エピソード2、導かれし者たち
各ポータルから王魔界へ進軍した遠征軍第一陣。
彼らは魔王軍の作戦通り、まともな戦闘をほとんどすることなく、
その兵達の大半を行動不能に追い込まれ捕虜として捕らえられていった。
魔王軍の罠を掻い潜り逃げ延びた者達も当然居たが、
そういった者達は迷った所を魔王軍の哨戒部隊に拾われるか、
彷徨い続け、餓死を免れるために王魔界の水や果物に手を出し、
インキュバス化してしまい、性欲を抑えきれず投降する者がほとんどであった。
逃げ延びた中で残り一割にも満たない数であったが、
星などから方角を割り出し、自分で目的地に辿り着く者も少数ながらいた。
そういった聡い者達は第一陣の中で唯一被害を負っていない軍。
小国トールキン軍に合流し吸収されることとなった。
小国トールキン
地理的に辺境にあり、産業も無く農水産の特産品にも乏しい。
さらに周辺を教団国家に囲まれ、そのうちの一つと国境にある山脈の鉱物資源をめぐり睨み合う。
そんな赤貧国家の一つであるこの国が今までやってこれたのは教団の援助あってのことである。
しかし教団側も慈善事業で国家運営の手助けまではしない。
援助の見返り、それは軍事力である。この国は貧しく人口も少ない。
本来軍事力もその国力同様貸し出せるようなものではない。
だがこの国には一人の強力な勇者がいた。
舞う者(フェザー)の異名を取る男。
エウネリオス=ブライズである。
軽やかな動きで万の矢が飛び交う戦場であろうとも被弾せず駆ける。
そんなスタイルより名づけられた二つ名を持つ勇者で、
その名は周辺国は勿論、耳聡い者なら遠方の教団国家でも知っている者すらいた。
彼という力の主権の譲渡、これによる見返りでトールキンはかろうじて運営されている国であった。
エウネリオスはまだ二十台前半と年若いにも関わらず、
戦闘経験も豊富で軍略に明るく指揮能力も高い。
また人当りも良く人格者であった。
それ故に国では英雄として慕われ、いっしょに戦った者達からの評価も軒並み高かった。
そんな彼が陣頭指揮を取るトールキン軍はいち早く合流地点に到着し、
他国の軍の到着を待っている状態であった。
だが待っても来るのは散り散りの敗走してくる兵ばかり、
エウネリオスはそんな者達の報告を聞いて一人考えていた。
(これで5つ、第一陣の軍の内壊滅が報告されている。
果たして此処に来る味方はまだ残っているのか? もし残りが我が軍だけなら、
ここでこうして待つのは愚行以外の何者でもない・・・
いや、そもそもこの遠征そのものが無茶で無謀極まりないものだ。
もし、私の想像している通りなら・・・む?)
彼の前に兵士が息せき切って走ってくる。
だがエウネリオスはその者が喋りだす前に手を出して言葉を制した。
「よい、魔物の一団がこちらに接近していることだろう?
こちらでも感知している。お前はそのまま戦闘準備に掛かれ。
みなへの伝令はこちらでやる。」
兵は敬礼の姿勢を取ると走っていった。
エウネリオスは膝を曲げるとそのまま放たれた矢のように跳躍した。
風を切りあっという間に数十mの高度を稼ぐと、
エウネリオスは高所から目視で敵の数と陣容を大雑把に把握する。
上昇が止まり、落下すると思われた彼の体は、
マントがたなびきまるで羽根のようにふわりと滞空する。
彼は両の手を上げ、そのひらとひらを強く打ちつけた。
バァァアン! 空気が振るえ、巨大な風船が間近で割れたような音が周囲に響き渡る。
それは彼の軍内で決めてある戦闘準備の合図である。
これにより、全軍は遅れる者無く魔物の接近前に戦闘準備を完了することとなる。
※※※
紅く巨大な月を天に頂き広大な平原を二つに割るように、
トールキン軍と魔王軍は相対していた。
トールキン軍の先頭に立つのは当然エウネリオスで、
魔王軍側の先頭には白銀の髪に紅い瞳のサキュバス、リリムが立っていた。
何故かその格好は丈が短くぴっちりとしているセクシャルなナース服である。
トールキン軍の先頭辺りの兵達はその艶かしい格好と美貌に息を呑む。
エウネリオスは口元を抑え、周りに気取られぬように笑っていた。
(まったく、相変わらず緊張感の無い連中だ。)
両軍睨み合う中、リリムがゆっくりとこちらに歩いてくる。
それを見てエウネリオスはぐるりと首を巡らし号令を発した。
「手出しはするな。私からの指示があるまで一切だ。」
そう声を上げるとエウネリオスもゆっくりと歩き出す。
そして両軍が睨み合う中間地点にて、両者は向かい合っていた。
「お初お目にかかります。魔王の娘、第91位のイスナーニと申します。」
「トールキン軍指揮官。エウネリオスだ。」
「ぞんじておりますわ。フェザーの二つ名を持つ勇者様でいらっしゃいますわよね?」
「辺境国の一勇者に過ぎない私などの名、
魔王の娘程の方にまで知っていただけているとは光栄。」
「ご謙遜ですわ。魔界でもあなたの似顔絵は結構高値で取引されていますのよ?」
「・・・それは? 一体どういう。」
「未婚の勇者や英雄達、まあ男限定ですが。
そういった方々の似顔絵や戦場での活躍を描いた絵画。
未婚の子達の間ではそれなりの高値で売買されていますのよ。
強さもポイントですが、見た目や人柄なども考慮されるとか・・・」
イスナーニの説明に対し、エウネリオスはどう返して良いか困った表情である、
「まあそういうミーハーな子達もいるってことですわ。
私(わたくし)も夫が元勇者ですから偉そうな事は言えませんが。」
「・・・そうですか。まあ与太話はこの辺りにしましょう。
これより我が軍は、貴方方に全面降伏します。」
エウネリオスはあまりに突然にそう言って頭を下げた。
かと思うと突如体を回転させて踵で大きく空を蹴り上げた。
カァァアン 響き渡る甲高い金属音。
頭を上げ、エウネリオスは片手を中空に挙げる。
空から何か細長いものが落下してきてその手の中に納まる。
それは投擲用の槍であった。
それがトールキン軍側からイスナーニに向けて放たれたのだ。
まるで攻城兵器の弩弓を使ったような勢いで真っ直ぐに飛ぶそれを、
エウネリオスは見もせずに踵で蹴り上げたのだ。
絶妙な力を掛けられたそれは前へ飛ぶ力を相殺され、
へし折られて垂直に上昇して落下した。
「御見事ですわ。」
「余計な事でしたか? この程度貴方なら・・・」
「うふふ、殿方の気づかいを無碍にするような野暮はいたしませんわ。
それに例えそうだとしても、御気持を頂く事はうれしいことでしょう?」
「確かに、それでは少々お待ちを、こちらの問題を片付けてきます。」
エウネリオスは槍をその場に捨て去るとゆっくりと自陣に戻っていった。
トールキン軍は静まりかえっていた。
歩いてくるエウネリオスの顔は穏やかだが、
纏う雰囲気は戦場でのそれであり、誰も声を掛けることが出来ない。
「指示があるまで攻撃するな。つい先ほどそう言ったはずだが。」
エウネリオスは自軍のある一点を真っ直ぐに見据える。
視線はまるでモーゼのように兵達を割り、その先に立つ男に突き刺さる。
エウネリオスの視線の先には、彼より若い少年といっても良い男が一人居た。
他国の軍から逃げ延び合流した男で彼も勇者であった。
名をピックといった。彼は殺気すら孕んでエウネリオスを睨みつける。
常人を越える勇者である彼には、遠くからでも二人の会話の内容が聞こえていた。
「ふざけるな背教者が! 降伏だと?
貴様それでも神に加護を授かりし者の一人か。
我々は正義のため、この身を賭して邪悪なる魔王と戦う使命を負っているのだぞ。
我が軍は魔王軍の卑怯な策略により敗走したが、
音に聞こえし貴殿の元で再び力を振るえると思っていたのに。
戦いもせずに降伏だと? 恥知らずにも程が在るぞ。
この臆病者、貴様には勇者という称号は似合わない。
これより私が指揮を取る。其処をどけ。」
激高していっきに捲し立てるピックの言葉、
エウネリオスはそれを黙って聞き入っていた。
荒い息を吐くピックに対し、エウネリオスは静かに語りだす。
「確かピック殿だったな、戦場は何度目だ?」
「これで三度目だが? それがどうした。戦う意思すらない貴殿よりは、
経験が少なかろうとそこらの路傍の石の方が遥かにましというものだ。」
「そうか、随分と鼻息が荒いな。察するに貴殿の家は教団の敬虔な信徒なのだろうな。」
「無論だ。父も母も祖父も祖母も、みな清く正しき生き方を志す立派な方々だ。
そして勇者の資質を見込まれた私は、そんな家族の誇りだ。
その誇りとあの御方への忠誠にかけて、私はこの命尽き果てるまで戦う所存だ。」
「熱いな、熱くて青い。いいだろう。口では納得すまい。掛かってくるが良い。」
言葉が終わると同時にピックが仕掛ける。
地面を蹴って2〜30mはあろうかという間合いを一気に潰すと、
エウネリオスの懐に潜り、魔力で手を覆い貫手を放つ。
その突きは岩すらコルク栓のように貫く威力で地面や空を穿つ、
それが常人には視認不可能な速度で放たれ続ける。
「中々の威力だな。」
だが当たらない。まるで中空に舞う羽根を掴もうとして掴めぬように、
ひらりひらりと纏わり付くように突きを尽くギリギリで空かされる。
「私の神槍(ランス)が・・・くそぅ。これが・・・これがフェザーか。」
「正義を振るうなら悪を知ることだ。短絡的な正義は時に悪より悪だ。」
何度目の突きであったか、ピックの突きに合わせてエウネリオスはカウンターの掌打を放ち、
その顎を見事に撃ち抜いた。
鎧を着た成人男性がその場で宙に浮き一回転して地面に突き刺さる。
ピックはどこぞの犬神家の被害者のような様相を大地で再現すると、
すぐに硬直がとけてぐにゃりと脱力し、ぴくりともしなくなった。
動かぬピックを片腕で引き抜き寝かすと、エウネリオスは皆に改めて言った。
「聞いてのとおりだ。我々は降伏し投降する。」
呆気に取られて事態についていけぬみなに代わり、
トールキン軍の中でもエウネリオスとも親しい間柄の兵が質問する。
「お前がそういうなら、従うのが俺達の仕事だけどもよ。
本当にそれでいいのか? 其処の坊ちゃん勇者の言葉も一理あるんじゃねえの。
お前の事だ。どう引っくり返っても勝てない戦力差だから、
無駄に犠牲を出すよりって話しなんだろうが、
第二陣の連中のために、少しでも戦力を削いでおくのはそれなりに意味があると思うが。」
それを聞いたエウネリオスは噴出しそうになる。
その親しい兵士、ドルーグは本来どちらかといえば不真面目な男で、
教団の命で遠くの戦地に出向くエウネリオスと共に、
酒を交わしては教団への愚痴を言い合うような男だからである。
彼は今、自分の気持ではなくこの場にまだ大勢居るであろう、
教団への忠誠を持っている兵士の代弁としてこんなことを言っているのだ。
(さ〜て、大体こんな所だろう。エウネリオスよぅ。どうするね?
言葉を間違えりゃ味方通しでまた殺し合いが始まりかねんが・・・)
「ドルーグ、お前のいう事は一見もっともだ。
だが間違いだ。何故なら、私達はもう教団の信者ではないからだ。」
エウネリオスの言葉にその場にいた兵達がどよめき始める。
そんな兵達を手振りで制し、エウネリオスは続ける。
「私は神ではない、故に貴殿らの信仰心がどれ程の者か私には計る術はない。
だがこれだけはいえる。どれ程の信仰を持とうと、
教団にとって魔物は排除すべき存在に他ならないということだ。
インキュバス、知っての通り男性が魔力を帯びて魔物化した存在だ。
女性程の外見的な相違が見られぬが、教団側的にはれっきとした魔物なのだ。
私と其処のピックを除いたこの場の全員が、すでにそれになってしまっている。」
「お、おいおいおい。エウネリオス、そりゃ本当か?
こいつがあれば魔界でも平気なはずだろう。」
ドルーグは首筋についたルーン文字を見せる。
それは教団が開発したもので、魔界に漂う魔力を代わりに一定量吸収し、
勇者以外の一般兵が魔界に滞在しても、インキュバス化を防ぐことが出来る代物である。
大体2〜3週間は何もなければ平気であり、
しかもサキュバスを始めとした魔物が持つチャーム系の魔法にも耐性がつく優れものである。
ただし期間中に射精すると無効化してしまうという欠点もある。
第一陣の兵にはみなこのルーンが事前に施されている。
だが兵達は知らなかった。このルーンはあくまで通常の魔界。
暗黒魔界や明緑魔界用に開発された物であり、
王魔界への侵攻を想定されてはいないということを。
王魔界の魔力の濃度は他の魔界を遥かに凌ぐ、
何の対策も無ければ歴戦の勇者すら、
インキュバスや淫魔になることを避けられない場所なのである。
「此処が魔王の本拠地の魔界だからなんだろう。
そのルーンでは一日や二日ほどしか人ではいられないらしいな。
私やピックは元々勇者で耐性があるうえにルーンを付加されてるからな、
期限はわからんが、まだしばらくは人でいられるらしい。」
「いやあ。どおりで腰の物が頑張りっぱなしなわけだ。
緊張で気づかなかったぜ。とっくに人間やめてたとは・・・
ん? ってことはよお。教団の連中は最初から・・・」
「ああ、この遠征軍第一陣は私を含めみな、
人として生きて故郷の土を踏めぬことを前提とされた捨て駒だろうな。」
「そんな馬鹿な。」
「もう帰れねえの確定かよ。」
「ふざけやがって。」
トールキン軍兵や雇われた傭兵達の不満が爆発しそうになる。
そんな自棄になる集団を手で再び制するエウネリオス。
「逆に考えるんだ。もう頑張らなくてもいいさと、恐らく皆腰の物が暴発寸前だろう。
そこで降伏だ。向こうさんもやる気満々のようだし、
此処からは各人自由に行動してとりあえず落ち着くまで好きにすると良い。
身の振り方についてはまあ、先人も大勢居るはずだから色々相談すると良いだろう。」
「流石に話せるぜ大将。」
「ひゃっはーーーもうがまんできねえっ。」
「ゴーアヘッドじゃーー。」
最初に傭兵や荒くれ者、
そしてそれに続いて遠慮がちにトールキン兵達が一斉に突撃を開始した。
平原には剣や兜や鎧が脱ぎ捨てられ、半裸や裸同然の軍勢が魔物達に襲い掛かった。
それからしばらくの間両軍の激しい戦いは続き、平原には悲鳴と嬌声が響き渡る事となる。
※※※
戦場のちょいと先には何故かピンクのけばけばしい病院が建てられており、
際どいナース服でコスプレしたサキュバス達は各々が専属の患者を捕まえては、
膨大な数の個室に引きこもって集中治療を始めていた。
もっとも巨大ホテル並みの野戦病院もすぐに満員となり、
あぶれたカップルは気にせず外で、
もしくは大量に用意されたキャンプで使うようなテントの中に引きこもりそれを揺らしていた。
此処はそんなテントの中の一つ・・・
ナースキャップと角がかわいいサキュバスと、
その傍らに下着一枚の傭兵の男が寝かされていた。
「どうしてこんなになるまで放って置いたのよ。」
「く・・・苦しい・・・助けてくれぇ。」
「当たり前よ。こんなに腫らしちゃって、今にもはちきれそう♥」
下着一枚の男の中心はまさに爆発寸前の活火山のようであった。
主張する膨らみはすでに少し濡れており、
そこから漂う香りが彼女の鼻腔をくすぐり尻尾を揺らめかせる。
(ああ、たまんねえ、なんていやらしい体した姉ちゃんだ。
胸はぱっつんぱっつんで、なのに腰はきゅぅうっと括れてるし、
短い丈の服と白いガーターベルトの間から覗く太ももはムチムチだ。
尻尾でときおり捲れるスカートから見える尻もムチムチ・・・
動くたびに柔らけえ肉が揺れて・・・もう。)
「いけないわぁ、ハァハァしちゃって限界が近いのね?
目も血走っててとってもかわいそう。楽にしてあげるわね♥」
「あぁ。」
まだ触られてもいないうちから男は期待に満ちた声を漏らす。
そんな男の出来上がった様子にサキュバスナースの方も興奮を高める。
「は〜い。今からいっぱい膿を出しますからね〜♥ んん。」
サキュバスはパツパツの胸をぐにゅり とわざと男の顔に乗せ、
そのままピクピク震えて暴発寸前のそれを、
下着越しに掌で円を描くように一撫でだけした。
「んんんぬ♥♥」
サキュバスの豊満で柔らかな胸に顔を埋め、ナース服越しにたまらずしゃぶり付く男は、
そのまま下着越しに一度手を滑らされただけで精を爆発させた。
ビグッビグンッ・・・ビクッビクッビクッ・・・
大きく五回程吐き出す。それだけでも男にとって今までの生涯で最高の快楽と言えた。
普通ならこれだけだせばインターバルは必須だ。
だが男はすでに人間をやめていた。
人間を超越する股間の益荒男(ますらお)はその硬度を落とさない。
「うふふ♥ まだ膿が出きってないみたいですね。
治療も始まったばかりですし、続けて大丈夫ですか?
お加減は悪くないですか。」
「んぅ、ちゅぅう、ちゅぱちゅぱちゅばっっ。」
「ああん♥ いけない人。♥」
男は顔で、口で、手で、腕で、五体を使ってサキュバスの体を夢中で貪る。
胸に顔を埋め口で吸い、両手で蕩けるような太股や尻肉をもみしだく。
男の顔は見えないが何ともだらしなく蕩けっぱなしだ。
そんな夢中の男をサキュバスは興奮気味に見下ろす。
「かわいい、あん♥ 尻尾は駄目ですよ。患者さんは大人しく。」
サキュバスは尻尾が弱いのか男の夢中の指が尻尾を握ると甘い声を上げる。
男はその声に気を良くしたのか愛撫を続けようとするが、
サキュバスが一度体を離してしまう。
「うう、ハァハァハァッ・・・殺生だぜナースさん。」
「うふふ、ちょっと待っててくださいね。患者さんの所為で制服が汚れちゃいましたから。」
ナース服は胸元を中心に涎でべちょべちょになっていた。
ただでさえ布地が薄くぴったりとしたナース服は、濡れる事でスケスケになっている。
豊満な胸に張り付く薄布、服の下はノーブラでいやらしく、
立ち上がった桜色の突起まで透けて見えた。
男の顎がさらにだらしなく開き、
視線の先が何処なのか自覚しているサキュバスはゆっくりと手を動かす。
じらすようにゆっくりと、胸元に手をやり自身の細く美しい指を胸に沈める。
伸縮性の高い布地はそのまま指を受け入れ、包まれたおっぱいは指の形にいやらしく歪む。
んんっ と鼻から抜けるような声が僅かに漏れ、そのまま指はしっとりと動き胸を揉み続ける、
男は目を皿のようにして目の前の痴態を凝視する、
口からは涎が垂れていたが男はまるで気づかない。
男の精は見ているだけで爆発寸前だった。
そんな男の限界を見て取り、サキュバスは柔らかな体を揺らし男の眼前に立つ。
「次は此処で治療しますね♥」
ボタンを一つ二つと外し、濡れスケの胸元に穴を開ける。
それを見て男はカクカクと首を振って期待に顔を歪める。
下着はしゅるりと男から外され、びきりと音を立てそうな剛直が血管と共に立つ。
サキュバスは男の涎と自身の汗で濡れた柔らかな白い果実の間にそれを迎え入れた。
「かはっ。」
短く男が呻く、入れて二三回前後したところでまた男は壊れた蛇口のように精を放つ。
「ああん・・・熱い♥」
その人間離れした量の白濁は挿入口と襟から噴出し、彼女の顔に少し掛かる。
いやらしく目を細めると、サキュバスはあーんと大きく口を開けて長い舌でそれを舐め取った。
「んん♥♥♥ こんなに美味しいなんて。」
その甘露な味に舌鼓をうちつつ、その顔をますます好色に染め、
サキュバスナースは両腕を使い、胸を両側から圧迫する。
ぐにゃりと形を変え、その谷間はより深くそして圧力を上げる。
そのままゆっくりと、だんだん速くサキュバスは体を前後して男の物を扱く。
際限なく噴出す白い液体と男の喜びの声が響き渡り、テントはゆさゆさと揺れ続ける。
にゅるんにゅるんにゅるんにゅるうんにゅるるるるっ
ドプドプドプドプドプドプッ
※※※
所変わって此処は外・・・
其処には二組のカップル、計四人の人影があった。
「兄じゃ。」
「どうした弟よ。」
「イエスロリータ!」
「ノータッチ!」
間髪入れぬ合いの手に二人の魔物は付いていけてない。
それぞれ魔女とアリスが二人の兄弟にはついていた。
「我々はLoliconとして長きに渡り不当なる差別に会って来た。」
「然り、汚れを知らぬ青き果実、それを愛で焦れることの高い精神性と文学性を理解せぬ。
そんな排他的な無理解の権化の何と多いことよ。」
「神聖でさえある若さに嫉妬した熟れすぎた果実共が我々に向ける眼は、
まるで強姦魔かそれ以上に邪悪なる存在と言わんばかり。」
「嘆かわしや弟よ。我らは己の欲求を満たすことしか頭に無い獣共と同列に扱われる。」
「だがしかし兄じゃよ。如何なる忌避の眼を向けられようと。」
「我ら常に紳士たれ。」
「紳士たれ。だが今そんな我らに一つの問題が立ちはだかっている。」
「然り、我らは紳士として少女に対し、触れぬ、媚びぬ、(親の目を)省みぬ。」
「それは紳士同盟血の盟約。如何なる時も犯されざる不文律。」
「だが、もし少女の側が触れて欲しいと言って来た時。
果たして紳士としてそれにどう応えるのが正解であろうや?」
「難問よな・・・」
勝手に小難し気なコントを始める二人に対し、
相手の二人組みも焦れて突っ込み始める。
「おにいちゃん、私はちっちゃいけど、もう立派な女だよ。恥をかかせるのが紳士なの?」
「御免なさい、あたしが寸胴で足も棒みたいで女らしい魅力が無いせいで・・・
あたしなんておにいちゃんにふさわしい女の子じゃないよね。」
魔女はプリプリ不満げに、アリスはしゅんとすまなそうに二人の兄弟に言った。
その二人の仕草に兄弟の胸の内はキュんキュんする。
「・・・弟よ。」
「どうした兄じゃ。」
「彼女達はロリである前に一人の立派な淑女だったようだ。」
「・・・して?」
「此処まで言わせて応えぬは淑女に対し紳士としてありえざる行為。」
「つまりわ?!」
「このタッチ・・・ノットギルティ!!」
「流石だな兄じゃ。」
「当然だ弟よ。」
「うふふ♥ それじゃあいっぱいいっぱい気持ちよくしてあげるね、お・に・い・ちゃん。」
「下手かもだけど、精一杯頑張るから。気持ちよくなっておにいちゃん♥」
二人揃って兄弟にそのまま抱きつく、実は口上を述べる前から裸で、
すでにパンパンに膨らんだバットに柔らかいほっぺが擦れる。
兄弟は薄く吐息を吐き出す。腰から力が抜けて尻餅をつく。
顔を擦り付けていた魔女とアリスは、兄弟達を上目使いで見ながら小さな口を大きく開ける。
魔女は幼さに見合わぬ扇情的な流し目で、アリスは無邪気さと陽だまりのような笑みで、
兄弟の太巻きをおもいきりほお張った。
魔女は焦らすように先だけを唇と舌でぬらりぬらりと刺激し、
アリスは一生懸命に最初から喉の奥まで使って奉仕した。
魔女はしだいに頬や口内、蠢く舌を使い見た目にそぐわぬテクニックで兄を翻弄していく。
アリスは拙いながらも愛の溢れる笑顔と、逆にそのぎこちなさが弟の琴線を刺激する。
しばし平原に卑猥な水音と兄弟の喘ぎのみが響く。
ちゅぽっちゅぽっちゅっぽん ちゅぽちゅぽちゅぽちゅぽ ずじゅうううっぽん。
「「うっ。」」
兄弟は同時に達して小さな口内に収まりきらぬ欲望を暴発させた。
「「ぬふぅ。」」
紳士二人は一時、賢者二人に転職した。
※※※
我輩はバフォメット、偉大なる大悪魔の一族である。
その・・・なんだ。少々若輩ではあるし齢も見た目相応、
まだまだ自分のサバトなぞ持っていない身ではある。
だがバフォメットなのだ。
将来魔王軍の幹部なんぞになってしまうかもしれないのである。
そんな我輩のこと、こんな場においては皆がほうって置かぬ。
そのはずだったのだが・・・どういうことか、
周囲でペアが次々に誕生する中我輩は未だ一人身であった。
前から男が歩いてきた。
ふむ、平々凡々な男だ。偉大なる我輩に釣り合うとは到底思えぬ。
だが我輩の心はこの王魔界のように広く寛大である。
我が前にひれ伏し蹄を舐める事を許可しよう。
「あの、俺と夫婦になってくれ。」
「・・・喜んで。」
男の視線は我輩の頭上を越え、後ろにいた白蛇に注がれていた。
白蛇めは一見慎ましく振舞いつつ、
体を伸ばして露骨にアッピルしている。いやらしい。
・・・背か、背が足りぬと申すか
確かにパーフェクツな我がプロポーションに唯一傷があるとすれば其処、
賢しらな白蛇めにその弱点を見事に突かれたというわけだ。
ふ・・・ふん。まあよい、そのような凡夫は貴様にくれてやろう。
男はまだまだいっぱいおるわ。
おお、右てより新たな男が、白い口髭を蓄えた老練な兵士だ。
ふむ、少々年はいっているが我輩に仕えるにはこれくらいの威厳がなくてはな。
「・・・おっぱい。」
な? 何?! 胸だと・・・ち、ちっぱいが所望と申すか。
じ・・・自信はないが、御主がそこまで望むなら好きにしても・・・
「・・・・・・おっぴあ。おぱいおぱいおぱぱ〜〜〜い。」
「んもおおぉ〜〜〜〜〜♥」
老兵は奇声を上げながら我輩の眼前を通り過ぎ、
左てにいたホルスタウロスに襲い掛かった。
乳袋の奴めも満更ではないらしく艶っぽい声を上げている。
くっ・・・お・・・大きさだけが価値ではない。
それが何故判らん。こちらからも願い下げだ糞爺め。
もう一度我輩は周りを見回す。
そこら中でみなが繋がり睦みあう中、
我輩はただ立ち尽くしていた。
うう、この薄い胸、毛むくじゃらの太い足。
無骨な角、へちゃむくれた顔。
我輩は・・・我輩は駄目なバフォメットなのか・・・
風が吹き、一人身の冷たさをあざ笑う。
さむい・・・さむいよ・・・
その時後ろからフワリと首に腕が回され、
我輩の体はすぽりと温かい場所に収まった。
我輩は驚いて首を回す。
ゴチンと音がした。
「イテテ、角が。」
其処にはいかにも気弱そうで軟弱な線の細い男がいた。
我輩の体を後ろから抱きしめている。
「な・・・何だきさまは。」
「その、よければ僕と・・・」
消え入りそうなおどおどした声、軟弱な輩だ。
だがその触れ合う肌は、とても暖かで優しい。
「ふ・・・ふん。男に二言はないな。」
「う・・・うん。ふふ、ふかふかだ。」
くしゃりと頭に手をやられて撫でられながら、
尻尾や手足の毛をもふもふされる。我輩は何だがすごくぞわぞわした。
「その・・・」
「なあに?」
「は・・・はなさないでね。おにいちゃん。」
「うん。ずっといっしょ・・・」
ああ、この温もりのなんと甘美で抗いがたいことか・・・
※※※
そこら中で行われる行為を尻目に、
エウネリオスとドルーグはイスナーニといっしょにいた。
イスナーニは周りを見回してホクホクとした笑顔を浮かべている。
「うふふ、やはりすばらしいですね。
愛の形はそれぞれありますが、みな一様に愛おしい。」
「あなたはいいのですか? わざわざそんな格好までして来たのに。」
「前にも申しましたが私、すでに夫がいる身ですので、
本来エウネリオス様がこちらに剣を向けてきた際に、私がそれを諌める予定でした。
もっとも、予想以上にエウネリオス様が話せる方で必要なくなりましたが。」
「はは、それは惜しい事をしましたかね。」
「けっ、心にもねえことを。」
エウネリオスの言にドルーグは突っ込む、
そんなドルーグに対し、エウネリオスはかなわないなとばかりに頭を掻いている。
「最初っからある程度こうなることは計算づくだったんだろ?」
「うん、まあそうだな。予定よりずっとスムーズにいったがな。」
男二人だけ判ってるといった会話にイスナーニが口を挟む。
「あの、それはどういう。」
「ああ、こいつはね。ずっと亡命の機会をうかがってたんすよ。
ただ抜けたら教団が国に対して援助を打ち切るどころか、
経済制裁までしかねない。
だけど教団の命令で魔界に攻め込んだ末の討ち死にならそうはいかねえ。
国の英雄を無謀な徴兵で死なせ、あげくに援助を打ち切るとか世間体が悪すぎるっしょ。」
「それだけじゃあないけどな。」
「しかしよく王が許したな。お前を失う事になるわけで・・・今後どうすんのかね。」
「元々こっちに選択肢はないからな。私が出ねばそれはそれで教団への背信行為だ。
そう話したら黙るしかなかったよ。それに後の事についても考えてないわけじゃない。」
「おうおう、流石は若干12歳から勇者として国を背負ってきた英雄様ですな」
「本当にお前には感謝している。潰れずにやってこれたのはお前のおかげだ。」
「っか〜〜、かゆい台詞をヌケヌケとまあ、トモダチナラアタリマエ〜。」
「ははは、ふざけてる奴ですが良い奴でしょ?」
「うふふ、御二方とも素晴らしい殿方ですわ。」
イスナーニは微笑ましげに二人を見ていた。
そんな三人にしゅるしゅると近づいてくる影が一つ。
まだ少女といっていい外見のラミアだ。
そのラミアを見てエウネリオスとドルーグは眼を丸くした。
「リエル?!」
「おおう、久しぶりだなあリエルちゃん。そうか、こいつは君を探すために。」
「久しぶりお兄ちゃん。ドルーグにいちゃんも。」
しゅろろろと上半身で抱きつきながら下半身でも二人に巻きつくラミアの少女。
その目には涙を浮かべている。尾の先をぴちぴち振り乱してギシギシと巻きつく。
「いででで、リエルちゃん。エウネリオスの奴と違って俺はか弱いからよお。
もうちっと緩めてくれるとうれしい。」
「あっ! 御免なさいドルーグにいちゃん。」
「・・・あれからもう10年以上経つが、変らんなあお前は。」
「うん、普通に成長する事も出来たんだけど、お兄ちゃんに会った時すぐに判るようにって。
お兄ちゃん達は見違えたね。その、とってもかっこよくなったよ。」
「はは、舐められたもんだなあエウネリオス、例え成長してたって一目でわからあな。」
「ドルーグの言うとおりだ。昔っからお前はよけいな気を勝手にまわす悪癖がある。」
三人は再びがっしりと円陣を組むように抱きしめあう。
どれくらいそうしていただろうか、しゅるると巻きついていた蛇体が緩み、
三人は誰からともなく離れて距離を取った。
「ふう、良かったなエウネリオス。そんじゃ俺はこの辺で消えるとしよう。」
ドルーグはイスナーニに対し顔でジェスチャーを送り、一緒にその場を離れる。
二人は並んで歩き始める。イスナーニはある程度離れたところでドルーグに質問した。
「あのラミアの子は?」
「リエル、リエル=ブライズ、正真正銘エウネリオスの妹だ。
俺にとっても幼馴染と言える。かれこれ十二年程前かな。
蛇神信仰の本に書かれていた儀式を面白半分でやって魔物化しちまったんだ。
まあ本来はエキドナになる代物が失敗でラミアになっちまったがな。
当時ガキだったがすでに勇者だったエウネリオスと俺は、
国王相手にエウネリオス自身を取引材料にして、
何とかあの子は死んだということにして亡命させる事に成功したんだ。
でもエウネリオスの肩には国そのものが圧し掛かっている。
トールキンから出れないエウネリオスとリエルちゃんは生き別れの形になった。」
「そんなことが・・・そうですか。あの方の亡命の他のもう一つの目的とは。」
「ああ、リエルちゃんを探すつもりだったんだろうさ。
向こうから会いに来てくれたようだがな。」
「あの二人はそういう仲だったのですか?」
「いやいや、仲は良かったがいたって普通の兄妹だったよ。
ただリエルちゃんにとっては理想の男っていったらエウネリオスだろうからな。
魔物になってタブーがなくなった今、気持がそうなってるのは想像に難くないな。
エウネリオスの奴も女としては見て無かったろうけどな。
リエルちゃんがいなくなって消えいりそうなほどだったし脈はあるだろ。
ほんと・・・良かったぜ。本当によう。」
ドルーグは鼻を啜り上げるとイスナーニから顔を反らした。
「・・・本当に、貴方様は良い御友達でいらっしゃるのですね。」
「そんでよう。まあ向こうは二人きりにしときゃいいとして、
俺にも誰か紹介してくれねえ?
あんた魔王の娘なんだろ。顔も広そうだし一つ頼むぜ。」
「あらあらあら、見込んでいただいてうれしいですわ。
うふふ、それでは腕によりをかけて紹介させていただきますね。」
近所の世話焼きおばちゃんのような笑みを浮べ、イスナーニはドルーグの手を引いていった。
※※※
遠征軍対策本部室内。
報告を受け、エキドナのナハルが言った。
「イスナーニ様も無事作戦を成功されたようですね。
これで遠征軍の第一陣は文字通り完全に壊滅した形です。」
それを受けてバフォメットのメルシュも続ける。
「そうね、概ねこちらの想定通りに事は運んでいる。
とはいえ、敵側もこの事態は想定通りみたいだけどね。
まったく、これだけの規模の多国籍軍が丸々捨て駒とは無茶をするわ。」
幼い外見ながら高齢の刑部狸であるウロブサは面白くなさそうな顔だ。
「教団内で価値の低い国や弱兵揃いの国を中心に組まれた第一陣。
無茶な人数の兵を要求した事で、案の定傭兵もかなりまざった構成じゃったな。
勇者も幾人かいたが、ほとんどが名もない成り立てのぺーぺーばっかりじゃったしな。
肝心のフェザーとやらも最初から亡命するき満々と・・・
うまく行き過ぎじゃな。どうにも面白くない。」
「まあね、捨て駒作戦はこっちも情報のリークで想定済み。
短期的に見れば人間一人で魔物一匹を釘付けに出来る捨て駒戦法はかなり有効だわ。
数で劣る上に人間を雑に扱えないこっちはどうしても人員が削られる。
だから今回の作戦にはほとんど若くて弱い魔物中心の打線で組んだわけだし。
増殖の早いスライムやローパー達中心なのもそのため。」
「イスナーニ様のいる場所はもとより、
今や第一陣の大量の捕虜とそれを捕獲する作戦に従事した魔物達、
両者はみんなしっぽりとしてますからね。
男日照りの王魔界で作戦が終わるまで我慢させるのも大変でした。
しょうがないことではありますが、彼女達はもう兵としてはしばらく使えません。」
「ふうむ、そういえば目の存在がやはり確認されたんじゃったのう。」
「ええ、各国捕虜の中に受信紋章を持っている者が幾人か紛れていたわ。」
「目ですか?」
「うむ、遠見の魔法は知っておるな? だが我らの使っているそれと比べ、
教団側のものはまだ技術的に未熟なのじゃ、
王魔界のような高濃度の魔力がただよっている場所では、
それがノイズとなり遠くの情景をうまく見ることが出来ん。」
「そこでその魔法を補助する役目の受信器となる魔術紋章を、
あらかじめ見たい場所において置くの。
そうすれば安全圏から王魔界のことや我々の戦法を見ることが出来る。」
「今回はその受信器となるものを特定の兵に持たせていたというわけですか。」
「さよう、第二陣の連中にはこちらの使った手は読まれていると考えてよいじゃろう。」
「成る程、捨て駒でこちらの数を削ると同時に手の内も探る。一石二鳥の作戦ですね。」
「まあそれはいいのよ、一応それに関してはこっちも織り込み済みだから。」
「ただのう、どうにもうまく行きすぎて踊らされている気配がな・・・
何か見落としていたかのう。メルシュ殿。」
「そうなのよねえ、何か奥歯に物が挟まったような感じなのよ。」
その時、部屋に待機して魔法で戦場の様子を監視している魔女の一人が声を上げた。
「メルシュ様。高魔力反応、次元震も観測されています。高位の空間魔法が行使されています。」
「位置は?」
「イスナーニ様のいる地点とこの魔王城を結ぶ場所の丁度中間辺りです。」
「浸透を許した?! 馬鹿な。」
「確認しました。この魔術波形、我々の物とは若干相違が見られますが、
間違いなく大規模なポータルです。開きます。」
作戦を立案し、指揮する魔物達の顔は一様に平静ではない。
「やられた・・・手段は解らないけど、魔王城の喉元に橋頭堡を築かれた。」
「むう、これ程の規模のポータル、事前準備が両サイドに無いと不可能じゃぞ。」
「しかも向こう側は兎も角、
こちら側の出入り口をつくる作業が今の今まで検知出来ないなんて。」
それまで黙って卓を囲んでいた男が初めて声を出した。
「・・・ふうむ、こう来たか。」
酷薄で怜悧な印象を与える線の細い男だ。縁の無い眼鏡をして白衣を羽織っている。
此処にいるということはインキュバスなのだろう。
そんな男にメルシュは語りかける。
「学士殿、もう敵の手が解ったのか? 貴殿は確かに次元や空間の魔法理論の第一人者だが。」
「ああ、簡単です。先ほどの遠見の魔法と原理は同じですよ。
あのポイントに向こう側で開けた口と強引に空間を繋ぐため、
受信器となる魔具が幾つか設置されてるはずです。
それなら七面倒な儀式はいりませんからすぐにポータルを設置できます。」
「ナハル殿、あの御仁は?」
「シャアル殿です。元は中立国の高名な学者様だったようです。
今はポローヴェに籍を移され国の発展に尽力されているとか。」
ウロブサとナハルをよそにメルシュはシャアルに食い下がっていた。
「馬鹿な、あの規模の長距離ポータルを一瞬で創るなんてあたし達にも容易くないわ。
そのような魔具を持ち込めばそちらが魔女達に発見されるはず。」
「そちらは専門外ですので確かな事はお答えしかねますが、儀式ギリギリまで封印を施すか、
魔力探知を無効化する何らかの方法があるのでしょうね。
何せ向こうには最上位クラスの神がついています。
こちらにとっても想定外の奇跡や技術が出て来ることも十分ありえますよ。」
嘆息したように言うシャアル、
その言い草は何処か他人事のようでメルシュを苛立たせる。
「しかし解せんの、教団側が移動手段として使っておるポータルはこちらが設置したもの。
それゆえ使えば敵の人数までばっちり解るようになってるはずじゃな?」
「ええ、その通りです。それは保証します。故に結論も一つです。」
「遠征軍とは別働で陸路で王魔界に潜入した者達がおるというわけか。」
「そう考えるのが自然でしょう。伏兵は魔力探知を無効化する術を持っている様子。
そして作戦のために王魔界は大部分が霧で包まれていました。」
「王魔界周辺の魔界や親魔物国家、これらは作戦のため住民にみな避難してもらっているわ。
確かに陸路でも邪魔されず見つからず侵入するのは容易な状態だった
でもそれを知っているのはあたし達だけ、向こうからしてみればあまりに無謀だわ。」
そこまで言ってメルシュとウロブサはぞっとした。
「全て読まれていた? 周囲を無人にすることも、霧を使った奇襲も・・・」
「それだけではないわえ、リークされた情報、これそのものが教団側の罠じゃった。」
「え? 情報源の方々が裏切ったと? それはありえませんよ。」
?マークを浮かべるナハルに対しシャアルがフォローを入れる。
「違いますよナハルさん。誰も嘘はついていない。それ故の罠です。
恐らく教団上層部は裏切り者がいること、そしてそれが誰か、
もしくは何処かすでに掴んでいるのです。
その上で、その裏切り者を通じて我々にポータル襲撃、
そして捨て駒作戦という詳細な真実をリークした。
だがリークした真実自体が、
この魔王城眼前にポータルを設置するという真の目的を隠すための布石だったのです。」
「うまい嘘つきは嘘をつかずに人を騙す。真実を語るが本当に隠したい真実だけ伏せる。
わしとしたことが化かし合いで遅れを取るとはのう。」
「真実に隠された真実か・・・兎も角、早急にみなを集めましょう。」
「そうじゃな。此処からは一手対応をミスると詰みかねん。」
静かだった対策本部はにわかに慌しくなっていった。
※※※
魔王城付近に開いたポータル
其処には精強な兵達と一人だけ冴えない見た目のパイプをふかす壮年の男がいた。
髪はぼさぼさで顎も不精した髭が中途半端な長さで不潔さを醸している。
頭をがりがりやってフケを撒き散らしながら男は眼前の巨城とその城下町を見据える。
「か〜〜聞いてた通りでっけえなあ。でかすぎて距離感狂うなあれ。
すげえ近くに見えるけど、まだだいぶあるよな此処から。」
周りの兵達はそれには応えず周囲への警戒を怠らない。
それに対し男は緊張感なさげに大きく欠伸をする。
「あ〜〜、無駄無駄。まだ気を入れるところじゃねえよ。
こっちは完璧に向こうさんの裏かいてっからね。
対応するにしてももうちょい掛かるはずよん。」
この男こそ遠征軍の軍師で魔王軍を手玉にとった存在。
聖棋士(チェック)の異名を取る男。ルアハル=ガースタである。
彼らは魔王軍の作戦通り、まともな戦闘をほとんどすることなく、
その兵達の大半を行動不能に追い込まれ捕虜として捕らえられていった。
魔王軍の罠を掻い潜り逃げ延びた者達も当然居たが、
そういった者達は迷った所を魔王軍の哨戒部隊に拾われるか、
彷徨い続け、餓死を免れるために王魔界の水や果物に手を出し、
インキュバス化してしまい、性欲を抑えきれず投降する者がほとんどであった。
逃げ延びた中で残り一割にも満たない数であったが、
星などから方角を割り出し、自分で目的地に辿り着く者も少数ながらいた。
そういった聡い者達は第一陣の中で唯一被害を負っていない軍。
小国トールキン軍に合流し吸収されることとなった。
小国トールキン
地理的に辺境にあり、産業も無く農水産の特産品にも乏しい。
さらに周辺を教団国家に囲まれ、そのうちの一つと国境にある山脈の鉱物資源をめぐり睨み合う。
そんな赤貧国家の一つであるこの国が今までやってこれたのは教団の援助あってのことである。
しかし教団側も慈善事業で国家運営の手助けまではしない。
援助の見返り、それは軍事力である。この国は貧しく人口も少ない。
本来軍事力もその国力同様貸し出せるようなものではない。
だがこの国には一人の強力な勇者がいた。
舞う者(フェザー)の異名を取る男。
エウネリオス=ブライズである。
軽やかな動きで万の矢が飛び交う戦場であろうとも被弾せず駆ける。
そんなスタイルより名づけられた二つ名を持つ勇者で、
その名は周辺国は勿論、耳聡い者なら遠方の教団国家でも知っている者すらいた。
彼という力の主権の譲渡、これによる見返りでトールキンはかろうじて運営されている国であった。
エウネリオスはまだ二十台前半と年若いにも関わらず、
戦闘経験も豊富で軍略に明るく指揮能力も高い。
また人当りも良く人格者であった。
それ故に国では英雄として慕われ、いっしょに戦った者達からの評価も軒並み高かった。
そんな彼が陣頭指揮を取るトールキン軍はいち早く合流地点に到着し、
他国の軍の到着を待っている状態であった。
だが待っても来るのは散り散りの敗走してくる兵ばかり、
エウネリオスはそんな者達の報告を聞いて一人考えていた。
(これで5つ、第一陣の軍の内壊滅が報告されている。
果たして此処に来る味方はまだ残っているのか? もし残りが我が軍だけなら、
ここでこうして待つのは愚行以外の何者でもない・・・
いや、そもそもこの遠征そのものが無茶で無謀極まりないものだ。
もし、私の想像している通りなら・・・む?)
彼の前に兵士が息せき切って走ってくる。
だがエウネリオスはその者が喋りだす前に手を出して言葉を制した。
「よい、魔物の一団がこちらに接近していることだろう?
こちらでも感知している。お前はそのまま戦闘準備に掛かれ。
みなへの伝令はこちらでやる。」
兵は敬礼の姿勢を取ると走っていった。
エウネリオスは膝を曲げるとそのまま放たれた矢のように跳躍した。
風を切りあっという間に数十mの高度を稼ぐと、
エウネリオスは高所から目視で敵の数と陣容を大雑把に把握する。
上昇が止まり、落下すると思われた彼の体は、
マントがたなびきまるで羽根のようにふわりと滞空する。
彼は両の手を上げ、そのひらとひらを強く打ちつけた。
バァァアン! 空気が振るえ、巨大な風船が間近で割れたような音が周囲に響き渡る。
それは彼の軍内で決めてある戦闘準備の合図である。
これにより、全軍は遅れる者無く魔物の接近前に戦闘準備を完了することとなる。
※※※
紅く巨大な月を天に頂き広大な平原を二つに割るように、
トールキン軍と魔王軍は相対していた。
トールキン軍の先頭に立つのは当然エウネリオスで、
魔王軍側の先頭には白銀の髪に紅い瞳のサキュバス、リリムが立っていた。
何故かその格好は丈が短くぴっちりとしているセクシャルなナース服である。
トールキン軍の先頭辺りの兵達はその艶かしい格好と美貌に息を呑む。
エウネリオスは口元を抑え、周りに気取られぬように笑っていた。
(まったく、相変わらず緊張感の無い連中だ。)
両軍睨み合う中、リリムがゆっくりとこちらに歩いてくる。
それを見てエウネリオスはぐるりと首を巡らし号令を発した。
「手出しはするな。私からの指示があるまで一切だ。」
そう声を上げるとエウネリオスもゆっくりと歩き出す。
そして両軍が睨み合う中間地点にて、両者は向かい合っていた。
「お初お目にかかります。魔王の娘、第91位のイスナーニと申します。」
「トールキン軍指揮官。エウネリオスだ。」
「ぞんじておりますわ。フェザーの二つ名を持つ勇者様でいらっしゃいますわよね?」
「辺境国の一勇者に過ぎない私などの名、
魔王の娘程の方にまで知っていただけているとは光栄。」
「ご謙遜ですわ。魔界でもあなたの似顔絵は結構高値で取引されていますのよ?」
「・・・それは? 一体どういう。」
「未婚の勇者や英雄達、まあ男限定ですが。
そういった方々の似顔絵や戦場での活躍を描いた絵画。
未婚の子達の間ではそれなりの高値で売買されていますのよ。
強さもポイントですが、見た目や人柄なども考慮されるとか・・・」
イスナーニの説明に対し、エウネリオスはどう返して良いか困った表情である、
「まあそういうミーハーな子達もいるってことですわ。
私(わたくし)も夫が元勇者ですから偉そうな事は言えませんが。」
「・・・そうですか。まあ与太話はこの辺りにしましょう。
これより我が軍は、貴方方に全面降伏します。」
エウネリオスはあまりに突然にそう言って頭を下げた。
かと思うと突如体を回転させて踵で大きく空を蹴り上げた。
カァァアン 響き渡る甲高い金属音。
頭を上げ、エウネリオスは片手を中空に挙げる。
空から何か細長いものが落下してきてその手の中に納まる。
それは投擲用の槍であった。
それがトールキン軍側からイスナーニに向けて放たれたのだ。
まるで攻城兵器の弩弓を使ったような勢いで真っ直ぐに飛ぶそれを、
エウネリオスは見もせずに踵で蹴り上げたのだ。
絶妙な力を掛けられたそれは前へ飛ぶ力を相殺され、
へし折られて垂直に上昇して落下した。
「御見事ですわ。」
「余計な事でしたか? この程度貴方なら・・・」
「うふふ、殿方の気づかいを無碍にするような野暮はいたしませんわ。
それに例えそうだとしても、御気持を頂く事はうれしいことでしょう?」
「確かに、それでは少々お待ちを、こちらの問題を片付けてきます。」
エウネリオスは槍をその場に捨て去るとゆっくりと自陣に戻っていった。
トールキン軍は静まりかえっていた。
歩いてくるエウネリオスの顔は穏やかだが、
纏う雰囲気は戦場でのそれであり、誰も声を掛けることが出来ない。
「指示があるまで攻撃するな。つい先ほどそう言ったはずだが。」
エウネリオスは自軍のある一点を真っ直ぐに見据える。
視線はまるでモーゼのように兵達を割り、その先に立つ男に突き刺さる。
エウネリオスの視線の先には、彼より若い少年といっても良い男が一人居た。
他国の軍から逃げ延び合流した男で彼も勇者であった。
名をピックといった。彼は殺気すら孕んでエウネリオスを睨みつける。
常人を越える勇者である彼には、遠くからでも二人の会話の内容が聞こえていた。
「ふざけるな背教者が! 降伏だと?
貴様それでも神に加護を授かりし者の一人か。
我々は正義のため、この身を賭して邪悪なる魔王と戦う使命を負っているのだぞ。
我が軍は魔王軍の卑怯な策略により敗走したが、
音に聞こえし貴殿の元で再び力を振るえると思っていたのに。
戦いもせずに降伏だと? 恥知らずにも程が在るぞ。
この臆病者、貴様には勇者という称号は似合わない。
これより私が指揮を取る。其処をどけ。」
激高していっきに捲し立てるピックの言葉、
エウネリオスはそれを黙って聞き入っていた。
荒い息を吐くピックに対し、エウネリオスは静かに語りだす。
「確かピック殿だったな、戦場は何度目だ?」
「これで三度目だが? それがどうした。戦う意思すらない貴殿よりは、
経験が少なかろうとそこらの路傍の石の方が遥かにましというものだ。」
「そうか、随分と鼻息が荒いな。察するに貴殿の家は教団の敬虔な信徒なのだろうな。」
「無論だ。父も母も祖父も祖母も、みな清く正しき生き方を志す立派な方々だ。
そして勇者の資質を見込まれた私は、そんな家族の誇りだ。
その誇りとあの御方への忠誠にかけて、私はこの命尽き果てるまで戦う所存だ。」
「熱いな、熱くて青い。いいだろう。口では納得すまい。掛かってくるが良い。」
言葉が終わると同時にピックが仕掛ける。
地面を蹴って2〜30mはあろうかという間合いを一気に潰すと、
エウネリオスの懐に潜り、魔力で手を覆い貫手を放つ。
その突きは岩すらコルク栓のように貫く威力で地面や空を穿つ、
それが常人には視認不可能な速度で放たれ続ける。
「中々の威力だな。」
だが当たらない。まるで中空に舞う羽根を掴もうとして掴めぬように、
ひらりひらりと纏わり付くように突きを尽くギリギリで空かされる。
「私の神槍(ランス)が・・・くそぅ。これが・・・これがフェザーか。」
「正義を振るうなら悪を知ることだ。短絡的な正義は時に悪より悪だ。」
何度目の突きであったか、ピックの突きに合わせてエウネリオスはカウンターの掌打を放ち、
その顎を見事に撃ち抜いた。
鎧を着た成人男性がその場で宙に浮き一回転して地面に突き刺さる。
ピックはどこぞの犬神家の被害者のような様相を大地で再現すると、
すぐに硬直がとけてぐにゃりと脱力し、ぴくりともしなくなった。
動かぬピックを片腕で引き抜き寝かすと、エウネリオスは皆に改めて言った。
「聞いてのとおりだ。我々は降伏し投降する。」
呆気に取られて事態についていけぬみなに代わり、
トールキン軍の中でもエウネリオスとも親しい間柄の兵が質問する。
「お前がそういうなら、従うのが俺達の仕事だけどもよ。
本当にそれでいいのか? 其処の坊ちゃん勇者の言葉も一理あるんじゃねえの。
お前の事だ。どう引っくり返っても勝てない戦力差だから、
無駄に犠牲を出すよりって話しなんだろうが、
第二陣の連中のために、少しでも戦力を削いでおくのはそれなりに意味があると思うが。」
それを聞いたエウネリオスは噴出しそうになる。
その親しい兵士、ドルーグは本来どちらかといえば不真面目な男で、
教団の命で遠くの戦地に出向くエウネリオスと共に、
酒を交わしては教団への愚痴を言い合うような男だからである。
彼は今、自分の気持ではなくこの場にまだ大勢居るであろう、
教団への忠誠を持っている兵士の代弁としてこんなことを言っているのだ。
(さ〜て、大体こんな所だろう。エウネリオスよぅ。どうするね?
言葉を間違えりゃ味方通しでまた殺し合いが始まりかねんが・・・)
「ドルーグ、お前のいう事は一見もっともだ。
だが間違いだ。何故なら、私達はもう教団の信者ではないからだ。」
エウネリオスの言葉にその場にいた兵達がどよめき始める。
そんな兵達を手振りで制し、エウネリオスは続ける。
「私は神ではない、故に貴殿らの信仰心がどれ程の者か私には計る術はない。
だがこれだけはいえる。どれ程の信仰を持とうと、
教団にとって魔物は排除すべき存在に他ならないということだ。
インキュバス、知っての通り男性が魔力を帯びて魔物化した存在だ。
女性程の外見的な相違が見られぬが、教団側的にはれっきとした魔物なのだ。
私と其処のピックを除いたこの場の全員が、すでにそれになってしまっている。」
「お、おいおいおい。エウネリオス、そりゃ本当か?
こいつがあれば魔界でも平気なはずだろう。」
ドルーグは首筋についたルーン文字を見せる。
それは教団が開発したもので、魔界に漂う魔力を代わりに一定量吸収し、
勇者以外の一般兵が魔界に滞在しても、インキュバス化を防ぐことが出来る代物である。
大体2〜3週間は何もなければ平気であり、
しかもサキュバスを始めとした魔物が持つチャーム系の魔法にも耐性がつく優れものである。
ただし期間中に射精すると無効化してしまうという欠点もある。
第一陣の兵にはみなこのルーンが事前に施されている。
だが兵達は知らなかった。このルーンはあくまで通常の魔界。
暗黒魔界や明緑魔界用に開発された物であり、
王魔界への侵攻を想定されてはいないということを。
王魔界の魔力の濃度は他の魔界を遥かに凌ぐ、
何の対策も無ければ歴戦の勇者すら、
インキュバスや淫魔になることを避けられない場所なのである。
「此処が魔王の本拠地の魔界だからなんだろう。
そのルーンでは一日や二日ほどしか人ではいられないらしいな。
私やピックは元々勇者で耐性があるうえにルーンを付加されてるからな、
期限はわからんが、まだしばらくは人でいられるらしい。」
「いやあ。どおりで腰の物が頑張りっぱなしなわけだ。
緊張で気づかなかったぜ。とっくに人間やめてたとは・・・
ん? ってことはよお。教団の連中は最初から・・・」
「ああ、この遠征軍第一陣は私を含めみな、
人として生きて故郷の土を踏めぬことを前提とされた捨て駒だろうな。」
「そんな馬鹿な。」
「もう帰れねえの確定かよ。」
「ふざけやがって。」
トールキン軍兵や雇われた傭兵達の不満が爆発しそうになる。
そんな自棄になる集団を手で再び制するエウネリオス。
「逆に考えるんだ。もう頑張らなくてもいいさと、恐らく皆腰の物が暴発寸前だろう。
そこで降伏だ。向こうさんもやる気満々のようだし、
此処からは各人自由に行動してとりあえず落ち着くまで好きにすると良い。
身の振り方についてはまあ、先人も大勢居るはずだから色々相談すると良いだろう。」
「流石に話せるぜ大将。」
「ひゃっはーーーもうがまんできねえっ。」
「ゴーアヘッドじゃーー。」
最初に傭兵や荒くれ者、
そしてそれに続いて遠慮がちにトールキン兵達が一斉に突撃を開始した。
平原には剣や兜や鎧が脱ぎ捨てられ、半裸や裸同然の軍勢が魔物達に襲い掛かった。
それからしばらくの間両軍の激しい戦いは続き、平原には悲鳴と嬌声が響き渡る事となる。
※※※
戦場のちょいと先には何故かピンクのけばけばしい病院が建てられており、
際どいナース服でコスプレしたサキュバス達は各々が専属の患者を捕まえては、
膨大な数の個室に引きこもって集中治療を始めていた。
もっとも巨大ホテル並みの野戦病院もすぐに満員となり、
あぶれたカップルは気にせず外で、
もしくは大量に用意されたキャンプで使うようなテントの中に引きこもりそれを揺らしていた。
此処はそんなテントの中の一つ・・・
ナースキャップと角がかわいいサキュバスと、
その傍らに下着一枚の傭兵の男が寝かされていた。
「どうしてこんなになるまで放って置いたのよ。」
「く・・・苦しい・・・助けてくれぇ。」
「当たり前よ。こんなに腫らしちゃって、今にもはちきれそう♥」
下着一枚の男の中心はまさに爆発寸前の活火山のようであった。
主張する膨らみはすでに少し濡れており、
そこから漂う香りが彼女の鼻腔をくすぐり尻尾を揺らめかせる。
(ああ、たまんねえ、なんていやらしい体した姉ちゃんだ。
胸はぱっつんぱっつんで、なのに腰はきゅぅうっと括れてるし、
短い丈の服と白いガーターベルトの間から覗く太ももはムチムチだ。
尻尾でときおり捲れるスカートから見える尻もムチムチ・・・
動くたびに柔らけえ肉が揺れて・・・もう。)
「いけないわぁ、ハァハァしちゃって限界が近いのね?
目も血走っててとってもかわいそう。楽にしてあげるわね♥」
「あぁ。」
まだ触られてもいないうちから男は期待に満ちた声を漏らす。
そんな男の出来上がった様子にサキュバスナースの方も興奮を高める。
「は〜い。今からいっぱい膿を出しますからね〜♥ んん。」
サキュバスはパツパツの胸をぐにゅり とわざと男の顔に乗せ、
そのままピクピク震えて暴発寸前のそれを、
下着越しに掌で円を描くように一撫でだけした。
「んんんぬ♥♥」
サキュバスの豊満で柔らかな胸に顔を埋め、ナース服越しにたまらずしゃぶり付く男は、
そのまま下着越しに一度手を滑らされただけで精を爆発させた。
ビグッビグンッ・・・ビクッビクッビクッ・・・
大きく五回程吐き出す。それだけでも男にとって今までの生涯で最高の快楽と言えた。
普通ならこれだけだせばインターバルは必須だ。
だが男はすでに人間をやめていた。
人間を超越する股間の益荒男(ますらお)はその硬度を落とさない。
「うふふ♥ まだ膿が出きってないみたいですね。
治療も始まったばかりですし、続けて大丈夫ですか?
お加減は悪くないですか。」
「んぅ、ちゅぅう、ちゅぱちゅぱちゅばっっ。」
「ああん♥ いけない人。♥」
男は顔で、口で、手で、腕で、五体を使ってサキュバスの体を夢中で貪る。
胸に顔を埋め口で吸い、両手で蕩けるような太股や尻肉をもみしだく。
男の顔は見えないが何ともだらしなく蕩けっぱなしだ。
そんな夢中の男をサキュバスは興奮気味に見下ろす。
「かわいい、あん♥ 尻尾は駄目ですよ。患者さんは大人しく。」
サキュバスは尻尾が弱いのか男の夢中の指が尻尾を握ると甘い声を上げる。
男はその声に気を良くしたのか愛撫を続けようとするが、
サキュバスが一度体を離してしまう。
「うう、ハァハァハァッ・・・殺生だぜナースさん。」
「うふふ、ちょっと待っててくださいね。患者さんの所為で制服が汚れちゃいましたから。」
ナース服は胸元を中心に涎でべちょべちょになっていた。
ただでさえ布地が薄くぴったりとしたナース服は、濡れる事でスケスケになっている。
豊満な胸に張り付く薄布、服の下はノーブラでいやらしく、
立ち上がった桜色の突起まで透けて見えた。
男の顎がさらにだらしなく開き、
視線の先が何処なのか自覚しているサキュバスはゆっくりと手を動かす。
じらすようにゆっくりと、胸元に手をやり自身の細く美しい指を胸に沈める。
伸縮性の高い布地はそのまま指を受け入れ、包まれたおっぱいは指の形にいやらしく歪む。
んんっ と鼻から抜けるような声が僅かに漏れ、そのまま指はしっとりと動き胸を揉み続ける、
男は目を皿のようにして目の前の痴態を凝視する、
口からは涎が垂れていたが男はまるで気づかない。
男の精は見ているだけで爆発寸前だった。
そんな男の限界を見て取り、サキュバスは柔らかな体を揺らし男の眼前に立つ。
「次は此処で治療しますね♥」
ボタンを一つ二つと外し、濡れスケの胸元に穴を開ける。
それを見て男はカクカクと首を振って期待に顔を歪める。
下着はしゅるりと男から外され、びきりと音を立てそうな剛直が血管と共に立つ。
サキュバスは男の涎と自身の汗で濡れた柔らかな白い果実の間にそれを迎え入れた。
「かはっ。」
短く男が呻く、入れて二三回前後したところでまた男は壊れた蛇口のように精を放つ。
「ああん・・・熱い♥」
その人間離れした量の白濁は挿入口と襟から噴出し、彼女の顔に少し掛かる。
いやらしく目を細めると、サキュバスはあーんと大きく口を開けて長い舌でそれを舐め取った。
「んん♥♥♥ こんなに美味しいなんて。」
その甘露な味に舌鼓をうちつつ、その顔をますます好色に染め、
サキュバスナースは両腕を使い、胸を両側から圧迫する。
ぐにゃりと形を変え、その谷間はより深くそして圧力を上げる。
そのままゆっくりと、だんだん速くサキュバスは体を前後して男の物を扱く。
際限なく噴出す白い液体と男の喜びの声が響き渡り、テントはゆさゆさと揺れ続ける。
にゅるんにゅるんにゅるんにゅるうんにゅるるるるっ
ドプドプドプドプドプドプッ
※※※
所変わって此処は外・・・
其処には二組のカップル、計四人の人影があった。
「兄じゃ。」
「どうした弟よ。」
「イエスロリータ!」
「ノータッチ!」
間髪入れぬ合いの手に二人の魔物は付いていけてない。
それぞれ魔女とアリスが二人の兄弟にはついていた。
「我々はLoliconとして長きに渡り不当なる差別に会って来た。」
「然り、汚れを知らぬ青き果実、それを愛で焦れることの高い精神性と文学性を理解せぬ。
そんな排他的な無理解の権化の何と多いことよ。」
「神聖でさえある若さに嫉妬した熟れすぎた果実共が我々に向ける眼は、
まるで強姦魔かそれ以上に邪悪なる存在と言わんばかり。」
「嘆かわしや弟よ。我らは己の欲求を満たすことしか頭に無い獣共と同列に扱われる。」
「だがしかし兄じゃよ。如何なる忌避の眼を向けられようと。」
「我ら常に紳士たれ。」
「紳士たれ。だが今そんな我らに一つの問題が立ちはだかっている。」
「然り、我らは紳士として少女に対し、触れぬ、媚びぬ、(親の目を)省みぬ。」
「それは紳士同盟血の盟約。如何なる時も犯されざる不文律。」
「だが、もし少女の側が触れて欲しいと言って来た時。
果たして紳士としてそれにどう応えるのが正解であろうや?」
「難問よな・・・」
勝手に小難し気なコントを始める二人に対し、
相手の二人組みも焦れて突っ込み始める。
「おにいちゃん、私はちっちゃいけど、もう立派な女だよ。恥をかかせるのが紳士なの?」
「御免なさい、あたしが寸胴で足も棒みたいで女らしい魅力が無いせいで・・・
あたしなんておにいちゃんにふさわしい女の子じゃないよね。」
魔女はプリプリ不満げに、アリスはしゅんとすまなそうに二人の兄弟に言った。
その二人の仕草に兄弟の胸の内はキュんキュんする。
「・・・弟よ。」
「どうした兄じゃ。」
「彼女達はロリである前に一人の立派な淑女だったようだ。」
「・・・して?」
「此処まで言わせて応えぬは淑女に対し紳士としてありえざる行為。」
「つまりわ?!」
「このタッチ・・・ノットギルティ!!」
「流石だな兄じゃ。」
「当然だ弟よ。」
「うふふ♥ それじゃあいっぱいいっぱい気持ちよくしてあげるね、お・に・い・ちゃん。」
「下手かもだけど、精一杯頑張るから。気持ちよくなっておにいちゃん♥」
二人揃って兄弟にそのまま抱きつく、実は口上を述べる前から裸で、
すでにパンパンに膨らんだバットに柔らかいほっぺが擦れる。
兄弟は薄く吐息を吐き出す。腰から力が抜けて尻餅をつく。
顔を擦り付けていた魔女とアリスは、兄弟達を上目使いで見ながら小さな口を大きく開ける。
魔女は幼さに見合わぬ扇情的な流し目で、アリスは無邪気さと陽だまりのような笑みで、
兄弟の太巻きをおもいきりほお張った。
魔女は焦らすように先だけを唇と舌でぬらりぬらりと刺激し、
アリスは一生懸命に最初から喉の奥まで使って奉仕した。
魔女はしだいに頬や口内、蠢く舌を使い見た目にそぐわぬテクニックで兄を翻弄していく。
アリスは拙いながらも愛の溢れる笑顔と、逆にそのぎこちなさが弟の琴線を刺激する。
しばし平原に卑猥な水音と兄弟の喘ぎのみが響く。
ちゅぽっちゅぽっちゅっぽん ちゅぽちゅぽちゅぽちゅぽ ずじゅうううっぽん。
「「うっ。」」
兄弟は同時に達して小さな口内に収まりきらぬ欲望を暴発させた。
「「ぬふぅ。」」
紳士二人は一時、賢者二人に転職した。
※※※
我輩はバフォメット、偉大なる大悪魔の一族である。
その・・・なんだ。少々若輩ではあるし齢も見た目相応、
まだまだ自分のサバトなぞ持っていない身ではある。
だがバフォメットなのだ。
将来魔王軍の幹部なんぞになってしまうかもしれないのである。
そんな我輩のこと、こんな場においては皆がほうって置かぬ。
そのはずだったのだが・・・どういうことか、
周囲でペアが次々に誕生する中我輩は未だ一人身であった。
前から男が歩いてきた。
ふむ、平々凡々な男だ。偉大なる我輩に釣り合うとは到底思えぬ。
だが我輩の心はこの王魔界のように広く寛大である。
我が前にひれ伏し蹄を舐める事を許可しよう。
「あの、俺と夫婦になってくれ。」
「・・・喜んで。」
男の視線は我輩の頭上を越え、後ろにいた白蛇に注がれていた。
白蛇めは一見慎ましく振舞いつつ、
体を伸ばして露骨にアッピルしている。いやらしい。
・・・背か、背が足りぬと申すか
確かにパーフェクツな我がプロポーションに唯一傷があるとすれば其処、
賢しらな白蛇めにその弱点を見事に突かれたというわけだ。
ふ・・・ふん。まあよい、そのような凡夫は貴様にくれてやろう。
男はまだまだいっぱいおるわ。
おお、右てより新たな男が、白い口髭を蓄えた老練な兵士だ。
ふむ、少々年はいっているが我輩に仕えるにはこれくらいの威厳がなくてはな。
「・・・おっぱい。」
な? 何?! 胸だと・・・ち、ちっぱいが所望と申すか。
じ・・・自信はないが、御主がそこまで望むなら好きにしても・・・
「・・・・・・おっぴあ。おぱいおぱいおぱぱ〜〜〜い。」
「んもおおぉ〜〜〜〜〜♥」
老兵は奇声を上げながら我輩の眼前を通り過ぎ、
左てにいたホルスタウロスに襲い掛かった。
乳袋の奴めも満更ではないらしく艶っぽい声を上げている。
くっ・・・お・・・大きさだけが価値ではない。
それが何故判らん。こちらからも願い下げだ糞爺め。
もう一度我輩は周りを見回す。
そこら中でみなが繋がり睦みあう中、
我輩はただ立ち尽くしていた。
うう、この薄い胸、毛むくじゃらの太い足。
無骨な角、へちゃむくれた顔。
我輩は・・・我輩は駄目なバフォメットなのか・・・
風が吹き、一人身の冷たさをあざ笑う。
さむい・・・さむいよ・・・
その時後ろからフワリと首に腕が回され、
我輩の体はすぽりと温かい場所に収まった。
我輩は驚いて首を回す。
ゴチンと音がした。
「イテテ、角が。」
其処にはいかにも気弱そうで軟弱な線の細い男がいた。
我輩の体を後ろから抱きしめている。
「な・・・何だきさまは。」
「その、よければ僕と・・・」
消え入りそうなおどおどした声、軟弱な輩だ。
だがその触れ合う肌は、とても暖かで優しい。
「ふ・・・ふん。男に二言はないな。」
「う・・・うん。ふふ、ふかふかだ。」
くしゃりと頭に手をやられて撫でられながら、
尻尾や手足の毛をもふもふされる。我輩は何だがすごくぞわぞわした。
「その・・・」
「なあに?」
「は・・・はなさないでね。おにいちゃん。」
「うん。ずっといっしょ・・・」
ああ、この温もりのなんと甘美で抗いがたいことか・・・
※※※
そこら中で行われる行為を尻目に、
エウネリオスとドルーグはイスナーニといっしょにいた。
イスナーニは周りを見回してホクホクとした笑顔を浮かべている。
「うふふ、やはりすばらしいですね。
愛の形はそれぞれありますが、みな一様に愛おしい。」
「あなたはいいのですか? わざわざそんな格好までして来たのに。」
「前にも申しましたが私、すでに夫がいる身ですので、
本来エウネリオス様がこちらに剣を向けてきた際に、私がそれを諌める予定でした。
もっとも、予想以上にエウネリオス様が話せる方で必要なくなりましたが。」
「はは、それは惜しい事をしましたかね。」
「けっ、心にもねえことを。」
エウネリオスの言にドルーグは突っ込む、
そんなドルーグに対し、エウネリオスはかなわないなとばかりに頭を掻いている。
「最初っからある程度こうなることは計算づくだったんだろ?」
「うん、まあそうだな。予定よりずっとスムーズにいったがな。」
男二人だけ判ってるといった会話にイスナーニが口を挟む。
「あの、それはどういう。」
「ああ、こいつはね。ずっと亡命の機会をうかがってたんすよ。
ただ抜けたら教団が国に対して援助を打ち切るどころか、
経済制裁までしかねない。
だけど教団の命令で魔界に攻め込んだ末の討ち死にならそうはいかねえ。
国の英雄を無謀な徴兵で死なせ、あげくに援助を打ち切るとか世間体が悪すぎるっしょ。」
「それだけじゃあないけどな。」
「しかしよく王が許したな。お前を失う事になるわけで・・・今後どうすんのかね。」
「元々こっちに選択肢はないからな。私が出ねばそれはそれで教団への背信行為だ。
そう話したら黙るしかなかったよ。それに後の事についても考えてないわけじゃない。」
「おうおう、流石は若干12歳から勇者として国を背負ってきた英雄様ですな」
「本当にお前には感謝している。潰れずにやってこれたのはお前のおかげだ。」
「っか〜〜、かゆい台詞をヌケヌケとまあ、トモダチナラアタリマエ〜。」
「ははは、ふざけてる奴ですが良い奴でしょ?」
「うふふ、御二方とも素晴らしい殿方ですわ。」
イスナーニは微笑ましげに二人を見ていた。
そんな三人にしゅるしゅると近づいてくる影が一つ。
まだ少女といっていい外見のラミアだ。
そのラミアを見てエウネリオスとドルーグは眼を丸くした。
「リエル?!」
「おおう、久しぶりだなあリエルちゃん。そうか、こいつは君を探すために。」
「久しぶりお兄ちゃん。ドルーグにいちゃんも。」
しゅろろろと上半身で抱きつきながら下半身でも二人に巻きつくラミアの少女。
その目には涙を浮かべている。尾の先をぴちぴち振り乱してギシギシと巻きつく。
「いででで、リエルちゃん。エウネリオスの奴と違って俺はか弱いからよお。
もうちっと緩めてくれるとうれしい。」
「あっ! 御免なさいドルーグにいちゃん。」
「・・・あれからもう10年以上経つが、変らんなあお前は。」
「うん、普通に成長する事も出来たんだけど、お兄ちゃんに会った時すぐに判るようにって。
お兄ちゃん達は見違えたね。その、とってもかっこよくなったよ。」
「はは、舐められたもんだなあエウネリオス、例え成長してたって一目でわからあな。」
「ドルーグの言うとおりだ。昔っからお前はよけいな気を勝手にまわす悪癖がある。」
三人は再びがっしりと円陣を組むように抱きしめあう。
どれくらいそうしていただろうか、しゅるると巻きついていた蛇体が緩み、
三人は誰からともなく離れて距離を取った。
「ふう、良かったなエウネリオス。そんじゃ俺はこの辺で消えるとしよう。」
ドルーグはイスナーニに対し顔でジェスチャーを送り、一緒にその場を離れる。
二人は並んで歩き始める。イスナーニはある程度離れたところでドルーグに質問した。
「あのラミアの子は?」
「リエル、リエル=ブライズ、正真正銘エウネリオスの妹だ。
俺にとっても幼馴染と言える。かれこれ十二年程前かな。
蛇神信仰の本に書かれていた儀式を面白半分でやって魔物化しちまったんだ。
まあ本来はエキドナになる代物が失敗でラミアになっちまったがな。
当時ガキだったがすでに勇者だったエウネリオスと俺は、
国王相手にエウネリオス自身を取引材料にして、
何とかあの子は死んだということにして亡命させる事に成功したんだ。
でもエウネリオスの肩には国そのものが圧し掛かっている。
トールキンから出れないエウネリオスとリエルちゃんは生き別れの形になった。」
「そんなことが・・・そうですか。あの方の亡命の他のもう一つの目的とは。」
「ああ、リエルちゃんを探すつもりだったんだろうさ。
向こうから会いに来てくれたようだがな。」
「あの二人はそういう仲だったのですか?」
「いやいや、仲は良かったがいたって普通の兄妹だったよ。
ただリエルちゃんにとっては理想の男っていったらエウネリオスだろうからな。
魔物になってタブーがなくなった今、気持がそうなってるのは想像に難くないな。
エウネリオスの奴も女としては見て無かったろうけどな。
リエルちゃんがいなくなって消えいりそうなほどだったし脈はあるだろ。
ほんと・・・良かったぜ。本当によう。」
ドルーグは鼻を啜り上げるとイスナーニから顔を反らした。
「・・・本当に、貴方様は良い御友達でいらっしゃるのですね。」
「そんでよう。まあ向こうは二人きりにしときゃいいとして、
俺にも誰か紹介してくれねえ?
あんた魔王の娘なんだろ。顔も広そうだし一つ頼むぜ。」
「あらあらあら、見込んでいただいてうれしいですわ。
うふふ、それでは腕によりをかけて紹介させていただきますね。」
近所の世話焼きおばちゃんのような笑みを浮べ、イスナーニはドルーグの手を引いていった。
※※※
遠征軍対策本部室内。
報告を受け、エキドナのナハルが言った。
「イスナーニ様も無事作戦を成功されたようですね。
これで遠征軍の第一陣は文字通り完全に壊滅した形です。」
それを受けてバフォメットのメルシュも続ける。
「そうね、概ねこちらの想定通りに事は運んでいる。
とはいえ、敵側もこの事態は想定通りみたいだけどね。
まったく、これだけの規模の多国籍軍が丸々捨て駒とは無茶をするわ。」
幼い外見ながら高齢の刑部狸であるウロブサは面白くなさそうな顔だ。
「教団内で価値の低い国や弱兵揃いの国を中心に組まれた第一陣。
無茶な人数の兵を要求した事で、案の定傭兵もかなりまざった構成じゃったな。
勇者も幾人かいたが、ほとんどが名もない成り立てのぺーぺーばっかりじゃったしな。
肝心のフェザーとやらも最初から亡命するき満々と・・・
うまく行き過ぎじゃな。どうにも面白くない。」
「まあね、捨て駒作戦はこっちも情報のリークで想定済み。
短期的に見れば人間一人で魔物一匹を釘付けに出来る捨て駒戦法はかなり有効だわ。
数で劣る上に人間を雑に扱えないこっちはどうしても人員が削られる。
だから今回の作戦にはほとんど若くて弱い魔物中心の打線で組んだわけだし。
増殖の早いスライムやローパー達中心なのもそのため。」
「イスナーニ様のいる場所はもとより、
今や第一陣の大量の捕虜とそれを捕獲する作戦に従事した魔物達、
両者はみんなしっぽりとしてますからね。
男日照りの王魔界で作戦が終わるまで我慢させるのも大変でした。
しょうがないことではありますが、彼女達はもう兵としてはしばらく使えません。」
「ふうむ、そういえば目の存在がやはり確認されたんじゃったのう。」
「ええ、各国捕虜の中に受信紋章を持っている者が幾人か紛れていたわ。」
「目ですか?」
「うむ、遠見の魔法は知っておるな? だが我らの使っているそれと比べ、
教団側のものはまだ技術的に未熟なのじゃ、
王魔界のような高濃度の魔力がただよっている場所では、
それがノイズとなり遠くの情景をうまく見ることが出来ん。」
「そこでその魔法を補助する役目の受信器となる魔術紋章を、
あらかじめ見たい場所において置くの。
そうすれば安全圏から王魔界のことや我々の戦法を見ることが出来る。」
「今回はその受信器となるものを特定の兵に持たせていたというわけですか。」
「さよう、第二陣の連中にはこちらの使った手は読まれていると考えてよいじゃろう。」
「成る程、捨て駒でこちらの数を削ると同時に手の内も探る。一石二鳥の作戦ですね。」
「まあそれはいいのよ、一応それに関してはこっちも織り込み済みだから。」
「ただのう、どうにもうまく行きすぎて踊らされている気配がな・・・
何か見落としていたかのう。メルシュ殿。」
「そうなのよねえ、何か奥歯に物が挟まったような感じなのよ。」
その時、部屋に待機して魔法で戦場の様子を監視している魔女の一人が声を上げた。
「メルシュ様。高魔力反応、次元震も観測されています。高位の空間魔法が行使されています。」
「位置は?」
「イスナーニ様のいる地点とこの魔王城を結ぶ場所の丁度中間辺りです。」
「浸透を許した?! 馬鹿な。」
「確認しました。この魔術波形、我々の物とは若干相違が見られますが、
間違いなく大規模なポータルです。開きます。」
作戦を立案し、指揮する魔物達の顔は一様に平静ではない。
「やられた・・・手段は解らないけど、魔王城の喉元に橋頭堡を築かれた。」
「むう、これ程の規模のポータル、事前準備が両サイドに無いと不可能じゃぞ。」
「しかも向こう側は兎も角、
こちら側の出入り口をつくる作業が今の今まで検知出来ないなんて。」
それまで黙って卓を囲んでいた男が初めて声を出した。
「・・・ふうむ、こう来たか。」
酷薄で怜悧な印象を与える線の細い男だ。縁の無い眼鏡をして白衣を羽織っている。
此処にいるということはインキュバスなのだろう。
そんな男にメルシュは語りかける。
「学士殿、もう敵の手が解ったのか? 貴殿は確かに次元や空間の魔法理論の第一人者だが。」
「ああ、簡単です。先ほどの遠見の魔法と原理は同じですよ。
あのポイントに向こう側で開けた口と強引に空間を繋ぐため、
受信器となる魔具が幾つか設置されてるはずです。
それなら七面倒な儀式はいりませんからすぐにポータルを設置できます。」
「ナハル殿、あの御仁は?」
「シャアル殿です。元は中立国の高名な学者様だったようです。
今はポローヴェに籍を移され国の発展に尽力されているとか。」
ウロブサとナハルをよそにメルシュはシャアルに食い下がっていた。
「馬鹿な、あの規模の長距離ポータルを一瞬で創るなんてあたし達にも容易くないわ。
そのような魔具を持ち込めばそちらが魔女達に発見されるはず。」
「そちらは専門外ですので確かな事はお答えしかねますが、儀式ギリギリまで封印を施すか、
魔力探知を無効化する何らかの方法があるのでしょうね。
何せ向こうには最上位クラスの神がついています。
こちらにとっても想定外の奇跡や技術が出て来ることも十分ありえますよ。」
嘆息したように言うシャアル、
その言い草は何処か他人事のようでメルシュを苛立たせる。
「しかし解せんの、教団側が移動手段として使っておるポータルはこちらが設置したもの。
それゆえ使えば敵の人数までばっちり解るようになってるはずじゃな?」
「ええ、その通りです。それは保証します。故に結論も一つです。」
「遠征軍とは別働で陸路で王魔界に潜入した者達がおるというわけか。」
「そう考えるのが自然でしょう。伏兵は魔力探知を無効化する術を持っている様子。
そして作戦のために王魔界は大部分が霧で包まれていました。」
「王魔界周辺の魔界や親魔物国家、これらは作戦のため住民にみな避難してもらっているわ。
確かに陸路でも邪魔されず見つからず侵入するのは容易な状態だった
でもそれを知っているのはあたし達だけ、向こうからしてみればあまりに無謀だわ。」
そこまで言ってメルシュとウロブサはぞっとした。
「全て読まれていた? 周囲を無人にすることも、霧を使った奇襲も・・・」
「それだけではないわえ、リークされた情報、これそのものが教団側の罠じゃった。」
「え? 情報源の方々が裏切ったと? それはありえませんよ。」
?マークを浮かべるナハルに対しシャアルがフォローを入れる。
「違いますよナハルさん。誰も嘘はついていない。それ故の罠です。
恐らく教団上層部は裏切り者がいること、そしてそれが誰か、
もしくは何処かすでに掴んでいるのです。
その上で、その裏切り者を通じて我々にポータル襲撃、
そして捨て駒作戦という詳細な真実をリークした。
だがリークした真実自体が、
この魔王城眼前にポータルを設置するという真の目的を隠すための布石だったのです。」
「うまい嘘つきは嘘をつかずに人を騙す。真実を語るが本当に隠したい真実だけ伏せる。
わしとしたことが化かし合いで遅れを取るとはのう。」
「真実に隠された真実か・・・兎も角、早急にみなを集めましょう。」
「そうじゃな。此処からは一手対応をミスると詰みかねん。」
静かだった対策本部はにわかに慌しくなっていった。
※※※
魔王城付近に開いたポータル
其処には精強な兵達と一人だけ冴えない見た目のパイプをふかす壮年の男がいた。
髪はぼさぼさで顎も不精した髭が中途半端な長さで不潔さを醸している。
頭をがりがりやってフケを撒き散らしながら男は眼前の巨城とその城下町を見据える。
「か〜〜聞いてた通りでっけえなあ。でかすぎて距離感狂うなあれ。
すげえ近くに見えるけど、まだだいぶあるよな此処から。」
周りの兵達はそれには応えず周囲への警戒を怠らない。
それに対し男は緊張感なさげに大きく欠伸をする。
「あ〜〜、無駄無駄。まだ気を入れるところじゃねえよ。
こっちは完璧に向こうさんの裏かいてっからね。
対応するにしてももうちょい掛かるはずよん。」
この男こそ遠征軍の軍師で魔王軍を手玉にとった存在。
聖棋士(チェック)の異名を取る男。ルアハル=ガースタである。
13/03/21 07:50更新 / 430
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