連載小説
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ナタデココゼリー
 こんにちは。こんばんは。はじめまして。
『圭州 椎太(けいす しいた)』と言います。
子供の頃のあだ名は勿論、あの映画にちなんで『シータ』でした。…どうでもいいですね。
突然ですが、貴方の見ている世界は、ちゃんと綺麗な色ですか?
ほら、あの有名なモンスターのゲームで、負けた時『目の前が真っ暗になった』
って言うじゃないですか。そんな感じ……あれ?ちょっと違うか。
じゃあ何だっけ…あ。そうそう、『バラ色の人生』みたいな。
そんな風に、精神的には、どんな色に見えてますか?って事です。

 え、俺ですか?俺はですね…
…前は、何もかもが非常に薄い色をした、何とも味気ない世界でした。
まあ、自業自得な感じですけど。
夢も目標も特に無く、ただ流されるままにダラダラと生き、
無理をしないレベルの高校・大学へと進み、
そのままズルズルと今まで来ちゃったんですから、そりゃ味気ないですよね。
でも、そんな中でも、楽しみが一つありました。
それは、文通です。
…文通でした。
そうです。過去形です。
今から、その時の事を詳しく話しますね。





 大学に入ったばかりの頃、俺のじいちゃんが倒れて、地元の病院に運ばれたんです。
大した事は無かったみたいなんですけど、しばらく入院って事になって、
そんで家族でお見舞いに行った時、同じ病室に、高校生くらいの女の子がいまして。
その子と仲良くなったらしいじいちゃんに、『この子と文通してみんか?』
って持ちかけられたのが始まりだったんです。
その子の名前は『目芽倉 夏(メカクラ ナツ)』
じいちゃんよりちょっと前に入院したらしい、元気な高2の女の子でした。
好きだったじいちゃんの頼みでもあるし、別に断る理由も無かったんで、
二つ返事でOKして、文通が始まりました。

 その日から、色々な事が変わりました。
中学からは、友達同士でも下の名前で、あだ名なんて使う機会はなかったんですが、
彼女の提案で、あだ名で呼び合うことになりました。
彼女のあだ名は『ナッツ』、俺は勿論『シータ』。
最初はバカップルみたいでこっ恥ずかしかったんですが、慣れると意外に悪くないもので、
彼女が何だかとても近しい存在に感じるようになりました。

 次に、俺の大学生活が何だか忙しくなりました。
彼女は手紙で、元気だった頃の思い出とか、友だちの事とか、読んだ本の事とか
本当に色々な事を書いて送って来てくれたんですが、
俺はといえば、退屈な講義を受ける以外なーんもやってない、
強いて言えば週に2、3日バイトをするだけという退屈な毎日を送っていたんですが、
彼女の手紙に返事を書いているうちに、さしたるネタも、盛り上がる事も無い、
そんな日常が急に恥ずかしくなったんです。
それを変えたいと思い、ちょっとだけ興味を持っていた文画部に入ったり、
わけもなく毎朝ウォーキングを始めたり、英検や漢検を受けてみたりと
ネタ作りの為に色々な活動に手を出し始めました。
すると、最初は変な義務感の為に仕方なくやってただけのそれらの活動が、
意外に楽しくなっていったんです。
おかげで友だちもかなり増え、忙しくも楽しい、エネルギッシュな生活になりました。

 そして、何度も何度も手紙をやり取りしている内に、
いつしか彼女の手紙を心待ちにするようになりました。
いつでも使える電話や電子メールとは違い、手紙にはタイムラグがあるので
『届いて、返事が来るまでのワクワク感』が大幅に違います。
俺も彼女も、それが結構好きだったんです。
もう彼女は、いつの間にか、俺の日常には欠かせない一部になっていました。

 そんな、俺と彼女の楽しい文通生活を、もう一年以上も続けてきました。
日が経つ毎に、手紙が来るたびに、それまで色の薄く、無味乾燥だった周りの風景も、
だんだんと美しい色に変わっていったんです。



 …でも、そんな生活の楽しさにかまけていたせいか、俺は気付きませんでした。
一年以上も経つのに、何故、彼女の『退院した』という便りが来ないのか。
それどころか、何故彼女の手紙には、入院生活についてや、
どうして入院しているのかが何も書かれていないのか。
バカな俺は、何も疑問に思いませんでした。聞こうとも思いませんでした。
…あるいは、何となく分かっていて、無意識に知る事を拒否していたのかもしれません。

 『それ』に本格的に気付き始めたのは、一年経ち、六月に入ったばかりの頃です。
先程も言ったとおり、それまで入院生活の事を何も書かなかった彼女でしたが、
ある日届いた手紙には、いつもの調子の文面の中に、さりげなく
『来週、手術するんだ。』という一文が入っていました。
それを見て、初めて彼女の境遇を少し知った俺でしたが、しかしこんな時に
一体どんな事を書いていいか分からず、ただ『頑張れ。成功したら、また手紙くれよ。』
と書くのがやっとでした。





 それきり、返事は帰ってきませんでした。





 最後の手紙から、何週間も、一通も返事が来ませんでした。
彼女ではなく、彼女の母親に宛てて、何度も何度も状況を尋ねましたが、なしのつぶて。
…という事は、そう言う事なのでしょう。
おそらく彼女の母も、俺にわずかでも希望を持たせたままにしようとしてくれて
あえて返事をしなかったのかも知れません。
『そんな気遣いは要らない。正直に言ってくれ』とはっきり言ったり、
彼女の家に直接行くこともできたんでしょうが、
もしそれをやってしまって、知った『真実』が悪いものだったら…
それが、怖かったのかもしれません。

 …それから、俺の世界は急激に色を失っていきました。
目の前が真っ暗どころか、目の前が頭の中ごと真っ白になりました。
サークルも休みがちになり、バイトにも身が入りません。
俺の日常の中に開いた穴は、あまりにも大きなものでした。
両親も本気で心配するくらいのやつれっぷりだったらしいです。



 …そんな、俺の起伏の無い人生の中でも最悪の日常の中にいたある日の休日、
家族が出かけて家に一人になり、する事も無いので、何となくテレビをつけてみました。

『モンスターズ・ミラクル・マーケット!!』

 タイミングよく、通販番組が始まったようです。
特に見たいものも無かったので、そのまま見ていました。

『今回ご紹介する商品は、この『恋するゼリー』です!』

 司会の二人は、今思い返すと、そこらの芸能人を遥かに超える美人でしたが、
そのときの俺は、そんな事すら感じられなくなっていました。
彼女の存在がいかに大きく、そしていかに未練が強かったのかが分かります。

『おすすめは、このナタデココゼリーです!
 コリコリプルプルで、気持ちを落ち着ける効果があります。
 待ち人運も上昇するかもしれませんよ?』
「ナタデココ…か…。」

 ナタデココは、彼女の大好物だったらしいです。
しかしご存知の通り、ナタデココは、それ単体で売られたりしているわけではなく、
フルーツポンチとか、フルーツみつ豆とか、ナタデココ入りドリンクだとか、
そういうのの中に、脇役として、少ししか入ってません。
ナタデココメインのお菓子で、思い切りナタデココを食べたいと嘆いていました。

「ナッツだったら、どう思うかな…。」

 見たところ、まじりっけの無い、半透明のゼリーでした。
大きなナタデココをゼリー容器に詰め込んだような感じです。
さぞや、ナタデココがたっぷり入っている事でしょう。
これはまさしく、ナタデココメインのお菓子の筈です。
彼女がいなくなった(と思われる)後でこんな物を見つけるなんて…
少しばかり、皮肉に思いました。
…もし違ったら、それはそれで看板に偽りありの詐欺ですけど。

「…まあ、買って見なきゃ分からないか。」

 この時、無気力だった俺が、なんでこれを買おうと思ったのかは分かりません。
彼女の好きなものに触れて、彼女を思い返そうとしたのでしょうか。
…もしかしたら、無意識に『待ち人運』に惹かれたのかもしれません。
どう聞いても眉唾物ですが、そうだとしたら、ワラにもすがりたかったんでしょう。
とりあえず、俺はナタデココゼリーをひとつ注文しました。





 …そして数日後、講義をサボって、また家に俺一人の日に、商品が届きました。
商品を受け取ると、自分の部屋に持って行き…



そして、これをどうするか、悩みました。

「…。」

 捨てるなんて出来ないし、このまま食べるか、誰かに贈るか…

「贈るとしても、誰に?彼女に?だって、彼女は…」

 …その頃にはもう、彼女の事も、心のどこかで諦め始めてました。
でも、それを受け止めきるのは、やっぱり怖かったんです。

「家族に贈る…にしても、一個じゃなぁ…。」

 かと言って、自分で食べるのも、何となく気が進みませんでした。
このゼリーを見ていると、何故か彼女の事ばかり思い出して、辛かったんです。
そうして、考えが堂々巡りに突入し始めた時…



(あけて)



 ふと、彼女の声が聞こえたような気がしました。
これって…まさか……


(私はたべられないから、早くあけて。)


「…食べろと?」

(うん)

「…その前に、何なんだよ…お前は?」

(私だよ。)

 …彼女の声でした。
そんな声が、聞こえる、なんて…

「…やめてくれよ…ッ!
 頭の中で声が聞こえるなんて、まるで、本当に…死んだ、みたいじゃないか…!」

(大丈夫だよ。死んでないから。私は、ここにいるよ。)

「…ここ、って…。」

 …心の、中?

(そう、ここ。安心して。もう、どこにも行かないから。)

「……そうか。」

 幻聴かもしれませんが、この彼女の声が、俺の心を解しているようでした。
それに、このゼリーを見ていると、
何故か彼女が笑って見つめてくれているような気がしました。
彼女は、心の中にいる…
ようやく俺も、それを知ることが出来ました。

「…じゃあ、食うか。」

 まずはどんなものか食べてみて…
それで、本当にナタデココたっぷりだったら、同じものをもう一つ買って…
彼女の家に直接行って、彼女の母から直接、本当の事を聞き出そう。
そして、彼女に、これを贈ろう。
そう思って、俺はゼリーを取り、ふたに手を掛けて、一気にはがしました。



 ぽよんっ!



「…え?」

 開けた途端、ゼリーが一気に何倍にも大きくなって、容器を飛び出しました。
はみ出たゼリーが、キノコ状…というか、クラゲの傘のように広がりました。

 むにょむにょむにょ…

「…ええええぇぇ!!?何だコレ!?

 その傘のてっぺんから、むにょむにょとゼリーが盛り上がりだしました。
思わずゼリーを取り落としましたが、そのゼリーは尚もどんどん高くなっていき、
遂にはヒトの上半身のようになりました。
続いて、ゼリーの下から、触手や、足のようなものも伸びていき…
とうとう、人間の上下半身がある大きなクラゲといった感じの姿になりました。

「えぇー……」

 しかもこのクラゲ、よく見ると女性型です。
腰?にあたる部分のくびれに、意外と豊かな胸の膨らみらしきもの。
髪の毛のような細い触手が生えた頭と、目を閉じた、整った女性の顔…
……あれ?この顔、どこかで…

(ふふ…)

 そう思っていると、そのクラゲ?が目を開けました。
そして、未だ混乱の中にいる俺に、ニッコリと笑いかけ…


「…久しぶり、シータくん。」


 先程聞こえたのと同じ、彼女の声で、俺に喋りかけました。

「…まさ、か…。」
「うん。ナッツだよ。」
「嘘、だろ…?」
「ほんとだよ?かおとか、色いがいはかわってないでしょ?」

 よーく見ると、半透明だけど、その顔は、声は、紛れも無く、ナッツのものでした。

「…いや、見た目は面影あるけど…でも…。」
「ん〜…やっぱりうたがわれちゃうか。
 じゃあ、しょうこ見せるから、紙とペンかして!」

 言われたとおり、紙とボールペンを渡すと、彼女は何やら文字を書き始めました。

「えっと…どう?」



 …間違えるわけがありませんでした。
それは、一年以上もずっと見続けてきた、彼女の筆跡でした。



「…本当に…ナッツ、なんだな?」
「うん。」
「…生きてるんだな?」
「そうだよ。」
「夢じゃ、ないんだよな…?」
「大丈夫だよ。ゆめじゃないよ。」

 あまりに違う姿なのに、
それがナッツであると、すんなり受け入れられました。
ナッツが、元気でいる…
それが、ただひたすら嬉しくて…嬉しくて…

「ナッ、ツ…うぐっ…よかった…!」
「!……何も伝えないで、ごめんね。」
「…う…うあああッ……!!」

 しばらくの間、ナッツを抱きしめ、泣きに泣きました。

「会いたがった…!また、話がしたかっだ……!!」
「私も…うん……わだじも、だよぉ…!」

 その内ナッツにも涙が移り、彼女の涙が、服に落ちる感覚がしました。
長い事抱き合い、ようやく涙が収まった時には、心の中が幾分かスッキリしていました。
…でも、まだ少し疑問があります。

「…会えたのはいいけど…その姿は、何なんだ?
 それに、どうしてあんな所から?」
「え?」
「だって、半透明だし…クラゲ、だし…。」
「ああ、これ?
 う〜ん…ちょっと、話すとながくなるんだけど、いいかな?」
「あ、ああ…。」
「オッケー。えっとね…どこから話そうかな…。」
「…そうだ。まず、お前、病気だった…んだよな?」
「うん。おいしゃさんが言うにはね、…て言っても、詳しいことは忘れちゃったんだけど、
 なんか、しんぞうのすごくむずかしいびょうきだったんだって。
 はっきり言うと、そのままだったら何年も持たないくらいの。
 それでね、すごーく大へんなしゅじゅつをしなきゃいけなかったんだって。
 …むずかしいし、体も弱ってたから、そのまま死んじゃうかも…って言われたんだ。」
「……そうだったのか…。
 …あんな短い言葉だけしか送れなくて、本当に…ごめんな。」
「ううん、いいの。シータくんのてがみで、すっごく勇気でたから。」
「…ありがとう。」
「いやいや、お礼を言うのはこっちのほうだよ。
 でね、てがみを送ったあと、テレビ見てたら、通販ばんぐみが始まったの。」
「通販番組…?」
「うん。すごいきれいな女の人がでてくるやつ。
 それで、なんと『ナタデココゼリー』なんていうステキなおかしをしょうかいしててね!
 しゅじゅつまえにぜったい食べときたいと思って、
 おかあさんにたのんで、ちゅうもんしてもらったんだ。」
「…それ、多分俺も見たぞ。それでナッツが…」
「でもね、しゅじゅつの日までには届かなかったんだ。
 で、仕方なくそのまましゅじゅつ室にはこばれて行ったんだけど、
 そこにはね、しゅじゅつの先生じゃなくて、
 なんと、そのばんぐみに出てきた、すごいきれいな女の人がいたの!」
「…え!?」
「その女の人…ルクリーさんだったかな?ルクリーさんは、
 私に『貴方を元気にしてあげる』って言ったの。
 しゅじゅつの先生じゃない人が、いきなり元気にしてあげるなんて言うもんだから、
 その時はやっぱり私もこわくてにげようとしたんだけど、
 つかまって、その人にいろいろエッチなことされて、あたまがぽ〜っとして…
 気が付いたら、こんなクラゲみたいな体になってたの。
 『シー・スライム』って言うんだって。」
「……」
「でも、びょうきは治ったみたい。せきとかも出なくなって、
 前みたいにげんきにうごけるようになったんだ。」
「…マジでか。」
「マジだよ。
 でもそのかわり、クラゲだから、いつもは水の中にいないとダメなんだって。」
「…親御さんは、どうしてたんだ?」
「お母さんは、私が治っても『元に戻して』って言ってた。
 ルクリーさんが、私は、もう人間に戻れないんだって言ったら、すっごく怒ってた。」
「…そりゃまあ、怒るかもな。」
「でも、ルクリーさんが、お母さんを同じシースライムに変えたら、
 なんかなっとくしてくれたみたいで、
 それから家族そろって、海の中にひっこしたんだ。
 お父さんもなっとくしてくれて、今は二人、海の中ですっごく仲よくしてるよ。」
「…ちょっと待て。」
「ん?」
「手紙が届かなかったのって、もしかして…」
「…ごめん。ドタバタしてて、たいいんしてひっこしたの知らせるのすっかり忘れてた。
 それに、海の中じゃてがみかけないし、とどかないし、ながく海からでれないし、
 お父さんはお母さんとずっとおたのしみ中だったし。」
「…おいッ!!!」

 そんな理由で、俺はここまで追い詰められてたのか…。

「…ほんとにごめんね。
 で、ひっこしてから何日かたったあと、ルクリーさんがまた来て、
 シータくんに会わせてくれるって言うからついて行って、
 それで、さっきのゼリーとしてシータくんの所に送ってあげるっていわれたんだ。」
「ふ〜ん…
 でも、そうだとしたら、どうして何週間も…」
「…こわかったから、だよ。」
「え?」
「…私、ずっとこわかったの。
 びょうきが治ったのはいいけど、
 シータくんがそう言う人じゃないって言うのもちゃんとわかってるけど、
 それでも…いきなり、こんなクラゲになっちゃって、
 きらわれるんじゃないかって、シータくんに会うのがこわかったの…」
「…」
「…でも、ずっとなやんでたら、ルクリーさんがまた来て、
 シータくんが、私が死んじゃったのかもしれないってかんちがいしてて、
 すごくふさぎ込んでる…って言われて、行かなきゃ、って思ったの。
 大丈夫だよって。こんなカッコになっちゃったけど、
 私はちゃんと生きてるよって、言わなきゃって。」
「…ごめんな。情けない所見せちゃって。」
「ううん、そのおかげで私も勇気出せたんだし、
 私もうじうじなやんでたんだから、お互いさまだよ。」
「…ありがとう。」

 まあ、何にせよ…

「…生きててくれて、ありがとう。」
「勇気をくれて、ありがとう。」

 そういって、笑いあいました。
彼女の笑顔は、俺が文通をOKしたとき以上の、嬉しそうな笑顔でした。

「…それで、ね…。」
「?」
「私がここに来たのは、それだけじゃ、ないんだ。」
「…何?別の用事って。」
「うん。
 …あのね。」
「?」
「い、今まで文通してくれて、ありがとう。」
「…?」
「でも…もう、やめにしたいの。」
「!!?」

 何でそんな流れに!?

「そ、それって…」
「いや、ちがうちがう、ちがうの!
 そうじゃなくて…その……」
「…つまり?」
「さ…さっきかいたの…よく、よんで…。」
「え?えーっと…」

『私は、シータくんが大好きです。
 ただの文通相手じゃなくて、恋人になりたいです。』

 彼女の方を見ると、うつむいて、ぷるぷる震えていました。
さすがに顔色はよく分からなかったけど…

「か……彼…女?」
「…うん。」
「…マジで?」
「…まえからずっと、好きだったの。」
「……」
「…クラゲじゃ、だめ?
 やっぱり、ちゃんと人間のままで、ちゃんと元気な女の子じゃないと、だめ?」

 …そうか。
おそらく彼女は、俺よりもずっと、悩んでたんでしょう。
元気じゃない事に。元気になったら、人間じゃなくなった事に。

「…そんな事、ない。」

 これまで起伏のない人生を送ってきた俺でも分かります。
今までの事を踏まえて、俺にとって一番大事だったものは、何なのか。

「…俺も今まで、いや、今もずっと、好きだった。」
「…!」
「クラゲでもいい。もう、手放したくない。
 好きだよ、ナッツ。」
「…ありがとう…!」

 さっき以上の笑顔で、彼女は俺に抱きついて、互いにキスを始めました。
…なんか、すんごい顔が熱いので、ひんやりした彼女の頬が気持ちよかったです。
そうしてしばらく抱き合っていると、不意に彼女が言いました。

「…ねえ、シータくん。」
「?」
「いきなりでごめん。今から、海につれてってくれる?」
「あー…さっき、長く海から出られないって言ってたもんな。」
「うん。あと、そこでシータくんとしたい事もあるから。」
「ん〜…わかった。カップには戻れる?」
「…たぶん。」
「近くの浜辺でいい?」
「…人に見られないところって、ある?」
「うん、知ってる。」
「じゃあ…おねがい。」
「OK!」

 自転車を走らせ、近くの浜辺へ。
そこからちょっと離れた岩場の陰で、彼女をおろしました。

「ほら、ここ。」
「へー…」
「で、したい事って?」
「うん。…その…」
「…?」
「私みたいなシー・スライムとかのことを、『まものむすめ』って言うんだって。
 それで…ちゃんと聞いてね。ホントなんだから。まものむすめのごはんは…」
「ご飯は?」
「お、男の人の、せいえき…なんだって。
 だから、好きな人に、出してもらわなきゃいけないんだって。」
「…え?」
「その…私、そういうこと、とか、ずっとあきらめてたんだけど、
 シータくんが告白うけてくれたときから、
 シータくんと、す、すごく…エッチなことしたくなっちゃって、
 あの…恋人になれたんだし…きょう、し、して…くれる?」
「…ええええ!?」

 人がクラゲみたいになるだけでも十二分におかしな事なのに、
まさかいきなり体を求められるとは…それなんてエロゲ?

「…ホントに?そんで、ホントにするの?」
「ホントに、ホント。」
「え、俺は…その、俺は別に、いや、いいいんだけど…?」

 マジでうろたえてます。ああ、チェリーです。悲しいまでに。

「…よかった。じゃ、するね。」

 そう言うと、彼女は俺の服を脱がしてきました。

「んっ…あれ?うまくぬがせない…」

 軟体のせいか、慣れてないせいか、ちょっと難しそうです。

「ん〜…ボタン、はずせない…」
「…自分で脱ごうか?」
「……おねがい。」

 …彼女が現れたときから、妙にすんなり状況を飲み込めてしまっている気がします。
俺って、元々そんなタイプじゃないはずなのに…
それだけ、彼女が帰ってきてくれたのが嬉しかったんでしょうか?
まあそれはともかく、かなり恥ずかしかったけど、全部自分で脱ぎました。

「…たってる…」
「…立たないと、出来ないし…」

 正直、彼女は、この姿になる前から結構可愛くて、
この姿になってからは、更に磨きがかかっている気がします。
そんな子が、服も着ていないし、しかもその子に見られながら脱いでるんです。
ぶっちゃけ童貞なので、この時点でもう、かなり興奮してました。

「えと…こ、こする、ね。
 さいしょはそうするって、どこかできいたから。」
「う…うん。」

 彼女は右手で俺のアレをそっと握り、しごき始めました。

「…!!」

 ひんやりぷるぷるとした手自体の感触と、ローションのような滑り。
加えて、普段は元気な彼女の、恥ずかしげな上目遣い。
それだけで今にも出そうですが、早撃ちは、聞きかじりの知識では男の恥らしいです。
必死に我慢しているのですが…かなりキツイです。

「はじめてだけど…きもちいい、かな?」
「…ものすごく。」
「…出る?」
「…今にも出そう。」
「じゃあ…」

 そう言うと、限界のソレを、いきなり口に含んでくれました。
さっきの手よりも柔らかい舌と頬の感触が、全てを包み込んできます。
……それ以上は無理でした。

「んぷ…!?」
「…!!」

 かなりの量を、彼女の口の中に全て出してしまいました。
口の中が透けて見えるので、その様がよーく分かってしまいます。
…恥ずかしさと罪悪感で、死にそうです。いや、自殺しそうです。
前に一度だけ、魔が差して彼女をオカズに使ってしまった時よりも…あああ、死にたい。

「んくっ……こく……」
「…ぅぅ…」

 しかし彼女はそのまま、口の中と、俺のについてる白濁を全て舐め取り、
ゆっくりと飲み込んでくれました。
喉を通って、胃?に流れ込んでいくところまで、はっきり見えます。
アレどうなってんのかな…。もうちょっとじっくり観察してみたくなりました。
目の前の現実から目を背けるためにも。白い液の正体はスルーして。

「…んはぁっ。」
「…。」
「ふぅ…、ルクリーさんにおしえてもらったとおりだった。」
「?」
「まえに、苦いとか、へんなにおいとか聞いたことあったけど…
 ルクリーさんが言うには、
 好きな人のだけは、かんたんにのめるし、すっごくおいしいんだって。」
「…そうかい。」

 いや、好きな人って言われるのは普通に嬉しいんですけど…

「それにしても、すごくいっぱい出たね…。おいしかった♪」
「…まあ、結構溜まってたしね。色々と…
 そんな事気にしてられる状況じゃなかったし。」
「じゃあ、そのぶん、出してもらうね♪
 今までしんぱいさせてた分のおわびと、これからずっとよろしくっていみを込めて。
 はじめてだから、上手くできないかもしれないけど、がんばるね。」
「…十分上手かったよ。
 まあ…よろしく。俺も次は、もうちょっと持つから。多分。」
「がまんしなくていいのに…」
「俺にだってプライドはあるから。
 それに…ナッツも、気持ちよくしてやりたいし。」
「あ…ありがとう♪
 …じゃあ、えっと、このまま、ほんばん…するよ?」
「…わかった。」
「それじゃ…あの岩にのくぼみにすわって。

 彼女が指差したそこには、海に面したイス状のくぼみがありました。
丁度人が座れるような深さですが、くぼみの底は水中です。 

「それで、すわりながら…」
「でも、水流れ込んでるぞ?この深さだと、多分腹までつかるし…」
「それでいいの。はじめては、海の中でもらってほしいから。」
「海の中で?」
「うん。昔から、海が好きだったの。ちょっと、あこがれてたんだ。そういうのに。」
「…ん。わかった。」

 言われたとおり、くぼみに腰を沈め、足を伸ばして彼女を待ちます。
彼女は一旦海に入り、こちらへ向かって泳いできました。
近くまで来た時に、手を伸ばして、彼女を抱きしめてやりました。

「きゃ♪」
「…忘れてたけど、ちゃんと『ある』んだよね?足の間に。」
「もちろん。」
「よかった。それじゃ、腰下ろして…」
「うん。せーの…」

 俺の肩を掴み、ぐぐっと腰を沈めようとしていますが、浮くせいか、中々入りません。

「…手伝うよ。」

 彼女の背中に回した手を腰に下げてしっかり掴み、力を込めて…押し込みました。

「んん…くふぅぅぅ…!!」

 きついけれど、にゅぷんにゅぷんと、確実に入っていきます。
その内、膜らしきものに突き当たり、一瞬躊躇してしまいましたが、
力をさらに込めて、にゅぷっと突き破りました。

「あぁっ!」
「…全部、入ったと思う。…痛かった?」
「ううん。きもちよかった。
 …でも、ちょっとだけ、うごかさないで、このままでいたいな…」
「…俺もまだ、動きたくない。多分、このまま動くとまた出る。」
「それじゃ、このままでいよ。」

 …というか、このままでいても出そうです。
中はひんやりしているようで意外と熱く感じ、内壁がうにょうにょと動きつつも、
締まってモノをぴったりと覆い、あらゆるポイントをうにょうにょに巻き込みます。
手や口よりも遥かに強い快感にある程度慣れるまで、ひたすら耳を澄ませ、
波の音や、カモメの声に集中してやり過ごしました。

「…そろそろ、うごかす、よ…。」
「…オーケー。」

 正直、まだぜんぜん慣れなかったんですが、待たせるのも嫌だし…
…しかし、もうちょっと休んどけばよかったと、すぐに後悔しました。

「んん…っ…!」
「う、あぁぁぁッ!?」

 そのままでもとんでもなく気持ちいいのに、上下に擦られる動きまで混ざりました。
モノを理性ごとズリズリと削られていく感覚に陥ります。

「どっ、どう…?」
「よっ、よす、ぎ…!!」

 まともな言葉を話すのもやっとです。…死ぬんじゃないかな、俺。気持ちよすぎて。

「はっ、は、ふぁぁ…!?」

 けど、さっきまでの童貞の俺とは違います。多分。
二人の間に揺れている、彼女の意外と大きい胸を少し強めに揉んでみます。

「きゃっ、ぅ、そ、それ、きもちいい…!」

 彼女の胸には乳首が無いようでしたが、
それっぽい所に噛み付くように吸い付きます。
始めは当然と言えば当然ですけど、海水の味しかしませんでしたが、
唇で、こりこりと優しく潰すように食んでみると、
なにやらほんのり甘い液体が染み出て来たような気がしました。
…なるほど、ナタデココ。

「シータくん、もっと、おっぱい、もっと…!」

 人肌とはまた違うつるつるとした感触を、手で、唇で、舌で、歯で感じるごとに、
彼女は喜び、中が一瞬きゅっと強く締まります。当然俺もさらに気持ちよくされますが、
彼女の胸の感触や、染み出す体液の味を堪能する事でどうにか気をそらし、
そして、一歩一歩追い詰められていっている彼女の上気した表情を眺めて
一緒に気持ちよくなりたいという思いを高め、何とか射精を耐えました。

「はぅ、わた、し、もう、だめ、みたい…」
「ぷはっ…よし、どうにか、耐えれた、な。このまま、いっしょに…!」

 胸を掴んでいた左手を腰にまわし、右手は彼女の左手の指とがっちり絡め合わせ、
最後の力を振り絞って、動き続ける彼女の腰に、自ら腰をぶつけ始めました。

「あっ!っはっ…シータくん…」
「…何?」
「わたしと、ずっと、いっしょに、いて…!」
「…離さ、ない。そっちも、もう、いなくならないで…!」
「うん、ずっと、いる、っ…!だから、いっしょに、いって…!」

 手を解き、抱きしめながら、最奥までモノを進め、
そして…思いの全てを、弾けさせました。

「あっ、はぁぁ、あぁぁぁぁぁ…!!」
「…ぅぁぁぁぁ…!!!」

 隙間から勢いよく噴出しそうな俺の精液全てを、
彼女はお腹の中で、全て受け止め、飲み込みました。

「はっ、はぁ〜…すご、すご、かった…。」
「お、俺…生きて、る、よね?」
「う、うん。」
「ナッツ、すごい、気持ちよかった…。」
「うん…。」
「…んぐっ…、…あ、やばい、腰、抜けたかも…。」
「私も、ちから、入んないや。…もうちょっとだけ、このままで、いい?」
「…こっちも、そう、したい…。」
「…ふふ…♪」

 …そのまま、余韻に浸りながら、抱き合い続けました。
海に日が沈みはじめ、空も海も赤く染まるまで、一緒に居ました。

「…そろそろ、かえる?」
「ナッツはどうしたい?」
「ん〜…。ほんとはもっとこうしてたいけど…かえらなきゃね。」
「そうか。」
「…つぎって、いつ会える?てがみ出せないから…。」
「そうだな…。次の日曜の昼でどう?」
「…うん。ここで待ってるね。」
「ん。…それじゃ、また。」

 帰ってきたときには、すっかり日は沈んでいました。
まだ家族は帰ってきてないみたいです。
色々と疲れたので、ソファーに座ってボーっとしていると…

『モンスターズ・ミラクル・マーケット!!』
「…あれ?何でテレビが…」
『今回ご紹介する商品は、こちら!
 水の中でも使え、どこでも繋がる貝殻型通信機『kaiPhone』です!
 今ならもう一個セットに、首から下げられるストラップをお付けして、
 何と1500円でのご提供です!!』
「…。」

 …何とも、都合のいい番組だと思いますけど…
とりあえず、次に会うときの手土産が決まりました。










 そして、今…

「あ〜…明日からまた仕事か…。めんどくさ…」

 俺は大学を卒業し、どうにか就活も成功させました。

「でも、今の仕事、けっこう気に入ってるんでしょ?」
「…まあ、そうなんだけど…。」

 あの出来事を経て、俺も、はっきりとした目標を見つける事ができました。
それは、家を守るという事。…いや、自宅警備員じゃなく。ちゃんと就職もしてるし。
もっと言えば、家族を守るという事です。
そう、家族。

「おとうさ〜ん♪」
「ぱぱ〜♪」
「ん?どうした?お前たち。」

 まだ20代なんですが、すでに二児の父をやっています。
多分、これからもポコポコと増え続ける事でしょう。責任重大です。

「明日からまた仕事だから、今のうちにいっぱいかまって欲しいんでしょ。
 ねー、二人とも?」
「うん、おはなししてー!」
「してー。」
「わかった。どんな話がいい?」
「このまえの、おとうさんとおかあさんのおはなしのつづき!」
「あ、それがいいー!」
「う〜ん…ちょっとかっこ悪いぞ?」
「でもききたいの!」
「ききたいのー!」

 まさか海の魔物娘と結婚すると、水中で暮らせるようになり、
しかも海底に町があって、人魚やら何やらが住んでいるとは夢にも思いませんでしたが、
俺たちは現在、その極めてファンタジックな町で暮らしています。
出社の度に陸へ揚がるのが少し億劫ですが、それぐらいは我慢です。
この辺では結構ホワイトな方だし。

「でも、ホントにかっこ悪いから、学校や幼稚園では言うんじゃないぞ?」
「うん、わかった。」
「はーい!」
「かっこ悪いって言ったら…多分、あの時ね。懐かしいなぁ…。」
「…って言っても、そこまで昔じゃないけどな。
 えーと、前はどこまで話したっけな…。」

 今日も娘達が寝静まるまで、俺の家族サービスは続きました。
それからは、彼女と二人きりの時間を楽しみます。

「んっ、は…♪」
「最近、また胸が大きくなったんじゃないか?」
「…そうかも。嫌?」
「まさか。このでっかいナタデココが好きって、いつも言ってるだろ?」
「…そうだったね。
 それじゃあ、今日も私の事、たくさん食べてね。あなた♪」
「おう。覚悟しろよ?」
「きゃー♪」

 …この調子なら、三人目が生まれるのも早そうです。



「…ずっと好きだよ、ナッツ。」
「私もだよ、シータくん♪」



 今、俺の世界には、見渡す限りの青が広がっています。
けれど、今までの色あせた世界や、真っ白な世界ではなく、
それはとても綺麗で、優しく、幸せに満ちた風景でした。


 とまあ、こんな感じで、この手紙を終えようと思います。
願わくば、貴方の世界が、いつまでも綺麗な色で彩られていますように。



                     海底都市から   圭州 椎太&夏 そして最愛の娘達より
 
12/10/05 16:55更新 / K助
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■作者メッセージ
寝 過 ご し た……orz
すいません、三日以内にUPできませんでした…。
UP忘れて寝ちゃったんです…起きたら朝だったんです…
…本当に、侘びの言葉もありません。
待ってくださっていた方もあまりいないでしょうが。

こんな時間にだらしない野郎ですが、
年内には、全種類のゼリーを揃える事を目標にしております。
その他短編も、現在執筆中です。
それまで、どうかポセイドン様より寛大な心でお付き合いをお願いします。なにとぞ。


あと、アンケートの件ですが、私の日本語が異常で説明が分かりにくいと思ったので、
ここに色々全部、きっちりと書いておきます。

アンケート(投票)ルール

現在の票数

 未入荷

  オレンジ(赤)    1票
  メロン(泡)     0票
  ソーダ(素)     1票
  お徳用ソーダ(王)  1票

 入荷済み

  グレープ(闇)    0票
  和風(濡)      2票
  ナタデココ(海)   2票

(これからの)ルール

 ・アンケートは、新しい話が掲載された時から、
  作者がコメントに返信する(大体2日後)まで受け付ける。
 ・投票は1話掲載につき1人1回で、1種類のみ。
  前回投票した商品でも、さらに投票可。
 ・投票する時は、必ず話の感想とあわせて
  『○○を入荷して欲しい』とはっきり書いて下さい。
  投票事項は上みたいに括弧で括ってくれると分かりやすくていいなと思っています。
  願望です。
 ・『未掲載の商品』で、『それまでの累計得票数が1番多かったもの』を次に書きます。
  が、掲載済みの商品でも、多くの票を集めた場合には、
  もしかしたらその商品の別の話や続きの話をやるかもしれません。
 ・このルールは、『今のところのルール』です。
  ひょっとしたら変わったり、追加されたりするかもしれません。
  その時は、またお知らせします。



 …こんな感じですかね。
では、アンケートお待ちしております。
成績の悪いMMM広報・マーケティング担当のK助でした。

 

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