読切小説
[TOP]
無理難題
― 魔物娘デリヘル ―

「外地」と呼ばれる異世界から、魔物娘と呼ばれる存在がこちらに移住するようになって芸術文化あらゆる面で変化が起きた。
その最たるものが性産業の多様化だ。彼女達は見目麗しくそして性に旺盛だ。当然、合法売春施設いわゆるソープランドに就職する魔物娘も出てきた。
しかし彼女たちの真心の奉仕はあくまで結婚することが目的。興味本位で指名して気が付いたら結婚していたという例は山ほどある
もっとカジュアルに彼女達と触れ合いたいという需要に合わせ、新たに隆盛してきたのが「魔物娘デリヘル」だ。
本番行為はNG、フェラやパイズリ手コキなどしかサービスはないが、普通のデリヘルよりも安く魔物娘と結婚のリスク無く触れ合えるとあって一定の需要があった。
無論、そこは魔物娘。お互いが気に入ればセックスを通じて結婚もできる。
出会いを求めるのは人間だけではない。魔物娘も出会いを求めてデリヘルに集まる。
これは数多あるデリヘルの一つ、魔物娘デリヘル「艶淫(エイン)」から始まる。



大概のデリヘルにはそれぞれ待機室というものがある。
そこではコールを待つデリ嬢達が快適に過ごせるようにゲーム機やお菓子、マージャンや花札といった賭博に使う道具も用意されていた。
座り心地の良い革張りのソファーに腰を掛ける一人の少女。目の前には魔力を高め美容にもいい虜の実が数個皿に乗っていたが、彼女は一つも手を付けてなかった。

「はぁ・・・・・・・」

彼女が溜息をつく。
魔物娘に似つかわしくない陰気な雰囲気を漂わせる彼女の名前は「宵月光」、種族は「ドッペルゲンガー」だ。
ドッペルゲンガーとは恋に破れた男性や伴侶を失った男性も元に現れ、失った恋人の姿でその傷ついた心を癒す魔物だ。
もっとも中世然とした外地ならいざ知らず、ネットワークが発達したこの世界では男たちが彼女が戻ってきてくれたと単純に喜ぶことはなく、彼女は寧ろその変幻自在さを生かした様々なプレイを得意としていた。

「ったく!光よう、そんなに陰気な空気を出されちまったら俺まで陰気になっちまうよ!!!」

彼女の目の前に、恐らくプレイ用に作られたレプリカのビキニアーマーを装着した同僚のオーガ ― トーア ― が立つ。

「トーア・・・あんたはもう少し空気を読むくらいしたら?」

「空気?吸うもんだろ?」

「この脳筋が・・・」

光の隣にトーアが座る。

「おっ虜の実じゃねーか!丁度腹が減ってたんだよ!!サンキューな!」

有無を言わさずにトーアが光の皿の上に乗っていた虜の実を摘まむ。

「それあたしの・・・・」

「ん?あんたが俺の為に用意してくれたんだと思っていたんだけどな」

満面の笑みで虜の実を頬張るトーアの姿に抗議する気もなくなる。

「・・・いい」

「何しょぼくれてんだよ。俺でいいなら話を聞くぜ?」


〜 この際この脳筋でもいいか・・・ 〜


「今日の指名をくれたお客さんがね・・・・」

「何!無理矢理ヤられただとぉ!!!許せん!カチコミだぁぁぁぁぁ!!!」

作り物の剣を握りソファーを立ち上がるトーア。

「違うって!!話はちゃんと聞けよ!この脳筋!!!」

「違うってなんだ?」

「お客さんはとっても紳士的だったよ。でもリクエストがね・・・」

「前のえっと・・・対魔忍ユキカゼの姿でイマラチオをさせてくれってヤツより変なリクエストがあったのか?」

ドッペルゲンガーの変化の対象はアニメやマンガのキャラクターでも可能だ。実際、アニメのキャラで恥ずかしがりながらするオナニーを鑑賞したいというコアな客もいる。

「・・・馬になってくれって言われたの」

「UMA?サンダーバードやモスマン、イエティのことか?」

「だから馬!ウマ目のウマ科のただの馬よ!」

「なんで客が馬なんてなってくれって頼んだんだよ?」

「お客さんは大規模な観光牧場を経営していて・・パートナーというか・・その・・・雌の馬とシていて・・・・」

「ああそういうこと・・・」

光の顔が赤くなる。
人類の歴史上山羊や馬を対象とする性行為つまりは「獣姦」はよくあることだ。
現代においても牧場主がそういった「嗜好のある顧客」のために、秘密裏に家畜を性行為の為に貸し出す例すらある。

「その馬 ― メリッサというそうよ ― 先日寿命でなくなって・・・。彼の心を覗いてみたけど純粋に彼女 ― こういっていいのかわからないけど ― の喪失を嘆いていたわ。どんな姿にもなれる私でも流石に馬に変化したことはないし、彼の脳内から情報を引き出そうにもあまりにも端的で完全に再現できなかった。それで仕方なしにNGにさせてもらったわ」

「NGにしたんならそれでいいじゃん」

「本当に単純ね、あなた。私、いや私たちは対象の記憶を読むことができる。あの人・・・遅かれ早かれ自殺するわ、間違いなく」

「知ってしまったら戻れないか・・・・・。ソイツ馬がいいならケンタウロスでもあてがえばいいんじゃね?」

「無理よ。彼、馬以外に立たないらしいから」

「他の魔物娘をけしかけるのもダメ。ケンタウロスもダメ。そりゃ溜息もつきたくなるわな」

「わかったらほっといといてよ」

「何言ってんだよ!!人が一人死ぬかもって時に悠長にしてる場合か!ホラ立てよ!」

トーアが光の肩を掴み立ち上がる。
高身長のトーアが立ち上がった所為で空中に吊り上げられたような恰好になってしまう。

「ちょっと!!離しなさいよ!!この馬鹿脳筋!!ショタコン!!」

トーアが神妙な表情で光を見る

「・・・・ショタコンってなんだ?」

「あんたが稽古をつけてる子供の事よ!」

「な〜んだアイツはただの弟子だ!それよりも行くぞ!」

「行くってどこへ行くのさ!」

「俺に任せときなって!」

そう言うとトーアは光を連れて待機室を出ていった。


― デリヘル「艶淫」マネージャー室 ―

「ホント貴方は厄介事を持ち込んでくれるわねトーア!」

艶淫の雇われ店長のバイコーンのクレアが頭を抱える。

「俺は頭は良くねーが、少なくとも自殺しようとしている男を無視できるほど馬鹿じゃねーからな!」

「でも方法がわからないからここに来たのね」

光が「結局これかよ」という表情で溜息をつく。

「関わった以上、責任があるのは事実だし・・・とはいえどうすれば・・・・。彼牧場にいる他の雌馬は試したの?」

「他の馬と交わっても、より深くメリッサのことを思い出してしまってつらいそうよ。もう彼女とは夢の中でしか会えないって・・・」

クレアがハッとした顔で光を見る。

「夢・・・夢か・・フフフフ」

「おいおいどうしちまったんだよクレア?」

「彼を救う方法を思いついたのよ。トーア、貴方たしかモンスターハウスのルルちゃんと仲良かったよね?」

「ルル・・・・そうか!その方法なら奴も満足するな!」

「ちょっと・・トーアもクレアさんも一体なによ?」

「「大丈夫さ(よ)」」

妙なシンクロを見せる二人に光は戸惑いを隠せない。


〜 もうどうにでもな〜れ 〜


あ、諦めた。



ピンポーン!

「艶淫の光ですが、恒人様はおられますか?」

僕はグラスの中に残ったストリチナヤウォッカを啜ると玄関へと向かう。
愛する伴侶であるメリッサ(サラブレット、雌)を失って以来、僕の思考はどうすれば彼女と共にいられるかそれだけだった。
藁にも縋る思いでドッペルゲンガーに頼んだが彼女は僕の願いを突っぱねた。
それなのに今更此処へ来るんだ?
馬しか愛せない僕を笑いにでも来たのか?
でもこの苦しみも今日で終わる。
テーブルの上には裏のルートで手に入れた致死量のバルビツール酸化合物。
それを酒で流し込めば後は眠るように逝ける。
魔物娘はお節介だ。
適当にあしらって帰ってもらおう。

「はい。今開けます・・・・」

ガチャッ!

「恒人様申し訳ございません!私艶淫の店長をしておりますバイコーンのクレアと申します」

「・・・店長が何用で」

「こちらの光からサービスに満足できなかったとお聞きしたので、こうしてお詫びに来た次第で・・」

「・・・・ウザイ」

「まあまあそう言わずに・・・トーア、ルルちゃんを」

トーアが部屋の中に「ルルちゃん」を招き入れる。

「私・・・ルルっていいます」

紫色のボブカット、そして同じ体色の馬の下半身。手にはおどろおどろしい巨大な鎌。

― ナイトメア ―

好みの男性の夢に潜り込み、その夢を淫靡なものに変える夢魔だ。

「事情は光から聞きましたわ。彼女なら恒人様を満足させてくれるでしょう。ね、ルルちゃん?」

ルルと呼ばれたナイトメアがおどおどとしながら自己紹介する。

「私、本当は別のお店のコンパニオンですけど、苦しんでいる男の人を見てられないんです!お願いです!一回でいいんで私のサービスを体験してください!!」

「私からもお願いします。お客様を満足させられなかったとあっては店の評判に関わります。お代は結構です」

〜 どうせ今夜死ぬ予定だ。今更急ぐこともないだろう 〜

「わかったよ・・・。でどうすればいい」


ベッドルーム
入眠作用のある香が焚かれ恒人はゆっくりと眠りについていた。

「いいルルちゃん?」

ルルが静かに頷く。
そして鎌を彼の上に掲げた。
鎌の刃が紫色に染まる。

「エイッ!」

彼女が鎌を振るうと、空間が鋭利な刃物で切り裂かれたかのように裂ける。

「では行きます」

彼女はその裂け口に前足をかけてその身を沈ませる。
裂け口は彼女の身体を全て飲み込むと塞がっていった。
トーアもクレアもその光景を瞬きせずに見ているしかなかった。

「・・・・大丈夫だよね?」

光の問いかけに二人は答えることができなかった。



「これは・・・・一体?」

メリッサを失って以来僕の夢はその色を失った。
でもこれはどうだ。
暖かな日差し、そよぐ風、全ては生きる喜びに満ちていた。

「手が・・・・!」

僕の手は皺のない子供の手をしていた。
小川の水に姿を写すと、僕はメリッサと初めて会った12歳にまで戻っていた。
もしも・・・もしも本当にメリッサにあった頃に戻っていたのなら・・・・

「メリッサ!!!」

父さんが経営していた牧場の厩。
その一番奥がメリッサの厩だ。
彼女は僕の記憶通りにそこにいた。

「メリッサ会いたかったよぉぉぉぉぉぉ!!!」

やや「紫がかった」体色のメリッサ。
その瞳はかつてのように慈愛に満ちていた。
彼女は僕の履いていたデニムのショートパンツに顔を近づける。
彼女が求めている時のサインだ。

「メリッサ・・・いつものように愛し合おうか?」

僕は服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になると「彼女」を抱きしめた。



「つまりはドッペルゲンガーもナイトメアもその本質は同じわけさ」

恒人の泊まっていたホテルを後にした三人は夜道をゆっくりと歩いていた。

「どういうことですか店長?」

「いい質問よ光。ドッペルゲンガーは対象の記憶を読んでその姿や思考をコピーする。ナイトメアは対象の夢の中って制約はあるけどその記憶を読み取り自由に編集することができる。褒められたことじゃないけどね」

クレアが彼を自殺から救い出すために考え出した方法。
それは人にとっては外道ともいえる方法だ。
言葉巧みに恒人の夢にルルを潜ませて、夢の中から記憶を改竄し彼を「馬しか愛せない」のではなく「ケンタウロスやナイトメアなどの馬型の魔物娘しか愛せない」ように編集する。
そうすることによりメリッサを失った絶望から彼を「救う」のだ。
きっと彼は夢の中で「メリッサそっくりになったルル」に愛を囁いているだろう。
そしてゆくゆくは夢の中ではなく現実世界で「ナイトメア」のルルと番うはずだ。

「私たち魔物娘はお節介な生き物よ。目の前で絶望に沈もうとする人間がいればどんな手を使っても助けるわ。たとえ見下げ果てた外道となじられてもね」

クレアは笑った。
その笑み、その裏にあるもの
その闇の深さに光は身を震わせた。












17/10/28 12:32更新 / 法螺男

■作者メッセージ
Zトンのエロアニメとモンスター娘のいる日常最新刊を読んで考えた作品。
ドッグズノーズ(ジン入りのビアカクテル)はキクね〜〜

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33