読切小説
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カラステングの調査
年齢的に一人前になって、親元を‥ジパングを離れてまだ、私たち‥カラステングが調査をしていない場所を探して、飛び続けて……
最初に見つけた街。
ここは‥ジパングとは何もかもが違う場所。地域によっては、魔物娘が住むことができない場所がある。母様からそう聞かされて、父様からはもしもの場合に備えて、護身術を習った。でも‥母様と父様が結ばれたからこそ、私がここにいる。身を守るためとはいっても、父様と同じ人を傷付ける事は出来ない。それに‥信じたい。

街の外に生えている高い木の上まで飛んで、大天狗様から母様が頂いて、私へと受け渡された天狗の隠れ蓑を‥身に付けると姿が消える腰蓑をつけて………母様が身に付けて姿を消した所は見たことがあっても‥不安がないといえば嘘になる。
目を閉じて、何回か深呼吸をした後に覚悟を決めて、その街に空から入って、建物の屋根に止まると、じっくりと観察を始め………

誰1人私に気づいていない。それに‥黒髪の人が全くいない事に、ここがジパングとは事に改めて気付かされる。
この街は魔物娘と人が一緒に笑って住んでいる。良かった‥。息と一緒に胸を撫で下ろして、後は‥住みかになる山を見つけて、時間を掛けてここに住む人を調査していこう。

日が暮れない内に急いで家を建てて、今までの旅の疲れを癒すように深く眠って……目を覚ますと太陽は真上にあった。
慌てて腰蓑をつけて、街まで飛び立ち、良し悪しの基準を知るために屋根に止まって暫く、大通りを注意深く観察。

女の人に男の人‥。父様以外の人をじっくりと見たのは今日が初めて。そして‥魔物娘と人が笑顔で話している所を見ている内に、次第に‥胸の中がやきもきしてきた。私も誰かと笑顔で話したい。話せる相手がほしい。

観察を忘れて、思いを続けて……気が付くと辺りが暗くなっていた‥。今日の調査を終わりにして、山で木の実を集めながら帰って、今日の内容を纏めて書き記した後に木の実を食べて………
(今頃‥母様や父様はどうしているのかな……?)
ふとした疑問と一緒に胸の中に広がる想い。塩味が増したご飯を食べ終わって、その日は、もう寝ようと思ってもなかなか寝つけなかった。だから……
私は空に羽ばたいた。月明かりもない暗い空から、灯りのある街に向かって……

街に近づいてくると、周りはゆっくりと明るくなって、私の気持ちと同じように、だんだんと明るくなってくるのが嬉しかった。
でも……
明るかった視界は一瞬で暗くなり………



気が付いて、目に飛び込んできたのは‥知らない天井。周りを見て‥私は知らない場所で寝かされていた。
「ここは……?」
疑問を思わず声に出して、身体を起こそうと、襲ってきたのは激痛。呻き声が自然と出る。起き上がるのを諦めて、寝たまま途切れた記憶と今の状態を考えて……でも結論は出なかった。
一瞬、魔物娘だから‥捕まった?この思い胸を過った。でも、なら……私は寝かされていないと思う。それに‥周りを見渡しても、この部屋は閉じ込めるために使っている部屋とはどこか違い‥どちらかといえば、生活のために使っている部屋。

そうこうしている内に、扉が音を立てて開いて、入ってきたのは男の人だった。一瞬で頭の中が真っ白になって………気がついたら、部屋の隅で羽を広げて飛んでいた‥。けど…羽ばたく度に激痛が身体を襲い、耐えきれずにゆっくりと、床に足がついていった‥。
「傷の治りが遅くなるから、無理をしてでも身体を動かすのは止めてほしい」
その男の人の声。傷?何の事?思ったその一瞬。私は男の人に抱きかかえられて……

私は再び寝かされて、身体中が激痛に襲われていた。さっきとは違い、部屋は散らかり、男の人の顔には軽い擦り傷が無数にある‥。
「無理に動くなと言ったそばから、暴れ回るって何考えてるんだよ…」
悪態をつかれている理由も、私が何をしたのかも‥容易に想像がつく‥。
「でも、その‥言い方が悪くて、不安にさせていたなら、謝る」
男の人は私の隣に腰を下ろして、薬のような物を指に付けて
「だから‥今度は暴れないでくれよ‥」
釘を刺した後、羽の中‥私の肌に直に触れて、一瞬の痛み。その後にゆっくりと痛みが和らいでいった‥。そして…もう片方の肌にも触れていって……
「なぁ‥。昨日の夜。なんであんなに急いで飛んでたんだ?」
初めて顔を見て話し掛けられた。でも‥なんて返したらいいか分からない‥。男の人は話を続けて‥私の記憶と併せて、整理していくと………

夜。私は街の灯りだけを見て‥前を見ないで飛んでいた。だから‥木に思い切り激突した。そして‥飛んでいた私を一瞬だけ見ていたこの人は、ぶつかった音を聞いて、木の下で傷だらけになっている私を見つけて、手当てをしようと家に運んで、今に至っている。

「その‥。ありがとう……」
自然と出たお札の言葉。そして‥初めて交わした言葉。不意に視界がぼやけて、頬に涙が伝っているのが分かる。
私の涙を見たのか、急に背中を向けて‥
「その‥場所によっては、半魔物領があるから、だから…人に剣を向けられて、慌てて逃げて……でも、ここは大丈夫だから‥傷つける人はいないから、だから‥だから‥人を嫌いになってほしくない…」
悲しみの混じった声。私がさっき何も答えなかったから、それに暴れた事や怪我をしている理由間違えている。だから……
「違うよ。私は……」
首を横に振って、ちょっと恥ずかしく、間抜けな話だけど‥でも、話したかった。聞いてほしかった。
話終わると身体を起こして、羽の先に薬をつけて、私が暴れて、傷つけてしまった男の人の顔や腕に羽で塗り‥
「ごめんなさい」
一言、小さく謝り
「いや、いいよ」
男の人は小さく首を振った。
「他に痛い所はある?」
「大丈夫‥」
首を振って答えた。でも‥本当は身体も少し痛い。それに……服を脱いで身体を見せて、薬を塗ってと言うのは恥ずかしい。でも‥母様が父様を‥人を好きになった気持ちが今なら分かる‥。


それから私は家に戻らず、この人と一緒に住んで‥調査の基準として、ここの風習や規則を教えてもらい、お返しとして、私が出来る事を‥彼が私に望んだのは空を飛ぶ事だった。
外に出ると、彼の肩を傷つけないように足の爪で掴んで、持ち上がるかどうか確かめるために、少し羽ばたいて…大丈夫な事を確信して、大空に羽ばたいていった。

いつもとは違って、今は胸が踊って凄いドキドキしている。この気持ちは…初めて空を飛べた時と同じ……違うもっとドキドキしている。会話をしながら、時間を忘れて飛び続けた後、彼をゆっくりと地面に降ろし、
「ありがとう」
お札の一言と一緒に、彼は優しく抱きついて‥早い鼓動が伝わってくる。一緒にドキドキしていた事に嬉しくなって、
「こんなにドキドキしたのは生まれて初めて。だから‥これからも私はずっと一緒に居たい。もっと一緒にいて、もっと空を飛びたい。もっとドキドキしたい」
私は矢継ぎ早に話して、彼は言葉よりも口づけで返してくれた。


それから、街の1人も漏らすことなく調査が終わり、全てかが纏まった頃には数年が経っていた。最初2人だった家族は今では娘が2人増えて、4人の家族になっている。
調査内容を母様に渡す事と、それに‥夫と娘の紹介を兼ねて、私たちはジパングのある方向に羽ばたいていった。
12/09/23 05:27更新 / ジョワイユーズ

■作者メッセージ
天狗の隠れ蓑。
昔話に出てくる道具なのですが‥燃えて灰になっても、振りかければ効果を失わない優れもの。
アレやコレにと考え方1つで、色々と広がり‥紳士、淑女必須の道具。
……と思うのですよ。

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