読切小説
[TOP]
雷が届くまで後何秒?
「3秒!」

雨がザァザァと降る放課後の渡り廊下、稲光が見えたと同時に俺は右手に持ったストップウォッチをスタートさせて雷華に言った。

「5秒!」

雷華は自信満々に答える。

ストップウォッチは1秒、2秒と時を刻んでいく。3秒、4秒、そして5秒を刻んだと同時にゴロゴロと小さな雷鳴が聞こえた。

「やったね。ボクの勝ち! 雷牙は明日は購買でボクにお菓子を奢る事決定!」
「まだ最初の一回だろうが、奢るのは今回の勝ち数が少ないほうだろ。まだまだ俺にだってチャンスはいくらでもある」
「そうかなぁ? 雷獣であるボクに雷牙が勝つなんて後十年は早いと思うよ」

雷華は俺に対してからかうように、少しくすぐったい位の放電をする。

「それ、十年前にも聞いた」
「そうだっけ? だとしてもボクに勝つのはまだまだ早いって事で」

また、ピカリと空が光る。すぐにストップウォッチをスタート。

「4秒!」
「5秒!」

1秒、2秒、3秒、4秒をちょっと過ぎた所で雷鳴が聞こえてストップ。結果は4.33秒ぎりぎり俺の勝ち。

「あっれー? あと十年は早いんじゃなかったんですかねぇ?」
「こんなのまぐれだよ、まぐれ。偶然なんだから!」

だんだんと雷は近づいてくる、そのたびに勝ったり負けたり。勝敗は同じくらいに。
ストップウォッチを押す前に雷鳴が響いてしまうようになってしまったので賭けはいったん中断することに。

雷華は耳もピコピコと動かして、外を楽しそうに眺めている。

「ねぇ、雷牙。雷って綺麗だよね」
「ん、そうだな」
「ボクは好きだよ、雷って一瞬でも周りを輝かせるんだもん」
「……俺は雷よりも―――――が好きだ」

俺の言葉を遮る様に眩しい位の閃光が目をくらませ、同時に轟音が鳴り響いた。近くに雷が落ちたらしい。
雷華の方を見てみると顔を真っ赤にして恥ずかしがっている、でも尻尾は上機嫌に揺れていて……どうやら雷華にはあの轟音よりも俺の言葉の方が耳に届いていたようだ。

だから、俺はいつも通りにストップウォッチをスタートさせた。

「0秒」
「随分と近いんだね」
「雷華、お前の予想は?」

俺が聞くと雷華は抱きついてきて、唇と唇が触れた。甘い痺れが身体に伝わっていく。

「ボクも雷牙と同じ0秒♪」
「……両方合ってたな」
「そうだね、絶対に離してあげないんだから」

雷華が自分と俺の指を絡め合わせて手を繋ぐ。繋げた手から雷華の体温と電流が伝わってくる。

「また雷!! 綺麗だよね。なんかさ、ボクと雷牙の事を祝ってくれてるみたい」
「だったら雷鳴は拍手か?」
「それもいいね……あっ大事なこと言うの忘れてた!!」
「ん?」
「ボク『も』雷牙のことが好きだよ♥」

ストップウォッチは止めない。今までの雷の届くまでの時間じゃなく、二人の時間を計り始めたのだから。
15/10/01 04:05更新 / アンノウン

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33