洗脳調教アプリ ― 女教師、堕落 ―
― 先生ごめんね。忙しいところ呼び出して・・・ ―
― 驚いた?うん!やっと成れたんだ!これも先生のおかげだよ!! ―
― これで・・・・・やっと・・・・! ―
― でもねぇ、ねぇ先生・・・・最後に一つだけお願いがあるんだ ―
― ・・・・・・・先生。どうしたの?そんな顔をして?―
― 先生にしてほしいお願いは別に難しいことじゃないんだ。本当だよ? ―
― ちょっと料理の手伝いをしてほしいだけなんだからさ ―
― ねぇ、先生。「ビーフカレー」って好き? ―
今日は待ちに待った日曜日。
俺ははやる気持ちを抑えながら、幼い頃何度も通ったあの「牛女」の住んでいた赤い屋根の家のチャイムを鳴らす。
ピンポーン!
静かにドアが開き明美が顔を覗かせる。彼女は家の中なのにすっぽりと冬用のコートを羽織っていた。
ゴクリ
ベージュ色の飾り気のないコート。
そのコートの下に隠されたものに思わず、生唾を飲み込んだ。
「全てご主人様の注文通り・・・です」
まだ何もしていないのに彼女の端正な顔は既に羞恥に赤く染まっている。心なしか淫靡な雌の香りが漂っているようにも感じる。
「じゃあ早速上がらせてもらうぜ。いいな牛女?」
「・・・はいご主人様」
ガチャ!
俺は玄関に入るとすぐさまドアを施錠した。邪魔なんて入らないだろうが、念には念をだ。
「おい、牛女!!さっさとその邪魔なコートを脱いでもらおうか!」
「はい、ご主人様」
シュ・・・パサッ!
明美が身に纏うコートを脱ぐ。そこから現れたのは白いレースの施されたエプロンだった。しかし・・・・。
「み・・見ないでください・・・・」
コート、その下は明美は何も履いていない。否、彼がそれを許さなかったのだ。
「流石にオヤジっぽい趣向とは思ったが、裸エプロンも中々オツなものだな。おい、牛女!そのみっともない乳を隠せよ。エプロンからこぼれ落ちてるぜ?」
「!」
彼女は思わず胸元を隠し、その白い肌を更に紅潮させる。
「さてと、おもてなしを頼もうかな。なあ明美?」
エプロンからはしたなく零れ落ちた胸元を隠しながら、静かに彼女は頷いた。
ジュー・・・・
パステルカラーでまとめられた見慣れたダイニングキッチンにバターの濃厚な香りが漂う。
「懐かしいよな・・・牛女。よく親父が仕事で家を空けるときにお前はいつもパンケーキを作ってくれたっけ。だろ?」
サワッ
傍らの風也が彼女の水蜜桃のような瑞々しいヒップを撫で上げる。
「うぅっ!」
不意の愛撫に明美は身を強張らせる。だが彼女の身体は正直だった。
「おい牛女!その空気入れたみたいに膨れたケツを撫でられて感じてんのか?尻尾も振ってさ!」
ギュッ!
彼はくねらすように蠢く明美の柔らかな尻尾を強引に掴んだ。
「痛ッ!」
「おやおや、魔物娘様は人間よりも強いんじゃなかったっけ?まあいいさ・・・・このケツも乳房も全部俺の物だからな!!!」
風也は身体を密着させて、左手で乳房を強引に愛撫し右手をエプロンの下、明美のヴァギナにあてがった。ぬるりとした蜜が風也の右手を濡らす。
「・・・・アッ!」
人間の女なら快楽よりも痛みしか感じないような荒々しい愛撫でも、魔物娘としての本能なのか悦楽の吐息がそのバラ色の唇から滲む。
「もう濡れてんじゃねーかよ!裸エプロンで興奮したのか?スキモノだなお前!!」
淫欲に蕩けた明美の顔を見た瞬間、風也の中に残った最後の理性は砕け散った。
ダン!
「キャッ・・・・・・」
彼は自らの獣欲に命ぜられるままに明美を強引に倒した。その衝撃で白いエプロンが捲れ上がり彼女の濡れた花弁が風也の目の前に曝け出される。彼女の花弁より溢れだした蜜は整えられた白いアンダーヘアーを濡らし、そのシミ一つない下腹部にべったりと張り付いていた。それは発情し赤黒く染まった彼女のヴァギナをいやらしく強調させている。
「犯してやるぜ」
カチャ!ガチャ!!
ベルトを外すのももどかしい。ズボンを引き抜くように、半ば強引にズボンを脱ぎ、風也はグロテスクにそそり立ったソレを明美に見せつける。
それは鎌首を上げた毒蛇のようにも見え、鈴口からは先走りがまるで涎のように滴った。
「・・・・なんでお前嬉しそうにしてんだ?」
犯されようとされている「はず」の明美の表情は歓喜に満ちていた。それこそ餌を前にした犬のように・・・・。
「俺はお前を汚して貪ろうとしてんだぞ!!!!!ホラ泣けよ!!喚けよ!!!俺を・・・俺をもっと蔑めよ!!!」
彼はただ明美が昔のように接してくれればよかった。それで満足できた。
でも再会した明美は昔とうって変わって彼を避けていた。
だから・・・・。
「そんな顔するなら・・なんで!なんであの時俺を見捨てたんだ!どうせお前も自分の為だけに理由なく人を排除するヤツらと一緒だろ!!」
彼、沖成風也は「不良」だ。
しかし、弱いものを不当に扱うことなどせず、学業もトップだ。
だが、彼が虐めを受けていた学生を助けた頃から彼は「不良」扱いされるようになった。
大人の言う「優等生」は他者に干渉せず無関心で、ただ学業に専念していればよい。
優等生の「本分」を忘れた彼に「大人」は冷淡だった。
さりとて、処分しようにも彼は学年成績トップであり、理由なき処分は自分たちの立場を悪くする。
そんな時に、彼が乾之助をオークから助け出したことが知れ渡った。。
「大人」は理由あっても彼が暴力をふるった事、それのみを問題にして停学処分を下したのだ。
だからなのだろう。
再び出会った、彼が唯一心から信頼できる「大人」である白沢明美にすがったのは・・・・。
「見捨ててなんて、いないさ・・・・!」
ギュッ!
不意に暖かな感触が風也を包んだ。
「これで形勢逆転だな風也ご主人様?王様ごっこは楽しかったか?」
「え?なんで催眠に掛かっているはずなのにどうして!」
「風也、そんなことなんてどうでもいいだろ?今は・・・」
明美がその肢体を密着させ風也に圧し掛かり汗と愛液に汚れたエプロンを脱ぎ捨てる。彼女の足の間からはポタリポタリと淫液が滴り落ち、フローリングに敷かれた上等な絨毯のシミとなった。
驚く風也にその餓えた肉食獣のように赤く充血し涎を垂らすヴァギナを見せつけた。
「風也・・・・!私はお前が欲しい!!!お前の全てを貪り尽くしたいんだ!!お前を・・・・、お前を他の女なんかに渡すものか!!」
風也はその時、明美の瞳を見た。
その瞳は淫欲に満ちたものでありながら、それでいて恋する少女のように純粋だった。
「不良と呼ばれる、こんなクズでもいいのか?」
明美は頷くと、二人は重なり合った。
「まさか、これが・・・・・」
風也の手にはスマートフォンが握られていた。ディスプレーには例の「催眠調教アプリ」が起動している。
彼がレームと名乗るデーモンから手に入れたアプリ。それは人間にとって都合のいい「魔物娘専用の催眠調教アプリ」などではなかったのだ。
その正体は・・・・。
― 「魔物娘専用出会い系アプリ」 ―
アプリを起動した際に表示されるのは「人間」にとってはただの猫画像であるが、魔物娘の目には使用者の本名、年齢、性行為の有無、そしてどのようなプレイを好むかが表示される。
そして最後には・・・・。
「この男が気に入ったら催眠に掛かったふりをしてください」と、表示されるのだ。
このアプリをばら撒いてる過激派にとっては魔物娘に邪な思いを持つ人間を効率よく駆逐できるし、「アプリ」を使用された魔物娘にとっては合意の上で彼らを犯すことができる。男も形はどうであれパートナーを得ることができるのだ。ある意味需要と供給が一致していた。
また、一定期間後に自動消去されてしまうことからアプリの存在は噂されていても一度も摘発されていない為、半ば「黙認」されている。
「先生。あの時なんで俺を避けるようにしていたんだ?」
「風也・・・以前のように私の事は明美お姉ちゃんでもいいぞ?それはだな・・・ちょっと込み入った話になるがいいか?」
「ああ」
風也は静かに頷いた。
「あの後、教員免許を得た私はすぐさまココへ戻ろうとした。だがそれに待ったがかかった」
「待ったがかかったって、それは一体?」
「学園からだよ。学園を統べるバフォメットのジル学園長に呼び出された私は文部科学省の役人と会うことになった。そこで私は二人から重要な使命を与えられた」
「その使命というのは・・・?」
風也が恐る恐る尋ねる。
「各地の学区を回り秘密裏に情報収集、可能なら実力で魔物娘受け入れに対する障害を排除すること。つまりは文部科学省直属のスパイになることだった」
明美が風也に向かい合う。
「魔物娘の移住が認められて以来、魔物と結婚する人間の数は日に日に増えている。彼らが子供を産んだら?」
「それは普通に学校に行って・・・」
「そうだ。だが、今の教育現場は魔物という存在を完全に受け入れられているとはいいがたい。一部市町村では受け入れを開始しているがまだまだだ」
彼女は静かに目を伏せる。
「髪の色や肌の色の違いや人種の違い、それだけでも人は容易く他人を排除する。時には守るべき立場の大人が、自分の身分惜しさに見て見ぬふりをすることさえある。そんな中第二世代の魔物が入学したらどうなる?私は教師としてスパイとなることを了承した」
「スパイって、そんなことお姉ちゃんがしなくても!」
「なぁ風也。私じゃなければ誰でいいのだ?」
「そ、それは・・・・」
「汚れ仕事というのは常に誰かがやらねばならない事なのだよ。一定期間が過ぎれば別の学校へ、そんな生活を繰り返すうちに君と再会したんだ」
そのとき明美の瞳に涙が落ちたのを風也は見た。
「君が昔のように私を呼んだ時、本当はあの時君を抱きしめたかった!愛していると言いたかった!でもできなかった・・・。君が私にアプリを使った瞬間、私は迷った。受け入れるかそれとも拒絶するか」
彼女が顔を伏せる。
「もし拒絶して他の魔物にそれを使ったら?君が他の魔物に犯されるのなんて見たくない!だから・・・私は催眠に掛かったふりをしたんだ。使命だなんだと言っても所詮は私も雌だったワケさ」
ギュッ!
風也は明美を抱きしめた。その身体は幼い頃見た時よりも柔らかくて暖かくて・・・・とても小さかった。
「あんなことをしてしまったけど・・・俺は明美お姉ちゃんの事を愛しています。ずっとそばにいて欲しい。これからも・・・」
明美は風也を抱きしめ返した。その目に宿るのは「決意」。
「風也、全てを捨てて私と一緒に来てくれないか?」
週が始まると、学校に二人の姿はなかった。
二人の事が話題になったのはそれから一週間くらいで、その後に起こった教職員の「大量辞職」のことの方が問題となり次第に二人の事を思い出す者もいなくなっていった・・・。
そして半年後、全国のいじめ発生件数は三分の一ほども減少した。文部科学省の担当官は「真摯な啓蒙活動」の結果と胸を張るが、その裏に「巡回判事(サーキット・ジャッジ)」と呼ばれる組織の存在と、そこに在籍する「白澤とその伴侶」の活躍について知る者は少ない。
「先輩!僕のカレーの味はどうですか?」
エプロン姿の乾之助が微笑む。
あまりにも似合いすぎて思わず合田楊一郎は思わず頬を赤らめてしまう。
〜 何をドキドキしてんだ俺は!相手は男だぞ! 〜
「八幡乾之助」
上級生は俺しかいない「柔術部」の後輩だ。
― 強くなりたい ―
それだけの理由で乾之助入部したが、ハッキリ言って乾之助に才能は無かった。入部テストの際、受け身が全く出来なかったといえばある程度察することができる。
だが、乾之助はそれにめげず毎日毎日つらい基礎訓練を積んでいった。
柔術の基本は体捌きであり、ボクシングや空手のような筋力が全てではない。
筋力に関しては駄目だったが、体捌きに関して言えば確実に乾之助は強くなってきている。
今日は輸入代理店を営んでいる両親が仕入れを兼ねた旅行中で家には誰もいないということで、言い方は悪いがボディガードとして乾之助の家にお邪魔している。家のでかさと玄関に古めかしい鎧が飾ってあったのには笑ってしまったが。
・・・・乾之助は以前オークに襲われかけたことがある。
幸い、風也という同級生が助けたというが魔物はしつこいと聞く。
可能性は低いとはいえオークがお礼参りする可能性もあるからだ。
「しっかし本当に美味しいな。肉は牛肉だろうけど臭みは無いしそれでいて柔らかいな」
「うん。内緒だけどお父さんの秘蔵のワインを下ごしらえに使ってみたんだ!それにこのカレーは白沢先生に教えてもらって自分でスパイスから調合したんだよ!」
「スパイスからって・・・・。乾之助が女の子なら嫁にしたいくらいだ」
不意に合田が漏らした本音。
その時だった。
急に食卓の空気が変わったことを合田は感じた。
「え?僕が女の子なら嫁にしたいって?・・・・合田先輩、本当ですね?嘘じゃないですよね?」
乾之助の瞳に何かが浮かぶ。
合田が武術のみならず、色事にも見識があれば乾之助の瞳に浮かぶそれが「何か」は理解できただろう。
「お・・おい!乾之助何か変だぞお前」
「変?そう・・・合田先輩にはそう見えるんだ・・・」
乾之助の身体を青白い焔が包む。
焔の中で乾之助の頭に捻じれた角が生え、そしてその腰からは特徴的な尻尾が伸ばされていき、小振りな翼手類を思わせる翼が広がる。
「女の子になったからお嫁さんにしてくれるよね?」
― アルプ ―
サキュバスの変種にして男性が素体となる魔物の一つだ。
「合田楊一郎」は女性が「嫌い」だった。
総合格闘家として時代の寵児となった父とモデル出身の母。傍から見れば理想の家族。だがそれは「虚像」だった。
父親が家にいるときは貞淑に振舞う癖に、父が遠征に出かけるとすぐさま年下の男を引っ張り込む母。離婚の際、合田が父についたのは必然だった。
母性を失った合田にとっては女は「醜悪」な生き物であり、合田は「女」を愛せないという意味では「同性愛者」と同じだったのだ。
だが目の前の「魔物」はどうだ。
雌ライオンを思わせるしなやかな筋肉、女性でありながらも雌を感じず、男性よりも強い力を秘めていた。
「綺麗だ・・・・」
合田は彼女を賛美した。
「嬉しい・・合田先輩・・・」
アルプと転化した乾之助が合田に近づく。そして合田も・・・・。
二人の唇が重なる、その刹那。
キィィィぃィィィン!
バシ!バシ!バシ!
何者かがダイニングのドアを粉砕した。
「乾之助、つまみ食いなら許そう・・・・だが、貴様ナニフルコースを喰おうとしておる!」
見るとエントラスに飾ってあったハズのプレートアーマーが宙に浮かんでいた。ヘルムからは青白いながらも整った面立ちが覗く。
「あ、あの〜〜この方は?」
「それはその・・・・」
「余はレダ。白雷の勇者リュオンの従者にして相棒なり。今はワケあって魔物に変じておる」
「実は・・・・」
何でも、乾之助の両親が外地から輸入した雑貨の中にこの鎧が紛れていたようで、送り返すわけにもいかないのでそのまま飾りとして家に置いてあったのだそうだ。
で、出来心でその鎧を乾之助が装着した途端に活性化。溢れだしたレダの力によって乾之助は半アルプとなってしまったのだそうだ。
シュル・・・・・・
「で、なんで乾之助は服を脱ぎ始めているんだ?怖いんですけど」
「それはね・・・」
魔物二人と童貞がいて、何も起こらないわけはなく・・・。
「「合田先輩を、食べるためだよ!!!」」
「え、え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「この者に中々の才能を感じるぞ乾之助。やっと余のお眼鏡に叶う益荒男が!」
「でしょ!」
「あの〜〜俺に選択権は・・・・」
「「コンドー(ム)無用!!!!」」
カーン!
(夜の)闘いの開幕ゴングが鳴り響いた。
リビングアーマ―「レダ」を纏いセコンドにアルプの乾之助を侍らせた合田が、釘バットやチェーンソー等の武器でガチにどつき合う(全て魔界銀製なので安全です)エクストリーム格闘技「アームドファイト」で「デス・ディーラー(死を与えるもの)」と呼ばれ、絶対王者として後に君臨することになるのだが、それはまたの機会に・・・・・。
うらびれた名画座。
観客席はガラガラで酔っ払いが映画を見ずに寝息を立てている。
ギィ・・・
建付けの悪いドアを開きビジネススーツを着た一人の女性が入ってくる。
「・・・・・」
女性は軽く辺りを伺うと、映写機近くの席に座る女性 ― 否、デーモン ― の隣に座る。
「依頼のあった理工研のデータ。足はついていないよ」
デーモンは女性からデータカードを受け取ると、懐から取り出したスマートフォンにそれを差し込み中身を確認する。
「ラタトスクに転化しても、その仕事の速さは変わっていないわね付野」
「報酬はいつも通りに」
「ええ」
スマートフォンをフリップして軽く二度叩くと、付野と呼んだ女性に顔を向ける。
「仕事の話はそこまでにして、映画でも見ていかないかしら?」
「古い白黒映画は辛気臭くて私は苦手だな」
「あら、映画はいいわ。この世界に来て良かったと思えることの一つよ」
銀幕に映し出されるのはドイツで戦前に制作された無声映画で、題名は「ファウスト」。
― ファウスト ―
文豪ゲーテがドイツの伝説的な人物ファウスト博士の伝承を集めて「人の持つ罪と罰」、そして「魂の救済」をテーマに書いた戯曲だ。
「そうねぇ、例えばだけど、あのメフィストフェレスが女性でファウスト博士に恋をしていたとしたらどうかしら?」
「女性?」
「そうよ。私達デーモンは元々は人への悪意のみで生み出された存在。もしその存在が本気で人間に惚れたら?」
「・・・・・」
「きっとファウスト博士の恋人を断頭台に送り、彼の欲しがるもの全てを与えるでしょう。それでも愛してもらえないから・・・・彼から光を奪った」
銀幕では原作の終章、すなわちファウストが灰色の女に光を奪われるシーンが流される。
「でも彼は光を失ってもメフィストフェレスを愛さず、彼女と地獄に落ちることすら否定しファウストの所為で断頭台へと送られた恋人の元へと行く・・・これは悲恋よ、デーモンにとって」
「まるで見て来たみたいに言うのね」
「私がそのメフィストフェレス本人と言ったらどうかしら?」
その時その付野はレームの「笑顔」を見た。
男なら、彼女の笑顔をその場で押し倒したくなるほどの魅惑的な笑顔だと称するだろう。
「ヒィッ!」
女性である付野が悲鳴をあげる。
その笑顔の下に横たわるもの。そこにあるものは「闇」。
おおよそ例えることのできない罪と死や絶望が交じり合い、夜の闇よりも暗い虚無がそこにあった。
「か、帰るわ!」
青ざめた表情の付野が慌ただしく席を立つ。
「冗談よ冗談。もう少しゆっくりしていけばいいのに。依頼があったら連絡するわね。その時にまた会いましょう。もしかしたら・・・・」
デーモン、「マクスウェル・レーム」が微笑む。
「今夜貴方の夢の中かもね」
― 驚いた?うん!やっと成れたんだ!これも先生のおかげだよ!! ―
― これで・・・・・やっと・・・・! ―
― でもねぇ、ねぇ先生・・・・最後に一つだけお願いがあるんだ ―
― ・・・・・・・先生。どうしたの?そんな顔をして?―
― 先生にしてほしいお願いは別に難しいことじゃないんだ。本当だよ? ―
― ちょっと料理の手伝いをしてほしいだけなんだからさ ―
― ねぇ、先生。「ビーフカレー」って好き? ―
今日は待ちに待った日曜日。
俺ははやる気持ちを抑えながら、幼い頃何度も通ったあの「牛女」の住んでいた赤い屋根の家のチャイムを鳴らす。
ピンポーン!
静かにドアが開き明美が顔を覗かせる。彼女は家の中なのにすっぽりと冬用のコートを羽織っていた。
ゴクリ
ベージュ色の飾り気のないコート。
そのコートの下に隠されたものに思わず、生唾を飲み込んだ。
「全てご主人様の注文通り・・・です」
まだ何もしていないのに彼女の端正な顔は既に羞恥に赤く染まっている。心なしか淫靡な雌の香りが漂っているようにも感じる。
「じゃあ早速上がらせてもらうぜ。いいな牛女?」
「・・・はいご主人様」
ガチャ!
俺は玄関に入るとすぐさまドアを施錠した。邪魔なんて入らないだろうが、念には念をだ。
「おい、牛女!!さっさとその邪魔なコートを脱いでもらおうか!」
「はい、ご主人様」
シュ・・・パサッ!
明美が身に纏うコートを脱ぐ。そこから現れたのは白いレースの施されたエプロンだった。しかし・・・・。
「み・・見ないでください・・・・」
コート、その下は明美は何も履いていない。否、彼がそれを許さなかったのだ。
「流石にオヤジっぽい趣向とは思ったが、裸エプロンも中々オツなものだな。おい、牛女!そのみっともない乳を隠せよ。エプロンからこぼれ落ちてるぜ?」
「!」
彼女は思わず胸元を隠し、その白い肌を更に紅潮させる。
「さてと、おもてなしを頼もうかな。なあ明美?」
エプロンからはしたなく零れ落ちた胸元を隠しながら、静かに彼女は頷いた。
ジュー・・・・
パステルカラーでまとめられた見慣れたダイニングキッチンにバターの濃厚な香りが漂う。
「懐かしいよな・・・牛女。よく親父が仕事で家を空けるときにお前はいつもパンケーキを作ってくれたっけ。だろ?」
サワッ
傍らの風也が彼女の水蜜桃のような瑞々しいヒップを撫で上げる。
「うぅっ!」
不意の愛撫に明美は身を強張らせる。だが彼女の身体は正直だった。
「おい牛女!その空気入れたみたいに膨れたケツを撫でられて感じてんのか?尻尾も振ってさ!」
ギュッ!
彼はくねらすように蠢く明美の柔らかな尻尾を強引に掴んだ。
「痛ッ!」
「おやおや、魔物娘様は人間よりも強いんじゃなかったっけ?まあいいさ・・・・このケツも乳房も全部俺の物だからな!!!」
風也は身体を密着させて、左手で乳房を強引に愛撫し右手をエプロンの下、明美のヴァギナにあてがった。ぬるりとした蜜が風也の右手を濡らす。
「・・・・アッ!」
人間の女なら快楽よりも痛みしか感じないような荒々しい愛撫でも、魔物娘としての本能なのか悦楽の吐息がそのバラ色の唇から滲む。
「もう濡れてんじゃねーかよ!裸エプロンで興奮したのか?スキモノだなお前!!」
淫欲に蕩けた明美の顔を見た瞬間、風也の中に残った最後の理性は砕け散った。
ダン!
「キャッ・・・・・・」
彼は自らの獣欲に命ぜられるままに明美を強引に倒した。その衝撃で白いエプロンが捲れ上がり彼女の濡れた花弁が風也の目の前に曝け出される。彼女の花弁より溢れだした蜜は整えられた白いアンダーヘアーを濡らし、そのシミ一つない下腹部にべったりと張り付いていた。それは発情し赤黒く染まった彼女のヴァギナをいやらしく強調させている。
「犯してやるぜ」
カチャ!ガチャ!!
ベルトを外すのももどかしい。ズボンを引き抜くように、半ば強引にズボンを脱ぎ、風也はグロテスクにそそり立ったソレを明美に見せつける。
それは鎌首を上げた毒蛇のようにも見え、鈴口からは先走りがまるで涎のように滴った。
「・・・・なんでお前嬉しそうにしてんだ?」
犯されようとされている「はず」の明美の表情は歓喜に満ちていた。それこそ餌を前にした犬のように・・・・。
「俺はお前を汚して貪ろうとしてんだぞ!!!!!ホラ泣けよ!!喚けよ!!!俺を・・・俺をもっと蔑めよ!!!」
彼はただ明美が昔のように接してくれればよかった。それで満足できた。
でも再会した明美は昔とうって変わって彼を避けていた。
だから・・・・。
「そんな顔するなら・・なんで!なんであの時俺を見捨てたんだ!どうせお前も自分の為だけに理由なく人を排除するヤツらと一緒だろ!!」
彼、沖成風也は「不良」だ。
しかし、弱いものを不当に扱うことなどせず、学業もトップだ。
だが、彼が虐めを受けていた学生を助けた頃から彼は「不良」扱いされるようになった。
大人の言う「優等生」は他者に干渉せず無関心で、ただ学業に専念していればよい。
優等生の「本分」を忘れた彼に「大人」は冷淡だった。
さりとて、処分しようにも彼は学年成績トップであり、理由なき処分は自分たちの立場を悪くする。
そんな時に、彼が乾之助をオークから助け出したことが知れ渡った。。
「大人」は理由あっても彼が暴力をふるった事、それのみを問題にして停学処分を下したのだ。
だからなのだろう。
再び出会った、彼が唯一心から信頼できる「大人」である白沢明美にすがったのは・・・・。
「見捨ててなんて、いないさ・・・・!」
ギュッ!
不意に暖かな感触が風也を包んだ。
「これで形勢逆転だな風也ご主人様?王様ごっこは楽しかったか?」
「え?なんで催眠に掛かっているはずなのにどうして!」
「風也、そんなことなんてどうでもいいだろ?今は・・・」
明美がその肢体を密着させ風也に圧し掛かり汗と愛液に汚れたエプロンを脱ぎ捨てる。彼女の足の間からはポタリポタリと淫液が滴り落ち、フローリングに敷かれた上等な絨毯のシミとなった。
驚く風也にその餓えた肉食獣のように赤く充血し涎を垂らすヴァギナを見せつけた。
「風也・・・・!私はお前が欲しい!!!お前の全てを貪り尽くしたいんだ!!お前を・・・・、お前を他の女なんかに渡すものか!!」
風也はその時、明美の瞳を見た。
その瞳は淫欲に満ちたものでありながら、それでいて恋する少女のように純粋だった。
「不良と呼ばれる、こんなクズでもいいのか?」
明美は頷くと、二人は重なり合った。
「まさか、これが・・・・・」
風也の手にはスマートフォンが握られていた。ディスプレーには例の「催眠調教アプリ」が起動している。
彼がレームと名乗るデーモンから手に入れたアプリ。それは人間にとって都合のいい「魔物娘専用の催眠調教アプリ」などではなかったのだ。
その正体は・・・・。
― 「魔物娘専用出会い系アプリ」 ―
アプリを起動した際に表示されるのは「人間」にとってはただの猫画像であるが、魔物娘の目には使用者の本名、年齢、性行為の有無、そしてどのようなプレイを好むかが表示される。
そして最後には・・・・。
「この男が気に入ったら催眠に掛かったふりをしてください」と、表示されるのだ。
このアプリをばら撒いてる過激派にとっては魔物娘に邪な思いを持つ人間を効率よく駆逐できるし、「アプリ」を使用された魔物娘にとっては合意の上で彼らを犯すことができる。男も形はどうであれパートナーを得ることができるのだ。ある意味需要と供給が一致していた。
また、一定期間後に自動消去されてしまうことからアプリの存在は噂されていても一度も摘発されていない為、半ば「黙認」されている。
「先生。あの時なんで俺を避けるようにしていたんだ?」
「風也・・・以前のように私の事は明美お姉ちゃんでもいいぞ?それはだな・・・ちょっと込み入った話になるがいいか?」
「ああ」
風也は静かに頷いた。
「あの後、教員免許を得た私はすぐさまココへ戻ろうとした。だがそれに待ったがかかった」
「待ったがかかったって、それは一体?」
「学園からだよ。学園を統べるバフォメットのジル学園長に呼び出された私は文部科学省の役人と会うことになった。そこで私は二人から重要な使命を与えられた」
「その使命というのは・・・?」
風也が恐る恐る尋ねる。
「各地の学区を回り秘密裏に情報収集、可能なら実力で魔物娘受け入れに対する障害を排除すること。つまりは文部科学省直属のスパイになることだった」
明美が風也に向かい合う。
「魔物娘の移住が認められて以来、魔物と結婚する人間の数は日に日に増えている。彼らが子供を産んだら?」
「それは普通に学校に行って・・・」
「そうだ。だが、今の教育現場は魔物という存在を完全に受け入れられているとはいいがたい。一部市町村では受け入れを開始しているがまだまだだ」
彼女は静かに目を伏せる。
「髪の色や肌の色の違いや人種の違い、それだけでも人は容易く他人を排除する。時には守るべき立場の大人が、自分の身分惜しさに見て見ぬふりをすることさえある。そんな中第二世代の魔物が入学したらどうなる?私は教師としてスパイとなることを了承した」
「スパイって、そんなことお姉ちゃんがしなくても!」
「なぁ風也。私じゃなければ誰でいいのだ?」
「そ、それは・・・・」
「汚れ仕事というのは常に誰かがやらねばならない事なのだよ。一定期間が過ぎれば別の学校へ、そんな生活を繰り返すうちに君と再会したんだ」
そのとき明美の瞳に涙が落ちたのを風也は見た。
「君が昔のように私を呼んだ時、本当はあの時君を抱きしめたかった!愛していると言いたかった!でもできなかった・・・。君が私にアプリを使った瞬間、私は迷った。受け入れるかそれとも拒絶するか」
彼女が顔を伏せる。
「もし拒絶して他の魔物にそれを使ったら?君が他の魔物に犯されるのなんて見たくない!だから・・・私は催眠に掛かったふりをしたんだ。使命だなんだと言っても所詮は私も雌だったワケさ」
ギュッ!
風也は明美を抱きしめた。その身体は幼い頃見た時よりも柔らかくて暖かくて・・・・とても小さかった。
「あんなことをしてしまったけど・・・俺は明美お姉ちゃんの事を愛しています。ずっとそばにいて欲しい。これからも・・・」
明美は風也を抱きしめ返した。その目に宿るのは「決意」。
「風也、全てを捨てて私と一緒に来てくれないか?」
週が始まると、学校に二人の姿はなかった。
二人の事が話題になったのはそれから一週間くらいで、その後に起こった教職員の「大量辞職」のことの方が問題となり次第に二人の事を思い出す者もいなくなっていった・・・。
そして半年後、全国のいじめ発生件数は三分の一ほども減少した。文部科学省の担当官は「真摯な啓蒙活動」の結果と胸を張るが、その裏に「巡回判事(サーキット・ジャッジ)」と呼ばれる組織の存在と、そこに在籍する「白澤とその伴侶」の活躍について知る者は少ない。
「先輩!僕のカレーの味はどうですか?」
エプロン姿の乾之助が微笑む。
あまりにも似合いすぎて思わず合田楊一郎は思わず頬を赤らめてしまう。
〜 何をドキドキしてんだ俺は!相手は男だぞ! 〜
「八幡乾之助」
上級生は俺しかいない「柔術部」の後輩だ。
― 強くなりたい ―
それだけの理由で乾之助入部したが、ハッキリ言って乾之助に才能は無かった。入部テストの際、受け身が全く出来なかったといえばある程度察することができる。
だが、乾之助はそれにめげず毎日毎日つらい基礎訓練を積んでいった。
柔術の基本は体捌きであり、ボクシングや空手のような筋力が全てではない。
筋力に関しては駄目だったが、体捌きに関して言えば確実に乾之助は強くなってきている。
今日は輸入代理店を営んでいる両親が仕入れを兼ねた旅行中で家には誰もいないということで、言い方は悪いがボディガードとして乾之助の家にお邪魔している。家のでかさと玄関に古めかしい鎧が飾ってあったのには笑ってしまったが。
・・・・乾之助は以前オークに襲われかけたことがある。
幸い、風也という同級生が助けたというが魔物はしつこいと聞く。
可能性は低いとはいえオークがお礼参りする可能性もあるからだ。
「しっかし本当に美味しいな。肉は牛肉だろうけど臭みは無いしそれでいて柔らかいな」
「うん。内緒だけどお父さんの秘蔵のワインを下ごしらえに使ってみたんだ!それにこのカレーは白沢先生に教えてもらって自分でスパイスから調合したんだよ!」
「スパイスからって・・・・。乾之助が女の子なら嫁にしたいくらいだ」
不意に合田が漏らした本音。
その時だった。
急に食卓の空気が変わったことを合田は感じた。
「え?僕が女の子なら嫁にしたいって?・・・・合田先輩、本当ですね?嘘じゃないですよね?」
乾之助の瞳に何かが浮かぶ。
合田が武術のみならず、色事にも見識があれば乾之助の瞳に浮かぶそれが「何か」は理解できただろう。
「お・・おい!乾之助何か変だぞお前」
「変?そう・・・合田先輩にはそう見えるんだ・・・」
乾之助の身体を青白い焔が包む。
焔の中で乾之助の頭に捻じれた角が生え、そしてその腰からは特徴的な尻尾が伸ばされていき、小振りな翼手類を思わせる翼が広がる。
「女の子になったからお嫁さんにしてくれるよね?」
― アルプ ―
サキュバスの変種にして男性が素体となる魔物の一つだ。
「合田楊一郎」は女性が「嫌い」だった。
総合格闘家として時代の寵児となった父とモデル出身の母。傍から見れば理想の家族。だがそれは「虚像」だった。
父親が家にいるときは貞淑に振舞う癖に、父が遠征に出かけるとすぐさま年下の男を引っ張り込む母。離婚の際、合田が父についたのは必然だった。
母性を失った合田にとっては女は「醜悪」な生き物であり、合田は「女」を愛せないという意味では「同性愛者」と同じだったのだ。
だが目の前の「魔物」はどうだ。
雌ライオンを思わせるしなやかな筋肉、女性でありながらも雌を感じず、男性よりも強い力を秘めていた。
「綺麗だ・・・・」
合田は彼女を賛美した。
「嬉しい・・合田先輩・・・」
アルプと転化した乾之助が合田に近づく。そして合田も・・・・。
二人の唇が重なる、その刹那。
キィィィぃィィィン!
バシ!バシ!バシ!
何者かがダイニングのドアを粉砕した。
「乾之助、つまみ食いなら許そう・・・・だが、貴様ナニフルコースを喰おうとしておる!」
見るとエントラスに飾ってあったハズのプレートアーマーが宙に浮かんでいた。ヘルムからは青白いながらも整った面立ちが覗く。
「あ、あの〜〜この方は?」
「それはその・・・・」
「余はレダ。白雷の勇者リュオンの従者にして相棒なり。今はワケあって魔物に変じておる」
「実は・・・・」
何でも、乾之助の両親が外地から輸入した雑貨の中にこの鎧が紛れていたようで、送り返すわけにもいかないのでそのまま飾りとして家に置いてあったのだそうだ。
で、出来心でその鎧を乾之助が装着した途端に活性化。溢れだしたレダの力によって乾之助は半アルプとなってしまったのだそうだ。
シュル・・・・・・
「で、なんで乾之助は服を脱ぎ始めているんだ?怖いんですけど」
「それはね・・・」
魔物二人と童貞がいて、何も起こらないわけはなく・・・。
「「合田先輩を、食べるためだよ!!!」」
「え、え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「この者に中々の才能を感じるぞ乾之助。やっと余のお眼鏡に叶う益荒男が!」
「でしょ!」
「あの〜〜俺に選択権は・・・・」
「「コンドー(ム)無用!!!!」」
カーン!
(夜の)闘いの開幕ゴングが鳴り響いた。
リビングアーマ―「レダ」を纏いセコンドにアルプの乾之助を侍らせた合田が、釘バットやチェーンソー等の武器でガチにどつき合う(全て魔界銀製なので安全です)エクストリーム格闘技「アームドファイト」で「デス・ディーラー(死を与えるもの)」と呼ばれ、絶対王者として後に君臨することになるのだが、それはまたの機会に・・・・・。
うらびれた名画座。
観客席はガラガラで酔っ払いが映画を見ずに寝息を立てている。
ギィ・・・
建付けの悪いドアを開きビジネススーツを着た一人の女性が入ってくる。
「・・・・・」
女性は軽く辺りを伺うと、映写機近くの席に座る女性 ― 否、デーモン ― の隣に座る。
「依頼のあった理工研のデータ。足はついていないよ」
デーモンは女性からデータカードを受け取ると、懐から取り出したスマートフォンにそれを差し込み中身を確認する。
「ラタトスクに転化しても、その仕事の速さは変わっていないわね付野」
「報酬はいつも通りに」
「ええ」
スマートフォンをフリップして軽く二度叩くと、付野と呼んだ女性に顔を向ける。
「仕事の話はそこまでにして、映画でも見ていかないかしら?」
「古い白黒映画は辛気臭くて私は苦手だな」
「あら、映画はいいわ。この世界に来て良かったと思えることの一つよ」
銀幕に映し出されるのはドイツで戦前に制作された無声映画で、題名は「ファウスト」。
― ファウスト ―
文豪ゲーテがドイツの伝説的な人物ファウスト博士の伝承を集めて「人の持つ罪と罰」、そして「魂の救済」をテーマに書いた戯曲だ。
「そうねぇ、例えばだけど、あのメフィストフェレスが女性でファウスト博士に恋をしていたとしたらどうかしら?」
「女性?」
「そうよ。私達デーモンは元々は人への悪意のみで生み出された存在。もしその存在が本気で人間に惚れたら?」
「・・・・・」
「きっとファウスト博士の恋人を断頭台に送り、彼の欲しがるもの全てを与えるでしょう。それでも愛してもらえないから・・・・彼から光を奪った」
銀幕では原作の終章、すなわちファウストが灰色の女に光を奪われるシーンが流される。
「でも彼は光を失ってもメフィストフェレスを愛さず、彼女と地獄に落ちることすら否定しファウストの所為で断頭台へと送られた恋人の元へと行く・・・これは悲恋よ、デーモンにとって」
「まるで見て来たみたいに言うのね」
「私がそのメフィストフェレス本人と言ったらどうかしら?」
その時その付野はレームの「笑顔」を見た。
男なら、彼女の笑顔をその場で押し倒したくなるほどの魅惑的な笑顔だと称するだろう。
「ヒィッ!」
女性である付野が悲鳴をあげる。
その笑顔の下に横たわるもの。そこにあるものは「闇」。
おおよそ例えることのできない罪と死や絶望が交じり合い、夜の闇よりも暗い虚無がそこにあった。
「か、帰るわ!」
青ざめた表情の付野が慌ただしく席を立つ。
「冗談よ冗談。もう少しゆっくりしていけばいいのに。依頼があったら連絡するわね。その時にまた会いましょう。もしかしたら・・・・」
デーモン、「マクスウェル・レーム」が微笑む。
「今夜貴方の夢の中かもね」
19/11/30 14:11更新 / 法螺男
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