Wake Up Girl! ― 拉致 ―
― 臭ェ・・・・。これは・・ ―
汗と淫液の噎せ返るような臭気。
魔物の中でも上位種に属するワイバーンとは言っても、闇を見通すことなんてできない。
アタシは目が慣れるまでその場をじっとしていた。
そうするうちにアタシの目が「ソレ」を映し出した。
何か強い力で砕かれた鎧。
引き裂かれた衣類。
そして・・・・
― ?! 嘘だろ・・・・ ―
そこには裸に剥かれ、意識を失った男の姿。間違いない、その男は・・・・・。
「何をしているの・・・?クーラ姉?」
朱鷺色の髪をしたアタシの「妹分」であるアーシアがぼぅと立っていた。その手にあるのは魔界銀製のハルバード。ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊の制式装備の一つだ。
チャッ!
「アタシの・・・・。アタシのセシルに何をしやがった!!このアバズレがぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
アーシアは地面を蹴ると、その恐ろしいまでに研ぎ澄まされた切っ先がアタシの胸に吸い込まれた・・・。
「許してくれアーシアァァァァ!!!」
バサッ!
「ッ、痛ェ・・・・・。此処は・・・アタシの寝床か」
どうやら魘されてベッドから滑り落ちたらしい。
クーラが悪夢から目を覚ますと、サイドボード上の時計の針は早朝の6時を指していた。見渡すと、夢の中の廃屋ではなくいつもの事務所兼寝床である廃工場の事務所だった。彼女はペイパームーンの店員として働くことも多いが彼女は個人で運送業を営んでおり、運ぶ荷によっては竜化せねばならないこともあり、羽根がつかえないある程度の広さがあるこの廃工場を根城にしている。
「昨日、ペイパームーンで生卵入りのギネス・スタウトを飲みすぎちまったか・・・・。やな夢だぜ」
汗に濡れて髪が肌に張り付く。そして何よりも不快だったのは・・・・。
「シャワーを浴びてくるか・・・。糞ッ!」
彼女の履いていた飾り気のない黒のショーツは濡れそぼり、それは夢の中とはいえ彼女が昂りを感じていたことを表していた。
パサッ!
「確かクライアントとの打ち合わせは9時の予定だったな・・・」
クーラは無造作にショーツを放り投げると、事務所に備え付けたユニット式のシャワールームへと向かった。
― かつて、ドラゴニア竜騎士団には一人のワイバーンがいた ―
― 彼女は誰よりも速く、そして誰よりも高く飛べた ―
― その姿から彼女は「バリスタ」(攻城弩)と呼ばれた ―
― ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊隊長 クーラ・アイエクセル、人は彼女の事を「バリスタのクーラ」と呼ぶ ―
「ねぇねぇ彰くん!!楽しみだねドラゴニア!!」
目の前では妻の若葉が目の前の飛行船にはしゃいでいる。無理もない、今のご時世スピードの出ない飛行船に乗れるのは「外地」へと渡るくらいしかないのだ。
数か月前、「ポンポコ回春堂」の店主をしている刑部狸の京香から若葉の母乳、つまりはホルミルクの販売を打診された。妻との交わりで消費できるミルクの量も限られている。それにミルクを溜めすぎて若葉が体調不良になるのは僕としても不本意だ。
若葉も余ったホルミルクの販売に同意してくれた。もっとも、京香から提示されたドラゴニアへの二度目の「新婚旅行」に釣られたのかもしれないが・・・・。
「穴」
それが最初にこの世界に現れた時、それを形容する言葉はそれしかなかった。
もっとも、数分後には「ソレ」が異世界からの転移門であると嫌でも人類は知ったのだが。
今僕らの目の前には「門」がその威容を現していた。
「チケットをお願いします」
僕は受付のアヌビスにチケットを渡す。
「若葉響様、斎藤彰様に相違ありませんね?」
「はい」
「それではこちらの誓約書にサインをお願いします」
僕は慎重に免責事項に目を通してサインをする。
異世界、便宜上「外地」への渡航には様々な制約が課される。
それには魔力が関係している。
魔力は人を魔物へと変えてしまう。
特に「王魔界」へは渡航は基本的に不可となっている。魔物の本拠地であり、濃厚な魔力が充満するこの場所に足を踏み入れれば女性ならばすぐさまレッサーサキュバスと変じ、男性ならば劣情を抑えきれなくなる。
故に、人間が足を踏み入れられる場所は限られている。
僕達の目的地である「ドラゴニア」はその限られた場所の一つだ。
「確認いたしました。では良い旅を」
僕らはチケットの半券を受け取ると、搭乗口へと向かった。
― 次元間連絡飛行船 フライング・プッシー・ドラゴン号 ―
「外地」には空を飛べる魔物も多く生息している。彼らの生活圏を守る意味で、「外地」への渡航は飛行船を使用している。飛行船といえば鈍足のイメージがあるが、最新の技術と外地の魔法工学の粋を集めたこの飛行船の移動速度はなかなかのものだ。
実際のところ、今回のフライト時間も3時間ほどしかかからない。「外地」と日本はまさに「遠くて近い国」なのだ。
メインエントランスには様々な人種 ― 中には魔物の姿も見えるが ― がひしめいていた。
車椅子を押す老夫婦が緊張した面持ちで出航を待つ傍らで、身なりのいい紳士がカクテルグラスを傾けていた。
― 皆様、本船はもうすぐ出航いたします ―
軽い衝撃と共に飛行船を係留していたケーブルやタラップが収納されていく。
「どうして飛行機に乗るときって緊張するんだろ」
「それは・・・人間は地に足をつけた生き物だからだろうね」
「人間か・・・・・」
若葉が窓の外の摩天楼を眺める。僕の妻は子供の頃、過激派のテロに遭いホルスタウロスに転化させられた。妻は魔物娘でありながら、人間であることを選択した。僕には・・・・それが健気で・・痛々しくて・・・。
「彰くんどうしたの?私の顔を見て?」
「相変わらず綺麗だなって思い直したところさ、若葉」
そう言うと僕は彼女を抱きしめた。強靭な魔物娘の身体の中にある「人間」の魂、ガラス細工のように脆いそれを僕は・・・守り続けて見せる。
― フライング・プッシー・ドラゴン号 貴賓室 ―
希少な木材をふんだんに使われた調度品、「外地」産やコチラ産の希少な酒、キューバ産の貴重なビンテージ葉巻を詰めたヒュミドール(葉巻保管箱)さえ備え付けられていた。
そんな贅を尽くした貴賓室に似つかわしくない男が二人、ビリヤードに興じていた。
「中々楽な仕事だったなっと!」
カツ―ン!
「チッ!毒猿お前の番だぜ」
「おう。悪いな毒虫」
トォン!
「賭けは俺の勝ちだな」
毒猿と呼ばれた髭面の男がビリアード台の上に置かれた数枚の札を取る。
「ったく、運がないぜ!」
毒虫と呼ばれた小柄な男がヒュミドールからモンテクリストNo5を一本取り出すと、パンチカッターで吸い口を作りジッポーで乱暴に火をつけて吸い始める。
「毒猿は吸わねぇの?」
「俺のカミさんが嫌がって吸わせてくれねーんだよ。口が臭いって」
「それはご愁傷様」
「お前・・・多少は遠慮しろよ」
「フライトは3時間なんだろ?どうせただなら楽しまきゃな」
「そうだな」
毒猿はラックからロイヤル・ハウスホールドを掴むと、あらかじめ準備されていたバカラのタンブラーにそれを注いだ。
「酒は禁止されてはいないんでね」
「まぁ、そりゃそうだが。仕事中だぜ?」
「保安官も貴賓室に踏み込むことはないさ。それに名目上は蘇生の為に外地へ行くことになってんだ。棺桶の中に人がいてもばれやしないぜ」
部屋の中央、そこには人ひとり入れられる大きさの棺桶が置かれていた。
トントン!
「!」
毒猿が音を立てずにドアの死角に潜り込む。その手には魔界銀の粉末を込めたブラックジャック。魔物でも一撃で昏倒させられる逸品だ。
トントントン!
毒虫が三回ドアを叩く。
トン!
相手からの「合図」を確認して毒虫がドアを開いた。
「待ちかねたぞ!我が夫よ!!!」
ドアが開くと同時に腰に魔界銀製のウォーキングソードを帯びた女性が毒虫を抱きしめる。
「ちょっと待て!ハウス!ハウス!!」
「おや?今日はわんわんプレイがお望みか?よいぞ!!望むところだ!!」
そう言うと、女性は自らの首を外した。
「これが私の100パーセントだ!」
・・・・デュラハンはその首が性欲のリミッターとなっている。故に、それを外したことは・・・・。
「ちょっと待ったガリア奥さん!!」
慌てて毒猿がガリアと呼ばれたデュラハンの首を掴み本体に接続する。
「折角、興が乗ってきたというのに無粋な!」
「もう少ししたら毒茸のヤツが休憩から戻ってくるはずだからそれまで・・・・」
「毒茸?アイツなら伴侶のオーガとヤりまくって腰砕けになったとのことだが?」
「じゃあ、もしかして・・・・」
「「一人でよろしくぅ!」」
「ううっ!なんでこんな目に・・・・」
「いいじゃない!私がいるわ!!」
壁に掛けられた毒猿のロングコートの中がもぞもそ動く。
「キッカ、ごめんよ。起こしてしまったかい?」
キッカと呼ばれたフェアリーがポケットから飛び出した。
フェアリーは非常に小柄な種族であり、ポケットに入れて一緒に出掛けるのは危険だと思う諸兄もいるかもしれない。だが心配はいらない、フェアリーも魔物娘である。なにせ、自分の背丈ほどある毒猿のペニスさえ、その小さすぎるヴァギナに収め痛がらないばかりかもっと激しくしてと彼にねだるほどだ。
「そんなことないわ!それよりもよく寝てお腹空いたわね。だ・か・ら」
フェアリーは羽根を羽搏かせると、毒猿の口に可愛らしくキスをした。
「ここには私と貴方だけしかいないし・・・・・ね?」
「そうだな・・・」
そう言うと毒猿はファスナーを開いた。
「アッあっん!あっあ、あなたもっと激しく!!ねぇ!もっとぉ!!オナホみたいに乱暴に扱ってもいいから!!」
毒猿のごつごつとした手に掴まれ、乱暴にペニスを押し込められながらもキッカの表情は蕩け、なおもより深い快楽をねだっていた。
交わりを交わす彼らの奥、静かに安置されている棺桶。
その中には一人のワイバーンがワーシープの羊毛から作られた拘束服と魔界銀製の鎖で拘束されていた。ワーシープの羊毛には強力な睡眠効果がある。眠り続けるワイバーン、「クーラ」の瞳は固く閉じられ彼女は夢の世界へと旅立っていた。
かつてドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊の隊長をしていたこと。
頼れる仲間と出会ったこと。
妹分の結婚を祝った事。
そして・・・・・。
その妹分の夫を襲ってしまったことを・・・・。
「許してくれ・・・アーシア・・・」
彼女の懺悔に耳を傾ける者は誰もいない。
― Bar ペイパームーン ―
「そう・・・。無事に確保したのね。報酬は予定通り振り込んでおくわ」
ペイパームーンのオーナー、サキュバスのグランマは静かに通話を終えた。
彼女にとって、ワイバーンのクーラとの関係は長い。右も左もわからなかった彼女に運送業を始めることを進めたのも彼女であり、仕事のない時にペイパームーンで働くことを提案したのも彼女だ。
故に、クーラが過去の罪を抱えて苦しんでいることも痛いほどわかっていた。
だからこそ「罪」と向かい合わなければいけないのだ。
「ごめんなさいクーラ。でも、貴方は向かい合わなければならないのよ・・・・自らの過去に」
そう、グランマは悲し気に呟いた。
汗と淫液の噎せ返るような臭気。
魔物の中でも上位種に属するワイバーンとは言っても、闇を見通すことなんてできない。
アタシは目が慣れるまでその場をじっとしていた。
そうするうちにアタシの目が「ソレ」を映し出した。
何か強い力で砕かれた鎧。
引き裂かれた衣類。
そして・・・・
― ?! 嘘だろ・・・・ ―
そこには裸に剥かれ、意識を失った男の姿。間違いない、その男は・・・・・。
「何をしているの・・・?クーラ姉?」
朱鷺色の髪をしたアタシの「妹分」であるアーシアがぼぅと立っていた。その手にあるのは魔界銀製のハルバード。ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊の制式装備の一つだ。
チャッ!
「アタシの・・・・。アタシのセシルに何をしやがった!!このアバズレがぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
アーシアは地面を蹴ると、その恐ろしいまでに研ぎ澄まされた切っ先がアタシの胸に吸い込まれた・・・。
「許してくれアーシアァァァァ!!!」
バサッ!
「ッ、痛ェ・・・・・。此処は・・・アタシの寝床か」
どうやら魘されてベッドから滑り落ちたらしい。
クーラが悪夢から目を覚ますと、サイドボード上の時計の針は早朝の6時を指していた。見渡すと、夢の中の廃屋ではなくいつもの事務所兼寝床である廃工場の事務所だった。彼女はペイパームーンの店員として働くことも多いが彼女は個人で運送業を営んでおり、運ぶ荷によっては竜化せねばならないこともあり、羽根がつかえないある程度の広さがあるこの廃工場を根城にしている。
「昨日、ペイパームーンで生卵入りのギネス・スタウトを飲みすぎちまったか・・・・。やな夢だぜ」
汗に濡れて髪が肌に張り付く。そして何よりも不快だったのは・・・・。
「シャワーを浴びてくるか・・・。糞ッ!」
彼女の履いていた飾り気のない黒のショーツは濡れそぼり、それは夢の中とはいえ彼女が昂りを感じていたことを表していた。
パサッ!
「確かクライアントとの打ち合わせは9時の予定だったな・・・」
クーラは無造作にショーツを放り投げると、事務所に備え付けたユニット式のシャワールームへと向かった。
― かつて、ドラゴニア竜騎士団には一人のワイバーンがいた ―
― 彼女は誰よりも速く、そして誰よりも高く飛べた ―
― その姿から彼女は「バリスタ」(攻城弩)と呼ばれた ―
― ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊隊長 クーラ・アイエクセル、人は彼女の事を「バリスタのクーラ」と呼ぶ ―
「ねぇねぇ彰くん!!楽しみだねドラゴニア!!」
目の前では妻の若葉が目の前の飛行船にはしゃいでいる。無理もない、今のご時世スピードの出ない飛行船に乗れるのは「外地」へと渡るくらいしかないのだ。
数か月前、「ポンポコ回春堂」の店主をしている刑部狸の京香から若葉の母乳、つまりはホルミルクの販売を打診された。妻との交わりで消費できるミルクの量も限られている。それにミルクを溜めすぎて若葉が体調不良になるのは僕としても不本意だ。
若葉も余ったホルミルクの販売に同意してくれた。もっとも、京香から提示されたドラゴニアへの二度目の「新婚旅行」に釣られたのかもしれないが・・・・。
「穴」
それが最初にこの世界に現れた時、それを形容する言葉はそれしかなかった。
もっとも、数分後には「ソレ」が異世界からの転移門であると嫌でも人類は知ったのだが。
今僕らの目の前には「門」がその威容を現していた。
「チケットをお願いします」
僕は受付のアヌビスにチケットを渡す。
「若葉響様、斎藤彰様に相違ありませんね?」
「はい」
「それではこちらの誓約書にサインをお願いします」
僕は慎重に免責事項に目を通してサインをする。
異世界、便宜上「外地」への渡航には様々な制約が課される。
それには魔力が関係している。
魔力は人を魔物へと変えてしまう。
特に「王魔界」へは渡航は基本的に不可となっている。魔物の本拠地であり、濃厚な魔力が充満するこの場所に足を踏み入れれば女性ならばすぐさまレッサーサキュバスと変じ、男性ならば劣情を抑えきれなくなる。
故に、人間が足を踏み入れられる場所は限られている。
僕達の目的地である「ドラゴニア」はその限られた場所の一つだ。
「確認いたしました。では良い旅を」
僕らはチケットの半券を受け取ると、搭乗口へと向かった。
― 次元間連絡飛行船 フライング・プッシー・ドラゴン号 ―
「外地」には空を飛べる魔物も多く生息している。彼らの生活圏を守る意味で、「外地」への渡航は飛行船を使用している。飛行船といえば鈍足のイメージがあるが、最新の技術と外地の魔法工学の粋を集めたこの飛行船の移動速度はなかなかのものだ。
実際のところ、今回のフライト時間も3時間ほどしかかからない。「外地」と日本はまさに「遠くて近い国」なのだ。
メインエントランスには様々な人種 ― 中には魔物の姿も見えるが ― がひしめいていた。
車椅子を押す老夫婦が緊張した面持ちで出航を待つ傍らで、身なりのいい紳士がカクテルグラスを傾けていた。
― 皆様、本船はもうすぐ出航いたします ―
軽い衝撃と共に飛行船を係留していたケーブルやタラップが収納されていく。
「どうして飛行機に乗るときって緊張するんだろ」
「それは・・・人間は地に足をつけた生き物だからだろうね」
「人間か・・・・・」
若葉が窓の外の摩天楼を眺める。僕の妻は子供の頃、過激派のテロに遭いホルスタウロスに転化させられた。妻は魔物娘でありながら、人間であることを選択した。僕には・・・・それが健気で・・痛々しくて・・・。
「彰くんどうしたの?私の顔を見て?」
「相変わらず綺麗だなって思い直したところさ、若葉」
そう言うと僕は彼女を抱きしめた。強靭な魔物娘の身体の中にある「人間」の魂、ガラス細工のように脆いそれを僕は・・・守り続けて見せる。
― フライング・プッシー・ドラゴン号 貴賓室 ―
希少な木材をふんだんに使われた調度品、「外地」産やコチラ産の希少な酒、キューバ産の貴重なビンテージ葉巻を詰めたヒュミドール(葉巻保管箱)さえ備え付けられていた。
そんな贅を尽くした貴賓室に似つかわしくない男が二人、ビリヤードに興じていた。
「中々楽な仕事だったなっと!」
カツ―ン!
「チッ!毒猿お前の番だぜ」
「おう。悪いな毒虫」
トォン!
「賭けは俺の勝ちだな」
毒猿と呼ばれた髭面の男がビリアード台の上に置かれた数枚の札を取る。
「ったく、運がないぜ!」
毒虫と呼ばれた小柄な男がヒュミドールからモンテクリストNo5を一本取り出すと、パンチカッターで吸い口を作りジッポーで乱暴に火をつけて吸い始める。
「毒猿は吸わねぇの?」
「俺のカミさんが嫌がって吸わせてくれねーんだよ。口が臭いって」
「それはご愁傷様」
「お前・・・多少は遠慮しろよ」
「フライトは3時間なんだろ?どうせただなら楽しまきゃな」
「そうだな」
毒猿はラックからロイヤル・ハウスホールドを掴むと、あらかじめ準備されていたバカラのタンブラーにそれを注いだ。
「酒は禁止されてはいないんでね」
「まぁ、そりゃそうだが。仕事中だぜ?」
「保安官も貴賓室に踏み込むことはないさ。それに名目上は蘇生の為に外地へ行くことになってんだ。棺桶の中に人がいてもばれやしないぜ」
部屋の中央、そこには人ひとり入れられる大きさの棺桶が置かれていた。
トントン!
「!」
毒猿が音を立てずにドアの死角に潜り込む。その手には魔界銀の粉末を込めたブラックジャック。魔物でも一撃で昏倒させられる逸品だ。
トントントン!
毒虫が三回ドアを叩く。
トン!
相手からの「合図」を確認して毒虫がドアを開いた。
「待ちかねたぞ!我が夫よ!!!」
ドアが開くと同時に腰に魔界銀製のウォーキングソードを帯びた女性が毒虫を抱きしめる。
「ちょっと待て!ハウス!ハウス!!」
「おや?今日はわんわんプレイがお望みか?よいぞ!!望むところだ!!」
そう言うと、女性は自らの首を外した。
「これが私の100パーセントだ!」
・・・・デュラハンはその首が性欲のリミッターとなっている。故に、それを外したことは・・・・。
「ちょっと待ったガリア奥さん!!」
慌てて毒猿がガリアと呼ばれたデュラハンの首を掴み本体に接続する。
「折角、興が乗ってきたというのに無粋な!」
「もう少ししたら毒茸のヤツが休憩から戻ってくるはずだからそれまで・・・・」
「毒茸?アイツなら伴侶のオーガとヤりまくって腰砕けになったとのことだが?」
「じゃあ、もしかして・・・・」
「「一人でよろしくぅ!」」
「ううっ!なんでこんな目に・・・・」
「いいじゃない!私がいるわ!!」
壁に掛けられた毒猿のロングコートの中がもぞもそ動く。
「キッカ、ごめんよ。起こしてしまったかい?」
キッカと呼ばれたフェアリーがポケットから飛び出した。
フェアリーは非常に小柄な種族であり、ポケットに入れて一緒に出掛けるのは危険だと思う諸兄もいるかもしれない。だが心配はいらない、フェアリーも魔物娘である。なにせ、自分の背丈ほどある毒猿のペニスさえ、その小さすぎるヴァギナに収め痛がらないばかりかもっと激しくしてと彼にねだるほどだ。
「そんなことないわ!それよりもよく寝てお腹空いたわね。だ・か・ら」
フェアリーは羽根を羽搏かせると、毒猿の口に可愛らしくキスをした。
「ここには私と貴方だけしかいないし・・・・・ね?」
「そうだな・・・」
そう言うと毒猿はファスナーを開いた。
「アッあっん!あっあ、あなたもっと激しく!!ねぇ!もっとぉ!!オナホみたいに乱暴に扱ってもいいから!!」
毒猿のごつごつとした手に掴まれ、乱暴にペニスを押し込められながらもキッカの表情は蕩け、なおもより深い快楽をねだっていた。
交わりを交わす彼らの奥、静かに安置されている棺桶。
その中には一人のワイバーンがワーシープの羊毛から作られた拘束服と魔界銀製の鎖で拘束されていた。ワーシープの羊毛には強力な睡眠効果がある。眠り続けるワイバーン、「クーラ」の瞳は固く閉じられ彼女は夢の世界へと旅立っていた。
かつてドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊の隊長をしていたこと。
頼れる仲間と出会ったこと。
妹分の結婚を祝った事。
そして・・・・・。
その妹分の夫を襲ってしまったことを・・・・。
「許してくれ・・・アーシア・・・」
彼女の懺悔に耳を傾ける者は誰もいない。
― Bar ペイパームーン ―
「そう・・・。無事に確保したのね。報酬は予定通り振り込んでおくわ」
ペイパームーンのオーナー、サキュバスのグランマは静かに通話を終えた。
彼女にとって、ワイバーンのクーラとの関係は長い。右も左もわからなかった彼女に運送業を始めることを進めたのも彼女であり、仕事のない時にペイパームーンで働くことを提案したのも彼女だ。
故に、クーラが過去の罪を抱えて苦しんでいることも痛いほどわかっていた。
だからこそ「罪」と向かい合わなければいけないのだ。
「ごめんなさいクーラ。でも、貴方は向かい合わなければならないのよ・・・・自らの過去に」
そう、グランマは悲し気に呟いた。
18/04/28 23:44更新 / 法螺男
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