連載小説
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天使と悪魔と海の洞窟!
「う〜ん……潮の香りがこう海って感じがするね!」
「まあ実際海の上だからね。初めて見たけど凄く綺麗だね〜」

私とモーリンが出会ってから1ヶ月が経過した。
最初こそ見慣れない魔物の姿に戸惑ったし、レプレシャスに住む魔物も堕落していない天使…つまり私の姿に少々疑問を感じていたのだが、流石にお互い慣れたようで、結構隣人さんたちとも仲良くなっていた。
ただまあお隣から昼夜問わず喘ぎ声が聞こえるのは流石にまだ慣れないけどね……

「ねえ見てモーリン!あんなところに鮮やかな青色の大きな魚が!!」
「あーあれはマーメイドだよセレナ。ゆっくりと泳いでるんじゃないかな」
「そっか。海は魔物の巣窟だからいっぱいいるもんね。セイレーンやシースライムもさっきからたまに見るもんね」

そして今、私達は海の上にいた。正確に言えば船の上にいる。
何しに来たのかと言うと、もちろん海に眠るお宝を探しに来たのだ。そう、私達はお宝が眠ると言われている洞窟に向かって船旅をしてる最中なのだ。
モーリンは何度か海を見た事あるそうで、呑気に海を眺めているだけだが……私は初めての海に身を乗り出してはしゃいでいた。

「お二人さん気を付けなよ!落ちても保証しないぞ?」
「はーい!」
「それは困るな。結構高い金払ってるんだからそこら辺の保証もしてよ」
「はは、冗談さ。もちろん落ちたらそこの浮き輪か女房が助けてやるさ!」

私達が向かう場所は普通の船は近付かない場所にある。
だから私達は港町に住む個人で小型船を持っている人に頼んで目的地まで運んでもらっていた。
ちなみに船の運転手だが、ネレイスの奥さんと結婚済みなので途中で私達を置いて魔物に攫われる心配は一切無いという。
その奥さんは数百メートル前を泳いでいる。進路にカリュブディスや魔物がいないか確認するために優雅に泳いでいるのだ。

「洞窟着いたら潜る前にまずは泳ごうかな」
「あーそれもいいね!折角水着なんだし、まずは泳ぎたい!!」
「じゃあ決まり!1時間程周辺で遊んでから潜ろう!運転手さん、あの岩島の近くって泳いでも大丈夫ですよね?」
「よほど変なところで泳いでなければ大丈夫なはずだ!」

私達は広い海とまだ見ぬお宝にワクワクしながらクルージングを楽しんでいたのだった……



……………………



「それじゃあ緊急のときや帰りのときはその札に魔力を流してね。セックス中でなければすぐ迎えに来てあげるから」
「緊急の時はすぐ来てほしいのですが……まあいいや、わかりました。ありがとうございます」

船で海上を進む事2時間。私達は岩島と呼ばれる大きな岩の上に着いた。
本当に岩以外何もない所なので普通の船は座礁を恐れて近付く事は無い……実際私達を乗せてくれた船はここから少し離れた海の上で泊まっている。私達はそこから飛んでこの岩の上に立っているのだ。

「それじゃあ頑張ってお宝とやらを見つけてね!私も旦那も応援してるから!!」
「はい、ありがとうございます!」

ネレイスさんから魔術で処理してある呼び出し用の木の札を受け取り、私達はお礼を言って二人が帰って行くのを見送った。

「さてと、これは無くさないように防水バッグの中に入れておいてっと……それじゃあ近場で泳ごうか。セレナは泳げるの?」
「一応はね。海は見た事無いけど川で泳ぎの練習はしたからね。そうじゃなきゃもっと練習してるよ」
「それもそうか。よーし、じゃあまずはあそこのちょっと出てる岩まで競争だ!」
「臨むところよ!」

そして私達は、一先ず洞窟探検の事は忘れて海を堪能した。
二人で競争したりただ泳いだり、水中を泳ぐ魚の群れを見ていたりと、楽しい時間を過ごした。
ちなみに途中でふらふらと危なっかしく泳いでいたシービショップさんと会った。どうやら海で暮らしたい魔物夫婦の為に連日大忙しで休む暇がないとの事。
信仰する神こそ違うが、同じ神に仕える者としては人々を幸せにする為に日々頑張っているその姿に心を打たれたものだ……まあ私は既に主神を信仰してないけどね。別に堕落神も信仰してないけど。

「さてと、じゃあそろそろ洞窟の中に侵入しますか」
「そうだね……潜る前に聞いておくけど、この岩盤を壊して中に入るって言うのはナシ?」
「ナシに決まってるじゃんか!それが原因で変な罠が起動したらマズイし、海水が洞窟内に侵入してお宝が巻き物とか更なる宝の地図とかだったら台無しだよ?」
「ですよねー。いや、いささか不安だからさ『これ』……」

そんなシービショップさんも少し私達と話した事によって休憩になったようで、また新たな夫婦の為にと元気に旅立って行ったので、そろそろ洞窟に入ろうという事になった。
ちなみに目的の洞窟はこの岩島の内部だ。海底にある入口からしか侵入出来ないらしいし、内部がどうなっているのかは一切謎なのだ。
何故なら、まず入り口となる穴が海底深くにあって水棲の魔物ぐらいしかまともに入れないうえ、その穴を通った後海面に上がると断崖絶壁になっていて水棲系の魔物には登れないので奥まで行ったものが居ないからだ。
こんな侵入しにくい洞窟が自然に出来たとは考えにくい……実際過去の文献に昔ここらに海賊のアジトがあったと書かれていたものがあったので、おそらくこの岩島こそが当時の海賊のアジトだろう。
そうすると何かしらのお宝があるかもしれないわけだ……もちろん侵入者撃退用のトラップもあるだろう。
そもそもそんなところに本当にアジトなんてあるのか、というか海賊自身も入る事が出来ないのではないのかと思ったが、どうやらその海賊の船員にバフォメット並の魔術の達人がいたらしく、そいつがなんとかしていたのだろう。

「まあまあサバトの力を信じなさいって」
「いやでもさ……レプレシャスのサバト長のバフォメットってドジで天然じゃんか……なんか怖いんだけど……」
「まあそう疑いたくなるのもわかるけどさ、ボクは今まで何度も彼女のサバトの発明品にお世話になってるからね。実際この防水バッグだってきちんと機能しているだろ?たしかにトップは天然でドジだけどこれらの品の数々はきちんとしてるってボクが保証するよ」
「まあモーリンがそこまで言うなら……じゃあ使ってみようか、この『バブルスーツ』とやらをね……」

という事で、まずは入口から内部に入らなければ話は始まらない。
断崖絶壁のほうは私達なら自分の翼で飛べばいいだけだから困らないけど、問題は洞窟内への侵入方法だった。
かなり深い位置に穴はあるらしいので、流石に素潜りでは息が持たない。
そもそもたとえ息を持たせる方法があったとしても、それだけでは水圧とかいう水に掛かる圧で身体が無事じゃ済まないかもしれないらしい。
それは人間での話なので人間じゃない私達ならある程度は大丈夫かもしれないが、絶対大丈夫という保証は無かった。
だから私達は水中でも動ける方法を探し、見つけたのがこのバブルスーツだった。
これはレプレシャスにあるサバトが独自開発した水中散歩用防護服で、全身に透明な膜を張り空気を提供、水圧もろもろから身を守ってくれるものだ。
それを買いに行った時に見たサバトの長のバフォメットの天然っぷりを見たら使い物になるのかとても心配になるが……モーリン曰くよくあのサバトの商品は使っておりその効果は抜群だったと言うからとりあえずこれを使う事にしたのだった。

「じゃあ水に入るよ!」
「う、うん……」

バブルスーツを身に着けて、おそるおそる水の中に入ってみた。

「……おお!息が出来る!!」
「だろ?言ったじゃないか発明品はきちんとしてるって」
「そのようだね……魔女達が頑張ってるんだろうな〜」
「はは……本人が聞いたら泣いちゃいそうだ……」

そして大きく口を開けて思いっきり息を吸ってみたが……きちんと呼吸出来た。それどころか会話もきちんと聞こえる。
浮力が働くし足で蹴れば進むから少し違うものの、空中とほぼ変わらない感覚で動くことが出来そうだ。
たしかに品はしっかりしているようだ。品自体は信用していいのかもしれない。

「それじゃあ入口を目指そう。大体の位置は予め聞いてあるからこの面にあるってのはわかってるけど、はっきりとはわからないから地道に探していくよ」
「オッケー。これでも眼はいいからね。大きな穴なら見落とさないわよ」

安全面は大丈夫そうなので、私達はゆっくりと海の底へ進んで行くのであった。

「んー、なかなかそれらしきものは見えないな……」
「なんだか魔物の姿を見る事が無くなったし、魚もさっきまで見なかったちょっと怖い感じのしか見なくなってきたね……」
「セレナ?探す気ある?」
「も、もちろん!ただちょっと珍しいものに眼が行ってただけだよ」
「ならいいけど……さっきからキョロキョロしてるから見落とすかもしれないなって思ってさ」
「ゴメンね。なんせ海なんて初めてだから……」
「ボクも潜るのは初めてだしその気持ちはわかるさ。でも一瞬の不注意が一生の大事故に繋がる可能性もあるから気を付けるんだよ」
「それそのままそっくり返していい?」
「……うん……」

壁面にあるという穴を探す私達。
でもなかなか現れないのと、時々近くを通ってくる深海魚を珍しさに見てしまうので集中力が途切れそうだ。
それはモーリンも同じようで、私に注意しながらも結局目線は深海魚の方を向いていた。

「もう結構潜ったよな……セレナの発光魔術で照らされてる部分以外は暗くてまったく見えないしさ」
「多分……あまりにも静かなうえに暗いせいで自分達が何分間どれだけの距離を潜っているのかすらわからないけど、デコボコした壁のおかげで潜っているのだけはわかるから助かるわね……」

海上から見た海の姿は、穏やかな波に太陽の光が反射してとても綺麗で、水棲系の魔物や魚の群れが気持ちよさそうに泳いでいるとても穏やかな場所だった。
でも……深海ではまったくの逆で、暗く静かな空間で……隣にモーリンがいなければとてつもない孤独感が襲ってくる怖い空間だ。

「……なんか知らないけど怖くなってきた……」
「私も……でも頑張ろうよ。きっともうじき見えてくるはずだからさ……」
「そうだな……よし!気合入れていくか!!」
「そうね!その先のお宝求めて全速全身!」

黙っていると無性に恐怖が迫ってくるので、話をなるべく絶やさないようにしながら潜って行くと……

「あっ!?穴ってこれじゃない?」
「きっとそうだ!よし、早速侵入だ!!」

壁の一部に、ぽっかりと空いた穴が見えた。
おそらく文献に載っていた穴はこれの事だろう……たしかに穴は上方向に繋がっているようだったので、早速私達は穴の中に入り、今度は海中を上昇し始めた。

「まだ海面に着かないかな……」
「どれぐらい潜ってたかわからないけど、潜ってた分だけ上がる事になるからもう少し掛かるかな……灯りは絶やさないでくれよ?」
「わかってるよ!でも早く昇ろうよ。なんか深海怖いし早く地面に足を着けたいもん!」
「たしかに。じゃあ全速力だ!!」

ぐんぐんと勢いをつけて上昇する私達。私もモーリンもそれだけ早く地面を見たいのだろう。もう暗い中を浮いているのはこりごりだ。

「あっ!なんか光が反射してる!!」
「あれが海面だ!一気に飛び出すぞ!!」
「うん!せーの、それえっ!!」

そして数分間昇り続けた後、ついに私達は海の中から飛び出した。
外ではないが、久々にバブルスーツから供給されるもの以外の空気に触れて嬉しいだなんてなんだか新鮮な気分だ。
そのままの勢いで断崖絶壁を飛び続け……そして……

「あ、天井が見えてきた!」
「あそこに横穴があるね。あっちに入ってみるよ!」

その断崖絶壁も終わりを迎え、とうとう私達は念願の地面に足を付けたのだった。

「ふぅ〜……なんかこの硬い岩の感触が安心する〜」
「たしかにそうだね。ちょっと休憩してから先にいこうか。軽食用のサンドイッチ食べる?」
「そうだね。お腹も少し空いたし、ここらで補給しておかないとね」

そのまま地面にへたり込む私達。
入口だからか罠らしきものも見当たらないので、奥に行くのは休憩してからにする事にした。
まあ休憩と言っても発光魔術を止める気は無い。止めたら真っ暗になって休憩どころじゃなくなるからね。
だから私は魔術を施行しながら防水鞄からサンドイッチを取り出して食べる。卵サンドの塩辛さが体力を回復してくれてる気がする。

「ふぅ……しっかしここは本当にアジトだったみたいだね」
「えっなんでわかるの?」
「ほらあそこ……もう使えないだろうけど大きなランプの残骸があるじゃん。通路の奥にも小さなランプが続いてそうだしさ」

たしかに入口を照らす形で大きなランプが4つ並んでいたし、通路には等間隔でそれより二回り小さいランプが並べられていた。

「じゃあここに財宝が眠っているかもしれないって事?」
「まあね。ここをアジトにしていた海賊が持ち運んで何もない可能性もあるけど、その時はその時で洞窟探検が楽しかったと考えればいいし、とりあえず食べ終わったら奥に進んでみようよ」
「そうだね。じゃあまずはサンドイッチを食べちゃおう」

岩島の大きさがレプレシャスの半分程あった事から考えると結構広そうだ。
この広い空間を無事に探検するためにもしっかりと体力を回復させておく事にした。

「それにしても不思議ね……なんで入口が海中にある洞窟内なのに空気があるんだろ?」
「多分だけど通気口がどこかにあるんじゃないかな?もちろん空気以外が入れないようになってるだろうけどね」
「なるほど……」

まあそうでなければこんなところをアジトになんか出来ないだろう。
岩島の周りにはいくつか突出した岩があったし、案外あれが岩にカモフラージュされた通気口だったりして。

「それじゃあそろそろ奥に進んで行こうか」
「そうだね……ランプに灯り点けられないかな……」
「ランプ自体がボロボロだから無理だろうね。セレナの光が頼りだから頑張ってね」
「わかった。あまり視界よくないけどこれが長時間保つためには限界の大きさだから、より注意して進むわよ」

食事も済ましたし、ある程度体力も回復したので私達は奥に進む事にした。

「一応罠らしきものはなさそうね……」
「どうだろう……わかりやすい罠は罠じゃないからね。岩陰に隠れて毒矢が仕掛けられてたりするかもよ?」
「それもそうか……こんなところで死んだら骨になってもここで閉じ込められ続けるだろうし、それだけは避けないとね……」
「たしかに。ここで緊急信号をネレイスさんに送っても助けにこれないもんな……」

ゴツゴツとした岩の中を進む私達……何があってもおかしくないが、今のところは何も起こらない。

「……ん?何か段々広くなってない?」
「たしかにそうだね……広い場所にでも出るのかな……」

特に何かが起きる前に入口から続く通路が終わりそうになった。
罠らしいものは特になかったのだが……元からないのか、それとも長い間ほったらかしにされてたせいで正常に起動しなかったのか……どちらにせよここまではスイスイと進む事が出来た。
なんだか拍子抜けだなと思いながら、私達は広場に足を踏み入れた。

「さて……ここは?」
「多分……リビングみたいな場所じゃないかな?もう風化しきってるけど、この木箱はおそらく椅子代わりだったんじゃないかな?」

そこは、中央が四角く腰辺りまで膨らんでる以外は古い何かが散乱しているだけの広場だった。
もはや形を留めて無い木箱や、元は斧や弓らしき錆の塊があちこちに転がっている。

「流石にこんなところに罠は仕掛けられてないよね?」
「まあ無いだろうな。自分達の生活空間に仕掛けるのは嫌だろうしね」
「だよね……」

所々海図らしきものもあるが、拾おうとしたら崩れてしまった程風化している。
まあこんな湿気が強いところに長年放置されていたら状態を保つなんて不可能だろう……枕らしきものもあったが、中の綿はチリチリになっているし、ここにはまともなものは何一つないだろう。

「うーん……これじゃあお宝も期待できないかな……」
「どうだろう……まだこの洞窟は奥がありそうだからね……ほら、沢山分かれ道があるし……」
「え?あ、ホントだ……」

ちょっとがっかりした気分で机っぽくなっている岩の上に座っていたら、モーリンがそう言った。
たしかに広場の奥には更に奥へ続く穴が6つ、それも途中で階段になって上に上がれそうな場所にも更に4つの計10か所もの奥に続く穴があったのだ。

「このうちのどれかが宝物庫に続いてる可能性もあるな……」
「でもいくつかは罠が仕掛けられてそうね……多分自分達の家で自分達は把握出来てるだろうから目印も無さそうだけど……」
「でも一つ一つ地道に調べるしかないね……一番近いところから行ってみるかい?」
「そうね……」

という事で、一番近くの穴から奥に向かってみる事にした。

「さーて、何が出るかなっと」
「何も出ないといいけど……ってあれ?行き止まり?」

罠なのか、それとも宝物庫に繋がっているのかと足を進めていたら、そう時間が経たないうちにちょっと広い空間に出た。
しかしそこから他の場所に繋がりそうな場所は無かった……ハズレだろうか?

「うーん……隠し扉とかあるかもしれないけど……」
「あ、なんか箱があるよ!」
「本当かい?ちょっと開けてみる?」

本当に何もないのかと思って辺りを見回してみると……ボロボロになった布の山の中に小さな木箱があった。
さっき見たものと比べたらしっかりと箱の形を保っており、持ち上げてみたけど崩れる事は無かった。
振ってみると何かが箱の中で転がってる音がした……だから箱の蓋を、何かが飛び出してきてもいいように誰も居ない方向に向けてから開けてみた。

「別に何かが飛び出したりはしないようだね」
「だね……これは……?」

開けてみたが特に何かが起こるわけでもなかったので、とりあえず箱の中身を確認してみたら……絵が入るペンダントらしきものが入っていた。
ちょっと錆ついていたが、さほど苦労する事無く蓋を開けてみたら……

「人間の女性……?」
「みたいだね……誰の絵なんだろこれ……」

そこには、とてもこのボロボロの物が散乱している空間には似合わない程綺麗な絵が入っていた。
ほんの少し魔力を感じるので、おそらく保存魔術でも掛けられていたのだろう……その魔力の影響で箱もペンダントも比較的綺麗だったのかもしれない。
その絵は、微笑みながら座っている金髪の女性が描かれていた……見た感じでは人間女性のようだ。

「これはボクのもの凄く根拠のない妄想だけどさ……もしかして海賊の中にこの女性の恋人がいる人がいたんじゃないかな。それで、大事に取ってあったけど何かがあって持ち主に忘れ去られたものだったりとか……」
「かもね……外で新たなアジトを見つけここに帰って来なかったか、それとも帰ってこれなかった何かしらの理由があるか……」

ここをアジトに使っていた海賊団の結末はわかっていない。
そこそこ名を馳せた海賊だってのは資料の中にいくつか書かれていたが……最後どうなったのかはどこにも書かれていなかった。
もしかしたら私達が調べていない資料の中には書かれていたかもしれないが、少なくとも私達は知らない。

「どうする?確実に故人の私物だけど持っておく?」
「そうだね……この女性が何者かとか、このペンダントの持ち主は誰だったのかとか、帰ってから調べるのもいいかもね……」

一先ずペンダントをポケットにしまってから、私達は広場の方に戻る事にしたのだった。



…………



………



……







「さて……昨日入ってみた6か所とも特にお宝らしきものはないし、むしろボロボロになった布があったからおそらく寝室だったと思うけど……残りも行ってみる?」
「ここまできたら行ってみようよ。全部1階だから寝室だっただけかもしれないしね」

ペンダントを拾った後、下の階にあった残り5か所の穴の中も進んでみた。
途中でロープが張ってあったり、何かを模ってる石造なんかがあったりしたけど、どの部屋も最初の部屋と同じような作りをしており、ボロボロの布が散乱しているだけだった。
この事からおそらく今まで入った穴は全部海賊達の寝室だったと考えられるわけだ。

「ところでセレナ、今日も寝不足だなんて事は……」
「それがぐっすり眠れたのよね。自分でもびっくりしてる程にね」
「じゃあこれからはセレナを抱き枕にして「家なら自分用の抱き枕があるでしょ?」……はい……」

結局収穫は謎のペンダントだけで、無駄に疲れてしまったので、私達は持ってきた食糧を食べた後広場の中央で寝る事にした。
そのまま岩の上で寝ると身体が痛いので、そこらにあったボロボロの布をかき集めて布団がわりにして寝たのだった……匂いは気になったが、その上に持ってきていた毛布も引いたし、岩に直接寝たわけではないのでそこそこ疲れはとれたようだ。
濡れていた水着も時間の経過とともに乾き、寝る頃には既に水分は無く軽かったので、余計な重りにはならなかったのも幸いした。
そして寝る時に何かを抱いていないと眠れないというモーリンに今日も抱き枕にされたのだが……たまに家にある抱き枕をふっ飛ばして私を抱いて来ていたので慣れてしまったのか、特に気にする事無く私も眠る事が出来た。とは言っても今後も抱き枕になる気は一切無い。

「それじゃあいよいよ2階部分の穴を調べてみるか……一番左から行くよ」
「ええ……」

気を引き締め直し、私達は残りの穴も調べ始めたのだった。

「ここは……明らかに今までと違うね……」
「左右に小さな穴だらけか……どうも不自然ね……」

まずは一つ目の穴だが……入って少し歩いた途端、今までとはまったく違うと実感させられた。
今まではただ岩壁が続き、数分歩いたところで開けた場所に出ていたのだが……今回は狭い通路に無数の小さな穴が規則的に開いていた。どう見ても怪しい。

「ちょっと下がっててね……それ!」

何かが穴から出てくる可能性もあるので、モーリンが近くに落ちていた石を投げてみた。

「……!?」
「石が消え……いや、違う……石が壁に吸い寄せられた?」

綺麗な放物線を描きながら穴の横を通ろうとした瞬間、急に石が目の前から消えた。
どこに行ったのかと思ってキョロキョロと探してみたら、なんと壁に張り付いていた。

「これは……矢?いや針かな……」
「なるほど……という事はここを通ろうとしたら針で串刺しになるって事か……」

よく見てみると、少し太めの針が石を貫通して壁に刺さっていた。
硬い石を貫通して壁に刺さる程の威力だ……身体に当たったら一溜まりもないだろう。
とうとう出てきた罠らしき罠……怖くなるどころか、少しワクワクしてきた。

「さて、どうする?戻って他の所も見てみるかい?」
「そうね……でも罠があるって事はこの奥に何か大切なものがあるって事じゃないかな?きっとこの先に行く方法が何かある筈よ。それを探してみようよ」
「そうだね。集中して壁の繋ぎ目とかも見てみようか。隠し通路とかあるかもよ?」

とりあえずここから先には通れそうもない。
一瞬なら足辺りを犠牲に凄い速さで通り抜ける事もできるだろうが、光を照らして見るとこの先50メートルは続いているので通り抜けている間に串刺しになっているだろう。
でもここに罠があるという事はこの先に何かがあると言っているようなものだ……その何かを置いたり無事かを確認するためにも何か安全に奥に行く方法があるはずだ。

「じゃあ次は隣の穴を……これは……」
「ここは……あまり踏み込んでいい光景じゃないな……」

だから一旦戻って、隣の穴を見てみたのだが……そこには棺桶だと思われる縦長の箱がいくつもあった。
誰かに荒らされたのか、それとも自然の力で蓋がずれたのか中が確認できたが……そこにはボロボロになった白骨死体が眠っているだけだった。
おそらく死んだ仲間達の供養場所だったのだろう……その中で空の棺桶があったのも気になったが、誰かが寝かせられる前に入る人が居なくなっただけだろうと思い気にしない事にした。

「彼の者達の来世が、不幸無き事を……」

祈りを捧げた後、私達は静かに外に出て更に隣の穴に入る事にした。

「今度は……なんか豪華な部屋みたいだな……」
「たしかに……これも一応お宝みたいなものだよね……」

次の穴の奥は、下の6つと同じように寝室みたいになっていた。
しかし他と違って棚やベッド、机らしきものがあり、さらに所々には銀で出来た皿やコップが転がっていた。

「もしかしてここは船長の部屋だったのかもな」
「あー。ならここまで豪華でも不思議じゃないわね……」

落ちている銀の食器を一応鞄に仕舞いながら、あの罠を突破出来そうなものが無いか探してみた。
でも結局見つけられたのは謎の笛だけだった……これでは針なんか防ぐ事は出来無さそうだが、これだけやたら綺麗だったので何かあるかと思ってとりあえず回収しておいた。

「さて、最後の穴は……」
「ここも寝室みたい……でも誰のだろ?」

そして、残った最後の穴を進んでみたのだが……結局ここも誰かの寝室みたいだった。
さっきの船長室と同じく個室みたいだが、そっちと違って銀の食器などは無くそこまで豪華さは無かった。
そのかわり、やたら長い棒や割れた水晶なんかが転がっていた。

「もしかして海賊団にいた魔術師の部屋じゃないかな?」
「あっそうか!じゃあこれ魔道具か!」

モーリンに言われて思い出したが、たしかにこの海賊にはバフォメット並の魔術師がいたのだった。
今思えばあの針が飛び出す罠もその魔術師が作ったものかもしれない……という事は、ここにあの罠を抜ける事が出来る物があるかもしれないので隈なく探す事にした。

「うーん……魔術書みたいなものはあるけどそれらしき物はないなぁ……そっちは?」
「うーん、こっちも特には……いや待った。何か変な物があったよ」
「変な物?」

二人別々に本棚や机の中を探しまわっていたら、モーリンが何か見つけたみたいだ。

「ほらこれ……」
「何この球体……ボタンが付いてるけど……とりあえず押してみる?」

それは透明な球体にボタンが一つだけ付いているものだが、魔力が帯びていた。
これは何かあると思い、警戒しながらもボタンを押して見た。

「うわっ!?」
「これは……結界?」

そしたら、私達を囲うように周りに結界が発生した。
試しにもう一度押してみたら結界が消えた……もしかしたらこれで針を防げるのかもしれない。

「それじゃあ……やってみるよ」
「うん……駄目だった時はその時だ!」

という事で、結界を張ったまま先程の針が出る罠まで来てみた。
これで防げるかはわからないが、やってみないと何も解決しないので進んでみた。

「ふあっ!おおっ!!」
「防いでる!」

私達が穴の横に来た瞬間打ち出されるいくつもの針。
でも、張ってある結界が全てを防いでくれた……これなら無事に進めそうだ。

「よし!針地帯を抜けたぞ!」
「この奥は何があるんだろうね……」

無事に穴が無い場所まで辿り着いたので、また結界を解除してから更に奥に進む私達。
あれだけ大掛かりな罠だったのだからもう罠は無いんじゃないかと思っていた。


しかし、それは間違いだった。


「ちょっとずつ上の方に向かって登ってるな……」
「そうだね……螺旋状になってるような……ん?今何か物音がしなかった?」
「え?物音って……たしかにす……る…………!?」

針の罠を抜けた後、しばらく道なりに進んでいただけだったが……突然何かが擦れる音が聞こえてきた。
一体何の音なんだと警戒してみたら……音は上から聞こえてきたので、明かりを上に向けたら……

「な、なんだあれ!?」
「虫……いや、違う……何!?」

私達に狙いを済ませた『何か』が、天井を這い摺り回っていた。
私達が気付くと同時に降ってきた何か……巨大な蛆のようにも見えるが、普通の生物とは思えなかった。

「ぎゃああああああ気持ち悪いいいいい!!」
「旧時代のサンドウォームみたいだけど……多分違うな……よっと!」
「うわあああああ溶けてるうううう!!」
「落ち着きなよセレナ!」
「あ、うん……ありがと」

そのぶよぶよとした生物?は私達に向けて紫色の液体を吐き付けてきた。
嫌な予感しかしなかったので咄嗟に避けたが……なんと液体が当たった場所がジュワジュワと音を立てながら溶け始めた。
その様子を見て思わず叫び始めた私……モーリンがガシッと肩を叩いてくれたおかげでなんとか落ち着けたが、とりあえずこのぶよぶよをどうにかしないといけない事に変わりは無い。

「とりあえず……『ハートボム』!」
「……駄目、全く効いてないみたい……特殊な魔力の膜が張ってあるみたい……」
「クソ……じゃあこの結界で……結界が溶けている……だと……!?」

攻撃してみたり、相手の攻撃を先程の結界で防いでみたりしているが……どちらも効果は無かった。
なんとかしないと、何か今の手持ちでなんとかする手立てはないかととりあえず鞄を見てみたら……先程拾った魔力を帯びている笛が鞄から出てきた。

「あ……ねえこの笛……」
「これって……物は試しだ!とりあえず弾いてみるよ!」

さっきの罠は魔術師の部屋にあった魔力を帯びているものでどうにかなった……なら今度もそうなのではないかと思い、モーリンに渡して弾いてもらった。

「♪〜〜……」
「……あれ?ぶよぶよがどこかに去っていく……」

どうやら正解だったようで、笛の音が辺りに響いた瞬間ぶよぶよは私達を狙うのを止め、壁の中に溶け込んで行った。どうやら魔術で創り出された生物だったようだ。
おそらく二重に仕掛けておいて、船長と魔術師二人の物が無いと進めないようにしておいたのだろう……
それはともかく、いつまたさっきのぶよぶよが出てくるかわからないので、とりあえず笛を演奏したまま奥に進む。

「♪〜〜〜……もういいかな?」
「……良さそうだよ。ぶよぶよが出てくる気配もないしね」
「よかった……もう罠は無いよね?これ以外に罠を回避できそうな物は見つかってないし……」
「そうだといいけど……」

ある程度奥に進んだところで演奏をやめたが、そのまま特に何かが出てくる事無く奥に向かう私達。

「……あれ?ちょっと発光止めるよ……」
「……先がちょっと明るいね……この先に光源でもあるのかな?」
「どうだろ……あるにしてもどうして点いてるのかわからないけど……とりあえず進むしかないね……」

しばらく進むと、私は何もしてないのに見える範囲が広がった気がした。
もしやと思い魔術を止めてみたら、やはり思った通り、この通路の先から少しだけ明かりが漏れていた。
もしや最新部かと思って、その明かりの洩れている場所まで駆け足で向かった。

「ここは……」
「宝物庫かな……見張り番付きのね」
「見張り……だね……」

そこは、最初の広場と同じ位広い空間だった。
周りには崩れた棚と、黄金で出来た数々の装飾品が転がっていた。
部屋の大きさと比べると量は少なく思えるが、それでも全部本物だとして、売り捌いたら相当なものになるだろう量の黄金だった。
でも、タダで持ち帰る事は出来無さそうだ。

「ダレ……?ホカノゾク?」
「ボク達はトレジャーハンター。海賊では無いよ」
「トレジャーハンター?ハンター……テキ……」

その部屋の中心には、明かりを灯す巨大なランプがあった。巨大だったからか、それとも宝物庫という特殊な場所だったからか、この時代でも明かりを灯しているようだ。
そしてそのランプの前には……虚ろな表情をこちらに向けたスケルトンが立ち塞がっていた。
細い骨だけの右手には大きな刀が装備されている……誰がどう考えても番人だろう。
もしかしたらここの海賊団の死体が動き出した亡霊かもしれないが……そんな事を考えてる余裕はなさそうだ。

「テキ……コロス……ワタシ、タカラ、マモル……!」

敵意をむき出しにして、スケルトンはその姿に似合わないような機敏な動きで私達に襲いかかってきたのだから。

「来た!セレナは右に!ボクは左から行くよ!」
「了解!とりあえず武器を奪って無力化するわ!!」

スケルトンはアンデッドだ……バラバラにする事は出来ても、動きを止め切る事は出来ないだろう。
骨ごと完全に消滅させれば話は別だが、今の私に魔物を殺すなんて考えは出来なかった。
だからとりあえず武器を奪って無力化し、持ってきていたロープで縛り動けなくする事にした。

「シンニュウシャ……コロス……タカラ……マモル……」
「くっこの!スケルトンなのに素早過ぎでしょ!」

二手に分かれたので一瞬どちらを狙うか迷ったようだが、一回軽く頷いた後私に狙いを絞ってきた。
素早く振り下ろされる刀をギリギリでかわし続ける……が、相手は私を殺しに掛かってきているからかわすので精一杯で、刀を飛ばすだなんてとてもじゃないが出来そうにない。

……まあそれは相手が生身ならばの話だ。

「くらえ!『シャドウスライサー』!」
「コロ……アレ?」
「ナイスモーリン!」

私に集中しているスケルトンの右腕を、後ろからモーリンが自身の影を鋭利な剣にして切り裂いた。
人間や他の魔物相手では恐ろしい状況だが、スケルトンはすぐ元に戻るので安心だ。

「ふう……じゃあさっそく縛って……」
「だね……はっ!?危ないセレナ!!」
「え……きゃあっ!!」

とりあえず武器は奪えたので早速縛ろうと鞄の中からロープを取り出そうとしたら、何かに気付いたモーリンが危ないと叫んだ。
ハッと顔をあげてみたら……左手で自身の右手を持って私に切り掛かってくるスケルトンの姿があった。
驚くと同時に転んだためなんとか身体は斬られずに済んだが、水着のポケットが裂かれてしまった。
ポケットから転がり落ちていくペンダント……しかしそんなものを気にする余裕は無く、転んだところから早く起き上がろうと必死になっていた。
何故なら、転んだら相手の攻撃を避けようがないからだ。次振り下ろされたら致命傷は避けられないかもしれなかった。

「……」
「……あれ?」
「なんだ……?」

しかし、その次の攻撃が振り下ろされる事はなかった。
スケルトンは腕を振り上げたまま、ある一点をジッと見ているだけだった。

「……ディア……ディア!」

それは……先程私のポケットから転がり落ちたペンダントだった。
落ちた衝撃で蓋が開いたようで、綺麗な女性の絵がハッキリと見えており、スケルトンはその絵をジッと見ながら何かを呟いていた。

「ディア……」
「ディアって……もしかしてその女性の名前?それにそのペンダント……あなたの?」
「ああ……」

そして、ペンダントを拾い上げて、大切そうに抱え始めた。
もしやと思い聞いてみたら、ハッキリと反応を返してくれた。

「これ、どこにあった?」
「ここに来る途中にあった小部屋に大切そうに保管されていたよ。あんたは海賊の一人か?」
「ああ。ワタシはパーズ。キニス海賊団の船員の一人だった」

さっきまでと違い流暢に言葉を紡ぐスケルトンのパーズ。
どうやらペンダントの女性の姿を見て正気に戻ったようだ。こんな事もあるのだろうか?

「この女性は?」
「ディア。ワタシの大切な親友で、将来共に暮らす事を誓った仲だ」
「なるほどね……」

そうは言っているが、本当はディアはパーズの婚約者だったのだろう。
スケルトンになった事によりパーズは元々自分が女だと思い込んでいる……そのせいで婚約者から親友に記憶が変わっているのだと思う。将来共に暮らすと言ってる事からそうだと考えた。

「だが、ワタシは死んでしまった。ガネン魔道士の奴がキニス船長を裏切り宝の大半を持ち去った挙句敵対していた海賊に攻められたせいでワタシ達は全滅。船長だけは生きていたようだったけど、ワタシ達を葬った後で息絶えただろう。何故かワタシだけこうして骨で動けるようになったから、ここで残されていた数少ない宝を護っていた。本当に護りたかったものを護れないから、その代わりとして」
「そうか……それは辛かったろうな……」

どうやらこの海賊にいた魔術師が裏切りを起こし他の海賊を招き入れたせいで海賊団は皆殺しにされ、宝の大半を奪われたらしい。
しかし、パーズだけはおそらくディアさんへの想いが強く残り、今の魔王の魔力がその想いに結びついてスケルトンになったのだろう……
でも、この海賊が活動していた時期からして、魔物になっていない限りはもう既にディアさんはこの世に居ない。
ディアさんを護れなかった代わりに、誰も来ない中宝を護り続け、いつしか正気を失っていたのだろう。

「それじゃあここにある宝は持っていけないね……ボク達はこのまま大人しく帰る事にするよ」
「いや、持って行ってくれ。これでワタシの役目も終えられる。安心して眠りに着くことが出来る」
「……そうですか……」

そんな宝に手は出せない……と思ってそのまま去っていこうと思ったが、持って行ってと言うパーズ。
安心して眠れる……つまりもう成仏したいという事だ……
悲しいが、本人の望みだ。叶えてあげるべきなのだろう……

「本当にいいのかい?」
「ディアも居ない。仲間も居ない。船長も居ない。仇も居ない。もう、生きている意味は無い」
「……わかった。じゃあボクらが持って行くよ……」

悲しい雰囲気の中、私達は宝を全て鞄に詰め、来た道を引き返そうとした。

「待った。そっちじゃない」

引き返そうとしたところでパーズに止められた。

「え?そっちじゃないって?」
「来た道戻ると入口の罠がいっぱい発動する。魔物でもきっと死ぬ」
「なるほど……トラップの数がやけに少ないと思ったら戻った時に発動するようになってたのか」

何もなかったと思いきや、どうやら帰り専用の罠が沢山仕掛けられていたようだ。
すんなり侵入して宝を手に入れた後、上機嫌で戻って行くところを狙う罠か……多分パーズに言われなければ私達も引っ掛かっていただろう。

「じゃあどうすればいいんだい?」
「ここの天井は外れる。外からは開けられないが中からなら力を入れれば開く。梯子は無いけど、二人なら飛べるから問題無い」
「へぇ……」

戻ったら死ぬ。ならば他に出口がある筈だ。
パーズに聞いてみたところどうやら宝物庫の天井が出口に繋がっているらしい。
飛んでみて天井を力いっぱい押してみると……結構力がいるが、たしかに浮き上がって光が漏れてきた。

「せーの!」
「ふんぬ〜!!」

それに気付いたモーリンも一緒に天井を押し上げる。
段々眩しくなっていく中、私達は必死に天井を押し上げ続け……

「外だ〜!!」
「ここは……岩島の中心か。ここから宝物庫まで一直線だったんだな」

急に抵抗が無くなって蓋が外れ、私達は外に出る事が出来た。
丁度お昼頃だったらしく、真上に浮かぶお日様が眩しい。

「さて、札を使ってあの二人を呼ぼうか」
「そうだね……それはセレナに任せるよ。ボクはパーズを拾い上げてくる。成仏するにしても、暗い洞窟じゃなくてお日様の下のほうが良いだろうしね」
「そうだね……じゃあよろしく」

パーズを地上に運ぶために再び洞窟内に戻ったモーリンを見送りながら札に魔力を流し込む。
これであの二人はすぐ迎えに来てくれるだろう。セックスさえしていなければの話だが。

「はぁ……なんかスッキリしないなぁ……」

できればパーズにも幸せになってもらいたいが……自分の好きだった相手がいないこの世の中じゃどれだけ経っても幸せになれないだろう……
ちょっとしんみりした気分になりつつ海を眺めながら、私は迎えを待ち続けたのであった。
13/05/26 21:42更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
以下おまけ↓

「じゃあねパーズ。ボク達は君の事を忘れないよ」
「それでは……来世に幸があるといいですね……」

アジトに来た天使と悪魔の二人によって無理矢理外に出されたワタシ。
成仏するにしても明るい場所が良いだろうと陸地まで小型船で運ばれた後、二人と別れた。
ワタシは自分の死に場所を探し、目立たないところまで足を運んだ。
仲間から一人取り残されたワタシは、誰の目にも触れられない場所で消える……そのほうがいいと思ったからだ。

「……」

人がそう来そうもない雑木林の中にあった大きな木の下に座りこんで、ワタシは消滅の時を待つ。
ボーっとしているうちに身体が熱く火照り始めた……消滅が近いのだろうか?
しかし、熱は魂というよりは別の場所から出ているような気がする……なんというか、下腹部?

「……ん……」

消える直前なのか走馬燈のようなものが頭の内に映し出される……
ワタシとディア、それにキニス船長が裸で互いに濃厚なキスをし合っていたり、互いの性器をぶつけ合って快感に染まったり、性器を舐めてもらってたり……って何だこの記憶は?

「ん……んひゅ……」

おかしい……たしかにディアと船長は知り合いだけど……こんな事はした事無いはずだ。
もし二人の間で行為が行われていたとしてもワタシは混ざってないはず……なんだこれは?

「ん……んんっ!」

気が付いたらワタシの細い指は、数少ない柔らかい場所である性器を弄っていた。
何故消滅の時を待っているはずのワタシは自慰なんてしているのだ?

「んはあっ!はぁ……はぁ……」

頭の中に勝手に流れる3人の痴態……勝手に動く指がもたらす快感に、ワタシはイッてしまった。

「あら?本当に魔物が居ましたわ。旦那様の言う通りですね」
「だろ?」
「へ……?」

イッた気持ち良さでぐったりしていたら、後ろから声が聞こえてきた。
振り向くと……そこには2本の角と黒い毛並みを持った人馬……バイコーンがいて……

「君は……随分姿は……というか性別すら違うが、もしかしてパーズか?」
「あ……あ……!!」

そのバイコーンの背には……ワタシの記憶の中の姿と変わらない……

「キニス……船長……!!」
「やっぱりパーズか。久しぶりだな。元気……なわけないか」

キニス船長が、ワタシに微笑みかけていた。

「なんで……どうして生きて……」
「お前達を埋葬した後なんとか外に脱出して、隠してあった小舟で波を漂っていてな。船が辿り着いた場所に丁度こいつがいたんだ」
「死に掛けていた旦那様を当時はユニコーンだった私の治癒魔術でどうにか命を繋ぎとめ、旦那様になってもらったのです」
「それでこいつとセックスし続けるうちにインキュバスになってな。数百年経った今でも変わらず生きているってわけだ。あの時はあの馬鹿にお前らの仇を討とうとしていたんだが、あいつも他の奴等に裏切られて死んだって事で、俺だけこうしてのうのうと生きていたんだよ」

あの後船長も死んだと思っていたけど一命を取り留めていて、このバイコーンに助けられたらしい。

「それで、お前が今日ここに来るって予感みたいなものがしたから見に行ったんだよ。そしたらお前がいたというわけだ」
「旦那様が急に変な事を言い始めるのでどうにかしたのかと思いましたが、実際にあなたが居ました。どうです?私達と共により深い愛を紡ぎませんか?」
「え……ワタシが……船長と……?」
「ああ。お前が良ければ、だがな。ディアの事もあるだろうし、断っても良いぞ」
「……一緒に、なりたい……」

そして今、ワタシの前に現れた船長。
今も頭に流れている妄想の後押しもあり、ワタシは断る事無く首を縦に振った。

「ふふ……またハーレムが二人も増えましたね」
「二人……?」
「あら?お気づきになりませんか?このスケルトンさん……パーズさんにはもう一人、とり憑いている女性が居ますよ?」
「……やっぱり……」

バイコーンの言葉に、ワタシはさほど驚く事は無かった。
ワタシに妄想を見せている時からそうじゃないかと思っていた。

「ワタシに、ディアが憑いてる」
「なんと!?それは本当か?ゴーストになったディアが居ると言うのか!?」
「ああ……」

ワタシと濃厚なキスをしている妄想のディアがワタシに笑いかけてきた。
やっと気付いたんだと言いたげに、涙を流しながらワタシに微笑んでいた。

「それなら早く実体化してやらないと!早速屋敷に帰ってシまくるぞ!」
「そうですね。他の人達には我慢してもらって、まずはこの二人に精を注いで差し上げましょう!」

ワタシをひょいと持ち上げ、一緒にバイコーンの上に乗った船長。

ワタシは、一人じゃなかった。
ワタシに、生きる意味が出来た。

これからの生活に心躍らせながら、ワタシを暗闇から引っ張り出してくれた二人に感謝するのだった。

以上おまけ終わり↑

今回は海にある洞窟探検の話でした。
結構長かったですが、おそらくこの話が最長になると思います……それだけ書きやすかったのでw
ちなみにおまけは連載にする際に追加した部分です。彼女は結局成仏せずに数百年の孤独を埋め幸せに暮らします。

次回は魔界にあるダンジョン攻略!様々な罠に二人は苦戦して……の予定。

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