連載小説
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おまけ:前日談 初恋の思い出 〜魔物娘の性教育〜
 恋というものは、すべてを変えてしまうらしい。
 心だけじゃなくて、体も、世界さえも。


 今。あの子がいつもの小舟で海に漕ぎ出した。その事が、誰に教えられるでもなく直感でわかった。
 根拠はない。ただ何となく、海のどこで泳いでいても、例え家でお昼寝していたとしても、それが分かる。分かってしまう。
 海の底にまでは、流石に匂いは届かない。もちろん船影が見えるわけもない。だけど海面を目指して泳いでゆけば、ほら、やっぱりあの子の船があった。
 元々私は仲間内でも冷めた方だ。赤い糸なんて信じていなかったし、運命の相手なんているわけないと思っていた。
 いつかは誰かとつがいになって、子供を作るかもしれない。けれど別に、相手なんて誰でもいいと思っていた。誰の子種だろうが、自分の子袋に入れば自分の血は残せる。それなら、別にどんな男にも違いなんて無い。
 そんな風に、思っていたのに。
 今の、この私の感覚は何なのだろう。こんなに離れているのに、どうして彼が海に出たことが分かってしまうのだろう。ただそれが分かっただけなのに、なぜこんなにも胸が高鳴ってしまうのだろう。
 私とあの子は、ただの他人では無いのだろうか。だからこんな感覚になるのだろうか。これが皆が言っている運命の相手というものなのだろうか。海の神様が私達を結ぼうとしているのだろうか。
 疑問は尽きない。けれどどうでもいい。あの子の顔が見られたら、もうどんな疑問にも意味なんて無くなってしまうんだから。
 海面に近づいてゆくに連れて、あの子の匂いが強くなってゆく。青く煌めく水面に、一艘の船が揺れている。あの子の船だ。やっぱり居た。
 釣り糸を垂らしてる。今日は、残念、魚はかかっていないみたい。
 勢いをつけて上に向かって泳ぐ。水面がぐんぐん近づいてくる。太陽に向かって、私は一気に飛び出した。
 飛沫が飛び散る。遅れて海水の弾ける爆音と、吹きすさぶ風の音が鼓膜を揺らす。乾いた大気を全身で感じながら、私は重力のままに空から小舟へ落ちる。
 驚いた顔で私を見上げる彼の胸に飛び込んでゆく。
「やっほー。アクト!」
「お姉ちゃん? 危ないよ!」
 女一人抱きとめるには、まだ頼りない幼い細い体。けれども彼は果敢に私を受けとめようとして、やっぱり出来ずに倒れこんだ。
 か弱く貧弱な男の子。でも、そんな彼なりに全力で気遣ってくれることが何よりも嬉しい。
「いたた。お姉ちゃん怪我はない?」
「大丈夫よ。アクトこそ、大丈夫だった?」
 ちゃんと倒れる前に触手を背中に回したから、彼の身体には傷は無い。大丈夫だと分かっていても、聞かずには居られない。
「へっちゃらだよ」
 彼は少し日焼けした顔で、白い歯を見せて笑った。
「そう。良かったぁ」
 幼くて可愛い。無邪気と無垢をそのまま子供の形にしたような男の子。抱きしめると、おひさまの匂いがした。ううん。私にとってはおひさまそのものだ。
「お、お姉ちゃん。そんなにくっつかないでよぉ」
 ジタバタし始めるけれど、逃がさない。私には両腕の他に八本の触手もあるのだ。大人の男に抵抗されたって逃がさない自信はある。
「あら、いいじゃない。大人になったら、こんな事中々してもらえないのよぉ」
「そうなの?」
「そうよ。こういう事は、大好きな人にしかしないんだもの」
 私がそう言うと、彼は急に暴れるのをやめた。
 どうしたのかしら。と思っていると、小さな声でこんな事を言ってくる。
「ぼくが大人になったら、もうしないの?」
「そうね。アクトが大きくなったら、私は……」
 我慢しているみたいだったけれど、もう少ししたらその目尻からは涙が零れ落ちそうだった。
 胸の中がめちゃくちゃに引っ掻き回されるみたいな感じがした。居ても立ってもいられず、私はぎゅぅっと男の子を胸の中に抱き締める。幼い甘い匂いの中に、ほんのりと雄の芳しい香りを発しつつあるその身体を。
「もっともーっといっぱい抱きしめてあげるから、安心しなさいっ」
 そのままぐしぐしと髪を撫で回す。いい匂い。本当にいい匂い。食べてしまいたいくらい。
「お、お姉ちゃん苦しいよぉ」
 でも、その顔は安心したように笑っていた。
 私は笑いながら苦しがる彼の匂いと感触をしばらく堪能してから、ようやくその小さな身体を開放してあげた。乱れた髪を手櫛で軽く梳いてやれば、これで元通りの男前だ。
「ふふ。大人になるまでにはまだまだ時間がかかりそうだけどね。でも、このままぼうやのままでも可愛いからいいかな」
「もうぼうやじゃないよ。取引だってちゃんとしてもらえるんだから。あ、あんまりこういうことしないでよね」
「泣きそうになってたくせにぃ」
「そ、そんな事無い」
「まぁ、そういうことにしておいてあげるわ。それにしても、ぼうやじゃなくてもボウズみたいじゃない」
「ボウズ? 髪はちゃんと生えてるよ?」
 私は不思議そうにする彼の髪を撫でる。
「お魚が一匹も釣れてないのをボウズって言うのよ。釣り人さん」
 彼はちょっと頬を染めながら目をそらす。
「今日は、その、調子が出ないんだよ」
「ふふ。そういう日もあるものね。分かった。それじゃあお姉ちゃんに任せなさい」
 私は彼の身体を離し、船の縁に腰を下ろす。
「え。で、でも。この頃いつももらってばっかりで」
 彼の手から逃れるように、私は後ろ向きに海に向かって飛び込んだ。


 見飽きた海の中でも、彼と一緒なら別世界に見える。
 ぬるりとした質感の魚影が、陽の光で輝く流れ星のように。枯れた小枝みたいだった珊瑚が、宝石細工のように。蛸や貝の姿でさえも、海の妖精か何かのように見えてくる。
 船の上の彼は、いつものようにずっと私の姿を見下ろしている。
 心配そうにしているのだろうか。それとも申し訳無さそうにしているのだろうか。私がしたくてしているのだから、そんな風に思ってくれなくてもいいのだけれど。
 ひょっとしたら彼の迷惑だろうか。そんな風にも思う。けれど獲物を沢山持ち帰った時の彼は嬉しそうにしているし、もし彼がお腹を空かせたらと思うと、やっぱり心配でこうしてしまう。
 もう、そろそろいいだろうか。考え事をしながら魚を獲っているうちに、気づいたら両腕も触手もほとんど塞がってしまっていた。
 蛸の下半身を持つ海の魔物娘、スキュラの私の前では、魚とりなんて朝飯前もいいところ。まだまだまだまだ体力に余裕はあるけれど、あんまり獲り過ぎても勿体無いし、明日来てもらえなくなっちゃう。
 船の上に戻ると、彼はほっとしたような顔をした。
「おまたせ。いっぱい獲れたよぉ」
 戦果を船の上に広げると、彼はぱっと表情を輝かせた。
 この顔が見たかったんだ。私の顔も自然とほころび、胸があったかくなる。
 けれど、なぜだろう。彼は私の方を見ながら、急に顔を真っ赤に染めて落ち着かなくなってしまった。
「どうしたの? アクト」
「お姉ちゃん。胸にも、魚が」
 見下ろしてみると、確かに胸の谷間に魚が頭を突っ込んで尻尾を振っていた。
 照れながらも私の胸から目をそらせない男の子の顔を見ていると、ふつふつと苛めたくなる気持ちが湧き上がってくる。
「あん。くすぐったぁい。ねぇアクト、取ってくれない」
「お、お姉ちゃん、自分で」
 魚はビチビチ跳ねている。私はちょっと息を荒げて見せながら、アクトの前に胸を突き出す。
「魚が暴れて力が入らないのよ。ほら、取って?」
 初心な男の子は散々目を泳がせたあと、私の方へと手を伸ばしてくる。その指が魚の尾に届く、その寸前。
 魚が大きく暴れだした。
「あっ」
 水着の結び目が緩む。はらり、とそれが落ち、胸の締め付けが消える。
 視界の端で、魚が大きな弧を描いて船を飛び出していくのが見えた。ポシャンと海に帰って行く音が、やたらちっちゃく聞こえた。
 彼が、私の胸を見てる。
 あ。……おっぱい、見られちゃった。
「おねぇ、ちゃん。ごご、ごめんなさい」
 慌てたように顔を逸らされる。そんな風にされると、なんだか余計に恥ずかしくなってきちゃうなぁ。
 やだ。顔もあっつくなってきた。
 おっぱい。隠したほうがいいかなぁ。でも、いまさらかなぁ。この人になら、見せたって全然……。いいし。むしろもっと見て欲しい、かも、なんて。私おかしいのかな。
 でも、初めて会った時も、水着してなかったわけだし。
 あれ。……ていうか、この匂い、何だろう。
 凄くいい匂いがする。うっとりする匂い。おいしそうで、でも嗅いでいると胸がどきどきしてきて、お腹の下のほうが切なくなるような、頭の中が塗り潰されて、他の事が何も考えられなくなってしまうような匂い。
 何だろう。これ。でも、とにかく彼をこっちに向かせなきゃ。
「ねぇアクト。もういいからこっち見なよぉ」
「もういい? あっ」
 彼は私の身体を見て、真っ赤になってきつく両目を瞑る。そして今度は、体ごとそっぽを向かれてしまった。
「もう、そんなに恥ずかしがる事無いじゃない。初めて会った時だって、水着してなかったんだからさ」
「あの時は、その、ごめんなさい。悪気は無かったんだ。許してよぉ」
 本当に可愛い。それと同時に、ちょっと可愛そうになる。もう怒ってないのに。むしろこんなに大好きなのに。
 それを教えてあげるべく、私はそっぽを向いたままの彼を後ろから抱きしめる。
「もうとっくに許してるよ。怒ってないよ」
 耳元で囁いてあげると、彼は身体をビクンと震わせて身体を小さくする。
 ふと、彼の格好が気になった。両目を閉じながら、どうして両手で股間なんか隠しているんだろう。
「アクト。どうしたの? そんなところ隠して」
「だ、駄目だよお姉ちゃん。やめてぇ」
 腕をつかむ。いくら男でも、まだ子供。魔物の力の前では抵抗なんて本当に無意味だ。
 無理矢理に両腕をどけると、その下のズボンが大きく膨れ上がっていた。
 一瞬何かの病気なのではないかと焦り、しかしすぐにふわりと大きく広がった濃厚な雄の匂いに、私は全てを悟った。
 魔物娘のくせに、これを見て病気を疑うなんて、それこそ私のほうがおかしかった。
 改めてそこをまじまじと見つめ、そして大きく息を吸って肺いっぱいにその香りを満たす。さっきの匂いの正体、これだったんだ。好きな人が勃起してる時の匂いって、こんなにいい匂いなんだ。仲間の旦那さんが勃起してるのを見たことあるけど、その時とぜんぜん違う。
 身体が、震え始める。歓喜の時を期待して。
 そう。アクトは勃起していた。
 私の身体を見て。興奮してくれたんだ。
「アクト。これ、どうしたの?」
 顔がにやけそうになるのを堪える。それでも、声は震えてしまう。
「えっと、その」
 アクトは両腕も押さえつけられて、どうしようもないままもじもじと身をよじる。
「そこ、おちんちんあるところだよね。どうしたの?」
「お姉ちゃんの、……見たら、よくわからないけど、大きくなってきちゃって」
「え、初めてなの?」
「うん。ぼく、病気になっちゃったのかな」
 アクトは、涙目で私を見上げてくる。
 ぞくぞくした。全身に鳥肌が立ってくる。私、蛸の魔物のスキュラなのに。
 人間ですら無いのに。海の魔物とか、悪魔の化身なんて言われて怖がられるくらいなのに。こんな私を見て、本当に……。
「病気じゃないわよ。とっても自然なことなの」
「ほんとう? ぼく、変じゃない?」
 何て教えてあげたらいいだろう。ちゃんと教えてあげたい。その上で、私を見て欲しい。
「これはね、おちんちんが勃起してるって言うの」
「ぼっき?」
「そうよ。朝起きた時にもなることもあるけれど、優しく触られたり、女の人の裸を見たり、あとは可愛い女の子や綺麗な女の人や、この人素敵だなぁって思った時にも大きくなることもあるのよ」
 自分で言っていて凄く恥ずかしくなってくる。だってアクトが私を見て興奮したんだよって、私自身が教えてるんだから。
「綺麗……。うん、お姉ちゃんのおっぱい見ていたら、何か、凄く、その、どきどきしちゃって、胸が苦しくなって」
 もう、そんなこと言われたらこっちの方がどきどきしてきちゃうよ。
「でも、私魔物だよ。人間の脚の代わりに付いているのも、人魚みたいに綺麗な魚じゃなくて、蛸の脚だし……。不気味じゃない? 怖いでしょ?」
「怖くなんかないよ。お姉ちゃんはとっても綺麗だよ」
 身体が熱くなってきてしまう。胸が詰まって、なんだか涙が出そうになる。
 おへその下のあたりが疼いて止まらない。溢れてきちゃうよぉ
「ねぇ、勃起はどうして起こるの? 何のためにこんなになるの?」
「それは……」
 もう、限界。ただでさえ匂いでくらくらしてるのに。これ以上私の口からそれを言わせるなら、もう我慢なんて出来なくなっちゃうよ。
 私は、彼を抱きしめながら囁く。普通に声を出すと、震えて喘いでしまいそうだったから。
「赤ちゃん、作るためだよ。
 朝起きた時に勃起しちゃうのは、眠くなるとあくびが出ちゃうのと同じ。触られたり擦られたりして勃起しちゃうのは、くすぐられたら笑っちゃうのと同じ事なの。
 だけど私の裸を見ただけで勃起しちゃったのは、私と赤ちゃん作りたいって、身体が反応したからなんだよ」
「お、お姉ちゃん。ぼ、ぼく。ぼく……」
 抱きしめている小さな身体が、震え上がる。しゃっくり上げる声が聞こえてくる。
 いきなり、核心的を突きすぎてしまっただろうか。でも、うそぶいて誤魔化す事はしたくなかった。変に誤解させるより、真正面から受け止めて欲しかった。
 利己的かもしれない。多分そうだろう。私は、私を受け入れて欲しいんだ。
「大丈夫。大丈夫だよ、アクト」
「ごめんなさいお姉ちゃん。ぼく、そんなこと、思ってなかったのに」
「うん。うん」
 優しく抱きしめて、頭を撫でてやる。本当は押し倒し襲いかかりたい。けれど今そんな事をしたら、きっとアクトは深い傷を負う。
 もしかしたらそれで私だけの物に出来るかもしれないけれど、それじゃあきっともうアクトは私のおひさまじゃ無くなっちゃう。
「お姉ちゃん。ぼくのこと、嫌わないで?」
「私はアクトの事大好きよ。どんな悪い事しても、大好きでいてあげる。抱きしめてあげるよ。
 もちろん、勃起しちゃったのは全然悪いことじゃないけどね。私は、魔物である私を見てアクトが勃起してくれて、とっても嬉しかったよ」
「本当?」
「もちろん。アクトの赤ちゃんだって欲しいよ。私、アクトが大人になったら、アクトのお嫁さんになりたいんだよ?」
「ぼくの、お嫁さん?」
「そう。大好きなアクトとずっと一緒に暮らすの」
 アクトは私を振り返る。その顔を見てほっとした。
「ぼくも、お姉ちゃんのこと好きだよ」
 一瞬、世界の全てが止まった。一瞬だけ、波の音もうみねこの泣き声も遠ざかって、アクトの声と私の心音だけが世界の全てになった。
 私は彼の首筋に顔を伏せる。そこで少しだけ、なぜだか溢れ出してしまった涙を拭った。
「えへへ。嬉しい。私、すっごく嬉しいよアクト」
「お姉ちゃん、泣いてるの?」
「大丈夫よ。自分でもよく分からないけど、でもとっても嬉しいの」
 顔を上げて笑いかけると、ほんの短い間だけ、私の唇にアクトの小さな唇が重なった。
「涙の止まるおまじないだよ。お母さんが教えてくれたんだ」
 照れくさそうに笑うその顔が、心の底から愛おしかった。
「大丈夫よ。これは、嬉し泣きだから」


「この勃起ってずっとこのままなの?」
「しばらく大人しくしていれば元に戻ると思うよ」
 本当はやることやって大人しくさせたいけれど。とは、流石に今のやり取りのあとでは中々言いにくかった。
「でも、動きづらいよ。ズボンに擦れて痛いし」
「あんまり他の人の前で見せたりしちゃ駄目だよ。私の前か、あとは家族の前くらいにしておいた方がいいわね」
「見せないよ。恥ずかしいし」
 アクトはズボンの膨らみに触れて、顔をしかめる。
 苦しんでいる姿は、見たくない。楽にしてあげたい。気持良く、してあげたいなぁ。
 もちろん自分の欲望にまみれた考えだっていうことは重々分かっているけれど、だってこんなに美味しそうなごちそうが目の前にあるのに……。
 あぁ、駄目なのに。でも。
 我慢、出来ないよぉ。
「……早く、楽になりたい?」
「え、うん。このままじゃ上手く動けないし」
 ぞろり。と下っ腹の奥深くで何かが蠢き始めるのが分かる。
「お姉ちゃん。気持良くしながら元に戻す方法知っているけれど、試してみる?」
「え、いいの?」
 無理矢理にじゃない。彼がして欲しいと言ったから。だから私はこれから彼を気持よくしてあげるのだ。決して、私が自分勝手な欲望で彼を好きにするわけじゃないんだ。
 言い訳だ。分かっている。でもどうしても抑えられない。子宮を突き上げるこの欲望を、胸を高鳴らせるこの感情を。
「特別、だよ。私もこんな事、アクトにしかしないから、アクトも私としかこういうことしちゃ駄目だよ。……約束できる?」
「うん。約束するよ」
 ああ、もう。本当になんでこんなに可愛いの。こんなに可愛かったら、自分のものにしたくなるに決まっているじゃない。
 私は彼の身体を離して、正面に回りこむ。
 アクトは私の身体を見て顔を赤くしたけれど、今度は顔は逸らさなかった。
「じゃあ、ズボンを脱いで」
「え、ええ?」
「勃起したおちんちんを出すの。そうしないと出来ないよ」
「で、でも。恥ずかしいよ」
 アクトは再び股間に手を当ててもじもじし始めてしまう。
 確かに、いきなり人前で性器を晒し出せと言われたら私だって恥ずかしいだろう。……なら、二人共恥ずかしくなってしまえばいい。私も裸になれば、アクトは独りじゃなくなる。
「じゃあ、見せ合いっこしよう? 私もこれ、取っちゃうから」
 最後に残った水着の結び目を解きながら、私は微笑みかける。
「お姉ちゃん」
「海の上には、私達しか居ないよ。アクトは、私に見られるの恥ずかしい? 私は、アクトにだったら、どこを見られても恥ずかしく無いよ」
 するりと音がして、女の子の大切な部分を覆っていたそれが外れる。
 アクトが顔を真っ赤に染めながらも、視線をそこから外せないといった様子で、私のそこを凝視してくる。
 身体が熱くなる。恥ずかしくないなんて嘘もいいところだ。形が変だって思われたらどうしよう。気持ち悪いって言われたら、もうアクトに顔も見せられない。
「女の人のって、こんな形なんだね」
「おまんこって言うのよ。赤ちゃん作る時はね、勃起したおちんちんを、ここに入れるの」
 震える指で割れ目を広げる。顔から火が出そう。本当は目をつむって顔をそらしてしまいたい。けれど、それじゃアクトだって私に全てを晒してくれない。
 私は、じっとアクトを見つめ続ける。
「穴、見える?」
「うん、ひくひくしてるね」
 私ったら、何やってるんだろぅ……。もう恥ずかしくて死にそうだよぉ。
 でも、真面目な顔で見つめるアクトは可愛いし。アクトがこんなにしっかり見てくれるのは、嬉しい、かも。ちょっと気持ちいい。
「……お姉ちゃんのおまんこ、とっても綺麗だね」
「ふぇ?」
「綺麗な桃色で、それに生きのいい貝みたいにおいしそう」
 言うに事欠いておいしそう、だなんて……。
 さっきは食べたいって思ったけど、アクトになら、食べられたい、なんて思っちゃう。
「ぁ、ありがと」
「え?」
「さ、さぁ。今度はアクトの番だよ」
 アクトはものすごく困った顔で戸惑いながらも、ベルトを外してくれる。けれど、ズボンに手を掛けつつも、まだそれを下ろすところまでは勇気が出ないみたいだった。
「お、おねえ、ちゃん。ほんとに脱がなきゃだめ?」
「アクトが嫌ならいいよ。でも、アクトは私の大切なところ、いっぱい見たよね」
「そ、そう、だよね。ぼ、ぼくも脱ぐよ」
 アクトは唇を引き結んで、ゆっくりとズボンを下ろしてゆく。
 その硬い動きを見ていられなくなって、私は彼の腕にそっと触れた。
「大丈夫だよ。誰だってみんな、生まれてくるときは裸だもん。それにアクトの裸がどんなのでも、私は嫌いになったりしないよ」
 涙目になりかけていた顔から、ふっと力が抜けていった。アクトは頷いて、するするとズボンを下ろした。
 膨らみがズボンからはみ出すと、バネ仕掛けみたいに勢い良くそれが跳ね上がった。
 アクトのそれは、思っていたよりずっと大きく、太く、逞しいものだった。まだ幼さの残る少年から、どうしたらこんなものが生えるのだろうかと思えるほどに歪で、そして溜息が出るほど男らしい一物だった。うっとりとして、何も言えずに見つめることしか出来なかった。
 亀頭は、まだ穢れを知らない濃い桃色。少し皮が被っているけれど、そこがまた可愛い。竿は見事に反り返って、太い尿道の他にも幾筋もの血管が浮き出ている。根本は、まだ柔らかそうな若草が生え始めたばかりだった。
 先っちょの割れ目から透明な汁が出ている。
 むせるかえるほどの雄の匂いが鼻腔を刺激する。直接頭の中を犯されているんじゃないかってくらいに、強烈だ。
 ……舐めたい。
 即座にそう思っていた。後から、なんて私ははしたないことを考えているんだろうと自分でも呆れてしまった。けれど呆れながらも、やっぱり彼を味わいたいという気持ちは抑えられないほどに強かった。
 気がつけば、私は彼のそれに指を絡めていた。
「おねぇ、ちゃん」
 鉄みたいに硬かった。ずっと持っていれば、それだけで手が妊娠してしまうんじゃないかって思えるくらい、淫らな熱をまとっていた。
 軽く扱いてみる。
「あ、ああぁ」
 アクトが可愛い声を上げながら、腰を震わせ始める。上目遣いで見上げると、彼は困惑し恥じらいつつも、確かに初めての快楽を感じているようだった。
「アクト、気持ちいい?」
「よく、分かんない。でも、腰がぞくぞくする」
 あぁ、でも、だめだ。このまま手で処理することを覚えてしまったら、この子は自分でするようになってしまうかもしれない。
 そんなの、勿体無い。独りでするくらいなら、せめて私を使って欲しい。性欲を処理する、ただそれだけのためでも構わないから……。
「どんな方法だったら気持ちよくなるかなぁ。……あ、そうだ。ねぇアクト、舐めてみてもいい?」
 我ながら白々しい。
「え、汚いよ。そんなことしなくてもいいよ」
 アクトは困惑を通り越して、うろたえ始めてしまっていた。けれど、私もここまで来たら後には引けない。
 海水をすくって、彼の一物にかけて見せる。
「ほら、こうすればもう汚くない」
「でも……。おしっこ出るところだよ?」
「大丈夫だよ。もうおしっこ通る道を綺麗にするための液が出て来て、綺麗になっているから。……ねぇ、舐めたいの。舐めちゃだめ?」
 自分でも訳の分からないうちに、色々と理由をつけながら彼の脚にすがりついて懇願していた。
 何だろう。なんで急に私はこんなに……。でも本当に、欲しくてたまらないの。
 彼は終始困った様子だった。けれど私を見かねてか、最後には頷いてくれた。
「ありがとうアクト。大好きよ」
「無理はしないでね。お姉ちゃん」
 亀頭に鼻を近づけて、まずはその匂いを吸った。一瞬、ふっと意識が飛んだ。
 それから、裏筋に口づけて、ちろりと割れ目に沿って舐め上げた。理性が残っていたのはそこまでだった。全部どろどろに溶けて、私は本能のまま彼の下半身を絡めとり、それにむしゃぶりついた。
 根本から先っちょに向かって丁寧に舌を這わせた。何度も何度も往復しながら、くびれたかりに口づけし、甘噛した。
 精を生み出す小さな肉玉も、手のひらに包み込むようにしてやわやわと優しく揉みあげた。
 時折ビクッとアクトの欲棒が跳ねて顔にぶつかったけど、それすら嬉しくてたまらなかった。
 でも、いちいち顔を動かして舐め直すのも面倒だなぁ。そうだ、咥えちゃえばいいんだ。
 思いついたら即実行。私はぷりぷりと美味しそうなミル貝にかぶりつく。
 美味しい雄汁の味が、口いっぱいに広がる。頭を振って、口内のそこら中にそれを擦り付ける。
 じゅぶじゅぶ音を立てて舐めしゃぶるほどに、濃くて深くて刺激的な雄の味が染み出てくる。
 私は笑っていた。いやらしい顔で笑っていた。男の子が何か言っていたけれど、何にも聞こえなかった。
 それが膨れ上がる。昇って来ている。あぁ、出るんだ。もういっちゃうんだ。ちょっともったいないけど、でもすごく楽しみだ。
 私は彼を見上げる。彼は快楽や、羞恥や、罪悪感や背徳感、色々な感情が混ざり合ったたまらない表情で、けれどもしっかり目を開けて私の行為をつぶさに見ていた。
「お姉ちゃんもうやめて。おしっこ、でちゃうよぉ」
 私は笑う。笑いながら、口をすぼめて吸い上げながら、舌で亀頭を、かり首を、鈴口を、擦り上げる。
 性を知らない男の子の、まだ純粋で無垢な欲望が弾ける。
 喉に打ち付けられた濃く熱い粘ついた男の子のおつゆにむせそうになりながらも、私は吸引を強めながら、更なる射精を促すべく尿道を、裏筋を舌で刺激する。
 とろとろした精液が幾度も幾度も勢い良く口の中に注ぎ込まれる。その度にあまりの匂いと味に意識が飛びそうになった。
 苦くて生臭い精液。けれど私はそれ以上に、とても甘くて、こくがあって、濃厚で、心満たされる味に感じた。
 やがて射精が落ち着くと、ようやく世界に音が戻ってきた。
 アクトの乱れた吐息が聞こえてくる。泣き出しそうになりながらも、泣いていない。男の子だもんね。
「お姉ちゃんごめんなさい。ぼく、我慢できなくて、お姉ちゃんの口の中におしっこを……」
 私は両手で器を作って、口の中のものをそこに出した。
 白く、泡立った、アクトが初めて射精したもの。私が受け止めた性欲を。
「おしっこじゃないの。これは精液っていうのよ」
「そうなの?」
 アクトは私の手の中の精液と、私の顔を何度も見比べていた。
 私は微笑んで頷いた。
 それから、両手で作った器に口をつけて、受け止めたそれを再び口の中に啜り上げる。一滴でもこぼれ落ちたら勿体無い。アクトの性欲は、全部私のものだ。
 舌の上で転がし、軽く噛み、味と感触を堪能してから、じっくりと嚥下した。喉を落ちて胃に落ちていく感覚すら感慨深かった。
「お、美味しいの?」
「私達魔物娘には、美味しいの。これ以上ないごちそうなのよ。魔物娘にとっては一番栄養のあるご飯でもあるの」
「そっか。よく分からないけど、お姉ちゃんが苦しくなかったのならいいや」
 私は、一生懸命頑張ったおちんちんをいたわるようにして撫でてあげた。
「おちんちんから精液を出すことを射精っていうの。勃起したおちんちんを私のおまんこに入れる事を、性交っていうのよ。他にもまぐわいとか、交わるとか、色々な言い方があるわ。抱きしめ合って交わった方が、今みたいにしたよりも私もアクトもずっと気持ちいいんだよ」
「ずっと?」
「うん。それに私もおまんこに精液出してもらった方が、精液の栄養、もっといっぱいもらえるんだよ。
 もしかしたら赤ちゃんも出来るかもしれない。魔物娘と人間の間には子供が出来にくいから、いっぱいいっぱい交わらないと出来ないけど」
 射精して気が抜けたのか、アクトは少し気楽になった様子で私の話を聞いていた。
 おちんちんを触られてちょっと落ち着かない様子ではあったけれど、嫌なわけでも無いようだった。
 ……せっかくなら、アクトにも触ってもらおうかな。私だけ触っていたら不公平だもんね。
「ねぇアクト、私のおまんこにも触ってみない?」
「お姉ちゃんに? で、でも、赤ちゃんを作る大切なところなんでしょ?」
「うん。でも、アクトにならいいよ」
 アクトは私の顔色を伺いながらも、けれど興味津々だった。
 私が目で笑うと、素直に手を伸ばしてくる。
 指先が、私に触れる。それだけで全身にさざなみのように官能が走っていった。
 アクトが、私をまさぐりはじめる。たどたどしい指の動き。何度も、頭で想像してきた男の子の指。
 もどかしい刺激に、思考がままならなくなる。
「あっ」
 敏感な膨らみに触れられ、全身に電流が走る。あとから空に浮き上がるような快楽が身体をとろかせる。
「ごめんお姉ちゃん。痛かった?」
「気持ちいぃ」
 アクトは不安そうに眉を八の字にしていた。もう止めたがっているようにも見えた。けど、私はもっとアクトにいじって欲しかった。いじめてほしかった。
「ねぇ、アクト。私とっても気持ちよかったの。もっと私を気持よくしてくれない?」
「え? う、うん」
 男の子は、素直に頷く。
「今のところ優しく擦りながら、穴の中に、指、入れてくれる」
 ぬちゅりと音を立てながら、男の子の細い指が私の中に入ってゆく。視界が狭まる。鼓動が早くなる。全身の肌から、汗をかきはじめる。
「すごくきついよ。確かに、これじゃ勃起してないと入らないね。えっと、これでいいの?」
 しばらく声も出せなかった。
 問うたげな視線を向けてくるアクトに、私は何とか頷く。
「いい。いいよ。そのまま撫でながら、穴の中で指を優しく動かして。アクトの、好きに動かしていいから」
「う、うん」
「私が苦しそうでも、もういいよって言うまで続けてね。分かった?」
 こう言っておけば、途中で止められる事はない。アクトは素直に、私を絶頂まで、ううん、その先まで連れて行ってくれることだろう。
「分かった。じゃあ、始めるね」
 アクトの指が、ためらいがちに動き始める。
 身体の中で嵐が生まれた。快楽の嵐だ。敏感な蕾を可愛がられる度に雷が全身をしびれさせ、膣内で指が動く毎に意識さえ吹き飛ばされるような官能の大波が打ち寄せる。
 堪らえようとしても声が漏れてしまう。あんまり可愛くない、変な声だ。
 けれどアクトはこんな無様な私の姿から目を離さず、ずっと見つめていてくれた。私の顔を見て頬を染めて、私の声を聞いて生唾を飲み込んでいた。
 興奮してきたのだろうか。指にも力が入り始めて……。
「い、いくぅっ」
 男の子の拙い指使いにも関わらず、私はあっという間に昇り詰めさせられてしまった。
 身体ががくがく震えて、全身に桃色の霞みが掛かったみたいな感覚に包まれる。初めて感じる、深い幸福感。けれど少し切ないのは、多分中に熱いものが注がれていないから。
 息が出来なくなるほど、身体が動かなくなるほどの絶頂だった。
 けれど、私がいってもなお彼は指を動かし続ける。
 そうか。まだ「もういいよ」って言ってないから。
 私は必死で言葉を紡ごうとする。けれど口を開けばそこから出るのは情けない喘ぎだけだった。
 身体は痺れたように、まだ言うことを聞かない。言葉も出せない。しかも一度絶頂で開花した蕾は更に感じやすくなっていて、感じすぎておかしくなってしまいそうだった。
「アク、と」
 身体が、がくがく震える。空を飛んでいるみたいなふわふわした感覚の中で、私は何とか声を上げる。
「お姉ちゃん?」
「も、もう、いいわ。もう、やめ、て。お願い……」
 指がするりと抜けてゆく。私は安堵しつつ、少し切なさも感じていた。気が狂いそうになるほど感じていたくせにそんな風に思っている自分に、自分でもちょっと驚いた。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫だよ。とってもとーっても気持ち良かった。ありがとね、アクト」
「う、うん」
「でも、また勃起しちゃったね」
 彼の股間のそれが、再び空に向かってそそり立っていた。見たところ、さっきよりも更にかちかちに硬くなっているみたいで、おまけによだれみたいにたくさんおつゆを垂らしていた。
「だって、お姉ちゃん見てたら……」
「そうだよね。あんな姿見てたら、アクトも気持ちよくなりたくなっちゃうよね」
 彼自身を握りしめる。今度は本当にやけどしそうな程熱かった。
 したいんだ。まだ幼いくらいだけど、この子は本当に私を孕ませたいんだ……。
「ねぇ、試してみる?」
 私はアクトを見つめる。ちゃんと笑えているだろうか。お姉さんらしい顔を出来ているだろうか。
 私も初めてだから、不安で、自信もない。でも凄く楽しみで、期待もしてる。
 アクトだからだ。相手がアクトだから、私はこんな気持ちになれた。
「私のおまんこに、アクトのおちんちん入れてみない?」
「で、でも。それって大人がすることでしょ。子供のぼくがしたらいけないんじゃ……」
 そんなこと言いながらも、したがっているのは顔と身体を見れば明白だった。
「アクトはもう、ぼうやじゃないんでしょ? さっき自分で言ってたじゃない」
「それは、でも……」
「海の上には、私とアクトしか居ないわ。二人だけの秘密にすれば、誰にもわからないわよ」
「二人だけの、秘密?」
「そう。すっごく気持ちいいことしたのは、私とアクトだけの秘密にするの」
「でも、赤ちゃんが出来たら?」
 ちゃんと心配してくれるんだ。まだ男の子だけど、この子はきっと、大きくなったら紳士になるんだろうなぁ。
「大丈夫。魔物娘と人間には赤ちゃんが出来にくいんだよ。それにもし出来ても、食べ物を取るくらい妊娠してても一人で出来るもん。一人で育てられるよ」
「そんなのだめだよ。赤ちゃんができたらぼくもちゃんとお父さんをするよ」
 まだ自分の食べる分もままならない子供が、いっちょ前のこと言っている。私の為を思って。
 確かに無責任な言葉だけど、嘘偽り無い心からの言葉なんだろう。それが、胸にしみる。
「……だから。だからぼくも、お姉ちゃんとしてみたい」
「じゃあ。私がアクトに教えてあげるね」
 幼いながらも、この子もこの子なりに覚悟を決めた。それなら一緒に、沈んでゆこう。快楽の海の底を目指して、どこまででも。
 私は彼の背中に触手を回しながら、小さな身体を押し倒した。


 硬く勃起した男の子の上に、自分の位置を合わせる。
 期待に、子宮がきゅうきゅうと蠕動しているみたいだった。既に下半身が蕩け始めていた。
「じゃあ、入れちゃうね」
 充血して膨れた雌肉の隙間に、硬く膨張した雄肉が滑り込む。
 腰をゆっくり落としていくと、ぴったりと閉じていた秘肉がじっくりとアクトの欲棒に押し広げられてゆく。
 大切なところが擦れていく。肉襞一枚一枚が、彼の逞しさに触れて震える。その度に陰核を刺激されていた時以上の奔流が全身を駆け抜けて、何度も何度も軽くいってしまう。
 気持ちいい。だけど性感以上に、本来あるべきはずのものが身体を満たしていく充足感の方が大きかった。
 そしてついに、彼の物が全て私の中に収まる。
 その瞬間。なんとも言えない大きな感覚が全身を満たした。自分の身体の全てが変わるのが分かった。
 私は今、雌になった。世界でただ一人、この雄のためだけの、この雄の子を孕むための雌になったんだ。
 まだ幼いせいか、一番奥にまではお招き出来なかった。残念だけど、それは今後成長した時に期待しよう。
 アクトは肉体が享受する快楽のままに身体を幾度も震わせていた。それとともに男としての本能なのか、息を荒げながら耐えるように歯を食いしばってもいた。
 気持ち良いなら、我慢せずに射精してくれていいのに。私はアクトが気持ちよくなってくれるなら、それで……。
 虚ろな瞳が、私の瞳を捉える。彼は私の名を呼びその手を頬に伸ばしてきた。
「お姉ちゃん、大丈夫? 苦しそうだけど、痛く無い?」
 自分だって感じたことのない感覚に包まれて、翻弄されているというのに、彼はこの期に及んで、私の心配をしてくれていた。
 本当に、本当に大好き。この子以外、もう考えられない。
「大丈夫。気持ち良すぎて、声も出ないくらいなの。でも、ありがとうね、アクト。お礼に、大人の口づけを教えてあげる」
 覆いかぶさるように唇を重ねる。まだ小さく柔らかい花びらを押し開けるように唇の間に唇をねじ込み、唇同士を何度もついばみ合う。
 そしてそれから、彼の口の中にお邪魔する。奥で縮こまっている舌を誘うように絡めると、彼の方からも少しずつ外に出てきてくれた。
 舌同士をこすり合わせると、どちらともなく身体が跳ねた。
 彼の手を取り、乳房を掴ませる。誘われるまま、欲望のまま、彼は私の乳房を揉みしだき、乳首を軽くつねる。
 胸の芯が震える。身体の底が、お腹を空かせてうねりを上げ始める。
 自然と腰が揺れてしまう。彼の方からも腰を突き上げ始める。
 粘ついたいやらしい水音が聞こえ始めると、いやでも敏感な部分が強く擦れていることを意識せずには居られなかった。
 彼の欲棒が膨らみ始める。絶頂が近いんだ。私も、そう。いっしょにいきたい。
 離れないよう、私が強く彼の身体を抱きしめると、彼もまた私の背に腕を回してくれた。
 目が合う。お互いのだらしない顔しか写っていなかった。子供でも魔物娘でもない、雄と雌になった二人しか。
 欲しいよ。アクト。
「レイ、お姉ちゃん。もう、でちゃうっ」
 心の声が通じたかのように、その時、アクトの男の子が私の中で弾けた。
 互いに強く強くしがみついた。そうでもしていないと、私達は愛欲の大海原で溺れてしまいそうだったから。


 気がつけば、裸で青い空を見上げていた。
 同じように裸の男の子と手を繋いで、隣に並んで。
 全身が気怠かった。おへその下辺りがまだ疼いていたけれど、初めての交わりは予想以上に私達を疲れさせ、そして満足させてしまっていた。
「ねぇ、アクト。こういう事は、誰とでもしちゃだめなんだよ」
「え、でも、ぼくお姉ちゃんともう……」
 顔を傾け、不安げな男の子に、私はキスする。
「大好きで大好きでたまらなくて、この人のためなら何でも出来るって思える相手としか、しちゃいけないの。他の誰かを見てこういう事したい気持ちになっても、その人のことをずっとずっと大切に出来ないんだったら、しちゃだめなの」
「じゃあ、ぼくとお姉ちゃんはしてもいいんだね」
 安心したように笑う彼の額に、額をくっつけて、私達は笑い合った。
 目を瞑ると、心地良いまどろみが意識を包み込んだ。どんなに暗い海の底でも、この手のひらの小さな温かさが私を守ってくれる。
 そんな安堵感に身を委ねるように、私は心地よい眠りに落ちた。


 ***


 胸の中で眠る愛しい人の髪を撫でながら、私は昔の事を思い出して一人微笑んだ。
 隣には彼の母親だった人も眠っている。触手薬を使った人外の激しい交合の後、二人共疲れて眠ってしまったのだ。
 最初にした時から、アクトにはいかされっぱなしだ。あの時は、まさかここまでするようになるとは思っていなかったけれど。
「あんな可愛かったのが、こんなに逞しくなるなんて。男の子って、こういうものなのかな」
「そういうものよ。一番近くで見ていたけれど、毎日驚かされていたもの」
「あら、一番近くで見ていたのは私も同じですよ」
「ふふ。そうね」
 白濁まみれで気を失っていたパスさんがいつの間にか身を起こして、彼の寝顔を一緒に覗き込んでいた。
「アクトを産んでくれてありがとうございます」
「こちらこそ。アクトをこんなに立派に育ててくれてありがとう」
「ちょっとスケベに育てすぎましたけど」
「そこがまた可愛いところよね」
「全く本当にその通り」
 私達は静かに笑い合う。
「私、まともな夫婦生活って送ったことなかったの。息子にそれを期待するのは狂っていることだって分かっているけれど、でもアクトとなら、きっと上手くやれると思う」
「魔物娘としては間違っていないと思いますよ。父と娘が結ばれることも珍しく無いんですから、夫の居ない母と息子が結ばれることだってあっていいと思います」
「ありがとう。でも、子供が出来たのはあなたが先みたいね」
 一人の男を育て上げた人の手が、私のお腹に触れる。新しい命が宿りかけている、私を祝福するように。
「私も新婚生活楽しみです。もっとも、アクトと一緒にいられるだけでとっても幸せなんですけど」
「私もよ。……まさか、息子の子を孕みたいなんて思う日が来るなんてね」
「でも、昔から愛していたんでしょう」
「そうだったみたいね……。男として、この子を」
 その表情は悲観にくれているわけではなかった。むしろ、何かが吹っ切れたような清々しい表情だった。
「自分が幸せならそれでいい。ここでは、この身体ならもうそのくらいの考えでいいのかもしれないわね」
「そうですよ。それでこそ魔物娘です」
 大きく頷くと、胸の中の彼がもぞもぞと動き始めた。
「うぅん……。あれ、お姉ちゃん……。あ」
 寝ぼけて昔の呼び方をした彼の顔が、みるみるうちに真っ赤になってゆく。
「れ、レイ。ずっと見てたのか」
「ええ。可愛い寝顔だったわ。昔を思い出しちゃった」
「そうか。いや、今のは、その、昔の夢を見ていて」
「奇遇ね。私もよ」
「あらずるいわ。母さんも混ぜてちょうだいよ」
「うふふ。それじゃあ、攻守交代といきましょうか」
「さっきはよくもあんなに触手でいじめてくれたわね、アクト?」
 アクトが顔を青ざめさせて私の元から飛び出す。けれども逃げおおせる寸前、私はしっかり彼の脚に触手を巻きつけた。
 二匹のスキュラ、合計十六本の淫らな触手。この腕からは何者も逃れられない。さぁ一緒に、愛の海の水底へ沈みましょう。
16/01/10 12:24更新 / 玉虫色
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■作者メッセージ
というわけで、前日談でした。これにて完結です。
元々はおまけは後日談だけにするつもりだったのですが、おねショタ的なものを書きたくなってしまい、本編を見直しているうちに出会った頃の話も書きたくなったのでこんな事になってしまいました。

またおねショタとか、魔物娘視点とか、色々なものにも挑戦して行きたいところです。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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