貞操の危機(笑)
この日はお休みだった。なので、ピノの道具屋で店番をしている。
とるに足らない日用品から、回復薬などの旅の必需品。そして何に使うかわからない変なものまでが乱雑に置いてある。
見栄えが良くないから客が来ないと思ったのだが、前に店の商品を並べ変えようとした時に『勝手なことはしないで! これでいいの!』と怒られてから勝手に並べ替えないようにしている。
ピノは薬草を摘みにいっているので、アランだけしかいない。のんびりと趣味の彫刻を進めている真っ最中だった。
そこへ、今日初めての客が入ってきた。
「いらっしゃい」
「…ん? アランか」
リュミドラだった。アランがいたことが予想外だったのか、驚いた表情をしている。そして乱雑に置かれた様々な道具のせいで、翼と尻尾がぶつかりそうになり居心地が悪そうにしている。
もっとも、居心地が悪そうにしているのはアランがいるせいでもある。
「何かご入り用ですか?」
「あ、いや。その、ピノがいるかと思ったんだが……」
「ピノは薬草が足りなくなったとか言って出かけちゃいましたよ」
「む、そうか。それならば、待たせてもらってもいいか?」
ソワソワと視線をさまよわせている。アランは道具に目移りしているのだろうと思い、気にもしていない。
「いつ帰ってくるかわからないけどいいですか?」
「あぁ、私も忙しくはないからな。ゆっくり待たせてもらうさ」
アランは店に置いてあるソファーの上から商品を退かし、タオルで綺麗にする。それが終わると奥から小さい丸テーブルを運んできた。いくつか雑誌も一緒に置く。
「はい、準備ができました。リュミドラさん、どうぞ」
「すまないな。後、話し相手になってもらってもいいか?」
「いいですよ、そうせお客も来ませんし」
ニッコリと笑う。その表情がリュミドラ的にストライクなのだ。
「(っか、かわいい……抱きしめたい、持って帰りたい……ぅぅぅ)」
心の中で葛藤しつつ表情は崩さない。用意されたソファーに座り、アランを見つめる。
「そういえば、ピノとは仲がいいんですか?」
「そうだな。奴には世話になっているし、ここでしか手に入らないものもある」
「え? そうなんですか。それなのにお客が全くきませんね」
「まあ、ここは知る人ぞ知る隠れた名店だからな」
なんでもない会話。それがお邪魔虫も無しに2人きりで話せるということがリュミドラの機嫌を良くさせる。
「あ、飲み物いかがですか?」
「ん、貰おう」
「いい果実酒をもらったんですけど、僕お酒飲めなくて。ピノもあんまり飲むほうじゃありませんし、残しておく方がもったいないかなって」
グラスにピンク色の酒が満たされる。甘い香りとに喉が鳴った。
「いい香りだ。桃か?」
「はい、桃のお酒らしいですね。僕はジュースで失礼しますね」
軽くグラスを合わせて果実酒を飲む。
「………美味い。香りからかなり甘い酒だと思ったが、それほどでもない。爽やかな味だ」
「機嫌がいいですね」
「ん? そうか」
「はい。だって、リュミドラさんの尻尾が忙しなく動いていますよ」
言われてから自分の尻尾をみると、確かに忙しなく動いていた。そのせいで近くに積んであった道具を蹴散らしている。
「スマン。悪いことをした」
片付けなければ、と立ち上がろうとしたが、それを止められた。
「いいですよ。お客さんはゆっくりしててください」
アランも気にしてないように、崩れた道具を拾って積んでいく。
「(しまった。私としたことが……それにしても後ろ姿もかわいいな。チョコマカと動くな)」
「よしっと。……ん? どうかしました?」
「…………」
「リュミドラさん?」
「……かわいい」
「え?」
「い、いや! なんでもない!」
慌てたように手元の酒を飲む。
「あわてて飲むと酔っ払っちゃいますよ」
「この程度の酒、私にとっては水みたいなものだ」
確かに彼女は酒場でいつもラム酒を飲んでいる。この果実酒程度では酔わないだろう。
「そうですね。あ、ちょっと失礼します」
「どうした?」
「…トイレへ」
恥ずかしそうに言うと、アランは行ってしまった。我ながら無粋な発言をしてしまったとリュミドラが顔を下げた。
「……アランめ。私をこんな気持ちにさせるとは……かわいいな」
そこで、アランが使っていたグラスに目をやる。
リュミドラに合わせたのか、桃のジュースを注いでいるようだった。
魔が挿したのか、アランのグラスを手に取った。入っていたジュースを半分ほど飲みほし(もちろんアランが口をつけたところ)、酒を足してもとの量にした。
ガシャン!
匂いでばれてしまうかもしれないので、自分のグラスを横に倒し、果実酒をぶちまける。
「どうかしましたか!?」
あわてて出てきたアラン。
「うわぁー、雑誌を読みながら飲んでいたらグラスを落としてしまったぁー」(棒読み)
「怪我はありませんか?」
「あぁ」
「すぐに拭きますね」
常備してあるのか、タオルで零した酒を拭く。それから割れてしまったグラスの破片を箒とチリトリで集めてゴミ箱に捨てる。
「なんだかさっきから悪いな」
「いえ、そんな日もありますよ」
替えのグラスに果実酒を注いでくれる。
「まあ、そのだな、気分を仕切りなおすために、もう一度…乾杯」
「はい、乾杯!」
……予定通りッ!
飲んだものに酒が混じっているのがバレないかドキドキしたが、こうして自分が一気飲みをすれば、合わせて一気飲みをしてくれると信じていた。
一気に飲んでしまえばアルコールの匂いはわからない。
―――5分後
「ん〜」
顔をお酒で赤くし、頭が左右に揺れている。眠そうにしている姿はリュミドラのハートを貫いた。
「……な、なあ、アラン」
「あ〜、なんですか? リュミドラさん?」
「ふらふらして危ないだろ? ソファーに座ったらどうだ?」
5秒ほど考え込み、ニコー! としてリュミドラの膝の上に乗ってきた。これにはリュミドラも計算外だった。嬉しい誤算というやつだ。
クテっと寄りかかり、弛緩した顔でアランが甘えてくる。それは夢にまで見たシチュエーションだ。
「リュミドラさん、良い匂いがします」
胸に顔を埋めさせながら深呼吸する。
―――プツン
これで理性が切れてしまった。
「そうか、良い匂いか……直接嗅いでみるか?」
「あい!」
一度アランをソファーに寝かせ、店の看板をCloseにしておく。それからゆっくりと服を脱いでいった。
大好きなアランに見られながら脱ぐという事実。高鳴る心臓が止められない。
裸になったリュミドラはアランを抱きしめた。
「どうだ?」
「スゥー」
抱きしめる。それしかしていないのに、リュミドラの秘所は濡れ始めていた。乳首もシコってきており、息が荒くなってくる。
「な、なあ、アラン。私だけ裸というのは変じゃないか? 変だろう? 変なんだ!」
「うーん。そーれすね」
そう言い放つと服を脱いでいくアラン。
「あぁあん!」
美少年のストリップ。鼻血が出そうだった。というか、出た。
ボタボタボタボタ
「あ、血……血。う〜ん」
アランは気絶してしまった。吐血と間違えるような大量の鼻血を目にしたせいだ。
「あ、しまった」
裸でひっくり返るアラン。裸で鼻血を吹きだしているリュミドラ。そこはカオスな空間だった。
青い顔をしたアランを見て、冷静になった。リュミドラはとりあえずアランの裸をあらゆる方向から視姦し、ちょっとだけ舐めてから服を着せてあげた。
「鼻血さえなければ……今頃は」
ソファーで寝ているアランはだいぶ顔色が良くなってきた。
「う〜ん」
「……キ、キスくらいしてもいいだろうか?」
周りには誰もいないのに、キョロキョロと見渡す。生唾を飲み込み、顔を近づけていく。
「お前が避けないから…私を誘惑するからいけないんだ……」
吐息を感じるほど接近し、今まさにキスを―――
「アランちゃーん! 遊びに来たよ〜って、ああああ!」
ドアを勢い良く開いて入ってきたのはプウィル。覆いかぶさり、今にもキスをしようとしている所を目撃し、腰に吊ってある棍棒を振り上げた。
「ッチ! 何の用だ。私は見ての通りこれからアランと2人きりだったのだが?」
「うっさい、痴女、変態、強姦魔! 何で寝てるアランちゃんに襲いかかってんのよ!」
棍棒を振り上げたものの、アランとくっ付いているリュミドラを殴り飛ばせば、その衝撃がアランにまで及ぶ危険性がある。寸前のところで理性を働かせた。
「私は眠ってしまったアランを介抱しているだけだ」
「介抱するのに何でのしかかってキスする必要があるのよ!」
「………アランが可愛いからだ」
「答えになってねぇわよ!」
************
こうしてギャーギャーと騒いでいるうちにピノが帰ってきてしまい、強制的にお開きになった。
家に帰ってきたリュミドラは鍵のついた机の引き出しから本を取り出した。タイトルは『アラン観察日記』と書かれている。
「酔っぱらったアランがあんなに甘えん坊になるとは……今日はペンが進みそうだ」
アランに対する欲望をぶちまけたこの本は半分、妄想小説になっている。
「プウィルの邪魔さえなければアランと相思相愛になれたものを」
体で繋がれば、アランは責任を取って結婚するだろうという打算だ。それを抜きにしても、リュミドラは自分が好かれているという確固たる自信(根拠なし)を持っている。
妄想小説を書き終えたリュミドラは、1分の1アラン人形(有名な人形師に作らせた特注品)を抱いてベッドに入り込んだ。
「おやすみ、アラン」
11/05/27 21:51更新 / Action
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