読切小説
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自警団員と盗賊と森のエルフ
今‥僕たちがいるのは、夜も遅く深い森の中。持っているランタンの光が闇を裂き、視界を照らしている。

事の始まりは、かれこれ一月前。僕たちが住んでいる街に、盗難の被害が多数届けられて、細かく調査していく内に‥盗賊団の存在が徐々に浮かび上がってきた。そして…数回の犯行をあえて見逃した上で後をつけて…この森を隠れ家にしている事が判明して、そこで自警団の僕たちに声が掛かり盗賊団を全員捕縛するために、ジリジリと包囲をしている訳で……

「そっちに行ったぞ!!」
大きく響く声に続いて闇夜に見える微かな影。近くにいた僕は全速力でその影を追い掛けて……途中で完全に見失い、それともここに誘われて‥待ち伏せ!?
判断とほぼ同時に剣の束に手を掛けて、周りを警戒する。
そして……いくら経っても何も起きない事に安心すると共に、1つの疑問‥いや大きな問題が安心した心を深く抉った。

がむしゃらに走っていたせいか、ここがどこだか分からない。それに‥仲間の位置も‥。
声を出せば仲間の位置も分かり、同時に連絡を取れるかも知れない。でも‥どこに潜んでいるか分からない盗賊に自分の位置を晒すことにも繋がりかねない。
結局。ランタンの灯りを消して、僕は声を出すことなく夜の森の中を彷徨い歩き……

闇夜に目が慣れきった頃。僅かに人影らしき物が見えて‥盗賊と瞬時に判断して警戒と共に、剣の束に手を伸ばした瞬間。
風を切る音が耳のすぐ近くを通り、そして背後から乾いた音が響いた。今のは多分、弓かナイフの類いだと思う。警告のつもりか、運良く外れたのか分からない。間髪をいれて乾いた音が響き、すぐ横の木に細長い棒状の物が刺さっている。形からこれは矢に違いない。相手はかなりの手練れで、そして‥僕よりも夜目が利くのは確かだ。
僕は反射的に木の影に身を隠した。その間に三射目がなかったのは幸運と思いたい。
弓と剣なら射程が違いすぎる。こうも不利な状況で挑んだとしても勝ち目が薄い。何も考えずに挑んだとしても、木の代わりに僕が的になるのは目に見えている。
なら‥ここは退くべき。でもどうやって?それにどこに退く?分の悪い状況の中。新たな疑問が浮かんできた。
的‥?一射目を顔ギリギリに狙ったのを警告ととらえるなら、ニ射目はなぜ?それに相手が盗賊なら外す理由もなく、一射目で僕の命を絶つことが出来た筈だ。
疑問から確信へ‥答えを得るために、足音を‥落ち葉を踏んでいる音は聞こえてこない。なら‥相手は動いていなければ、回り込んでもいない。結論を出して、急いでランタンに火を付けた。そして‥僅かに木の影から覗かせて……そこには張りつめた表情のまま、弓弦を引き絞り僕に狙いを定めている女性‥外見的特徴からエルフと目が合うと同時に、盗賊ではなかった事に安心感を覚えた。

その凛としている佇まいに、狙われている事を忘れて、
「きれいだ‥」
思わず声を漏らしてしまった。弓よりも顔に目が惹き付けられて‥少し見惚れていたと思う。そして‥
「敵意が無いことを証明する。だから射らないでほしい」
盗賊が住みかにしている森の中で、道に迷ったと言っても素直に信じてはくれないと思う。僕だって立場が逆なら、同じことをしている。だから‥両手を上げたまま、木の影から身体を出して、剣を抜かず鞘に入れたままエルフの方へと投げた。
「これで僕に武器は無い。だから……」
服装から判断するに僕が追っていた盗賊が、エルフの背後から今にも斬りかかろうと、剣を振り上げているのが見えた。
「後ろ!!」
叫ぶと同時に身を乗り出し、エルフの方へ走った刹那、左腕を射られた。エルフは悪くない。寧ろ当然の反応だと思う。直後、後ろの気配に気がついたのか振り返り、表情が徐々に恐怖に染まっていくのが見える。
「早く逃げろ!!」
足が竦んでいるのか動く気配が全くない。このままだと命が危ない。そう感じ取った瞬間。僕からは見えているもの全て、流れている時間がゆっくりになっていくのを感じていき、そして…エルフに体当たりをして、攻撃から躱す事が出来た。でも‥盗賊の剣が僕の右肩に深々と刺さり、鈍い音が聞こえる。
僕は自警団の一員だ。エルフ1人守れなくて何が自警団だ!!怒りにも似た感情を爆発させた。殆ど動かす事が出来ない右腕の拳を思いっきり握りしめ、心の底から沸き起こる感情を乗せて盗賊の鳩尾に力一杯拳をめり込ませた。

独特の鈍い感触の後、盗賊は僕に力なく身体を預けてくるも、支えるだけの力は既に無く、一緒に地面に伏せた。
終わった‥。守りきれた安心感からゆっくりと目を閉じていった。



フカフカな寝床。僕は目を覚まして、丸太で出来た知らない天井が見ている。寝惚けた目を無意識に擦ろうとして途端に激痛が襲い、目が覚めてくると共に呻き声が、記憶が鮮明になっていく‥。そして、誰かの足音が‥近付いてくる音が聞こえる。

「傷はまだ完治していない筈だ。だから今は安静にしているべきだ」
声の主はあのエルフ。はじめて聞いた声に高圧的な言い方。それに‥聞いてみたかった声。
「ありがとう」
「感謝をするのは私の方だ」
エルフは優しい顔で僕の手を取って、首を2〜3回振った。
「人間というのは、例え同族でも争いを起こす蛮族。愚かだからこそ、関わりをもたないように隔たり壁を作るべきと教えられ、事実、私も疑うこと無く信じていた。だが‥お前は私に無抵抗を示した上で、矢を射られても尚、命を救おうと懸命になっていた。私の認識を改めたのはお前だ。そうでなければ私の家まで運び、傷の手当てをしなかっただろう」
不意に僕から顔を背けて立ち上がり、背中を向けた。
「左腕。済まなかったな。あと‥お前は恐らく両腕は傷が完治するまで、まともに動かせないだろう‥。だ、だからな‥。お前が生活に不自由しないように、こ‥この私がめ、め、め‥め……面倒をみ、見る。………。だ、だからな‥。食事も口まで運ぶのも普通で‥それに……それに……」
改めて自分の両腕を見て、微かに手や指を動かす度にズキズキと痛みが広がっていく。
「ありがとう助かるよ。それに‥僕もその…。初めて見た時からこうして話をしたいって思ってたから‥」
「な‥何をバカな事を言っている」
先よりも高い声。
「そ‥それに、命の事も含めて、お前がわ‥私の事を綺麗と言った事が本当に、本当に嬉しかったんだ…。それに‥償いだけではなく…」
横顔から見るに口だけが動いて、何を言っているか全く分からない声。でも……
そこでエルフも僕も会話が止まり、黙り続けて僕は1つの事を‥追っていた盗賊の事を思い出してエルフに聞いた。
「そいつなら、何も抵抗が出来ないように、外の木に縛りつけてある」
安心と共に僕の事に盗賊の事。それに僕を探しているかも知れない仲間の事を話した。
「そうか‥。お前にもお前の生活があって…街へ帰ってしまうのか?」
エルフの悲しい顔に返す言葉を失い、そして……再び僕に背中を向けて、
「つい先に‥不自由なお前の身体の面倒を見ると言った。恩人のお前に嘘を吐くわけにもいかない。だから‥だから‥私はお前について行く。例え人間が多い街の中でも構わない」
振り返ったエルフの顔は、初めて見たときと同じ凛とした表情で僕を見ている。
「ありがとう。そういえば‥まだ自己紹介が‥。僕は……」
ベッドから身体を起こし名前を名乗ると同時に手を出して、エルフも名前を名乗ってから僕の手を取って、彼女の肩を借りて一緒に家から出た。
12/10/15 22:13更新 / ジョワイユーズ

■作者メッセージ
「そういえば…夜遅くに森で何をしていたの?」

「ああ。その事か‥。最近、集落の近くで人が彷徨くようになったからな。だから自衛を兼ねて、私があの辺を陣取っていたのだ」

「そこに僕と盗賊が来た訳ですか」

「しかし‥私の放った矢が巡り巡って、私の心を直撃するとは思わなかったな…」

「今の‥小さくて聞き辛かったのですが‥」

「気にするな大した事ではない」

「なら‥なぜ顔が赤k………」

「済まない。そういえば両手が使えなかった事を忘れていた。お前こそ顔から木にぶつかって顔が赤いぞ」

「…………」


エルフさんの「高慢」を「傲慢」と素で読み間違えてしまい‥高圧的な物言いとなってしまい、「強気」もありますから、これはこれでと…
ツンとかデレよりは‥照れ隠しのようなイメージです。

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