連載小説
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真夏の夜は夢を見る暇もない
「ぬはは!!ついに!ついにジナンを超えたのじゃ!!」


 長年の修行により、フォーメルは俺でさえも凌ぐ魔力と魔法の知識を得た。


「ぐっ…!!」

 こうもあっさりと負けてしまうとは…ただのアホ山羊だと思っていたフォーメルに…

「…儂に負けてしまっては兄上とは言えぬのう…

 じゃが…今まで世話になったことじゃ…一生儂に仕える使い魔にしてやろう!!」

 俺が倒れている床に強力な魔法陣が展開される。そのままなすすべなく、使い魔にされてしまった。

「ふふふ…いい様じゃのう…お主は儂に精を与えるために生きていくのじゃ…
 
 手始めに…出る量を多くせねばならんのう…」

 インキュバスにでもするのだろうか?

「…って、ん? その手に持ってる細い管はなんだ?」

「ククク…入り口を広くすれば出る量も多くなるじゃろう…?
 これでお主のそれを広げてやろうと思ってのう…」

 魔法の知識を得たとしても中身はそのままだった!!

「や…止めろ……来るな…」

「お主はもう使い魔じゃぞ…
 選択権などあるとでも?」


 拘束魔法で身動きのできない俺に、じりじりと迫る来るフォーメル、あぁどうしてこんなことに…

「では、一気に行くのじゃ!!」

ズブッ















「やめろぉぉぉぉっぉぉぉぉ!!!!」



…どうやら夢だったようだ。しかし、意識は覚醒したが目の前が真っ暗で何も見えない。
 そして熱い尋常じゃないほど熱い。おまけに息苦しくてたまらない。

 上半身に何か引っ付いているようだ。プニプニと吸い付くように柔らかく、耳を澄ませるとギュルギュルと音が鳴っている。……腹?

正体の見当がついたので、引っ付いている何かを思い切り引き剥がす。

「うにゅ…? 儂の眠りを妨げるとは…
 覚悟はよいか…?」

「……お前がな」

 どうやら俺に悪夢を見せていたのは馬ではなく山羊だったようだ。

パコーン

「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」












 目の前に大きなたんこぶを作ったフォーメルが正座している、全裸で。だがはっきり言っていつも全裸のような格好なのでだからどうしたと言う程度の変化だ。


「なんでお前が、俺の寝室にいるんだ 夜襲か?」

「儂を刺客かなんかだと思ってないかのう…」

「実際殺されかけたんだが」

「あれはどうみてもサービスじゃろ!!
 朝起きて隣に裸の美幼女が寝てるなんて最高じゃろ!!」

「朝日が昇る前に冷たくなってるだろ、
 そもそも顔面って隣じゃないからな」

「……まぁ、細かいところは気にしちゃいけないのじゃ…」

「じゃあ、大きいとこ聞きなおすけど、なんで俺の部屋にいるんだ?」

「それはじゃのう…」










回想中...
  



モゾモゾ

ムクッ

「zzz………おしっこ」

 と最強の儂は一人でトイレにいくことにしたのじゃ

 一人でじゃぞ!?儂すごくない!?

 すごいすごい、すごいから早く説明しろ。

 せっかちなやつじゃのう…

 儂の部屋からトイレまではかなり距離があるのじゃが、

 それをこんないたいけな幼女が明かりも持たずにトイレまで踏破したのじゃ!!

「おしっこなのじゃぁ…zzzzzz」

 トテトテトテ…

 これって寝ぼけてて恐怖を感じてないだけじゃないか?

 そんなことないのじゃ!!4分の1くらいは起きていたのじゃ!!

 …ゴホン、そして儂は、トイレで用を足し寝室に戻ろうと思ったのじゃ…



シャー…

カラカラ

「ふぅ…すっきりしたのじゃ…
 さて、ベッドに戻って寝なおしじゃ!!」

 と、意気揚々とトイレから出たのじゃが


シーーーーーン

「…………こ…こんなに廊下って暗かったかのう…?」

ペトペトペト…

「…儂の足音ってこんな音じゃったかのう…?」

ペトペトペトペトペト

「な…なんで儂が止まっているのに儂の足音だけ聞こえるかのう……?」

ペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペト

「な…な…なんで儂の足音が儂に近づいてくるのかの……う?」

ペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペトペト!!

「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」









「と言うわけで、長い廊下を歩くのがめんどくさくなった儂は、ちょうど近くにあったお主の部屋に入ってやったのじゃ」

「回想とお前の言い分が一致しないのは仕様なのか?」

「仕様なのじゃ」

「だが、この回想だとちゃんと寝巻きを着ているが、
 それはどこにいったんだ?」

「……黙秘権を行使するのじゃ」

「それなら俺も、ベッドの下にあった薄黄色に染まった不審物をバーメットに報告するだけでいいから助かるな」

「……そ…それだけは…」

「そもそも、トイレにいった直後で漏らすってどういうことだ?」

「もしかしたら尿じゃなくて、仲間に危険を知らせるフェロモンを出したのかもしれん…」

「山羊から虫にランクアップか」

「お主の中では儂は山羊でしかも虫以下ですか、そうですか」

「それ以上は全世界にいる1億2千万人のサバト信者が怒りそうだから止めておこう」

「ゲ○吐かせてる時点で喧嘩売りまくってる気がするがのう…」

「で、この汚物どうすんだ?」

 改めてみると、股のところがとんでもないことになっている。ところで、普段着よりもパジャマの方が布の面積が多いとはどういうことだろうか。

「とりあえず、母上に見つかったら大目玉なのじゃ」

「そりゃな、この年でお漏らしとか信じられないもんな」

「お漏らしではない、警報フェロモンじゃ!
 とにかく!助けて欲しいのじゃ!」

「……簡単に言ってくれるな…
 まぁちょうどいい機会だし、これを使って魔法の授業と行こうか」

「フハハハ!!それでこそジナンなのじゃ!!」

 喜怒哀楽の激しいやつである。
 

「まずはだな…その警報フェロモンが染み付いた服を洗って来い」


「一人で?」

「一人で」

「…絶対?」

「絶対」

「絶対の絶対?」

「そこまででもない」

「絶対の絶対! 付いて来てって言ったら?」

「別にいいけど」

「絶対の絶対! 付いてきてなのじゃ!!」

「……頼むぞ七歳…」


 
 黄ばんだパジャマを片手に持ち、もう片方で全裸の犯人の手を握りながら洗濯場に向かうのであった。













「洗濯したはいいが…これでは朝まで乾かずにバレバレなのじゃ」

「そのための今日の特別授業だ」

「今回は命に関わる事態じゃ!本気で頑張るのじゃ!」

「その意気だ、
 ウィンドとヒートは覚えているな?」

「もちろんじゃ!あんな低級魔法、目を瞑ってでも出来るわ!」

「それは頼もしい、今回は低級でも少し難度が上がるからな、
 基礎魔法をしっかり出来ていないと成功しない。」

 本当は中の上くらいの難易度だが、これ以上調子に乗せるのは危険なため、そういうことにしておく。

「で、それをどうするのじゃ?」

「まず、ウィンドのルーンを書け」

「こうじゃな?」

 目の前に翡翠色のルーンが書きこまれる。

「そうだ、それを発動させずに今度は緑でヒートのルーンを4分の3くらいまで書き、残りを赤で書け、配分さえあっていればいい、色の付け方はお前に任せる」

 まぁ…この配分が難しいのだが。書いているうちに集中が切れて別の色と混ざり合ったり、塗りつぶしてしまうのだ。しかし、彼女は私に合う前からこれらの事をマスターしていたようだから、朝飯前だろう。

「こんな感じかのう」

「…………」

「どうしたのじゃ?」

「…い…いや、なんでもない。そんな感じだ」

 だからといってこうもあっさり出来てしまうと悔しくて仕方がない。

 なんだか夢が現実になりそうで怖気がする。

「そのルーンがヒートウィンドだ。 
 二種類のルーンを組み合わせ、別の効果または威力の増強などするのが初級上級の第一歩だ」

「今回もラクラクじゃのう!!」

 本当にラクラクすぎて教える側としては少し寂しい。

「で、どんな効果なのじゃ?」

「発動してみろ、今のお前に必要な魔法だ。
 ただし、ギリギリまで魔力を減らしてな」

「発動!!ヒートウィンドウ なのじゃ!!」

ヒュォォォォ

 夏の暑ささえ上書きするような熱風が部屋に渦巻く。

「おお!熱風を吹かせる魔法じゃったのか!!
 これならあっという間に乾くのじゃ!!」

「赤を多めに配色すると、物や人も燃やすことが出来る魔法だ。
 便利だが使い方には十分注意しろ」

「了解なのじゃ!」


 その後十分程度で乾かすことが出来た。股の黄色いシミも綺麗に取れていた。


「もうこれで安心だな。俺はもう寝るから後は夜更かしなり何なり好きにやれ」

「そうじゃの、儂も寝ることにするのじゃ…」

カツカツカツ…
テトテトテト…

「………」

「どうしたのじゃ?」

「お前の部屋、向こうだろ?」

「そうじゃの」

「なんでこっちに来るんだ?」

「寝るためじゃ」

「どこで?」

「お主の部屋で」

「なんで?」

「お礼じゃ
 儂と添い寝出来るなんて一生の名誉じゃぞ?」

「その名誉、喜んで辞退させていただこう」

「選択権などあるとでも?」

 デジャブ

「あるだろ、今は」

「 ? 」

「いいから早くお前の部屋に戻れ」

「絶対?」

「絶対」

「絶対の絶対?」

「絶対の絶対」

「絶対の絶対の絶対?」

「絶対の絶対の絶対」

「絶対の絶対の絶対のぜ「くどい」

「………」

「………」

「後で怖くなって儂の部屋に来ても知らんのからな!!
 あと、そこで儂が部屋に入るまでちゃんと見ておくのじゃぞ!!」

 そのまま彼女は全力疾走で自分の部屋に飛び込んでいった。



「俺も寝よ…」


 俺も部屋に戻り、明日の朝の気だるさを想像しながら憂鬱のまま眠りに落ちた。

















「だるっ…」

 二度寝した日の朝ほど辛いものはない。このまま朝食を取らずに昼まで寝ていようか…

 そう思い、薄いシーツに顔を巻きこみ、日光を遮断し目を瞑っていると


トスッ!!

「朝じゃぞ!!起きるのじゃ!!」

 体の上に軽い物体が乗ったと共にけたたましいモーニングコールが開始される。

 こいつも寝不足のはずなのだが…子供の体力を甘く見ていた。

「きょ…今日は朝ゴハンいらないから…」

「何をふ抜けた事をいっとるのじゃ!!
 こうやって儂が起こしに来ておるのじゃぞ!シャキッと起きるのじゃ!」

「わかった〜わかったから揺するな」

 こうなってはどうしようもない。こんなことなら泊まるんじゃなかった。

「さっ!!父上と母上ももう食卓についている頃じゃろう
 とっとといくのじゃ!」

「了解…」

 うるさ山羊と共に、一家団欒にお邪魔することにした。

「おはようなのじゃ!父上!!」

 アーレトがシンプルな寝巻き姿で新聞を読んでいる。彼も一応副領主のはずであるが…

「おはようフォーメル」

 領主の食卓にしてはこじんまりとした一室で、庶民と変わらないメニューが並んでいる。

 非常にこいつららしい。ちょっとくらい贅沢しても誰も文句などないだろうに…

「質素倹約が国の礎ですよ、ジナン様」

「すまん、口に出してたか?」

「いえ、そのような顔をしていらっしゃったので」

「お前らには敵わんな」

「それに変な気を遣うとジナン様怒っちゃうし」

「お互い長い付き合いだな…」

「全くです」

 バーメットの補佐として彼とも何年も顔を合わせて仕事をしている。彼がどのような経緯で補佐になったのか気になるところであるが二人とも話してくれないため未だに謎である。
 
『目玉焼きが出来たから取りに来るのじゃ!』

 奥の方からバーメットの声が聞こえてくる。彼女が料理できるなど初めて知った。

「「は〜い」」

フォーメル、アーレトが全く同じタイミングで返事を返す。領主の食卓とはこんなものだっただろうか?

「お主もボケッとしないで取りに行くのじゃ!」

「ん、はいはい」

 お客様というのも関係ないらしい。まあこいつらにしてみれば親戚が泊まった様なものか。

「母上おはようなのじゃ!!」

「おはよ…ってどうしたのじゃフォーメル!?」

エプロン姿で台所に立っていた彼女だが、娘の姿を見たとたん、床に皿を落としあたふたとフォーメルの体に異常がないか調べ始めた。

「いきなりどうした?」







「フォーメルから警報フェロモンの匂いが…」







……本当に出るんかい

12/08/15 13:29更新 / ヤルダケヤル
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■作者メッセージ
※普通のバフォメットは警報フェロモンを出しません!!


 使い魔にしてなんだかんだもしないと思う、多分。

 もっといろんなキャラを絡ませたいけどなかなか難しいです。

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