!勝って帰るぜ!」
「よーし!よく言ったッ!
…それじゃ、いってらっしゃい。あ・な・た♪…ちゅっ♪」
「おとーさん、いってらっしゃーい!んー…ちゅ♪」
「よっしゃッ!いってらっしゃいのキスも貰って、準備万端だ!
…行って来ます!!」
『その年、数年前までの弱小チームは、見事日本一に輝いた。
日本一の立役者である茂仁田選手は、後に政府が魔界との平和条約を締結した直後に、
レッドスライムの女性との結婚を発表。球界初の『魔物娘の夫』として、世間を騒がすこととなった。
…そんな茂仁田選手は、現在、同チームの監督を務めている。
少々親バカではあるものの、常に野球に対する真摯な姿勢を持ち、
選手達にも慕われている彼の今後の活躍にも、目が離せない。』
───人魔文化放送『魔物娘とスポーツ』第11回より
今あたしは、なんだか小さくてツルツルしたものの中につめられて、
そのうえ、紙みたいなので出来たハコの中に入れられて、どこかに運ばれてる。
(たいくつ…)
別に、悪いニンゲンにつかまってるワケじゃない。
この中も、いたかったり、苦しいわけでもない。ちょっとせまいけど、それはあんまり気にならない。
でも、なんにもないし、なんにもできないから、ものすごー…く、たいくつだった。
(…でも、ガマンしなきゃ。オトコをつかまえるためだもんね。)
この中で待ってるだけで、オトコの所までつれてってくれる。
そしてオトコをひとりじめ出来る!なんておトクなハナシなんだろう。
それに、その話にのったあたしも、なんてアタマがいいんだろう♪
(うふふふふ…。あの白くてすごそうなマモノさんには、かんしゃしないとね。)
さあ、待ってなさい。あたしのオトコ!
「…はぁ〜あ。いつになったら調子が戻るやら…。」
試合を終えて自宅に戻り、プロ野球選手(捕手)である俺『茂仁田 江歩』(モニタ エフ)は、ガックリうなだれていた。
「まあ、自分がまいた種なのは分かってるんだが…。」
こうなったのもついこの前、チームメイトと飲みに行った際に、
とんでもない失敗をしてしまったからだ。
何軒も飲み屋をハシゴした挙句、意識が飛ぶほど泥酔してしまい、
その果てに、何を思ったかビルの3階からパンツ一丁で飛び降りたらしい。
幸運にも選手生命に関わるほどの怪我もせず、スキャンダルにもならなかったが、
それでも半月ほど病院で過ごすハメになってしまった。
しかもようやく退院できたと思ったら、怪我の後遺症なのか、今度は未曾有の大スランプに陥ってしまった俺である。
今やスタメンからも外され、このままでは一軍に居ることすら危うい…。
「こんな事になっちまったんだ、脱出するためにも、やっぱ酒やめないと…
…って言ってやめられたら、そもそもこんな目にもあってないんだってーのな…ハァ。」
アル中とまでは行かないが、無類の酒好きと周囲でも評判の俺だ。
酒で失敗したと分かっていても、そこに酒があれば飲まずにはいられない。
ほかに夢中になれるような趣味も持ってないしな…。
「…とりあえず、いつものやって、シャワー浴びて寝るか…。」
テレビを横目に見ながらの、腕立て腹筋等の自主筋トレ。
小学生の頃から続けている、家での毎晩の日課だ。
スランプともなれば、ますますおろそかに出来ない。
「…73…74…75……」
テレビには、丁度ニュース番組が映っている。
ちょうど野球の話題になり、各球団の順位発表が出ていた
自分のチームの順位は、相変わらず低い。
「…優勝してえなぁ…。」
プロ野球選手であるからには、やっぱり優勝・日本一を経験したい。
そしてあわよくば、その時には、俺がそこまで導いたヒーローでありたい。
プロ選手なら誰もが持つ夢だろう。俺もそうだが、今の体たらくじゃなぁ…。
「…もっと努力しないとな。」
筋トレを再開する。効果は変わらないだろうが、さっきよりも少し勢いよく。
そのうちにスポーツニュースは終わって、CMを挟んでトーク番組に変わり、
それが後半あたりに差し掛かった頃に、俺の筋トレも終わった。
「明日から、もう少し増やすかな…。」
汗をかき、適度に疲れた俺の体は、疲労と渇きを癒せるモノをよこせと言ってくる。
すなわち、酒。
今、冷たいビールでもガーッと流し込んだら、どんなに幸せになれるだろう…
あ、ビールじゃないが、今ちょうど、もらい物の缶の日本酒がある。あれを…
「…って、ダメだダメだ。さっき決意を新たにしたばっかりだろ!」
無反省に酒を求める自分の心に喝を入れる。少なくとも今日は飲まないぞ、今日は…
「…おっと。そういえば、ゼリーがあったんだった。」
そこで、この前偶然見た通販番組で購入した『オレンジゼリー』の事を思い出す。
勝負事に強くなるとか、強い意思がつくとか、何度でも食べられるとか…はっきり言って、すごく胡散臭い効能を謳っていたが、司会をしていた二人のおねーちゃんがあまりに美人だったので、それにつられて、つい買ってしまったモノだ。
「あれ食うか。酒の代わりに。」
美味かったらよし、不味かったら、自制できない自分への罰だ。
あたしはあいかわらず、ツルツルしたものの中。
ちょっと前に紙のハコから出されて、開けてくれるのかなー、と思ってたら、
なんとそのまま、まっくらで、しかもすごくさむい所に入れられた。
まったく!べつにカゼなんてひかないけど、このアタマのいいあたしに対して、なんて『シウチ』かしら!
ここから出たら、何日も何日も、みっちりしぼってやるんだから!
そうだ。ここから出たときに、どっちが上か思い知らせてやらなきゃ。
そのためには、やっぱり『インパクト』よね。どんなふうに出てやろうかしら…
相手がビックリするような出方をかんがえて、
あたしはアタマもいいし、こわーいマモノなんだってアピールしてやる。
…でも、あんまり怖がらせると、にげちゃうかも知れないし…う〜ん……
むずかしいなぁ……
……
…………ハッ!いけない、ねてた。
ずーっとまっくらな中にいるから、今が昼か夜かも、もうわからない。
たいくつ…
…そういえば、ここに入れられたときに見えた、小さなタルみたいなのは何だろう?
ここには、ニンゲンの食べ物みたいなのが色々入ってるから、アレも食べ物かな?
それとも…ひょっとすると、お宝の入れ物だったりして!
ピカピカだったし、絵とか、文字みたいなのがいっぱいかかれてたし、
それに、大事なものは、いがいと何でもないようなところにかくされてるものだ…
…って、本好きの友達が言ってたし。
何が入ってるんだろう?気になる〜…
……いや、いけないいけない。大人しくしてないと…あとインパクトも考えないと…
でも、気になるなぁ…
…
……
………ダメだ、気になる!じっとしてられない!
ちょっとだけ……ちょっとだけ外に出て、中身をのぞかせてもらおう。
怒られるかもしれないけど、ぬすんだりするワケじゃないから…許してくれるわよね。
(ちょっとだけ、ちょっとだけ…)
心の中で何度もつぶやきながら、音を立てないように、シンチョウに、ツルツルした入れ物のフタをはがしていく。
やがて、出られるほどのスキマが出来たから、そこから体をほそーく外へ伸ばしていった。
手さぐりでタルみたいなのを探して、それをあちこちさわってあけ方を調べる。
しばらくさわって、どうやら上のレバーを引けば開くことに気付いた。
でも、これを引いたら、もう後には引けない…。このまま行っちゃって、いいんだろうか。
しばらく考えて…でも、やっぱり『コウキシン』には勝てずに、
ゆっくり力を込めて…レバーを引いた。
(う〜ん…!)
…カシュッ!
フタが開いたら、中からふんわり甘いような、でもなんかへんな香りが広がってきた。
なんだろコレ?飲み物?かいだコトのないニオイだけど…
…こんな入れ物に入ってるんだから、めずらしいモノなのかも…。
……………気になる。
うー、気になる!
かってに飲んだら、ホントに悪い事だし、いよいよ許してくれなくなるかもしれないけど…
それでも……気になる!どんな味なの!?飲んでみたい!!
いや、あたしがイジきたないとかじゃなくて、ジュンスイな『チテキコウキシン』で!
アタマのいいあたしとしては、色んな『ケンブン』を深めておかないとだから!
……な…なめるくらいなら、いいわよね?
ほんのちょっとなめて、フタ閉めておけば、バレない…よね?
…ていうか、この入れ物のフタ、ちゃんと閉まるよね?見たことないカタチだけど…
フタの閉まらない飲み物の入れ物なんてないよね?タルもビンも閉まるんだし。
…うん、きっと閉まる。大丈夫。
ちょっとだけ…ちょっとだけ、いただきまーす…。
…ピチャ…ピチャッ……
…あ、おいしい…。
さらさらしてるのに、トロリとした味わい…。
ちょっと苦いような辛いようなカンジだけど、ほんのりした甘さがそれをつつみこんで、まろやかな味になってる。
しかも、雪みたいに冷たいはずなのに、体に入ると、もえるみたいにアツくなってくる。
なにコレ…おいしい!
はじめて飲んだけど、おいしい!
こんなめずらしくておいしい飲み物、そりゃあ、こんな入れ物にも入れるよね…。
……うう、もうちょっと飲んでみたい…。
…もうひとなめ…もうひとなめしても、バレない…はず…。
…もうひとなめ。
…
あと、ちょっとだけ…。
……
…もうすこ……あれ?なんか…へん。
さっきから…くるくるして、あつい…。あれ?なんだろう、これ。
なんだか、 あたまが ほんわか し て…………
プロ野球のスター選手は、朝晩のニュースとかCMとかに出る事も少なくない。中には、トークやバラエティ番組に出ちゃう選手だっている。
まあ俺はあいにく、そうしたことは大の苦手で、そういう話自体もほとんど来なかったが。
…何が言いたいかというと。
まさか自分がドッキリ番組みたいな出来事に遭遇するなんて、俺は夢にも思わなかったのだ。
今日、この時までは。
「ふー…。さて、ゼリーゼリー…」
シャワーを浴び、下着のままで台所に行き、冷蔵庫の戸に手を掛ける。
腕に力を込めて引くと、ドアポケットの中身が揺れる音が混ざった、独特の開閉音が鳴る。
当たり前の行為、当たり前の動作で戸を開けた瞬間……当たり前でない事が起こった。
(ドポポポッ…!)
「……?、!? ううおわぁあ!!?何だぁ、こりゃあ!?」
開いた冷蔵庫の隙間から、大量の真っ赤な液体が、ドバッと溢れ出して来たのだ。
なんだ!?血!?…いや、血にしては透明すぎる。
これはむしろ、昨日届いて冷蔵庫に入れといた…
「あ〜…?…あ!えへぇ。オトコらぁ……♪」
「うわ、何だ!?喋った!?」
「うへへへへぇ♪しゃべった、らって〜♪」
突然、女の子みたいな声が聞こえて、さらにビビる。…なんか酔っ払ったみたいな声だが。
念のため言うが、俺には嫁も恋人も居ないし、女の子など居るわけがないのだ。
いったい誰だ!?どこから声が…と思っていたら…
なんとその声は、床に垂れ落ちて広がった、真っ赤な粘液から聞こえてきたのだ…。
「んもぉ。びくびくしてらいでぇ。あたひと、きぃもひいいことしなはいよぉ。れ?
こひとらぁ、じゅっとくらくて、しゃむかったんらからぁ…」
いつの間にか冷蔵庫から全部こぼれ出した粘液は、うにょうにょと緩慢な動作で形を変え、次第に女の子のような姿になった。
たわわな胸から形のよい尻へと見事な曲線美を描く極上のプロポーションに、
やや童顔気味でちょっと気が強そうで、そのふたつの要素が絶妙に調和している可愛らしい顔立ちを備えた、正直、非常にレベルの高い美女だった。
…カタチだけは。
しかし、整っているはずのその顔面には、妙にだらしの無い笑顔を浮かべている。
「な、何なんだお前…!?」
「なんなんらとはしちゅれいねぇ!あんたがかったんれしょお!?」
「かった…?…って、まさか…」
「しょうよ!あたひが『オレンヂジェリー』とひて、あんたにかわりぇてあげたの!
ちゅまり、あんたはあたひのショクリョウになりゅわけ!わかった!?」
「え…え!?どういう事だ!?おかしくないか!?いろいろ…」
「おかしゅくない!らまって、あたしにしぼられなしゃい!」
そう言うと、赤い変な奴は、やおら抱きついてきた。
思わず振りほどこうとしたが、女(の形)とは思えない力で抱きしめてくる。
しかも、ピッタリと密着しつつも、こちらが苦しくないよう絶妙に加減して、だ。
柔らかく、ひんやりぬるぬるとした感触が俺の素肌に触れ、
鼻腔には、甘酸っぱく爽やかで、それでいて魅力的な『女の香り』が流れ込んでくる…
「…って、なんか…酒臭くないか?お前…。」
「おしゃけぇ?」
開きっぱなしの冷蔵庫の中を、チラリと見る。
「…あ!開いてる…もしかして、あの缶日本酒飲んだのか!?」
「あ〜…?…あの、のみもののこと?おいひかった♪」
「道理で…じゃねえや、人のもんを勝手に飲むなよ…。」
「…うー…かってにのんだのは、ごめんなしゃい。」
そう言うと、彼女はちょっとすまなそうな顔で謝ってきた。意外と素直だ。
…と、思いきや。
「…だから、かわりに、あたひのからだ、たべてもいいよ♪」
「体ぁ?…んむッ!?」
いきなりキスをされ、唇を割り入って、口の中にゼリー状のものが流し込まれる。
口いっぱいに広がる濃厚な甘さ。
わけもわからず、それの味をよく認識できないまま、飲み込んでしまった。
「えへ、おいしかったぁ?」
「あ…えーと…まあ…。」
「んー?…なによぉ、そのビミョーなへんじわぁ。
もっとよくあじわいなしゃいよ、ほらぁ!」
「うぐ!?」
再びキスされ、ゼリーが流し込まれる。
「ほらほらほらほらぁ…!」
更にそのまま、彼女の舌(らしきもの)も口の中に差し込まれ、
俺の舌と一緒にゼリーをかき混ぜていく。
彼女は口が塞がっていながらも、どこからか、俺を急かすような声を発していた。
「ん、んん…。」
仕方がないので、ゼリーをよく味わってみる。
オレンジより濃厚で舌に絡みつき、けれどもオレンジのような爽やかさを伴っている甘味。
彼女の甘酸っぱい体臭と、微かな酒の匂いと相まって、柑橘類のカクテルのようだ。
…けっこう、旨い。旨いが…なんだか…妙な感じだ。
「フーッ…フッ……フー……」
ゼリーが喉をすべり、胃に落ち込むごとに、頭の中にモヤがかかっていく。
思考は鈍り、なぜか、目の前の彼女のことばかり意識して、夢中で舌を絡めてしまう。
後から後からこのゼリーが欲しくなり、もっとこのままでいたいと思う。
なにかがおかしい。酔ってきたのか…?いや、彼女が飲んだ酒が残っているにしたって、その量はたかが知れている。そんなので酔うほど下戸な俺じゃない。
一体なにが…と、薄れ始めた理性をもって、必死に頭を働かせていると、
いつのまにかゼリーが無くなり、キスも終わってしまった。
「ちゅぽっ……。どうよ。おいしかったれしょ?」
口を離して、にへっと笑う彼女。
「あ…いや、旨かったけど…。」
ゼリーは終わったが、まだ頭が少しボーっとしている。
「でしょー。こうふんしたぁ?」
「は?何だそりゃ…」
「あんたのおてぃんぽがおぉきくなったか、きいてんろよぉ。なってっしょ?」
「何聞いてんだ。こんなので…」
………なってる。
穿いているトランクスの股間には、俺のイチモツを柱にした、立派なテントが勃っていた。
「ほぉら、なってるりゃないの、うそちゅきぃ…♪」
「うそつき…じゃないだろ。俺に、何をした…?」
「にゃにをしたかってぇ?うふふふ…。これから、しゅるのよぉ♪」
「は、ちょ、何を…」
「いったれしょ?あんたはぁ、あたひのショクリョーなんの♪」
「な…まさか…」
このままだと、食われる!?畜生、油断してた!
酔っ払ってても、相手が得体の知れない存在な事に変わりはないのに!
「逃げ…!?」
…足が、動かない……。
ゼリーを口移しで食わされてる間に、俺の両足首は、
彼女の下半身の、溶けて広がっているような部分に入っていた。
その部分が、いつの間にか硬いゴムのようになって、俺の両足を固定しているのだ。
「にれるなんて、さしぇるとおもってんろぉ?バカれぇ♪」
「うっ…くっ…くそっ…抜けない……!」
なんとか脱出しようともがく俺を、彼女はすぐには襲わず、
こちらの様を、にやにやと意地悪な微笑を浮かべつつ見つめてくる。
すぐには襲われないという事が、余計に焦りを加速させ、結果、ますます抜けなくなる。
悪戦苦闘の末、いつしか俺は、全身汗だくになっていた。
そして…
「はあっ、はぁっ…も、もう、らめぇ…!」
俺ではなく、彼女が唐突に声を上げる。拘束に疲れてきたのだろうか?
体力は俺のほうが上なのだろう、これはチャンスだ。野球選手でよかった!
この機を逃さないよう、渾身の力を振り絞ってもがく…!
「もう…ゲンカイ……!
いっ…
いっただっきまぁーしゅッ♪」
「!!?」
そこで彼女が突然、汗まみれの俺にがばっと抱きついてきた。
「あはぁ♪おいしぃ、すっごいおいしいよぉ♪あののみものより、じゅっとおいしい♪」
「や、やめ、うおおぉぉお!?何だ何だ!?」
そのまま、両腕で、胸で、髪で、全身を駆使して、俺の全身を撫で回す。
まるで、俺の全身から滴る汗を拭い取るように。
「う、うひっ、や、め…」
全身がこそばゆいが…不快感は感じない。むしろ、妙に気持ちいい。
しかも、性的な方向に。性感マッサージでもされてるようだ。
体にも力が入らなくなり、抵抗する気力が、根こそぎ無くなっていく…
「あぁぁ〜〜、しゅごいのぉ…。コクがあって、せいもたっぷりぃ♪
あたひのしゅきなあじらわぁ…。
しゃてはあんたぁ。なんか、すっごくカラダをうごかすおしごとれしょお。ちがう?」
「あ…え?当たってる…けど、…どうした?」
「なにがぁ?」
「食うんじゃ、ないのか?なんで、こんな…」
「いま、たべてるりゃないの。」
「え…汗だけ?」
「それともにゃに?
もうメイン・ヂッシュにいきたいわけぇ?しぇっかちなんらからぁ、もう♪
しょうがらいわね。ならホラ、おちんぽだしなしゃい!」
言うが早いか、彼女は俺のパンツを素早くずり下ろした。
想像以上にガチガチになっていた俺のイチモツが、パンツという戒めを解かれ、勢いよく跳ね上がり、へその下にぶつかりそうなほど大きく振れた。
「ぬふふふふ…。なかなかいい『オトコ』りゃないのぉ。きにいったわぁ…♪」
うっとりしたような声を上げ、抱きついたまま俺をゆっくり押し倒す。
彼女の足元の粘液が、俺の下半身全体を包み込んだ。
「まじゅはこのまま、どろどろしてあげるからねぇ…。」
その言葉を合図に、俺の腰周り、特にイチモツの辺りが、流動的に動き出した。
「おお…っ…?」
まったく未体験の感覚が、下半身からゆるやかに頭の中に届く。
例えるなら、粘っこい蜜を、延々イチモツに垂らし続けられているような感覚。
手でも、口でも、むろん膣でもない、人間では絶対にありえない感触。
しかし、冷えていたはずの彼女の体は、いつの間にか人肌の温度になっていて、
ここ最近ご無沙汰だった俺の体に、不思議と『女』を認識させた。
全く未知の体験なのに…気持ちいい。
「は〜い、いかがきゃしらぁ?」
「い…いいけど、だから、何してるんだ…?」
「なぁにぃ?わかんらいわけぇ?
あんたのおてぃんぽから、ジャーメンしぼってるにきまってんれしょ!
あせであんらけおいしかったんだから、ザーメンはもぉぉ、さいこうのあじにてぃがいないわ!」
当たり前であるかのようにそう言い、にへにへと笑いながら舌なめずりをする。
混乱の中にあっても、その様は、とても扇情的に見えてしまった。
「んぅふふふ。ようやく、あたしのみりょくにトリコんなったみたいれぇ。
もっとみらはいよ。ほぅら…」
なおも粘液の流動でイチモツを責めながら、密着していた体を少し持ち上げる。
そのまま、突き出した尻の形をした部分を、アピールするようにゆらゆらと揺らしながら、
俺の胸板の上で潰れかかった、非常に大きな乳の形の部分を、擦りつけるように動かす。
…はっきり言って、そこらのAVなんかより、はるかに欲望を掻き立てる光景だ。
粘液溜まりや透き通った体も、今や、魅力的に感じる要素のひとつにさえ見えてきた。
「あは。もっとカタくなってきた♪
さきっぽから、ちょっとおいしいしるもでてきたし…
そろそろ、ほんきでイかしぇてあげるわねぇ♪」
すると、流れ落ち続けるばかりだった粘液が、渦を巻いて吸い上げるような動きに変化した。
一瞬、風呂とかの排水口を思わせたが、それよりも遥かに強力で、それでいて、優しく。
なおかつその流れは、俺のモノのあらゆる部位を、絶妙な精度で撫で上げていくのだ。
根元から玉ごと巻き込み、裏筋をくすぐり、雁首に流れ込み、亀頭の微細な凸凹をこそぎ、鈴口をなぞるように滑り、俺の中のあらゆるものを吸い上げるようにしながら、また彼女の体の中へと戻っていく。
いや、吸い上げるように…じゃない。吸い上げているんだ。
宣言どおり、人外のテクニックをもって、俺のことを本気で『イかせ』にかかっているのだ。
更にそこに、膣内をピストンしているような上下の動きも加味され、人間の責めと人外の責め、両方の刺激がいっぺんに、俺のモノに加えられた。
「ほぉーら。アタマのいいあたひは、こーんなコトまれできちゃうんよぉ♪」
「う、ぐくぅぅ…!!」
赤い粘液越しに、限界まで膨れ上がり、もはや爆発まで秒読みの状態となったモノを見て、ぼやけた脳内に、まとまりのない疑問が次々浮かび上がる。
もう出る。いや、出していいのか?出した後どうなる?食われるのか?それともひょっとして子作り?できるのか?なんで初対面の俺を?なんでこんなことに?こいつはいったい…?
だが、そんな疑問の嵐をもってしても、イチモツを襲う未知の刺激は止まらず…
数秒のち、今まで一度も体験した事のないような、頭の中の混乱すべてを吹き飛ばすほど強力な射精の快感が、全身を走りぬけた。
「……ッぉぉぉ!!!」
「きゃぁー!でた、れたぁぁぁ♪
せい、ざぁめん、あんたのおちんぽみるくぅぅ♪おいひぃ、おいひしゅぎるぅ……♪」
俺の放った精液が、彼女の体の中で白い渦を描いては、すうっと溶け消えていく。
白い渦はあとからあとから吸い上げられるままに出てきて、止まらない。
普通は多くても大さじ数杯くらいしか出ないようなものが、これだけ出る事に自分で驚く。
彼女はというと、放たれたそれを吸収していくごとに、嬉しくてたまらないといった風な表情を浮かべながら、絶頂の痙攣のように身を震わせていた。
「っ……ふはぁー…。…つ、つぎは…どうする気だ、おい…?」
射精した後の、独特の倦怠感と疲労感の中、半ばヤケ気味に自分の今後を尋ねる。
「はふぅぅ…♪え、つぎぃ…?つぎはねぇ…にゅるにゅるして、めろめろして、しょんで…
ふたり…いっひょに、とろ…とろりゅ…むにゃ…はbでjふぉb…tyr…………」
急に言葉が小さく、不明瞭になってきたかと思うと、彼女の体がずぶずぶと溶けて、
あれよあれよと言う間に粘液溜まりの中に見えなくなり、床の上に延びていった。
「おい………ちょっと、おーい…?」
声をかけてみても、動かない。…まさか…死んだ?と思っていたら…
「……しゅぴー……ぷるるる……」
かすかに聞こえる寝息と共に、床に広がる粘液全体が、呼吸するように上下に動き出した。
どうやら、文字通り『酔い潰れた』だけらしい。それは安心だが…
「…で、どうしよう、こいつ…。」
気持ち良さそうに(?)眠っている、未だ正体不明なままの粘液生物を前に、フルチンのまま途方に暮れる俺だった。
「う…うぅ……?……あれ、ここは…」
「お、起きたか。」
朝7時頃、平べったい塊が、もぞもぞと人型を取り始めた。
「あんた、えっと………うう、なんかキモチワルイ…。なにが、あったの?」
「何が、ってえとな…。ナニをされたというか…。」
「……あ!そ、そうだ!インパクト!」
「インパクト?」
すると突然、彼女は両手を広げて、高らかに叫んだ。
「えっと…ふ、うっふっふっふっふ!おそれおどろきなさい!
あんたがダマされて、あたしを買ってしまったのが運のちゅき!
スライムよりもアタマがよくて、スライムよりもおそろしい…
レッドスライムの『ネーブル』さまが、一生、ホネまでしゃぶりつくしてあげるわ!」
「………?」
「…なんかいいなさいよ!こわがりなさいよ!こわいでしょう?」
「それは手遅れすぎるぞ…。」
「なによー!こわがりなさいよ、ニンゲンのくせにー!うぅ〜…」
手をばたつかせて悔しがる彼女…ネーブル。
しかし、元気は意外とすぐになくなった。
「…ふぅ…なんだろ、チョーシわるい…。」
昨夜の酒のせいだろうか。あれだけ酔っ払ってたしな…。
「酔いも覚めたみたいだし、色々聞きたいが…まず、水飲むか?」
「…のむ。」
コップに水道水を注いで彼女に渡すと、両手でコップを持ち、こくこくと飲み始めた。
その姿は、なんだかちょっと可愛らしく思えた。
「…ふー。おいしい…」
「もっと飲むか?」
「…うん。ありがと。」
水を何杯か飲み、やっと落ち着いたらしいところで、
互いに自己紹介をし、ネーブル自身の事や、何をしに来たのかなど、色々と質問した。
「別の世界なんてもんが、本当にあるなんてな…。
…それで、これからどうする気だ?」
「ふふん。きまってるでしょ?あんたはいいオトコだし、
このアタマのいいあたしが、あんたをずーっとショクリョウにしてあげるわ。」
「えぇ…。それはちょっと…。」
「なんでよ!?ようするにアレよ!?
お…おヨメさんになってあげるってコトよ!?」
「いや、いきなり結婚しろとか言われてもなぁ…。」
「いいじゃないのよー。ゴハンはあんたの汗と精と、お水だけでいいし。
家のそうじとかもやるからー。ね?ね?」
「うーん…。放り出すわけにもいかんしなぁ……
……しょうがない。仕事から帰ってくるまでに考えとくから、
それまで家で大人しくしててくれ。」
「…そういえば、あんたって、どんなシゴトしてるの?」
「仕事か?野球選手だ。…スランプ中だけどな。」
「?…ヤキュウセンシュって…なに?」
「あ、そうか。別の世界から来たんだったな。
うーむ…口で説明するのが難しいな…。
野球って言う『競技』をする仕事だ。競技は分かるか?」
「…あ、それなら知ってる!レスリングとか、かけくらべとか…
たたかいとあそびの、まんなかみたいなヤツ!そうでしょ?」
「…まあ、そんな感じかな。」
「で、どんなキョウギなの?ヤキュウって。
おしえておしえて!」
「教えてやりたいのは山々だが…結構複雑だし、教えてたら遅れちまうな。」
「そんなぁ…。」
とたんに残念そうな顔をするネーブル。なんだかこっちも申し訳なくなってしまう。
「むむ……そうだ。
ちょっと待ってろ。甥っ子に見せてやったDVDが…」
「でぃーぶいでぃー?」
テレビ台の中のDVD用の棚を漁り、「はじめてのやきゅう」というDVDを取り出した。
以前、兄一家の家に行った際、甥っ子に見せて、野球に興味を持ってもらおうと思って買った物だ。
甥っ子が気に入ったら、そのままプレゼントしようと思っていたが…
残念ながら、見せてもあんまり興味を持たれなかったので、そのまま持って帰って仕舞い込んでいたのだ。
教え方は分かりやすいと思ったんだけどな。
「ほれ。帰ってくるまで、これでも見ててくれ。」
「なにこれ?」
「…あ、そうか。知らないか。
まず、このテレビってものをだな…」
リモコンから、テレビの電源を入れてやる。
「…わっ!?なにこれ、ニンゲンがみえる!?これ…どうなってるの?」
「…テレビについても、帰ったら説明してやるから。変な事するなよ。
これの見方だけ、まず覚えてくれ。いいか?まずここにこれを入れて、これを押して…」
少し苦戦したが、どうにかDVDの使い方は教える事ができた。
『…これはなにかな?…そう、ボールだね!これがないと…』
「………」
ネーブルは早速、食い入るように映像を見ている。
物珍しさもあるんだろうが、こうも真剣に見てくれると、こっちも嬉しい。
「……って、やばい、もうこんな時間だ!?」
大急ぎで支度を済ませて、球場へ。
練習後は、いつものようにベンチに座り、出してもらってもしょっぱい働きしか出来ず…
そんな冴えない試合を、こっちの負けという形で今日もつつがなく終え、飯を食ってから家に帰った。
「ただいまー…っと。」
…そういえば、久しぶりに「ただいま」って言ったな。
「あ、おかえりー。」
ネーブルは、床でくつろぎながら、渡したDVDを見ていた。
「うふふふ。おかげで『ヤキュウ』のことは、カンペキにリカイしたわ!
やっぱりあたしはアタマがいい!」
「お、そうか。知ってくれて嬉しいよ。」
「…でも『ヤキュウ』って、ちょっとむずかしくない?
この『ディーブイディー』じゃ、いまいち、どこが面白いのかわかんない…」
「まあ、野球の面白さは、試合見ないと分からないだろうな…。
じゃあ次は、俺の一押しの名試合を撮ったヤツを見せてやろう。きっと面白いぞ。」
「やった♪
…ところで、あさのハナシ、考えてくれた?」
それだ。一応、今日一日考えてみた…が。
「……うーむ。結婚…は、まだ考えたいな。
一緒に暮らすこと自体は、別に大丈夫なんだが…」
見合い結婚とかに偏見があるわけでもないので、初対面からいきなり結婚って事自体は、別に問題にはしてない。
…ただ、未だ残る戸惑いの気持ちや、相手が人間じゃない事で起こるかもしれないトラブル、未だスランプを克服できていない自分の、今後に対する不安…それらが、どうしても俺を足踏みさせるのだ。
「なによそれ。『にえきらない』わねー…
…ま、今はそれでいいわ。そのうち、あんたの方からプロポーズさせてやるくらい、
あたしにメロメロにしてやるんだから♪」
カクゴしてなさいよ?と、不敵に笑うネーブル。
我ながらもどかしい答えで申し訳なかったが、元気な彼女の様子に、少し救われた。
「…ああ。もうちょっと待っててくれ。
……ありがとう。」
「ふふん♪
…ねえ、そういえばあんた、まだ体あらってないわよね?」
「え?…あ、そう言えばまだだな。…臭いか?」
「ぎゃくよ、ぎゃく。ふふ…、サイコーにおいしそうなニオイ♪
あんたのその汗と精!あたしにたべさせなさい!」
そう言うと、突然飛びかかって来て、床に押し倒された。
「ばんごはんー♪ばんごはんー♪」
「おいっ、ちょ…」
そのまま、服をぽいぽい脱がされる。
「今日もするのか!?」
「できるでしょ?
ゆうべのコトはあんまりおぼえてないから、楽しみたいの。ダメ?」
…昨夜のアレは非常に気持ちよかったし、素面の今なら、どんな事をしてくれるのか…
正直、非常に興味はある。あるが…
「明日も仕事なんだが…」
「だいじょーぶ♪
終わったら、すごい疲れ取れるスライムマッサージしてあげるから。
フツーにねるより元気になれちゃうかもしれないわよ?」
「そんな事も出来るのか…?」
「もちろん。あたしはアタマがいいからね♪」
…まあ、それなら…いいか。
どのみち、鍛えてる俺の力でも、彼女を振り払うことは出来ないのだ。
今は潔くあきらめて、何も考えず、目の前の赤く魅力的な粘体に身を委ねよう…。
奇妙な同棲生活が始まって、はや一月。
いつも家に帰ると、ネーブルは見たDVDの内容について、興奮しながら語ってくれた。
あの選手のこのプレイが凄かったと、監督はあの時選手を交代させるべきじゃなかったと、劣勢からの逆転ホームランには大興奮したと、日本シリーズ最終戦には思わず涙が出たと…
子供のように、目を輝かせて語ってくれた。どうやら彼女も、野球の面白さを分かってくれたと見える。この面白さが分からなければ、野球を完璧に理解したとは言えないだろう。
しかし、それだけじゃない。
ただDVDばかり見ているわけではなく、家の掃除洗濯までしっかりとやってくれるし、最近では、料理も少しずつ覚え始めた。
その体を活かして、家具の隙間などに積もったホコリも、壁の汚れまで取ってしまう。家を空けることの多い俺にとっては、嬉しい限りだ。
それに、俺が遠征から帰った時に、簡単ながらも温かいご飯と共に出迎えてくれるのは、とても嬉しく、幸せに思えた。
家に居る間は毎晩、溜まったモノをこってりと搾り取られるのが常だが…やつれるような事もなく、彼女の体のゼリーとマッサージのおかげで、むしろ翌日は元気一杯になる。
何より変わったことは、酒をあまり飲まなくなったことだ。
以前は飲み屋通いが日常になっていたのだが、それをしなくなり、家で飲むことも殆どなくなってしまった。
それというのも、この生活が、酒も忘れるくらいに楽しくなってしまったからだ。
ネーブルに野球のDVDを見せるのが、その感想を嬉々として語ってくれるのが、いろいろな事を教えるのが、夜の生活が、温かく帰りを迎えてくれるのが…それら全てが楽しすぎて、酒どころではなくなってしまったのだ。
たまに酒を買ってきても、最初のアレのようにネーブルも飲んで、夜のスパイスとするのが主で、チームメイトとの飲みも、すっかり無くなってしまった。
まあ、全体的に言って…以前と比べると、ずっと楽しい生活を送れていた。
しかし、ある日…
「…うーむ。そろそろ見てないDVDも無くなってきたな…。」
「うん。…そういえばさ。」
「ん?」
「『テレビホウソウ』でやってる野球って、昔じゃなくて今の試合を、そのまま見られるんでしょ?
…あたし、あんたが活躍してるところ、テレビホウソウで見てみたいな…。」
「う…。」
ある意味、恐れていた、そして避けられなかった事だった。
俺も野球選手なのだ。そして(辛うじてまだ)一軍。彼女が俺の活躍に興味を持つのは当然と言えるだろう。
しかし俺は、今に至っても、スランプを克服できていないのだ。
偶然にも、次の試合はテレビ中継される。
だが、彼女の前で、今のしょっぱい働きを晒すのは…避けたい。
どうしたものか……悩みながらも、時間は無常に過ぎて、試合は始まってしまった。
そして…
『続きまして バッター 茂仁田』
今日も、バッターボックスに立つ機会をもらえた。…だが、監督の視線はきつい。
『今日もダメだったら…分かっているな?』と、暗に言っているのだろう。
これがラストチャンス。加えて今日は、ネーブルも家でこの試合を見ている。
(ネーブルが、俺を見てる…)
…そう、ネーブルだ。
男として、彼女にいい所を見せたい。
…いつの間にか俺は、彼女の事を、変な生き物ではなく、ひとりの『女』として見ていた。
別の世界から来た彼女が『野球』というものの魅力を知ってくれたた今、俺もその『野球』の中にいるということを見せてやりたい。
大量の不安で頭がいっぱいだったのに、いざバッターボックスに立ってみると、頭の中は、不思議とその一つに収束していた。
スランプに陥ってからずっと重かったバットが、今は嘘のように軽い。
これなら…!?
『打ったッ!! 大きい、打球は伸びて、伸びて、伸びて…!
入ったあぁぁッ!!! ホームラン、見事なホームランです!
茂仁田、ついにスランプ脱出かぁー!?』
「や、やった…!!」
そのときは、それしか声が出てこなかった。すごく、すごく、うれしかった。
テレビの中のあいつも、ものすごーくうれしそうなエガオで、ベースを回ってた。
試合も、あいつの得点のおかげで、あいつのチームの勝ち。
『ヒーローインタビュー』の時には、ナミダまで出してた。
…ずっと、チョーシわるかったんだもんね。
大好きなことがうまくできないのは、きっと、すごくツラいんだと思う。
あたしだって、あいつをちゃんとセックスでキモチよくできなかったら…って考えると、すごくツラいもん。
それだけに…あいつのチョーシがもどって、ホントによかった。
あたしも目から思わず、うれしナミダがポロポロあふれてきちゃった。
そして、あのホームランのシュンカンも…サイコーに、カッコよかった。
今まで見たDVDのどのセンシュよりも、あいつが、一番カッコよかった!
今のあたしはナミダでビチョビチョだけど…あたしがスライムじゃないマモノだったら、きっと今ごろ、オマンコも、すっっごいグチョグチョにヌレてたんじゃないだろうか。
大好きなオトコの、サイコーにカッコいい所を見たせいで、あたしの大好きなキモチは、おさえきれなくなっちゃった。
あたしがニンゲンだったら、あの場所にいられたら、きっと大声でさけんでたと思う。
やったね!
スゴかったよ!
ちゃんと見てたよ!
大好きだよ!!
大、大、大、大、だぁーい好きだよ!!!…って。
このキモチを、今すぐにあいつに伝えられないのが、苦しくてしかたない。
…でも、ガマンしないと。
ガマンしてガマンして…帰ってきたあいつに向かって、思いっきりぶつけてやるんだ。
そのためにも…まずは『インパクト』よね。
家じゅうピッカピカにして、あいつが帰ってくるのに合わせて、サイコーにおいしそうなリョウリをつくって…
アタマのいいあたしの、とびっきりのエガオで、あいつをビックリさせてやるんだから!
あれから、俺の調子はすっかり良くなり、それどころか、メキメキと成績が上がっていった。チームメイト達も、俺に負けじとグングン腕を上げていき、結果、チームの勝率も、少しずつ上がっていった。
心に余裕が出来た今、スランプの原因と、解決したきっかけを、俺なりに考えてみる。
原因は…おそらく、入院中の事だ。
怪我が治るまで何も出来ず、酒も飲めず、ただただ暇を持て余していたせいで、つい考えてしまったのだ。
『俺はいったい、何のために野球を頑張ってるんだ?』と。
野球が好きだから…もちろん、それはそうだ。でなきゃ、日本でたった何百人というプロの中に混じって、大観衆の前でボールを追っかけてなんかいない。
けど俺にとっては、ただ野球が大好きだから…というだけでは、自分が頑張る理由として納得できなかったのだ。
沢山のファンの為…それも、少し違う気がした。確かにファンの声はすごく嬉しいし、俺自身も、ファンの期待に応えたいという気持ちはある。だが、ファンというのはあまりに大勢いて、距離もなんとなく遠くに感じてしまう。こんな事を言ったら失礼かもしれないが、頑張りの素とするには、少し実感が薄かった。
家も車も買ったが、別に金や物欲のために野球をしてるわけでもない。
肉親の為、仲間の為、日本一の為…色々考えたけど、答えは出なかった。
それどころか、頑張る原動力が、俺には『無い』んじゃないか…、そんなことも考えた。
退院してからも、その考えが頭から離れなくなってしまい…
そして実際に、まるで力の源が無くなってしまったかのように、思うように力を出せなくなってしまったのだ。
…しかしそこに、ネーブルが現れた。
通販番組を通じて、俺のすぐ傍にいきなり現れた、奇妙な赤い粘体の女。
出会っていきなり、俺と肉体関係を結んだ女。
拒もうと思えば同棲も拒めたはずなのに、なぜ俺は彼女を家に置き、毎日毎日、野球を教えていたのか。
…彼女に魅了されたから、というのもあるが……要は、寂しかったのだ。
結婚して、子供もすくすく育っている兄を見て。
買ったはいいが、帰ってくるといつも暗く冷えていた家に居て。
俺も、すぐ傍に居てくれる人が欲しかったんだと、思い当たった。
俺の一番近くで無邪気に目を輝かせ、一緒に喜怒哀楽を分かち合い、笑顔で応援してくれる存在に、ネーブルはなってくれた。
彼女のために頑張ろう。かっこいい所を見せてやろう。喜んでもらおう…そう思った時に、俺はようやく力を出せたのだ。
今なら言える。
俺はネーブルのことが好きだと。ネーブルこそが、俺の野球を頑張る理由だと。
どんな障害でも、ネーブルが居れば乗り越えられると。
心をしっかり整理し、シーズン終了を待って、彼女に言ってやった。
「…俺の負けだよ。ネーブル、結婚してくれ。」
「ようやく言ってくれたわね。待ってたんだから…バカ。」
そして…
「…とうとう、出発ね。」
「おう。…それにしても、俺が日本シリーズの舞台に立てるなんてな…。
夢見ちゃいたけど、実現するなんて驚きだ。」
「まだこれで終わりじゃないでしょ?やるからには、やっぱり日本一!違う?」
「その通り!へへ…、今からワクワクして来た。」
「あたしたちも、テレビの前でしっかりオウエンしてるから。ねー?」
「んー。おうえん、する!おとーさん、まけないで!」
「負けないで、か…。こりゃ責任重大だな。」
「バカね。負けるワケないでしょ?
あんたには、アタマのいいショウリのメガミさまが、二人もついてるんだから♪」
「そうだな。…うん。負ける気がしない!勝って帰るぜ!」
「よーし!よく言ったッ!
…それじゃ、いってらっしゃい。あ・な・た♪…ちゅっ♪」
「おとーさん、いってらっしゃーい!んー…ちゅ♪」
「よっしゃッ!いってらっしゃいのキスも貰って、準備万端だ!
…行って来ます!!」
『その年、数年前までの弱小チームは、見事日本一に輝いた。
日本一の立役者である茂仁田選手は、後に政府が魔界との平和条約を締結した直後に、
レッドスライムの女性との結婚を発表。球界初の『魔物娘の夫』として、世間を騒がすこととなった。
…そんな茂仁田選手は、現在、同チームの監督を務めている。
少々親バカではあるものの、常に野球に対する真摯な姿勢を持ち、
選手達にも慕われている彼の今後の活躍にも、目が離せない。』
───人魔文化放送『魔物娘とスポーツ』第11回より
14/12/30 20:35更新 / K助
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