読切小説
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故に第三部隊は堕ちた
――シャァン
さながら風が岩を摩擦するような音が、幾多の石を加工して作られた一室に響き渡る。竈、石炭、薪、そして様々な卑金属及び魔界銀が無造作に放り込まれた篭を背に、一人のサイクロプスは、形が仕上がりつつある一振りの剣――いや、一振りの刀を研いでいた。
一定のリズムで、徐々に雑音が消え澄んだ音が響く。視覚的には例えエルフでさえ捉えられない微細な凹凸を、彼女は絶妙な力加減で均していく。加工された魔界銀に魔力が何の障害もなく行き渡るように、何度も、何度も研磨し、形を整えていく。
剣としての強度と、切っ先の切れ味。それを両立させるため、彼女は材料を厳選し、自らの技量をすべてそれに叩き込んでいた。

――全ては、彼女の依頼主の期待に応えるために。

――――――

【報告書】

【聖都市ベリルレアの第三部隊が魔王軍第四部隊駐屯地の襲撃を実行。
結果、第三部隊は全滅。部隊長ラミレア含め行方不明。周辺には無数の武器や鎧が散逸していたことから、既に魔物と化している模様。
至急対策会議を開き、魔軍に対する防衛を強化されると共に、国民の戦意昂揚に努める必要あり……(後略)】

「部隊だと?奴らめ、いつの間に駐屯していたのだ。上級の魔物が一人で散策していたのなら兎も角、部隊規模で進軍していたとするならば、魔力探知に引っかからぬ筈がない。それに第三部隊は数日前より魔に堕ちた都市ヘクセンを侵攻していた筈ではなかったのか。装備が散逸した場所はその都市にすら届いていないではないか。
……まぁよい。誰が嘘吐きかという子細は兎も角、第三部隊の壊滅は事実だ。穴を塞ぎ、堅固なる物にせねばなるまい。兵士の育成プランも立て直しだな……」

――――――

【魔王城に持ち帰られた元人間(訛補正アリ)】

「……それは、あまりにも突然でした。私達は"サバトの支配する魔の都"ヘクセンを目指し進軍していたのですが、前方に明らかに魔の気配を纏った、重厚な鎧の剣士が、腰に剣をぶら下げて、胡座をかいて休んでいたのでした。
隊長としては此処で魔を打ち倒し、ヘクセンを攻める戦士の精神昂揚を狙ったのだと思われます。それに、こうも思ったのでしょう。高々魔物一匹に、五百の兵が負けるはずがない、と。
私?私は農民の出で今回の戦に急拵えで駆り出されただけですから、善し悪しなんて分かりません。
盾役として私達を配備し、魔導部隊による集中砲火。それが今回執られた戦略でした。上級の魔物と言えど、耐えきれるはずがない、との判断で行われたそれが崩れたのは、突如私達の間を走った、一筋の風――今思えば、あの時点で私達は人間でなくなっていたのでしょう。
チン、と金属が擦れる音が聞こえたとき、件の魔物は胡座ではなく、膝を曲げ、前のめりの姿勢で、腰に下げた剣の柄に手を沿えていたところでした。いえ、音から察するに、剣は既に抜かれ、そして納められていたのでしょう。
そのまま無防備に立ち上がると……その魔物はおもむろに私達の方に歩き始めたのでした。武器に手を沿えずに、何かを唄いながら。
唄、そうです。その魔物は唄っていたのです。ジパング語でジパングの物だと思われる特徴的な節回しで、朗々と唄っていたのです。

『――修羅の都の
血吸い衣の
伊達男――』

おかしい、と思い始めたのはこの頃でした。本来であれば既に完成しているはずの攻撃呪文、それが未だに完成せず詠唱が続いているのです。有り得ない事態に、私達は何故か股間に違和感を覚えつつ魔導部隊を振り返ると、魔導部隊は何かを堪えるように声を絞り出していました。既に顔には朱が差しており、体はガクガクと震えて……。
この様子では攻撃魔法の一つすら唱える事は難しいだろう、それが明らかに分かるほどの『異変』でした。事態を理解した上官が、撤退の号令を隊長に逆らい発しようとしましたが……。

『――鬼と見(まみ)えて
銀杯傾(かぶ)く――と』

「「――キャアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ♪♪♪♪♪」」

「と」の音が、聞こえるか聞こえないかのタイミングで……彼女らの絶叫と同時に魔導部隊の服を突き破って、背中から白い羽根が生えて……既にとろけた表情でギラギラと目を輝かせた彼女達は、魔導部隊の男性や私達一般兵士に襲いかかってきたのでした。
避けようとした者も中には居たようなのですが、私も含め大半は動くことすら出来なかったようでした。そのまま押し倒され、服を剥かれたとき、私の一物はこれまでの人生で一度も目にしたことが無いほどに、限界まで隆起していました。先程から感じる股間の違和感は、これでした。
「――ハァッ♪ハァッ♪アァ……せーし……せーしぃぃぃっ……♪」
既に我を忘れたように、身に纏う服を破り捨て盛りの付いた野獣と化した彼女達は、勢いのままに近くにいた男を押し倒し、剥き、そのまま護り貫いた処女を躊躇いもなく捧げていきました。
私も……今隣に居る彼女に処女を捧げられました。同時に、私の童貞も捧げました。
男を知らないはずのその陰部でしたが、何かを引きちぎるような音と同時に股間に走ったのは、強烈な密着感と沈み込むような柔軟性、そして生物の持つ熱に肉々しいまでの弾力性……それらが私の女を知らぬ陰茎から直に脳髄に叩き込まれたのでした。それを快感と認識する頃には、私の体は弾かれたように彼女に打ち付けられて――いえ、私が、彼女の体に腰を打ちつけていたのでした。
まだ一度として受け入れたことが無い筈の彼女の膣肉ですが、私が腰を打ちつけ深く深く掘り進んでいく事により、徐々にこなれてきた、と言いますか、私の一物の形に適合してきた、そんな結合感というか一体感を覚えていきました。そしてその段階が進む度に、彼女自身の感度が上がっているらしく、背を反らせて「もっと、もっとぉ♪♪」とせがむようになったのでした。腰に両足を巻き付け、体に打ち付けると共にきゅうう、と膣を一気に締め上げたのでした。
全身に優しさと独占欲に満ちた強烈な抱擁を受けているような、心地よさと窮屈さから感じる劇的な快感に、桃色に染まった私の脳は、すぐさま陰茎に精を放つべしと促しておりました。何故か既に蓄えられた――今思えば既に魔物化していたのでしょう――精液は、脳からの命令に忠実に従った陰茎がずっくずっくと蠢き、放水されるような勢いで彼女の膣の奥、子宮に向けて雪崩れ込むように放たれたのでした。
絶頂の雄叫びと共に、彼女もまた分泌される粘っこい液体を私の体に向けて噴出したのですが、その香りが――若干私自身の異様に濃縮された精液によりイカ臭かった部分もあったのですが――私にとって最高級の香水よりも芳しく、最高級の葡萄酒よりも酔わせる至高の芳香を放っていたのです。その香りをもっと、もっと求めるように、私は彼女の背に手を回し、腰を打ち付けていきました。
彼女の生えたての羽に指先が当たる度に、彼女の切なげな喘ぎ声が胸を打ち、彼女の柔らかな肌を肩甲骨からヒップのなだらかなラインにかけて指を這わせるたびに、ゾクゾクと震える彼女の体が私の嗜虐心を刺激し、それに連動するようにきゅうう、と締め付ける彼女の膣肉が私の小さな分身をすり潰しそうなほどに圧迫するその感覚が私の被虐性を刺激していきます。
嗜虐と被虐、両立する筈の無い対立概念が両立するこの状態は、浮かび上がった快楽に対する耐性を瞬く間にすり減らし、広がった精神の隙間を一気に快楽の津波が浸食するのに十分な不安定さがありました。そして私も例に漏れず、不安定な状態から一気に快楽の坩堝に雪崩れ込んでしまったのです。体を打ち合わせ、まるでミルクシェーバーのように精を注ぎ込んで……次第に彼女の翼や尻尾が紫に染まり始めて……。
「――うむ、良きかな良きかな。よし、もう少し魔に染めてみようか――」

そんな、魔剣士の声が聞こえたのを最後に、生暖かい風が私の正気を根刮ぎ奪い――今に至ります。
これからどうなるかは不安ですが、今はこの彼女との幸せな生活を充実させていきたい……そう考えております。彼女もまた、人間だった時の暮らしよりも、こちらの方が充実していると、紫に染まった翼をパタパタとして、私の背をなぞりながらいつも語ってくれるのです。戻りたいなんて、お互い思っておりませんよ。
では……彼女との二十回戦に行って参りますので、お話は此処までにしましょう。魔剣士様に、有り難う御座いますと伝えていただけたら幸いです。

――――――

――一太刀で、一個師団を魔の者に変える、そんな魔物離れした魔剣の使い手がいる。
その太刀筋は目で捉えることは愚か、体が認識することすら難しく、斬られたことを自覚するのは、彼女が狂歌と共に刃を鞘に収めたとき、魔の絶頂という形を以て気付かされる。

「――ふむ、上々だな。流石"ドロース"の末裔。試し斬りでこれ程とは、我が真にこの刀と馴染めばどれほどの戦果があげられるだろうかな……」

――"魔刀使い"ラムス=ムー。
彼女に相対した者には人間としての死が与えられるとして、教会及び反魔物領から、第一級の危険魔物として恐れられ、高額の懸賞金が教会から掛けられているという。

fin.
12/10/13 22:56更新 / 初ヶ瀬マキナ

■作者メッセージ
堕落の乙女達の『呪いの武器』の項目が出来てから、一度書いてみたかったシリーズ。

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