連載小説
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天使と悪魔の生活!
「結構な金額になったね……」
「ああ……正直ボクここまで高値になるとは思わなかったよ……まだ心臓がバクバク言ってる……」

あれから私とモーリンは近くの街まで向かい、そこにあったポータルを使ってモーリンの住む街『レプレシャス』に着いた私達は、早速換金所に宝を持って行ってみた。
どうやらその換金所はよくモーリンが使っているらしく、鑑定をしている刑部狸とも顔なじみになっている。

「これ……下手すれば老後まで一切働かなくて豪勢な暮らしをしていける金額だよね……」
「いやまあそこまではないかと……いや、かなり質素な使い方ならいけるかも……どちらにしても当分は遊んで暮らせるな……」

そんな顔馴染みの刑部狸が鑑定してる途中で恐ろしいものを見たかの表情で私達の方を見るから何事かと思ったら……やっぱり宝石は本物だったようで、今まで見た事のない程の大金が手に入ってしまった。
金額を聞いた瞬間、あまりもの大きな額に脱帽していた私……そんな私はともかくモーリンはこれくらい慣れてるんじゃないかなと思って横を見たら、私と同じくあわあわと震えていた。
どうやら少し高い宝は今までにも何度か手に入れた事はあった様だが、ここまで高額の物がこんなに沢山手に入ったのは初めてだったらしい。
まああそこまでの危険を乗り越えたのだからこれぐらいと思わなくもないが……モーリン曰く「それでもお釣りがたんまりとくるレベル」らしい……金額が大き過ぎる為感覚がイマイチわからない。

「それでさ、分け前についてだけど……」
「えっと、帰ってからにしない?こんなところでそんな話してると強盗に遭うかもしれないし……」
「そんな奴この街には居ないと思うけどね。まあ金額が金額なだけに慎重になったほうがいいか」

とりあえず今そのお金は宝を入れてきた袋の中にジャラジャラと音を立てながら入っている。
その袋を落としたり盗られたりしないように警戒しながら、私達はモーリンの家を目指していた。

「しかし……さっきから視線が気になるなぁ……もしかして袋の中身がばれてる?」
「いや、まあボクがトレジャーハンターだって知られてるしそれもあるだろうけど多分セレナの事見てるんじゃないかな?」
「え?」

その道中、どうもいろんな人に見られている気がした。
いったいどうしたのかと思っていたら、どうやら私の事を見ているらしい。

「ほら、ここ親魔物領で、しかも明緑魔界なんだぜ?そこを魔物化してないエンジェルが、ボクというサキュバスと仲良さそうに歩いてるのは珍しいと思うよ?」
「あー……それもそうか」

言われてみれば魔力侵食がほとんど起こって無いエンジェルが魔界にいるのは珍事な気もする。
まあそれなら仕方ないが……流石に視線が多すぎて気にしてしまう。
私は見世物じゃないんだけどな……

「というかここ魔界だったんだね。どうりでさっきから甘ったるいしやけに魔力を感じたわけか……」
「あれ?もしかして嫌だった?」
「ううん。ただ慣れるまで時間がかかりそうだなと……特にまたお宝を探しに行くんだし、そう簡単には慣れないかなと」
「はは、たしかにそうかもね。次の準備が終わり次第出発予定だよ!」

慣れるという事はつまり魔物化してしまうという事だから、嫌と言えば嫌なのかもしれない。
でも、モーリンと一緒に過ごすのならいつかは魔物になってしまうのだろう……まあ人間と違って私のようなエンジェルが魔物化しても見た目に大きな変化は無いからそこまで気にする事は無いだろう。
魔物化どころか堕落神の手先になってしまっても外見はカラーチェンジするだけだしね。
内面の変化は……今わかるわけじゃないからひとまず置いておく事にする。

「次はどこに行くの?」
「そうだね……宝がありそうな場所は今のところ4か所……海、魔界のダンジョン、森、氷山とあるけど……まずは海に眠る秘宝から狙ってみようかなって思ってる」
「海か……初めて行くな……海に眠るって事は海中に行くって事?」
「いや……どうだろう?まあそうかもしれないかな?」
「?」
「よくわかって無いって顔してるね……まあ詳しくは家に帰って夕飯を食べながらにするよ」

次の宝探しは海に行くつもりらしい。私は生まれてこのかた海に行った事無いのでワクワクする。
ちなみに、大金が手に入ったのにまた宝を探すのかと思う人もいるかもしれないけど……私達の目的は宝探しそのものであって、宝はおまけの要素なのだ。
実際今回手に入ったお金も、いくらかは次の宝探しの資金になる予定である。

「はい到着っと。ここがボクの家だよ」
「……たしかに一人で暮らすには大きいわね……」

しばらく歩いているうちにモーリンの家に着いたようだ。
目の前にある家は、1階しかない為他の家と比べたら小さめではあるものの、一般的な一人暮らしの家というよりは一世帯が持つ家のような大きさなので、たしかに一人で暮らすには十分すぎる大きさだった。

「はいどうぞ。中は散らかっているけど気にしないでね」
「うん。というかそんなに散らかって無いと思う……事も無いかな?なんか紙が散らばってるね」
「ははは……これは秘宝の情報や手掛かりの解明用に集めた資料の山さ。一応それでも関連毎に分けてあるんだぜ?」
「まあ本人がわかってるならいいけど……」

中に入ると、思っていた以上に普通だった。
サキュバスだからもっとエロアイテムが転がってたりとか、トレジャーハンターだから冒険アイテムが転がってたりしたと思ったけど……特に変わった物は見当たらず、いろんな図や文字が書かれた紙が散乱しているぐらいだった。
キッチンもあるし、大きなベッドもあるし、クローゼットも普通にあるという至って普通の家だった。

「荷物は一旦どこか適当に置いといて。ベッドは一つしかないから一緒に寝る事になるけどいいよね?」
「まあ……これだけ大きければ困らないかと……というかなんで一人暮らしなのにこんなに大きなベッドを?」
「そんなの将来旦那をゲットしたときに一緒に寝る為じゃん。まあ今のところ気にいった相手なんて居ないけどね」
「なるほど……」

とりあえず持っていた荷物をベッドの縁に下ろし、私は大きなベッドの上に座った。
私とモーリンが一緒に並んで寝てもまだ余裕があるベッド……こんな大きなベッドで寝ても寂しいだけなのにと思ったら、将来を見越しての事だった。
気が早すぎる気もしないでもないが、今回は好都合だ。

「じゃあボクはちょっと2時間程出掛けてくるけど、お腹空いたらなんか適当に冷蔵ボックスの中に入ってる食材食べてていいからね」
「ちょっと待った。今からどこか行くの?」
「うん。ちょっと栄養補給にね♪」
「……」

部屋をキョロキョロと見渡していたら、荷物を投げ出し着ていた上着を脱ぎ捨てた後再びどこかに出掛けようとしたモーリン。
私を置いてどこに行くのかと尋ねたらそう言われた……サキュバス的な栄養補給とはつまりそういう事なんだろう。

「やっぱモーリンも人々を襲って堕落させる存在なんだね……卑猥……」
「そんな冷たい目をしないでよ……仕方ないじゃん、さっき遺跡でほとんど魔力使っちゃったし、翼も怪我して上手く飛べないから治癒力上げる為にも精を補給しないとさ。普通の食べ物でももちろん大丈夫だけど、こういう時は精液をいっぱい子宮に注いで貰わないとね」
「子供を作る神聖な行為を簡単な気持ちで淫らにしてほしくない……って思ってるうちは私は純粋なエンジェルなんだろうな……まあサキュバスはそういう生き物だってわかってるからいいけど、さっさと行って戻ってきなさいよ?」
「わかった。まあ適当にくつろいでてよ。シャワーとかも使ってていいからね」

そう言って家を出て行ったモーリン。
半分下着姿のような状態で出て行ったが、目的が目的だし問題は無いのだろう。

「……ちょっと家が広いせいで寂しいな……」

たしかに一人でこの家にいると少し寂しく感じる……自分以外の気配と音が無いのが大きいのだろう。

「はぁ……まあ、まずはシャワーでも浴びて、なんか適当にご飯を作るか……」

今現在さほど空腹でもないので、私はまずシャワーを浴びることにした。
シャワールームの場所は聞いてなかったが適当に部屋を開ければあるだろう。

私は散乱した紙を踏まないようにしながら、着替えを持ってシャワーを浴びに行った……



…………



………



……







「ただいま……あれ?なんかいい匂いが……」
「あ、おかえりー。そろそろ帰ってくるかなと思って一応二人分作っておいたよ。いらなかった?」
「あーうん。どっちでも良かったけどセレナが作ってくれたなら食べるよ」

モーリンが出て行ってから3時間近く経過して、夕飯を作り終えたタイミングでモーリンが帰ってきた。ちょっと青臭いからみっちり搾って来たのだろう。流石淫魔。
私がシャワーを長々と浴びた後、疲れていたので1時間程ベッドの上でただ寝転がっていたため結構な時間が経っていた。
お腹空いたなと思った時には既にモーリンが出て行ってから2時間近く経っていたので、材料を見ながら二人分作るかと思って作ったのだ。

「これは……ハンバーグ?」
「そうだよ。味付けて捏ねて焼くだけだし簡単に出来るなと思ってね。作ってる途中でモーリンは主食を食べに行ったようなものだからいらないんじゃないかなと思ったけど結局作っちゃった」
「まあある意味食べたけど……てか口内射精もされてるから実際食べたけど……でもいい匂いを嗅いだらお腹空いてきちゃったから食べるよ。精もあまり好みじゃなかったからお口直しも兼ねてね」

何があるかなと見てみたら、挽肉やタマネギがあったので、簡単に作れるハンバーグを作った。
言う程料理が得意なわけではないが、簡単な料理なら出来るので味が悪かったりはしないはずだ。

「では食べますか」
「そうだね。いただきます!」
「……なにそれ?魔物流のお祈り?」
「ううん、ジパング流。食材になった動植物への感謝を簡単に表してから食べるんだよ。神に感謝するより直接的だなと思って聞いた時から使ってるんだ。長々とお祈りして料理が冷めるなんて心配も無いしね」
「へぇ……それはいいかも。たしかにこの食材達は主神様や他の神自身ではないもんね」
「そうそう。だからいただきます!」
「いただきます!」

机に二人分の料理を運んで食べ始めた私達。
ナイフで切った切り口から肉汁が溢れだす……自画自賛だが、とても美味しそうだ。

「もぐもぐ……美味い!セレナって料理上手なんだな!!」
「そ、そう?別にたいした事無いものしか作れないよ?」
「充分だって。ボクだってそんなに上手じゃないもん。たまに自炊するけどそんなに美味く出来ないし、場合によってはこれより相当酷いもん」

一口サイズに切って口に運ぶ……お肉の風味とジューシーさ、タマネギの甘みが口に広がる。
もぐもぐと咀嚼していたらモーリンが凄い勢いで美味しいと言ってきた。
ちょっと大袈裟じゃないかな?って雰囲気を醸しつつ……内心凄く嬉しかった。

「そうそう、ちょっと気になってた事聞いて良い?」
「いいよ。さっきの海の中に潜るとか潜らないとかの事?」
「それもだけどまた別の事。モーリン自身の事かな?」
「ボクの事?」

二人で食事を進めながら、私はこの家でシャワーを浴びたり寝転がっている時に思った事を聞いてみる事にした。

「モーリンってさ、サキュバスにしては男の子みたいな喋り方するよね?一人称もボクだしさ」
「まあね。でも別にボクはアルプじゃないよ。正真正銘生まれたときの性別は女で、種族も今はれっきとしたサキュバスだよ」
「あ、そうなの?てっきり実はアルプなんじゃないかと思ったよ」
「違うよ!」

最初に会った時から思ってたけど、モーリンはどうも男らしいところがある。
身体はどう見ても艶々のスタイルの良い女性のものだが、言動や行動が男の子っぽかったのでもしかしたら元男性のアルプかと思ったが……笑って否定された。

「ん?今は?」
「まあ……元人間なのは当たってるけどさ」
「えっ!?そうなの!?」
「うん。別に他のサキュバスに襲われたわけじゃないよ。あるダンジョンのお宝を取ろうとしたときにヘマして罠に掛かってね……それが魔物の魔力を対象に浴びさせるものだったんだよ。あっという間にボクはレッサーサキュバスへと変わっていたわけ」
「あれま……」

ただ元々人間だった部分は正解だったらしい。
モーリンはどこからどう見ても今はサキュバス……言われてもそう信じられなかった。

「後悔してたりは?」
「ぜんっぜんしてないよ!魔術も強力なものが扱えるようになったし、飛べるようになったから機動力も上がったし、そもそもの体力も向上したし、魔物化系のトラップが今後永久的に無効化出来るしでメリットばかりだもん!」
「なるほど……トレジャーハンターとしてはむしろ魔物化はご褒美だったと……」
「まあそうなるかな。ワーシープみたいに眠気が出たりおおなめくじみたいに動きが緩慢なものやアルラウネやマタンゴみたいに移動自体が困難なものなら諦めるしかなかったけど、サキュバスなら困るどころか助けになっちゃってる感じだね」

本人がさほど後悔してなさそうだったので聞いてみたが、たしかにそう考えるとトレジャーハンターとしては良かったのかもしれない。

「それで肝心の部分の答えは?」
「ああ……ボク実は幼い頃に母さんを亡くしていてね。ずっと父さんが一人で育ててたんだよ。でも父さんも男兄弟の中で育ったから女の子の育て方なんてわからなかったからね……気付いたら男っぽい女の子が完成されてたってわけさ」
「まあ……なんてよくありそうでない話……」
「はは、なんだよそれ!ま、つまり男の子っぽいのは元からってわけ。それで冒険とかに憧れて、今の職業がトレジャーハンターになってるってわけさ」
「なるほど……謎は全て解けた気がする……」
「ちなみに父さんももう既に亡くなってるよ。まあ魔物になったボクをみたらビックリしちゃうだろうから逆に良かったかもね」
「ああ……もしかして反魔物領出身なの?」
「そういう事。だからセレナにも魔物は悪い存在じゃないって教えたいところもあるんだ」
「そこはまあ……ぼちぼちかな……少なくともモーリンを悪とは思ってない事は言っておくよ」
「はは、そりゃどうも」

そして男の手によって男らしく育てられた結果男の子っぽくなったらしい……
まあわからなくもないけど……男の子っぽいサキュバスって大丈夫……か。実際性行為してきたわけだし。

「そういえば……その……性行為をしてきた相手って……」
「ああ、反魔物領に住んでる辛気臭い顔してた人間。残念ながら相性があまり良くなかったから大好きにはならなかったよ。今頃夢だと思って寝てるんじゃないかな?まあ魔物の味を知ってしまったら最後魔物としか満足にデキないと思うけどね」
「うわぁ……好きでも無い人とするなんて不潔だな……」
「はは、まあね。でもボク初めてなんて魔物化したばかりでボーっとしているうちにそこらにいた男性襲って……ってやつだから今更気にもならないんだ」
「あらま……それはそれでちょっと悲しいわね……」

こんな感じに食事をしながら軽い話をしていたが、そろそろ重要な話に入ろうと思う。

「ところで、あのお金どうするの?」

まずは手に入った多大なお金についてだ。
このまま床に置いておくわけにもいかないだろうし、どうするつもりなのかを聞いてみた。

「ああ、そうだね。半分ほどは次の旅の資金にするから、残り半分の内7割はセレナが持ってっていいよ」
「え?半分以上私?なんで?」

とりあえず半分は次の冒険の資金にする……たしかに海に行くとなるといろいろと準備は必要だろう。
そして残り半分の内7割は私が持ってけというモーリン……私は最後に少し手伝っただけなのでむしろ逆だと思うのだが……

「まあ元が大きい金額だから3割でも充分過ぎるし、それにセレナはこれから新生活始めるわけだから余計お金掛かるだろ?それとセレナがいなかったら手に入らなかったお宝だし、素直に受け取ってよ」
「はぁ……まあそれでモーリンが良いと言うのなら……」

たしかに私かモーリン一人ではあの部屋からの脱出は不可能だった。
そう考えれば私がいたおかげで宝は手に入ったし、それにモーリンの言う通り着替えや私用の生活用品とかを買うとなるとお金は掛かる。
モーリンの申し出を無碍にするのも失礼だなと思い、私は素直に7割も貰う事にした。

「ふう、ごちそうさま。食器はボクが洗っておくよ」
「いいよ、私がやっておくからモーリンはシャワー浴びてきたら?」
「んー……もしかして臭う?しかめっ面してるし……」
「別にそういう意味で言ったわけじゃないけど……正直に言うとちょっと青臭い……あまりいい臭いとは言えないわね……」

お金の相談が終わると同時に食べ終わったので、私は食器を片付けた。
これからモーリンの家にお世話になるわけだからこれぐらいはしないとね。



………



……







「今日はあと何処に行くの?」
「んーとね、次は海に行くって言ったよね?だから水着を買いに行こうかと」

次の日の朝、私はモーリンと一緒にレプレシャスを歩きまわっていた。
寝る時ちょっと刺激が強かったせいで中々眠れなかったもので寝不足だが、いきなり遠くに出掛けているわけではないので支障は無い。
次の冒険に出掛けるのは予定では1ヶ月後との事。それまでに解けそうな謎を解いたり必要なものをこの街や近辺の街で揃えておいて、冒険の準備を完璧にしておくらしい。
特に今回はモーリンの翼の治癒待ちもある。本人曰く精を定期的に得れば1ヶ月もあれば余裕で完治するとの事。

「じゃあやっぱり潜るの?」
「いや、そこまでは潜らない……そんな事も無いかな?実は次向かうところは海にある洞窟の予定なのさ」
「へぇ〜。じゃあ濡れてもいいように水着を?」
「そういう事。あ、ここは美味しいサンドイッチが売ってるお店ね!帰りに買って行こうか!」

昨日来たばかりの街だからどこに何があるかわからないので、目的地に向かう途中で街案内もしてもらっていた。
今日は最低限私が生活するのに必要なものと、次の冒険に必要なものを買っていた。
まずは歯ブラシなど身の回りを整える為の道具を買ったので、次は冒険にも必要なものを買いに行く。

「それでここが呉服屋。水着も普段着もここで買う予定だよ。水着は準備資金から出すけど普段着は自分でお願いね」
「もちろんそのつもりだから」

という事で、次はどちらも手に入る街の呉服屋にやってきたのだ。

「いらっしゃいませ!」
「店員さん、水着ってあるよね?」
「もちろんありますよ。奥に進んで5つ目の棚を曲がったところにあります。私に着いて来て下さい」
「ありがとう!」

中に入ると、店員のゴブリンが私達を案内してくれた。
キョロキョロしながら着いて行っていたが……このお店には様々な服が売られていた。
ふわふわとしたドレスから大事な場所以外を隠す気のないもう服と呼んでいいのかわからない物まで……というか、むしろそういうのが多い印象はあるが、一応露出が控えめなものも売っているようだ。

「水着のデザインはこちらにあるものが全てです。サイズはバフォ様サイズからミノタウロスサイズまでなんでも揃っているので気軽に言って下さいね」
「はい、ありがとね。じゃあそれぞれ好きなもの選ぼうか」
「うん」

そして目的の水着だが……これ紐じゃないかと思えるものから全身を覆い隠すものまで幅広く取り扱われていた。

「ボクは……この黒いビキニのにしようかな?」
「大胆だね……」
「まあね。一応上着は羽織るつもりだしいいかなってね。セレナはこれにする?」
「それサハギンの鱗だよね?たしかに胸のサイズ的にはピッタリだけどもっと可愛いのにするわ」

とりあえず私は露出目的の水着は避けて、ある程度布面積が多い水着から選ぶ。
少なくともモーリンが選んだようなマイクロビキニは選択肢に無かった。
どれにしようかなと一つ一つ見ていたが、ある水着に眼が止まった。

「これにしようかな……」
「お?純白の水着か。まあセレナっぽいしいいんじゃないかな?ちょっとスカート部分が長い気もするけどね」
「いやこれぐらいでしょ。どれだけ露出したいのよ……」

真っ白なワンピースドレス型の水着を手に取った私。
今着ている服と似ている部分もあり、なによりお腹を露出してないので気にいった。
申しわけない程度だが小さなポケットも付いてるので小さなものはこのポケットにも入れられるし、機能的にもいい物だろう。

「お決まりですか?」
「はい。それとこのエンジェルの子用に普段着や寝間着も買いたいんだけど……」
「それでしたらこちらへ。魔物化してないエンジェルなら露出は控えめのほうがよろしいと思いますがそれでよろしいでしょうか?」
「お願いします!少なくとも今あなたが着ているようなお臍が丸出しなのはやめてもらいたいです」
「そう言うと思いました。ではこちらの中からお選びください」

水着は1着で良いし決まったので、次は私の普段着を選ぶ事にした。

「うーん……この緑色のと花のワンポイントが付いているのとどっちにしようかな……」
「両方買っちゃえば?今同じの2着しか持ってないだろ?女の子ならいっぱい持ってないと!」
「まあたしかにお金はいっぱいあるしいいかな……それとこの部分的に水玉模様が付いたパーカーもいいかも……」
「これなんかどう?黄色に青でジパングの文字が描かれてるシャツだけど……」
「ん〜……まあ買っておこうかな。そうだ下着も買わないと……モーリンの微妙にサイズ合ってないし借りられないからね」
「下着はこちらにありますよ。アラクネである店長お手製なので着心地最高ですよ」



あれやこれやと、デザインや肌触りなんかを考慮しながら、悩みに悩んで……



「ありがとうございましたー!またお越し下さい!!」
「うん!また買いにくるよ!」

結局私は6着の服と3着のスカートと3着のズボン、それと下着各種をいくつか購入した。
結構な荷物になってしまったが、まだまだ買うものは多いし戻ると余計時間掛かるのでそのまま他の店に向かう事にした。

「ふぁ〜……」
「眠そうだね。昨日眠れなかった?」
「あんな事しておいてよく言えるよね……」
「ああ……ごめんな。いつもは抱き枕があったんだけど、丁度この前ボロボロになっちゃったから捨ててそのままだったんだよ」

昨日の夜は本当に大変だった。
枕はクッションを代わりに使ったけど、ベッドはキングサイズの物が一つしかない為一緒に寝たのだが……横になってうとうとしていたら突然モーリンに抱きつかれたのだ。
何事かと思ってモーリンの顔を見たら、なんとも気持ちよさそうに寝ていたのであった。
抜け出そうにも痛くない程度ではあるものの強めの力でギュッと抱きつかれているので身動きが取れず、起こすのも悪いと思ってそのままでいたのだが……いかんせん落ち着かなくて中々眠れなかったのだ。
モーリンの温もりが心地良かったし、なんかいい匂いもするし、おもわずこちらから触りたくもなるし……おそらくサキュバスとしての能力が滲みだしており、私を軽い興奮状態にしていたのだ。
そんな中で眠れるわけもなく……一応疲れていたから眠りに就く事は出来たものの、満足に眠れなかった。

「昔からどうしても何かに抱きついてないとぐっすり眠れない癖が付いちゃってさ〜」
「なんでそんなところは女の子っぽいのよ……じゃあ抱き枕も買いに行く?」
「え……セレナが抱き枕になってくれるならいらないよ」
「よし買いに行こう!抱き枕があっても邪魔にならないだろうしね!」
「ちぇ……なんかいつも以上に安心して眠れたからボク的には良かったのに……」

そう言われても、私がいつも以上に寝れないので素直に抱き枕を買ってもらおう。
どうせ今から枕を買いに行くのだし、その時に一緒に買えばいいだろう。

「はいはい馬鹿言ってないでちゃっちゃと買い物終わらせてお昼にしようよ。さっきのパン屋でサンドイッチ買うんでしょ?」
「そうそう!あそこのサンドイッチは美味しいんだよ!ジパング人だって美味しいって言ってたからね!」
「へぇ……ジパング人ってパンはあまり食べないイメージだけど、そんなジパング人でも美味しいって言うのなら期待は高いわね……」

買い物袋や翼を揺らし、仲良くお喋りをしながら、私達は街中を歩いていったのだった。
13/05/19 17:57更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
今回は共同生活が始まった二人の様子と今後(特に次回)への伏線回。
本来は4千字程しかなかったシーンでしたが、前回に組み込んでもキリが良くないし、次回に組み込むと文字数が多くなる(いつもの事ですが)ので、おもに後半部分を足す事に。
そして次回からいろんな場所の宝探しに出掛けます。

という事で、次回は海の洞窟を探検!洞窟への入り方は、そして洞窟に待ちうけているものとは!?の予定。

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