幕間1 − 神待ちJK −
― ソー・・・・レッ!! ―
部活の連中の掛け声を聞きながら、あたしは屋上で一人大の字に横になる。これがあたし、JKである「スズ・クシャトリア」の日常。
「ッたく!なんでそんなにも暑苦しくなれんのかね?」
「それはそれが自分の将来の為だからですわスズ、内申も良くなるし。もっとも部活に身を捧げる自分に酔ってるかもしれませんけど」
「ノーマ!」
アタシの親友である「ノーマ・クリスタル」の明るいベージュ色の髪が揺れる。相当シャンプーにこだわっているのだろう、柔らかくていい匂いがする。
「スズ・・・この暖かな日差しの中で大の字で横になりたい気持ちもわかりますが、スカートが捲れあがってませんこと?」
「へ?」
あたしが見るとグレーのプリーツスカートが捲り上がり、あたしのお気に入りであるパープルのショーツが顔を出していた。
「まぁ、いつでも臨戦態勢であるのはレディーの嗜みですから(笑」
涼やかな笑みでそう言う親友のノーマ・クリスタル。あたしはちょっとした意地悪を思いついた。
「ううっ!こうなったら・・・・ノーマ!!お前のパンツは何色だぁぁぁぁぁぁ!!!」
「えっ?!!キャァァァァァ!!!!」
バッ!!
私が捲り上げたスカートの奥にあったのはノーマの小振りなヒップを収める、ブランドものであろう少々お高いショーツだった。
「黒のシースルーなんて流石はレディー(笑」
「ううっ・・・・お嫁にいけませんわ・・・・」
「ふ〜〜ん・・・・。ノーマ、なんならあたしが嫁にもらってあげようか?」
いつもは余裕のあるふりをしているノーマの顔がみるみる赤く染まる。
「は?!そんなワタクシにも心の準備というものが・・・・」
「そんなの待ってられないからヤッちゃうよ?」
ノーマとあたしの唇が近づいていく。そして・・・・
「うっそぉ〜〜〜〜〜!!!」
「このぉぉぉぉぉ!スズ!!!乙女の純情を弄んで・・・・今日という今日は許さないですわぁぁぁぁ!!!!」
「キャハハ!!!!熊みたいにこわ〜〜〜い!!」
「そう言えばノーマ。午後の授業は?」
「なんですの?藪から棒に。確か・・・地理担当のカトリーヌ先生の授業でしたわね」
「ならあたしパス。フケて神待ちしようと思うんで」
「ワタクシとしては神待ちというのは健全な学生にはいかがかと・・・・」
「あ、ノーマって結構貞操がガチガチなんだ〜〜〜」
「そうじゃありませんわ!!ワタクシには殿方と理想のシチュエーションというものが・・・」
「そんな悠長な事言ってると、今に威張り切ったあのお局様みたいになるわよ?」
「ウッ・・・・・」
「神待ちっても、男の人とただ一緒に食べてのんびりするだけじゃん!気に入ればヤっちまえばいいんだし。最近は金持ちの観光客も多いし、それに・・・」
あたしは立ち上がるとパンパンとスカートに着いたホコリを落とす。
「早くしないとその気合の入ったパンツが無駄になるよ?」
ノーマにそう言うとあたしは笑った。
― ドラゴニア竜騎士団本部 大食堂 ―
「ねぇねぇ彰くん!今日のお昼は外食しな〜〜い?」
ワイバーンやドラゴンなどが犇めく食堂の中で一人の女性の声が明るく響く。彼女の名前は「若葉 響」。
このドラゴニアへは伴侶である「斎藤 彰」とともに「二度目の新婚旅行」に訪れた、ただの観光客だ。
しかしながら彼らは「災難の女神」の寵愛を受けているらしい。今回も知り合いであるワイバーンの「クーラ」をめぐる陰謀に巻き込まれてしまった。
「あ、いいけど・・・どこに食べに行くつもりだい?」
若葉の夫である彰が食べていたトーストを皿に置いた。
「ジャーン!!これよ!!」
「どれどれ・・・」
― ラブライド・ドラゴニア本店限定 直火焼きドラバーガー!!今だけ肉増量中!!
― カップルで分け合うもよし! ―
― 気の合う友人と食べるもよし! ―
― 1人で己の限界の先に挑戦するもよし!! ―
若葉の手にしたチラシにはこれでもか!というくらいに肉汁溢れるパティが盛られたハンバーガーがデンと鎮座していた。
その威容は例えるなら肉でできた「バベルの塔」。
常人なら一発で胸焼け決定な逸品だ。
彰はどちらかといえば魚よりも肉を好むが、しかしそれにも限界というものがある。
〜 ハハッ・・・これは流石に・・・ 〜
と、言いたいのは山々だが、見たことのない料理に目を輝かす若葉に彰はそれを言う勇気はなかった・・・・。
「どれどれ・・・・・?!」
若葉の手にあるチラシを見たワイバーンの表情が曇る。
彼女の名前は「クーラ・アイエクセル」。かつてはドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊を率いていた大佐だったが、とある事件を引き起こして出奔。潜伏していた「門の向こうの国」こと日本で確保されてドラゴニアに連行された。
クーラは「脱走兵」である以上軍法会議で裁かれることは覚悟していたが、しかし蓋を開けると彼女のかつての仲間たちは脱走の罪を償わせるために彼女を連行したわけではないことを知った。
現在はその原因となった部下で、彼女の妹分である「アーシア・エルデ」とその夫である「セシル・エルデ」と和解し、竜騎士団預かりとしてドラゴニアに滞在している。
〜 まさか・・・ココって・・・! 〜
「なぁ彰。アタシも食べたいし一緒に行っていいか?いや、向こうじゃなかなかドラゴニア名物が食べれなくてさ。あ、ちゃんと金は払うからな。な、いいだろ?」
「そうだな・・・。じゃあクーラ、一緒に行ってくれるかい?」
「もちろんさ!」
そう言うとクーラは二人に笑顔を見せた。
― 竜翼通り ―
竜皇国ドラゴニアの顔ともいえるこ目抜き通りであり、「門の向こうの国」から来たと思しきスマートフォンを手にした観光客や他の土地から買い付けに来た旅装の商人、ワイバーンやドラゴンをはじめとする地元の竜族などが行き交っていた。
彰がふと見るとがっしりとした体格の男が広場で括れた瓶を使ってジャグリングをしている姿が見えた。
「クーラ、やっぱり大道芸人もいるんだな」
「彰。ちょっと見てなよ。面白いからさ」
先程までのジャグリングはウオーミングアップだったらしく、男はジャグリングに使っていた調味料の入ったビンをリズム良く掴むとそれをテーブルに置く。そして男が傍らにいる、彼の伴侶と思しきドラゴンに目配せすると、そのドラゴンは保冷箱から何かを取り出すと男に投げ放った。
ヒュン!
それは・・・・。
「鶏肉?!」
男はそれを涼しい顔でキャッチするとジャグリングを始める。そしてドラゴンは魔界豚や魔界蜥蜴の塊肉などを順繰りに投げ、男もそれを一つ残らずキャッチして巧みにジャグリングに加えていく。
「そろそろだぞ・・・彰」
ドラゴンが保冷箱から離れると少し距離をとって口を大きく開ける。
そして男がジャグリングしていた肉を空中高く放り投げた瞬間だ。
シュゴオォォォォォォォォォ!!!
目も眩むような魔力の焔「ドラゴンブレス」が空中の肉を包み込んだ。そしてブレスが収まるといい感じにローストされた肉が落ちてくる。
「ハッ!」
シャキン!!
男が気合と共に腰のレイピアを抜刀する。
ブス!ブス!ブス!!!!!!
男が素早く抜刀したレイピアを使い高速で落下する肉を一つ残らず貫いていく。あまりの速さにそれなりに武道の経験を持つ彰の目でもレイピアの剣先は全く見えなかった。
「ドラゴニア名物の一つ、曲芸料理人のクラウスさ」
日本では見たことのない曲芸でこれには若葉や彰も拍手を惜しまない。クラウス達は慣れた手つきで調理台にレイピアを突き刺すと、焼きあがった塊肉をシュラスコのように幅広のナイフを使ってそぎ落とし、それを野菜やウォーミングアップに使った各種調味料を振り掛け薄いパン生地に挟み売り始めた。ドラゴニアの国民食ともいえる「パムム」だ。
クラウスから若葉達は少し離れた距離にいるが、それでも焼きあがった肉とエキゾチックなスパイスが醸し出す美味しそうな匂いが漂ってくる。
「へぇ〜〜ドラゴニアには色んな人がいるんですね」
「そうさ若葉。此処はドラゴンが人と一緒に愛し生きるために出来た国だからな。他の国でうまくいかなかった人間でもチャンスがある。・・・・ドラゴニアはそういう場所さ」
「チャンスか・・・・」
クラウスがレイピアで塊肉を突き刺す手際の良さは彼が相当な手練れであることを伺わせる。無口な彼が此処、竜皇国ドラゴニアに来るまでの人生を彼らは知らない。若葉がクラウスとその伴侶が歩んできた人生に思いを巡らせているとクーラが背中を叩いた。
「ささっ!目指すラブライドはもう少しさ。早く行かないと売れ切れちまうぞ!」
「そうだねクーラ!行こ!彰くん!!」
「ああ。待ってよ若葉!」
二人は彰と一緒に舗装された道を歩き始めた。
― 「ラブライド」 ―
先代の竜騎士団団長が夫と切り盛りしているレストランで、ドラゴニア全土にチェーン店を持つ人気店である。評判は上々で「夫婦の果実ミックスジュース」や「チョコレーホーン」等、個性豊かで滋養分に溢れるメニューは「門の向こうの国」からの観光客達すらも満足させている。
のだが・・・・・。
「「何だこれ」」
思わず若葉と彰がハモる。
「若葉に彰、どうしたんだ?コカトリスが顔射を喰らったような顔をして?」
「いやおかしいでしょコレ!!」
右見て「セーラー服」
左見て「ブルマ」
そして正面に「旧スクール水着」
あまりの光景に二人は一瞬、ブルセラショップかコスプレ喫茶に来たのかと思ったくらいだ。
オマケに熟れきった肢体をブルマで包んだ豊満なドラゴンの姿を目にした瞬間、比較的温厚な彰でも「BBA無理すんな!」と言いたくなった程の破壊力があった。
「ん?ああ、あれは幼年学校の上級将校候補生、略せばJKだぜ」
・・・・苦しい略し方と思ってはいけない。
「幼年学校?」
「ドラゴニアじゃ、義務教育代わりに幼年学校で学ぶ。セーラー服はその制服さ」
「でも百歩譲ってブルマやスク水は一体?」
「若葉、ガイドブックに書いてあると思うけどドラゴニア竜騎士団は幾つもの部隊に分かれている。ブルマを着ているヤツは第五陸上部隊所属の訓練兵とその教官、スク水は水中戦闘に特化した水竜隊の奴らだな」
― ドラゴニア竜騎士団特殊作戦群 通称「水竜隊」 ―
潜水し敵国の領海に侵入、艦船に対する破壊工作を行って機動力を削ぎ、機を見て大空へと飛び立つことで水中と空中両面から敵国に強襲をかける特殊部隊だ。近年では奴隷船の寄港地であった難攻不落の海運都市「トリアキア」を攻略したことが記憶に新しい。
「ドラゴニア竜騎士団指定の水着は凄いぞ!あの独特の形状は機能上の要求からで運動時や隊員の身長に応じてある程度伸縮を許容させるためさ。おまけに胸元から入る水流を股間部で逃がす機能が・・・・」
ド真面目にスクール水着(紳士が好む旧型)を解説するクーラを見ながら、二人は自分達が今更だが常識の通じない「人外魔境」にいることを知った・・・・。
「でもなんでこんなに学生がいるんですか?まだ半日しか経っていないのに」
「彰、それはな・・・・神待ちさ」
陽気なクーラがいつになく真剣な表情で二人を見る。それは軍人としてドラゴニア特殊工兵隊を率いていた頃の威厳に満ちていた。
「いいか、彰。どんなことがあっても若葉以外に食べ物を分けようとするな。絶対だぞ!」
彰の脳裏に思わずダチョ○倶楽部の上島○兵の幻影が見えるが、頭を振って追い出す。
「ココ、そんなにも危険な場所なんですか?」
「う〜〜ん、実際見てもらった方が良いな。ホラ、あのおじさんなんか・・・・」
クーラの視線の先には若葉達と同じく、門の向こうからの観光客と思われる少々幸の薄そうな男性が料理を待っていた。
僕の名前は「円 光」(まどか みつる」。特に変わったことのないしがないリーマンだ。強いて言うならば芸能人の「温水洋○」に似ていることくらいか。
「魔物娘」がこの世界に来てブラック企業はなくなり、こうして溜まった有給を利用して旅行に行くことも出来るようになった。
今の生活には満足している。
あとは嫁さんが欲しいくらいかな。
あ、童貞じゃないよ、僕もそれなりに「遊んで」きたし。
「注文のホットアンドスィートパムムLLサイズお待ちどうさま!注文は以上でよろしいですか?」
僕は軽く会釈すると料理を受け取った。
これだよこれ!やっぱり旅行の楽しみは料理だよ!。
いや〜〜〜、これガイドブックで見て食べたかったんだよな〜〜〜。
それでは・・・・。
「てっ!なんで無いんだよ!」
目線をあげるとセーラー服を着たJKが僕のパムムを食べていた。
あの手、いや翼か。
あれで器用に食べる姿がなんともいえず、可愛らしくてついつい怒りを忘れてしまう。
「あらごめんなさい。てっきり私が頼んだパムムかと思って・・・これでゆ・る・し・てね!」
そう言うと目の前のJKは僕の唇にその桜色の唇を重ねた。
正直、嬉しくないと言えばウソになる。
でも僕はあくまで大人だ。
さすがにJKに手を出すわけには・・・・
「おじさん今ヒマ?私こう見ても観光ガイドやってんだ。つ・ま・りはお客さんになって欲しいんだ。あ、タダでいいよ」
なんだこのJKは!。
人のパムムを食べておきながらガイドに雇えって?。
・・・・まぁ、ガイドブックには安全のためにも観光ガイドを雇った方がいいってあるしな。
「頼んでもいいのかい?」
彼に若葉達ほど警戒心があれば、目の前のJKが「してやったり」と満面の笑みを浮かべていることに気付けただろう。しかし円光おじさん、もとい光も男だ。見目麗しいJKがキスをしてくれ、ただで観光ガイドを務めると言うのだ。「普通」の人間なら思わずOKしてしまうだろう。
「じゃあ行こうか!!竜の寝床横丁にイイ店知ってんだ〜〜。ちゃんとパムムの代金は此処に置いておくね」
彼は恋人のように手を握るJKと一緒に出て行った。彼は知らない。今しがたパムム一つの代金で自分の人生を売り飛ばしてしまったことに・・・・・。
「あ・・・あれってまさか円光?」
「そうだな・・・・・。強いて言うなら逆円光かな」
バサササササ!!!!
「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ラブライドの店外で翼をはためかせる音とともに、先ほどJKと一緒に店を出た男の悲鳴が響く。
「」
あまりの事態に彰は声もでない。
クーラがグラスを傾ける。グラスには蒸留酒と炭酸水、そして少量のホルミルクを加えてシェイクした「會舘フィズ」によく似たカクテルが入っていた。
「アタシ達ワイバーンの習性として非常に義理堅いところがある。例えば、食べ物を分けてもらった場合は施しを受けたと感じて、その恩に報いようとするんだ。もっとも今じゃナンパの理由にしか他ならないんだがな」
食べ物を分けてくれた「恩人」イコール「神」。
故に「神待ち」。
「こんなの絶対おかしいよ!」とピンク髪のアルティメット邪神のように、思わずツッコミたくなるのを若葉は我慢した。なぜならば・・・・・。
〜 ねぇ、あの男ってよくない? 〜
〜 回転ベッドが!夜戦が!私を呼んでいるわ!! 〜
〜 あのタイプの男は頼みを断れないのね 〜
〜 お腹をいっぱいいっぱいにして欲しいでち 〜
〜 4Pですって! 〜
「な、言った通りだろ?」
こうして楽しいランチタイムは、彰を守りつつMAXサイズのドラバーガーを食べるという「エクストリーム大食い」に変貌するハメになるのだった。
― その後の円光おじさん ―
「どうしてこうなった・・・・・」
正式にドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊隊長に就任したジギー・カスケード中佐(昇進しました)は頭を抱える。
セシルとアーシア、そしてクーラが「特殊任務」で「門の向こうの国」へと赴任することが決まり、ジギーは昇進早々上層部に人員の補充を頼んだ。で、来たのが・・・・。
かなり頭と股の緩そうな幼年兵
髪どころか幸まで薄そうなおじさん
「どうしてこうなった・・・」
大事なことなので二度言いました。
確かに特殊工兵隊が出なければならないような状況は近年あまりないが、しかしこれはあまりにも酷い。
― 下手な癖がついてないだけマシか・・・・ ―
ジギーはそう思うことにした。
この「幸の薄そうなおじさん」が後に、独特のポーズで頭部から魔力を放ち相手の目をくらませるクリリンの持ちネタである「太○拳」を会得したことから「人間探照灯のサークルフラッシュ」と呼ばれ恐れられることになるが、それは別の機会に・・・・。
部活の連中の掛け声を聞きながら、あたしは屋上で一人大の字に横になる。これがあたし、JKである「スズ・クシャトリア」の日常。
「ッたく!なんでそんなにも暑苦しくなれんのかね?」
「それはそれが自分の将来の為だからですわスズ、内申も良くなるし。もっとも部活に身を捧げる自分に酔ってるかもしれませんけど」
「ノーマ!」
アタシの親友である「ノーマ・クリスタル」の明るいベージュ色の髪が揺れる。相当シャンプーにこだわっているのだろう、柔らかくていい匂いがする。
「スズ・・・この暖かな日差しの中で大の字で横になりたい気持ちもわかりますが、スカートが捲れあがってませんこと?」
「へ?」
あたしが見るとグレーのプリーツスカートが捲り上がり、あたしのお気に入りであるパープルのショーツが顔を出していた。
「まぁ、いつでも臨戦態勢であるのはレディーの嗜みですから(笑」
涼やかな笑みでそう言う親友のノーマ・クリスタル。あたしはちょっとした意地悪を思いついた。
「ううっ!こうなったら・・・・ノーマ!!お前のパンツは何色だぁぁぁぁぁぁ!!!」
「えっ?!!キャァァァァァ!!!!」
バッ!!
私が捲り上げたスカートの奥にあったのはノーマの小振りなヒップを収める、ブランドものであろう少々お高いショーツだった。
「黒のシースルーなんて流石はレディー(笑」
「ううっ・・・・お嫁にいけませんわ・・・・」
「ふ〜〜ん・・・・。ノーマ、なんならあたしが嫁にもらってあげようか?」
いつもは余裕のあるふりをしているノーマの顔がみるみる赤く染まる。
「は?!そんなワタクシにも心の準備というものが・・・・」
「そんなの待ってられないからヤッちゃうよ?」
ノーマとあたしの唇が近づいていく。そして・・・・
「うっそぉ〜〜〜〜〜!!!」
「このぉぉぉぉぉ!スズ!!!乙女の純情を弄んで・・・・今日という今日は許さないですわぁぁぁぁ!!!!」
「キャハハ!!!!熊みたいにこわ〜〜〜い!!」
「そう言えばノーマ。午後の授業は?」
「なんですの?藪から棒に。確か・・・地理担当のカトリーヌ先生の授業でしたわね」
「ならあたしパス。フケて神待ちしようと思うんで」
「ワタクシとしては神待ちというのは健全な学生にはいかがかと・・・・」
「あ、ノーマって結構貞操がガチガチなんだ〜〜〜」
「そうじゃありませんわ!!ワタクシには殿方と理想のシチュエーションというものが・・・」
「そんな悠長な事言ってると、今に威張り切ったあのお局様みたいになるわよ?」
「ウッ・・・・・」
「神待ちっても、男の人とただ一緒に食べてのんびりするだけじゃん!気に入ればヤっちまえばいいんだし。最近は金持ちの観光客も多いし、それに・・・」
あたしは立ち上がるとパンパンとスカートに着いたホコリを落とす。
「早くしないとその気合の入ったパンツが無駄になるよ?」
ノーマにそう言うとあたしは笑った。
― ドラゴニア竜騎士団本部 大食堂 ―
「ねぇねぇ彰くん!今日のお昼は外食しな〜〜い?」
ワイバーンやドラゴンなどが犇めく食堂の中で一人の女性の声が明るく響く。彼女の名前は「若葉 響」。
このドラゴニアへは伴侶である「斎藤 彰」とともに「二度目の新婚旅行」に訪れた、ただの観光客だ。
しかしながら彼らは「災難の女神」の寵愛を受けているらしい。今回も知り合いであるワイバーンの「クーラ」をめぐる陰謀に巻き込まれてしまった。
「あ、いいけど・・・どこに食べに行くつもりだい?」
若葉の夫である彰が食べていたトーストを皿に置いた。
「ジャーン!!これよ!!」
「どれどれ・・・」
― ラブライド・ドラゴニア本店限定 直火焼きドラバーガー!!今だけ肉増量中!!
― カップルで分け合うもよし! ―
― 気の合う友人と食べるもよし! ―
― 1人で己の限界の先に挑戦するもよし!! ―
若葉の手にしたチラシにはこれでもか!というくらいに肉汁溢れるパティが盛られたハンバーガーがデンと鎮座していた。
その威容は例えるなら肉でできた「バベルの塔」。
常人なら一発で胸焼け決定な逸品だ。
彰はどちらかといえば魚よりも肉を好むが、しかしそれにも限界というものがある。
〜 ハハッ・・・これは流石に・・・ 〜
と、言いたいのは山々だが、見たことのない料理に目を輝かす若葉に彰はそれを言う勇気はなかった・・・・。
「どれどれ・・・・・?!」
若葉の手にあるチラシを見たワイバーンの表情が曇る。
彼女の名前は「クーラ・アイエクセル」。かつてはドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊を率いていた大佐だったが、とある事件を引き起こして出奔。潜伏していた「門の向こうの国」こと日本で確保されてドラゴニアに連行された。
クーラは「脱走兵」である以上軍法会議で裁かれることは覚悟していたが、しかし蓋を開けると彼女のかつての仲間たちは脱走の罪を償わせるために彼女を連行したわけではないことを知った。
現在はその原因となった部下で、彼女の妹分である「アーシア・エルデ」とその夫である「セシル・エルデ」と和解し、竜騎士団預かりとしてドラゴニアに滞在している。
〜 まさか・・・ココって・・・! 〜
「なぁ彰。アタシも食べたいし一緒に行っていいか?いや、向こうじゃなかなかドラゴニア名物が食べれなくてさ。あ、ちゃんと金は払うからな。な、いいだろ?」
「そうだな・・・。じゃあクーラ、一緒に行ってくれるかい?」
「もちろんさ!」
そう言うとクーラは二人に笑顔を見せた。
― 竜翼通り ―
竜皇国ドラゴニアの顔ともいえるこ目抜き通りであり、「門の向こうの国」から来たと思しきスマートフォンを手にした観光客や他の土地から買い付けに来た旅装の商人、ワイバーンやドラゴンをはじめとする地元の竜族などが行き交っていた。
彰がふと見るとがっしりとした体格の男が広場で括れた瓶を使ってジャグリングをしている姿が見えた。
「クーラ、やっぱり大道芸人もいるんだな」
「彰。ちょっと見てなよ。面白いからさ」
先程までのジャグリングはウオーミングアップだったらしく、男はジャグリングに使っていた調味料の入ったビンをリズム良く掴むとそれをテーブルに置く。そして男が傍らにいる、彼の伴侶と思しきドラゴンに目配せすると、そのドラゴンは保冷箱から何かを取り出すと男に投げ放った。
ヒュン!
それは・・・・。
「鶏肉?!」
男はそれを涼しい顔でキャッチするとジャグリングを始める。そしてドラゴンは魔界豚や魔界蜥蜴の塊肉などを順繰りに投げ、男もそれを一つ残らずキャッチして巧みにジャグリングに加えていく。
「そろそろだぞ・・・彰」
ドラゴンが保冷箱から離れると少し距離をとって口を大きく開ける。
そして男がジャグリングしていた肉を空中高く放り投げた瞬間だ。
シュゴオォォォォォォォォォ!!!
目も眩むような魔力の焔「ドラゴンブレス」が空中の肉を包み込んだ。そしてブレスが収まるといい感じにローストされた肉が落ちてくる。
「ハッ!」
シャキン!!
男が気合と共に腰のレイピアを抜刀する。
ブス!ブス!ブス!!!!!!
男が素早く抜刀したレイピアを使い高速で落下する肉を一つ残らず貫いていく。あまりの速さにそれなりに武道の経験を持つ彰の目でもレイピアの剣先は全く見えなかった。
「ドラゴニア名物の一つ、曲芸料理人のクラウスさ」
日本では見たことのない曲芸でこれには若葉や彰も拍手を惜しまない。クラウス達は慣れた手つきで調理台にレイピアを突き刺すと、焼きあがった塊肉をシュラスコのように幅広のナイフを使ってそぎ落とし、それを野菜やウォーミングアップに使った各種調味料を振り掛け薄いパン生地に挟み売り始めた。ドラゴニアの国民食ともいえる「パムム」だ。
クラウスから若葉達は少し離れた距離にいるが、それでも焼きあがった肉とエキゾチックなスパイスが醸し出す美味しそうな匂いが漂ってくる。
「へぇ〜〜ドラゴニアには色んな人がいるんですね」
「そうさ若葉。此処はドラゴンが人と一緒に愛し生きるために出来た国だからな。他の国でうまくいかなかった人間でもチャンスがある。・・・・ドラゴニアはそういう場所さ」
「チャンスか・・・・」
クラウスがレイピアで塊肉を突き刺す手際の良さは彼が相当な手練れであることを伺わせる。無口な彼が此処、竜皇国ドラゴニアに来るまでの人生を彼らは知らない。若葉がクラウスとその伴侶が歩んできた人生に思いを巡らせているとクーラが背中を叩いた。
「ささっ!目指すラブライドはもう少しさ。早く行かないと売れ切れちまうぞ!」
「そうだねクーラ!行こ!彰くん!!」
「ああ。待ってよ若葉!」
二人は彰と一緒に舗装された道を歩き始めた。
― 「ラブライド」 ―
先代の竜騎士団団長が夫と切り盛りしているレストランで、ドラゴニア全土にチェーン店を持つ人気店である。評判は上々で「夫婦の果実ミックスジュース」や「チョコレーホーン」等、個性豊かで滋養分に溢れるメニューは「門の向こうの国」からの観光客達すらも満足させている。
のだが・・・・・。
「「何だこれ」」
思わず若葉と彰がハモる。
「若葉に彰、どうしたんだ?コカトリスが顔射を喰らったような顔をして?」
「いやおかしいでしょコレ!!」
右見て「セーラー服」
左見て「ブルマ」
そして正面に「旧スクール水着」
あまりの光景に二人は一瞬、ブルセラショップかコスプレ喫茶に来たのかと思ったくらいだ。
オマケに熟れきった肢体をブルマで包んだ豊満なドラゴンの姿を目にした瞬間、比較的温厚な彰でも「BBA無理すんな!」と言いたくなった程の破壊力があった。
「ん?ああ、あれは幼年学校の上級将校候補生、略せばJKだぜ」
・・・・苦しい略し方と思ってはいけない。
「幼年学校?」
「ドラゴニアじゃ、義務教育代わりに幼年学校で学ぶ。セーラー服はその制服さ」
「でも百歩譲ってブルマやスク水は一体?」
「若葉、ガイドブックに書いてあると思うけどドラゴニア竜騎士団は幾つもの部隊に分かれている。ブルマを着ているヤツは第五陸上部隊所属の訓練兵とその教官、スク水は水中戦闘に特化した水竜隊の奴らだな」
― ドラゴニア竜騎士団特殊作戦群 通称「水竜隊」 ―
潜水し敵国の領海に侵入、艦船に対する破壊工作を行って機動力を削ぎ、機を見て大空へと飛び立つことで水中と空中両面から敵国に強襲をかける特殊部隊だ。近年では奴隷船の寄港地であった難攻不落の海運都市「トリアキア」を攻略したことが記憶に新しい。
「ドラゴニア竜騎士団指定の水着は凄いぞ!あの独特の形状は機能上の要求からで運動時や隊員の身長に応じてある程度伸縮を許容させるためさ。おまけに胸元から入る水流を股間部で逃がす機能が・・・・」
ド真面目にスクール水着(紳士が好む旧型)を解説するクーラを見ながら、二人は自分達が今更だが常識の通じない「人外魔境」にいることを知った・・・・。
「でもなんでこんなに学生がいるんですか?まだ半日しか経っていないのに」
「彰、それはな・・・・神待ちさ」
陽気なクーラがいつになく真剣な表情で二人を見る。それは軍人としてドラゴニア特殊工兵隊を率いていた頃の威厳に満ちていた。
「いいか、彰。どんなことがあっても若葉以外に食べ物を分けようとするな。絶対だぞ!」
彰の脳裏に思わずダチョ○倶楽部の上島○兵の幻影が見えるが、頭を振って追い出す。
「ココ、そんなにも危険な場所なんですか?」
「う〜〜ん、実際見てもらった方が良いな。ホラ、あのおじさんなんか・・・・」
クーラの視線の先には若葉達と同じく、門の向こうからの観光客と思われる少々幸の薄そうな男性が料理を待っていた。
僕の名前は「円 光」(まどか みつる」。特に変わったことのないしがないリーマンだ。強いて言うならば芸能人の「温水洋○」に似ていることくらいか。
「魔物娘」がこの世界に来てブラック企業はなくなり、こうして溜まった有給を利用して旅行に行くことも出来るようになった。
今の生活には満足している。
あとは嫁さんが欲しいくらいかな。
あ、童貞じゃないよ、僕もそれなりに「遊んで」きたし。
「注文のホットアンドスィートパムムLLサイズお待ちどうさま!注文は以上でよろしいですか?」
僕は軽く会釈すると料理を受け取った。
これだよこれ!やっぱり旅行の楽しみは料理だよ!。
いや〜〜〜、これガイドブックで見て食べたかったんだよな〜〜〜。
それでは・・・・。
「てっ!なんで無いんだよ!」
目線をあげるとセーラー服を着たJKが僕のパムムを食べていた。
あの手、いや翼か。
あれで器用に食べる姿がなんともいえず、可愛らしくてついつい怒りを忘れてしまう。
「あらごめんなさい。てっきり私が頼んだパムムかと思って・・・これでゆ・る・し・てね!」
そう言うと目の前のJKは僕の唇にその桜色の唇を重ねた。
正直、嬉しくないと言えばウソになる。
でも僕はあくまで大人だ。
さすがにJKに手を出すわけには・・・・
「おじさん今ヒマ?私こう見ても観光ガイドやってんだ。つ・ま・りはお客さんになって欲しいんだ。あ、タダでいいよ」
なんだこのJKは!。
人のパムムを食べておきながらガイドに雇えって?。
・・・・まぁ、ガイドブックには安全のためにも観光ガイドを雇った方がいいってあるしな。
「頼んでもいいのかい?」
彼に若葉達ほど警戒心があれば、目の前のJKが「してやったり」と満面の笑みを浮かべていることに気付けただろう。しかし円光おじさん、もとい光も男だ。見目麗しいJKがキスをしてくれ、ただで観光ガイドを務めると言うのだ。「普通」の人間なら思わずOKしてしまうだろう。
「じゃあ行こうか!!竜の寝床横丁にイイ店知ってんだ〜〜。ちゃんとパムムの代金は此処に置いておくね」
彼は恋人のように手を握るJKと一緒に出て行った。彼は知らない。今しがたパムム一つの代金で自分の人生を売り飛ばしてしまったことに・・・・・。
「あ・・・あれってまさか円光?」
「そうだな・・・・・。強いて言うなら逆円光かな」
バサササササ!!!!
「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ラブライドの店外で翼をはためかせる音とともに、先ほどJKと一緒に店を出た男の悲鳴が響く。
「」
あまりの事態に彰は声もでない。
クーラがグラスを傾ける。グラスには蒸留酒と炭酸水、そして少量のホルミルクを加えてシェイクした「會舘フィズ」によく似たカクテルが入っていた。
「アタシ達ワイバーンの習性として非常に義理堅いところがある。例えば、食べ物を分けてもらった場合は施しを受けたと感じて、その恩に報いようとするんだ。もっとも今じゃナンパの理由にしか他ならないんだがな」
食べ物を分けてくれた「恩人」イコール「神」。
故に「神待ち」。
「こんなの絶対おかしいよ!」とピンク髪のアルティメット邪神のように、思わずツッコミたくなるのを若葉は我慢した。なぜならば・・・・・。
〜 ねぇ、あの男ってよくない? 〜
〜 回転ベッドが!夜戦が!私を呼んでいるわ!! 〜
〜 あのタイプの男は頼みを断れないのね 〜
〜 お腹をいっぱいいっぱいにして欲しいでち 〜
〜 4Pですって! 〜
「な、言った通りだろ?」
こうして楽しいランチタイムは、彰を守りつつMAXサイズのドラバーガーを食べるという「エクストリーム大食い」に変貌するハメになるのだった。
― その後の円光おじさん ―
「どうしてこうなった・・・・・」
正式にドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊隊長に就任したジギー・カスケード中佐(昇進しました)は頭を抱える。
セシルとアーシア、そしてクーラが「特殊任務」で「門の向こうの国」へと赴任することが決まり、ジギーは昇進早々上層部に人員の補充を頼んだ。で、来たのが・・・・。
かなり頭と股の緩そうな幼年兵
髪どころか幸まで薄そうなおじさん
「どうしてこうなった・・・」
大事なことなので二度言いました。
確かに特殊工兵隊が出なければならないような状況は近年あまりないが、しかしこれはあまりにも酷い。
― 下手な癖がついてないだけマシか・・・・ ―
ジギーはそう思うことにした。
この「幸の薄そうなおじさん」が後に、独特のポーズで頭部から魔力を放ち相手の目をくらませるクリリンの持ちネタである「太○拳」を会得したことから「人間探照灯のサークルフラッシュ」と呼ばれ恐れられることになるが、それは別の機会に・・・・。
18/05/24 19:09更新 / 法螺男
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