前編 乱入準備
「あ〜はい、思い出してきた」
そう、俺の名は勇者レイバ、ある日、神の加護を受けた俺は勇者として魔王を倒す旅に出る事になった。様々な冒険をしたものだが、ここでは関係ないので割愛する。俺は旅の途中、未知の病に罹りあっさり死んでしまったのだ。魔王討伐が使命の勇者がこうも簡単に死んでしまうなんて、人生なんてあっけないものである。
「あんたが死んだせいで私のアーチくんが2週間部屋に閉じこもりっぱなしだったのよ!」
で、俺を起こしてくれたこいつはうちのパーティの僧侶のリスト、僧侶の割には性格がキツイ。というか本当に僧侶か?回復魔法よりもバ○クロス撃ちまくる方が楽しいって言ってたぞこいつ。
そして、アーチとは、リストと同じく俺の仲間だ。職は便宜上狩人、俺が旅立ちの時からいっしょにいた仲間で幼馴染である…言っておくけど男ですよ? リストが攻撃に夢中になっているときに、よく薬草やポーションで俺の傷を癒してくれたものだ。ちなみにリストのものではない。
「そういうお前は落ち込まなかったのか?」
「いえ、ライバルが減ってうれしいな〜と思ってたわ」
「神さまぁぁぁぁぁ!!天罰を!この娘に一番きっつい天罰をお願いします!」
「冗談に決まってるでしょ、落ち込んでる暇はなかったってのが本音よ」
「結局、落ち込んではくれなかったのね…」
「アーチくんとオリアが私の分を賄えるほど落ち込んでくれてたわ、あの二人引っ張るの大変だったんだから」
紹介が最後になったが、パーティの前衛である戦士オリア、女性であるが自慢の怪力でパーティの攻撃の要を担っている。性格は豪放磊落。そういうと聞こえはいいが、いわゆる脳筋。ミノタウロスの頭と交換しても多分大差ない。というか、ミノタウロスじゃないよね?
「さっきスルーしたけど何のライバルだよ?」
「決まってるでしょ?アーチくんの恋のライバルよ」
「いくらかわいいからといっても、あいつ男よ? そんなのあるはずないでしょ」
「幼馴染だからって危険な冒険にまでついて来るなんて怪しいわよ!」
「いや!?王道中の王道でしょ!?」
「それにあんたばっかりアーチくんにスリスリされたり抱きつかれたりずるいのよ!」
「俺の方が年上だし、兄貴として慕ってただけじゃないの?」
…とはいうものの確かにいき過ぎではないかと思ったことは多々ある。
馬車に乗っていると必ず隣に座り体を密着させた。
強敵を倒したときや依頼を成功させたときなどよく抱きつかれた。
それとなくたしなめても「男同士だからいいの!」とやめようとしなかった。
あるとき、もしかしたら魔物娘が化けているのではないかと疑い、期待しながらこっそり真実の鏡を使ってみたが…残念ながら本当に男であった。あ、いや残念じゃなかった。
「そういうことにして置いてあげるわ、意味のない議論ですしね」
「俺が死んだあとどうなったんだ?」
「行けるところまで行こうってなったんだけど、あんたがいないから全然進まなかったわ」
「そうであろう、そうであろう。どこまで行けたのだね?」
こう見えて勇者の中でも実力のある方だと自負している。やはり俺がいないと始まらないのだ。
「魔王城一歩手前まで」
「むちゃくちゃ進んでんじゃん!」
「で、今は冒険をやめて魔界近くの町で暮らしてるってわけ」
「さいですか…」
皆元気ならばそれに越したことはないが…自信なくすわぁ…
「一番気になってたんだけど、死んだ俺がどうして生き返ったんだ?」
「使える手駒が欲しかったから私が蘇らせたわ!」
「おい、なんてことしやがる外道!!」
「まさかこんなに理性が残ってるとは思わなかったわ。腐り切っても勇者ってことね」
「誰がうまいことを言えと…」
「どちらにしても、私の言うことを聞くようにしておいたから何の問題もないけど」
「僧侶とはいったいなんだったのか」
「とにかく、話を聞きなさい」
「あいよ」
「…アーチくんとオリアの野郎が結婚することになったのよ」
「お〜!おめでとう!!」
アーチが女性と結婚したことに安心した。あ、でも、オリアって女か?
顔と体だけだよな?中身完全にお子ちゃまだよな?あの二人で本当に出来るのか…?ナニがとは言いませんけど。
「ぜんぜんおめでたくなぁぁぁぁい!!」
「ひっ」
「信じらんないわアイツ…何が「あたしがレイバの代わりに一生お前を守ってみせる!」よ!! そもそも、あんた大してアーチくん守ってなかったじゃないバカ者!」
「なぜ俺が怒られるんですか!?」
「傷心のアーチくんに付け込みやがって…」
「でも前から仲良かったじゃん」
人見知り気味だったアーチも豪快で明け透けなオリアには何かと話しやすかったのだろう。
「私ともよかったでしょ!」
「いや、お前の若干一方的な…」
事あるごとにはぁはぁ言いながら抱きついてこられたら誰だって嫌だ。
宿屋に泊まったとき、俺の部屋に半裸のアーチが泣きながら入ってきたこともあった。原因はもちろんこいつである。あの時はパーティ解散も真剣に考えたものだ。そのままアーチといっしょに寝ることになったが、何かが間違っていた気がする。でもかわいかったからよしとしよう。…ってあれ?
「死んでも痛覚はあるのよね」
「ごめんなさい」
「とにかく、私もアーチくんが好きなの!あんな脳筋女に渡せないわ!」
「俺もこんな偏執女にあいつを渡せないんですけど…」
「手と足の爪が要らないようね」
「アーチにはあなた様しかいません!」
「よろしい」
「で、そのアーチ奪還のために俺は何をすればいいんだ?」
「至極簡単よ」
「具体的には?」
「二人の結婚式に乱入して式をぶち壊して欲しいの♥」
「最低だぁぁぁぁぁぁ!!!」
「お黙り!人間をやめた私にそんな罵詈雑言なんて効かないわ!」
「人間をやめた?」
魔物化しようが仲間は仲間だ、別に今更気にならない。冒険をしているんだから、覚悟はしていた。…というか最初は可愛いくて優しい娘がパーティに入って、なんだかんだで魔物化してきゃっきゃっうふふとかちょっとだけ期待してた。…入ってきた二人によって期待は完全に消滅したが。
「そうよ、今まで私の格好見ておいて気づいてなかったの?」
「尻尾と羽を生やしてるのが最近の流行なのかと思ってました」
「あんたも大概よね」
「で、何になったの?」
「ダークプリースト」
「あ〜順当ですね」
「…いやまて」
「何よ?」
「ダークプリーストは基本的に献身的な性格してるんじゃないの?」
少なくとも出合ったダークプリーストはそうであった。たまたま、子供たちを連れたダークプリーストに出合ったこともあったが、自分の身を盾に年少の魔物娘たちを逃がす姿は心打たれた。
でも、襲わないからね?加減もしてるのよ?正当防衛しかしませんからね、俺らのパーティ。勇者だからといっていきなり逃げ出されると心が痛みます。
「アーチくんの奥さんになったらそうする」
「かつてこれほど信用できない言葉があっただろうか」
「いい加減、制裁を加える必要があるみたいね」
「ご勘弁のほどを」
「まあいいわ、じゃ、作戦を説明するわね」
「お願いします」
「あんたがオリアや会場の奴らとどんぱちしてる隙にアーチくんを万魔殿に連れ込む」
「俺完全に生贄じゃないですか!?」
「当たり前じゃない、そのために生き返らせたのよ?」
「吐き気を催す邪悪とはこいつのことか…」
「時間を消し去って、あんたが死ぬという結果だけ残す?」
「あなたの後ろにいるのってダークエンジェルさんですよね?物理攻撃可能なゴーストさんじゃないですよね?」
「俺がどんぱちやるのはこの際いいとして、それじゃ二人ともあんまりにもかわいそうじゃないか?アーチだってそんなことされたら一生お前と口聞かないんじゃないの?」
「…まあ、そこは愛の力でカバーよ」
「オリアなんて結婚式場で夫を魔物にさらわれるとか…しかも元仲間に」
「………今も仲間だと思ってるわ…でもそれとこれとは別よ」
それを聞いて安心した。別にオリアが嫌いというわけではないようだ。
ちなみに俺も女性二人にかなり酷いこと言ってるけど、むしろ好きですよ? 恋愛感情はバフォメットの胸ほどもないがな。
「堕落神の誰をお前は信仰してるんだ?」
「エロス様よ」
「お前は、自分とこの神様も知らんのか?愛し合う二人を引き裂いて略奪なんてエロス神が許すはずないだろ」
「!!? …自分の信仰する神のことすら、完全に忘れてたわ…」
「よっぽど頭に血が昇ってたようで」
というかこいつ意外に抜けてんだよね…俺が無事に蘇ったことに奇跡を感じる。
「でもなんで、あんたがそんなこと知ってんのよ?」
「主神の信者だったんだが、改宗しようと思ってな、そんときにいろいろ調べたんだよ」
「ふ〜ん、結局誰を信仰することにしたわけ?」
「マニ様マニ!」
「誰それ?」
「知らないなら別にいいマニ…」
「と、とにかくだ!お前の気持ちもわかった。だから、こういうのはどうだ?」
「…聞いてあげるわ」
「俺が招待客の相手をするのはそのままでいい、その代わりお前がオリアを相手しろ、俺がアーチに当たる」
「それで?」
「オリアを魔物化しろ。魔物になれば貞操観念もかなり緩くなるらしい、って魔物のお前には釈迦に説法か。ていうか最初からお前ユッルユルだったな」
「あんたの尻の穴もユルユルにしてあげる?」
「そっちは処女のまま死なせてください…」
「話を戻してと…そうなれば、オリアの事だし『リストもアーチのこと好きだったのか!ならいっしょにアーチと結婚しよう!』とか言って許してくれるはずだ!…多分」
「それに、アーチもこっちの方がまだ好きになってくれる可能性があるんじゃないのか?」
「…今回だけはあんたの提案に乗ってあげるわ」
「あざーす」
「いちいちむかつくわね」
「ところで、私の装備は用意してあるのか?」
「持ってきたわよ、ほら」
愛用していた斧槍、いわゆるハルバードだがその名前は好きではない。なんかピンクの物体に撃墜されそう。何でもできるので、勇者たる私にふさわしい武器である。
同じく愛用の魔法銃、銃としての威力もあり、魔力が弾丸のため威力が調節できる。魔物を必要以上傷つけなくてもよいので、便利であった。
またこれも愛用の…といいたいところだが、防具に関しては結構なペースで交換しているためあまり思い入れがない。死んだ時に装備していたというだけである。ヘルム付きのフルプレート。
「こんなに鎧、ぶかぶかしたっけかな…?」
「…気のせいよ、魔法でサイズ調整する?」
「あぁ頼む。にしても、ずいぶん綺麗にしてあるな、もしかして鍛冶屋に売り払ったのを慌てて買い戻したのかぁ?」
おそらく図星であろうとニヤニヤ笑ってみたが、真剣な眼差しで返された。
「馬鹿ね、アーチくんが毎日手入れをしてたのよ。
…あんたが死んでから今日まで欠かさずにね。オリアと結婚しても続けるんじゃないかしら」
「…あいつは何やってんだ?。死んだ奴にそんなことしてどうすんだよ」
「仕方ない、それのお礼ついでに売っぱらうように言っておくか」
「昔っから、ひねくれてるわよね、あんた」
本当はうれしい。俺を忘れないでいてくれたこと、そんなに想ってくれていること。
だからこそ、さっさと俺を忘れて幸せになってほしい。それに男同士では勘弁願いたい。
…ん?男同士?
「おい」
「なにかしら?」
「私は死ぬ前から男だったよな?」
「………何言ってるの、当たり前でしょ」
「だよな」
「で、結婚式はいつやるんだ?」
「もう始まってるわよ?」
そう、俺の名は勇者レイバ、ある日、神の加護を受けた俺は勇者として魔王を倒す旅に出る事になった。様々な冒険をしたものだが、ここでは関係ないので割愛する。俺は旅の途中、未知の病に罹りあっさり死んでしまったのだ。魔王討伐が使命の勇者がこうも簡単に死んでしまうなんて、人生なんてあっけないものである。
「あんたが死んだせいで私のアーチくんが2週間部屋に閉じこもりっぱなしだったのよ!」
で、俺を起こしてくれたこいつはうちのパーティの僧侶のリスト、僧侶の割には性格がキツイ。というか本当に僧侶か?回復魔法よりもバ○クロス撃ちまくる方が楽しいって言ってたぞこいつ。
そして、アーチとは、リストと同じく俺の仲間だ。職は便宜上狩人、俺が旅立ちの時からいっしょにいた仲間で幼馴染である…言っておくけど男ですよ? リストが攻撃に夢中になっているときに、よく薬草やポーションで俺の傷を癒してくれたものだ。ちなみにリストのものではない。
「そういうお前は落ち込まなかったのか?」
「いえ、ライバルが減ってうれしいな〜と思ってたわ」
「神さまぁぁぁぁぁ!!天罰を!この娘に一番きっつい天罰をお願いします!」
「冗談に決まってるでしょ、落ち込んでる暇はなかったってのが本音よ」
「結局、落ち込んではくれなかったのね…」
「アーチくんとオリアが私の分を賄えるほど落ち込んでくれてたわ、あの二人引っ張るの大変だったんだから」
紹介が最後になったが、パーティの前衛である戦士オリア、女性であるが自慢の怪力でパーティの攻撃の要を担っている。性格は豪放磊落。そういうと聞こえはいいが、いわゆる脳筋。ミノタウロスの頭と交換しても多分大差ない。というか、ミノタウロスじゃないよね?
「さっきスルーしたけど何のライバルだよ?」
「決まってるでしょ?アーチくんの恋のライバルよ」
「いくらかわいいからといっても、あいつ男よ? そんなのあるはずないでしょ」
「幼馴染だからって危険な冒険にまでついて来るなんて怪しいわよ!」
「いや!?王道中の王道でしょ!?」
「それにあんたばっかりアーチくんにスリスリされたり抱きつかれたりずるいのよ!」
「俺の方が年上だし、兄貴として慕ってただけじゃないの?」
…とはいうものの確かにいき過ぎではないかと思ったことは多々ある。
馬車に乗っていると必ず隣に座り体を密着させた。
強敵を倒したときや依頼を成功させたときなどよく抱きつかれた。
それとなくたしなめても「男同士だからいいの!」とやめようとしなかった。
あるとき、もしかしたら魔物娘が化けているのではないかと疑い、期待しながらこっそり真実の鏡を使ってみたが…残念ながら本当に男であった。あ、いや残念じゃなかった。
「そういうことにして置いてあげるわ、意味のない議論ですしね」
「俺が死んだあとどうなったんだ?」
「行けるところまで行こうってなったんだけど、あんたがいないから全然進まなかったわ」
「そうであろう、そうであろう。どこまで行けたのだね?」
こう見えて勇者の中でも実力のある方だと自負している。やはり俺がいないと始まらないのだ。
「魔王城一歩手前まで」
「むちゃくちゃ進んでんじゃん!」
「で、今は冒険をやめて魔界近くの町で暮らしてるってわけ」
「さいですか…」
皆元気ならばそれに越したことはないが…自信なくすわぁ…
「一番気になってたんだけど、死んだ俺がどうして生き返ったんだ?」
「使える手駒が欲しかったから私が蘇らせたわ!」
「おい、なんてことしやがる外道!!」
「まさかこんなに理性が残ってるとは思わなかったわ。腐り切っても勇者ってことね」
「誰がうまいことを言えと…」
「どちらにしても、私の言うことを聞くようにしておいたから何の問題もないけど」
「僧侶とはいったいなんだったのか」
「とにかく、話を聞きなさい」
「あいよ」
「…アーチくんとオリアの野郎が結婚することになったのよ」
「お〜!おめでとう!!」
アーチが女性と結婚したことに安心した。あ、でも、オリアって女か?
顔と体だけだよな?中身完全にお子ちゃまだよな?あの二人で本当に出来るのか…?ナニがとは言いませんけど。
「ぜんぜんおめでたくなぁぁぁぁい!!」
「ひっ」
「信じらんないわアイツ…何が「あたしがレイバの代わりに一生お前を守ってみせる!」よ!! そもそも、あんた大してアーチくん守ってなかったじゃないバカ者!」
「なぜ俺が怒られるんですか!?」
「傷心のアーチくんに付け込みやがって…」
「でも前から仲良かったじゃん」
人見知り気味だったアーチも豪快で明け透けなオリアには何かと話しやすかったのだろう。
「私ともよかったでしょ!」
「いや、お前の若干一方的な…」
事あるごとにはぁはぁ言いながら抱きついてこられたら誰だって嫌だ。
宿屋に泊まったとき、俺の部屋に半裸のアーチが泣きながら入ってきたこともあった。原因はもちろんこいつである。あの時はパーティ解散も真剣に考えたものだ。そのままアーチといっしょに寝ることになったが、何かが間違っていた気がする。でもかわいかったからよしとしよう。…ってあれ?
「死んでも痛覚はあるのよね」
「ごめんなさい」
「とにかく、私もアーチくんが好きなの!あんな脳筋女に渡せないわ!」
「俺もこんな偏執女にあいつを渡せないんですけど…」
「手と足の爪が要らないようね」
「アーチにはあなた様しかいません!」
「よろしい」
「で、そのアーチ奪還のために俺は何をすればいいんだ?」
「至極簡単よ」
「具体的には?」
「二人の結婚式に乱入して式をぶち壊して欲しいの♥」
「最低だぁぁぁぁぁぁ!!!」
「お黙り!人間をやめた私にそんな罵詈雑言なんて効かないわ!」
「人間をやめた?」
魔物化しようが仲間は仲間だ、別に今更気にならない。冒険をしているんだから、覚悟はしていた。…というか最初は可愛いくて優しい娘がパーティに入って、なんだかんだで魔物化してきゃっきゃっうふふとかちょっとだけ期待してた。…入ってきた二人によって期待は完全に消滅したが。
「そうよ、今まで私の格好見ておいて気づいてなかったの?」
「尻尾と羽を生やしてるのが最近の流行なのかと思ってました」
「あんたも大概よね」
「で、何になったの?」
「ダークプリースト」
「あ〜順当ですね」
「…いやまて」
「何よ?」
「ダークプリーストは基本的に献身的な性格してるんじゃないの?」
少なくとも出合ったダークプリーストはそうであった。たまたま、子供たちを連れたダークプリーストに出合ったこともあったが、自分の身を盾に年少の魔物娘たちを逃がす姿は心打たれた。
でも、襲わないからね?加減もしてるのよ?正当防衛しかしませんからね、俺らのパーティ。勇者だからといっていきなり逃げ出されると心が痛みます。
「アーチくんの奥さんになったらそうする」
「かつてこれほど信用できない言葉があっただろうか」
「いい加減、制裁を加える必要があるみたいね」
「ご勘弁のほどを」
「まあいいわ、じゃ、作戦を説明するわね」
「お願いします」
「あんたがオリアや会場の奴らとどんぱちしてる隙にアーチくんを万魔殿に連れ込む」
「俺完全に生贄じゃないですか!?」
「当たり前じゃない、そのために生き返らせたのよ?」
「吐き気を催す邪悪とはこいつのことか…」
「時間を消し去って、あんたが死ぬという結果だけ残す?」
「あなたの後ろにいるのってダークエンジェルさんですよね?物理攻撃可能なゴーストさんじゃないですよね?」
「俺がどんぱちやるのはこの際いいとして、それじゃ二人ともあんまりにもかわいそうじゃないか?アーチだってそんなことされたら一生お前と口聞かないんじゃないの?」
「…まあ、そこは愛の力でカバーよ」
「オリアなんて結婚式場で夫を魔物にさらわれるとか…しかも元仲間に」
「………今も仲間だと思ってるわ…でもそれとこれとは別よ」
それを聞いて安心した。別にオリアが嫌いというわけではないようだ。
ちなみに俺も女性二人にかなり酷いこと言ってるけど、むしろ好きですよ? 恋愛感情はバフォメットの胸ほどもないがな。
「堕落神の誰をお前は信仰してるんだ?」
「エロス様よ」
「お前は、自分とこの神様も知らんのか?愛し合う二人を引き裂いて略奪なんてエロス神が許すはずないだろ」
「!!? …自分の信仰する神のことすら、完全に忘れてたわ…」
「よっぽど頭に血が昇ってたようで」
というかこいつ意外に抜けてんだよね…俺が無事に蘇ったことに奇跡を感じる。
「でもなんで、あんたがそんなこと知ってんのよ?」
「主神の信者だったんだが、改宗しようと思ってな、そんときにいろいろ調べたんだよ」
「ふ〜ん、結局誰を信仰することにしたわけ?」
「マニ様マニ!」
「誰それ?」
「知らないなら別にいいマニ…」
「と、とにかくだ!お前の気持ちもわかった。だから、こういうのはどうだ?」
「…聞いてあげるわ」
「俺が招待客の相手をするのはそのままでいい、その代わりお前がオリアを相手しろ、俺がアーチに当たる」
「それで?」
「オリアを魔物化しろ。魔物になれば貞操観念もかなり緩くなるらしい、って魔物のお前には釈迦に説法か。ていうか最初からお前ユッルユルだったな」
「あんたの尻の穴もユルユルにしてあげる?」
「そっちは処女のまま死なせてください…」
「話を戻してと…そうなれば、オリアの事だし『リストもアーチのこと好きだったのか!ならいっしょにアーチと結婚しよう!』とか言って許してくれるはずだ!…多分」
「それに、アーチもこっちの方がまだ好きになってくれる可能性があるんじゃないのか?」
「…今回だけはあんたの提案に乗ってあげるわ」
「あざーす」
「いちいちむかつくわね」
「ところで、私の装備は用意してあるのか?」
「持ってきたわよ、ほら」
愛用していた斧槍、いわゆるハルバードだがその名前は好きではない。なんかピンクの物体に撃墜されそう。何でもできるので、勇者たる私にふさわしい武器である。
同じく愛用の魔法銃、銃としての威力もあり、魔力が弾丸のため威力が調節できる。魔物を必要以上傷つけなくてもよいので、便利であった。
またこれも愛用の…といいたいところだが、防具に関しては結構なペースで交換しているためあまり思い入れがない。死んだ時に装備していたというだけである。ヘルム付きのフルプレート。
「こんなに鎧、ぶかぶかしたっけかな…?」
「…気のせいよ、魔法でサイズ調整する?」
「あぁ頼む。にしても、ずいぶん綺麗にしてあるな、もしかして鍛冶屋に売り払ったのを慌てて買い戻したのかぁ?」
おそらく図星であろうとニヤニヤ笑ってみたが、真剣な眼差しで返された。
「馬鹿ね、アーチくんが毎日手入れをしてたのよ。
…あんたが死んでから今日まで欠かさずにね。オリアと結婚しても続けるんじゃないかしら」
「…あいつは何やってんだ?。死んだ奴にそんなことしてどうすんだよ」
「仕方ない、それのお礼ついでに売っぱらうように言っておくか」
「昔っから、ひねくれてるわよね、あんた」
本当はうれしい。俺を忘れないでいてくれたこと、そんなに想ってくれていること。
だからこそ、さっさと俺を忘れて幸せになってほしい。それに男同士では勘弁願いたい。
…ん?男同士?
「おい」
「なにかしら?」
「私は死ぬ前から男だったよな?」
「………何言ってるの、当たり前でしょ」
「だよな」
「で、結婚式はいつやるんだ?」
「もう始まってるわよ?」
12/07/08 02:14更新 / ヤルダケヤル
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