子供を甘くみてはいけない
「この暑い中ご苦労だな」
「「……ハッ」」
「そこまで気にする必要はないのだが……」
俺が通るたびに大量の汗を流し始めるリザードマンの門番達を通り過ぎ、城内を歩いて行く。昔と大して変わらない中庭を抜け、石造りの廊下をしばらく歩き、階段を何回か登ると、俺達兄弟とバーメットが使っていた寝室と何室もの客室がある階に着く。兄が高いところにあった方が眺めもいいだろうとこの階にそれらを造らせたものの、移動が不便極まりない。
造らせた当の本人は得意の転移魔法で寝室と仕事部屋を繋いでいたので気にしていなかったが、俺達はそうもいかない。最初の頃は俺と弟が何回も抗議をしたが、そうそう部屋を代えることはできないという理由からことごとく却下され、結局最後まであの部屋で過ごす事となった。
そういう場所であるが、実は嫌いではない、兄の言うとおり山の上にあるこの城から見下ろす城下町の風景はなかなか見ごたえのあるものである。それに住めば都とよくいったもので、慣れると歩くこともそこまで苦にはならなかった。実際、こうやって何気ない事を考えているうちに着いてしまった。
「おい、いるか?」
子供のたどたどしい字で「ファーメノレ」と書いた木の板が掛かっている。この部屋がフォーメルの自室であろう。
扉の前で数回ノックする。子供とはいえ最低限のマナーを守らなければならない。
「入ってよいぞ〜」
いつも以上にだらしない間の抜けた声が返ってくる。大方熱さでバテているのだろう。
「もう少し、しゃんと出来ないのか…?」
そこにはベッドの上でうつ伏せのまま微動だにしない山羊が一匹。というよりこの格好では山羊と言うよりナメクジである。
「こう暑いと何もやる気がでないのじゃ〜」
ベッドに顔を埋め一向に動こうとしない。塩を掛ければさらに幼くなるだろうか?
「だとしても、窓を開けるなり何なりして換気しろ、少し臭うぞ」
「失礼なやつじゃな〜
儂の汗の匂いはお色気ムンムンのアダルティな香りじゃと自負しておる〜」
どんな自負だ。むしろそれとは正反対の…
「汗かきまくった赤ちゃんの匂いがする」
「それはあんまりな例えじゃないかのう!?」
フォーメルが驚いた顔でベッドから飛び起きた。
「まぁでも、嫌な臭いではないし」
「ならもう少し言い方があるじゃろ!?
そんなこと言われて誰が喜ぶんじゃ!!」
「でも本当に赤ちゃんの汗の匂い意外の何物でもないと言うか…」
「さすがにそれはおかしい…儂が子供じゃからだとしても
普通ならそんなことありえないのじゃ」
「そうなのか?」
「そうなのじゃ、お主何か心当たりはないかの?」
「……何枚か結界張ってるからそれかもな」
「いつも結界張っておって疲れんのか…?
おそらく、それの中のどれかじゃろう、何の結界を張っておるのじゃ?」
「外気との温度調整するのに1枚、魔法障壁に3枚、
アンチチャームが216枚だったはずだ」
「………結界ってそんなに張りまくるもんだっけ?」
「まぁ、得意分野だから少し人より多いかも知れんな」
「ていうか、アンチチャーム216枚ってなんじゃ」
「使えそうな結界を開発して教団に技術を買ってもらおうと思ってな
それの試験を兼ねて張っているのだ」
「堂々と裏切り宣言しおった!?」
「いや、魔物側にはそれの解除魔法の技術を買ってもらうつもりだ
これで問題ない」
「逆に問題じゃないところがないのじゃ…」
「世の中そんなものだ、お前も騙されないようにしっかりと魔法を覚えなきゃいけないぞ。
ということで授業開始だ」
「無理やり話しを逸らされた気がするのじゃ…」
書庫
「書庫は涼しくて気持ちいいのじゃ…」
「本が傷まないように冷房の術式が展開されているからな」
「儂の部屋にも着けて欲しいのじゃ…」
「お前の母親ならこれくらいの術式余裕だろ」
政務官とはいえバーメットも尋常ではない魔力と知識を保有している。
必要な道具もありふれた魔道具で十分だ。
「そういうことじゃないのじゃ…
母上に頼んでも、
『お主の部屋に冷房を付けると、点けっぱなしで風邪をひくことは目に見えておる、暑かったら母さんたちの部屋にくればいいのじゃ』
といって取り合ってくれんのじゃ」
「バーネットたちの部屋に冷房があるなら三人で一緒に寝ればいいだろ」
「母上たちと寝るとうるさくて眠れないのじゃ」
「何がだ?」
「言わずともわかるじゃろ?」
「………」
「子供に見られていると興奮するのかもしれんのう…」
「魔物娘じゃなかったら家出物だな」
「二人の仲がいいのに越したことはないが、さすがにうるさいのじゃ」
五月蝿いとかの問題ではない気がするが…
「……俺は魔物娘と分かり合えそうもないな」
「その点は大丈夫じゃ!
そんなこと、一回やられてしまえばどうでも良くなると父上が言っておったぞ!」
「アーレト…」
彼とバーメットの間で何があったのか…
「お主も儂と共に肉欲に溺れ、どうでも良くなってもいいんじゃぞ…?」
しなを作っているつもりだろうかくねくねと腰を揺らしているがあれではフラダンスである。
「前向きに検討する」
「そういって実行されたことなんか一度もないのじゃ…」
「それより、また無駄話に時間を使ってしまった。早く授業を始めるぞ」
「受け答えが面倒になったからと言って授業に逃げるのもどうかと思うのう…」
「メイが首を悪くして入院中のため欠席だが、次の魔法に移るぞ」
「あ、スルーした」
「やかましい、今回の魔法はヒートとウィンドの2つだ。
まずは、基礎的な元素魔法から覚え「こうじゃろ?」
片手に火球を浮ばせ、もう片手に風を渦巻かせている。
フォーメルの勝ち誇ったようにニヤニヤした顔が腹立つが、出来ているものはしょうがない。
「こんなこと簡単すぎてあくびをしながらでも出来るのじゃ」
「ぐぐぐ…それならウォーターはどう「余裕じゃ」
人差し指で水球をくるくると回している。
「……じゃあ座学の方で「全て予習済みじゃ」
「………」
「今日はこの後どうするのじゃ?」
「帰「まさか、帰るなんて言わないじゃろうのう?
何もせずにすごすご帰るなんて教師失格じゃからのう…」
「そう言われるとそうだが…」
二日目でこの有様ではバーメットになんと言われるか分からない。下手をするとクビになってしまうかもしれない。彼女はそういう点ではかなりドライである。せっかく手にした職だ、勤務二日で終わらせたくはない。
「そんなピンチなお主に耳寄りな情報じゃ」
「なんだ?」
今は藁にも山羊にも縋りたい気分だ。
「ここにいるぷりちーなフォーメルちゃんは、毎日とっても退屈しておる。
もし誰か一緒に遊んでくれれば、遊んでくれた相手のアリバイの口裏あわせをしてくれるかもしれんのう…?」
完全に嵌められたとしかいいようがない。しかし、この状況でこれ以外の選択肢はない。
「…よろしく頼む」
「うむ♪そう来なくては
さっ!儂の部屋に戻るのじゃ!」
フォーメルに手を引かれるまま、部屋に連れて行かれることになった。
「ま、子供のお守くらい余裕だろ」
その後、衰弱しきった見る影もない姿でフォーメルの部屋から救助されました。
「「……ハッ」」
「そこまで気にする必要はないのだが……」
俺が通るたびに大量の汗を流し始めるリザードマンの門番達を通り過ぎ、城内を歩いて行く。昔と大して変わらない中庭を抜け、石造りの廊下をしばらく歩き、階段を何回か登ると、俺達兄弟とバーメットが使っていた寝室と何室もの客室がある階に着く。兄が高いところにあった方が眺めもいいだろうとこの階にそれらを造らせたものの、移動が不便極まりない。
造らせた当の本人は得意の転移魔法で寝室と仕事部屋を繋いでいたので気にしていなかったが、俺達はそうもいかない。最初の頃は俺と弟が何回も抗議をしたが、そうそう部屋を代えることはできないという理由からことごとく却下され、結局最後まであの部屋で過ごす事となった。
そういう場所であるが、実は嫌いではない、兄の言うとおり山の上にあるこの城から見下ろす城下町の風景はなかなか見ごたえのあるものである。それに住めば都とよくいったもので、慣れると歩くこともそこまで苦にはならなかった。実際、こうやって何気ない事を考えているうちに着いてしまった。
「おい、いるか?」
子供のたどたどしい字で「ファーメノレ」と書いた木の板が掛かっている。この部屋がフォーメルの自室であろう。
扉の前で数回ノックする。子供とはいえ最低限のマナーを守らなければならない。
「入ってよいぞ〜」
いつも以上にだらしない間の抜けた声が返ってくる。大方熱さでバテているのだろう。
「もう少し、しゃんと出来ないのか…?」
そこにはベッドの上でうつ伏せのまま微動だにしない山羊が一匹。というよりこの格好では山羊と言うよりナメクジである。
「こう暑いと何もやる気がでないのじゃ〜」
ベッドに顔を埋め一向に動こうとしない。塩を掛ければさらに幼くなるだろうか?
「だとしても、窓を開けるなり何なりして換気しろ、少し臭うぞ」
「失礼なやつじゃな〜
儂の汗の匂いはお色気ムンムンのアダルティな香りじゃと自負しておる〜」
どんな自負だ。むしろそれとは正反対の…
「汗かきまくった赤ちゃんの匂いがする」
「それはあんまりな例えじゃないかのう!?」
フォーメルが驚いた顔でベッドから飛び起きた。
「まぁでも、嫌な臭いではないし」
「ならもう少し言い方があるじゃろ!?
そんなこと言われて誰が喜ぶんじゃ!!」
「でも本当に赤ちゃんの汗の匂い意外の何物でもないと言うか…」
「さすがにそれはおかしい…儂が子供じゃからだとしても
普通ならそんなことありえないのじゃ」
「そうなのか?」
「そうなのじゃ、お主何か心当たりはないかの?」
「……何枚か結界張ってるからそれかもな」
「いつも結界張っておって疲れんのか…?
おそらく、それの中のどれかじゃろう、何の結界を張っておるのじゃ?」
「外気との温度調整するのに1枚、魔法障壁に3枚、
アンチチャームが216枚だったはずだ」
「………結界ってそんなに張りまくるもんだっけ?」
「まぁ、得意分野だから少し人より多いかも知れんな」
「ていうか、アンチチャーム216枚ってなんじゃ」
「使えそうな結界を開発して教団に技術を買ってもらおうと思ってな
それの試験を兼ねて張っているのだ」
「堂々と裏切り宣言しおった!?」
「いや、魔物側にはそれの解除魔法の技術を買ってもらうつもりだ
これで問題ない」
「逆に問題じゃないところがないのじゃ…」
「世の中そんなものだ、お前も騙されないようにしっかりと魔法を覚えなきゃいけないぞ。
ということで授業開始だ」
「無理やり話しを逸らされた気がするのじゃ…」
書庫
「書庫は涼しくて気持ちいいのじゃ…」
「本が傷まないように冷房の術式が展開されているからな」
「儂の部屋にも着けて欲しいのじゃ…」
「お前の母親ならこれくらいの術式余裕だろ」
政務官とはいえバーメットも尋常ではない魔力と知識を保有している。
必要な道具もありふれた魔道具で十分だ。
「そういうことじゃないのじゃ…
母上に頼んでも、
『お主の部屋に冷房を付けると、点けっぱなしで風邪をひくことは目に見えておる、暑かったら母さんたちの部屋にくればいいのじゃ』
といって取り合ってくれんのじゃ」
「バーネットたちの部屋に冷房があるなら三人で一緒に寝ればいいだろ」
「母上たちと寝るとうるさくて眠れないのじゃ」
「何がだ?」
「言わずともわかるじゃろ?」
「………」
「子供に見られていると興奮するのかもしれんのう…」
「魔物娘じゃなかったら家出物だな」
「二人の仲がいいのに越したことはないが、さすがにうるさいのじゃ」
五月蝿いとかの問題ではない気がするが…
「……俺は魔物娘と分かり合えそうもないな」
「その点は大丈夫じゃ!
そんなこと、一回やられてしまえばどうでも良くなると父上が言っておったぞ!」
「アーレト…」
彼とバーメットの間で何があったのか…
「お主も儂と共に肉欲に溺れ、どうでも良くなってもいいんじゃぞ…?」
しなを作っているつもりだろうかくねくねと腰を揺らしているがあれではフラダンスである。
「前向きに検討する」
「そういって実行されたことなんか一度もないのじゃ…」
「それより、また無駄話に時間を使ってしまった。早く授業を始めるぞ」
「受け答えが面倒になったからと言って授業に逃げるのもどうかと思うのう…」
「メイが首を悪くして入院中のため欠席だが、次の魔法に移るぞ」
「あ、スルーした」
「やかましい、今回の魔法はヒートとウィンドの2つだ。
まずは、基礎的な元素魔法から覚え「こうじゃろ?」
片手に火球を浮ばせ、もう片手に風を渦巻かせている。
フォーメルの勝ち誇ったようにニヤニヤした顔が腹立つが、出来ているものはしょうがない。
「こんなこと簡単すぎてあくびをしながらでも出来るのじゃ」
「ぐぐぐ…それならウォーターはどう「余裕じゃ」
人差し指で水球をくるくると回している。
「……じゃあ座学の方で「全て予習済みじゃ」
「………」
「今日はこの後どうするのじゃ?」
「帰「まさか、帰るなんて言わないじゃろうのう?
何もせずにすごすご帰るなんて教師失格じゃからのう…」
「そう言われるとそうだが…」
二日目でこの有様ではバーメットになんと言われるか分からない。下手をするとクビになってしまうかもしれない。彼女はそういう点ではかなりドライである。せっかく手にした職だ、勤務二日で終わらせたくはない。
「そんなピンチなお主に耳寄りな情報じゃ」
「なんだ?」
今は藁にも山羊にも縋りたい気分だ。
「ここにいるぷりちーなフォーメルちゃんは、毎日とっても退屈しておる。
もし誰か一緒に遊んでくれれば、遊んでくれた相手のアリバイの口裏あわせをしてくれるかもしれんのう…?」
完全に嵌められたとしかいいようがない。しかし、この状況でこれ以外の選択肢はない。
「…よろしく頼む」
「うむ♪そう来なくては
さっ!儂の部屋に戻るのじゃ!」
フォーメルに手を引かれるまま、部屋に連れて行かれることになった。
「ま、子供のお守くらい余裕だろ」
その後、衰弱しきった見る影もない姿でフォーメルの部屋から救助されました。
12/08/15 03:32更新 / ヤルダケヤル
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