後日談
―― 7 ――
サキュバスの魔力に満ち溢れ、魔物が暮らす土地を魔界と呼ぶ。
ダークスライムやヴァンパイア、ドラゴンなどの強力な魔物が跳梁跋扈し、最奥には魔王が居を構え、周囲をデュラハンを筆頭とする騎士団が固めている――主神教徒が考える魔界とはこのようなものであり、一種固有名詞のような扱いを受けてすらいる。
だが、実際はそれほど画一的ではない。それも当然の話で、一定以上の魔力に包まれた地が魔界となる以上は、全ての土地が魔界化する可能性を持っている。魔界だからと言って必ずしもドラゴンがほっつき歩いていたり、魔王城があったりするわけではない。
とは言っても、魔界化するほど濃密な魔力が存在する以上は、中心に何かあることがほとんどだ。それは例えばかの有名な九尾の狐だったり、闇の太陽と呼ばれるダークマターだったり、はたまた魔王の娘と呼ばれるリリムだったりする。
グレゴールとイライザが居るのも、ある穏健派のリリムが中心となった魔界の一都市だった。
魔界の朝は薄暗い。サキュバスの魔力が分厚い層となって空を覆っているがためだ。
ゆえに、魔界に住む者たちは朝とも夜ともつかない中でのんびりと過ごす。だが、一部にはそんな中ですら規則正しい生活を送ろうとする酔狂な住人も居た。
つい二週間前、妻と共にここに越してきたグレゴールもその一人である。彼は現在、与えられた住処の裏庭で早朝の鍛錬にいそしんでいた。
「ふっ、はッ……ぜぇりゃっ！」
何処か粘つく魔力に満ちた空気を槍で引き裂き、穿つ。一連の動作に隙はない。墨を流したような黒い槍が稲光のように閃いている。
挙動の一つ一つは目で追えないほどに速く、三度振った後ようやく音が聞こえるほどだ。
と、ちょうど全ての型を一通り終えたところで、裏庭に面した扉が開いて、少々寝ぼけた様子のイライザが顔を出した。
「……グレゴール、ここに居たのか」
「おはよう、イライザ。随分と遅いお目覚めではないか？」
目を上げて快活に笑うグレゴールに、イライザはわずかに頬を染めつつむくれる。
「今日は非番だからな。……それより、起きて隣に誰も居ないのは寂しいぞ。私よりずっと強くなってしまったのだから、訓練などせずとも良いじゃないか」
「そうはいかん。大切な相手を二度も守れなかった、などというのは絶対に御免だからな」
酷く真面目な顔になった男に、イライザはほんのり微笑んだ。彼は間違いなく自分のことを一番に考えてくれている。ここ最近何度も噛みしめた幸せだったが、噛むほどに味が薄れるどころか、より芳醇に、より甘くなっているように感じられた。
そこで彼女は笑いを引っ込めた。より良い夫婦生活のため、ここは強く出るべきだ。
「まず私が貴様に負けているのがおかしい。これは、貴様の精が足りないからではないか？」
「ついさっきあれだけ注いでやったというのに、まだ足りんと言うのか、ここは」
「ひうっ……！」
無造作に近づいてきた男に子宮の上を撫でられて、イライザは軽い絶頂に達した。
彼の言う通り、子宮にはまだ濃い蜜のような精液が残っている。それがジリジリと内から身を焦がしていたところに、外からも触れられたのだ、気をやってしまうのも無理はない。
「というよりも、お前に精を注ぐのと同時に、俺も魔力を受け取っていることを忘れているだろう。まあ、外見の変化は最初の一週間で既に終えていたから、仕方ないのかもしれんが」
ここに越してくる前、二人はリンドヴルムの外れで一月生活を共にし、そのほとんどをベッドの中で過ごした。むろん、病気的な意味ではなく性交的な意味でである。
何故魔界に直接戻らなかったのかと言うと、“トンビに油揚げをさらわれる”ことを警戒したらしい。男を完全に自分のものにしてからでなければ気が休まらないと、わざわざ魔界ではなく人間の世界の外れで、あの「一月繋がったままでいる」という宣言を実行したのだ。
結果として、イライザの望みはほぼ叶ったと言って良いだろう。何せ、最初の一週間で男は完全にインキュバス化し、その後も延々交わり続けて彼女の味を刻み込まれてしまったのだから。
とはいえ、それは彼女も同じこと。数千単位で精液を注ぎ込まれた肉体は、その味を完全に覚え、半ば中毒状態になってしまっている。同じと言うより彼女のほうが重症だった。
そんな蜜を煮詰めたような濃密で甘い一月を思い出しトリップしかけたところで、イライザの額に衝撃が走った。愛情七割苛立ち三割の一撃だったが、地味に痛い。
わずかに涙の滲んだ目で睨みつけると、男がくつくつと笑っていた。
「人が話しているときにぼんやりする癖は、直したほうが良いと思うがな？」
「私を骨抜きにした貴様が悪い。それで、なんの話だ」
頬を膨らませて機嫌悪く聞き返したイライザだったが、次の男の言葉に激しく動揺した。
「うむ。ある程度肉がついていたほうが抱き心地が良いが、つき過ぎると問題だという話だな」
「うん？ ……あ、えっ？ それはつまり……あう、まさか、もしかして……」
言い淀みつつ、その手はぺたぺたとわき腹やら二の腕やらを触っている。
言った男の顔は一見すると真面目に見えたが、しかし濃灰の瞳は完全に笑っていた。
実際、イライザが太ってきたなどという事実は存在しない。その肢体は依然として出るところは出て、引っ込むべきところは引っ込んでいる。適度な脂肪としなやかな筋肉の調和は、最高級の抱き心地をグレゴールに提供していた。
が、不幸なことにイライザには心当たりがあり過ぎた。精を注がれればそれが消えるまで幸福感と恍惚感に包まれ続け、結果として訓練に身が入らなくなる。かつては自主練に当てていた時間も、最近は男と過ごし愛し合うために使われるのがほとんどだった。
慌てに慌てるイライザを見て、グレゴールはとうとう腹を抱えて笑い始めた。それでも何が何だか分かっていない彼女に、彼は滲んだ涙をぬぐいながら言う。
「まずは朝飯にしよう。その後は共に訓練して、久々に手合わせといこうじゃないか」
「うむ、その、なんだ……私に訓練が必要なのは……まあその、認めなくもない。しかしだ、付き合ってくれるのは嬉しい、嬉しいが、お前も一緒にやる必要はあるのか？」
インキュバス化して、男は三十前後まで若返った。交わるのに適した年齢までさかのぼったわけだが、それは同時に戦士としての最盛期でもある。更に長い年月磨き上げられた技術と、インキュバスとしての身体能力が加わって、今の彼の力量は大変なものになっていた。
それどころか、最近ではベッドの上の戦ですら劣勢を強いられることが多い。これで更に力の差が開くのは、イライザとしては看過できない事態である。
彼女の問いにグレゴールはおもむろに槍を構えると、舞い落ちる葉に向け一撃を繰り出した。見れば、切っ先が見事舞っていた葉を捉え貫いている。
「うむ。……まあ、この程度だからな。まだまだ、鍛錬が足りんさ」
「見事な技だと思ったが……何が不満なのだ？」
槍が葉の中央部を浅く刺している。反対からは爪の先ほども出ていない。
こんなことを意識してやったのならば、十中八九意識してのものだろうが、もはや人間業ではない。それどころか、魔物ですら出来るものはそう居ないはずだ。
これの何が不満なのだと胡乱気な視線を向けるイライザに、男は葉を取って広げて見せる。
「良く見ろ、葉の筋を逸れているだろう」
「まあ、確かに外れてはいるが……」
渡された葉を良く見れば、確かに穴は一番太い葉脈を逸れている。
しかし舞い落ちる葉を突き貫くというだけでも神業的なのに、更にその一点を狙うなどというのは、流石に欲張り過ぎではないか。
「いや、今の目と身体ならこのぐらいは出来るはずだ。――それとだな」
「うん？」
「訓練を終えた後に、その、なんだ、家の中でも訓練をしたいと思っている。一人でも出来なくはないが、それは流石に虚しい。だから、付き合ってもらうために付き合うのだ」
頬を掻き視線を泳がせながら、それでも男は言い切った。
それにまずイライザは目を丸くする。次ににやりと笑って、彼の身体にしなだれかかった。
「そういうことなら、喜んで。……くふふ、二度と妙なことを言えぬように、この身体の素晴らしさを存分に分からせてやろう」
「うむ、お手柔らかに頼む……と、おいこら待たんか。訓練どころかまだ飯すら食っとらんのに、さっそく首を外そうとするんじゃない！」
―― 8 ――
蜜をたっぷりと吸った生地を混ぜるような粘ついた水音と共に、頭の奥が痺れるような強烈な獣臭が部屋を包み込んでいる。
熱気もまた凄まじい。熱された空気が、身動きするたびにぬるりと肌を舐め上げていく。
そんな部屋の中央にあるベッドの上で、二頭の獣が絡み合っていた。
浅黒い獣と、色白の獣。どちらも汗を浮かべ、必死で互いを貪り合っている。
どうやら、白いほうが劣勢のようだ。透きとおるように白かったであろう肌は、今や完全に紅潮して桜色に染まっている。組み伏せられながらも必死で足を絡め腰を動かしているが、その様は快楽に悶えているようにしか見えない。肉槍に深々と刺し貫かれた膣は愛液に溢れ、シーツをぐっしょりと濡らしていた。
「ひ、あ……やめ、そこ、よわ……ふあああっ！」
ゴリゴリと膣の上方にある弱い場所を的確に突かれ、白い獣――イライザが甘く鳴く。
ピストンの度に二人の間で潰れた大きな胸がぐにぐにと形を変えて激しく自己主張している。柔らかな膨らみの中で唯一強い弾力を持った乳首が独特の刺激を生みだしていた。
「グレ、ゴール……だから、そこばっかり、突く、のは、ひゃ、み、ああぁぁぁぁっ！」
ぐずぐずに蕩けつつも肉槍に絡みついていた膣壁がきつく収縮し、ぷしゃっと潮を吹いた。同時に身体がびくんと大きく痙攣し、足がピンと伸びる。
それらを全て包み込むように柔らかな身体を抱きしめると、男は執拗に弱点を突き続けた。その最中に、絶頂の余韻に震えている頬や首筋にキスを落としていく。そして最後におとがいへと流れた汗の雫を舐め取ると、そのまま唇へと吸いついた。
わずかに塩辛い汗と、甘い唾液が混ざり合う。しかしそこで、新たな交点に反撃の糸口を見つけたイライザが激しく応戦した。
「んむ、れろ、ちゅ……じゅる、ん……」
「む、ぐっ……」
舌を絡め、唾液を啜りあげて、快感を注ぎ込むようなねっとりとした口づけが交わされる。魔物の特性かそれとも本人の得手不得手か、男は圧倒され他の動きまで鈍った。更に口の動きに呼応するように膣内が蠢いて、射精感が一気に高まる。
これを機に劣勢を挽回しようとイライザが意気込んだところで、不意に男の動きが変わった。カリ首の辺りまで肉槍を引き抜かれ、彼女は眉をひそめる。
「……んむぅっ！？」
次の瞬間、一気に最奥まで貫かれて完全に硬直した。
びくっびくっびくっと、イライザの腰から全身に波及するように痙攣が広がっていく。視界が白く染まっているのか目はあらぬほうを向き、唇は仕事を忘れてぱくぱくと開閉していた。
男が、再びゆっくりと肉槍を穂先まで引き抜く。
「や、めっ……」
ずぐんと、追い打ちをかけるように突きこまれる。既に絶頂にあったところを押し上げられ、イライザが声にならない絶叫をあげた。そしてまた、ペニスがぬるぅーっと引き抜かれる。
涙を滲ませつつ、彼女は空色の髪を振り乱して訴えた。これ以上気持ち良くされたらおかしくなる。すると、グレゴールはこれ以上なく優しげに微笑んで――あっさりと絶望を告げた。
「うむ、気持ち良いのだろう？ たっぷりと楽しむが良い」
抗議の声を上げる間もなく、奥に肉杭が叩きつけられ鈍い水音がした。白魚のように跳ねる肢体が、逞しい腕に絡め取られる。そのまま、男は彼女をきつく抱きしめつつ、膣内の感触を楽しむようにゆっくりと、深いストロークを繰り返した。
快楽の波に翻弄される主をよそに、イライザの膣と子宮は男を熱烈に歓迎していた。挿れるときには襞の一枚一枚が全体を舐め上げるように刺激し、奥に着けば先端に子宮口が貪欲に食らいつき、抜こうとすればカリがにゅるにゅると引っ掻かれる。
動くたびに腰が抜けるほどの快感を刻み込んでくる肉孔を、男は丁寧に、しかし力強く突く。
そうしながらも、その手は啜り泣きのような嬌声を洩らす彼女の髪を優しく梳いていた。ついばむような口づけを繰り返す様子も、愛しくて愛しくてたまらないという感じだ。
そう、別に泣かせたいわけではない。泣き顔も可愛いが、だからと言ってそれを目的としているわけではない。ただ愛おしくて、気持ち良くなってくれるのが嬉しいゆえの行動だった。
数突きごとに肉孔が激しく収縮する。その度に抜く際の抵抗が強くなり、子宮が鈴口に吸い付いて、先走りを吸い取って行く。
グレゴールも限界が近かった。一旦腰を引いて態勢を立て直そうかと彼が思ったところで、イライザの脚ががっちりと腰に回されていることに気づく。
驚いてイライザの顔を見ると、紅潮してトロトロに蕩けきった表情の中、赤い目と艶やかな唇が強気な笑みを浮かべている。が、どうにも無理をしているようにしか見えない。
「きさまのぉ、しゅきに、ばかりぃ……しゃせるもにょかぁ……」
口調はさらに酷かった。ろれつの回っていない状態で、それでも必死に意地を張っている。
腰がほとんど動かせないので、肉槍でぐりぐりと子宮口を捏ねるように刺激した。先ほどまでのイライザなら、これで子猫のように鳴いていたのだが、今は震えつつも必死にこらえている。
必ず貴様を先にイかせてやる、と切れ長の目が訴えていた。負けず嫌いにもほどがあるが、それが愛おしくてたまらない。これが、恋は盲目という奴だろうか。
首を外した際の獣じみた激しい交わりと、今のように外さないままの意地っ張りな交わり。どちらも甲乙つけがたい。ああ本当に、完膚なきまでやられてしまっている。
グレゴールはふわりと笑ったまま、抱きしめたイライザの耳元で囁いた。
「イライザ」
「ふぁ？」
「――愛している」
聞いた途端に、イライザの目がこれ以上ないほどに大きく開かれる。
「ぐれご、る……きしゃま、それ、ずる……やら、やぁ、ひああああああああああッ！」
叫ぶや否や、イライザの身体が一際大きく跳ね、きゅぅぅっとこれまでにないほどきつく膣が締まる。痛みを感じるほどの食いつきに、半ば吸い取られるように射精が始まった。背骨や腰どころか全身丸ごと持っていかれそうな強烈な射精感を、愛しい女の身体をきつく抱きしめることで耐える。
子宮口に密着した先端から、どろどろとした精液が直接子宮に注がれていく。片や精を吸われる被虐と注ぎ込む解放感に、片や注ぎ込まれた精の甘さと子宮を焼く陶酔感に、どちらも叫びをあげていた。
「……おい、重いぞ」
少しの間意識を失っていたらしいと気づいたのは、不機嫌そうなイライザの声を聞いてからのことだった。脇に肘をついて身体を起こせば、むっすりとした妻の顔が目に入る。
どうやらやり過ぎてしまったらしい。手合わせの後、そのままベッドに直行したのが良くなかった、とグレゴールは反省した。戦いでの昂りは交わりでのそれと似た部分があるようで、最初から異常に白熱した状態で始めることになったのだ。結果、歯止めが効かなかったのだろう。
謝罪の意を込めて頭を撫でようとしたところ、ギロリと睨みつけられてしまった。ここは大人しく引いておこうと身体を動かした瞬間、ぐるりと視界が反転する。気づいたときには、繋がったまま上下が入れ替わった状態、つまりは騎乗位の姿勢でイライザが彼を見下ろしていた。
「イライザ？」
「……よくもやってくれたな」
氷像のように冷え切った美貌で笑い、低い声色でイライザが言う。
轢かれた蛙そっくりの声でグレゴールが呻いた。彼の表情に少し満足したのか、イライザはぺろりと舌なめずりをすると、肉槍を最奥まで飲み込んだ腰をわずかに捻る。
それだけで、竿から先端まで全てが舐め上げられ、咥えこまれたモノが小さく跳ねた。
「私も魔物だ、気持ち良いのは嫌いではない。貴様と一緒にイけたときなどはとても幸せだ」
先ほど自分が彼女に向けたような微笑を向けられて、グレゴールは顔を引きつらせた。
何せ、目が笑っていない。視線を合わせるのが怖いほど嗜虐的な微笑なのだ。
「だが一方的に気持ち良くされるのは嫌いだ。何と言っても、魔物としてのプライドが傷つく」
「……最後は俺も一緒だったではないか」
「それまでに私は何十回もイかされていたんだぞ。……なあ、これは実に不平等な話だと思わないか？」
声が微妙に遠ざかって感じられた直後に、睾丸がぬるりとしたものに包まれた。
泳がせていた視線を戻すと、またがっている身体に頭がない。
「おいイライザ、一体何をして……ぐ、おっ」
「ふむ、この袋も微妙に精の味が滲んでいて美味だな……あむ、れろ」
口内で睾丸を転がされて、男は身体をこわばらせる。強烈ではない、むしろ穏やかな刺激だったが、ゾクゾクとこみあげるような不思議な快感があった。
「コリコリしてきた、気持ち良いのか？ これで腰を振られたらどうなるのだろうなぁ？」
腫れ上がった肉槍を襞で研ぎあげるように、イライザは美尻を大きく揺らした。加えて精液を搾り出すように陰嚢を舐められて、男は瞬時に追い詰められてしまう。
「んっ……私の奥で、先っぽがパンパンに腫れているぞ。ふふっ、もう出そうなのか？」
嘲笑混じりの声に我慢しようとも、自分のペースではない動きで乱暴に腰を振り立てられ、不慣れな場所を執拗に舐め上げられては耐えられようもない。
一番深くまで腰が落とされた瞬間に、堰が切れた。
「く、ふ……イったな？ 玉が必死に収縮して、私の中に精を送り込もうとしているぞ。ふむ、これは手伝ってやらねばならんな」
またも咥えこまれた睾丸が、唇と舌できゅうきゅうと搾るように揉まれる。玉袋の中の精液まで一滴残らず押し出され子宮に吸い上げられて、男はぐったりと弛緩した。
それでもイライザを貫いた肉槍は萎えないのだから、インキュバスは業が深い。
「いきなりの思いつきだったが、気に入ってくれたようで何よりだ。……ほら、お前の精は全てここに貰ったぞ、グレゴール」
得意満面な笑顔で、イライザは子宮の上を撫でている。
ベッドに身体をだらりと預けた男は、彼女のしぐさを視線だけで確認する。そして天井をしばらく眺めた後、唐突に切り出した。
「……なぁ、イライザ。お前は昔、『子は男のほうが良いのか』と聞いてきたことがあったな？」
仰向けに引っくり返ったままでのいきなりな問いに、面食らいながらもイライザは答える。
「ああ。確か、領主に長男が生まれた時のことだな。……それが何か？」
「俺は、お前との子なら男でも女でも構わんよ」
「え、あ……それは、つまり？」
明らかに動揺した声色で問い返す彼女に、男は至極真面目な顔で続けた。
「そろそろ子が欲しいと言うことだな。男の子でも女の子でも、とにかく顔が見たい」
声を失っているのか、しばらく沈黙が続く。男が痺れを切らしかけたところで、いきなり腰の上の身体が動き、硬いままだった勃起を責め始めた。
遅れて、その背後から楽しげな声が聞こえてくる。
「そういうつもりなら、もっともっと、私の腹が膨れるまで出してもらわねばならないな……！」
激しく淫らに腰を振り立てる身体の上で、何かもやのようなものがたゆたっていた。
あのピンク色の巨大な塊は、彼女の欲望だろうか。藪をつついて蛇を出してしまったかな、と思いつつも、男は一応釘を刺してみることにした。
「明日は非番では、ぐっ、ないはずだぞ。余り無茶を、するものでは――」
「あんなことを言う、んあっ、貴様が悪い。それに、はふ、まだ夕方だ。時間は十分に、ある」
予想できた解答に男は小さく首をすくめ、諦めて嵐のような快楽に身を任せた。
熱く柔らかな口内によって優しく刺激されている睾丸が、全力で子種を生産し、子袋に送り込む算段をしている。蕩けきった襞が咀嚼するように収縮して、射精を促す。
こうして、夜は更けてゆく。
イライザのこの乱れようでは遅刻どころか休む羽目になるかもしれない。まあそれも良いかとグレゴールは微笑んで、目の前の幸せを堪能することにした。
―― おしまい ――
サキュバスの魔力に満ち溢れ、魔物が暮らす土地を魔界と呼ぶ。
ダークスライムやヴァンパイア、ドラゴンなどの強力な魔物が跳梁跋扈し、最奥には魔王が居を構え、周囲をデュラハンを筆頭とする騎士団が固めている――主神教徒が考える魔界とはこのようなものであり、一種固有名詞のような扱いを受けてすらいる。
だが、実際はそれほど画一的ではない。それも当然の話で、一定以上の魔力に包まれた地が魔界となる以上は、全ての土地が魔界化する可能性を持っている。魔界だからと言って必ずしもドラゴンがほっつき歩いていたり、魔王城があったりするわけではない。
とは言っても、魔界化するほど濃密な魔力が存在する以上は、中心に何かあることがほとんどだ。それは例えばかの有名な九尾の狐だったり、闇の太陽と呼ばれるダークマターだったり、はたまた魔王の娘と呼ばれるリリムだったりする。
グレゴールとイライザが居るのも、ある穏健派のリリムが中心となった魔界の一都市だった。
魔界の朝は薄暗い。サキュバスの魔力が分厚い層となって空を覆っているがためだ。
ゆえに、魔界に住む者たちは朝とも夜ともつかない中でのんびりと過ごす。だが、一部にはそんな中ですら規則正しい生活を送ろうとする酔狂な住人も居た。
つい二週間前、妻と共にここに越してきたグレゴールもその一人である。彼は現在、与えられた住処の裏庭で早朝の鍛錬にいそしんでいた。
「ふっ、はッ……ぜぇりゃっ！」
何処か粘つく魔力に満ちた空気を槍で引き裂き、穿つ。一連の動作に隙はない。墨を流したような黒い槍が稲光のように閃いている。
挙動の一つ一つは目で追えないほどに速く、三度振った後ようやく音が聞こえるほどだ。
と、ちょうど全ての型を一通り終えたところで、裏庭に面した扉が開いて、少々寝ぼけた様子のイライザが顔を出した。
「……グレゴール、ここに居たのか」
「おはよう、イライザ。随分と遅いお目覚めではないか？」
目を上げて快活に笑うグレゴールに、イライザはわずかに頬を染めつつむくれる。
「今日は非番だからな。……それより、起きて隣に誰も居ないのは寂しいぞ。私よりずっと強くなってしまったのだから、訓練などせずとも良いじゃないか」
「そうはいかん。大切な相手を二度も守れなかった、などというのは絶対に御免だからな」
酷く真面目な顔になった男に、イライザはほんのり微笑んだ。彼は間違いなく自分のことを一番に考えてくれている。ここ最近何度も噛みしめた幸せだったが、噛むほどに味が薄れるどころか、より芳醇に、より甘くなっているように感じられた。
そこで彼女は笑いを引っ込めた。より良い夫婦生活のため、ここは強く出るべきだ。
「まず私が貴様に負けているのがおかしい。これは、貴様の精が足りないからではないか？」
「ついさっきあれだけ注いでやったというのに、まだ足りんと言うのか、ここは」
「ひうっ……！」
無造作に近づいてきた男に子宮の上を撫でられて、イライザは軽い絶頂に達した。
彼の言う通り、子宮にはまだ濃い蜜のような精液が残っている。それがジリジリと内から身を焦がしていたところに、外からも触れられたのだ、気をやってしまうのも無理はない。
「というよりも、お前に精を注ぐのと同時に、俺も魔力を受け取っていることを忘れているだろう。まあ、外見の変化は最初の一週間で既に終えていたから、仕方ないのかもしれんが」
ここに越してくる前、二人はリンドヴルムの外れで一月生活を共にし、そのほとんどをベッドの中で過ごした。むろん、病気的な意味ではなく性交的な意味でである。
何故魔界に直接戻らなかったのかと言うと、“トンビに油揚げをさらわれる”ことを警戒したらしい。男を完全に自分のものにしてからでなければ気が休まらないと、わざわざ魔界ではなく人間の世界の外れで、あの「一月繋がったままでいる」という宣言を実行したのだ。
結果として、イライザの望みはほぼ叶ったと言って良いだろう。何せ、最初の一週間で男は完全にインキュバス化し、その後も延々交わり続けて彼女の味を刻み込まれてしまったのだから。
とはいえ、それは彼女も同じこと。数千単位で精液を注ぎ込まれた肉体は、その味を完全に覚え、半ば中毒状態になってしまっている。同じと言うより彼女のほうが重症だった。
そんな蜜を煮詰めたような濃密で甘い一月を思い出しトリップしかけたところで、イライザの額に衝撃が走った。愛情七割苛立ち三割の一撃だったが、地味に痛い。
わずかに涙の滲んだ目で睨みつけると、男がくつくつと笑っていた。
「人が話しているときにぼんやりする癖は、直したほうが良いと思うがな？」
「私を骨抜きにした貴様が悪い。それで、なんの話だ」
頬を膨らませて機嫌悪く聞き返したイライザだったが、次の男の言葉に激しく動揺した。
「うむ。ある程度肉がついていたほうが抱き心地が良いが、つき過ぎると問題だという話だな」
「うん？ ……あ、えっ？ それはつまり……あう、まさか、もしかして……」
言い淀みつつ、その手はぺたぺたとわき腹やら二の腕やらを触っている。
言った男の顔は一見すると真面目に見えたが、しかし濃灰の瞳は完全に笑っていた。
実際、イライザが太ってきたなどという事実は存在しない。その肢体は依然として出るところは出て、引っ込むべきところは引っ込んでいる。適度な脂肪としなやかな筋肉の調和は、最高級の抱き心地をグレゴールに提供していた。
が、不幸なことにイライザには心当たりがあり過ぎた。精を注がれればそれが消えるまで幸福感と恍惚感に包まれ続け、結果として訓練に身が入らなくなる。かつては自主練に当てていた時間も、最近は男と過ごし愛し合うために使われるのがほとんどだった。
慌てに慌てるイライザを見て、グレゴールはとうとう腹を抱えて笑い始めた。それでも何が何だか分かっていない彼女に、彼は滲んだ涙をぬぐいながら言う。
「まずは朝飯にしよう。その後は共に訓練して、久々に手合わせといこうじゃないか」
「うむ、その、なんだ……私に訓練が必要なのは……まあその、認めなくもない。しかしだ、付き合ってくれるのは嬉しい、嬉しいが、お前も一緒にやる必要はあるのか？」
インキュバス化して、男は三十前後まで若返った。交わるのに適した年齢までさかのぼったわけだが、それは同時に戦士としての最盛期でもある。更に長い年月磨き上げられた技術と、インキュバスとしての身体能力が加わって、今の彼の力量は大変なものになっていた。
それどころか、最近ではベッドの上の戦ですら劣勢を強いられることが多い。これで更に力の差が開くのは、イライザとしては看過できない事態である。
彼女の問いにグレゴールはおもむろに槍を構えると、舞い落ちる葉に向け一撃を繰り出した。見れば、切っ先が見事舞っていた葉を捉え貫いている。
「うむ。……まあ、この程度だからな。まだまだ、鍛錬が足りんさ」
「見事な技だと思ったが……何が不満なのだ？」
槍が葉の中央部を浅く刺している。反対からは爪の先ほども出ていない。
こんなことを意識してやったのならば、十中八九意識してのものだろうが、もはや人間業ではない。それどころか、魔物ですら出来るものはそう居ないはずだ。
これの何が不満なのだと胡乱気な視線を向けるイライザに、男は葉を取って広げて見せる。
「良く見ろ、葉の筋を逸れているだろう」
「まあ、確かに外れてはいるが……」
渡された葉を良く見れば、確かに穴は一番太い葉脈を逸れている。
しかし舞い落ちる葉を突き貫くというだけでも神業的なのに、更にその一点を狙うなどというのは、流石に欲張り過ぎではないか。
「いや、今の目と身体ならこのぐらいは出来るはずだ。――それとだな」
「うん？」
「訓練を終えた後に、その、なんだ、家の中でも訓練をしたいと思っている。一人でも出来なくはないが、それは流石に虚しい。だから、付き合ってもらうために付き合うのだ」
頬を掻き視線を泳がせながら、それでも男は言い切った。
それにまずイライザは目を丸くする。次ににやりと笑って、彼の身体にしなだれかかった。
「そういうことなら、喜んで。……くふふ、二度と妙なことを言えぬように、この身体の素晴らしさを存分に分からせてやろう」
「うむ、お手柔らかに頼む……と、おいこら待たんか。訓練どころかまだ飯すら食っとらんのに、さっそく首を外そうとするんじゃない！」
―― 8 ――
蜜をたっぷりと吸った生地を混ぜるような粘ついた水音と共に、頭の奥が痺れるような強烈な獣臭が部屋を包み込んでいる。
熱気もまた凄まじい。熱された空気が、身動きするたびにぬるりと肌を舐め上げていく。
そんな部屋の中央にあるベッドの上で、二頭の獣が絡み合っていた。
浅黒い獣と、色白の獣。どちらも汗を浮かべ、必死で互いを貪り合っている。
どうやら、白いほうが劣勢のようだ。透きとおるように白かったであろう肌は、今や完全に紅潮して桜色に染まっている。組み伏せられながらも必死で足を絡め腰を動かしているが、その様は快楽に悶えているようにしか見えない。肉槍に深々と刺し貫かれた膣は愛液に溢れ、シーツをぐっしょりと濡らしていた。
「ひ、あ……やめ、そこ、よわ……ふあああっ！」
ゴリゴリと膣の上方にある弱い場所を的確に突かれ、白い獣――イライザが甘く鳴く。
ピストンの度に二人の間で潰れた大きな胸がぐにぐにと形を変えて激しく自己主張している。柔らかな膨らみの中で唯一強い弾力を持った乳首が独特の刺激を生みだしていた。
「グレ、ゴール……だから、そこばっかり、突く、のは、ひゃ、み、ああぁぁぁぁっ！」
ぐずぐずに蕩けつつも肉槍に絡みついていた膣壁がきつく収縮し、ぷしゃっと潮を吹いた。同時に身体がびくんと大きく痙攣し、足がピンと伸びる。
それらを全て包み込むように柔らかな身体を抱きしめると、男は執拗に弱点を突き続けた。その最中に、絶頂の余韻に震えている頬や首筋にキスを落としていく。そして最後におとがいへと流れた汗の雫を舐め取ると、そのまま唇へと吸いついた。
わずかに塩辛い汗と、甘い唾液が混ざり合う。しかしそこで、新たな交点に反撃の糸口を見つけたイライザが激しく応戦した。
「んむ、れろ、ちゅ……じゅる、ん……」
「む、ぐっ……」
舌を絡め、唾液を啜りあげて、快感を注ぎ込むようなねっとりとした口づけが交わされる。魔物の特性かそれとも本人の得手不得手か、男は圧倒され他の動きまで鈍った。更に口の動きに呼応するように膣内が蠢いて、射精感が一気に高まる。
これを機に劣勢を挽回しようとイライザが意気込んだところで、不意に男の動きが変わった。カリ首の辺りまで肉槍を引き抜かれ、彼女は眉をひそめる。
「……んむぅっ！？」
次の瞬間、一気に最奥まで貫かれて完全に硬直した。
びくっびくっびくっと、イライザの腰から全身に波及するように痙攣が広がっていく。視界が白く染まっているのか目はあらぬほうを向き、唇は仕事を忘れてぱくぱくと開閉していた。
男が、再びゆっくりと肉槍を穂先まで引き抜く。
「や、めっ……」
ずぐんと、追い打ちをかけるように突きこまれる。既に絶頂にあったところを押し上げられ、イライザが声にならない絶叫をあげた。そしてまた、ペニスがぬるぅーっと引き抜かれる。
涙を滲ませつつ、彼女は空色の髪を振り乱して訴えた。これ以上気持ち良くされたらおかしくなる。すると、グレゴールはこれ以上なく優しげに微笑んで――あっさりと絶望を告げた。
「うむ、気持ち良いのだろう？ たっぷりと楽しむが良い」
抗議の声を上げる間もなく、奥に肉杭が叩きつけられ鈍い水音がした。白魚のように跳ねる肢体が、逞しい腕に絡め取られる。そのまま、男は彼女をきつく抱きしめつつ、膣内の感触を楽しむようにゆっくりと、深いストロークを繰り返した。
快楽の波に翻弄される主をよそに、イライザの膣と子宮は男を熱烈に歓迎していた。挿れるときには襞の一枚一枚が全体を舐め上げるように刺激し、奥に着けば先端に子宮口が貪欲に食らいつき、抜こうとすればカリがにゅるにゅると引っ掻かれる。
動くたびに腰が抜けるほどの快感を刻み込んでくる肉孔を、男は丁寧に、しかし力強く突く。
そうしながらも、その手は啜り泣きのような嬌声を洩らす彼女の髪を優しく梳いていた。ついばむような口づけを繰り返す様子も、愛しくて愛しくてたまらないという感じだ。
そう、別に泣かせたいわけではない。泣き顔も可愛いが、だからと言ってそれを目的としているわけではない。ただ愛おしくて、気持ち良くなってくれるのが嬉しいゆえの行動だった。
数突きごとに肉孔が激しく収縮する。その度に抜く際の抵抗が強くなり、子宮が鈴口に吸い付いて、先走りを吸い取って行く。
グレゴールも限界が近かった。一旦腰を引いて態勢を立て直そうかと彼が思ったところで、イライザの脚ががっちりと腰に回されていることに気づく。
驚いてイライザの顔を見ると、紅潮してトロトロに蕩けきった表情の中、赤い目と艶やかな唇が強気な笑みを浮かべている。が、どうにも無理をしているようにしか見えない。
「きさまのぉ、しゅきに、ばかりぃ……しゃせるもにょかぁ……」
口調はさらに酷かった。ろれつの回っていない状態で、それでも必死に意地を張っている。
腰がほとんど動かせないので、肉槍でぐりぐりと子宮口を捏ねるように刺激した。先ほどまでのイライザなら、これで子猫のように鳴いていたのだが、今は震えつつも必死にこらえている。
必ず貴様を先にイかせてやる、と切れ長の目が訴えていた。負けず嫌いにもほどがあるが、それが愛おしくてたまらない。これが、恋は盲目という奴だろうか。
首を外した際の獣じみた激しい交わりと、今のように外さないままの意地っ張りな交わり。どちらも甲乙つけがたい。ああ本当に、完膚なきまでやられてしまっている。
グレゴールはふわりと笑ったまま、抱きしめたイライザの耳元で囁いた。
「イライザ」
「ふぁ？」
「――愛している」
聞いた途端に、イライザの目がこれ以上ないほどに大きく開かれる。
「ぐれご、る……きしゃま、それ、ずる……やら、やぁ、ひああああああああああッ！」
叫ぶや否や、イライザの身体が一際大きく跳ね、きゅぅぅっとこれまでにないほどきつく膣が締まる。痛みを感じるほどの食いつきに、半ば吸い取られるように射精が始まった。背骨や腰どころか全身丸ごと持っていかれそうな強烈な射精感を、愛しい女の身体をきつく抱きしめることで耐える。
子宮口に密着した先端から、どろどろとした精液が直接子宮に注がれていく。片や精を吸われる被虐と注ぎ込む解放感に、片や注ぎ込まれた精の甘さと子宮を焼く陶酔感に、どちらも叫びをあげていた。
「……おい、重いぞ」
少しの間意識を失っていたらしいと気づいたのは、不機嫌そうなイライザの声を聞いてからのことだった。脇に肘をついて身体を起こせば、むっすりとした妻の顔が目に入る。
どうやらやり過ぎてしまったらしい。手合わせの後、そのままベッドに直行したのが良くなかった、とグレゴールは反省した。戦いでの昂りは交わりでのそれと似た部分があるようで、最初から異常に白熱した状態で始めることになったのだ。結果、歯止めが効かなかったのだろう。
謝罪の意を込めて頭を撫でようとしたところ、ギロリと睨みつけられてしまった。ここは大人しく引いておこうと身体を動かした瞬間、ぐるりと視界が反転する。気づいたときには、繋がったまま上下が入れ替わった状態、つまりは騎乗位の姿勢でイライザが彼を見下ろしていた。
「イライザ？」
「……よくもやってくれたな」
氷像のように冷え切った美貌で笑い、低い声色でイライザが言う。
轢かれた蛙そっくりの声でグレゴールが呻いた。彼の表情に少し満足したのか、イライザはぺろりと舌なめずりをすると、肉槍を最奥まで飲み込んだ腰をわずかに捻る。
それだけで、竿から先端まで全てが舐め上げられ、咥えこまれたモノが小さく跳ねた。
「私も魔物だ、気持ち良いのは嫌いではない。貴様と一緒にイけたときなどはとても幸せだ」
先ほど自分が彼女に向けたような微笑を向けられて、グレゴールは顔を引きつらせた。
何せ、目が笑っていない。視線を合わせるのが怖いほど嗜虐的な微笑なのだ。
「だが一方的に気持ち良くされるのは嫌いだ。何と言っても、魔物としてのプライドが傷つく」
「……最後は俺も一緒だったではないか」
「それまでに私は何十回もイかされていたんだぞ。……なあ、これは実に不平等な話だと思わないか？」
声が微妙に遠ざかって感じられた直後に、睾丸がぬるりとしたものに包まれた。
泳がせていた視線を戻すと、またがっている身体に頭がない。
「おいイライザ、一体何をして……ぐ、おっ」
「ふむ、この袋も微妙に精の味が滲んでいて美味だな……あむ、れろ」
口内で睾丸を転がされて、男は身体をこわばらせる。強烈ではない、むしろ穏やかな刺激だったが、ゾクゾクとこみあげるような不思議な快感があった。
「コリコリしてきた、気持ち良いのか？ これで腰を振られたらどうなるのだろうなぁ？」
腫れ上がった肉槍を襞で研ぎあげるように、イライザは美尻を大きく揺らした。加えて精液を搾り出すように陰嚢を舐められて、男は瞬時に追い詰められてしまう。
「んっ……私の奥で、先っぽがパンパンに腫れているぞ。ふふっ、もう出そうなのか？」
嘲笑混じりの声に我慢しようとも、自分のペースではない動きで乱暴に腰を振り立てられ、不慣れな場所を執拗に舐め上げられては耐えられようもない。
一番深くまで腰が落とされた瞬間に、堰が切れた。
「く、ふ……イったな？ 玉が必死に収縮して、私の中に精を送り込もうとしているぞ。ふむ、これは手伝ってやらねばならんな」
またも咥えこまれた睾丸が、唇と舌できゅうきゅうと搾るように揉まれる。玉袋の中の精液まで一滴残らず押し出され子宮に吸い上げられて、男はぐったりと弛緩した。
それでもイライザを貫いた肉槍は萎えないのだから、インキュバスは業が深い。
「いきなりの思いつきだったが、気に入ってくれたようで何よりだ。……ほら、お前の精は全てここに貰ったぞ、グレゴール」
得意満面な笑顔で、イライザは子宮の上を撫でている。
ベッドに身体をだらりと預けた男は、彼女のしぐさを視線だけで確認する。そして天井をしばらく眺めた後、唐突に切り出した。
「……なぁ、イライザ。お前は昔、『子は男のほうが良いのか』と聞いてきたことがあったな？」
仰向けに引っくり返ったままでのいきなりな問いに、面食らいながらもイライザは答える。
「ああ。確か、領主に長男が生まれた時のことだな。……それが何か？」
「俺は、お前との子なら男でも女でも構わんよ」
「え、あ……それは、つまり？」
明らかに動揺した声色で問い返す彼女に、男は至極真面目な顔で続けた。
「そろそろ子が欲しいと言うことだな。男の子でも女の子でも、とにかく顔が見たい」
声を失っているのか、しばらく沈黙が続く。男が痺れを切らしかけたところで、いきなり腰の上の身体が動き、硬いままだった勃起を責め始めた。
遅れて、その背後から楽しげな声が聞こえてくる。
「そういうつもりなら、もっともっと、私の腹が膨れるまで出してもらわねばならないな……！」
激しく淫らに腰を振り立てる身体の上で、何かもやのようなものがたゆたっていた。
あのピンク色の巨大な塊は、彼女の欲望だろうか。藪をつついて蛇を出してしまったかな、と思いつつも、男は一応釘を刺してみることにした。
「明日は非番では、ぐっ、ないはずだぞ。余り無茶を、するものでは――」
「あんなことを言う、んあっ、貴様が悪い。それに、はふ、まだ夕方だ。時間は十分に、ある」
予想できた解答に男は小さく首をすくめ、諦めて嵐のような快楽に身を任せた。
熱く柔らかな口内によって優しく刺激されている睾丸が、全力で子種を生産し、子袋に送り込む算段をしている。蕩けきった襞が咀嚼するように収縮して、射精を促す。
こうして、夜は更けてゆく。
イライザのこの乱れようでは遅刻どころか休む羽目になるかもしれない。まあそれも良いかとグレゴールは微笑んで、目の前の幸せを堪能することにした。
―― おしまい ――
11/08/29 11:20更新 / 具入りラー油
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