報告書「ワーラビット」(2)
カーミルはアッシュに呼ばれ、部屋にやって来ていた。
「何か用か、主人?」
アッシュは何やら書類のようなものを書いていて忙しそうだった。
「今回の調教、お前に任せよう」
「シャル?」
「そうだ」
手は休めないまま判子を押したり、新たに記入している。
「主人は?」
「少しの間、戦争に行ってくる」
アッシュは調教だけでなく、時々こうして戦争に行くことがあった。その戦闘能力を買われ、破格の値段で雇われる。
それは同時に、その値段を出しても惜しくない戦争。それだけ危険だということだった。
「了解。私に任せろ」
「俺が死んだら地下の金を持って出て行け」
何度も繰り返された会話。だが、アッシュのことを信頼しているので死ぬとは思っていない。
「死んでくれると助かる」
「……ッフ、任せたぞ。明日に出発する。好きなように調教しろ」
「私好みの娼婦にする」
「必要な薬は全部揃ってるはずだ。足りなかったら作るなり購入するなりしろ」
「了解」
言うことは言ったとばかりに書類に集中し始める。カーミルは邪魔しないように出て行った。
その頃、ワーラビットのシャルは眠れないでいた。
彼女は大きな町に住む魔物。彼女の家はとても貧乏で、その日の食事にも困るありさまだった。体を売るのは自然な流れだっただろう。
森で暮らしていたなら食べ物は見つけられただろう。だが、町で暮らす以上、お金がなければ食べていけない。
「……ふぅ」
何度めの溜息か分からない。
娼婦という職業があまり良くないことだとは知っている。でも、娼婦がどんな事をしているかまでは知らなかった。
「ママ」
やわかいベッド、たくさんの食事。それらは今までなかったものだった。だが、それよりも母親に会えないほうがずっと苦しかった。
コンコン
返事をする前にドアが開く。
「やはり眠れないか」
カーミルがトレイにティーセットを乗せて入ってきた。
「こ、こんばんわ」
ワーウルフとワーラビットは相性が少し悪い。何もしていないのに、恐怖してしまうのだ。
「今日は何もしない。眠れないなら…」
お湯が注がれ、ハーブのいい香りがする。
それを差し出し、すぐに距離をとる。自分が彼女を怖がらせていると理解しているからだ。
「…ありがとうございます」
「これを飲めばゆっくり眠れる」
「うん」
この優しい言動とは裏腹に、カーミルは興奮していた。
どこもかしこも小さく、白い外見に赤い眼。嗜虐をそそる表情。今すぐ押し倒し、痛みで顔を歪めたい。そんな衝動を必死に抑えていた。
「明日から始める。早く眠るといい」
これ以上ここにいたら自分を抑えられなくなる。そう判断し、カーミルは足早に去って行った。
残されたシャルは運んできたティーカップに口をつけ、ゆっくりと飲んだ。
「…おいしい」
温かい飲み物を飲んで落ち着いてきたのか、だんだん眠くなってきた。
「ふぁ」
しばらく緊張で眠れなかった分、泥のような眠りに身をゆだねた。
朝になるとシャルは自然に目を覚ました。
目を手の甲で擦り、ウンと背筋を伸ばす。
「ん〜・・・・」
しばらくボーっとしていたが、ここがどこがか思い出して飛び上った。
「そうだ。わたし・・・ここにきたんだ」
あのワーウルフは今日から始めるといった。全く未知のことなので、嫌でも不安が広がる。
窓から外を見ると、アッシュが出掛けて行くのが見えた。魔物たちが全員そろい、見送っているようだった。
あの怖い人に教わらなくていいと、シャルは少しだけ安心した。
「・・・っひ!」
馬に跨り、門を出る瞬間。シャルはアッシュと目が合った。視線を感じたのか、なんとなくなのか、理由は定かではないがシャルの恐怖心をあおるのには効果覿面だった。
シャルはシーツを頭から被り、丸くなった。
しばらくしてからそっと窓を覗き、アッシュがいなくなったことを確認した。
―――キィ
「もう起きてたか。感心」
恐る恐る振り返り、アッシュでないと分ると力を抜いた。
朝食を持ってきたらしく、トレイを手の平で器用に持ちながら隣に座る。
「ありがとう」
「食べ終わったら始める。ゆっくりと食べたほうがいい」
頷いて朝食を頬張る。野菜が食べやすいように切ってあり、ドレッシングが3種類ある。
「え〜っと」
「全部試せばいい。いちばん右が・・・・たぶんレモンと・・・」
「ね〜え〜? ちゃんと説明してよ!」
床から首だけ出しているゴーストのトト。
「私はドレッシングはかけない」
「…はぁ〜。いいわ。私が説明するから」
「あ、のお」
「これがレモンとオリーブオイルで作ってあるの。レモンを効かせてるからさっぱりしてるわ。隣がバルサミコ酢とニンニク、バジルの葉が添えてあっておしゃれでしょ? 次のピンク色のがイチゴとビネガーを使ってるの。どれもおいしいわよ」
「うるさい。滅多に料理を披露する機会がないからって一気にしゃべるな」
「あによ!」
突然の訪問でまともな食材がなかったのでドレッシングだけ手間をかけたのだ。この苦労はカーミルにはわからないだろう。
そんな口喧嘩を横目で見ながら、シャルは食事をした。
太陽が傾き、夕日が見える頃にカーミルに呼ばれた。
「じゃあ、始める」
「は、はい」
調教部屋。特にSMの道具がたくさん置いてある部屋だった。
股を刺激する木馬、Xに拘束する寝台。天井からは鎖がいくつもぶら下がり、棚にはあやしげな薬が乱雑に置かれている。
一応、シャルのことを気遣っているのか、部屋は明るくしてある。
「最初にこれを飲んで」
渡されたのは赤い液体の入った瓶。
娼婦に調教するのに、セックスに対して恐怖を覚えないようにするための媚薬だ。アッシュなら使わなくても上手くやるだろうが、カーミルには無理だった。
嗜虐を誘う顔を見ると止まらなくなってしまうのだ。もし本気で攻めたら、トラウマになり娼婦になるどころじゃなくなるだろう。
「……んく、ん。 甘い」
「飲みやすいようにしてある。そこに仰向けになって」
「こう?」
ウサギの足は仰向けになると、自然に股間を見せつけるような態勢になる。
「そのまま胸とまんこをいじれ」
「まん・・・?」
「股間。おしっこする場所と尻の穴の間にある穴のこと」
「〜〜〜!」
言われて一気に顔が赤くなった。
「ホラ、さっさとやる」
カーミルはなかなか動こうとしないシャルの股間に手を伸ばし、撫でるように触れる。
「っひゃ!」
ももの付け根からマッサージのように揉み解す。まずは緊張を解く必要があった。
「動かない。力抜いて」
「は、はい」
力を抜いたのを確認してから毛並みを整えるように撫で始める。太ももを、足を、お腹を。やがて、少しだけ息が乱れてきた。先ほど飲ませた媚薬がやっと回ってきたようだった。
「温かくなってきたでしょ?」
「ハァハァ…は…い」
そこでカーミルは手を引っ込ませてしまう。シャルは残念そうな顔になり、あふれる興奮をどうしたらいいのかわからなくなってモジモジと腰を動かしている。
「自分でいじれ」
「自分で…、ん」
言われるままに自分の太ももやお腹をさすってみる。他人にやってもらうよりも快感は少なかったが、シャルには十分な快感だった。
「はぁう、んん……ぁ」
乳首が痛いほどに勃起し、燃え上がるように股間が熱くなっていた。そっと自分の乳首に指を這わせた。
「はぁ・・・・ああああああ!」
ピクピクと震える。絶頂に達したのだろう、そしてそれがスイッチになったようだ。背筋を何度もそり、頭を横に振るが一向に手は止めない。
「ム、ねぇ。焼けるぅ・・・あああぁ、焼けちゃうぅぅ!」
今まで黙ってみていたカーミルがシャルの股間に手をおく。
「こっちもいじってみろ」
指先で軽くクリトリスを弾く。
「ひぐぃ! ぁあ!」
また絶頂したのか、透明な液体を吹き出してよがり狂う。とても子供とは思えない乱れっぷりだった。
快感が強すぎて涙を流し、口の端からはよだれをたらし、体が何度も跳ねる。体とは別の生き物のように手だけが快感のスポットを的確に触り続けている。
「気持ちいい?」
耳に息を吹きかけながら話しかける。
「わかんない、わかんない! あぁあ、でも、とっ止まらないのぉ!」
「それが気持ちいいってこと。叫べ、大きく。もっと高いところまでイってみろ」
「き、モチ…いい、気持ちいい! 気持ちいいの! はぁあああ、ああ」
「・・・・・・イけ!」
グイっと、乳首が取れてしまうかと思うほどにひねり上げる。シャルは一瞬体の動きを止め、大きく息を吸う。
「……イグゥウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
白目を向き、盛大に潮を吹いてそのまま気絶してしまった。
「ずいぶん乱れたな、これは予想外」
濡れタオルで体をふいてやり、飛び散った汁などを拭き取る。飲ませた媚薬の瓶を拾い、裏に張ってあるラベルをなんとなく読んでみる。
『強力・5倍に薄めて飲むこと』
「………………」
目をこすってもう一度見るが、書いてあることは変わらない。
「……………ま、いいか」
快楽が強すぎるのも問題だが、大丈夫だろう。そんなふうに適当に考えてカーミルは作業を開始した。
「次で処女でも貰おうかな」
カーミルはのんびりとそんなことを考えた。
10/08/28 21:35更新 / Action
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